最終更新日:2004年8月19日
前囘の續き。足りない頭を絞つて書いてみます。
本來の意圖としては、あくまでウヱブにおける正字と新字の表示に就いての考察が主です。
内田氏の物言ひの要點は、この對照表が書體(フォント)に對する配慮に著しく缺けてゐるといふことなのだらう。
- 「文字鏡書体における新字体字形と正字体字形の対象(ママ)」または「明朝体活字における新字体字形と正字体字形の対照」ならばまだ話は理解できる。
- どんなフォントでレンダリングされるか判らない文字符号(で示した字体)と「文字鏡書体」を比較すること
ご尤も。頻出している、字體、書體、字形といふものが如何なるものか、私は何も知らなかつたのです。
そもそもそれらの用語はどのやうなものなのか?調べて見ました。
- 字形
- 文字通り文字の形のことですが、どちらかといふと「デザインされた個々の文字の形」を指すことが多い。
- 字體
- 字體は文字のカタチですが、デザイン的な特徴を持たない抽象的、概念的な文字の形をいひます。たとへば、「字」といふ字は「ウカンムリにコ」と書きます。かういふとき、線の太さハネの角度などは問題になりません。
- 書體
- 一般的な使ひ方では、明朝體、行書体、ゴチック體といふやうに、「一定のデザイン樣式を持つた文字の形」を指して書體と呼んでゐます。樣式といふのは、「線の太さを揃へる」とか「線の兩端を丸く」「跳ねる、跳ねない」といつた文字のデザイン的特徴を決定してゐるセオリーです。
- フォント
- 統一的なデザインで共通化された文字セット。
『フォントのことがわかる本』[1] より
要するに私は、字體と字形をごつちやにして捉へてゐました。それゆゑこの對照表では、あくまで書體を考慮せず、字體と字體のみの比較にあへて重點をおいてしまひました。ところが、前述の引用のやうに、内田氏と私では明らかに字體といふ概念(と定義)が互ひに異なるのが明らかです。
つまり私は、字體=字形といふ風に見なしてゐたのですが、内田氏にとつては、
字體 = 書體 + 字形
といふ前提があつたゆゑでの物言ひだつたと思ひます。それならば、字體を比較する際、それぞれ比べられる字體の書體が違つてゐたのでは、お話にならないと云ふ氣持ちも分かります(實際のところ内田氏の指摘はあくまで、“文字符号を用いてウェブで行なえる文字の話”なのか“文字符号を用いては行なえない文字の話”であるのかという点
に就いての物言ひでした。詳しくは、覺え書きの「技術的問題」を參照)。
さてそれでは、どのやうにしてウヱブ上にて、正字と新字を比較するかといふ本題に入ります。取り敢へず内田氏の意見を拾ふと、
が擧げられてゐるので、それぞれの方法に就いて檢討してみます。
方法としてはスタイルシートを用ゐて、表中のフォントを font-family で MS 明朝や細明朝體に指定すれば、それなりに今昔文字鏡書體と揃へることはある程度†出來ます。
たゞ問題點は、日本語のブラウザ環境ではなかなかこの指定が、反映されない場合が多い
といふことです。特に NetscapeNavigator 上では、環境に關はらず日本語フォントの指定そのものが、エラーになつてをり、フォントが正しく表示されてゐないだけでなく、文字のサイズもデフォルトになつてゐます
[4]。
ほかにも FONT タグに FACE 屬性を指定して使用する方法もありますが、お勸めは出來ません。
†今昔文字鏡明朝體フォントの特徴として、從來の文字セットが明朝體を無批判に用ゐてゐるのに對し、文字鏡は解字の論理から引き出される、字源主義的な獨自の字形を採用して
ゐます。ゆゑに、畫數の多い漢字を正確に表現するための、筆畫の細かい獨特のデザインが一般の明朝體フォントに混じると、どちらも違和感があります
[3]。
この方法が一番手つとり早いかもしれません。正字體のみに使用してゐる今昔文字鏡畫像を、全て、表中のフォントに用ゐるのである。畫像さへ讀み込めれば、フォントのレンダリングも文字コードも氣にする必要がないし、字形書體も容易に揃へられます。
唯一の問題點と云へば、矢張り一つのペイジに(多くて)百以上の畫像を讀み込ませることに、流石に抵抗を感じます。光ファイバーだ、 ADSL だといふ御時世ですから、私が思ふほどの負擔ではないのかもしれません。しかし、必ずしもあらゆる人が、苦もなくペイジを閲覽出來るわけではないのも事實です。
正字と新字の對照表の作成を續行して行くにあたり、何を重要視するか。私は、あくまで字體の違ひを表はしたい。たゞ、確かに書體の違ひが目に附くといふのも一理あります。
そこで、折衷案(中途半端とも言ふ)として、全ての字體を今昔文字鏡書體に置き換へるのではなく、文字鏡を用ゐた正字體と對照してゐる新字體にのみ、文字鏡書體を置き換えるといふ風にしたいと思ひます。
一應、使へる JIS 漢字はなるたけ活用したい。
なほ JIS 漢字の問題點に就いては次囘の課題にします。
『一膳』の正字と略字の対照表は、大変楽しみにしてをります。時間が掛つてもいいので、実の在るコンテンツになる事を願つてをります。
『康煕字典』にも色々と種類がありますが、漢字としての一つの体系を示した事典です。戦前の日本で使用されてゐた活字の字体も細かく見れば幾つもの種類があつたでせうが、此れも一つの体系を為してゐたものです。
夫々に相違のある漢字の体系ですが、其処の処を正しく峻別した上で説明できれば有意義な対照表となる事でせう。蔭乍ら応援してゐます。
(餘談ですが対の正字は對ですね)
現在の文字コードの侭で正字を表示させるのも、正字を再現させる方法として注目してをります。
電脳上で正漢字とはどう云ふものなのかを端的に指し示すには、最も容易な方法でせう。
標準フォントにされると迄は行かなくとも、行く行くは必要に応じて切替へが容易に出来る環境が整ふ事を願つてはをります。
『何かの日記』H14-03-11 所載
ペトロニウスさん、本當にありがたうございます。