僕のシネマパラダイス

Take11,シネラマよ永遠に・・・

  大阪梅田にあった「OS劇場」が無くなって、もう10年が過ぎた。
 OS劇場と云えば全席指定席で、70ミリより更にでかい「シネラマ」と云う方式で、大スク
 リーンに写し出す迫力ある映画が売り物の、当時の日本では最大級の映画劇場だった。
 僕ら映画少年のあこがれの的で、「いつかはOS劇場の一番いい席で映画が見たい。」と
 思っていた。
  初めてOS劇場に映画を見に行ったのは、高校一年の頃。見た映画は「ジャッカルの日」。
 仏大統領暗殺を狙うスナイパーと、それを阻止しようと追いかける刑事の、大画面いっぱい
 に緊迫感あふれるサスペンス映画で、映画も面白かったけど、初めてOS劇場で映画が見
 れた事の方がなによりもうれしかった。もちろん一番いい席ではなかったけど、大満足だった。
  その後OS劇場には何回か行ったけど、家庭用ビデオの普及にともない、映画館へ足を運
 ぶ人が少なくなってきて、OS劇場も全席指定だったけど、一部をのぞいて一般席となり、
 せっかくの大スクリーンも、3分の2ぐらいしか使われなくなってしまった。
  そしてとうとう閉館が決まり、さよなら興業が行われた。最後の上映は「ベン・ハー」
 もう何度か見た映画だったけど、シネラマで見るのは初めてで、最後を飾るにふさわしい映画
 だった。クライマックスの戦車レースシーンの、胸が熱くなるような迫力、そして感動的なラスト・・・
 思わず涙がこみ上げてきた。...
 「シネラマ」という単語も今では死語になってしまったけど、かつてOS劇場があった場所を
 時々通る度に、あの大スクリーンと赤いじゅうたんが目に浮かぶ。
 

ジャッカルの日
「ジャッカルの日」
1973(米) 監督:フレッド・ジンネマン 出演:エドワード・フォックス.エリック・ポーター.
ミシェル・ロンスデール


 OASと呼ばれるフランスの秘密組織は、密かにドゴール大統領の暗殺を狙っていた。OASは、外国人の殺し屋で、しかもフランス当局には顔もしられていない男、暗号名「ジャッカル」を雇う事にした。ジャッカルは精巧な狙撃銃と、偽造した身分証明書などを用意してフランスに入り、解放記念日に国民の前に姿を現す、ドゴール大統領暗殺に向けて、着々と準備を進めていた。一方、警察のルベル警視たちも、顔もわからない殺し屋「ジャッカル」を追って必死の捜査を行うのだったが、いま一歩という所でジャッカルにかわされる。殺し屋と警察との頭脳合戦は、とうとうクライマックスの解放記念日へともちこされていく。
 「フレデリック・フォーサイス」の原作によるベストセラーを映画化したこの映画は、フレッド・ジンネマン監督による緻密な演出により、映画全編を通しての緊張感あふれる娯楽大作となり、ドゴール大統領という実在の人物の暗殺計画という、まるで実話でもあるかのような物語は、見ている我々を釘付けにさせた。

ベンハー
「ベン・ハー」
1959(米) 監督:ウイリアム・ワイラー 出演:チャールトン・ヘストン.スティーブン・ボイド.ジャック・ホーキンス.

 イエス・キリストがこの世に現れ、ローマ帝国の力による世界支配に一抹の不安が高まろうとしている、歴史的時代を背景に、貴族の貴公子でありながら、不幸な出来事から反逆の罪に問われ、肉親から引き裂かれて奴隷の苦痛と屈辱の底に追いやられた主人公「ベン・ハー」と、彼の波乱の人生に交わる様々な人間達が織りなす、愛と戦いの感動ドラマ。
 
製作から完成まで6年半、制作費54億円というスケールの大きさと、アカデミー賞11部門を受賞した事から、この映画の完成度の高さが想像できる。最大の見所である、4頭立ての馬による戦車競争のシーンは、どうやって撮影されたのかと驚嘆するばかりで、このシーンはニューヨークの近代美術館に保存されているという。まさに映画史上空前絶後の名作といえる。
Take 12,映画嫌いを釘付けにしたチャップリン

  高校時代からの友人「Y」。全然男前じゃないし、スポーツだって大した事ないのに、
 なぜか女の子によくもてる。...彼は普通にしている時の顔が笑顔で、人当たりが良くて、
 本当に笑った時の顔がなぜか、女の子の母性本能というやつをくすぐる様であった。
 僕らは彼のおかげで、何組かの女の子のグループと、グループ交際をしていたし、その中から
 結婚したカップルもいた。
  高校生の頃、あんまり映画には興味がないという彼を、ある日僕は強引に映画館に誘う。
 見に行った映画は「チャップリンの独裁者」。それまでは映画といえばアニメ・怪獣・ポルノしか
 見たことがないという彼は、時々笑いはするものの、やはり退屈そうだった。
 僕は「やっぱり、強引に誘って悪いことしたかな・・・」と思っていた。
 映画のラストシーンは、反戦と世界平和を訴えるチャップリンの感動的な演説でしめくくられる。
 僕はふとSの方を見ると、彼はいつもと少し違う顔つきで、スクリーンを真剣に見つめていた。
 そんな彼を見るのは初めてだったので、僕は非常に驚いてしまった。
 映画館を出てから、いつもの笑顔で「サットン、良かったのう。」と一言感想を述べる彼に、僕は
 違った一面を見つけた様な気がした。
 彼と一緒に見た映画は、これ一本だけだったし、あいかわらず映画にはそれほど興味がない様
 だけど、彼は今、家業の花屋を跡継ぎし、あいかわらずの笑顔と人当たりの良さで、商売の方も
 まずまずだという。
  チャップリンがあの時訴えたメッセージを、彼はまだ記憶しているのだろうか?。
 今度会ったら聞いてみようと思う。
 
独裁者
「チャップリンの独裁者」
1940(米) 監督:チャールズ・チャップリン 出演:チャールズ・チャップリン.ポーレット・ゴダード.

 第一次世界大戦の末期、トメニア国のユダヤ人街で、床屋を営む主人公(チャップリン)は、召集され、運命のイタズラか、自分とそっくりの独裁者「ヒンケル」に間違わてしまう。逃げるわけにはいかなくなった床屋は、独裁者になりすまし、最後には数万の民衆の前で、大演説をぶちまける事になる。
 独裁者ヒンケルとは、当時のヨーロッパの独裁政権に狂奔する「ヒトラー」である事は言うまでもない。チャップリンのこの映画に対する製作中止の圧力は、さまざまな形で行われたが、チャップリンはそれに屈せず、独裁者の本質を鋭くあばき、世界中に平和と愛のすばらしさを贈った。ラストの6分間の大演説「私は皇帝にはなりたくない!・・人類はお互いに助け合うべきである・・・」は、まさに反戦を訴えるチャップリン自身のメッセージであった。

Take 13,ゴジラ対ガメラ

  「ゴジラ」のライバルと言えば、やっぱり「ガメラ」。製作会社も「東宝」と「大映」で、
 こちらの方もライバル同士。「ガメラ」が上映されたのは、昭和40年頃だったと思う。
 その頃はもうすでに怪獣映画のからくり(人が着ぐるみの中に入ってる)を知っていた
 けど、それでもワクワクしながら見に行った。
 クラスの中でも「ゴジラファン」と「ガメラファン」に分かれて、議論しあった事もあった。
 今でも覚えているのは、ゴジラは身長50メートル、体重2万5千トン。対してガメラは
 身長60メートル、体重80トン?。...身長はガメラの方が大きいのに、体重はゴジラ
 と比べるとやけに軽い。「ゴジラは重すぎる!」「いやガメラが軽すぎるんや!」と論争
 が
始まった。その論争に決着をつけたのは、クラスの中でも頭が良くて、怪獣マニアの
 「T君」。

  T君いわく「ゴジラは口から放射能を噴くやろ、きっとゴジラの体の中には、原子炉みた
 いな
物があって、それで重いんや。だけどガメラが口から噴くのは火で、空を飛ぶときも
 甲羅から
火を出すやろ、だからガメラの体の中にはきっとガスがたまってるねん。それで
 軽いんや。」・・・
一同「ああそうか〜。」と大納得。今から考えたら、たわいのない話だけど、
 その時はT君が
博士に見えた。
  T君はその後、私立の中学に進学したらしいけど、今はどうしてるのか解らない。

 人を納得させられる分析力と話術を持っていたので、今頃は弁護士か、ある会社の優秀な
 幹部
になっているのかもしれない。

ガメラ
「大怪獣ガメラ」
1965(日) 監督:湯浅憲明 出演:船越英二.姿三千子.内田義郎

 北極で撃墜された原爆を搭載した国籍不明機。墜落の際に大爆発を起こし、その衝撃で北極の氷の中から巨大な亀の怪獣「ガメラ」が出現する。やがて、ガメラは日本の北海道に上陸する。灯台を破壊するガメラ。ところが俊夫少年が灯台から落ちそうになっているのを見て、ガメラは俊夫を助ける。一旦海中に没したガメラだったが、やがて東京に、ガメラが現れる兆候が現れ始める。そこでガメラ対策のために世界中の科学者が東京に集まってくる。そして、伊豆で行われているZプランこそがガメラ対策の絶対案であるという。そして東京を火の海にするガメラに対して、ついにZプランは発動され、巨大ロケットに閉じ込められたガメラは宇宙の彼方に打ち出される。
 東宝の「ゴジラ」に対抗して、大映が製作した怪獣映画。その後シリーズ化され人気を呼ぶが、大映の倒産などもあり、うち切られたが、近年新たに甦り、最新の特撮技術を駆使した映像は、往年のガメラファンもうならせた。ガメラは子供の味方である、というスタンスは今でも変わらない。
Take 14,嫌いなあいつ

  人間だれしも、馬の合わないやつというのがいるものだが、お互いが嫌い同士であればいいのだけれど、
 こっちは嫌いでも向こうは、友達だと思っているというのは困りもの。
 中学1年の時の同級生の「O」はそういうやつだった。最初はあまり話さなかったんだけど、お互い映画が
 好きと云うことで、Oは休み時間になると僕の席にやってきて、自分の映画論について語り出す。
 僕は、とにかく一人で一方的によくしゃべるこいつが、あんまり好きになれなかった。
  やがて2年になりOとは別のクラスになったんだけど、校庭などで、僕をみつけると近寄ってきて、また
 例のごとく一方的に話し出す。
  Oは僕がまだ行った事がない、シネラマのOS劇場で「トラトラトラ」を見てきた事を自慢げにしゃべる。
 僕はいいかげんうんざりしていた。
 その後Oは同じクラスの番長格だった、Kに気に入られ、だんだん不良仲間とつきあい始めた。
  3年になってもそれは続き、それほど腕力があるわけでもないOは、学校のボス的存在になったK達が
 バックにいる事で、自分より弱い連中から金を巻き上げたりしていた。
 僕はそんなOの事がますます嫌いになっていたが、バックに付いているK達にはとてもかなわないので、
 Oがやっている事を見て見ぬふりをしていた。
  やがて中学・高校を卒業し20歳も過ぎて、Oの事などすっかり忘れていた僕の前に、やつは突然現れる。
 地下鉄の中で僕の姿を見つけたOは、僕の方にやってきて、あいかわらずの調子でしゃべり始めた。
 Oは某生命保険会社に勤めていて、Kの紹介で知り合った女性とすでに結婚していて、21歳にして、
 もう子供までいるというのだった。
  中学を卒業してからどんな人生だったのかは知らないが、僕は普通のサラリーマンになっていたOに、
 ちょっと以外な感じがした。よくしゃべるOの事だから、けっこうやり手の勧誘員なのかもしれない。
 僕に対しても「もう生命保険に入ったか?」と聞いてきたので、Oの会社とは別の「N生命」に入っていると
 答えた。僕はあいかわらず、こいつの事は好きになれなかった。
 別れ際に名刺をくれて「今度一回飲みに行こう!」と誘ってくれたけど、あまり乗り気になれず、結局
 行かなかった。
  Oが熱っぽく語った「トラトラトラ」は、その後僕もテレビで見た。映画は面白いのだけど、この映画を
 見る度にOの事を思い出すのがちょっといやでもある。


                     
  「トラトラトラ」1970(日米合作) 監督:リチャードフライシャー・舛田利雄・深作欣二 
 出演:山村聡.田村高広.マーチン・バルサム


 トラトラトラとは、日米開戦の火ぶたを切った真珠湾攻撃での「われ奇襲に成功せり」の暗号無電であり、映画はこの真珠湾奇襲大作戦の全貌を描くスペクタクル超大作である。
 映画のフィルムは日米別々に撮影されそれぞれのフィルムを編集して一本の映画にまとめられた。製作スタートは66年10月で、日本側の監督は黒沢明であったが、途中で病気静養の理由で監督を降りてしまった事から、日活の舛田利雄・東映の深作欣二両監督の共同演出となる。
 完成後もアメリカの議員からの「米史上最悪の敗戦を全米で公開するのは困るから上映を禁止せよ」等といったゴタゴタが相次いだ。しかし全て本物の迫力で迫るこの映画は、公開されるや日米で大ヒットとなり、戦争映画超大作として偉大な足跡を残す事になった。
Take 15,大魔人笑わす。

  小学校4年生の頃、ひょうきんで、クラスの人気者だった「Y君」。勉強はそれほどでもなかったけど、
 ものまねで、よくみんなを笑わせてくれた。
 彼のとくいなネタは「座頭市」で、掃除の時間にほうきでよく座頭市の立ち回りを見せてくれた。
 もうひとつの得意ネタは「大魔人」。やさしい顔から口をへの字にし、眉毛をつり上げて、怒った顔に
 変身するところをやって見せてくれて、これもバカ受けだった。
 ある日授業中に先生の目を盗んで大魔人の変身をやっていたら、たまたま先生にみつかり
 「こら!Y。お前、その顔で後ろに立っとけ!」と言われ、Y君は大魔人の怒りの顔をさせられたまま、
 教室の後ろに立たされた。
 しかしその顔がおかしくて、クラスのみんなは時々後ろをふりむいては、大笑い。
 やがて先生までもが笑いだし、授業にならない。先生は「ハハハ!、Y。もうええわ。座れ。」と許してしまう。
 やがて冬休みに入る前、Y君はお父さんの転勤で、転校する事になった。
 最後の日のお別れの挨拶の後、いつもは明るいY君が、さすがにちょっと涙ぐむ・・・。
 そんなY君に向かって、クラスの誰かが、「おいY、最後に一回、大魔人やってくれや!」
 「そうや!そうや!大魔人やってくれ!」。みんなのリクエストに答え、Y君は涙を拭いて大魔人の
 ものまねをやってくれた。
 明るくてひょうきん者のY君。今頃どうしているんだろう。すっかりいい大人になっている事だと思うが、
 今でも会社の宴会で、大魔人のものまねをやっていたりして。



「大魔人」
1966(日) 監督:安田公義  出演:高田美和.藤巻潤.青山良彦

権力を傘に、悪行の限りをつくし、弱い農民達を苦しめる悪代官。山奥にまつられる巨大な武神像に祈りを捧げる少女の涙が、武神像を怒りの形相をした大魔人に変貌させ、悪代官達をこっぱみじんにこらしめる。  
「大怪獣ガメラ」の成功から特撮映画に意欲を見せた大映は、時代劇に定評のある大映京都の技術陣を活用した特撮作品の製作を発表する。そして初の本格特撮時代劇として完成した「大魔人」は大ヒットとなり、すぐさまシリーズ化され、第3作までが製作された。


Take,1〜 5 

Take,6〜 10

番外編 

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