緋道の神器


        第五十話  情報の対価



 何だかここのところ、自分はおかしかった。
 神治はそんな事を思いながら、学校からの帰り道を歩いていた。
 ここ数日、家族や友人達とセックスをしていると、どうにも必要以上に相手を乱れさせてしまうのだ。
 意識してそうしているのならともかく、自分としてはこれまで通りに抱いているつもりであるのに、抱かれている側は、危なくなるほどにまで乱れてしまうのである。
 ある種の暴走状態とも言えたため、未迦知神に相談したのだが、「それくらい自分で何とかせい」とすげなくあしらわれてしまった。
 そうした応対をされたことから、特に危険は無いのだと思えたが、逆に自分の未熟さから起きているのだという事も分かったため恥ずかしくなった。
 未迦知神が助言してくれない以上、自力で解決するしかないわけだが、原因がハッキリしないため、どうすればいいのかも分からなかった。
 きっかけと思えることであれば心当たりはあった。
 玲霞の家へ行ったことだ。
 この暴走のような状態は、玲霞の家で淫妖を交えたセックスをしまくった日から起きていたからである。
 おそらく淫妖との交わりが暴走の原因となっているのだろうが、何がどう作用してそうなっているのかが不明なため、改善する方法も分からなかった。
 実に困ったことではあったが、かといって実害があるというわけでも無いことから、このまま放っておいても良いとも思えた。
 とはいえ、自身をコントロール出来ていない証とも言えるのだから、未熟さを放置しているようなものであり、それはどうにも嫌な気分だった。
 おそらく未迦知神も、自分の力のみで解決する事を望んで何も助言しなかったに違いない。確かに困るとすぐ未迦知神を頼るようでは、いつまで経っても一人前にはなれないからだ。
 となれば、その期待に応えて自らの力だけで解決したいところだったが、どうすればいいのか皆目見当も付かないというのも事実だった。
 唯一のヒントとなるのは、玲霞の家の淫妖だったが、一度餌食にされている事を考えると、あまり関わりを持ちたい相手ではなかった。
 元々淫妖には苦手意識があるが、今回のことでよりそれが強まってしまったように思えた。
 淫妖に襲われ、何も対抗出来ないまま、いいように弄ばれ、生命力を吸い取られた。
 相手がたまたま生命力を全て吸い取る種類ではなかったから良かったものの、もしそうでなかったら、今頃死んでいただろう。いや、自分の生命力は神になったことで常人とは比べものにならないものになっているはずだから、死なないで済んだかも知れなかったが。
 とはいえ、こうして調子を崩していることを考えれば、何らかの影響を受けているのは確実なわけで、それを解決出来ない自分が何とも情けなかった。
 何よりあの淫妖の術中に、未だハマっている疑いがあるのも困ったことだった。
 あの後、那由花が先日の礼と称して自宅を訪れてきたのだが、彼女の姿を見た瞬間、強烈に欲情してしまったのだ。
 その場で押し倒したくなるほどに興奮したのであり、それはどう考えても淫妖との繋がりが未だ切れていない証に思えた。那由花が淫妖のために獲物を誘い込む木偶(でく)になっている事を考えれば、一度獲物となった自分が、彼女に強烈に反応してしまうのも当然だからだ。
 本来であれば、那由花を木偶から解放することで淫妖からの誘惑を排除するべきなのだろう。何より那由花自身を助けることにもなるのだから、是非ともやるべきはずのことだった。
 しかし玲霞の家の事情を考えると、安易にそうするのも躊躇われた。
 何より、那由花は淫妖と同居している状況であるため、玲子の時のように部屋に結界を張ればそれで解決、という事にはならないのだ。
 淫妖と正面切って対決する事にもなるだろうし、さらにはその娘である玲霞とも敵対する状態になるかも知れなかった。
 そうした事を考えると、あまり乗り気のしない行為になっていたのだ。申し訳ないが、那由花には淫妖の木偶で居続けてもらうしかなかった。
 何とも情けない話だったが、相手が淫妖となると、どうしても二の足を踏んでしまうのだ。文字通り魂に刻み込まれた穂智過の存在が、淫妖に対する苦手意識を解消させてくれないのである。
 おそらく未迦知神は、その事を見越して何も助言してくれないに違いない。そろそろ淫妖への苦手意識を克服しろ、という事なのだろう。
 そんな事を考えつつ、溜息を付きながら自宅のマンション近くまで来た時だった。
 不意に肩に衝撃を感じ、思わずよろけてしまう。
 見ればすぐ傍に人が立っていたため、どうやら考え事をしていたせいでぶつかってしまったらしい。
「あ、ごめんなさい」
「す、すみません」
 先に向こうが謝ってきたため、慌ててこちらも謝罪する。
 相手が申し訳なさそうな表情を浮かべているところから、こちらが一方的に悪かったようではない事に安堵しつつ、ぶつかったのが同じ年頃の少女、それもかなり可愛い容姿であることにドキリとする。
 首筋辺りまでの髪と、キリリとした眉が、少しボーイッシュな雰囲気を感じさせる女の子で、身につけている制服から高校生のようだが、ここらでは見かけない学校のものだった。
 彼女は他に特に何も言わず、慌てた様子で歩いて行ってしまった。
 結構好みのタイプであったため、後ろ姿を少し眺めつつ、また会えたらいいな、などと思う。
 チラっと見ただけだが、胸元の膨らみもなかなかのものであったため、揉んでみたい衝動が起きていた。
 多くの女性と肉体関係を持ち、毎日のようにセックスしていても、新たに魅力的な女性と出会うと抱いてみたくなるのだから、自分の性欲は何とも節操がなかった。
 これまでもそうした衝動に流された事で色々失敗してきたわけだが、反省よりも「抱きたい」という意識の方が強くなってしまうところに、業の深さというか、本能が促す生殖本能の強さがあるように思えた。
 とはいえ、この間のように淫妖にいいようにされてしまうのでは困るわけだが。
 実害が無かったとはいえ、それはたまたま運が良かっただけなのだから、もっと対処出来るようにならなければいけなかった。
 などと淫妖への苦手意識について再び考えつつ、さてどうしたものかと大きく息を吐き出す。
 もうすぐ自宅マンションの入り口に着くといった距離まで来たところで、視線の端に人影が見えたため目を向ける。
 そこに居る人物を認識した瞬間、ドクンっと心臓が大きく鼓動するのを感じた。
 それは女性、しかもかなりの美人だった。
 年齢は二十代後半だろうか。長い黒髪をポニーテールにし、紺のスーツに身を包んだ体は、スラッとしているものの、胸元は大きく膨らんでおり、キュッと締まった腰のラインと、タイトスカートから伸びる脚は、思わず見とれてしまうほどに美麗だった。
 知的さを感じさせる整った顔立ちは無表情だったが、それでいてどこか色気を漂わせており、全体的にミステリアスな印象を抱かせる女性だった。
 こんなところで何をしているのだろうと思いつつ、傍まで近づいた神治は、その女性の視線が自分へ向けられている事に気づいて動揺した。
 彼女はまるで人形のような左右対称の細い目をしているのだが、その瞳に見つめられると、どうにも落ち着きが無くなるような感覚を覚えたのだ。
「少々宜しいでしょうか? 緋道さんでいらっしゃいますね?」
 不意に会釈しながらそう尋ねてきたため、自分に用事があるのだと分かって驚く。しかも名前まで知っているとはどういう事だろう。
「そうですけど……何でしょう?」
 少しドギマギしながら答えると、女性はスーツの内側へ手を入れ、革製の入れ物を取り出した。
 そこから小さな紙を引き出すと、軽く頭を下げ、こちらに両手で丁寧に差し出してくる。
「わたくし、こういう者です」
 それはどうやら名刺のようだった。
 受け取って文面を読むと、そこにはこう書かれてあった。
『古物商 白宜沙耶音(しらぎさやね)』
 それだけであれば普通だったが、職業の前に書かれてある内容が、何とも奇妙なものになっていた。
『怪異探索請負』
 どういった意味なのだろう。「怪異」とは何のことを指しているのか。
「先日あなたが出遭った怪異について、お話を伺わせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」
 疑問が浮かぶのと同時に、その女性、沙耶音はそう告げてくると、こちらの答えを促すようにジッと見つめてきた。
「えっとその、よく分からないんですが……?」
 実際何が何だか分からなかったため、困った口調で答えると、沙耶音は綺麗な眉を片側だけ上げ、視線を軽くそらした。
「矢切玲霞さんのお宅で、あなたが出遭った怪異のことです」
 視線を戻した沙耶音が口にした言葉にギョッとなる。
 何故この女性は、自分が玲霞の家へ行ったことを知っているのか。さらに「出遭った怪異」、つまり淫妖のことを指していると思われる事まで告げてきたとなれば、まるであの日の出来事を知っているかのようではないか。
「あなたは、玲霞ちゃんの知り合いなんですか?」
 もしや玲霞の関係者かと思って尋ねてみる。沙耶音の服装はOL風であったため、玲霞の父親の会社関係者である可能性もあったからだ。あの家の淫妖は、玲霞の父親の会社にとって救世主であるから、社員が関わっていたとしても何ら不思議ではなかった。
「いえ、知り合いではありません。矢切玲霞さんもわたくしの事はご存じないでしょう」
「じゃあ、玲霞ちゃんのお父さんの会社関係の人ですか?」
「父君の会社関係の人間ではありません。全く関わりはございません」
 沙耶音は淡々とした口調でそう答えると、再び眉を片側だけ上げ、少し視線をそらしてから戻した。
「わたくしは矢切玲霞さん、その父君、そして父君の会社とは、一切関係の無い人間です。その事はご理解いただけましたでしょうか?」
「あ、はい……」
 きっぱりと言い切る様子に、何だか妙な迫力を感じて少したじろいでしまう。従姉の静の影響で、こうした知的で強気な雰囲気のある美人にはどうにも弱いのだ。
「あなたの出遭った怪異について、お話を伺いたいのです。これから少しお時間をいただけますでしょうか?」
「えっと、それは……」
「無論些少ですが、謝礼もさせていただきます。いかがでしょう?」
「あ、えっと……はい……」
 そういう問題ではなく、未だに状況がよく分からないだけなのだが、妙な迫力に圧倒されて思わず頷いてしまう。何より美人の誘いである事から、断る気力が起きなかったというのもあった。
「ありがとうございます。では事務所の方へご案内いたします。話はそこでお聞かせ下さい。あちらに車を止めてありますので」
 沙耶音はそう告げると、進行方向へ手を差しのばし、付いてくるよう促した。
 今更断るのも気が引けたため、そのまま一緒に歩いて行くことにする。
 少し先を歩く沙耶音の背中を見つめながら、何とも妙な事になったな、と溜め息を付く。
 だがその反面、嬉しくなっている部分もあった。
 何しろ相手は美人でスタイルの良い女性であるため、もっと一緒に居たい想いがあったからだ。
 実際こうして後ろから眺めていると、無性に離れがたいというか、背後から抱き締めたくなるというか、そうした衝動が起こっていた。
 目の前でポニーテールの髪がプラプラと揺れており、その隙間から見えるうなじが色っぽく感じられ、視線を下へ向ければ、形の良い尻がこれまた左右に揺れていて、その肉付きの良い肉に股間の一物を押しつけたくなった。
 この美人だが無表情な女性は、肉棒を押し込んだら、どのように喘ぎ悶えるのだろう。
 そんな妄想を抱くのを止められない自分は、やはり性欲を抑えられてないな、と呆れてしまう。魅力的な女性と知り合うと、すぐにこうなってしまうのだから、もう病気のようなものだ。
 それは仕方の無いことだから諦めるとして、そこから失敗しないようにするのが大切だった。しかしそうして気を引き締めようとしても、なかなか上手くいかないのもいつものことなのだが。
 今している行動にしても、よく知らない人間に安易について行っているなど、あまりに不用心過ぎるだろう。だがそれ以上に沙耶音に対する興味、というか性欲が勝っているのだからどうしようもなかった。
 何とも愚かしいとも思えるが、これまでそうした行動の結果として、美女、美少女達と肉体関係を持つに至ったと考えれば、あながち間違った判断ではなかったのかも知れない。今回にしても、上手くすれば沙耶音とセックス出来るかも知れないのだ。
 そんな馬鹿な考えを頭に浮かべていると、股間の一物が硬く大きくなってきたため、慌てて意識を性的なことから反らす。呼吸も少々乱れているように思えたので、深呼吸をして整える。
 少し興奮しすぎだろう。
 確かに目の前を歩く沙耶音は、これまであまり会ったことの無いタイプの女性ではあったが、そこまで落ち着きを無くさなくても良いだろうに。
 節操の無い己の体に苦笑の想いを抱きつつ、それとは別に、これほどの美人と知り合えた事に、神治は嬉しさに包まれていくのを感じるのだった。


 案内された沙耶音の事務所は、神治の自宅から、車で十分ほど離れた場所にあるマンションの一室だった。
 部屋の中に設置されているのは、生活用の家具がほとんどであったため、どうやら事務所というのは名ばかりで、住居としての使用が主なのかも知れない。しかも最近住み始めたのか、家具の数は少なく、生活臭もあまりしなかった。
 その中で事務所らしいと言えるのは、部屋の隅にある事務机と椅子、それに接客用のソファとテーブルだった。
 そうした部屋の様子を眺めつつソファに腰を下ろした神治は、目の前でお茶の入った湯飲みをテーブルに置いている沙耶音の姿を見つめた。
 やはり実に美人で、スタイルの良い女性だった。
 常に無表情であるのが微妙なところではあるが、逆にその事が魅力に感じられるのだから不思議だった。
「それでは、改めてお話をさせていただきます」
 正面に腰掛けた沙耶音は、そう告げると軽く頭を下げた。
「わたくしは、お客様のご要望に応じ、怪異を探すことを生業としております」
 先ほど名刺を渡された時にも思ったが、「怪異」という言葉は一体何なのだろう。文字通りに取れば、いわゆる「不可思議な出来事」ということになるが。
「怪異とは、公的に認められていない現象、生物のことを指します。科学では解明出来ない未知の現象、生物です。現在の社会では、表向き存在しないこととして処理されています。しかし様々な理由から、怪異を必要としている人間、組織がございまして、そうした方々からの依頼を受け、わたくしのような生業の者が、調査、探索をしている次第です」
 こちらの疑問を察したのか、それともいつもしている事なのか、沙耶音は怪異についての説明をしてきた。
 どうやら「怪異」の意味としては想像通りのものらしい。要はオカルト的な物事についての話ということだろう。
 それよりも驚いた。そのようなことを商売にしている人間が居るとは知らなかったからだ。しかも話しぶりからするに、沙耶音だけではなく、他にもこうした仕事をしている人間が居るようなのだ。
 とはいえ、怪異に関わる人間がそれなりの数居る事を考えれば、その中からこのような商売をする人間が出てきても不思議ではなかったが。
「今回の依頼主は、とある生物を求めておられまして、その探索をわたくしはしております。そして調査の結果、先日あなたが訪問された矢切玲霞さんのお宅に、その生物らしき存在が居ることが判明したのです。あなたには、その生物に関する情報を教えていただきたいのです」
「生物」というのは、あの触手の淫妖のことだろうか。確かにあの淫妖であれば、怪異としてピッタリだろう。単純に存在だけでホラー映画のネタになるからだ。
「わたくしが知りたいのは、その生物の形状、その他分かる範囲での生態についてです。直接ご覧になったあなたに教えていただきたいのです。どうでしょう? お話いただけますでしょうか?」
 淡々とそう口にした沙耶音は、こちらの反応を伺うように、ジッと見つめてきた。
 彼女の仕事の内容については大体分かったが、一つ疑問があった。
 何故こちらがその怪異と接触したと決めつけて話しているのか、という点だ。あの家に怪異が居る事や、訪れる人間の事までは、家を監視するなどすれば分かるかも知れないが、「怪異と接触したか否か」までを把握するなど通常は不可能だからだ。しかし彼女は今、「直接ご覧になった」と断定したのであり、それはあの日、神治が淫妖と接触した事を知っているからこその言葉に思えた。
 もしや盗聴や盗撮のような手段を用いているのだろうか。「怪異」などという胡散臭い存在の探索を生業としているのであれば、そうした違法行為に手を染めていても不思議ではなかった。
 もしくは単なるハッタリという事も考えられた。「すでに知っている」と示唆することで、相手の隠す意思を弱らせる効果を狙えるからだ。
「あの、どうして俺が、その怪異ってのに遭ったと思うんですか?」
 どちらにせよ、ここは慎重にいくべきだろうと、まずはそう尋ねてみる。これに対する返答で、どうやって知り得たかの理由が判明するからだ。
「わたくしには分かるからです」
 だが沙耶音の答えは微妙なものだった。それでは何の説明にもなっていないからだ。「自分には分かるから」など、何の根拠も無いも同じだった。
「怪異の存在する場所、怪異と関わった人間、そうした事がわたくしには分かるのです。何故なのかは説明出来ません。ただ『分かる』としか言いようがないからです。しかしわたくしは、その『分かる』という感覚を根拠に、これまで何件もの依頼を達成してきました。ですので、その実績から納得していただく、という事しか出来ません」
 続けて語られた内容に、ちょっとした驚きを覚えると共に納得の想いを抱く。確かに怪異などという、常識外な存在を探索する仕事をしている人間であれば、異能の力を持っていても不思議ではなかったからだ。さらに異能の力があるのであれば、感覚で居場所などが分かっても不思議ではないだろう。
 とはいえ、この話自体も嘘という可能性があったため、安易に信じるわけにはいかなかったが。
 それに、もし本当に異能の力を持っていたとしても、彼女の要望に応えるというのも問題があった。他人の家の事情を、よく知らない人間に話すというのには抵抗があるし、何より玲霞の家における淫妖の存在というのは、かなりプライバシーに関わる要素を含んでいたからだ。
「申し訳ないですが、俺にはよく分からないことなので……」
 取り敢えずそう答えて誤魔化すことにする。これならば、沙耶音の異能の件が嘘であったとしても問題ないし、嘘で無い場合であっても、「答えたくない」という意思が伝わるからだ。
「謝礼については、こちらでいかがでしょうか?」
 沙耶音は、神治の答えを気にした様子もなく紙を取り出すと、テーブルの上に置いた。そこにはかなりの額が記載されていたため、情報程度でこれほど出すのかと驚いてしまう。
「いや、お金の問題じゃなくてですね……」
「金額に関しては、もう少しであれば上乗せ出来ます。こちらではいかがでしょう?」
 紙を手に取り、数字を書き直して示してくるのに動揺する。これではまるで、自分が金目当てで渋っているみたいではないか。というより、実際思わず欲しくなってしまったため、そんな自分に嫌悪感を抱いた。
「そうじゃなくて、お金を貰っても話す気は無い、というか、俺は知りませんから」 少し強めの口調で断ると、沙耶音は無言のまま眉を片側だけ上げ、視線を軽くそらした。そしてすぐに戻してから、次のようなことを告げてきた。
「ではこういったことではいかがでしょう? これから明日の午前零時までの間、わたくしの肉体を性的に自由にされるというのは?」
 不意に告げられた予想外な提案に、思わず呆けてしまう。
 どうやら謝礼としてセックスしても良いと言っているらしい。たかが情報のためにそこまでするのだろうか。
 とはいえ、沙耶音の美貌とスタイルの良さであれば、これまでそうした要求をされてきたとしても不思議ではなかった。それゆえに慣れてしまい、情報の対価として自らの肉体を使うことにしている、といった事なのかも知れない。
「もちろん金銭の謝礼の方もさせていただきます。先ほどの額と、わたくしの肉体を明日の午前零時まで性的に自由にする権利、ということでいかがでしょう?」
 魅力的な提案に興味を引かれてしまう。何しろこのクールな美人を乱れさせたら、一体どんな感じになるのか知りたくはあったからだ。
 思わず視線で沙耶音の体を舐めるように見てしまう。特に胸元の豊満な膨らみには強い意識が向いた。
「矢切玲霞さんや、そのご家族のプライバシーに関わることについては、無論話されなくて構いません。怪異の形状、生態など、差しさわりの無い部分で構いませんので」
 神治の様子からもう一押しと考えたのか、沙耶音は妥協しやすい提案をしてきた。
 確かに怪異の形状や生態程度なら、話しても良いように思えてくる。とはいえ、セックスやりたさに、他人の家の情報を売るのにはやはり抵抗感が強かった。
「申し訳ありませんが、俺は知りませんから……」
 神治の答えに、沙耶音は無言で再び片方の眉を上げると、視線を少しそらしてから元に戻した。
「それではどうでしょう。お試しとしてわたくしと性行為をするというのは?」
「え?」
「通販などでよくある、初回無料みたいなものです。わたくしの肉体が、情報の対価に見合うものかどうかを試していただくということです。もちろんお試しですので、情報を提供される必要はありません。単純に性行為をするだけ、ということです」
 何とも魅惑的な提案に心が揺れ動く。セックスするだけであれば、沙耶音とは是非ともしたかったからだ。
「それは……あなたはそれでいいんですか?」
 思わず了承の意味を含んだ言い方をしてしまう。これではスケベ根性丸出しだったため恥ずかしくなった。
「はい、全く構いません。わたくしの肉体を提供することに、何ら問題はありませんので」
 恥ずかし気もなく淡々と告げてくるのに呆れる。まさに試供品を提供するかのような気構えしか感じさせなかったからだ。
「それでは、お試しのサービスをさせていただくという事で、宜しいでしょうか?」
 先ほどの言葉が了承の意味を含んでいたせいか、確認するように尋ねてくる。
「えっとその……まあ、本当に何も話さないでいいなら、そりゃしてみたいとは思いますけど……」
 即答するのはやはり恥ずかしさがあったため、ぼやかす形で返答したが、どう考えても「ヤりたい」と言っているのと同じでしかなかった。
 セックスが出来るとなれば嬉しかったが、一度対価として持ち出された行為を、何ら見返りなくするとなると妙な後ろめたさを覚えてくる。
 やはり断るべきだろうか。別にここで沙耶音を抱かなくとも、自分には他に抱ける女性が沢山いるのだ。彼女に固執する理由はないのである。後ろめたさを抱えたまま抱くよりは、その方がいいのではないだろうか。
 そんな事を考えていると、沙耶音はもう確認をする必要はないと判断したのか、スッと立ち上がり、テーブルを回り込んで隣に腰かけてきた。
 そしてこちらのズボンに手をかけ、ベルトを外してくる。
 一瞬、やはり止めるべきだろうか、と悩むが、そうこうしている内にチャックが下ろされ、パンツの中に手が入り込んで肉棒を掴まれ、引き出されてしまった。
 その刺激に息を飲んで硬直していると、手がゆるゆると上下に動き出し、心地良い感触が股間に溢れてきた。
 沙耶音は無表情のまま、まるで何かの作業をするかのように、淡々と肉棒をしごいている。
 その様子には全く色気が無いのだが、逆にそれが妙な淫靡さを感じさせるのだから面白いものだった。
 細い指が肉棒に絡み、擦られることで気持ちの良さが起きてくる。
 さすが慣れているのか、実に上手くこちらの快感神経を刺激するしごき方だった。
 手の動きだけでここまで快感を与えられたのは初めてかも知れない。
 そそり立った肉棒が、ビクンビクンと脈を打ち、より強い刺激を求めるように震えている。
 沙耶音はそれを確認すると、上半身を傾け、顔を股間に寄せてきた。
 美しい顔が肉棒に迫る姿に興奮が高まり、益々肉棒が猛ってくる。
 形のいい唇が大きく開かれ、肉棒がパックリと咥え込まれる。
 温かで湿った肉に包まれる感触が起き、その気持ちの良さにうっとりとなった。
 舌が絡みつくように這わされ、敏感な部分をチロチロと刺激されるのに頭を仰け反らせる。
 舌が長いのか、他の女性にされる時よりも、絡みついてくる面積が広いように思えた。二重、三重に絡んでいる感じであり、細い目や無表情な顔と相まって、どこか蛇を連想させるものがあった。
 チュパチュパと音を立て、肉棒を上下に擦りながら出し入れされると、まるで吸い取られるような気持ちの良さがあり、呆けそうになる。
 さらに長い舌が亀頭に絡み、包み込むようにしながら舐めてくるのに射精感が強烈に刺激を受けた。
 実に上手い、卓越したフェラチオだった。
 口や舌で触れているだけでも快楽を与えてくる肉体的資質もあるが、それ以上に技術としてかなり優れたものがあったのだ。
「んぐっ……んっ……んんっ……」
 無表情な顔が微妙に歪み、熱心に肉棒を舐め、擦り上げてくる様子に淫靡な美しさを覚える。
 顔に髪がかかるのを、時折煩わしそうにかき上げるのにドキリとしてしまう。何気ない仕草ではあるが、知的美人の沙耶音がすると、実に絵になる魅惑的な刺激があるのだ。
 スーツ姿の美女が、己の股間に顔を埋め、そそり立った肉棒を愛おしそうに口に含み、舐めあげている。
 それは実に男心を擽る状況だった。
 肉欲に火がつき、もっと強い刺激が欲しくなってくる。
 それを察したように、吸引と舌の動きが激しさを増し、頭の上下運動が速くなった。亀頭の辺りでチュウっと吸い上げてくるのに震えが走り抜ける。
 呼吸が乱れ、腰がピクピクと動いてしまう。
 何と気持ちのいいフェラチオだろう。
 肉棒の大きさと硬度が増し、快感が高まっていく。
 したい……。
 ここまで来たら沙耶音とセックスがしたかった。
 先ほどまでは躊躇する想いがあったが、今やすっかりそれは無くなっていた。
 何しろフェラチオだけでここまで気持ちいいのだ。セックスをしたらもっと気持ちいいに違いなかった。
 そんな事を考えていると、不意に沙耶音が肉棒から口を放し、こちらを上目遣いに見つめてきた。
 心持ち表情が緩み、目つきもどこかトロンっとしたような雰囲気になっているのにドキリとする。
 無表情が基本であるだけに、そうした顔をされると、他の女性がするよりも刺激的なものがあるのだ。
 沙耶音は、頭を股間の位置から舐め上げるように移動させ、顔の真正面まで来ると、ジッと見つめてきた。
 無表情な美しい顔が迫り、小さな笑みが浮かぶ。
 それにはどこか切なそうな雰囲気を感じさせるものがあったため、心臓が激しく鼓動する。
 スーツ姿の美人に迫られている状況に、まるで童貞に戻ったかのようにドキドキしてしまう。考えてみれば、このような雰囲気で誘惑されたことはあまり無かった気がした。
 大人の魅力を感じさせる誘いには、どうにも弱い部分があった。昔から年上女性に甘えてきた経験がそうさせるのかも知れない。初体験の際の、伯母の亜樹子に誘惑された経験もそれを助長しているのだろう。
 唇が塞がれ、舌が入り込んできて口内が舐め回される。
 長い舌が絡みつき、擦り上げ、吸い付いてくる。
 そうされているだけでかなりの気持ちの良さがあり、沙耶音の舌が動くたびに快感が走り抜け、股間の一物がさらに勃起した。
 スーツに包まれた柔肉が強く押し付けられ、体重が圧し掛かってきたため、それに抗えず、ズルズルとソファに横たわる状態になった。
 胸元にたわわな膨らみの感触があり、その事に興奮が高まっていく。
「んっ……んふっ……んんっ……」
 沙耶音は顔を左右に入れ替え、貪るようにキスを繰り返してくる。
 柔らかな体が押し付けられ、擦り付けるように動いてくるのに、たまらない快感を覚えた。女体というのは、どうしてこう触れているだけで心地良いのだろう。
 そうしてしばらくの間、唇を擦り付けられ、舌を吸い上げられ、女肉に圧し掛かられる状態が続き、その次々と与えられる刺激に意識が朦朧としていった。
「んんっ、んっ……んはぁ……」
 ようやく唇を放した沙耶音は、荒い呼吸をしながらジッと見つめてきた。
 相変わらずの無表情ではあるが、どこか淫靡な雰囲気があるのにドキリとする。
 頬が上気し、瞳が潤みを帯びて、トロンっとした感じになっているのがいやらしい。
 沙耶音は無言でタイトスカートをまくり上げると、パンティを脱いでいった。
 そのまま腰に跨り、硬く勃起した肉棒を手に持って、ゆっくり体を下ろしてくる。
「あんっ……」
 亀頭が膣穴にハマった瞬間、甘い吐息が発せられ、沙耶音は頭を大きく仰け反らせた。
 肉棒が柔らかな肉に包まれ、圧迫されるのに、蕩けるような気持ち良さが走り抜ける。
 周囲の襞をゾリゾリと擦りながら奥へと入り込んでいくのが感じられ、そのたびに押し寄せてくる快感に、呻き声を漏らして耐える。
 何とも気持ちのいい膣だった。やはり異能の力があるだけに、常人以上の良さがあるのだろうか。
「あっ……あっ……ああっ……」
 腰が上下に動き出し、それに合わせて甘い吐息が聞こえてくる。
 沙耶音は、無表情の中に少し笑みをたたえた、呆けたような雰囲気の顔をしていた。
 ポニーテールの髪が上下左右に振り乱れ、胸元の豊満な膨らみがゆっさゆっさと揺れ動く。
 スーツ姿の美人がそうしている様は、どこか背徳的な興奮をもたらし、見ているだけで肉棒の硬度が上がっていくのが感じられた。
「あっ、あっ……いい、あっ……いいです、ああっ……」
 激しく腰を振りながら、沙耶音はこちらを見下ろして喘いでいる。
 柔らかで湿った肉に包まれ、膣襞に擦られている肉棒から、たまらない快感が押し寄せてきていた。
 この気持ちの良さを手放したくない、もっと味わいたい。
 脳はそう叫び、他のことが考えられなくなっていた。
 美女に跨られ、肉棒を咥え込まれ、「いい」と喘ぎ悶えられている状況であればそれも当然だろう。他のことなどどうでもいいのだ。繋がっている女をさらに気持ち良くさせ、快楽で狂わせること以外、することなど何もなかった。
 もう我慢できない。そう思った神治は、タイトスカートに包まれた太ももに手を添えると、勢い良く腰を突き上げていった。
「ああんっ……あっ、あぁっ……」
 沙耶音がそれまで以上に喘ぎ、頭を激しく左右に振るのに満足な想いを抱きつつ、これをもっと続けるのだと、腰に力を入れていく。
 お互いが動くことで擦れが強まり、快感も増し、理性が吹っ飛んで、快楽を味わうことしか考えられなくなる。
「あんっ、ああんっ……あっ、あっ、ああっ……いいっ、いいっ、いいっ……」
 悩まし気に眉根を寄せた表情で頭を振り、上下に体を揺らしながら、沙耶音は悶え狂った。
 クールな美人がここまで乱れている姿には、ゾクリとする色気があり、肉棒が硬さを増し、大きくなっていくのが感じられた。
 こうなってくると、沙耶音を従えたい衝動が強まった。
 勢い良く上半身を起き上がらせると、悩ましい肉体をソファへ押し倒す。
 眼下には、スーツ姿の美女が横たわっており、知的な顔が赤みを帯びていて、その事が強く肉棒を刺激した。
 タイトスカートから伸びる太ももの白さにゴクリと唾を飲み込みつつ、圧し掛かるようにして体を倒し、叩きつける勢いで腰を動かし始める。
「ああっ、あっ……凄い、ああっ……上からされると凄いです、あっ、ああんっ……」
 泣きそうな声でそう喘いだ沙耶音は、背中へ手を回してギュッとしがみ付いてきた。
 肉棒を突き込むたびに、爪が立てられ痛みが起きるが、それが沙耶音を従えている証拠に思え、嬉しさが増した。
「ああんっ、ああんっ、ああんっ……こんな、ああっ……こんなの初めてです、あっ、ああっ……わたくし、あっ……わたくし、おかしくなってしまいますっ……」
 すでに無表情はかなり崩れ、悩まし気な顔で喘ぎ悶えている姿に満足感を得る。
 沙耶音の「女の顔」をさらけ出させたのだという想いが、征服欲を充足させ、射精感を強烈に刺激した。
 このまま一気に射精しようと、それまで以上に激しく強く突き込んでいく。
「あんっ、あっ……あんっ、ああんっ、ああっ……もう駄目、あっ……ああっ……もう駄目です、ああっ、あっ……わたくし、ああっ……わたくしぃ、あんっ……わたくしもうっ……あっ、あっ、あぁああああああああああっ!」
「うぅっ!」
 沙耶音の絶叫と共に、膣内が締まり上がり、その強烈な刺激に耐え切れず、思い切り精を放つ。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 肉棒が激しく律動し、そのたびに精液が迸っていく。
 体がガクガクと震え、快楽が脳を揺さぶる。
 沙耶音は「あっ……あっ……」とか細い喘ぎを漏らしながら、ピクピクと痙攣している。
 その様子を見つめつつ、射精を繰り返し、しばらくして精の放出が止まると、大きく息を吐き出して身を任せる。
 柔らかな肉が受け止める心地良さにホッとした想いを抱きながら、一人の女を手に入れた満足感に浸っていく。
「お試しはここまです。いかがでしたでしょう。わたくしの肉体は情報の対価に見合うものでしょうか? もし問題が無いということであれば、情報の提供に関する契約が成立したとしますが」
 その言葉に満足感が減少する。
 そうだった。今のセックスは、情報の対価として見合うかのお試しとして行われたのだ。つまりは仕事としてされただけなのであり、沙耶音という女を手に入れられたわけではなかった。
 ガックリとした想いが湧き起こり、無性に虚しさを覚える。
 もしあと何回か抱ければ、沙耶音を快楽付けにし、契約だ何だという意識を頭から吹き飛ばし、自分に夢中にさせることが出来るだろう。
 そんな想いが起こるが、さすがに「お試し」が終わった後に抱いてしまっては、情報を提供せざるを得なくなってしまう。それは避けたいところだった。
 仕方ない諦めよう。そう思いながら、後ろ髪を引かれつつ体を起こす。
 眼下にはスーツ姿の美女が横たわっており、その魅惑的な姿に、やはり勿体ないとする想いが起きてくる。
 沙耶音の顔は相変わらずの無表情であり、それは冷たい印象を与えるものなのだが、どこか淫靡な雰囲気があるのにゾクリとしてしまう。特に潤みを帯びた細い目に見上げられていると、治まったはずの肉欲が、沸々と高まっていくのを感じた。
 やはり勿体ない。
 繰り返しそうした想いを抱きながら、沙耶音が体を起こす様子を眺める。
 スーツに包まれた、しなやかな、それでいて肉付きの良い体。
 つい先ほどまで味わっていた肉体だ。
 それが立ち上がり、少し離れた場所へと移動していく。
 その様子を見ていると、まるで男として否定されたゆえに去られているような錯覚を覚えてくる。
 思わず耐え難くなり、勢いよく立ち上がり、沙耶音の方へと一歩踏み出してしまう。
 妙に興奮が高まっていた。
 抑えが効かなくなっているのが分かる。無性に落ち着きが無くなり、もっと沙耶音を抱きたくてたまらなくなっているのだ。
 実際目の前に立っている沙耶音の姿を見ていると、今すぐにでも肉棒を押し込まずにはいられない衝動が起きていた。
 何かおかしかった。
 もしかして、異能の力を使われているのだろうか。
 沙耶音は怪異を感知する能力があると言っていたが、他の力を持っていてもおかしくはないし、情報の対価にセックスを持ち出してくる事を考えれば、それが上手くいくための保険として、相手の性欲を強制的に高める能力を使っていたとしても不思議ではなかった。つまり今の自分の状態は、沙耶音の異能の影響下にあるため、と考えることが出来たのである。
 そのような疑念を抱いている間も、ムラムラとした衝動は強まるばかりで、股間の一物はとっくに硬さと大きさを回復していた。
 視線は沙耶音の体から外すことが出来ず、その魅惑的な後ろ姿におかしくなりそうなほどに興奮していた。
 やはり我慢できない。
 例えこの興奮が、沙耶音の能力により無理やり高められたものだとしても、それを抑えることなど出来なかった。いや、抑えようと思えば出来るだろうが、そうしたくない気持ちの方が強かった。
 そう思っているのも、沙耶音の術中にハマっているという事なのかも知れない。しかしそうだとしても、目の前にある魅惑的な肉体を諦めるなど、とても出来ることではなかった。すでにその良さを知ってしまった以上、もっと味わいたくて仕方がなかったのだ。
 そのような事を考えている間にも、体は勝手に動き出し、背後から沙耶音を抱き締め、肉棒を擦り付けてしまっていた。
「あっ、嫌っ……」
 反射的に聞こえた言葉が、劣情に火をつけた。
 今更嫌がっているはずは無いのだが、急に襲い掛かられたことで、女の本能が身を守る言葉を発せさせたのだろう。
 そしてその拒絶の言葉は、嗜虐心を強く刺激した。
 嫌がる女を無理やり犯す。
 それは男にとり、実に魅惑的な行為だからだ。
 すでにこれが契約行為であることや、異能に操られている、といった事は頭から吹き飛び、とにかく沙耶音を抱かずにはいられなくなっていた。この気持ちのいい肉体を、もっともっと味わうのだ。
 凌辱の衝動が湧き起こり、沙耶音を近くの事務机へ押し付けると、タイトスカートをまくり上げる。
 美麗な太ももと尻があらわになり、その美しさに見惚れつつ、荒い呼吸を吐き出して、体全体を擦り付けていく。
「落ち着いて下さい。性行為をするのであれば、隣室にベッドが……あ、駄目っ……」
 再び発せられた拒絶の言葉が、さらに興奮を高めた。
 鼻息を荒くしながら、胸元の豊満な膨らみを力一杯掴むと、柔らかな体がピクっと硬直する。
 ゾクゾクとした感覚が押し寄せ、沙耶音をさらにいたぶりたくてたまらなくなった。
 犯したい。
 この目の前の女を、もっともっと犯したい。
 そうした想いが溢れ、それに流されるまま、神治は鼻息を荒くしながら、丸出しになった秘所へと肉棒を押し付けていった。
「こんなところでするのは、あぅんっ……あぁっ……」
 何か言いかけたのを無視して、ズブリと突き込む。
 沙耶音は一瞬硬直した後、力を抜いて事務机に突っ伏した。
 その様子を満足げに見下ろしながら、神治は両手で細い腰を掴み、肉棒をさらに奥へと押し込んでいった。
 形のいい尻がピクピクと震え、ポニーテールの髪が微妙に揺れ動く。
 挿入を止めた言葉とは裏腹に、歓迎するように蠢く膣襞は、肉棒を包み込んでジワリジワリと締め付けてきていた。
 その感触は実に蕩ける良さがあり、神治はだらしなく顔を呆けさせながら、腰を前後に振り始めた。
「あっ……あっ……ああっ……駄目、そんな、ああっ……駄目です、あぅっ……」
 沙耶音は甘い喘ぎを発しながら、体を震わせている。
 与えられる快楽に、手を握りしめたり開いたりしているのが、彼女を支配している実感をもたらしてたまらなかった。
 自然、腰の動きも激しくなり、ズンッ、ズンッ、と強く大きく出し入れしていく。
「ああんっ、あっ、あっ……やぁっ……あっ、ああっ……」
 突き込みに合わせて小さな頭が仰け反り、ポニーテールがピョコピョコ揺れ動く。
 スーツ姿の美女が事務机に突っ伏して悶えている様は、背徳的な興奮を呼び起こし、肉棒が猛って止まらなかった。
 今自分は、魅力的な年上女性を犯しているのだ。
 そう認識すると、震えるほどの悦びが溢れてきた。
 こうして大人の女性を自由にする行為には、いつまで経っても慣れることのない素晴らしさがあった。特に沙耶音のように知的な美女であると、その想いは爆発的に高まった。
 幼い頃から頭のいい従姉に憧れてきたことが、そうした性癖をもたらしているのだろう。知的美人を犯す行為は、自分にとって最高の快楽なのだ。
 ゆえにもっともっと犯して、犯し尽くしたい。
 そうした衝動が押し寄せ、頭が獣欲に染まっていく。
「あんっ、あんっ……それ駄目、ああっ……そんなの、あんっ……緋道さんそれ、あぅっ……それ駄目ですぅ、ああんっ……」
 振り返り、嘆願するように言ってくるのに、ゾクリとした興奮を覚える。
 感情の起伏の薄い沙耶音が、そうして泣きそうな瞳で見つめてくるのは、強烈に射精感を刺激するものがあった。
 この女の中に、思い切り精液を注ぎ込みたい。
 喘ぎ悶えるこの女の膣を、自分の精で満たしたい。
 そうした欲求が押し寄せ、肉棒がより硬く大きくなっていく。
「ああっ、駄目っ……こんな、こんなの、あぅっ……凄すぎます、ああっ……気持ち良すぎて、あぅっ……わたくし、ああっ……おかしくなってしまいます、ああんっ……」
 強すぎる快楽に恐怖を覚えたのか、沙耶音は逃げるように前へ動いた。
 それを押しとどめ、グイっと引き寄せ、快楽をさらに与えようと、強く大きく肉棒を突き込んでいく。
 実に最高の気分だった。
 知的でクールな女性を快楽に染め、その女としての顔を暴き出す。
 それは何度経験してもたまらない行為だった。
 特に普段が無表情な沙耶音は、顔に少しの変化が起きるだけでも悦びがあった。ましてやここまで乱れた状態となれば、その興奮は激しいものとなった。
 何かに追い立てられるような切迫感が、早く沙耶音の中へ精を放出したくてたまらなくさせていた。
 とにかく吐き出したい。
 股間で渦巻いている肉欲の衝動を、この美しい女の中に吐き出したかった。
 そうした切羽詰まった衝動が、神治を激しく突き動かしていた。
 両手に力がこもり、細く柔らかな腰を強く掴みながら、無茶苦茶に肉棒を突き込んでいく。
 射精感が限界まで高まり、もう我慢が出来なくなる。
「あっ、あんっ……あっ、ああっ……こんな、ああっ……こんな凄い、あっ……こんな凄すぎです、ああっ……わたくしもう、あっ……わたくしもう、ああっ……わたくしもう駄目ですぅ、あっ、あっ、あぁあああああああああっ!」
 泣きじゃくりの声を漏らし、最後は硬直して大きく喘いでいる沙耶音の姿に満足感を覚えながら、一気に肉棒の栓を解放する。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 勢い良く放出されていく精液を感じつつ、肉棒がビクンビクンと震えるたびに押し寄せる快楽に脳を痺れさせる。
 繰り返される射精に合わせて、沙耶音はピクピクと体を震わせ、少しすると事務机に突っ伏した。
 両手を握り締め、体を痙攣させつつ、時折「あ……ああ……」といった溜息のような喘ぎを漏らしている。
 少しの間射精を繰り返した後、放出を終えた神治は、肉棒を引き抜いて大きく息を吐き出した。
 かなり気持ち良くはあったが、この程度ではまだまだ満足出来なかった。
 何しろ沙耶音ほどの美女が相手なのだ。しかも体も実に素晴らしい感触であり、もっともっと味わいたい欲望が湧き起こっていた。
「契約、成立ですね……」
 体を起こし、振り返りながらそう告げてきた沙耶音に、改めて今の行為が契約によるものだというのを認識する。
 だが、もうその事はどうでも良かった。これだけ楽しめたのであれば、仕事でされていようが構わなかったからだ。
「どうやらまだ満足されておられぬご様子。もう一度いたしますか?」
 こちらの股間に視線を向けた後、そう告げられるのに苦笑する。確かにそこにある一物は、硬く大きくなったままであり、肉欲にしても強烈に高まったままだったからだ。
 これも沙耶音の能力の影響なのだろうか。そうだとすれば、見事彼女の術中にハマったままということになった。
 その事に少々悔しさはあったが、これも毎度のことだろう。自分は性的な誘惑に弱すぎるのだ。未迦知神には何度も注意されているが、どうしても直らない部分だった。
「先ほど提示させていただいた契約内容では、『明日の午前零時まで』としております。ですからその時刻までは、幾度でも性行為をされて構いません。それと場所はどうされますか? ここでまだされますか? それとも隣室のベッドでいたしますか?」
 そう言われたことで、ベッドへ行くまで我慢できずに襲い掛かったことを思い出して恥ずかしくなる。いくら異能の力で興奮させられた可能性があるとはいえ、あまりにがっつき過ぎだろう。
「えっとその……すみません。何か我慢できなくなっちゃって……」
「謝られる必要はありません。男性がこうしたシチュエーションに興奮することは理解しております。ご希望いただければ、出来うる限りのシチュエーションに対応いたしますが」
 改まってそう言われると、どうにも恥ずかしくなった。何しろそうしたことを話すというのは、己の性的嗜好を告げるのと同じだからだ。
「いえ、普通にベッドで、そのままさせてもらえれば……」
「さようですか。では、こちらへどうぞ」
 沙耶音はそう告げると、隣室を手で指し示しながら歩き出した。
 今度は襲い掛かることなく、大人しく付いて行く。
 隣室のドアが開かれ、中へ目をやると薄暗かった。
 窓に厚手のカーテンがかかっているため、昼間でも日光が遮られているのだ。
 部屋の中央にベッドが置かれているところから、どうやら寝室のようだった。
ベッドの傍までいった沙耶音は、そこで振り返ると、こちらを見つめてきた。
 未だ快楽の余韻が残っている沙耶音の顔は、無表情でありながら実に色っぽかった。
 早くもう一度、この女を従えたい。
 そうした衝動が湧き起こり、神治は速足で近づいていくと、沙耶音の体を思い切り抱き締めた。
 柔らかな感触が伝わってくるのにうっとりしつつ、形のいい唇に吸い付いていく。
 舌を押し込むと、口内を舐め回し、長い舌と絡ませる。
「んっ……んふっ……んんっ……:」
 鼻から漏れる甘ったるい吐息を心地良く聞きながら、体を擦り付けるようにすると、女肉の柔らかさが伝わってきて、蕩けそうな感覚が起きた。
 顔を左右に入れ替え、荒々しく唇を吸い、舌を絡ませながら左手を胸元へ持っていき、スーツのあわせから差し入れて、白いブラウス越しに豊満な乳房を鷲掴む。
「んんっ……」
 くぐもった甘い吐息が聞こえ、その男心を擽る音色に肉棒が猛った。
 最初に会った時から魅力を感じていた豊満な乳房を掴んでいる状況に、征服欲が刺激され、興奮が高まっていく。
「んっ……んふっ……」
 回すようにして揉みしだくと、沙耶音がさらに甘い吐息を漏らした。
 ブラウスに覆われた大きな膨らみが、手を動かすと形を変え、歪んでいく様は、最高な気分にさせるものがあった。
 今自分はこの女を支配している。好きにしているのだ。
 そうした想いが高まり、充足感が強まっていく。
「あんっ……あっ、ああっ……」
 唇を放し、顎の下へ舌を這わせて、擽るように舐めながら乳房を揉むと、沙耶音は悩ましい声を漏らし、体をいやらしくくねらせた。
 スーツ姿の美女の胸を揉み、甘く喘がせ悶えさせている。
 その状況には、実にそそられるものがあった。
 スーツという服装が、「できる女」というイメージを強め、それを支配していることに気分が高揚するのだろう。
「んっ、んんっ……んふっ……」
 再び唇に吸い付き、そのままベッドへ押し倒すようにして横たえていく。
 ブラウスのボタンを外して左右に開くと、薄紫色のブラジャーに包まれた乳房が顕わになった。
 横たわっても形の崩れない豊かな膨らみは実に美しく、すぐにでも顔を押し付けたくなった。
 何故男はこれほど乳房に惹かれてしまうのか。本来生殖行為とは関係のない部位であるはずなのに、興奮を強く誘うのだから不思議だった。
 女性にしても、それが本能的に分かっているゆえに、下着には意識を払うのかも知れない。己をより魅力的に見せるために、美しさといやらしさを兼ね備えた下着を身につけるのだ。
 実際、沙耶音のつけているブラジャーにしても、彼女の白い肌と胸の膨らみをより魅惑的にしているように思えた。裸の状態よりもよほど官能的に見えるのだから不思議だった。
「あっ……はぁっ……あふんっ……」
 ブラジャー越しに鷲掴み、乳房を回すようにして揉むと、沙耶音が悩ましく顎を仰け反らせた。眉根が寄せられ、開いた唇から舌が見えるのにゾクッとした興奮を覚える。
 クールな印象があるだけに、こうして乱れた姿を見せられると、いやらしさが増すのだ。
 ブラジャーを押し下げ、たわわな膨らみを顕わにする。
 白い丸い膨らみは、目にしているだけで肉欲を刺激する効果があり、先端にあるピンク色の突起は、吸い付きたくなる衝動を強く呼び起こした。
「あんっ……あっ、ああっ……」
 口に含み、チュウっと吸い上げると、沙耶音が甘い喘ぎを漏らした。
 果実を頬張るように乳房にむしゃぶりつき、舌先でチロチロと乳首を弄ぶ。
 それに合わせて白く細い体がくねくねと動き、求めるようにしてこちらの頭に手が置かれ、強く押さえつけられた。
「あっ、ああっ………それをもっと、ああっ……」
 乳首を吸われるのが気持ちいいのか、沙耶音は頬を上気させながら悩まし気に喘いだ。
 美しい双乳を交互に吸い、揉みしだき、顔を押し付けて擦っていく。
 滑らかな肌に接し、柔らかで弾力のある女肉に触れていると、たまらない心地良さが押し寄せてきた。
 女体とは、どうしてこうも気持ちがいいのだろう。
 柔らかく温かく、弾力のある肉に包まれる快感。
 それは最高だった。
 そしてその感覚を、最も強く感じとることが出来るのが男性器だ。
 その敏感な器官で、再び沙耶音に包まれたい。
 震えるような衝動が押し寄せ、神治は両手で肉付きのいい太ももを左右に開くと、間に腰を入れていった。
 秘所に照準を合わせ、一気に肉棒を押し込んでいく。
「あっ……あぁっ……」
 膣穴に亀頭が収まり、奥へ入り込んでいくのに合わせて、沙耶音が甘い吐息を漏らす。顔の両脇に両手を置いた万歳のような姿勢で、押し寄せてくる刺激に震えを走らせている。
 肉棒に膣襞がヌメヌメと絡みつき、押し返すような、引き込むような動きをしてくるのに、気持ち良さから腰がビクビクと反応してしまう。
 これで三度目の挿入だが、やはり実に感触のいい膣だった。
 これまで様々な女性の中へ入った経験があるが、その中でもトップレベルの良さと言えるだろう。神や淫妖とまではいかないが、それに近しい良さがあった。油断していると狂いかねない、危険を感じさせる雰囲気があるのだ。
 考えてみれば、すでにかなり夢中というか、沙耶音を抱くことに固執している状態になっていたため、そうした印象は正しいのだろう。先ほどこの部屋へ来るまで我慢できず、無理やりしてしまったのもその現れだった。
 沙耶音には異能の力があるようだし、もっと気を付けなければいけないのかも知れない。
 実際、今こうして抱いている間も、彼女の体からはそれまでに無い、妖しげな雰囲気が立ち上ってきていた。
 それは細長い形状をした淫靡な「気」であり、十本近くはあるだろうか、沙耶音の周囲をまるで蛇のようにウネウネと漂っている。
 一瞬、淫妖の触手かと思ってギョッとなったが、そうではなかったため安堵する。
 これまで見た触手は肉色をしていたが、これは白かったし、何よりあの独特の嫌な感じが無いのがその証拠だった。淫妖であれば、もっとゾッとするような嫌悪感が起きたはずだからだ。
 そんな事を考えていると、周囲に漂っていた細長い「気」が勢い良く動き出し、こちらにまとわりついてきた。
 まるで蛇が獲物に襲い掛かったかのようであり、実際何重にも絡みつかれ、強い圧迫感が押し寄せてくる。
 だがそれは苦痛を伴うものではなく、むしろ快感を強烈に感じさせるものだった。
 細長い「気」が締め上げてくると、肉棒に刺激が走り抜け、大きさと硬度が増し、肉欲が昂るのだ。
「あっ……あっ……ああっ……」
 高まった衝動に流されるまま、腰を勢い良く動かし出すと、沙耶音が甘い吐息を漏らした。
 すると「気」の締め上げが強まり、それによって起きてくる快感と、肉欲の衝動も激しさを増していった。
 強烈な気持ちの良さが押し寄せていた。
「あんっ……ああっ……あっ、あっ、ああっ……」
 快楽に押されながら、強く大きく肉棒を突き込んでいくと、沙耶音が頭を左右に振り、両手で枕をギュッと掴んだ。
 はだけたスーツのブラウスから、大きな乳房が覗いており、腰の動きに合わせて前後左右に揺れまくっている。
 紺色のタイトスカートから、白くて肉付きのいい太ももが伸びてブラブラと揺れ、その付け根ではピンク色の女性器が、肉棒を咥え込んでいた。
 まさに女を犯している、それも極上の、優れた女を犯している状況だった。
 そうした認識が脳へ押し寄せ、征服欲と支配欲が強烈に刺激を受けた。
 さらに体に絡みついた「気」が締め付けを強め、擦るように動いてくることで、蕩けるような快楽が、体全体の皮膚から押し寄せていた。
「くっ……」
 その脳を蕩けさせるような快感に、思わず射精しそうになるのを必死にこらえる。
 膣内の刺激だけでも耐え難いものがあるというのに、同レベルの快感を全身に与えられてはたまらなかった。
「ああんっ……あっ、やぁっ……やんっ……やぁっ……緋道さん、あっ、あっ……緋道さぁんっ……」
 頭を左右に激しく振り、枕を何度も掴み直して沙耶音は悶えていた。
 潤みを帯びた細い目が、訴えるようにしてこちらを見つめてくる。
 目が合った瞬間、ドクンっと心臓が跳ね、それと同時に「気」の締め付けが強まったことで、全身に快感が走り抜ける。
「あんっ、あんっ、ああんっ……もっと、ああっ……もっとお願いします、あっ、あっ……もっとください、ああっ……もっとぉっ……」
 艶めかしい白い腕が背中に回り、グイっと引き寄せられたかと思うと、腰に両脚が絡んで固定された。
 それまで「気」によって締め付けられていた状態が、肉体的にもされたことで、与えられる快感が増すのが感じられた。
「うぅっ……」
 強烈な刺激に、射精感が耐え難いほどに上昇し、今すぐにでも精を放ちたくてたまらなくなっていく。
「あっ、やんっ……あっ、ああっ……出して、あっ……出して下さい、あっ、ああっ……わたくしの中に、あんっ……わたくしの中にあなたのを、あっ、あっ……あなたのを出してぇっ……」
 いやらしい絶叫。
 男の精液が欲しいと、己の中に出して欲しいと叫ぶ。
 クールな印象のある沙耶音が、快楽に染まり、叫んだ愛欲の言葉に、男としての自尊心が強烈に刺激を受けた。
 この女は俺のものだ。
 俺の、俺の女なのだ。
 だから沢山出す。
 思い切り出すのだ。
 支配欲に染まった脳が、本能の求めるままに精を放とうとしていた。
 腰を無茶苦茶に振りまくり、膣と「気」によって与えられる快感に頭を仰け反らせ、気持ちの良さで訳が分からなくなりながら、神治は獣のような唸り声をあげていった。
 肉棒が強く締め付けられ、膣襞がヌメヌメと絡みついてくるのに、涎を垂らし、ベッドについた両腕に力を込めて腰を振りまくる。
 このまま一気に、精を、全てを吐き出すのだ。
 限界まで高まった感覚は、あと一歩で解放される状態だった。
「やっ、やぁんっ……いい、あっ……いいですっ……緋道さん、やぁっ……わたくしもう、やっ……もう駄目、やぁっ……もう駄目ですっ……出して、やっ……出して下さい、ああっ……わたくしの中に、やんっ……わたくしの中にあなたのを、やぁっ……あなたのを出してぇっ……やっ、やっ、やぁああああああああんっ!」
 沙耶音の口から可愛らしい喘ぎが発せられ、その強烈に魅惑的な声音によって、我慢の堰は一気に崩壊した。
 同時に膣内と体にまとわりつく「気」の締め付けも最高潮に達し、体全体に快楽の津波が押し寄せてきた。
「!……」
 声にならない叫びを発し、訳が分からない状態になりながら精を放つ。
 ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ……。
 肉棒の激しい律動、止まらない射精の連続。
 その間も、膣と「気」によって肉棒と全身が擦られ締め付けられ、脳へ押し寄せてくる快感の侵略に、神治の意識は真っ白になった。
 気持ちの良さが大量に押し寄せ、何も考えられなくなりながら、腰だけは勝手に動いて精を放出し続けていく。
「あ……ああ……」
 眼下では、うっとりとした表情を浮かべた沙耶音が、体をピクピクと震わせながら強くしがみついてきていた。
「うぐっ……うぅ……」
 目が合った瞬間、心臓がバクンっと跳ね上がり、肉棒に震えが走り抜け、精液の放出が強まった気がした。
 快感も増し、その蕩ける刺激に、また意識が真っ白になる。
 それが何度か繰り返され、沙耶音が見つめてくるたびに、射精は勢いを増して放出し続けた。
「うぅ……く……」
 どれくらい経っただろうか、かなり長い射精を終えた神治は、呻きを漏らしながら力を抜くと、身を任せていった。
 柔らかな女肉が受け止める心地良い感触にうっとりしつつ、今経験した快楽を反芻して幸福感に浸る。
 体にまとわりついている「気」が、いやらしく蠢いて、触れている部分から快感が染み込んできているように思えた。
 やはり女を己の物とする快楽は絶品だった。
 それもこれほどの極上の女となればなおさらだった。
「緋道さん、素敵でした……」
 沙耶音はトロンっとした表情でそう告げると、神治の下から抜け出し、ゆっくりと上半身だけ起き上がった。
 まとわりついていた「気」が体から離れ、沙耶音の傍でウネウネと蠢いているのが見える。それはまるで数匹の蛇が、彼女の体から生えているような印象を与えた。
 沙耶音は頭に手をやり、髪を結わえているゴムを取り払った。
 ポニーテールとしてまとめられていた髪がほどけ、はらりと長い黒髪が肩から背中にかけて広がる。
 煩わしそうに首を振り、ストレートロングの髪型に変わった状態でこちらを見つめてくるその姿には、強烈な色香が漂っていた。
 髪型の変化が、それまでにない魅力を新たに与えたせいだろう。
 特にセックス直後の上気した、呆けた雰囲気がそれを助長し、色っぽさを高めているように思えた。
 沙耶音はスーツとブラウス、ブラジャーを脱いでいくと、タイトスカート、靴下を外し、何も身につけていない姿になった。
 真っ白な肌に覆われたいやらしい肉付きと、女性らしい柔らかなラインを描くその体は、実に魅惑的なものがあった。
 さらに蛇のような「気」が傍で蠢いていることで、何やら神秘的な色気を感じさせた。
 どんよりとした淫靡な「気」が、こちらの漂ってくるのが感じられる。
 それにより肉棒が一気に回復し、ビクンビクンと強い律動を示した。
 すでに三度味わっているはずの肉体が、新鮮なものとして目に映り、「早くこの女を抱きたい。この女肉を貪りたい」とした、落ち着かない衝動が押し寄せてくる。
 沙耶音は何も言わず、黙ったまま見つめてくる。
 だがその細い瞳は、「あなたのお好きなように、わたくしを味わって下さい」と訴えているかのようだった。
 実際それが事実であるように、沙耶音はゆっくりと、見せつけるようにしてベッドへ倒れ込んでいった。
 白いベッドの上に横たわる、裸身の美女。
 それは実に美しくもそそられる状況だった。
 その誘いに抗うことなどできず、神治は慌てて服を脱ぎ去り裸になると、唸り声を発しながら、勢い良く圧し掛かっていった。
 途端、沙耶音の周りに漂っている蛇のような「気」が、一気に体にまとわりついてきた。
 触れられた箇所からジンワリと快感が染み込んできて、肉棒がさらに勃起する。
 興奮が抑えられないほどの高まりに、神治は鼻息を荒くしながら、白い両脚を左右に開くと、肉棒を一気に膣穴へ押し込み、腰を激しく前後に動かし始めた。
「あっ、あっ、ああっ……」
 悩ましくも、悦びを感じさせる声が耳に響き、沙耶音が淫らに体をくねらせる様子に益々肉棒を滾らせながら、神治は肉棒を膣に、全身を淫靡な「気」に包まれる快感にうっとりしつつ、荒々しく腰を振っていくのだった。


「あんっ……あんっ……あんっ……」
 部屋に響く甘い喘ぎを聞きながら、神治は肉付きの良い尻を抱え、四つん這いになった沙耶音を、背後から突きまくっていた。
 あれからどれくらい経っただろうか。裸同士になってベッドで交わり始めてから、かなりの時間が経過しているように思えた。
 すでに窓の外は暗くなり、厚手のカーテンで覆われた部屋は視界が悪くなっていた。
 そうした中でも、沙耶音の体はぼんやりと光を放っているように見え、むしろ暗くなった事で存在感を増しているように思えた。
 ベッドの上に存在する白い裸身。
 暗がりの中、目に見えるその白い肌と女肉の存在感は、どこか畏怖を伴う色気を感じさせ、抱き始めた頃よりも魅惑的な雰囲気を強めていた。
 その魅力に加え、体にまとわりつく蛇のような「気」が、常時快感を染み込ませてくることで、止めることの出来ない状態となっていた。
 射精した後も、その魅惑的な白い肉体を目にし、蛇のような「気」の刺激を受けると、すぐさま肉棒が滾り、抱かずにはいられない衝動を覚えるのだ。
 そうなってしまえば、勝手に体が動き、沙耶音の中へと肉棒を突き込み、腰を激しく振ってしまう状態になっていた。
「ああんっ……あっ、あっ、ああっ……」
 突き込みを強めると、沙耶音が甘い声をあげ、頭を大きく仰け反らせた。
 長い黒髪が乱れ、それが白い背中にかかるのに色っぽさを覚える。
 後ろから両手を回し、豊満な乳房を鷲掴むと、ずっしりとした重みが伝わり、心地良さが感じられた。
「やっ……あっ……ああんっ……」
 たわわな膨らみをムニュムニュと揉みしだきながら、ゆっくりと肉棒を出し入れし、その与えられた刺激に、喘ぎ声と共に前後に揺れる頭を満足げに眺める。
 手を細い腰に戻し、強く掴んで、ズンッ、ズンッ、と数度突き込むと、沙耶音は耐え難いように腕を崩して、上半身をベッドを押し付ける体勢になった。
「あっ、やぁんっ……やっ、やっ、やぁっ……」
 高く突き出された尻を掴み、それまで以上に強く肉棒を叩きつけると、泣いているような声で喘ぐのに、支配欲が強烈に刺激を受けた。
 こちらへ振り返り、何かを訴えるように見つめてくる沙耶音の顔は、淫らな女そのものだった。
 無表情で、クール美人の印象のある彼女のそうした姿は、他の女性の同じ姿よりも、より興奮を高めた。「自分がそうさせているのだ」という自負が、精神的快楽を強めているのだろう。
「やぅっ、やぁっ、やぁんっ……はぅっ、はっ、はぁんっ……」
 肉棒を突き込むたびに、沙耶音はシーツをギュッと掴み、頭を左右に振って泣きじゃくった。
 それはまさに与えられる快楽によってそうなっているのだと感じさせ、女を支配している気分を強烈に高まらせた。
 この女は俺のものだ。
 俺のものなのだ。
 独占欲が充足され、強烈な快楽が脳で溢れていく。
 たまらない。
 たまらない。
 女を抱くのはたまらない。
 もっと抱いて、この女を支配するのだ。
 そうした衝動が押し寄せ、意識せずとも腰の動きが激しさを増していく。
「やぁっ……やっ、やっ……やぁんっ……あっ、あっ、ああっ……」
 ズンッ、ズンッ、ズンッ、と叩きつけるように肉棒を突き込むと、それに合わせて沙耶音の頭が仰け反り、ほっそりとした手がシーツを握り締め、引き寄せている。
 苦しそうな、それでいて悦びを感じさせる喘ぎが絶え間なく発せられ、まさに沙耶音の全てを蹂躙している快楽が脳に押し寄せてきていた。
 このまま一気に精を放つ。
 自分のものだという証を、この女の中へ注ぎ込む。
 それこそがセックスの最高の快楽だった。
 射精の快感と共に、支配欲、征服欲を充足させる精神的快楽。
 男にとり、その瞬間こそが最高の悦びと言えるだろう。
 それをまた味わうのだ。
 お前は俺のものだと、沙耶音に示すのだ。
 荒々しい衝動と共に、腰の動きが激しさを増し、肉棒が膣内で絡みつかれ、吸い付かれる快感に、朦朧としながら最後の瞬間を待ち構える。
「ああっ、あっ……あぅっ……あっ、ああっ……緋道さん、ああっ……緋道さぁんっ……凄い、あっ……凄いです、あぅっ……凄いですぅっ……」
 尻が背中に付くほどの勢いで突き込むと、沙耶音は賛嘆の喘ぎを漏らしながら、悶え狂った。
 その様は、まさに自分に従う女の姿であり、男の自尊心が強烈に刺激を受けた。
 射精感が限界まで高まり、もう抑えることは出来なくなった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……イく、あっ……イっちゃいます、ああっ……イっちゃうんですぅっ……やっ、やぁっ、やぁっ……わたくしもう駄目、ああっ……もう駄目です、あんっ、もう駄目なんですぅっ……あっ、あっ、あぁあああああああああっ!」
「うぅっ!」
 沙耶音の体が硬直し、膣内がキュッと締まり上がった瞬間、神治も肉棒の栓を解放した。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 強烈な解放感と、蕩けるような快感が脳へ押し寄せ、意識が一瞬遠のく。
 肉棒は律動を繰り返し、そのたびに精液が迸って気持ちの良さが体中に溢れた。
 沙耶音は「あ……ああ……」とか細い声を漏らしながら、ピクピクと体を震わせ、快楽に浸っているようだった。
 しばらくして射精を終えると、沙耶音の体に倒れ込む。
 柔らかな肉体と重なりながら、ベッドへ横倒しになり、荒い呼吸を繰り返しつつ、今得た快楽を反芻する。
 隣には美しい顔があり、呆けた表情を浮かべているのにいやらしさを覚えた。
 蛇のような「気」が体の上を這いまわってきて、ヌメヌメとしたような快楽を伝えてくる。
 肉棒がムクムクと力を取り戻し、再び抱きたくてたまらなくなった。
 神治は沙耶音の体を仰向けにすると、両脚を開いて肉棒を押し込んでいった。
 瞬間、肉棒が女肉に包まれ、蕩けるような気持ち良さが湧き上って来た。
 体にまとわりつく「気」の締め付けが起き、さらに快楽を高めていく。
 たまらない。
 この肉体はたまらなかった。
 だからもっと抱かなくては勿体ないではないか。
 何しろ沙耶音は、情報の対価で抱かせてくれているだけなのだ。今回のことが終わってしまえば、もう二度と抱く機会は無いかも知れないのである。
 そんな切迫感が押し寄せ、沙耶音を求める意識が強まった神治は、必死になって腰を激しく振っていくのだった。


「あっ、あっ、あぁあああああああっ……」
 沙耶音の絶叫が部屋に響き渡り、何度目か分からない射精が行われる。
 湧き上って来る快感に脳を痺れさせながら、しばらくして精を放ち終えた神治は、ゆっくりとベッドへ倒れ込んだ。
 荒い呼吸を繰り返しながら、快楽の余韻に浸る。
 隣では、沙耶音がうっとりとした表情を浮かべて満足げにしている。
 これだけの快楽を与えたのだから当然のことだろう。
 こちらを見つめる瞳には、無表情ながらどこか媚を感じさせる光があったため、彼女を手に入れたのだという実感を得て嬉しくなった。
「約束の時刻となりました。以上で契約に基づく性行為を終了したいと思います」
 不意に淡々とした口調で告げられたことに、一瞬何を言われたのか分からず呆ける。
 そしてすぐに、今していた行為が、時間制限のあるものだったのを思い出した。
 ベッドの傍に置かれた時計を見ると、確かに深夜零時を過ぎており、それは最初に沙耶音と約束した刻限だった。
「もう遅い時刻です。宜しければ、このままここにお泊り下さい。サービスとして朝食も用意させていただきます」
 そう言いながら、沙耶音は上半身だけ起き上がった。
「それでは、矢切玲霞さん宅に居た、怪異の情報についてお話いただけますか?」
 それまでの媚態が嘘のように、冷めた雰囲気で尋ねてくるのに呆気にとられる。
 何と切り替えの早い女性だろう。先ほどまで甘い喘ぎを発しながら、強くしがみついてきていた姿が嘘のようだ。あれだけまとわりついていた蛇のような「気」にしても、いつの間にやら消えてしまっている。
 彼女には、快楽に対する余韻というものは無いのだろうか。
「先ほども申し上げました通り、矢切玲霞さん達のプライバシーに関わる部分はお話にならなくて結構です。怪異の形状や生態など、話せる範囲で構いません」
 淡々と話を進めていく沙耶音に、こちらも意識を切り替えるべきだと思った神治は、大きく息を吐き出した。
 そして上半身を起こすと、数日前に関わった淫妖について、その姿を思い出しながら語っていくことにした。
「なるほど、やはり淫妖ですか。そしてかなりの長時間、接触されていたと。確認なのですが、見たのは触手のみだったのですね? 淫妖の胴体などを見たわけではないのですね?」
 沙耶音の問いかけに頷く。あの時は意識がボンヤリしていたし、淫妖は部屋の奥の方に居たため、胴体があったかどうかは分からないが、自分が見たのは触手のみだったからだ。
「どうやらわたくしが目的とする怪異とは違うようです。ですので、そこまでで結構です。これ以上はお話になる必要はありません。ご協力ありがとうございました」
 あっさりと話を終わらせるのに拍子抜けする。
 どうやら沙耶音の目的とは違っているようだが、だとしても、もっと確認した方が良いのではないだろうか。何しろ人の記憶などあやふやなものだし、見えていないところに胴体があった、という事もあり得るからだ。
 その事を尋ねてみると、沙耶音はかぶりを振った。
「その可能性はありません。わたくしが探している対象は、獲物の生命力を吸収する際、胴体部分で行うとのことですから。触手でも吸収行為は行うようですが、それはあくまで獲物を弱らせるまでで、弱った後は胴体で吸収を行うそうです。ですので、淫妖に長時間接触していたにも関わらず、触手のみしか見なかったとなれば、別の個体だということが分かります」
 確かにそういう事であるのなら、玲霞の家にいる淫妖は別物ということになった。あの淫妖は、触手でしか接触してこなかったからだ。
「それにしても、緋道さんは淫妖と長時間接触していたというのに、全く影響を受けていませんね。通常ですと、淫妖の木偶になってしまうか、性欲が過剰に高まることでおかしくなったりするのですが。どうやら強い力をお持ちのようです」
 感心したように呟く沙耶音に、居心地の悪さを覚える。
 何しろ淫妖にいいようにされた時点で感心されることではないし、影響にしても、日常生活に支障が無いとはいえ、性欲が高まる状態にはなっていたからだ。
 実際、先ほどまでの沙耶音とのセックスにしても、かなり荒っぽくしてしまったし、夢中になって快楽を与えてしまっていた。どうやら沙耶音は、快楽への耐性が強いようなので問題なく済んだが、これが常人相手であったら、おかしくさせてしまっていただろう。
 何とも恥ずかしいことであり、未迦知神に知られたら、また呆れたように苦笑されてしまう状況だった。
 どうにも気が重くなったが、それは取り合えず後での話であったため、今はそれよりも気になる事を尋ねてみることにした。
 沙耶音の力についてだ。
 セックスの最中、ずっとまとわりついてきていた、あの蛇のような「気」は、一体何だったのか。
「あなたも力を持ってますよね。細長い『気』が出てるのが見えましたけど」
 神治の質問に、沙耶音は一瞬固まった後、片方の眉を上げると、視線を少し反らしてから戻した。
「やはり認識されていましたか。時折視線がわたくしの周囲に向いていることがありましたので、そうであろうと推測しておりましたが」
「体にまとわりついてきたので驚きましたよ」
「もし気分を害されたのなら申し訳ありません。あれが見える方はあまりいらっしゃらないため、配慮を怠っておりました。快楽を提供するために使用しておりますので、特に害はありません。わたくしとの性行為を、より楽しんでいただくための手段として用いております」
「確かに気持ち良かったです。あれは凄いですね。何かおかしくなっちゃってましたよ」
 元々玲霞の家の淫妖による影響も残っていたが、あの蛇のような「気」の与えてくる快楽にも、抑制を効かなくさせる力があるように思えた。
「申し訳ありません。通常はもう少し力を抑えるのですが、わたくし、かなり乱れてしまったせいか、制御が甘くなっておりました。もし辛さを感じたのでしたらお詫び申し上げます」
「かなり乱れてしまった」という言葉に嬉しくなる。
 それは自分の与えた快楽が、沙耶音を夢中にさせた証だったからだ。
「気持ち良かっただけなので大丈夫ですよ。それにしても最初見た時は驚きましたよ。いきなりブワっと、蛇みたいな『気』が何本も出てきましたから」
「あれは、わたくしの家に代々伝わる力になります。わたくしは、体の中に蛇の神を宿しているのです。そのため体の周りに現れる『気』の形も、蛇のようなものになっております」
「蛇の神、ですか」
 その説明に驚く。まさか神という言葉が出てくるとは思わなかったからだ。どうやら沙耶音の力は、彼女自身の異能というわけではなく、神由来の力ということらしい。
「遥か昔、わたくしの先祖は、蛇の神と契約を結び、その身に宿すこととなった、と伝えられています。それが代々受け継がれ、現在はわたくしが継承者となっています。仕事で用いている怪異を感知する能力などは、その神の力によるものです」
 自分と似たような境遇であるらしいことに親近感を抱く。淫妖と蛇の違いがあるとはいえ、同じく神を身に宿しているということに嬉しさを覚えたのだ。
「神の存在を証明することは出来ませんので、あくまで『そう伝えられている』ということでしかありません。事実として確認できるのは、わたくしには、神のものと考えると納得できる力が備わっているということになります」
 確かに沙耶音の中に神がいるかどうかは分からなかった。感じられる「気」は、普通の人間と少し異なる程度のものでしかなく、神を思わせる要素はなかったからだ。
 しかし自分にしても、神の力を十全に使えているわけではないため、沙耶音も同じだとすれば、そうであっても不思議はないだろう。
「以前は神を祭る神社があり、わたくしの家はその神社を守る家だったようなのですが、何らかの理由から神社が無くなったため、それ以降は、現在わたくしがしているような仕事を行う状態になったそうです」
「じゃあ、怪異を探す仕事は、家業ってことですか?」
「さようです。わたくしの家は、代々怪異探索業を行っております」
 そのような家業があるとは思ってもみなかったが、考えてみれば、怪異の探索にはそれなりの異能が必要になるだろうから、血筋で力が引き継がれるとなれば、そうなるのも自然かも知れなかった。
「今回は目的の怪異ではありませんでしたが、緋道さんと知り合えたことは僥倖でした。推察させていただくに、緋道さんはこれまでも何度か、淫妖と接触された経験がおありなのではないでしょうか」
「そんな風に見えますか?」
「はい。初めて淫妖と接触した場合というのは、大抵かなり動揺されています。しかし緋道さんは、先ほど淫妖について話される際も、当時の様子を思い出しているにも関わらず、特に動揺が見られませんでした。ですので、ある程度慣れていらっしゃるのだな、と」
 確かにそれは言えるだろう。淫妖に出くわすのは、未だ慣れることは無かったが、だとしても最初の頃に比べれば動揺は少ないからだ。
「これはお願いになるのですが、今後もし淫妖と関わることがありましたら、わたくしに連絡をいただけませんでしょうか。もちろん謝礼はいたします」
「謝礼」という言葉に反応してしまう。それは、沙耶音とまたセックスできる事を連想させたからだ。
「触手以外の部位について目撃した場合は、特にお願いしたいのです」
「触手以外、ですか?」
「はい。わたくしが探索を依頼された怪異は、触手だけでなく胴体も存在している淫妖になります。これはかなり珍しい個体であるため、遭遇する確率はかなり低いのです。ですが、すでに数度淫妖と関わった経験のある緋道さんであれば、確率は高くなります。ですから留意しておいていただきたいのです」
 なるほど、そういう事なら納得だった。連絡くらいは大した手間ではないし、別に構わないだろう。
「分かりました。もしまた淫妖と出くわすことがあったら連絡します」
「ありがとうございます」
 頭を下げる沙耶音を見つめながら、淫妖の姿について想いを巡らせる。
 これまであまり考えたことは無かったが、淫妖というのはどういった姿をしているのだろう。触手から想像するに、胴体にしてもかなり気持ち悪いように思えたが。
「それから、これは仕事とは関係の無いことなのですが……」
 沙耶音はそこまで喋ると、珍しく言いよどむようにして黙った。
 そして片方の眉を上げ、少しの間視線をあらぬ方向へ向けてから戻した後、意を決したようにして話し始めた。
「もし宜しければ、今後もわたくしと、性行為をしていただけないでしょうか? 先ほどもお話しましたが、わたくしの中には蛇の神が存在しています。その影響で、時折強い性衝動が起きることがあるのです。大抵は問題なく処理できるのですが、強烈な状態になることがありまして、仕事に支障が生じる場合があるのです。それを防ぐために性行為を行うのですが、神の精というのは凄まじく、並みの男性相手ではなかなか満足することが出来ないのです」
 何とも言えない内容に押し黙る。
 だがその状態には凄く共感があった。自分も強烈な性衝動のせいで、色々問題を起こした事があるからだ。
「先ほどの性行為の際に、強めの快楽を送る状態になりましたが、緋道さんは特に問題なく受け入れておられました。これならば神の精が強まった際のわたくしが相手であっても、心身に弊害なく処理していただけるのではないかと思えるのです。いかがでしょう。今後、わたくしの性衝動が高まった際に、性行為をしていただけないでしょうか?」
 沙耶音にしては珍しく、少し身を乗り出し、不安そうに尋ねてくる姿に、その切実さを感じさせた。
 性衝動というのは、本能に直結しているものであるせいか、普通の人間であっても制御の難しい部分があった。ましてや、神と呼べるほどの力の影響があるとなれば余計だろう。
 自分にも経験があることだけに、沙耶音の気持ちは痛いほど分かった。
「いいですよ。俺で良ければ、いくらでもお相手します」
「! ありがとうございます」
 神治が答えると、沙耶音の顔に笑みが浮かんだ。
 その瞬間、ドキリとしてしまう。それまでとは異なる印象を覚えたせいだ。
 元々美人の沙耶音が笑みを浮かべるというのは、それだけで魅力的なものがあるわけだが、今の笑みはどこか違っていて、何と言うか、実に可愛らしかったのだ。
 例えるなら、子供が無邪気に笑った時のような、と言えば良いだろうか。
 大人の、それも普段は無表情でクールな女性が、そうした笑みを浮かべるというのには、強烈に魅惑的なものがあった。
(か、可愛い……)
 蕩けそうなほどにたまらなくなり、思わず抱きしめたくなる。
 沙耶音はこちらの反応を首をかしげて不思議そうに見つめているが、その際の表情も、子供の無邪気さを感じさせる無防備なものであったため、実に破壊的な魅力があった。
「宜しければ、この後も性行為を行いますか? もちろん情報の対価としてではなく、個人的な関係としてです。わたくしの一方的な申し出を受けて下さったのですから、緋道さんが求められる際は、わたくしも応じさせていただきます」
 沙耶音の視線は、股間に向けられていた。
 見ればそこには、いつの間にやら見事にそそり立った一物があった。
 沙耶音の様子が可愛らしかったためそうなったのだが、まるでセックスをしたくて仕方がないからそうなっているようにも見えたため、少々恥ずかしくなった。
「今回は時間制限はありませんので、お好きなだけ性行為をなさって下さい。わたくしとしても、緋道さんが存分に気持ち良くなられるよう、誠心誠意お相手をさせていただきます」
 相変わらずの淡々とした喋りであったが、これまでに比べ、どこか親しみを感じさせる雰囲気があるように思えた。顔にしても、無表情に戻っているものの、やはり温かさを感じさせる印象があった。
 これはやはり、仕事としてではなく、プライベートとして接しているゆえにそうなっているのだろうか。
 沙耶音の新たな一面を知った事に嬉しさを覚えつつ、早速抱かせてもらおうと魅惑的な肉体に圧し掛かっていく。
 柔らかな女肉が受け止め、その感触に心地良さを覚えた神治は、これからは好きなだけ沙耶音とセックス出来るのだという事に喜びを感じながら、肉棒を秘所へと押し込んでいくのだった。












あとがき

 今回は、クールな女性との行為を描いてみました。
 こういうタイプは結構好きで、クールな女性が乱れる姿というのには興奮するんですよね。
 普段との落差、ギャップが良いわけです。
 これは無口無表情系のキャラもそうなんですけど、内面が分かりにくいので、そういう人の女の部分が自分にだけ晒される、というのに興奮するのかも知れません。
 普段表情の変化しない女性が、与えられた快感によって見せる淫らな姿。
 実に良いではないですか。

 あと「仕事のためとなれば、セックスも淡々とこなす」という辺りも魅力的なんですよね。
 こういうのは、ビッチな印象から嫌がる人もいるみたいですけど、私は結構好きなんですよ。好意とは関係なく、とにかく受け入れるって態度が、妙な興奮を覚えさせるというか。

 蛇の神については、そろそろ神治と同じような境遇のキャラも欲しいな、と思って出しました。
 今回の話では、ほとんどその部分には触れませんでしたが、今後色々絡められれば良いと思っています。沙耶音は仕事柄、神や淫妖関係で絡めやすいですし。
 神や淫妖というのは、この作品における重要ポイントなので、今後も色々出していきたいと思っております。
(2022.6.19)

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