緋道の神器


        第四十四話  無口な同級生



 高校へ入学した頃。
 神治は担任教師に頼まれ、クラスメートの女子と一緒に雑用の仕事をしていた。
 その女子生徒の名前は、聖川雪花(ひじりかわせつか)。
 雪花はかなり背が低く、童顔であり、胸の膨らみも無い状態であったため、完全に小学生にしか見えない容姿をしていた。
 さらに肩まで伸びた髪を大きなリボンでくくっていたため、余計にそうした印象が強まっていた。
 性格的には大人しい感じで、積極的に何かをしてきたり、自己主張をしてくることはなく、また無口であるようで、一緒に仕事をしていても必要最低限の事しか口にしなかった。
 顔はかなり整っていて可愛いのだが、如何せん無表情であるため、「可愛げ」という意味での可愛さからはかなり外れており、美少女として認識はされても、親しみを感じさせるタイプではなかった。
 そんな雪花と一緒に仕事をするというのは、楽しくもあり、楽しくなくもあり、といった妙な感じであり、黙々と仕事をしていくだけの変な状態だった。
 本来ならば、これを機会に親しくなり、高校での友人を増やしたいところであった訳だが、どうにもそうした雰囲気にはならなかった。
 そんなこんなで雑用をしていった訳だが、神治がトイレへ行ってから戻ってくると、何やら教室が騒がしくなっていた。
 とはいっても、一人の生徒が騒いでいるだけだったのだが。
 雪花に対し、男子生徒が何やら喋っていたのだ。
 どうにもそれは、雪花の小学生のような容姿をからかうものであり、言い方にしても子供のような雰囲気を出していて、何というか高校生にもなってやるには恥ずかしいと思えるほどの低レベルのものだった。
 特に雪花の容姿が幼いだけに、高校生が小学生をいじめているような感じになっており、見ている側としては恥ずかしさで一杯になった。
 とはいえ、からかわれている方にしてみれば辛い訳で、雪花は顔を俯き加減にし、言われることにジッと耐えているように見えた。
 周囲のクラスメート達は、どうしたらいいのか分からないようで、落ち着かない雰囲気で黙っている。
 関わり合いになりたくない、というのもあっただろうが、入学して間もないという事もあり、互いに名前すら覚えていないような状況である事を考えれば、止める行為をするにも躊躇があるのだろう。
 神治としても止めたくはあったが、そうした行為をするのも恥ずかしくもあり、困ってしまっていた。
 とはいえ、今日一日だけとはいえ一緒に仕事をし、ある程度は親しみを持つようになっている相手な訳だから、ここは助けに入るべきだろうと思った。
 できるだけ穏便に止めようと、少し冗談っぽい雰囲気を持たせながら話しかけてみる事にする。
「あのさ、止めようぜそういうのは。何か小学生みたいだぞ。いや、お前さんがさ。見ていて恥ずかしくなるというか。あれだ、好きな子にいじわるする小学生男子、みたいな感じがして恥ずかしいんだわ」
 そう告げた瞬間、男子生徒の顔が赤くなった。
 まさに図星を突かれた、と言わんばかりの反応であったため、その事に困惑してしまう。
 もしかして本当にそうなのだろうか。
 そう思い、男子生徒の「気」を探ってみると、雪花に対して性欲を高めているのが分かった。
 どうやら本当に雪花に好意を抱いているらしい。
 それなのにからかうというのは何なのだろう。
 精神年齢が小学生レベルなのだろうか。
「う、うるせぇなっ……違うぞそんなのっ……俺はこいつが小学生みたいだから、その事実を言っただけだっ……お、お前こそ何だよっ。何でこいつの味方するんだよっ……そ、そうかロリコンだろお前っ? こいつが小学生みたいだから、ロリコンなお前はこいつに好かれようとしている訳だっ。ロリコンかよダセェっ……こいつロリコンだってよっ、ハ、ハハ……」
 どう考えてもそれはお前の方だろう、というのが伝わってくる動揺ぶりだった。
 周囲のクラスメート達も同じように思ったらしく、苦笑気味にしている。
 思っていた以上に低レベルな状態になっているな、と思いつつ、さてどうしたものかと考える。
 このままこの男子生徒を刺激しても恨まれる事になりかねない訳で、出来るだけそうならない言い方をしなければならないだろう。
 そうなるとどうするべきか。
 少し考えてから、これならいいだろうと思いついたことを述べてみることにした。
「実はそうなんだ。俺、ロリコンなんだよ。まあ、そうは言っても熟女も好きだから、正確な意味でのロリコンとは言えないけどな。でも小学生も好きだ。聖川さんみたいに可愛らしい女の子も好きだ。見た目小学生でもこんなに可愛いのなら素晴らしい。魅力的じゃないか。そうした想いをお前は理解できないのか? 可愛くても小学生みたいな容姿じゃ駄目なのか? クラスに愛すべき可愛らしい存在が居ることを喜ばないのか? どうなんだよ?」
 我ながら恥ずかしいことを主張しているな、と思いつつ、正直な気持ちなのだから構わないだろうと思う。
 実際自分は小学生を何人も抱いているし、彼女たちには十分魅力を感じているから、何の嘘も無かった。
 ただこのせいで、これから確実にロリコン扱いされるな、という懸念はあったが。
 あだ名にならなければいいなぁ、などと思いつつ、男子生徒がどう出てくるかと身構える。
「お、お前……何言ってるんだよ……ロリコンだぞロリコン……恥ずかしくねぇのかよ……」
 どうやら上手くいったようで、男子生徒の勢いはかなり弱くなっていた。
 実際彼にしてみれば、自分がいつも思っていることだろうから、それに反論するのは難しいのだろう。
 それとも自分を偽ってでも非難してくるだろうか。
「まあ、恥ずかしいと言えば恥ずかしい。何しろ世間じゃ白い目で見られるだろうからな。実際もうこのクラスでは俺の立場はお終いかも知れん。だが、聖川さんが小学生のように見えるからといって、それを誹謗するなんてのは駄目だと思う。可愛い存在は守らなくちゃ駄目だ。素晴らしいじゃないか、高校生にもなって小学生みたいだなんて。愛らしくて最高だよ」
 もうトドメとばかりに、自らをロリコン認定する発言をしていくのに内心苦悩する。
 絶対お終いだった。
 ロリコン確定だった。
 高校生活の滑り出しは最悪だった。
「お、お前……」
 男子生徒は圧倒されたようにして押し黙った。
 おそらく彼自身も同じように思っていたに違いないため、もうこれで止めてくれるだろうと期待する。
 そうでなければまだ続けなければならないからだ。
 だがこれで何も言わないでくれれば、これ以上の辱めは受けないで済むだろう。
「……」
 しばらくしても男子生徒は何も言ってこなかったため、これで終わりだと思ってホッとする。
 周囲のクラスメート達もそう思ったのか、安堵の空気が教室に広がっていくのが感じられた。
 後は男子生徒が一言でも雪花に謝れば、丸く収まるといったところだろう。
「あの、俺さ……」
 実際そうするのではないかと思える雰囲気で、男子生徒が雪花に向き直った時だった。
 不意に、思いも寄らない事が起きた。
「あんた……緋道……」
 小さな、だが力の籠もった声が聞こえてきたのだ。
 それは怒りに震えているというのが伝わってくる、何とも恐ろしさを感じさせる声だった。
 そしてそれは、これまでずっと俯き、黙っていた、神治と男子生徒の対立の原因となっていた、雪花の小さな口から発せられているものだった。
「黙って聞いていれば……人のことを……小学生みたいだと何度も……許すまじ……」
 ギロリっと睨まれ、そのあまりの迫力に思わず後ずさる。
 何というか恐ろしい存在に目を付けられたような、それほどの怖さがあったのだ。
 それだけの強い「気」が、そうこれは「気」だった。雪花の体からは、武を感じさせる重々しい「気」が立ち上っていたのである。
 以前ヨーロッパで犬の化け物に殺され掛けたことがあったが、ああした獣が放つ殺しの「気」とは異なる、鍛え上げた人間のみが放つ武の「気」が感じられたのだ。
 食いちぎられる、といった種類の恐ろしさではなく、押しつぶされるような種類の恐ろしさと言えばいいだろうか。
 完全に人を飲む、場を制する力を持った重々しい「気」が放たれていたのである。
「こっちの男子……あんたも……黙っていればつけあがって……許すまじ……」
 男子生徒に対しても、ギロリっと、さらに強烈な視線が向けられ、その事に彼は怯えたようにして数歩退いた。
 そのまま雪花の視線は二人に交互に向けられ、その迫力に神治も男子生徒も動くことができなかった。
 周囲に居るクラスメート達にしても硬直しており、一体何が起きたのか分からない、といった感じになっている。
 それも当然だろう。
 これほどの強く恐ろしい「気」を受けて、平然としていられるはずがないからだ。
「気」に抵抗力のある神治ですら圧倒されているのだから、そうした素養のないクラスメート達ともなれば当然だった。
 そうした「気」の作用に加え、精神的にも驚きがあったに違いない。
 何しろそれまで大人しくて無口でひ弱そうな印象のあった雪花が、突如として恐ろしいまでの迫力を発し始めたのだから。
 それはまさに第一印象を打ち破る、猫を被っていた獅子が、眠っていた獅子が目覚めたという変化だった。
 一体彼女は何者なのだろう。
「あんた……名前は……?」
 静かだが、迫力のある声で雪花が男子生徒に尋ねている。
「は、はいっ。伊吹克麿(いぶきかつまろ)ですっ」
 男子生徒、伊吹は背筋をピンッと伸ばし、怯えるようにして叫んでいる。
「伊吹……私にしたの……悪意?……それとも好意の裏返し?……どっち……?」
「好意の裏返しですっ」
 即答しているのに呆れる。
 先ほど神治にした誤魔化しとは裏腹な態度だった。
「そう……ならあんな……子供みたいなこと、しない……」
「はいっ。スミマセンでしたっ」
 伊吹はそう叫びながら謝っている。
 その様子に可笑しくなり、口元に笑みが浮かびそうになったが、雪花の視線がこちらへ向いたため硬直した。
「緋道……一応礼……助けてくれて、ありがとう……でも言い方が悪い……そこは反省しろ……」
「あ、うん……そうだね、悪かったごめん……」
 お礼を言われたことを意外に思いつつ、そう言えばそう言われてもおかしくない事をしていたのだと気がつく。
 何やら雪花の迫力のせいで、自分も伊吹と同じように責められる立場にあるように思えてしまっていたからだ。
 何にせよ、これで一件落着したのだとホッとし、体の力を抜く。
 実際、雪花の体から武の「気」が消えていたため、圧力が無くなっていたのだ。
 クラスメート達も脱力しており、伊吹はくたくたと床に尻餅を付いていた。
「それじゃ……仕事の続き……職員室に、行く……」
「あ、ああ……」
 担任教師に提出する書類の束を渡し、そのままスタスタと歩き始めた雪花の後に続いていく。
 クラスメート達の注目が集まっているのに恥ずかしさを覚えるが、そんな事を意に介さないようにして前を進む雪花を面白く思う。
 少し前までは大人しく弱い印象だったのが、今では真逆の迫力ある強い印象になっているのだから何とも言えなかった。
 それもあの武の「気」のせいだろう。
 雪花は、まさに人を、場を制する力を持った存在だった。
 もしかしたら何か武道をやっているのだろうか。
 そうだとしてもかなりの力と言えたから、この小さな体からは想像出来ないことだった。
 こいつは入学早々凄い女の子と知り合えたものだと思い、これから楽しく過ごせるに違いないな、と神治は嬉しくなった。


 そうした事が起きてから数ヶ月が経った。
 あの事はその場に居なかったクラスメート達にも知られることとなり、雪花はあれ以来、クラスで一目置かれるようになっていた。
 ついでに神治はロリコンとして一目置かれるようになり、それが後のハーレム噂の原因になっていたりもした。
 何しろ最初から仲良くしている歩美にしても、小さくて童顔で小学生のような容姿をしていたため、余計にそうした認識が広まってしまったのだ。
 考えてみれば、雪花を助けたのは失敗だったのかも知れない。
 もう少し放っておけば、雪花は自分で切り抜けたのだろうし、そうすればロリコン認定されないで済んだからだ。
 とはいえ、そんな事は分からなかったのだし、たとえ強いと言っても、やはり女の子がからかわれているのは見ていて気持ちの良いものではなかったのだから、良いことをしたと言えるだろう。
 結果として悲しい現状になってしまっただけの話だ。
 最近されているハーレム噂のせいで、ロリコン認定の方はかなり薄れはしたのだが、変な風に一目を置かれるという意味では変わらない状態だった。
 そんな事を考えながらボーッとしていると、目の前に可愛らしい顔が現れた。
「お客さん……先輩……」
 そう端的に述べてきたのは雪花だった。
 示された方を見ると、教室の入り口に陽菜が立っているのが見えた。
 相変わらずの怒った表情で、早く来なさいとばかりに手招きしているのに慌てる。
「また新しい女が増えた……女ったらし……」
 陽菜の方へ向かって歩き出した瞬間そう言われ、思わず転びそうになってしまう。
 振り返って見ると、雪花は無表情につまらなそうな雰囲気を醸し出しながらそっぽを向いていた。
 その事に苦笑しつつ教室の入り口の所まで行くと、陽菜は「今日は用事あるから帰っていいわよ」と告げ、そのまま立ち去ろうとした。
 だが急に立ち止まると振り返り、「あんたやっぱり女ったらしよねっ」とキツい口調で呟いた。
 チラリと教室内に視線を向けていたため、もしかすると雪花の事を言っているのだろうかと思い、彼女とはそんな関係ではない、と言おうとしたが、すでに陽菜は足早に立ち去った後だった。
 誤解させて怒らせてしまったかな、と思いつつ、自分の席に戻って溜息をつきながら腰を下ろす。
「何だよ緋道、今のスゲェ可愛い人じゃん。知り合いか?」
 かけられた声に視線を向けると、そこには伊吹が立っていた。
 あれ以来、何故だかよく話しかけてくるようになり、いつの間にやら仲の良い間柄になっていたのだ。
 普通に会話してみれば、趣味なども合い、相性も良かったため、友人として付き合うようになっていたのである。
「まあね……この間知り合ったんだけど、それ以来色々あってさ……」
「ふ〜〜ん……お前ってスゲェよな。あんな可愛い先輩と知り合えるなんて……俺的にかなり好みだぜあの人」
「そうだろうな……」
 伊吹はロリコンであったため、小学生のような容姿をしているという点で、陽菜も十分に魅力的なのだろう。
「でもちょっと胸はあったかなぁ。それだけはマイナスポイントだな。まあ、未生よりは無いけどよ。未生もなぁ、胸さえ無ければ最高なんだけど……」
 陽菜はそれなりに胸があったため、貧乳好きの伊吹としては駄目なようだった。
 歩美のことも、「容姿は好みだけど胸が大きすぎるので駄目だ」と言っているのを以前聞いた覚えがあったのだ。
「変態……」
 ボソッとした声に驚いて視線を向けると、雪花が呆れた顔をして伊吹を見ていた。
「あ、その……俺は聖川さんが一番だからっ……今のは単なる容姿の好みの話であって、俺が好きなのは聖川さんだけだっ」
 背筋を伸ばして慌てた様子で言っているのに苦笑する。
 あの出来事以来、伊吹は雪花にベタ惚れ状態になっており、翌日にクラスメート注視の中で告白する、といった離れ業を披露したのだが、あっさり撃沈していた。
 だがそれでも諦めず、雪花のことを好きだと言いまくり、常に告白を繰り返しているのだった。
「容姿以外で……私のどこが、いい……?」
「そりゃ性格だよ。おっかないくらい凄い迫力のあるところが俺はたまらないんだなぁ」
「やっぱり変態……」
 雪花は呆れたように呟いているが、さほど嫌悪している訳ではないのは、無視しないで付き合っている点からも明らかだった。十分に仲の良い友達づきあいはしているのだ。
「あ、そういや今来たあの先輩もおっかないぞ……そういう意味じゃお前さんの好みってことだなぁ……」
 ふと、陽菜も雪花に負けず劣らずおっかない事を思い出して告げてみる。
「え? ホントかよ? そりゃいい……って、あ……いや、違うんだ。それでも俺は聖川さんが一番で……」
 伊吹は一瞬嬉しそうにしてから、慌てて言い訳するようにしている。
「容姿と性格以外……どこ……?」
「う……あ……えっと……あ、相性……?」
「なら最悪……」
「え〜〜? そんな事ないだろう……?」
「絶対最悪……」
「うぁ〜〜……」
 下を向いて頭を抱えている伊吹の様子に可笑しくなる。
 雪花へ視線を向ければ、伊吹に見られていないのを確認してから笑っているのが見えた。
 感情をあまり顔に表さない雪花が笑うのは珍しいため、その事に嬉しくなった。
 元が可愛い容姿なため、笑うとさらに可愛らしくなるからだ。
「何だか楽しそうだね。どうしたの?」
「どうせまた伊吹が馬鹿やってるんだろ?」
 そこへクラスメート二人が声を掛けてきた。
 歩美と朱理だ。
 二人は神治と親しいため、自然と雪花や伊吹とも仲良くなっていた。
 最近朱理は文芸部に入ったため、その事で歩美と親しさを増しているらしく、こうしてクラスでも一緒に居る事が多かった。
 歩美のどこかのほほんっとしている性格が、無愛想な朱理には合っているようで仲良くなっているのだ。
 そういう意味で無口であまり反応を示さない雪花や、鈍感で愛想の悪さを気にしない伊吹なども、朱理にとっては一緒に居て楽な相手らしい。
 似たタイプの雪花にしても、同じような理由で親しくなっているように思えたし、歩美や伊吹は細かい事を気にするタイプではなかったので、他の人間が取っつきにくい雪花や朱理とも仲良くやれるようだった。
 改めて考えると、何とも変人が揃っているよな、と自身が仲良くしている連中を眺めてみる。
 だが雪花の目を見た瞬間、「緋道が一番変人」とツッコまれたような気がしたため苦笑する。自分でも己が変人である自覚があったからだ。
「いつも通り、伊吹が撃沈してたんだよ」
「そうなんだ」
「予想通りだな」
 面白くなさそうに述べた二人は頷き合っている。
「ちょっとお前ら、そりゃ無いだろう。もっと反応しろよ反応。聖川さんに相手にされない俺に同情しろって」
「へぇ〜〜、相手にされてないって自覚あるんだねぇ。意外」
「分かってないでやってると思ってたぞ」
「お前ら……酷いな……」
 泣きそうになりながら伊吹は肩を落としている。
「歩美……今日は部活……あるの……?」
 そんな伊吹を意に介した風もなく歩美と会話し始めた雪花の態度に、少々伊吹が哀れに思えてきた。まあ、いつもの事であるため仕方がないのだが。
「今日は無いけど……どうかしたの?」
「緋道……借りたい……」
「え? 俺?」
「そう……放課後……付き合って、欲しいところがある……」
 不意に告げられた意外な申し出に驚く。
 これまで雪花がそうした事を言ってきたことはなかったからだ。
「って、ちょっと待ったぁっ。緋道と付き合うってどういうことっ? 聖川さん、緋道のことが好きなのかっ?」
 用事に付き合って欲しいと言っているらしいのに、恋愛的に付き合う事と勘違いしたのか、伊吹が動揺している。
「実は好き……」
「ええっ? 嘘だろぉ……」
「嘘じゃない……私は緋道が好き……」
「そ、そんなぁ……」
 普通に聞けば、完全に冗談で言っているのが分かるのだが、動揺しまくっている伊吹にはそれが分からないらしく激しく衝撃を受けている。
 これまで似たようなネタで何度も騙されているのに、未だにそうなってしまうのが伊吹の不憫なところであり、ある意味純粋な良い面と言えただろう。
「うわぁ、告白だよぉ。雪花ってば大胆」
「聖川が緋道のことをねぇ。こいつは驚きだ」
 歩美と朱理の白々しい驚きが発言されていくのに笑ってしまう。
 だが伊吹はその事にも気づかず、オロオロした様子で雪花を見つめていた。
「これから……緋道と、付き合っていく……」
「うぅ……そんなぁ……俺は嫌だよぉ……付き合うなんて止めてくれぇ、何でもするからぁ……」
 雪花が面白がって誤解を発展させているのを悪趣味だな、と思う。だがそうした行為が似合っているとも思った。
「なら、しょっちゅう好きとか言わない……特に沢山人が居るところで……」
「言わないっ、言わないよぉっ……だから緋道とは別れてくれぇっ……」
「分かった別れる……でも友達としては付き合う……」
「うん、いいよ友達なら……友達としてなら付き合ってもいい……それなら全然OKだぁ……」
 実に安堵して嬉しそうに言っている伊吹に苦笑してしまう。
 結局最初と何も変化せず、友達として付き合うことになっているからだ。
「という訳で……緋道……放課後、付き合って……どう……?」
「ああ、いいよ……」
「え? 付き合う? やっぱり付き合うのか?」
「友達として……」
「ああそうか……なら俺もいいよね? 友達としてなんだから……」
「伊吹は……友達としても……嫌かも……」
「うおっ、そりゃないよぉ……」
 面白すぎるやり取りに笑いながら、雪花の用事とは何だろうと思った。
「そういやさ、雪花の用事って何なの?」
 同じように思ったのか、歩美がそう尋ねている。
「ちょっとした買い物……」
「買い物? それで何で緋道なんだ? 未生なら分かるけど」
 雪花の答えに朱理は不思議そうにしている。確かに買い物であれば、普通は女の子同士で行くだろう。
「あそこ……声かけてくる男、多いから……それよけ……」
 つまりナンパされるのが嫌なので、男連れで行きたいということらしい。
 一瞬、雪花のような小学生容姿でもやはりナンパされるのか、と思ったが、その事は口にしない方がいいだろうと抑える。雪花が一番気にしているところだからだ。
 しかし伊吹はそうした自制が出来なかったようで、得意げな表情を浮かべながら余計な事を口にした。
「それなら聖川さんは大丈夫だろ。何しろ見るからに……」
「見るからに……何……?」
 ギロっと睨まれたため、伊吹は体をビクッとさせて黙り込んだ。
「いえ、何でもありません……」
 そのまま怖がりながら謝っているのに苦笑する。
 こうなるのは分かりきっているのだから、言わなければいいのにと思うのだが、そうしてしまうのが伊吹なのだろう。何とも素直なヤツだった。
「多いっていうと、どれくらい声かけられるんだ?」
 世の中にはロリコンも居るだろうから、雪花も声をかけられるのは納得できたが、どの程度なのだろう。ニ、三回くらいだろうか。そう思って尋ねてみる。
「前に一人で行った……そしたら十分おきくらいに……声かけられた……」
 それは何とも凄まじかった。
 なるほど、それでは嫌にもなるだろう。
「へぇ、聖川さんをナンパするヤツなんて居るんだなぁ。驚いたぜ。というか、許せんな」
 伊吹が無神経な言い方をしているのに呆れる。
 何故この男は雪花を怒らせるような事を言うのだろう。
 やはりこれも気を引くための行為なのだろうか。以前と違って悪意は無くなってはいるが、やっていることは同じだった。
「世の中……ロリコンが多い……伊吹みたいに……」
「う……」
 ジトっと睨まれて伊吹は硬直している。
 以前神治と共にロリコン認定されていたため、その事を気にしているのだ。
 一応「自分が好きなのは聖川さんであって、小学生が好きなんじゃない」と反論してはいるものの、無理のある主張にしかなっていなかった。
「あそこ……近くに有名な女子校がある……そこの生徒がよく来るから……それ目当てに男も集まってくる……初等部もあるから……それ目当てのロリコンも来る……伊吹みたいの……」
「うぅ……すみません……」
 伊吹は打ちのめされてうなだれている。
 自業自得とはいえ何やら可哀想になってきた。
「そりゃ大変だねぇ。それなら私、一緒に行ってあげるよ。声かけてきても断ってあげるから」
 歩美はそう言ってきたが、どう考えても止めた方がいいだろう。声を掛けられる回数が増えるだけだからだ。
「ありがとう……でもいい……歩美目当ての……男が増える……」
「え? 私目当て?……そうなの?」
 歩美は不思議そうに神治と朱理の顔を見ている。
「まあ、未生も可愛いからな。そりゃ増えるんじゃないの? それにまあ、他にも何だ……未生は、あるからな……」
 朱理は言葉をあやふやにして言いながら、視線を歩美の胸元へ向けていた。
 神治も釣られてそうしたが、雪花を見るとやはり同じ所へ視線が向いていた。
 雪花と歩美は同じように小柄で童顔だったが、胸の大きさだけは格段に違っていた。
 見るからにぺったんこな雪花と異なり、歩美の場合は、胸だけは高校生以上のものがあったからだ。
 そうしたアンバランスさが歩美の魅力であり、それに惹かれる男が声を掛けてくるのは明らかだった。朱理もその事を言っているのだろう。
「う〜〜ん、そうなんだ。じゃあ一緒に行かない方がいいよねぇ。あ、でも埜々宮くんも一緒に来れば、二組のカップルだと思われて大丈夫じゃない? どう? 埜々宮くん」
「あ? オレ?……何だよ面倒臭ぇなぁ」
「そう言わないの。友達が困ってるんだから助けてあげなくちゃ」
「って、別にお前が行かなきゃ、緋道だけで済むだろうが」
「まあ、そりゃそうだけどぉ。でも私も行きたいんだもん」
「何だよ急に。お前も買い物か?」
「違うよ。緋道くんが行くなら、私も行きたいって思っただけ」
 そう告げる歩美の視線がこちらを向いた。ジッと見つめてくる瞳には今までと違った光を放っている。どうやら部の民としての意識が強まったらしい。
「そっちかよっ……お前なぁ、聖川のためじゃないのか?」
「雪花のためだよもちろん。そのために緋道くんが行くんでしょ。そして私はそんな緋道くんと一緒に居たいから行くだけ。埜々宮くんはそうは思わないの?」
「う……」
 そう尋ねられた瞬間、朱理は押し黙り、ゆっくりとこちらへ視線を向けてきた。
 その瞳には歩美と同じ光が放たれ始めている。
 歩美に刺激を受けたせいで、朱理も部の民としての意識が強まったらしい。
「まあ、みんなで一緒に買い物に行くってのも楽しそうではあるよな……暇だし別にいいぜ……」
 恥ずかしそうにそう告げると、そっぽを向いている。
 ただ仕草に女の子らしさが出ていたため、気色悪さを感じてしまった。
 護呪鎧を外した状態であれば可愛らしく感じられたのだろうが、そうでない時には男にしか思えないため、止めて欲しい行為だった。
 最近の朱理はこうした態度を取ることがあったため、一部の人間からは変な意味で人気があったのだ。
 そしてそれこそが、朱理が男でありながらハーレムの一員とされてしまっている原因だったのである。
「俺、俺も行くっ。行きますっ。緋道と二人きりになんてさせられないっ。危なすぎるよっ。こいつはロリコンなんだぞっ」
「話聞いてなかったのか? オレと未生も行くんだぞ」
 話の流れから外れたことを言ってくる伊吹に、朱理が呆れたように指摘している。
「う……あ……それはそれとして……それ以前に、二人きりで行こうとしてたじゃないかっ。俺はそれを問題視してるのっ」
 言われてみれば、確かに最初は二人きりで行くはずだったのだから問題であるように思えた。ロリコンどうこうは置いておくにしても、二人きりでは雪花は嫌ではなかったのだろうか。
「緋道となら……構わない……」
「何でだよぉっ」
「緋道……節度あるロリコン、だから……」
「何だそりゃっ?」
 確かに意味不明だった。要は手を出さないロリコンという事だろうか。
 その点に関しては過去の行状を振り返ると自信は無かったが、信頼してくれているようで嬉しくなった。
「逆に……緋道は……良かったの……?」
「ん? 何が?」
「私と……二人きり……他の女の子に……誤解されるかも……」
「ああ、そういうことか……別に構わないけど。誤解されても困らないし……」
 実際知り合いの女性達に見られ、「雪花と付き合っている」と思われたとしても問題はなかった。何しろ彼女達とは友人でしかないからだ。
 というか、そういう事を言い出したら、女性と二人きりで出かけている事はよくあるので、きりがなくなるのである。
「そうなんだ……意外……」
「何で?」
「普通は嫉妬されそう……緋道、ハーレム王……」
「あ〜〜、そう言ってきますか……まあ、そういう意味ではそうだよな……でも待てよ、ハーレムって元々一人の男に複数の女性が相手する環境な訳だから、問題ないってことにならないか?」
 そうなのだ。ハーレムとは恋人が一人ではない状態なのだから、ハーレムの噂が本当だとすれば、神治が別の女の子と仲良くしていても普通の事になるのである。
「言われてみれば……」
 雪花は納得したようにして頷いている。
「そこで納得しないでよぉ。そんな男と二人きりなんて余計駄目でしょうがっ。そうだ、未生はどうなんだよっ。ハーレムの一員としてはっ? 緋道が聖川さんと二人きりで買い物に行っても平気なのかっ?」
 伊吹は興奮した様子で尋ねている。何とか味方を増やしたいのだろう。
「え? 私?……う〜〜ん、事情知ってるしねぇ。誤解しようがないよ?」
「いや、そうじゃなく、二人きりってとこに嫉妬しないのかってことだよ」
「嫉妬、ねぇ……元々緋道くんは私だけのモノじゃないって思ってるし……沢山の人が私と同じように思ってくれるのは嬉しいかな。というか、それ目指してるしねぇ」
「あ〜〜、使えねぇっ……何だよハーレムってのはっ。嫉妬しないのかいっ。俺はこんなに嫉妬しまくりなのにぃっ。っていうか、緋道のヤツは何でこんなにモテるんだよっ。さっきの先輩だってスゲェ可愛かったしっ。そうだ、あの先輩っ。あの先輩もハーレムの一員なのかっ? お前のこと、好きなのかっ? 未生みたいになってるのかぁっ?」
 興奮した様子で尋ねてくるのに苦笑してしまう。確かにその通りだったからだ。
 噂ではハーレムは文芸部員のこととされているのだが、部員ではない陽菜にしても部の民となっていたため、実質的に歩美達と同じだったのである。
「実はそうだって言ったら、どうする?」
「う……それは……まあ、何だ……そうだな……羨ましいと思う……」
 反発してくるかと思いきや、伊吹はしんみりとした様子でそんな事を言ってきた。
「っていうか、俺もハーレム欲しいわっ。聖川さんを当然入れて、それからさっきの先輩だろ。それに未生にも胸を小さくしてもらって入ってもらうんだよ。あ〜〜、想像するだにスゲェなぁ……」
 そんな事を言いながら、伊吹は己の妄想に突入し、理想のハーレム計画について語っている。
「何だよ、胸を小さくしてもらってって。意味不明だぞおい。無理だろそんなの。この大きいのが無くなる訳がない」
 朱理は歩美の胸を指さしながらそう告げている。
 指摘された当の本人はそんな行為を気にした風もなく、面白そうな顔をしながら二人の様子を見ている。
 普通であれば、胸を指摘された事に恥ずかしがるか怒るかするかと思うのだが、歩美はそういう所に無頓着なのだ。
 関係の無い雪花の方が何やら不機嫌そうになっていたため、少し怖くなった。
 雪花は胸の話題には敏感なため、これ以上この話はしない方がいいように思えたのだが、彼女の様子に気がつかない二人は、さらに会話を続けていた。
「だって未生のは大きすぎるんだってっ。胸はこんなに大きくない方がいいんだよっ」
「馬鹿言え、大きい方がいいだろが。男は大きい方が喜ぶんだから。元々小さいのなら仕方ないけど、大きいのを小さくするなんて駄目だろが」
「分かってないっ。分かってないなぁっ。胸以外は完璧に小学生に見える未生がだぞっ、胸も小さくなってみろっ。それこそ完璧超人じゃねぇかっ。そうした理想を追い求めるってのも男には必要なんだよっ」
「理想と言ったって、現実には無理だろがっ。こんな大きな胸が、ぺったんこになるって言うのかっ? そんな方法あるなら教えて欲しいぜっ。見た目だけ誤魔化すってのとは訳が違うんだからなっ」
 その言葉で、普段伊吹の言葉をからかうことしかしない朱理が、何故今回に限って熱くなっているのかが分かった。
 実際に大きな胸を隠して暮らしている朱理にしてみれば、胸を小さくすることを遊びのように語られる事に腹を立てているのに違いない。
 せっかく胸の大きさを隠さずに生活出来ているのに、それをわざわざ小さくしろと主張しているのが気に食わないのだろう。
「俺もそんな方法があったら知りたいわっ。でも無いんだよぉ、現実にはっ。おっきいオッパイのヤツはおっきいままなんだ……俺がいくら望んでも、未生のオッパイは小さくならない……ならないんだよぉ……」
 不意に力を無くしたように、伊吹は肩を落としている。
「こんなに顔と体は可愛いのに……何で胸はこんな……うぅ……未生……何て残念なヤツなんだ……」
「ずいぶんと失礼なこと言われている気がするなぁ……まあ、伊吹くんだからしょうがないけどね……」
 困ったように呟くだけの歩美の反応に、何と度量が広いのだろうと感心してしまう。普通、あそこまで言われたら腹を立てるものだと思うのだが。
 一方、隣に居る雪花の方は、本来関係が無いはずなのに怒りのボルテージが上がっているように見えた。
 考えてみれば、貧乳である雪花の前で、「大きい胸が良い、悪い」といった議論をしている訳だから、皮肉を言われているのと同じに思えていても不思議はなかった。
 実際、握りしめた手に力が入っているし、体が怒りでピクピクと震えているらしいのに、凄く怖くなってくる。
 雪花は怒らせると恐ろしいのだ。
 それはあの本性を顕わにした頃から、さらに強まった雪花に対する印象だった。
 朱理の体を肘で突いて注意を引くと、一瞬「何だよ?」と苛立たしげに見てきたが、視線で雪花の方を示すと、ギョッとした様子で体を硬直させた。
 朱理も雪花の恐ろしさを知っていたため、自らが雪花を怒らせる話題をしていた事に気づいたのだろう。顔色を青くし、体を小刻みに震わせている。
「ま、まあ……オレは胸の大きさはどうでもいいんだけどな……や、やっぱり人間は中身だよ中身、うん……ど、どう生きるかってのが大事で、よ、容姿なんか気にしてちゃ駄目だ。よ、容姿は気にしないぜホント……お、オレはお前らの中身が好きだから友達やってるんだしさ。そうなんだよ、な、中身がいいから友達やってるんだぜ。これ本当だからな、わ、分かってくれよ?」
 容姿を誤魔化している朱理だけに、本来であれば重みのある言葉になっているはずだったが、それを口ごもりながら、少し怯えた様子で言っているので何とも微妙感があった。
「そうだねぇ。やっぱり中身だよねぇ。容姿なんか気にしちゃ駄目駄目。私も埜々宮くんの意見に賛成だな。実際緋道くんは中身が凄いものねぇ」
 雪花の様子に気づかないのか、いや、気づいても同じだろうが、歩美は感心した様子で朱理の言葉に同意している。
 一方、朱理が肘で合図を送っても気づかないらしい伊吹は、己の妄想に浸ったまま、さらなる追い打ちとばかりに胸談義を続けていった。
「胸は無い方がいい。これは絶対だ。大きな膨らみなんて不要だよ不要。そういう意味で聖川さんの胸は理想的なんだ。こんなに素晴らしく無い胸は無いよ。ホント小学生にしか見えない容姿は素晴らしすぎる。もしこれから聖川さんの胸が大きくなったら、俺は悲しくて仕方がないだろう。だから毎日祈ってるんだ。『乳神様、どうか聖川さんの胸を大きくしないで下さい。聖川さんは無い胸だからこそ素晴らしいんです。大きくしてしまったら世界の損失です。どうかお願い致します』ってな」
 乳神様ってのはどこの神様だ。実在するのかそんなの……。
 そうしたツッコミが思い浮かんだが、口にするのは避けた。
 何故なら、もう宥めるのは無理であろう領域に、雪花の怒りゲージが上がっているように思えたからだ。
 この後起きる惨劇に、神治は伊吹の無事を祈った。無理だろうと思いつつ……。
「ああ、やっぱり聖川さんの胸は最高だよ。こうして見ていると、その無いさ加減に感動を覚えるね。無い胸万歳っ。その上こんなに可愛い顔をしてるだなんて最高さ……ホント可愛い顔が……か、顔が……か、か、顔がね……」
 ようやく夢から現実に目を向けたらしい伊吹は、雪花の顔が恐ろしいほどに鬼気をはらんでいるに気づいたらしく、言葉を途中で飲み込むと、体を硬直させて小刻みに震え始めた。
「伊吹ぃ……」
 ギリっと歯ぎしりの音が聞こえたような気がして視線を向けると、雪花が無表情の顔を強烈に歪ませ、眉をピクピクさせながら伊吹を睨んでいた。
 その小さな体からは、武の「気」が激しく立ち上り、周囲を制する波動を放っている。
 神治ですら動きにくくなっているのだから、クラスメート達に至っては動けなくなっているに違いなかった。
 それほどの強烈な武の「気」が、怒りのオーラが周囲を制していたのだ。
「あっ……いえそのっ……無いってのは無いって事じゃなくっ……無いのが無いから無いっていいなってっ……えっとその……無いのは素晴らしいので素晴らしいですはいっ……無いんですよ無いっ……聖川さんの胸は素敵ですっ……」
 恐怖から混乱したのか、伊吹は訳の分からない、これでは火に油を注いでいるだけだろうと思える事を口走り、動かない体で激しく震えていた。
 駄目だこりゃ、と天を仰ぎつつ、心持ち伊吹から離れる。巻き添えを食わないためだ。
 見れば朱理も同じようにしていた。ある程度「気」のたしなみのある朱理は、何とか動けるのだろう。
 一方、歩美は暢気な表情で楽しげに雪花の様子を見つめており、何とも大物だと感じさせた。
 体は動かないだろうに、その事にすら動揺していないようだからだ。
 視線を雪花へ戻すと、握りしめた拳をゆっくりと胸の前辺りまで持ち上げているのが見えた。
 武の「気」が拳に収束していくのが感じられ、光を放っているように見える。
 美しい、武の「気」の輝きだ。
 その輝きが燃え上がるように立ち上っていくのが分かる。
(出るぞ必殺の……)
 心の中でそう呟いた次の瞬間だった。
「うごぉっ……」
 伊吹が呻き声をあげて体をくの字に曲げた。
 腹には小さな拳がめり込んでおり、雪花が綺麗な正拳突きの姿勢で踏み込んでいる姿があった。
 武の「気」が伊吹の体を突き抜け、背中から吹き出していくのが見える。
 実に美しい「気」の放出だった。
 素晴らしく洗練された波動に、思わず見とれてしまう。
 拳が離れると共に伊吹の体が崩れ落ち、床にうずくまってピクピクと震えている。
 これが雪花が、クラスで一目置かれるようになったもう一つの理由だった。
 この強烈な正拳突きこそ、クラスを恐怖に陥れた一撃だったのである。
 実は雪花は幼い頃から空手をやっていて、相当な腕前らしい。
 小さな体からは想像出来ないが、全国大会などでも優勝したことがあるそうだ。
 その優れた正拳付きが、怒りが沸点に達すると放たれるのである。
 伊吹は時々こうして雪花を怒らせるため、何度か正拳突きが披露されており、それを目撃したクラスメート達は、絶対に雪花だけは本気で怒らせないようにしようと思ったのだ。
(まさに獅子の咆吼ってやつだね……)
 最初に雪花がその迫力ある本性を露わにした際、「眠れる獅子が目覚めた」みたいに思ったものだったが、それは間違っていなかった。
 最初に見た時には分からなかったのだが、あれから何度か見ている内に、雪花が立ち上らせる武の「気」が、獅子の形を描いている事に気づいたのである。
 まさに獅子。
 それこそが雪花の本性だった。
「うはぁ……出たねぇ、雪花の一撃。うんうん、これ見ると何か元気が出てくるよ。何というか重い一撃、想いの籠もった一撃って感じで痺れるんだよねぇ」
 なかなか上手いことを言っている歩美に呆れつつ、大きく息を吐き出して安堵している朱理に目を向ける。
「いや〜〜、良かった伊吹だけで。危ないところだった。ありがとな緋道。あのままだったらオレもヤバかったよ」
 かなり怖がっていたのか、近くにあった机に手を付いてホッとしたようにしている姿に苦笑する。
 日頃強気の朱理がこれほど恐れるとは、何とも凄い一撃としか言いようがないだろう。まあ、あのような武の「気」を浴びせられては、並の人間では恐ろしいのは当然だったが。
 しかしその一撃を放った当人は、どうにも暗い顔をしていた。
「修行が……足りない……」
 そう呟くと、悲しげに俯いている。
 実はこうして殴ってしまう事を、雪花は悔いているのだという。
 空手を志している者として、怒りを覚えた程度で拳を振るうなど宜しくないからだそうだ。
 空手家の拳は凶器。
 それを安易に振るってしまう自分は、まだまだ修行不足だというのである。
 その様子は何とも可愛らしく、抱き締めて慰めたくなる衝動を呼び起こした。
「雪花ぁ、可愛いっ……あんた可愛いよっ。あ〜〜、伊吹くんが殴られると雪花が可愛らしくなるからたまらないねぇ。う〜〜ん、最高っ」
 同じ衝動を覚えたのか、歩美は雪花に抱き付くと頬ずりをしている。
 何とも羨ましい行動に、自分もしたくなってムズムズするが、そのような事をしたら伊吹の二の舞になるだろうからやめておいた。
 というより、今後本気で変態扱いされかねないだろう。
 仕方なく言葉だけで慰めようと、大きく息を吸い込んでから話し出す。
「まあ、あれだけ言われちゃ仕方ないよ。伊吹が悪いんだ」
「でも……暴力は……良くない……」
 シュンっとした様子で呟き、悲しげに俯く雪花の姿は、見た目が小学生なだけに可愛さが際立った。
 抑え込んだ抱き締めたい衝動が、強さを増してくるのに苦悩する。
 小さな頭が目の前にあったため、手を乗せて撫でてしまいたくなった。
 それくらいはいいだろうか?
 駄目だろうか?
 駄目だろうけどしてみたい。
 そんな風に悩んでいる内に、手が勝手に動いて雪花の頭の上に乗ってしまった。
 朱理の口から「ひっ」と言うような声が聞こえてくるのにハッとなり、マズいことをしてしまったと思ったが、もうこうなったら行くところまで行ってしまえとばかりに撫で始める。
 周囲の視線が「緋道も殴られるぞ」と言っているように思えて苦笑いが浮かんでくる。
 心配そうな朱理の目に引きつった笑みで応えながら、何とか雪花の意識をそらそうと話し始める。
「確かに暴力は良くないよな。でも人には耐えられないこともある。まあ、それも耐えられるようになるのが修行なんだろうけど。ま、これも修行していると思えばいいさ。伊吹が何を言っても殴らないで居られるようになったら、聖川さんも成長したということだね。それまで伊吹には修行に付き合ってもらうってことでさ」
 神治にしても修行が足りないと思うことがよくあったため、雪花の気持ちは何となく分かった。
 自分もそれで修行を続けている訳だし、雪花にも明るく前向きに修行不足の自分を捉えて欲しいと思ったのだ。
 神治が話し終えても、雪花は特に反応しないまま大人しくしていたため、どうやら上手くいったらしいと安堵する。
 少ししてから手を放し、恐る恐る見てみると、雪花は何やら黙ったまた下を向いており、怒っているようにもそうでないようにも見えた。
「緋道……」
「な、何……?」
 不意にかけられた声に動揺しつつ応える。
 すると雪花はチラっとこちらを見た後、すぐに視線を外し、大きく息を吐き出した。
「何でもない……放課後……一緒に来てくれる……?」
「いいよ、付き合うよ」
「ありがとう……」
 神治が承諾すると、雪花は嬉しそうに微笑んだ。
 その事に思わずドキリとしてしまう。
 普段無表情なため、こうしてたまに微笑まれると、普通の人より強烈な印象があったからだ。
 雪花はそのまま自分の席へと向かい、椅子に腰を下ろしたため、緊張感が解けて力が抜けた神治は、近くにあった机に手を付いた。
 周囲からも息を吐き出すのが聞こえ、クラスメートの皆が「よく無事だった。運が良かった」といった目で見てくるのに苦笑してしまう。
 自分にしても、何故大丈夫だったのか分からなかったが、何にせよ上手くいったのだから良かったのだろうと思う。
「さすがは緋道だな……」
「当然だよ。緋道くんだもん……」
 感心したように呟く朱理と、誇らしげに見つめてくる歩美に苦笑を返す。
 この二人は、何とも自分を信用してくれているのだ。
 それこそが部の民という事なのだろうが、未だあまり馴染めない感覚でもあった。
 雪花の方へ視線を向けると、先ほどの笑みが思い出されて嬉しくなった。
 放課後は、せいぜい雪花のご機嫌を取りながら買い物に付き合うことにしよう。
 この可愛い友人を喜ばせると幸せを感じるからだ。先ほどのような微笑みとまではいかないだろうが、楽しんでいる姿を見たかったのである。
 歩美達と一緒に行くことも考えると、実に高校生らしい生活を送っているように思え、性が中心の関係とは異なる状況に喜びを覚えた神治は、足下でまだ唸っている伊吹を介抱してやろうとしゃがむのだった。


 周囲には女子高生達が沢山歩いていた。
 そこはこの一帯で有名なお嬢様校の傍であり、同じ制服を着た少女で溢れている。
 雪花の買い物に付き合うため目的の店へ向かっているのだが、その途中にこの学校があったのだ。
 奥ゆかしさを持ちながら可愛さをも感じさせるそのデザインは見覚えのあるものであり、神治の知り合い数人が通っている学校のものであることに気がつく。
 彼女たちに出くわしたら少々面倒かも知れないな、と思いつつ、そんな偶然もそうないだろうとも思う。
 特に一人は強烈過ぎる個性を持っていたため、クラスメート達と一緒に居る時にはあまり会いたくはなかった。
「スゲェなこりゃ。女ばっかだ」
「そりゃ女子校だからねぇ」
 当たり前の感想を告げる朱理に、歩美が当たり前の答えを返している。
「でも俺好みの子はいない……やっぱり聖川さんは貴重だ……」
 ウンウンと頷きながら雪花を見つめる伊吹は、何やら妙に満足げだった。
「これだけ居ると凄いねぇ。結構可愛い子も多いし。制服も可愛いから、確かにこれじゃナンパも多そう」
「ここはまだ学校の傍だからな。さすがにナンパはやってないだろ。聖川の行きたい店ってもうちょっと先なんだろ? そっちだと多いんじゃないの?」
 先の方を示す朱理に釣られて、歩美は背伸びをして見ようとしている。
「う〜〜ん、あんまり見えないなぁ。緋道くん、見える?」
「何か賑やかそうな感じはするね。あっちなんだろ? 聖川さん?」
「そう……」
 雪花の頷きに、神治は目をこらしてみるが、あまりよく分からなかった。
「まあ、行ってみりゃ分かるだろ。さっさと行こうぜ。女ばかりだと何か疲れるわ……」
 元気無さそうに朱理はぼやいている。
 普段女子に容姿のことで色々言われることが多いせいか、集団で女の子に囲まれるのが苦手なのだ。
「お嬢様校なんだよなここ……そうなると、やっぱり凄い生徒会役員とか居たりするんかな? カタカナの長いあだ名とか付いてたりしてさ。なんたら様〜〜、とか呼んじゃったりするさ」
 伊吹が何やらくだらない話をし始めた。
「ああ、昔アニメであったねぇ。私見てた見てた。ちょっと憧れたかなぁ」
「へぇ、やっぱり憧れるのかああいうの? 聖川さんは?」
「私は……別に……」
「オレは違った意味で憧れた、かな……」
 朱理は小さな声で呟いている。
 女性である事を隠して学校へ通っているため、女子校には普通とは異なるこだわりがあるのかも知れない。
「憧れの先輩とかもさ、居たりするのかな? 美人で完璧な感じのでよ」
「居ないでしょさすがに。フィクションだと思うよ、ああいうのは」
「分かんねぇぞ。現実に居たっておかしくないぜ」
「さすがは伊吹くん。夢があるねぇ」
「そうだろそうだろ。俺は夢があるんだよ」
「ロリコンの夢……」
「ぐ……」
 誇らしげに歩美と会話していた伊吹は、雪花の呟きに体を硬直させている。
「お嬢様の小学生……伊吹の理想……それと付き合うのが夢……」
「ち、違う……いや、違わないけど違うっ。俺の夢は聖川さんと付き合う事だからっ」
「ご免被る……」
「うぅ……」
 雪花にツッコまれて撃沈している伊吹を苦笑いで見つめながら、神治達は女子高生達の間を抜けて歩いていった。
 学校の校門の前付近まで来ると、人数がかなり増えてきたため、少々歩きづらくなってきた。
 何とも女子密度が高いことに少し居心地の悪さを覚える。
 朱理に至っては、不機嫌そうな顔がいつもよりさらに酷くなっていた。
 周囲に居る女子高生達の注目を集めている事も大きいのだろう。
 先ほどから何度も見られたり、こっそりと写真を撮られたりしていたからだ。朱理は可愛い顔立ちなのでそうなるのである。
「うわぁ、可愛い男の子が居るぅ。ね、ね、翠ちゃん、凄い可愛いよぉ」
 不意に甲高い声が耳に付いたため、視線を向けた神治は思わず固まった。
 予想外の人物達が居たからだ。
「乃梨子、男の子に対して可愛いってのはどうかと思うよ」
「え? そうかなぁ。私は可愛い男の子って大好きだけどぉ」
「乃梨子がどう思うかじゃなく、相手の男の子が嫌がるって事だよ」
「え〜〜? そうなのぉ?」
 可愛らしい女子生徒が、背の高い女子生徒と話をしており、それは神治のよく知る女の子達だった。
 乃梨子と翠だ。
 二人は緋道村の中学で、神治が二年生の時に生徒会役員をしていた人物達だった。ここにもう一人加えると、魅力的なトリオが出来上がるのである。
「あなたたち、何を騒いでいるの? あまりはしゃいでいると迷惑よ」
 翠の背後から、そのもう一人が現れた。
 桜子だ。
 元から大人びた雰囲気のある少女だったが、この二年でさらにそれが増したらしく、制服を着ていなければ大学生と言われても十分通用するだろう。
 落ち着きと優雅な印象を周囲に振りまきながら歩くその様は、まさに女王という言葉がピッタリだった。
 ウェーブの掛かった髪を揺らし、颯爽と歩く先では、女子高生達が自然と道を空けていく。
「桜子さま、ごきげんよう」
「桜子さま、素敵ですぅ」
「うわぁ、桜子さまぁっ」
 周囲に賛嘆の声が溢れ、それに対して応える桜子の姿は、まさに華麗という言葉がピッタリだった。
 何とも言えない凄い人気ぶりに圧倒される。
「ほら、やっぱり居るじゃねぇか。完璧お嬢様……」
「本当だ。居るもんだねぇ、世の中には……」
「何か凄いな。驚いたぜ……」
「驚愕……」
 四人は驚いた顔をして、少し離れた場所で女子高生達に囲まれている桜子を見つめている。
 神治にしても驚いていた。
 村に居る頃から桜子は人気があったが、これほどあからさまに賛嘆され、慕われるような状況ではなかったからだ。
 これは村の外ゆえなのか、それとも女子校ゆえなのか分からなかったが、桜子の魅力が爆発しているといって良いだろう。
 そうしてぼんやり眺めていると、女子高生達が桜子の周囲に集まったせいか、いつの間にか神治達との間に人の居ない空間が出来ており、障害物のない状態で互いを認識出来るようになっていた。
「あら? そちらにいらっしゃるのは……神治さま……神治さまではありませんか」
「え? 神治くんなの? わぁ、ホントだぁ。神治くんだぁ」
「これは驚きだな。神治くんにこのような場所で逢えるとは」
 神治の存在に気づいた三人は、驚いた表情を浮かべてこちらへ歩いてきた。
 皆、嬉しそうな笑みを浮かべており、その事に喜びを覚える。
 何しろこの三人とは、中学時代にセックスをして楽しんだ仲であり、三者三様に魅力的だったからだ。
 目の前に三人が立つと、何とも華やかな雰囲気に包まれるのを感じる。
 豪華な印象のある桜子はもちろんだが、乃梨子にしても小動物のような可愛らしさがあったし、翠は背が高く、キリリとした整った顔立ちからモデルを思わせた。
 そうした魅力的な三人が揃っているというのは、強烈に人を惹き付けるものがあったのだ。
 そんな彼女たちであったため、神治としては再会を嬉しく思ってはいても、少々困惑してしまっている部分もあった。
 何しろクラスメートの皆は面食らったようにして硬直し、一体どういう事なのだとばかりにこちらを見ているし、周囲に居る女子高生達にしても、神治が何者なのかと凝視していたからだ。
「お久しぶりでございます。神治さまには何のご挨拶も出来ずに卒業したこと、大変申し訳なく思っておりました。その後も書面でのご挨拶はさせていただきましたが、いつか直接ご挨拶できればと思っておりましたので、この度の偶然は嬉しく思いますわ」
「わぁ、神治くんだ神治くんだぁ。わっ、わぁ〜〜。凄いねぇっ」
「久しぶり。元気そうで何よりだ」
 優雅に一礼をする桜子に、腕に体を擦り付けるようにしてくる乃梨子。そして静かに挨拶を述べる翠。
 以前と変わらぬ三人の様子に懐かしい想いが起きてくる。
「お久しぶりです。皆さんがこの学校だったなんて驚きましたよ。凄い偶然ですね」
「え〜〜? 乃梨子たちに逢いに来てくれたんじゃないのぉ?」
「いや……俺、皆さんがこの学校だったなんて知らなかったですし……」
「嘘ぉ、桜子ちゃんが手紙に書いてたはずだよぉ。忘れちゃったなんて酷ぉい」
「いや、手紙で読んだだけの名前なんて覚えてないですよ。大体その手紙を読んだのって大分前ですし」
「ふ〜〜ん、じゃあしょうがないかぁ。でもでもぉ、そうなると凄い偶然だよねぇ。乃梨子達が出てきた所に居るんだからぁ。やっぱり神治くんは凄いよぉ」
 そう言いながら体を擦り付けてくるのに、強烈な快感が湧き起こった。
 乃梨子は触れているだけで快感を感じさせる特殊な肉体の持ち主であったため、こうして接触しているとそれだけで欲情してしまいそうになるのだ。
「乃梨子、あまり体を付けては失礼よ。離れなさい」
「ふ〜〜んだっ、桜子ちゃんは嫉妬深いからなぁ。自分もこうしたいくせに出来ないからってすぐ怒るぅ」
 桜子の指摘に、乃梨子は不満そうに文句を言うと、さらに体を擦り付けるようにしてきた。強烈な快感が湧き起こり、肉棒が硬くなりそうになるのを抑え込む。
 このような状況で勃起させては、変態扱いされてしまうだろう。何しろ周囲は女子高生ばかりなのだ。
「乃梨子、桜子を困らせるんじゃないよ」
「うはぁい、怒らないで翠ちゃぁん」
 翠の静かな声に、乃梨子は慌てて体を放している。
 怖い物知らずの乃梨子であっても、翠の怒りは怖いらしく、彼女の言葉にはすぐに従うところがあった。
「ゆっくりご挨拶をさせていただきたいところですが、このような状況ですし、神治さまもご友人と予定がおありでしょうから、またの機会にさせていただきますわ」
「え〜〜? せっかく逢えたのにぃ。友達も一緒に楽しめばいいじゃないぃ。特にこっちの子は乃梨子の好みだからぁ、全然OKだよぉ」
 乃梨子は朱理を見ながら楽しげに笑っている。
 その笑みに、股間がゾクリと反応を示した。
「うぉっ……」
 隣で伊吹が体を震わせ、前屈みになって硬直している。
 おそらく勃起してしまったのだろう。
 今の笑みには淫の「気」が強烈に籠もっていたため、耐性のない伊吹は欲情してしまったに違いない。
 貧乳好きとはいえ、個人の嗜好と性欲は別物だから、欲情自体はするという事なのだろう。
「乃梨子……」
 穏やかな、それでいて迫力のある声が聞こえた。
 見れば細い目をさらに細めた翠が、ジッと乃梨子を見つめている。
「ご、ごめんなさいぃ。もうしないから許してぇ。ついしちゃったの、ついだよつい。本気じゃないからぁ」
 慌てて淫の「気」を抑えている乃梨子に苦笑する。
 村に居る時はあまり気にならなかったが、村の住民は日常的に「気」を操っていたのだという事を改めて実感する。
 以前静に、東京へ出てきた村の住民が異性を誘惑して楽しんでいる、といったような話を聞いたが、それもこうした「気」を使えるがゆえの事なのだろう。
「だけど何でこっちの男だけ反応するのかなぁ。私はこっちの子が良かったのにぃ。全然無反応だよぉ。こんなのありぃ?」
 どうやら伊吹の事は好みではないようで、乃梨子は不満そうに呟いている。
 朱理が反応しなかったのは護呪鎧のせいだろう。あれはあらゆる「気」を受け付けない力があるからだ。
 何より朱理は女性であるのだから、男を欲情させる「気」を送られても反応しないという事もあったのだろう。それは周囲に居る歩美や雪花、女子高生達の無反応ぶりを見ても明らかだった。
「失礼しました。乃梨子はどうにもはしゃぎすぎてしまうところがありまして……」
「大変そうですね……」
 頭を下げてくる桜子に苦笑で返す。
「そういう桜子ちゃんは抑えすぎなんだよぉ。せっかく東京に来てるのに、あんまり男の子と遊ぼうとしないんだもん。せっかく声かけてくれる男の子が多いのにさ、全部相手しないんだよぉ。だから乃梨子つまんなくてぇ」
 そう思うのなら、自分一人だけで男と遊べばいいだろうに、そうしない所に乃梨子の妙な律儀さを感じた。
「でもでもぉ、神治くんならいいよね? 今度遊ぼう? いいでしょぉ?」
「乃梨子、ご迷惑よ」
「ふ〜〜んだっ、桜子ちゃんだって同じようなこと言ったくせにぃ。『ご挨拶』とか言っちゃってさ、本当は楽しむつもりなんでしょぉ」
「そ、それは……」
 桜子は顔を赤くしている。図星なのだろう。
「やっぱりぃ。桜子ちゃんってばホント回りくどいんだからぁ。もっと直接言わないと分かってもらえないよぉ。乃梨子は直接言うもんねぇ。神治くぅん、今度いいでしょぉ? ねっ、ねっ?」
 腕にしがみつくと、下から覗き込むようにしてくる。
 その瞳が何とも可愛らしくもいやらしく、思わず抱き締めたくなるほどだった。
「の、乃梨子……お止めなさい……」
「羨ましいでしょぉ。桜子ちゃんもやりなよ、ほらほら〜〜」
「こんな所で出来る訳ないでしょ」
「そんなこと言わずにさぁ。三人で仲良く神治くんと遊ぶの楽しいもんねぇ。中学の時みたいにしようよぉ。ほら早くぅ」
 そう言いながら、乃梨子が桜子の手を引っ張ろうとした時だった。
「いい加減にしろ」
 静かな声と共に、乃梨子の頭に手刀が打ち下ろされた。
「うぎぃ……」
 可愛らしい呻きを漏らして乃梨子が頭を抱えている。
 かなり痛かったのか、すぐには回復できず、しゃがみ込んで苦痛の声を漏らし続けている。
「済まない。乃梨子はどうも神治くんと逢えてテンションが上がっているようだ。いつもはもう少し自制が効いているのだが……」
 大きく息を吐きながら翠は呟いている。
 その事に苦笑しながらも、周囲で見ている人達の呆然とした雰囲気を感じ取った神治は、どうしたものかと困ってしまった。
「別に大丈夫ですよ。乃梨子先輩はいつもこうだったですから。慣れてます」
「そう言ってもらえると助かる。では取り敢えず携帯の番号とメールアドレスを交換しておこう。後日私の方から連絡するから、それでまた逢うという事で宜しいかな? 君もこれ以上、この状況に居るのは耐え難いだろう?」
「はい、それで構わないです」
 事務的に約束を取り付けてくる翠にホッとする。
 やはり応対するにはこの先輩が一番安心感があった。
 何よりこの微妙な状況を察してくれるところがありがたかった。
 桜子も乃梨子も女性としては魅力的なのだが、常識的な部分では微妙なところがあったので、こうした事を話すには翠が適していたのだ。
「それではこれで失礼する。皆さんも失礼。いくよ、乃梨子」
「うぇ……え〜〜? 何でもう行くの? 乃梨子、もっと神治くんと一緒に居たいぃ」
「いいから来る」
「うわぁん、翠ちゃんの意地悪ぅ……神治くん、また逢ってよぉ。絶対だからねぇ」
 翠に腕を掴まれ、ズリズリと引きずられながら去っていく乃梨子を見つめつつ、残っている桜子に目を向ける。
「失礼いたしました……それでは後日、翠から連絡がいくと思いますので、その際はどうぞ宜しくお願い致します。では神治さま、皆様、ごきげんよう」
「あ、はい、ごきげんよう」
 つい釣られて同じように返してしまったのを恥ずかしく思いつつ、華麗に一礼して翠たちの後を追う桜子を見送る。
 ホッと息を吐き出し、クラスメート達へ視線を向けると、何やら皆、感心したような呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
 黙ったまま何も言ってこないのを不審に思っていると、全員が申し合わせたようにして、同時に脱力して肩を落とした。
 それに合わせるように女子高生達も動き出したため、周囲の様子は桜子達が現れる前の状態に戻った。
「お前……緋道……スゲェなおい……」
「緋道くんはやっぱり凄いねぇ……」
「全く、凄いとしか言いようがないぜ……」
「女ったらし……」
 感嘆の言葉を述べる三人と違い、強烈な一撃を放ってきた雪花に動揺する。
 皆もそれに驚いたのか、雪花の顔を見つめている。
「た、確かに言われてみればそうか。女ったらしだな緋道」
「あんな美人で可愛い人たちを虜にしてるなんて、確かに女ったらしだねぇ」
「女ったらしは否定できないな。知らない間にあんな奴らを惚れさせてるんじゃな」
「二人……おっきかった……一人……モデルみたいだった……」
『え?』
 雪花の言葉に、皆が疑問符を頭に浮かべた。
「えっと……おっきかったってのは、もしかしてその……胸のことですか聖川さん?」
「確かに二人の人は大きかったよね胸。一人の人は小さかったけど、モデルみたいにスラッとしていて綺麗だったし」
「そうか、そういう面でも緋道は凄いと言っている訳だな。着眼点が違うな聖川」
「許すまじ……」
 ギロッと睨まれたためギョッとなる。
 何故雪花が怒っているのか訳が分からなかった。
 知り合いに胸の大きい女性が居たら駄目なのだろうか?
 それは理不尽すぎるだろうと思ったが、日頃伊吹に「胸が無い」と言われていることで敏感になっているのかも知れない。
 何ということだろう。伊吹はとんでもない事をしてくれたものだ。とんだとばっちりである。
「伊吹、責任取って聖川さんの怒りを受け止めろ。お前の役目だ」
「何で俺なんだよ? 聖川さんを怒らせたのはお前だろうが」
「根本的な原因はお前だ。お前が責任取れ」
「訳分かんねぇよ」
 そんな会話をしていると、突然雪花がプイッと横を向いて歩き出してしまった。
 慌てて皆が後を追う。
 そもそも目的としては雪花の買い物なのだから、彼女が動いたら付いていかなければならないのだ。
「雪花ぁ、待ってよぉ。一緒に行こう。一緒の方が楽しいよぉ?」
 歩美がのほほんっとした口調で雪花に背後から抱き付いている。
「あ、未生、何て羨ましいことを……お、俺もしたい……」
 その後ろから泣きそうな顔で続く伊吹を見ながら、何とか雪花の機嫌が直ってくれることを祈る。
「それにしても緋道、お前ってホント凄いよな。あんな美人と知り合いなんて」
 そう言ってくる朱理に苦笑を返す。
「いや、たまたま知り合いが美人なだけだって……」
「でもその割に凄く好かれている感じだったけどな? あれって普通の友達って感じじゃないぞ。聖川が怒っちゃったのも、実はそうしたの見せられたからじゃないか?」
「何でそれで聖川さんが怒るんだよ」
「そりゃお前……あいつにしてみれば、お前は数少ない友達だからな。しかも男の。意識しないって方が無理だろ」
「なるほど……」
 言われてみると確かにそう思えてきた。
 何しろ雪花は友達が少ないのだ。
 入学してすぐのあの一件以来、雪花を軽んじる人間は居なくなったものの、逆にどこか一線を引かれて接せられる雰囲気があったため、まともに付き合っているのは自分たちだけだったのだ。
 その中の一人が、己の知らない女の子、しかも綺麗で自分よりも胸のある女の子に好かれているような様子を見せられては、心中穏やかじゃなくても当然かも知れない。
「困ったなぁ。謝るようなことでもないし、どうしたもんか……」
「しょうがないだろこういうのばっかりは。聖川は緋道の恋人でも無いんだから勝手な嫉妬な訳だし、冷めるのを待つしかないな」
「それしかないか……」
 大きく溜息を付きながら歩いていると、少し先の方で雪花達が立ち止まって待っているのが見えた。
 歩美に背後から抱き付かれている雪花は、少し顔を赤くしながら時折こちらを見てはすぐに目をそらしている。
 その様子から、ある程度機嫌が直っているのだろうと思った神治は、このまま何とかさらに機嫌を良くしなければと思った。
「あれ? 神治じゃないの? 何であんたがここに居るのよ」
「本当です。神治さんです。驚きました」
 不意にかけられた声に視線を向けると、そこには金色の髪に白人っぽい顔立ちの少女と、長い黒髪の大人しそうな少女が立っていた。
 冴花と摩箕子だ。
 周囲に居る女子高生達の着ている制服を見た時に、ここが彼女たちの通っている学校だという事が分かったため、出来れば逢わないで済めば良いと思っていたのだが、どうやらその願いは叶わなかったらしい。
 摩箕子はともかく、冴花は女の子連れとなると色々面倒そうであったため、出来れば逢いたくなかったのだ。
 だが今は女性陣が離れていたため何とか誤魔化せる可能性はあった。男連れでしかなければ、男嫌いの冴花は気にしないはずだからだ。
「どうも……偶然ですねぇ」
「偶然って何よ? あんた私たちがこの学校に通ってるの知っているでしょうが」
「そうですけど、それでもこうして逢ったのは偶然でしょう?」
「まあ、そうだけど……で、何で居る訳?」
「いや、友達の買い物の付き合いで通りかかったんです」
「友達? その子?」
「ええ、まあ、そうですね……」
 朱理の事をチラリと見てから尋ねてきた冴花に、少し離れた場所に居る雪花たちの事を誤魔化して答える。
 予想通り、男嫌いな冴花は、友人が男だと認識するとまるで興味を示さなかった。
 摩箕子にしても、人見知りが激しいため何も口にせず、心持ち冴花にくっつくようにしているくらいだ。
 朱理も自分から挨拶をするような愛想の良さは無かったため、このまま雪花達が近づいてさえ来なければ、何とか誤魔化せそうだった。
「まあ、いいわ。連れが居るならしょうがないわね。これから買い物に付き合ってもらおうかと思ったけど、また今度にしてあげるわ。だからその時は付き合いなさいよ。荷物持ちが必要なんだから」
「分かってます。お手伝いさせていただきますから」
「ふんっ……調子のいい事ばかり言って。最近あんた用事が多くて駄目だとか言ってばかりじゃない。どうせ今度も駄目なんでしょ?」
 そう言いながら冴花はプイッと横を向いてしまった。
 その顔は怒っているようでもあったが、何とも寂しそうにも見えたため、申し訳なく思えてきた。
 高校へ入学してからというもの、色々とやる事が増えてしまったため、冴花の買い物に付き合うのも少なくなってしまっていたからだ。
 一見強気の性格ではあるが、実は寂しがりやな面もある冴花の事を考えると、もう少し逢う機会を増やしてあげなければと思う。
「あの……神治さん……冴花さん、凄く逢いたがってますから、お願いします。いつも神治さんをお誘いする時は、凄く楽しそうにしてるんですよ」
「うわぁっ、何言ってるのよ摩箕子っ。私が楽しそうにしている訳ないでしょうがっ」
 摩箕子の言葉を冴花は慌てて否定している。
 だがそれが嘘であることは、真っ赤になっている顔で明らかだった。
「でも冴花さん、神治さんにメールしている時は凄く楽しそうですよ? だからよほど楽しみにしているんだと思って……」
「わぁ〜〜っ、わぁ〜〜っ。違うって、違うのよっ。あんたも聞くなっ、聞くんじゃないっ」
 神治の耳に手をかけ、強く揺さぶってくるのにクラクラしてくる。
 接触している柔らかい手の感触と、近づいた事で漂ってくる甘い香りに嬉しくなった。
 同時に脳裏に冴花が快楽に染まっている様子が浮かんだため、思わず抱きたくなったのを慌てて抑える。
「やっぱり冴花さんは、神治さんと一緒に居ると楽しそうですね。私も嬉しいです」
「う〜〜、あんた、わざとやってるんじゃないの……?」
「え? 何がですか?」
 脱力し、恨みがましく見つめている冴花に、摩箕子はどういう事なのか分からない様子で首をかしげている。
 摩箕子は天然な素直さがあるため、嫌がらせでそういう事をするのはありえなかった。
 幼い頃からの付き合いでその事を知っている冴花は、自分が馬鹿な質問をしたと思ったらしく、大きく息を吐き出すと気を取り直したようにして姿勢を正した。
「まあ、いいわ。それじゃまた今度連絡するから。たまには付き合いなさいよね。摩箕子も楽しみにしてるんだから。それはそれは凄〜〜くね。この子、あんたと一緒だと凄く楽しいんだからさ」
「はい、私も神治さんと一緒だと凄く楽しいです」
 冴花の言葉に、摩箕子は嬉しそうに微笑みながら大きく頷いている。
「あ〜〜、そうよね。そう答えるわよねあんたは……分かってるのに何でこんなこと言っちゃったんだろ。馬鹿だわ私……」
 冴花は仕返しとばかりに、自分がされたのと同じように言ったのだろうが、そうした事も素直に返すのが摩箕子なのだった。
「まあ、いいわ……何か妙に疲れちゃった、ハァ……それじゃ、もう行くから。じゃあね……」
「失礼します……そ、その……そ、そちらの方、方も……し、失礼……し、します……」
 朱理を完全に無視している冴花と異なり、神治の友人という事で気を遣ったのか、摩箕子は凄く口ごもりながら挨拶をしている。知らない人と会話する時はこうなってしまうのだ。
「あ、ああ……どうも……」
 朱理はその変貌ぶりに驚いたのか、呆気に取られた顔をして、取り敢えず挨拶を返している。
 そのままズンズン歩いて行ってしまう冴花を、摩箕子は丁寧に一礼した後、慌てて追っていっている。
 どうやら雪花達のことには気づかなかったらしいのに、神治はホッと息をついた。
「何だか凄いヤツだったな……お前の知り合いは凄いわ……」
 脱力したようにして朱理は呟いている。
「き、金髪……金髪ぅ……が、外人かおい。緋道、あれ外人か? 外人の美少女か?」
「金髪の彼女も凄いけど、隣の人もまさに大和撫子って雰囲気があって凄かったなぁ。どっちも綺麗な髪だったよぉ。憧れちゃうねぇ」
「おっきい……舶来……小さい……純和風……」
 動揺している伊吹に、感動している歩美、そして混乱の極みにあるような様子の雪花がゆっくりとやって来た。
 冴花達と話している間に近くへ来なかったのも、どうやら近寄りがたかったためらしい。
 確かに金髪白人美少女と大和撫子美少女の組み合わせは、ある意味凄い迫力があるに違いない。
 何より冴花はかなり騒いでいた訳だから、面識のない人間としては近くに寄れないだろう。
「あれも知り合いなのか緋道? お前、この学校に何人知り合いが居るんだよ? しかも美少女ばっかり……どれも俺好みじゃないから別にいいが、さすがに金髪白人美少女は羨ましさが起きるな。う〜〜む、あれでもっと幼い感じ、まさに小学生って感じなら最高過ぎるんだが……聖川さんと甲乙付けがたい和洋最強コンビが完成だぞ……どこかに居ないか金髪白人小学生美少女……」
 愚かしいことをブツブツ言い出した伊吹に、全員が白い目を向けた。
「あっちの世界へ行っちゃってる伊吹くんは置いておいて、移動しよう?」
「そうだな。こいつは置いて行くのがいいだろ」
「移動……」
「全員一致か……よし行こう」
 伊吹を残して皆は歩き始めた。
 少し歩いてから振り返ると、未だ伊吹は同じ場所で考え込んでいる。
 どうやらよほど金髪白人小学生美少女の妄想が楽しいらしい。
「それにしても緋道くん、ホント知り合い多いよね。何だかビックリしちゃった」
「まさかまだ居るって事はないよな?」
「もう……居ない……?」
 最後に心配そうに尋ねてくる雪花にドキリとしてしまう。
 どうにもいつもと異なる弱々しさを感じさせたため、その事に強い愛おしさを覚えたからだ。何しろこちらを見つめる目が、何ともすがりついてくるような感じだったのである。
 先ほど朱理に言われた通り、やはり雪花は己の知らない相手と神治が仲良くしているのが嫌なのかも知れない。
 ここは雪花のためを思えば、「もう居ない」と答えるのが良いのだろうが、実はまだ知り合いは居たため、どうしたものかと困ってしまった。
 何しろ強烈なインパクトを与える人物であったため、雪花に限らず皆に逢わせたくはなかったのだ。
「うぉい、何で置いてくんだよぉっ。ヒデェじゃねぇかぁっ」
 泣きそうな顔で追いかけてきた伊吹に、全員が白い目で出迎える。
「だって伊吹くん、危ない妄想してるんだもん」
「ああ、あれは危険だったな。ヤバかった」
「危うきに近寄らず……」
「まあ、そういう訳で、全員一致した想いだったんだ」
 神治が皆の意見をまとめる形で告げると、伊吹は困ったようにして押し黙った。
「そりゃ、変な想像してたのは悪かったけどさ……仕方ないだろ、金髪が凄かったんだからよ……」
「それ、理由になってないよ」
「だからどうしたって感じだな」
「意味不明……」
「まあ、お前にまともな理由は期待してないけどな」
 次々と繰り出される言葉に、伊吹はガックリと肩を落とした。
 少々可哀想になったため、何かフォローの言葉でも言ってあげるかと考え始めるが、何を言っても余計に追い詰めそうな結果になるように思えたため、どうしたものかと思う。
 何しろ自分だけならともかく、皆がフォローするつもりにならなければ、それをネタにからかいを続けるだろうからだ。
 下手をしたらこちらにも矛先が向きかねないだろう。
 というか、現在そうされるのは本来自分のはずなのだ。伊吹が勝手に変な妄想をしてくれたおかげで皆の意識がそらされているだけなのである。
 ここでまたネタを提供しては、マズいことになるだろう。
 出来るだけ大人しくし、このまま目的地へ向かう流れに持っていく方が賢明に思えた。
「おおっ、本日発見謎の生物一号を追ってきたらっ、宇宙人くんと遭遇接近だよっ。何たることかっ。この衝撃をどう表現すればいいなりやっ」
 突然聞こえてきた奇抜な、それでいて聞き慣れた発言に、神治は己の運の無さを嘆くと共に、ゆっくりと天を仰いだ。
 よりにもよってここで逢ってしまうとは。
 皆にからかいのネタを提供する事は確実だろう。
「宇宙人くんっ、このような場所で逢うとはまさに運命のいたずらっ、宿命のお導きっ、ああっ、何とも素晴らしき偶然の産物だねっ」
 確かに運命のいたずらとしか思えないような状況だった。
 この学校の近くへ来てからのことを考えれば、元生徒会三人組に、冴花と摩箕子と続けて逢い、そして美子にまで出会っているのだから。
 そう、現れたのは美子だった。
 この学校へ入学したという話を聞いていたため、出くわす可能性は考えていたのだが、よもや本当に逢ってしまうとは……。
 美子は奇抜な言動が多いため、あまり知人に紹介したい相手ではなかった。
 根は善人で愛すべき少女ではあるのだが、如何せん言動がおかしすぎたため、どうしてもそうなってしまうのだ。
 何より神治の事を「宇宙人くん」と呼ぶのが耐え難かった。
 美子に言われるのはもう慣れてしまったが、他の人達の前では言わないで欲しい呼び名だったのだ。
 呼ばないように頼んでも、美子は全く聞いてくれず、誰の前でも「宇宙人くん」と呼んだため、参ってしまっていた。
 今もクラスメート達の顔は疑問符状態になっており、一体この女の子は何者なのだろうといった感じで美子を見つめている。
「やあ、本当に偶然だね」
 何となく硬くなり、棒読みのような口調で応えてしまう。
 我ながら硬直状態になっているな、と思った。
 この後に起こるであろう皆の反応に緊張していたのだ。
「そうなのだよっ。本当に偶然なのだなっ。美子ちゃんがこの謎の生物一号を追ってきたら、そこに何と宇宙人くんが居たんだからねっ」
 そう言いながら、美子は伊吹を指し示した。
「? 謎の生物一号?」
 意味が分からず問いかける。
 何故伊吹が謎の生物になるのだろう。
 神治が「宇宙人くん」と呼ばれているのは、瞬間移動を目撃され、その事から地球人以外の存在と認識されたからだが、伊吹は一体どうしてそんな呼び名を付けられたのだろうか。
「うん、謎の生物一号だよっ。だってビックリだよっ。道の真ん中で目を瞑ってブツブツと呟いてニヤけてたんだからっ。あんな事をする人、美子ちゃん初めて見たんだなっ。その行動は謎っ。だから謎の生物っ。そして本日最初に見つけたゆえに一号っ、なんだねっ」
 なるほど、伊吹が駄目な妄想を繰り広げていたのを目撃したという事らしい。
 確かに普通に考えてもそれは謎の生物と言えなくもなかった。通常の行動ではあり得ないことだからだ。
 皆の視線が伊吹に集まり、納得したように頷いているのを面白く感じる。
「俺? 俺のことか? 俺が何だって?」
「君は謎の生物一号さっ」
「何だぁ? 謎の生物? いや、俺は人間だって、謎じゃねぇよ全然」
「ふむふむ、やはり謎っ。この普通じゃない反応は謎だらけだねっ。実に興味深いっ」
「って、お前の方が謎だってのっ。何だよいきなり、一体誰なんだこいつは。緋道の知り合いか? って、また知り合いかよ。ホント多すぎだ」
「そういやそうだね。また緋道くんの知り合いかぁ」
「交友関係の広いヤツだな」
「おっきい……」
 雪花が悲しげに呟いているのにギョッとなる。
 また胸のことについて言っているのだろう。
 確かに美子の胸はそれなりに大きかったからだ。
「おおっ、あなた方は宇宙人くんの友達ですかっ。美子ちゃんは伊部美子だよっ。宇宙人くんの大親友なんだなっ。宜しくでありますっ」
 美子は意味もなくクルッと一回転すると、両手を広げて妙なポーズをとった。
 その瞬間、胸元の膨らみがポヨンっと揺れたため、雪花が悲しげに「おっきい……」と再び呟いている。
「私は未生歩美だよ。ねぇ、どうして緋道くんのこと、宇宙人くんって呼んでるの?」
「それは宇宙人くんが凄いからだねっ。宇宙人くんは高次元の宇宙人なのですっ。神なのですっ。だから凄いのですっ。美子ちゃんはその虜となっているんだなっ」
「神って……それってもしかして、緋道くんの事、輝いているみたいに感じたり、とかだったりする?」
 歩美は驚いたような、それでいて嬉しそうな顔をすると、美子に数歩近づいて尋ねている。
「おおっ、神のオーラっ。見たことありますっ。宇宙人くんと一緒に遊んでいる時に見えたりするんだねっ。あれぞまさしく宇宙人くんが高次元の存在たるゆえんっ。神の証拠なのですっ」
「うわぁ、そうなんだそうなんだぁ。私と一緒だねぇ。私も緋道くんが輝いて見えるんだよ」
「おおっ、同志っ。うむうむ、このような所で同志と出会えるとは何と素晴らしいことかっ。美子ちゃんはこの幸運に感謝せずにはいられないよっ」
「全くその通りだね。感謝感謝っ」
 二人は両手で握手をすると、上下に激しく揺さぶり、楽しげに笑い合っている。
「こっちの埜々宮くんも同じだよ。緋道くんのことを凄いって分かるの」
 そう言いながら歩美は、朱理の腕を掴んで引き寄せている。
「未生、オレはいいって……巻き込むなってば……オレはそういう話はいいんだよっ」
「埜々宮くんはいつもそうだからなぁ。文芸部に入った時も「自分は違う」みたいな態度取っちゃって、緋道くんの凄さの話題は避けるんだよね。そのくせ緋道くんに一番固執してたりするんだよなぁ」
「ば、馬鹿っ。そういうこと言うなって、ホモだって思われるだろがっ」
「いいじゃん別に。実際は違うんでしょ? それにそういう噂だったらとっくに浸透してるしさ。当人同士が違うって分かってるなら問題ないでしょ」
「だからって初対面のヤツに誤解させるような事を言うなってのっ」
 朱理は顔を赤くして恥ずかしそうにしている。そうした仕草が女っぽさを感じさせ、ホモ関係の噂の元になっているのだが、本人はあまり自覚が無いらしい。
「ほほぉ、男装の麗人と見せかけた美少年っ。一見美少女でも心は男なのっ。でもやっぱり実は女の子だったりしても嬉しいなっ。大きな胸の膨らみを隠して男になりすますっ。そんな秘密の学園生活送ってますっ。なこちらの男子の方も宇宙人くんの凄さが分かるのかなっ? ふむぅ、宇宙人くんは着々とその勢力を伸ばしているんだねぇっ」
 腰に手を当て、人差し指を朱理の胸の辺りに突きつけて美子は叫んでいる。
「お、お前……な、何でそんな風に……い、いや、別にいいんだが……お、オレは男だからな? 分かってるよな……?」
 朱理は動揺した様子で口ごもるようにしている。
「女の子のようだ」と言われることはよくあるが、「男になりすましている」というのは言われたことが無いせいかも知れない。
 何より胸について「隠している」と言われたのがショックなのではないだろうか。
 それは実際事実だったし、指先を突きつける行為が、いかにも「そこに胸の膨らみがある」と見抜いて指摘しているかのようにも見えたため、「まさか見破られているのでは?」という疑いを生じさせているのだろう。
「う〜〜ん、美子ちゃんは分からないなぁっ。何しろ男でも女でもどちらでも良いように思えるからなんだなっ。君はどちらでもOKっ。ハイブリッドな人っ。そうっ、まさにハイブリッド高校生ってヤツじゃないかなっ?」
「!……」
 美子が指を胸に接触させんばかりに近づけてきたため、それを避けるようにして身を引いた朱理は、落ち着かない様子で神治の傍へと寄ってきた。
「おい……こいつ何者だ? 特殊な能力の持ち主ってことはないよな? 護呪鎧の力が効かないとか……まさか見抜いているってことは……」
 小声で神治にそう告げてきながら、恐ろしげに美子の事を見つめている。
 神治でも女だと見抜けなかった護呪鎧の力を考えれば、美子が見抜いているという事はないだろう。
 だが美子はかなり鋭い感性を持っていたため、無意識の内に朱理が女であると認識しているという事はありえた。何しろ普通ではない事は確かなのだ。
「実は他にも同志は居るんだよ。ね、良かったら連絡先教えてくれない? あなたに他の人を紹介したいから」
「おおっ、同志の連携ってヤツだねっ。もちろんOKでありんすっ。美子ちゃんは同志が増えるのは大歓迎っ。美子ちゃんも同志を紹介するよぉっ。綺麗なお姉さんが居るんだなっ。いつも二人で宇宙人くんのことを話して楽しんでいるのですっ」
「うわぁ、そうなんだ。凄いねぇ。HIJIN会が拡大できるなぁ」
「え? 何? 何会なりや?」
「HIJIN会。私が作った緋道くんのための会だよ」
「おおっ、それは凄いねぇっ。美子ちゃんも入会を希望するでありますっ」
「もちろんOKだよ。その事も今度じっくり話し合おう?」
「おおっ、話し合いっ。喜んでっ」
 歩美と美子は激しく盛り上がっていた。
 何やら美子がHIJIN会に入るという流れになっているが、あれは学校のクラブであるのにどうするつもりなのだろう。
 まあ、どのみち正式な学校の組織ではないのだから、関係ないと言えば関係ないのだが。
「緋道よぉ……お前ってやっぱスゲェな。こんな変なヤツまで夢中にさせてるなんてさ。未生が時々おかしくなるのは知ってたけど、この変人女はそれ以上だわ」
 伊吹が呆れた様子で二人のことを見ながらそう告げてきた。
 部の民ではない伊吹にしてみれば、歩美たちの様子はかなり奇異に映るのだろう。
 というか神治にしても、歩美達の自分に対する想いの強さに関しては、まだ慣れないところがあった訳だが。
「おおっ……こ、この可愛らしい少女はっ。美少女さんはっ。まさに素晴らしき美少女っ。天から落ちてきたヒロインなんじゃないかなっ」
 妙な声が聞こえてきたため目を美子に戻すと、何やら手をワナワナと震わせながら雪花に近づいていっているのが見えた。
 意味不明な言葉と怪しげな挙動に、雪花は怯えたようにして後ずさっている。
「す、凄いなりっ。凄いなりよっ。絶対似合うっ。似合うんだなっ。この美少女さんには可愛い服が良く似合うっ。さあ、お嬢さん、美子ちゃんと一緒に可愛い服を買いに行きましょうっ」
 そう言いながら雪花の手を取った美子は、勢い良く歩きだそうとして引っ張られて止まった。雪花が動かなかったからだ。
「い、行かない……」
 怯えたようにそう告げた雪花は、助けを求めるようにして神治の方を見つめてきた。
 おそらく訳の分からない美子の言動に妙な恐怖を覚えているのだろう。
 何しろ意味不明な言葉と共に、どこかへ連れて行かれそうになったのだから当然だった。
「お、おい、美子ちゃん……嫌がってるぞ、止めろって」
「ええっ? 嫌がってるのっ? 美子ちゃん、一緒に楽しく買い物したいだけなのにっ」
「いや、強引にしてるから駄目なんだって、ちゃんと相手の了解を得てから行くようにしよう。分かるだろ?」
「おおっと、こいつは失礼したんだなっ。美子ちゃんつい嬉しくて暴走しちゃったよっ。ごめんなさい美少女の人っ。美子ちゃんはあなたが可愛い服を着る様を想像したら、居ても立っても居られなくなってしまったんだなっ。どうか美子ちゃんと一緒に可愛い服を買いにいって下さりませいっ」
 深々と一礼をしながらそう告げてくる美子に、雪花はどうすればいいのかと困ったようにしている。
「可愛い、服……?」
 そしてどうやら悪意は無いようだと認識したのか、少し安堵した様子で尋ねている。
「そうっ、可愛い服だよっ。美子ちゃんが大好きな可愛い服っ。美少女の人が着ればきっと、いや、絶対超絶可愛くなるのは保証付きっ。それが見たいなりっ。だから一緒に買いに行きませうっ。ちなみにこんな服なんだなっ」
 美子はポケットから携帯電話を取り出すと、少し操作した後雪花に見せている。
 おそらく写真を見せているのだろう。映っているのは、いわゆるロリータ系と呼ばれる服を着た美子の姿に違いなかった。以前撮影するように頼まれたことがあったからだ。
 横から携帯を覗き込んで見ると確かにそうだった。青を基調とした、フワッとしたドレス風の形に、ヒラヒラとした白いレースの付いている服を着た美子が映っている。
「こ、これを……聖川さんが……き、着る……?」
 不意に真横で声が聞こえたため驚いて目をやると、伊吹が放心した様子でブツブツと呟いていた。
「そ、そんな素晴らしい……素敵なことが世の中にあるのだろうか……あまりに最強すぎる……そんな最強すぎる状況……許されるのか? いや許されるだろう。というより俺が許すっ……行こう聖川さんっ。買いに行くんだっ。そして着ようっ。これを着るんだぁっ」
「五月蠅い……」
「う……」
 ギロっと睨まれた伊吹は、慌てた様子で押し黙ったが、それでも落ち着かないようにして写真と雪花に交互に視線を向けている。きっと脳内でこの服を着た雪花の姿を妄想しているのだろう。
 確かにその姿を想像してみると、あまりに似合い過ぎていて、是非とも着て欲しいと思える感じだった。
「う〜〜ん、これは凄いねぇ。確かに雪花には似合うかも。いいんじゃない? 買ってみなよ」
 歩美は楽しそうに薦めている。同じように想像してみて可愛いと思ったのだろう。
「こういうのは……好き、じゃない……」
 雪花は不機嫌そうにそっぽを向いている。
「え〜〜、勿体無いよぉ。凄く似合いそうなのにぃ」
「なら歩美が……買えばいい……きっと似合う……」
 そう言われて想像してみると、確かに歩美にも似合いそうな気がした。
 特に胸が大きいことで妙ないやらしさが出るように思えて是非とも見たくなってきた。顔が童顔なだけに、可愛さとエロスの混じり合った良さが出そうな気がしたのだ。
「確かに二人とも似合いそうだな。いいんじゃないの可愛いし。この際だから買ってみれば」
 朱理は写真に見とれたようにしながらそう呟いている。
 どうやらこの服が気に入っているらしい。妙に幸せそうな顔をしているからだ。
「埜々宮も……似合いそう……」
「お、オレはいいんだよっ」
 雪花の返しに、朱理は顔を赤くして否定している。本当は着てみたいと思っているのだろう。
 女の子状態の朱理が着た様子を想像すると、凄く似合っていたためこれまた見たくなってきた。
「それじゃみんなで買いに行きませうっ。美子ちゃん御用達のお店があるからっ。美少女の人もっ、同志の人もっ、美少年の人もっ、可愛い服をみんなで買うでありますよっ」
「何でオレが入ってるんだよっ」
 一人一人を指さし確認しながら告げてきた美子に、朱理は激しく反発している。
「いいじゃない、埜々宮くんも似合うと思うしさ」
「馬鹿言ってんなっ」
「私も……買わない……」
「ええっ? それは悲しいでありますよぉっ?」
「みんな一緒だよ? 私と美子ちゃんと埜々宮くんとお揃いの服、買おうよぉ」
「そんなの……恥ずかしい……」
「可愛いのは最強なりよっ。美少女の人は特に凄くなると思うでありますっ。もちろん同志の人も美少年の人もっ。絶対可愛さ爆発なりっ」
「だからオレを入れるなってっ……」
 四人は激しく口論し続けた。
 その様子を見ていると、何ともかしましい状態というのはこういう事なのだろうな、と思う。
 見た目は男子が一人居るが、中身は女の子であることを考えると、女子四人のファッション談義ということになったからだ。
 しばらくそうした口論が続いていった訳だが、結局雪花が「そこまで言うなら……考えてみる……」と言ったことで話の流れが変わり、改めて別の日に買い物について話し合おうという事になった。
 伊吹は雪花がロリータ服を着るかも知れない、という事に狂喜乱舞したが、「伊吹にだけは……見せない……」と言われたことで、地獄に堕ちたかのような衝撃を受けていた。
「あっとっ、美子ちゃん母上様にお使い頼まれていたの思い出したなりねっ。このままだと叱責確実っ。非常にマズい状況なのでありますっ。ゆえにさらば青春の思い出よっ、な状態なりっ。それでは皆様、バッハハハ〜〜イっ」
 両腕を激しく振りながら、美子はスキップをして去っていった。
 その様子に歩美を除いた全員が脱力している。
「凄い子だったねぇ……」
「ああ、とんでもねぇよ……」
「油断ならねぇ……」
「天敵……かも……」
 雪花にまで脅威と感じさせた美子の変人ぶりは大したものだった。
 こういう事になるから美子には逢いたくなかったのだが、結果的には皆が美子と仲良くなれたようにも思えたため、良かったのかも知れない。
「それにしても緋道、何であんなのと知り合いなんだ? お前の交友範囲の広さは凄すぎだろ。さらに全員が美少女ってとこが凄すぎるぜ。まあ、俺のタイプは居なかったけどな。やっぱり聖川さんは最高だからよぉ。それでもしあの服を着たらと思うと……グフフ……」
 気持ちの悪さが炸裂しだした伊吹を置いて、皆は歩き始めた。
「だけど確かにお前、交友範囲広すぎだな。だけどもうさすがに打ち止めだろ? 学校の前から離れたし」
「でも何か別の学校見えてきたよ。あっちにも居たりするんじゃない?」
「あっちは小学校……緋道、ロリコンだから……知り合い居るかも……」
 雪花の指さす先には、ランドセルを背負った小学生達が沢山歩いていた。
 その様子を見た皆は、「ああ、あり得そう」といった視線を向けてきている。
「って、さすがに居ないよ小学生は。こっちで小学生の知り合いなんて……」
 反論しようとして途中で押し黙る。
 不意に小学生の知り合いが居たことを思い出したからだ。
 容姿が全く小学生らしくなかったため忘れていたのだが、確かに彼女は小学生だった。
「おいおい、居るのかよ……」
「さすがは緋道くんだね」
「ザ、ロリコン……」
 呆れたような感心したような口調で皆が言ってくるのにどうしたものかと思う。
 だが考えてみれば、ここで逢うこともないだろう。何しろ学校が違うはずだからだ。
 というか、何という学校へ通っているのか知らなかった。
 以前、年齢確認の際に見たような気もするが、そんな程度では忘れてしまうし、何よりここの学校の名前も知らなかったため、確認のしようがなかった。
 先ほどのお嬢様校の近くにあるという事は、ここへ来る前に雪花が言っていた初等部だろうか。
 そう思ってどこかに学校名が書かれていないかと探した時だった。
「ちょっとそこのお兄さん」
 呼びかけられた声に視線を向けると、少し離れた場所に小学生の女の子達が数人立っているのが見えた。
 そしてその中に、中学生くらいの少女が、何故かランドセルを背負っていたため違和感を覚えた。
 だがすぐさまその少女が誰であるのか認識して納得する。
 そこに居たのは齋。
 見た目は中学生のようだが、れっきとした小学生で十一歳の、紫藤齋だった。
 彼女は容姿が大人びており、全く小学生に見えないのであるが、正真正銘十一歳の少女だった。
「お兄さん、どうしてこんな所に居るの?」
 齋は嬉しそうに微笑むと、近くに寄ってきた。
「いや、友達の買い物に付き合っててさ……」
「そうなんだ。お兄さんが近くに来てるなぁって感じたから、待ってたんだよ」
 齋がそう告げると、離れた所に居る女の子達が「きゃあっ」と可愛らしい声をあげた。
 こちらを見ながら楽しげにキャッキャッとはしゃいでいるのだが、どうにも見せ物になっているようで恥ずかしくなった。
「あれ私のクラスメート。お兄さんのこと見たいって言うから、連れてきたの」
「何で俺のこと見たがるんだ?」
「う〜〜ん、私の所有者だからじゃないかなぁ」
 何気なく言われた言葉に硬直する。
 二人きりの時であれば構わなかったが、今はそうした事に反応しまくる連中が傍に居たからだ。
「何でそんな風に思われてるんだ?」
「普段そう言ってるからね。私はお兄さんの所有物なんだよって。だから興味持ったみたい」
 それは持つだろう。あまりにも変であり、また刺激的に感じられる言葉の使い方だったからだ。
 実際、歩美達が興味津々といった視線を向けてきており、その事にどうしたものかと思っていたのである。
「あの、ちょっといいかな? あなたって小学生なの?」
 我慢しきれなくなったのか、歩美が齋に声を掛けてきた。
 所有物の事ではなかったためホッとしたが、考えてみれば、初めて齋を見た人間にとっては、小学生であるという事の方が先に興味を引くだろう。
 普通であれば、見た目で判断して中学生くらいに思うだろうが、ランドセルを背負っている姿を見たら、それが気になるのは当然だからだ。
「そうですよ。信じてもらえない事が多いですけど」
「あ、気に障ったらごめんなさい。どうしても気になっちゃったんで」
「大丈夫です慣れてますから。でもお姉さんは優しくて素敵ですね。さすがはお兄さんが友達にしている人です」
「あ、うん……ありがとう……」
 惚れられたのが嬉しかったのか、歩美は微笑みながら頷いている。
「小学生ってのはいいけどよ。何で所有物なんだ? 何かの遊びか?」
「遊びじゃないですよ。真剣です。私はお兄さんの物なんです」
 朱理の質問に、齋は真面目な顔をして答えた。
「おいおい、分かってるのか? それって自分の事を緋道がどう扱おうが構わないって意味だぞ?」
「心配してくれてるんですね。優しいお兄さんです。見た目も綺麗ですけど、心はもっと綺麗に思えます」
「いや、あ……そうか? ありがとな……」
 朱理は照れくさそうに笑っている。齋に褒められたのが嬉しかったらしい。
「しょ、小学生……何でこんな大きいのに……あり得ねぇだろ……しかも緋道の物だなんて……訳が分からねぇ……」
 伊吹が言っているのは背丈の事だけではないだろう。齋は胸もかなり大きかったからだ。
 貧乳好きの伊吹にしてみれば、そちらも気になる点に違いなかった。
 実際、伊吹の目は齋の頭から足まで動いていたが、胸の辺りで止まっていたのである。
「私のこの体は、お兄さんのために大きくなったんです。私も訳が分かりませんけど、今はそう思ってます。そう思うと幸せなんですよ」
 伊吹の呟きに、齋はやはり真面目に答えている。
 問いかけた訳でもないのに応じられた伊吹は、少し驚いているようだった。
「あ……その……体の事を言って悪かったな。そういうのは言っちゃ駄目だって分かってるんだけど。俺ってヤツは馬鹿だから、つい言っちまうんだ……一番気にしてるのは本人なのによ……」
 不意に落ち込んだように俯くと、伊吹は真面目に謝っている。
「いいんですよ。お兄さんは素直なだけなんだと思います。そうした事で凄く悩んだんでしょう? でも大丈夫、お兄さんのそうした想いは、相手の人にもちゃんと伝わっていますから」
「あ、ありがとう……俺、何か元気出てきたよ……」
 伊吹は嬉しそうに微笑むと、感謝の言葉を述べている。
 このような伊吹の姿を見るのは初めてだったため驚いた。
 というか、すぐに口にしてしまう事を気にしていたとは意外だった。
 そしてその事で傷つけてしまった事も悔やんでいたとは……。
 そう言えば伊吹が雪花と友人関係になったのも、あのからかいの一件の翌日に、真剣に謝ったことからだったのを思い出した。
 最近では悪意の無い、友人の冗談として受け入れられている面があるためそうした事は無いが、最初に本気で雪花を怒らせた事だけは、伊吹は真剣に謝っていたのだ。
 どうやら齋はその事を伊吹に伝えているらしかった。
 だが何故それが分かったのだろう。
 そんな事を思っていると、齋が今度は雪花の方を向いているのが見えた。
 雪花にも何か言うのかと思ったが、そのまま何も言わずにジッとしている。
「ごめんなさい……」
 そして不意に小さくそれだけ言ったかと思うと、深く頭を下げた。
 その事に雪花は驚いたようにして体を硬直させると、視線を落ち着き無く動かし、顔を横に向けて悲しげに俯いている。
「あなたは……悪く、ない……」
 少ししてからそう呟くと、突然歩き始めた。
「あ、雪花、どこ行くの? 待ってよぉ」
「聖川さん、俺を置いてかないでくれぇ」
 慌てて歩美と伊吹が後を追っている。
 朱理はどうしたものかと、雪花と神治を交互に見ていたが、神治が行くように目で示したため後を追っていった。
「何で謝ったんだ?」
 頭を下げたままの状態でいる齋に、神治は優しく尋ねた。何やら齋が辛そうに見えたからだ。
「だってあのお姉さん、凄く自分を悪いように思っていたから。私を見てからずっとそんな風に思っていたみたいで……だから申し訳なくて……」
「聖川さんが? 齋にはそんな風に見えたのか?」
「私、人の心が何となく感じられるの。前から少しは感じられたんだけど、今はそれが強くなってて……特にあのお姉さんはオーラが凄かったから、凄く感じられて……それで私のせいだって分かって……だから……」
 齋は顔を上げると、泣きそうな表情で見つめてきた。
「そうか……でも齋のせいじゃないよ。齋のせいじゃない……」
「うん、ありがとう……でも私の存在があのお姉さんを苦しめちゃったのは事実だから……それにあのお姉さんには、私の癒しの力も効かないみたいで……」
「癒しの力?」
「うん……私ね、相手の心を癒してあげる事ができるの。話すだけで気分を楽にさせられるっていうか……力自体はそんなに強くはないんだけど、普通の人なら楽にしてあげられるの。さっき辛そうにしてたお兄さんみたいにね……でもあのお姉さんにはそれが通じなくて……」
 そのような力があったとは驚きだった。人を癒せるとは素晴らしい力だろう。
 しかしそれが雪花には通じなかった。
 雪花の辛さが相当なものなのか、武の「気」が操れるゆえに影響が薄まったのか分からなかったが、とにかく癒しの力が作用しなかったという訳だ。
「お願い、あのお姉さんを慰めてあげて……それが出来るのはお兄さんだけだと思うから……」
 泣きそうな目で見つめてくるのに愛おしさが湧き起こる。
 見た目は中学生であるとはいえ、まだ十一歳の少女に人の悲しさが分かってしまうというのは辛いことだろう。
 しかもそれが癒しの力があるにも関わらず、癒してあげられないのだとすれば余計辛いに違いなかった。
「分かった。頑張ってみるよ……だから齋も自分のことを責めるなよ? いいな?」
「うん……お兄さんに慰めてもらったし、大丈夫だよ」
 そう言って笑みを浮かべてくるのに、温かな気持ちになってくる。
 不思議なことに齋の笑顔を見ていると、癒されるような感覚が起きてくるのだ。
 もしかすると、これが齋の持つ癒しの力という事なのだろうか。
「それじゃ聖川さんの所へ行くよ。齋のためにも頑張ってくる……」
「そうしてあげて……」
「うん、いい子だな齋は。凄くいい子だ……」
 神治は齋の頭に手を置くと、何度も優しく撫でてあげた。
「ふふ……お兄さんに褒められちゃった……私はこれで十分だよ。これだけで凄く幸せ……だから安心してね……」
 ギュッと抱き付いて来るのを可愛らしく思う。
 だが同時に「きゃぁっ」という複数の叫びが聞こえたため驚いた。
 見れば齋のクラスメート達が、こちらを見て楽しげにはしゃいでいた。
 聞こえてくる声には、「大胆っ」とか「素敵っ」とかいったような言葉があったため、何を騒いでいるのかが分かった。
 彼女達は、齋が神治に抱き付いている姿に興奮しているのだ。
 十一歳の女の子達にしてみれば、高校生の男子に抱き付くという行為はかなり刺激的な状況だろう。
 それを見せられているのだから、こうして騒ぐのも納得だった。
 齋は顔を上げると、満足げな笑みを浮かべている。
「これでみんなに自慢出来るよ……だから私はもういいから、行ってあげて」
 そう言ってくるのに頷いた神治は、もう一度齋の頭を優しく撫でると、遠くに見える雪花の後ろ姿を追っていくのだった。


 皆が居る所へ着くと、そこは何とも重い空気に包まれていた。
 何しろ雪花の体から、凄く重い「気」が発せられていたからだ。
 元々武の「気」を操れる雪花だけに、こうした「気」を放出するとなると、強烈に影響を与えてしまうのだろう。
 護呪鎧の作用で「気」の影響を受けないはずの朱理にしても、どうしたものかと困惑した様子で押し黙っている。
「今日は……もう帰る……みんな、ごめんなさい……」
 そう言ってくるのに、何と言えばいいのか分からず困ってしまう。
 齋には「頑張る」と言ったものの、実際何かするとなると、どうすればいいのか分からなかったからだ。
「いいのいいの。雪花が帰りたいんならそれでいいから」
「でも……わざわざ付き合って、もらったのに……緋道には、頼んでまで……」
 歩美の言葉に、雪花は神治の顔を見ながら申し訳なさそうに呟いている。
「俺のことは気にしないでいいよ。みんなで一緒に歩くの楽しかったし。実際買い物してたって似たようなもんだろ」
 笑いながらそう告げると、雪花は辛そうに俯いた。
「この埋め合わせは……必ず、するから……それじゃ……」
 それだけ言うと、不意に歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って雪花。私も行くから。一緒に帰ろ?」
 慌てた様子で歩美が後に続き、神治達も少し離れてそれを追っていった。
 いつもなら伊吹がそのまま雪花の傍へ行くはずなのだが、何故か彼は神妙な顔をして、離れた場所からジッと雪花の後ろ姿を見ていた。
「どうしたんだ伊吹? 聖川の近くへ行かないのかよ?」
 同じように疑問に思ったのだろう、朱理が尋ねている。
「俺は行かない方がいい……多分俺じゃ、聖川さんを元気づけるのには役立たないから……逆に嫌な想いをさせちまう……」
「何だよ変だな。伊吹らしくないぞ。どうしたんだよ急に。妙に気遣い出来るようになっちゃって……」
 意外そうに朱理が尋ねている。
 神治にしても驚きだった。
 てっきりいつもの調子でちょっかいを出し、余計に雪花を落ち込ませるのではないかと心配していたのだ。
 伊吹は先ほども齋に胸の内を語ったりもしていたし、そういう意味でどうにも様子がおかしかった。
「今の聖川さん、あの時と同じだから……」
「あの時?」
「俺が、最初に聖川さんをからかった時と、さ……」
 伊吹はそう呟くと、辛そうに俯いた。
「でもあの時の聖川って、単に怒りを溜めてただけじゃないのか? 確かにオレにも最初は辛そうに見えたけど、後で凄く怒ってるの見たから、そうじゃなかったんだって思ったんだけど……違うのか?」
「違うと思う……」
 そう頷くと、伊吹は押し黙った。
 それが妙に重々しさを感じさせたため、いつもとあまりに違う伊吹の雰囲気に、神治と朱理は顔を見合わせた。
「俺にはあの時分かったんだ。感じたんだよ……聖川さんの『辛い』って想いが凄く伝わってきたんだ。まるで自分の体に凄く重い物がのし掛かってくるみたいに……だから『しまったやり過ぎた』って思ったんだけど、馬鹿な俺は止まらなかった……緋道が止めてくれたから良かったけど……そうじゃなかったら、もっと傷つけてたと思う……」
 暗くなりながら語る姿は、普段の伊吹からは想像できないものであり、その言葉が重く感じられた。
 おそらく伊吹の言っていることは本当だろう。
 先ほど齋も同じような事を指摘していたからだ。
 伊吹にそうした事を感じる資質があったとは驚いたが、そう考えると、あの一件の翌日に真剣に謝った行為にも納得が出来た。
 相手の辛さが強く伝わっているとすれば、その事を申し訳なく感じるのは真っ当な人間であれば当然のことだからだ。
「今の聖川もあの時と同じだってのか?」
「ああ。凄く辛そうにしてる……」
「それはオレにも分かるけどよ……でもそんなに酷いのか?」
「当然だろ。俺が何か言ったらマズいって思うくらいなんだぜ」
 変な意味で説得力のある事を言いながら、伊吹は力無さげに笑った。
「俺じゃ駄目なんだよ……こういう時は別のヤツじゃないと……」
「別のヤツ……未生か? 確かにあいつの脳天気さなら癒されるかも知れんけど」
「そうじゃない。未生でも駄目だ……軽い辛さならあいつで大丈夫だけど、本当に辛くなっている聖川さんを救えるのは、別のヤツさ……」
「誰だよ? オレ、じゃないよな?」
「ああ、お前じゃない」
 そう会話した後、朱理と伊吹はこちらを見つめてきた。
「お、俺か?」
 先ほどの齋に続いて、友人二人からも指名されるのに動揺してしまう。
 部の民である朱理はともかく、何故伊吹は自分を選んだのだろう。
「聖川さん、緋道をどこか頼ってるところがあるんだよな。多分最初に助けてもらったからそうなってるんだと思うけど。ずっと見てきた俺だから分かるんだ。聖川さんは緋道を頼りにしてる。だから頼む緋道、聖川さんを元気づけてあげてくれ」
 真剣に頼んでくる伊吹に困惑してしまう。
 普段馬鹿な印象しかない相手だけに、そうされると何やら凄く重要なことを託されているような気になってくるからだ。
 いや、伊吹にしてみれば実際そうなのだろう。自分の好きな相手を元気づけるのは重要なことなのだから。
「そんな頼まなくたってやるよ。俺だって聖川さんには元気で居て欲しいからな。だけど上手くいかなくても恨むなよ。お前の言うように、聖川さんが俺を頼りにしてるかなんて分からないんだから」
「緋道なら大丈夫だよ」
「俺の勘を信じろって」
 どうにも当てにならない勘が根拠だなぁ、と思いつつ、朱理と共に信頼の目で見つめてくるのを嬉しく思う。
 何だかんだで伊吹は、自分を友人として信頼してくれているのだ。
 そうした素直なところが彼の良さであり、自分が友人として付き合っている理由なのだろうと神治は思った。
 それにしても、頼まれたはいいが、実際はどうすればいいのかと考える。
 その事を二人に振ってみてもいいが、おそらく良いアイデアは出ないだろう。
 どちらもそうした事は苦手そうだからだ。
 ここはやはり歩美を頼るべきか。
 同じ女の子であるし、雪花とは仲が良いのだから、この二人よりは頼りになりそうだった。
 そう考えた神治は、二人に「行ってくる」と告げると、歩美に何とかしてもらおうと、女の子達が歩いている方へ近づいていくのだった。


 目の前には一軒の家があった。
 その前に立っているのは神治と雪花、そして歩美だった。
 あれから合流したものの、雪花が全く喋らなかったため、結局歩美と二人で盛り上がらない会話をするしかなかった。
 そして様子のおかしい雪花を一人きりにする訳にもいかず、ずっとついていった結果、雪花の家まで来てしまったのだ。
 朱理と伊吹はすでに帰っており、頼りになるのは歩美一人になってしまっている。
 その事に心細さを感じるものの、あの二人では居ても役に立たないだろうと思えたためあまり気にしてはいなかった。
 というか、自分も役に立ちそうもないのだが、何故か頼りにされている事に困ってしまう。
 伊吹の勘によれば、雪花は自分を頼っているところがあるらしいが、これまでそんな雰囲気を感じたことはなかったため、何とも怪しく思えた。
 そんな事を考えながら雪花へ視線を向けると、ポケットから鍵を取り出して家のドアを開けているのが見えた。
 中から何の反応も無いところから、家族は留守なのかも知れない。
 そう言えば以前、両親は共働きで家では一人で居ることが多い、というような事を聞いた覚えがあった。きっと今日も留守なのだろう。
 雪花はそのままドアを閉めず、こちらを無言で見つめている。
 どうやら入るように促しているらしい。
 そのくらい言ってくれればいいと思うのだが、先ほどから全く喋ってくれないのだ。
 しかしこの事で、雪花が別に一人になりたがっている訳ではない事が分かったため、神治はホッと息をついた。
 何しろ突然買い物を止めて家へ帰ると言い出したため、一人になりたいという意思表示かと思っていたからだ。
 そんな事を考えつつ、こうなればお邪魔させてもらおうと、歩美と顔を見合わせてから玄関の中へと足を踏み入れていく。
 無言で前を進む雪花に続いて階段を上り、二階の部屋まで着くと、そこは可愛らしい小物が置いてある場所であったため、雪花の部屋らしいことが分かった。
 差し示されたクッションに腰を下ろし、さてどうしたものかと考えながら、何となく部屋の中を見回してみる。
「あまり……見ない……」
 すると雪花の声が聞こえたため、ようやく話してくれた事に喜びながら視線向けると、何やら恥ずかしそうな表情を浮かべているのが見えた。
 どうやら部屋の中を見られているのが嫌らしい。
「そ、そうだね。あまり見ちゃ駄目だよね。ほら、緋道くん、キョロキョロしない」
「あ、うん……分かった見ない……」
 雪花が喋ってくれた喜びにニヤけながら歩美とそんな風に会話していると、突然雪花が立ち上がった。
「お茶……煎れてくる……」
 そう呟くとさっさと部屋を出て行ってしまったため、歩美と二人きりになった。
「正念場だよ緋道くん。雪花を慰めてあげて」
「分かってるよ。でもどうすりゃいいんだか」
 両手を握り締めて、「頑張って」という感じで告げてくる歩美に、どうしたものかと不安になる。
 何しろ慰める方法が分からないから困っているのであり、その事を歩美に尋ねようと思っていたくらいなのだ。
「いつも通りしてあげればいいの」
「いつも通りって?」
「いつも私とか柚華にしてるようなことだよ。要するにエッチ」
 予想外の内容に動揺する。何故そこでエッチが出てくるのだろう。
「何考えてるんだよ。相手は聖川さんだぞ。そんなこと出来るかよ」
「え? 欲情しないってこと?」
「そうじゃなくて、そういう事をする相手じゃないだろって話。そもそも聖川さんが嫌がるに決まってるじゃないか」
「う〜〜ん、そうかなぁ。相手が緋道くんなら受け入れると思うけど」
「どうしてそう思うんだよ」
「だって雪花、緋道くんに依存してるもん。つまりある意味私たちと同じような感じになっていると思うんだよね。だからエッチしようって持ちかければ受け入れると思うんだなぁ」
 伊吹と同じような事を言ってくるのに驚きつつ、そこからさらに性行為も大丈夫と言ってくるのに困惑する。
 普通に考えれば、依存しているだけでは性行為を受け入れはしないだろうに、何故そんな風に思うのだろう。
「そんなのあり得ないだろ」
「じゃあ実際聞いてみようよ。それで分かるから」
「って、止めろよおい。俺が酷い目に遭うかも知れないだろ」
「大丈夫だって」
 下手をしたら必殺の一撃が放たれかねないため、とてもではないが大丈夫ではなかった。
 何とか止めなければ、と思っている内に、お盆に湯飲みを乗せた雪花が戻ってきてしまった。
 無言で二人を見た後、腰を下ろして湯飲みを置いていく雪花を眺める。
 改めて見ると実に可愛らしい少女だった。
 幼さはあるものの、多くの小学生を抱いた経験のある神治にしてみれば、十分に、というかかなり肉欲をそそる容姿であり、もし雪花を抱けるとすれば嬉しくて仕方ないだろう。
 それだけ魅惑的な相手なのだ。
 しかし雪花の方は、神治をそうした対象としては認識していないように思えた。
 何より普段から性的なネタには軽蔑の眼差しを向けているのだから、「元気になるためにセックスしよう」などと持ちかけても受け入れるはずがなかった。
 逆に怒らせてしまうだけだろう。
 確かに怒れば元気にはなるだろうが、根本的な意味での解決にはならないのだから意味はなかった。
「ねぇ、雪花。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
 お茶をゆっくり飲んでいると、不意に歩美が話し始めた。
 いよいよ問題のことを聞くのかと硬直するが、あえて止めることはしなかった。
 変に「止めろ」「いいじゃない」とか言い合いをしては、まるで隠し事をしているかのように受け取られ、その事で雪花が機嫌を損ねる可能性があったからだ。
 ここは実際に質問をさせてから、フォローを入れる方が得策だと思ったのである。
「別に……いい……」
「なら聞くね。えっと……雪花ってさ、普段私や柚華が、緋道くんと一緒に居る時、疎外感を感じてたりする?」
「え……?」
 驚いたように雪花は歩美の顔を凝視した。
 どうやら図星のように思える反応であったため意外に感じる。
 雪花は疎外感を覚えていたのだろうか。
「他にも海棠先生や埜々宮くんでもいいけど……要するに文芸部の関係者なんだけどね……どう?」
 歩美は淡々と述べながら、優しげに微笑んでいる。
 それにしても何故そのような事を聞くのだろう。
 てっきり「緋道くんとエッチするの嫌?」とか尋ねると思っていたため、これは予想外だった。
「私はね、雪花のことが大好きだよ。雪花が悲しんでいると私も悲しいの。だからもし雪花が疎外感を感じて悲しんでいるとしたら、それを何とかしてあげたい。どう? 疎外感、感じてる?」
 何と答えるだろうかと視線を向けると、雪花は困ったようにして視線を左右に動かしていたが、少ししてから大きく息を吐き出した。
「感じてる……」
 そう小さく呟くと、悲しげに俯いている。
「分かった……それじゃ別の質問ね? さっきいきなり帰るって言い出したのは、あの小学生の女の子のせい? 小学生なのに胸が大きくて、緋道くんと仲良くしてるのが、凄く嫌だったからかな?」
 歩美は齋の事を尋ねている。
 確かに齋も自分のせいだと言っていたが、やはり原因は胸の大きさだったのだろうか。
「うん……」
 雪花は少しの間逡巡していたが、再び大きく息を吐き出すと、辛そうな表情を浮かべながら頷いている。
「なるほどね、よく分かったよ……それじゃあ、そうした想いを何とかしよう? 疎外感を感じているのも、胸のことで苦しくなるのも、全部何とかするの。そうすれば嫌な想いをしなくて済むでしょ?」
 歩美は優しく微笑みながら、雪花の手を取って明るくそう告げている。
「何とかするって……どうするの……?」
「緋道くんに抱いてもらうの」
「え……?」
 あまりに予想外な事を言われたのだろう。雪花は目を丸くして呆気にとられたようにしている。
「私も柚華も緋道くんに抱かれてるんだよ。だからこんなに緋道くんに対して強い想いがあるんだ。それは多分海棠先生も同じだと思う。確認してないから証拠はないけどね。でも目を見れば分かるよ。海棠先生も緋道くんに凄く強い想いがある。それは抱かれているからだと思うんだ。埜々宮くんはさすがに抱かれてはいないと思うけど、似たようなことがあるんじゃないかな。だから同じようになってるんだと思う」
 歩美の語る内容は、あまりに常識外れのことであったため、雪花は目を白黒させ、友人が何を言い出したのかと呆然としているようだった。
 それも当然だろう。
 何しろ歩美の言っているのは、ハーレムの噂を肯定するものであり、しかもあろうことか男同士でも似たような関係を結んでいる、という内容だったからだ。
 さすがにその部分については否定したかったが、朱理の秘密に触れる事になるため、どうしたものかと困ってしまった。
「歩美……緋道と……エッチなこと、してるの……?」
「うん、してるよ」
「どうして……?」
「それは緋道くんに抱かれたいからだね」
「何で抱かれたいの? っていうか、いつからそんなこと……それに何で抱かれたりなんか……したの……?」
 雪花にしては早口に尋ねているのが、受けている衝撃の強さを感じさせた。
「う〜〜ん、何でって言われてもなぁ。そうしたいから、としか言えないよね。あといつからってのは、入学してすぐの頃だね。そんで何で抱かれたのかってのは、えぇっとぉ、何でだったっけ?……あ、そうそう、最初はキスしてもらったんだよ。私がキスしたかったから。私はキスに関してはちょっと色々思うところがあってね、それで信用できる男の子とキスだけしてみたかったの。だから緋道くんに頼んだんだ。そしたらキスが凄く良くてさ、そのまましている内に、何か興奮してきちゃって、抱いてもらいたくなっちゃったんだなぁ。そんで抱かれちゃってね。それ以来、私は緋道くんに夢中って訳」
「……」
 歩美の言葉に雪花は押し黙り、どうすればいいのか分からないようにして視線を彷徨わせている。
 神治と目が合うと、ハッとしたようにして慌てて視線をそらした。
「他の人の経緯は知らないけど、多分みんな緋道くんとエッチして、それで夢中になってるんだと思う。そういう意識っていうの? それが感じられるからね」
「何でそんな……エッチなことしただけで……夢中に……なってるの……?」
 恥ずかしそうに尋ねている雪花の顔は少し赤くなっていた。
 それが何とも可愛らしく、思わず抱き締めたくなってくる。
「それが緋道くんの凄いところなんだよ。緋道くんと繋がってるとね、すっごく幸せな気分になれるんだ。世界が輝いて見えるの。それに緋道くんも凄く神々しくて、全てを捧げたくなっちゃうんだよ。この想いがみんなにはあるんだ。だから同志なんだね。さっき逢った美子ちゃんもそうなんだと思う。同じようなこと言ってたから」
「つまり……緋道は……本当に、女ったらし……」
 驚いた様子で雪花はこちらを凝視してきた。
 今まで嫌みとして何度も告げてきた言葉だったが、本気の想いは無かったのだろう。
 ゆえに事実だと言われて驚いているに違いない。
「緋道……今の話……本当……?」
 不安そうな顔をして、雪花は見つめてきている。
 もしかして認めたらマズいだろうか。
 雪花の信頼が無くなってしまうのではないだろうか。
 そんな心配が起きてくる。
 歩美はあくまで推測で述べているだけの話で、否定すれば歩美に関すること以外は証明するのは不可能だった。
 ゆえに認めないで済む方法もある訳だが、そうなると嘘をつくことになった。
 今の雪花を相手に嘘を付くというのは良くないように思えたため、正直に言うべきかと迷った。
 歩美の顔を見ると、優しげな笑みを浮かべて神治の言葉を待っているように思える。
 その顔を見ていて思い出したのは、歩美がこうした告白をしているのは、雪花を元気づけるためだという事だった。
 どこをどうすればそうなるのか分からなかったが、歩美の目的はそのはずだったからだ。
 つまりここで神治が認めることこそが、雪花を元気づけることに繋がるのではないだろうか。
 どのみち自分には他に方法が無かったのだから、歩美に任せるしかなかった。
 そう思った神治は、今の話を肯定する事にした。
「本当だよ……今未生さんが言った通り、俺は文芸部のみんなや海棠先生、それにさっき逢った美子ちゃんを抱いている」
「エッチなこと……してる……?」
「してる……」
 神治が大きく頷くと、雪花は呆然とした様子で体を左右にフラフラと揺らしている。
 あまりに衝撃的だったのだろう。
 それも当然で、友人が多くの女性と肉体関係を持っているなどと聞かされたら、どう反応して良いのか分からないと思うからだ。
「雪花は緋道くんに抱かれてないよね? だけど私たちは抱かれている。それが雪花が感じた疎外感の正体だよ。私たちの中には、抱かれたことで得た強い想いがあるんだ。でも雪花にはそれが無い。抱かれてないからね。だからもし雪花が疎外感を無くしたい、つまり私たちと同じようになりたいのなら、緋道くんに抱かれる必要があるの」
「う……そんなの……」
 雪花は激しく動揺した様子で視線を彷徨わせている。
 何しろ「疎外感を無くすためにセックスしろ」と言われているのだから当然だった。普通はそのような解決方法などあり得ないだろう。
「それに緋道くんに抱かれれば、雪花も自分の体に自信が持てるようになると思うんだ。雪花は凄く可愛くて、沢山の男子がエッチな目で見てるの気づいてる? そりゃ伊吹くんみたいにロリコンな目かも知れないけど、それでもエッチな目で見てるってことは、それだけ魅力的な事の証でもあるんだよ? 小さい胸でも抱きたいって思う男子は居るんだから。でも言葉で言っても雪花は信じられない。だから実際に抱いてもらうの。実際に抱いてもらえば、どれだけ雪花に夢中になっているのかが分かるからね。それを経験して欲しいんだ。だから緋道くんに抱かれて欲しい訳」
「うぅ……」
 続けざまに「抱かれろ」と言われているせいか、雪花の顔は真っ赤だった。
 性的な事に嫌悪感が強いため、かなり恥ずかしくなっているに違いない。
「緋道くんに抱かれるって事は、私たちと同志になるのと、雪花が自分の体に自信を持てるようになる事の、二つの良さがあるんだよ。それを考えてね? もちろん私は雪花が同志じゃなくても大切な友達だと思ってるよ。それは何も変わらない。でも雪花が私たちと同志じゃないことで疎外感を感じ続けるとしたら、凄く寂しいと思うんだ。私としても雪花が同志になってくれると嬉しいしね」
「う……うぅ……」
 雪花は辛そうに唸ると、困った様子で歩美をジッと見つめている。
「それに自分の体に自信を持てたら、もっともっと素敵な女の子になれると思うんだ。雪花ってどこか自分を抑えているところがあるからさ。自分の魅力をもっと出すような事をして欲しいの。ほら、美子ちゃんの薦めてた服。あれを着たら、雪花に気のある男子なんていちころになっちゃうと思うよ。だからああした服もどんどん着て欲しい。そうした自分の魅力をちゃんと分かった女の子になって欲しいんだよ」
 確かに雪花がゴスロリやロリータ系の服を着たら、ロリコンの男はそれだけで夢中になるだろう。
 何しろ元が凄く可愛いのだから、可愛い服を着たら恐ろしいまでの魅力を発揮するのは確実だったからだ。
「でも強制できることでもないからね。だから私はただ方法を示すだけ。疎外感を感じなくなって、胸の事を気にしなくなる方法をね。どうするのかは雪花が自分で選んで。私が出来るのはそれだけだよ」
 長々と語った歩美は、大きく息を吐き出すと押し黙った。
 そしてそれ以降は何も口にしなかった。後は雪花が決めるのを待っているのだろう。
 雪花は俯いた状態で、困ったようにして床をジッと見つめている。
 おそらくどうすればいいのかを考えているに違いない。
 とはいえ、普通であればこのような事を受け入れるはずはなかったが。
 何しろセックスしろと言っているのだから。
 性的な事に嫌悪感の強い雪花であれば、余計受け入れるはずはないだろう。
 そう思いながら雪花の様子を見つめていると、しばらくの間微動だにせずにいたが、やがて大きく息を吐き出したかと思うと、顔を上げて歩美を睨み付けるようにしてきた。
「分かった……する……」
 そして驚いたことに、提案を受け入れる答えを口にしている。
 それはあまりに予想外な展開だったが、もしかするとそこまで雪花の疎外感からくる辛さは大きかったという事かも知れない。
「わぁ、同志になってくれるんだね。嬉しいよぉ」
 歩美は素直に喜んで笑顔を浮かべている。
 だがそう上手くいくのだろうかと神治は思っていた。
 何しろ歩美の言う同志になるためには、部の民の資質が必要になるからだ。
 単にセックスするだけでは部の民にはならないのである。
 もし雪花に部の民の資質がなかったら、ただセックスをするだけで終わり、疎外感は無くならないまま、という可能性があった。
 歩美はそうした事情を知らないため、神治とセックスした人間は皆、自分と同じようになるのだと考えているのだろう。
 しかしそうはならない可能性がある事を考えると、何とも雪花を騙しているように思えて嫌になってきた。
 何しろ今の雪花は精神的に追い詰められた状態なのであり、そこへ歩美の誘導的な話がされた事を考えると、了承した行為が本当に雪花の意思と言えるのかと思えたからだ。
 何より歩美のやり方は、「同志になりたいのならセックスをしろ」と言っているのと同じであり、それはどうにも強制的な要素を感じさせたのである。
「本当にいいのかい? そんな理由でするなんて、普通に考えたらおかしいぞ? 分かってる?」
 注意を促すつもりでそう告げると、雪花は悲しげな表情を浮かべてこちらを見つめてきた。
「緋道……私とするの……嫌……?」
「そうじゃない、そうじゃないよ……聖川さんとはしたい。何しろ凄く可愛いからね。聖川さんはいつも自分の体のことを気にしてるけど、俺は聖川さんみたいな体も大好きだよ。前に言ったろ、魅力的だって……でも聖川さんは友達だ。だから体が魅力的でも、ちゃんと『抱かれたい』って思っていなければ抱くのは嫌なんだよ。今未生さんが色々言ったけどさ、嫌なら無理しちゃ駄目だ。自分が本当に抱かれたいって思わなければ、抱かれちゃ駄目だ。妥協は駄目だよ。何かのために抱かれるなんておかしいからね」
 我ながら自分の行状は棚に上げていると思ったが、それでも雪花が無理をしているのだとしたら止める方が良いだろう。
 何しろ相手は大切な友人なのだ。安易に抱く訳にはいかなかった。
「……」
 神治の言葉に、雪花は下を向いて黙っている。
 そうして少しの間ジッとしていたが、やがてゆっくりと顔を上げ、ニコリと微笑んだ。
「私……本当に緋道に……抱かれたい……妥協じゃない……緋道のこと……好き、だから……抱かれたいの……」
「好きって……恋愛的な意味でかい?」
「分からない……友達として……ずっと好き、だったけど……それが恋だからなのか……分からない……だって緋道……一緒に居るの……凄く当たり前になってるから……好きな気持ちも……当たり前になってる……」
 雪花にしては長く語っている言葉に、彼女の本当の気持ちが伝わってくるのが感じられて嬉しくなった。
 恋愛的に好きであるかは分からない。でも友達としては好きであり、一緒に居るのが当たり前だという。
 それは何とも温かな想いを感じさせる内容であり、恋愛的に好きと言われるよりも嬉しくなった。恋心に基づく言葉よりも重みを感じさせるように思えたからだ。
「そういう雪花だから、私は同志になれると思うんだ。もう緋道くんのこと好きなんだもん。しかも恋じゃなくね。それって今の私と同じだよ。その恋じゃない『好き』って気持ちが凄く強くなっているのが、同志ってことなの。恋よりももっと重くて強い想いなんだよ。それを雪花にも持って欲しい。だから一緒に緋道くんをもっと好きになろう?」
 そう言うと、歩美は雪花を優しく抱き締めた。
「歩美……」
 雪花も歩美の背中に手を回し、二人は強く抱き締め合っている。
 美少女二人が抱き合う姿は何とも可愛らしく、神治は自分も抱き締めたくなった。
「それじゃ緋道くん、私の代わりに雪花を抱き締めてあげて……まずはそれから始めてみよう? 雪花もそれくらいなら抵抗少ないでしょ?」
 歩美の言葉に、雪花は少し不安そうになりながら頷いている。
 確かにいきなり性的要素の強い行為をするよりは良いだろう。抱き締める程度なら、感激した際などにする場合もあるからだ。
「さ、雪花……緋道くんに抱き付いて……」
「うん……」
 歩美の体が離れ、促すようにして神治の方へと押し出している。
 近づいてくる雪花を優しく受け止めようと両腕を広げると、小さな体が倒れ込むようにして寄り添ってきた。
 温かい体の感触が起こり、その幼さを感じさせる肉体に心地良さが押し寄せてくる。
 細い腕が背中に回り、ギュッと抱き付いてくると、胸元に雪花の顔が押しつけられ、何とも言えない愛おしさが湧き起こった。
(か、可愛い……)
 愛らしい小動物に抱き付かれているような嬉しさが感じられ、たまらなくなって抱き締め返す。
「あ……」
 雪花の小さな声が漏れ聞こえ、その可愛らしい吐息に益々嬉しさが強くなっていった。
 小さな頭に大きなリボンが付いているのがより可愛らしさを感じさせ、自然と手が動いて愛らしい頭を撫で始め、顔を押し付けて頬ずりしてしまう。
「あ……緋道……それ……」
「嫌かい?」
「嫌……じゃない……もっとして、いい……」
 顔を押しつけるようにしながら告げてくるのに愛らしさが強まり、頭を撫でるのと頬ずりするのを繰り返していく。
 雪花が甘えてくる仕草をすると、幼い容姿だけにたまらない良さがあった。
 以前から可愛い少女だと思ってはいたが、積極的に可愛い態度をとられると、それが爆発的な魅力になるのに驚く。
 何というか、存在自体が愛らしさで一杯という感じなのだ。
 神治としては、もう抱かずには居られなくなっていた。
 もし「これ以上は嫌」と言われても、止めることが出来るか自信はなかった。
 この愛らしい少女を抱かないで済ますなど、絶対無理だったからだ。
「次は……キスしてみようか……雪花、キスするのはどう?」
「あ……う……いい、けど……うぅ……」
 歩美の提案に、雪花は了承の言葉を述べているものの、困ったようにして唸っている。
 さすがにキスには抵抗があるのだろう。
 今までしたことが無い行為なのだろうから当然だった。
「聖川さん、キスするよ?」
 そう告げながら小さな顎に手をかけて顔を上に向けると、何やら泣きそうな表情でこちらを見上げてくるのと目が合った。
「大丈夫?」
「だ……大丈夫……いいから、して……」
 硬直した様子で告げてくるのに可愛らしさが強まった。
 ここまで身構えられると、何ともいじめているような感覚を覚え、妙な嗜虐心を感じてゾクゾクとしてくる。
 ゆっくり顔を近づけると、クリッとした瞳が閉じられていき、心持ち唇がこちらへ向けられた。
 それに向かって唇を近づけ、優しく押しつけていく。
「ん……」
 触れた瞬間、小さな体がピクッと震え、硬直した。
 少ししてから唇を放すと、瞼が開いて、ぼんやりとした瞳がこちらを見つめてきた。
「雪花、これがキスだよ……どうだった?」
「分からない……でも何だか……緋道を、感じた……」
 歩美の言葉に、雪花はボーッとしたまま答えている。
 その様子が何とも可愛らしく、もっとキスしたくなってくる。
「それじゃもう一回してみようか? それでそのまま何度もするの。いい?」
「うん……」
 歩美の提案にぎこちなく頷いている雪花に微笑みかけ、小さなからだを優しく抱き締めると、再び唇を重ねていく。
「ん……ん……んふ……んんっ、んっ……んぁっ……んっ、んんぅっ……」
 ついばむような軽いキスを数度繰り返し、その後吸い付くようにしてから舌を押し込んでいくと、雪花が体を硬直させながら強くしがみついてきた。
 顔を左右に入れ替え、舌を吸い、口内を舐め回すようにすると、小さな体がピクピク震え、時折吸い返し、舐めてくるような動きをしてくる。
「んんっ、んっ、んんぁっ……んっ、んふぅっ、んっ、んんはぁっ……」
 何度か吸い合い舐め合いしていくと、雪花は体を擦り付けるようにしながら抱き付き、こちらを逃がすまいとするように頭を引き寄せてきた。
 それはキスの快感に酔いしれ、男の肉体に痺れ始めている状態と言えただろう。
 唇を放すと、荒い呼吸をしながらボーッとした様子であらぬ方をぼんやりと眺めており、それが何とも可愛らしくも色っぽく感じられたため、肉欲が強烈に高まっていくのが感じられた。
「雪花、大丈夫?」
「大丈夫ぅ……」
 歩美の言葉に、雪花はとろんっとした表情で答えている。
 普段目にしないそうした様子は、女を感じさせて興奮を誘った。
「それじゃ、もっと色々してもらおうね? 緋道くん、お願い」
「分かった……」
 歩美の言葉に頷いてから、雪花をゆっくり床に横たえ、順に制服のブラウスのボタンを外していく。
 まだキスの快感で朦朧としているのか、雪花は上気した顔をこちらへ向けるだけで、特に反応を示さなかった。
 白いブラジャーが見え、その小ささに改めて雪花の幼さを感じながら上にずらすと、可愛らしい膨らみが現れた。
 横たわっているせいで膨らみがほとんど無くなっているものの、ほんのりと肉が山を描いているのが分かり、その頂点には桜色をした小さな乳首があった。
 制服の間から覗く白い肌が眩しく、その中で目印のように存在するその二つの突起は、何とも可憐な印象をもたらした。
 その様子に興奮を高めた神治は、手を伸ばして撫でるようにして触れていった。
「あ……」
 微かに肉がへこむ感触と温かな体温が伝わり、それと共に小さな唇から零れた吐息に興奮を覚える。
 そのまま両手で回すようにして撫で、親指と人差し指の間で掴むようにしていく。
「あ……や……」
 ピクッと体を震わせ、嫌がるような声を漏らす様子にゾクゾクとした興奮を覚える。
 小柄な体は両手で掴めてしまうのではないかと思えるほどの細さであり、その幼さを感じさせる少女が、いやらしい声を漏らしているのに興奮が高まっていく。
「はぅ……あ……緋道……やぁ……」
 乳首にチュっと吸い付くと、その瞬間小さな体が硬直し、可愛らしい声が耳に響いた。
 そのまま舌先で擽るようにして舐めていくと、甘い吐息が断続的に漏れ聞こえ、幼い体がピクピクと震えた。
 もう片方の乳首を摘んで捻ると、ビクンっと体が跳ね、小さな頭が左右に振られていく。
「雪花、どう? 気持ちいい?」
 尋ねてくる歩美の言葉に、雪花は恥ずかしそうにコクリと頷いた。
「良かったね。それじゃもっと気持ち良くしてもらおうね?」
 歩美が視線で促すようにしてきたため、それに応じて下半身へと移動する。
 制服のプリーツスカートから伸びる細い脚に触れると、小さな体がピクッと反応を示し、モジモジするような動きをした。
 優しく撫でるように太ももに手を這わせ、徐々に上へ動かしていくと、「あ……はぅ……そこは……」と切なげな声が漏れ聞こえてきた。
 そのままスカートを捲り上げ、パンティに手を掛けて引き下ろそうとしていく。
「あっ……やっ……駄目っ……駄目ぇっ……」
 不意に雪花は体を捻ると、行為を嫌がるようにして縮こまった。
 少し震えているところから、怖くなったのかも知れない。
「大丈夫だよ雪花……緋道くんは優しいから……大丈夫、大丈夫だよ……」
 そう言いながら歩美がゆっくり頭を撫でていくと、雪花は徐々に表情を穏やかにさせていった。
 そして恐る恐るといった感じで仰向けになると、恥ずかしそうに顔をそむけている。
「雪花のここ、緋道くんに触ってもらおうね?……大丈夫、大丈夫だから……そうだ、私が脱がせてあげるよ。それなら怖くないでしょう?」
 歩美の言葉に雪花は困ったようにした後、小さく頷いた。
 その様子に微笑んだ歩美は、パンティに手をかけるとゆっくり下ろしていっている。
 可愛らしい秘所が顕わとなり、その綺麗な作りに思わず見とれる。
 幼い肉体だけに、そこもまるで小学生のようだった。
 一瞬、本当に高校生なのだろうかと思ったが、そうした事を雪花が嫌うのを思い出し、慌てて意識から追い払う。
「それじゃ触るよ? いいかい?」
 また嫌がられては困るので事前に尋ねると、雪花は顔を少し赤くしながら小さく頷いた。
 その事に安心しつつ、指で優しくなぞるようにして触れていく。
 するとそれに合わせて小さな体がピクっ、ピクっ、と震えるのを可愛らしく思う。
 雪花は見られているのが恥ずかしいのか、両手で顔を覆うようにしており、その初々しい態度に益々可愛らしさを覚えた。
 敏感な突起に触れると、「あっ……」と甘い吐息が漏れ、そのまま擦るようにしていくと、「やっ……あっ……やぁっ……」と可愛い声が聞こえると共に、大きなリボンを付けた頭が左右に揺れた。
 そうした反応を見ると、もっと気持ち良くさせてあげたくなり、顔を近づけて舌を這わせていく。
「あぅっ……あっ、ああっ……やっ、何っ? あっ……それっ……あっ、ああんっ……」
 舌先で突くようにした後、ベロリと舐め上げると、雪花は体を跳ねさせながら大きな声で喘いだ。
 普段からあまり大声を出さないだけに、よほど気持ち良かったのだろうと思うと満足感が起きてくる。
 そのまま何度も舌を這わし、舐め回していくと、雪花はクネクネと体を動かしながらいやらしく喘ぎまくった。
「あっ……やぁっ……緋道、あっ……緋道やだ、ああっ……そんなの、あんっ……そんなにしたら、やっ、やぁっ……」
 泣きそうな顔でこちらを見つめ、嫌がるような言葉を発しつつも、もっとして欲しいというように股間を押しつけてくるのに苦笑する。
 実に初々しくも可愛らしい反応に嬉しさが増し、もっともっと感じさせてあげようと、執拗に愛撫を繰り返していく。
 そのまましばらくそうしていった後、行為を止めて視線を上げると、顔を桜色に上気させた雪花が、ハァハァと呼吸を荒げながら脱力している姿が見えた。
 それは容姿が幼いだけに何とも可愛らしく、またそれでいて淫靡さを感じさせる部分もあった。
 小学生は何人も抱いてはいるが、彼女達を抱く際には存在しない妙な色気があるのだ。
 やはり高校生であるために、本物の小学生には無い要素が感じられているのかも知れない。
「雪花……そろそろいいよね? 準備としてはもう十分だと思うから……緋道くんに、入れてもらお?」
 歩美が尋ねると、雪花は一瞬どうしようかというような表情を浮かべたが、少しすると決心したように真面目な顔で小さく頷いた。
 その様子にこちらも頷き返すと、起き上がってズボンとパンツを下ろし、肉棒をさらけ出す。
 元気良く屹立している肉棒を見たのか、雪花の息を飲むような声が聞こえる。
 その事に初々しさを感じつつ、恥ずかしげに閉じられている細い両脚を持つと、引き寄せながら腰を近づけていった。
 雪花が不安そうな顔をして見つめてくるのに微笑んで頷きながら、ゆっくりと肉棒を秘所へと触れさせていく。
「入れるよ?」
 確認のために問いかけると、雪花は体を硬直させたが、神治がそのまま動かないでいると、やがて力を抜いていった。
 その瞬間腰を前へ進め、肉棒を押し込んでいく。
「あ……」
 か細い声が聞こえたため視線を向けると、驚愕の表情を浮かべて硬直している顔が見えた。
 痛みを感じさせない「気」を送りつつ肉棒を奥へと進め、そのたびに起こってくる快感にうっとりとなる。
 強い締め付け具合と、ウニュウニュと絡みついてくる膣襞がなかなかの良さを感じさせ、それは何とも幸せを実感できる状態だった。
 繋がった。
 友人であり、以前から可愛く思っていた雪花とついに繋がったのだ。
 満足感と達成感が湧き起こり、肉棒から押し寄せてくる快感をさらに強いものにしていく。
 雪花とはこうした関係になるとは思っていなかったし、何より予想外の成り行きでの結合であった事が、普通以上の嬉しさを生んでいるのだろう。
 これも全て、そうなるよう導いてくれた歩美のおかげだった。
 感謝の想いを込めて歩美に視線を向けると、神妙な面持ちで雪花のことを見つめている姿があった。
 初めてのセックスだけに心配しているのだろう。 
 雪花の方は、苦悶した表情を浮かべて硬直している。
 痛みは無いはずだから、これは胎内に異物が入り込んだことへの違和感と嫌悪感、そして精神的な忌避感からくるものだろう。
 肉棒を全て入れ終えてから大きく息を吐き出し、一旦動きを止める。
 改めて雪花の様子を眺めると、可愛らしい顔が泣きそうな表情を浮かべており、何かを必死に耐えているような雰囲気を感じさせた。
 胸元では制服のブラウスがはだけて慎ましい胸が晒され、捲れ上がったプリーツスカートの下では、綺麗な秘所が肉棒を飲み込んでいる様子が見えた。
 幼い容姿だけにそれは何とも卑猥に感じられ、興奮が高まったせいか肉棒が大きく脈動するのが感じられた。
 強く締め付けてくる膣の感触は極上で、早くも精を吐き出させようとウネウネ蠢いてくるのがたまらない。
 すぐにでも腰を動かしたかったが、あまり急ぎすぎては雪花が怖がるだろうと思ったため、ジッとしたまま動かないでいる事にした。
「雪花、大丈夫? 緋道くんの入ってるよ? どう?」
「うぅ……変な……感じ……お腹が変……」
 泣きそうな声でそう告げ、雪花は歩美に助けを求めるような視線を向けている。
「大丈夫だよ。それはそういうものだから。それでどう? 緋道くんに対して、どんな感じ?」
「緋道?……あぁ……光ってる……何これ?……何でこんな風になってるの?……っていうか、何か幸せ……緋道見てると……幸せ……幸せぇ……」
 トロンっとした表情を浮かべ、雪花は涙ぐんでいる。
 どうやら神性を感じているらしい。
 まだ入れただけだというのに、すでにそのような認識があるとは驚きだった。
 元々「気」を操れているだけに、神性を感じる能力が高いのかも知れない。
「それが緋道くんの凄さだよ……緋道くんに抱かれてると幸せでしょ? 世界が明るく見えてくるでしょ? これが私たちが緋道くんに感じているものなんだよ。どう? 雪花にも分かる?」
「ふぁ……分かる……緋道……凄い……緋道は、凄いよぉ……」
 不意に雪花が涙を流したためハッとなった。
「嬉しいんだね? 嬉しいんだね雪花……緋道くんの物になれて、嬉しいんでしょう?」
 歩美には涙の理由が分かったらしく、自らも泣きそうな顔をしながら呟いている。
「私……緋道の物……緋道の物なんだ……緋道に全部、あげたい……あげたいよ……私の全て……緋道の物なのぉ……」
 そう言いながら求めるようにして両腕を伸ばしてくる。
 それに応えて体を寄せると、背中に腕が回され、強く抱き付かれた。
 同時に膣内が激しく収縮し、その刺激に快感が走り抜けていく。
「緋道……もっと……もっと私を貰って……私を緋道の物に……もっと緋道の物にしてぇ……」
 しがみつき、甘えるように頬ずりしてくるのに愛おしさが強まっていく。
 雪花は完全に部の民として覚醒したようだった。
 抱いても部の民の資質は無いかも知れないと心配していた訳だが、どうやら杞憂で済んだらしい。
 しかし考えてみれば、東京へ出てきてから抱いた女性達はことごとく部の民として目覚めていたため、こうなるのも当然の結果だったのかも知れない。
 というか、何故親しくなる女性全てに部の民の資質があるのか謎だった。
 もしかしてそうした女性であるからこそ、自分に好意を抱いているという事なのだろうか。
 以前から感じていた不思議な状況を改めて考えながら、こちらをうっとりと見つめている雪花に微笑みつつ、ゆっくりと腰を動かしていく。
「あっ……あっ……ああっ……これ、あっ……これ、あぁっ……これ何? ああんっ……」
 不審そうに、それでいて嬉しそうに喘ぐ雪花の姿に愛おしさが増していく。
 腰の動きに合わせて大きなリボンを付けた頭が揺れ、快楽に染まった幼い顔が、惚けたようにしながら歪んでいく様を眺める。
「これが緋道くんだよ……今雪花は緋道くんを感じているの……緋道くんの素晴らしさを体感しているんだよ……」
「あっ、ああっ……これがそう、あっ……そうなんだ、ああっ……これが歩美達が、あっ……緋道に感じてる、ああっ……素晴らしさなんだ、あっ、ああっ……」
「そうだよ……緋道くんのこと、神様みたいに思えるでしょ?」
「思える、あんっ……思えるよ、ああっ……緋道凄いから、あんっ、あっ……こんなの、あっ、やぅっ……神様以外、あっ……あり得ない、あぅんっ……」
「これで雪花も同志だね……もう疎外感を感じないで済むよ。だって仲間になったんだもん」
「嬉しい、あっ、あんっ……歩美嬉しいよ、あぅっ……私も仲間、あっ、ああっ……同志、やぁっ……歩美達と一緒、やっ、やぁっ……」
 感極まったのか、雪花は涙を流しながら激しく悶えている。
 涙混じりの喘ぎ声は強いいやらしさを感じさせたため、腰の動きが自然と速くなっていった。
 神性を感じた部の民が、何故こうした状態になるのか分からなかったが、それが神性の凄さという事なのかも知れない。まさに抱かれることで神性を認識している訳だ。
 しかし男の場合はどうなのだろう。
 女性は抱くことで神性を感じさせることが出来る訳だが、男は抱けないのだからそうした事は出来なかったからだ。
 別に男の部の民が欲しいという訳ではなかったが、緋道村では男女共に未迦知神の部の民であったため気になったのである。
 何か違った方法で部の民として覚醒させるのだろうか。
「あっ、あぅっ……あっ、やっ、やぁっ……緋道っ、緋道ぉっ……あっ、ああっ……いいっ、いいよぉっ……緋道いいよぉっ……」
 そうしている間も腰は動いており、雪花は気持ち良さそうに喘いでいた。
 はだけた制服の間からは慎ましい膨らみが覗いており、それが腰の動きに合わせて微かに前後するのをいやらしく感じる。まさに繋がっているという印象を覚えるからだ。
 突き込みをするたびに可愛らしい眉根が寄せられ、悩ましげな表情を浮かべるのに、色っぽさを感じて肉棒が猛った。
 そうした女を感じさせる表情をされると、幼い顔立ちゆえに、大人の女性に感じる以上のいやらしさを覚えるのだ。
「あぐっ、あっ、ああっ……凄い、あっ……凄いよ、ああっ……凄いぃっ……」
 床に爪を立て、小さな頭を左右に激しく振りながら雪花は悶えた。
 処女でここまで感じるというのは普通は無いだろうが、淫の「気」を強く与えているがゆえの反応だろう。
 さらに部の民ともなれば、「神に愛されている」という喜びも存在するため、強烈な快感を得ているのかも知れない。
「あっ、あんっ……わたし、ああ……わたし変、ああっ……わたし変だよぉ、あんっ、あっ……何か来る、やぁっ……何か、あぅっ……何か来るのぉっ……」
 雪花が切羽詰まったような表情をし、不安げな声をあげ始めている。
 どうやら絶頂が近いようだ。
「大丈夫だよ。そのまま受け入れて……それは雪花の緋道くんに対する想いだから……素直に受け入れて、雪花の全てを緋道くんに捧げるの……そうすれば凄く幸せになれるよ……分かるでしょ? そうしたいって雪花も感じてるでしょ?」
 歩美の言葉に雪花は大きく頷いている。
 二人のやり取りを聞きながら、神治は部の民が絶頂に至る時にはそのような感覚があるのかと驚いていた。
 歩美達が自分に全てを捧げるような発言をするのは、絶頂の際のそうした想いが絡んでいるという事なのかも知れない。
 要は強烈な快感の発露である絶頂に伴い、神治に対する執着心も高まっていく訳だ。
 人間にとって快楽は強く求めてしまう刺激であるし、何より生殖行為は本能において最も重要な要素である事を考えると、それが強烈に高まる状況において、相手に全てを捧げるような想いを抱くというのは、強烈な執着や依存を生んでも不思議ではないように思えた。
 恋愛感情を抱いた男女が、セックスをするとより強い好意を持つようになるのも、そうした部分が作用しているのだろう。
 それがさらに強まっているのが、神に対する部の民の想いといったところだろうか。
 そんな事を考えつつ、射精感が高まっていくのを感じた神治は、このまま一気に精を放とうと腰の動きは速めていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……駄目っ、駄目っ、駄目ぇっ……わたし、あぅ……わたしぃ、あぁっ……やっ、やっ、やぁあああああああああんっ!」
「うっ!」
 雪花が強く抱き付いてくるのと同時に、膣内が強烈に締まり上がり、それに耐えかねた神治は精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 勢い良く迸る精液を感じながら、湧き起こってくる快感に身を委ねる。
 射精が行われるたびに、雪花の唇から「あ……あ……」といった切ない声が漏れ、目が大きく開かれているのを眺める。
 何とも初々しい感じであり、この可愛らしい少女を己の物と出来た事に喜びが湧き起こった。
 少しして射精を終えると、力を抜いて雪花の上にゆっくりと倒れ込む。
 小さな柔らかい肉体が受け止めてくれるのに心地良さを覚えながらも、あまり乗っていては重いだろうと横にずれると、雪花は大きく息を吐き出した。
「雪花、どうだった?」
「はぅ……凄かった……」
 歩美の言葉に、雪花はうっとりとした様子で答えている。
「緋道くんのこと、すっごく好きになっちゃったでしょ?」
「うん……緋道、大好き……」
 そう言いながら見つめてくるのにドキリとしてしまう。これまでの付き合いではあり得ない言葉だったからだ。
 伊吹をからかうために何度か言われたことはあったものの、それは冗談と分かるものでしかなかったが、今のは強い想いが感じられたからだ。
「これで雪花も私たちの仲間だね。同志だよ」
「同志……」
 雪花は嬉しそうに微笑んでいる。
「それにどう? 自分の体のこと、自信を持てるようになった?」
「少し、だけ……」
「良かったね。緋道くん、雪花の胸を凄く触ってたもんね。やっぱり実際にされると、自分の体が男の子を夢中にさせてるって嬉しくなるでしょ?」
「うん……なる……」
 雪花は大きく頷くと、自分の胸を見つめて誇らしげにしている。
 胸のことでそうした表情を浮かべているのは初めてであったため、何とも驚きのことだった。
「でももっとしないとね。もっと抱いてもらって、自分が緋道くんの物だって想いを強めてもらうの。自分の体が緋道くんの物だって、神様に認められた体だって想いを強めてもらうんだよ。そうするともっと幸せになれるから」
「うん……抱いて、もらいたい……」
 そう呟いた雪花は、そのままこちらをジッと見つめてきた。
 その瞳を見ていると、強くおねだりされているのが感じられたため可愛らしさを覚える。
 元々無口な少女だけに、そうした無言で訴えてくる行為をされると、何ともたまらないものがあったのだ。
「それじゃ、また抱いていいのかい?」
「いい……っていうか、そうして欲しい……」
 何とも積極的に言ってくるのに心臓が跳ねた。
 このような行為を望んでくるなど、これまでの雪花ではあり得ないことだったからだ。
 これが部の民として覚醒したという事だろうか。
「でも……あんまり激しいと……ちょっと怖い……緋道、乱暴……」
 しかしすぐに普段の雪花のような指摘もしてきたため安心した。
 やはり雪花はこうでないと物足りないからだ。何よりそこが可愛いのである。
「了解。乱暴にならないようにするよ。でも聖川さんは可愛いからね。つい乱暴にしちゃうんだ。前に言ったろ? 俺は聖川さんの小学生みたいな容姿を魅力的に感じてるんだ。だから興奮も凄くなるんだよ」
「うぅ……緋道……馬鹿……小学生みたいとか、言うな……」
 雪花は困ったように呟きながら、恥ずかしそうに視線をそらしている。
 だがその言葉には、以前はあった辛そうな雰囲気はなかった。むしろ指摘されて喜んでいるような感じがあるくらいだ。
「だってしょうがないだろ、本当にそうなんだから。聖川さんの可愛い顔、小さな体……特にこの胸の膨らみなんて素晴らしいよ……綺麗すぎて溜息が出るね……」
 そう言いながら慎ましい膨らみを撫でる。
「ひゃっ……馬鹿……こんな小さいの……何でいいの……?」
 雪花は視線を歩美に向けており、暗に「こうした大きい方がいいはず」と問いかけているように思えた。
「そりゃ大きいのも好きだけどね……でも小さいのも好きなんだよ。前に言っただろ? 熟女も好きだけど小学生も好きだって。俺の許容範囲は広いんだ」
「でも……大きい方が……」
 拘って何度も言ってくるのは、それだけ雪花のコンプレックスが強いという事なのだろう。
 一度抱かれたことである程度は自信を持てたとはいえ、それでもなかなか消えないといったところだろうか。
 特に今は部の民として覚醒しているだけに、神治に気に入られる事を求めて余計にそうなっているのかも知れない。
「雪花はしょうがないなぁ。自分がどれほど魅力的なのか自覚ないんだから……いい? 今の緋道くんはね、私を抱く時と同じくらい興奮してるよ? ううん、下手したら私の時より興奮してるかも。だから私、ちょっと雪花に嫉妬してるんだから」
「歩美……そんな……」
 不意に歩美が、それまでと違った怒ったような口調で告げてきたため驚く。
 雪花も面食らっているのか、困惑した様子で呟いている。
「嘘だと思う? だとしたら酷いよ? 自分の方が緋道くんを興奮させてるのにそれを否定するなんて、凄く酷いことなんだからっ」
 珍しく本気で怒っているように思える歩美の様子に、雪花は唖然としている。
 暢気なところのある歩美はほとんど怒ったことなどなかったため、そんな彼女がこのようにしているのは、神治にしても驚きだった。
「私はね、本当は緋道くんを独り占めにしたいの。でもそれは出来ないって分かってる。だって緋道くんは神様だもん。沢山の人を幸せに出来る存在なんだよ。だから私だけの物にしちゃいけないんだ。それより自分と同じように幸せになる人を増やしたい。それが緋道くんのためにもなる。私はそう考えてHIJIN会を作ったの。雪花を抱いて欲しいって思ったのも、大好きな雪花と同志になりたかったからだし、雪花にも幸せになって欲しいって思ったからなんだよ。だからいつまでも自分を卑下して、自分を貶めるような事を思うのは止めて。雪花は小学生みたいだけどそこが可愛い。そこが可愛いんだよ? 緋道くんは小学生みたいに可愛い雪花に惹かれてるんだから、そこを否定したら、緋道くんを惹き付けている要素を自分で排除することになるよ。それでもいいの?」
 長々と語った歩美は、大きく息を吐き出すと、少し憮然とした表情で押し黙った。
「ご、ごめんなさい……」
 雪花は泣きそうな顔をして謝っている。
 そして慌てて起き上がって正座をすると、頭を下げながらもう一度「ごめんなさい」と呟いた。
 その様子を見ていた歩美は、何やら困ったような表情をしてから俯き、そのまま少しの間黙っていたが、不意に顔を上げた。
「ううん、謝るのは私の方だよ。何か自分の苛々を雪花にぶつけちゃってた……ごめん、偉そうに言ってるけど、私、ホントは嫉妬してただけだから……目の前で雪花が緋道くんに抱かれてるの見てたら、凄く羨ましくなっちゃって……なのに雪花が自分の体のこと卑下してるから、『何よ、緋道くんに抱かれてるくせにっ』ってなっちゃったんだね……あ〜〜あ、自己嫌悪。友達に八つ当たりするなんて恥ずかしすぎるよ。雪花、本当にごめんね……」
 床に付くほど頭を下げている歩美の姿に、雪花は驚いたようにして目を丸くしている。
「悪いのは……私……歩美のこと、考えてなかった……だから、謝らないで……」
 そう言いながら肩を掴んで頭を上げさせている。
「そうだね……それじゃお互い様ってことで……これから雪花は私の事を考えて。私も雪花のこと考えるから」
「分かった……歩美のこと、考える……」
「うん。これで問題なし」
 二人は楽しそうに微笑み合うと、強く抱き締め合った。
 その様子に神治も嬉しくなった。
 仲の良い二人の関係がおかしくなりかねない状況であったため、それが何とかなった事に安堵の息を吐き出す。
「それじゃ、緋道くん。雪花のこと宜しくね? もう一度抱いてあげて」
「ううん……今度は、歩美の番……歩美が、抱いてもらう……」
「え? いいよ。まだ後でいい……今はとにかく雪花が緋道くんに抱かれるのが大事だから……だって凄く落ち着かないでしょ? 私も最初の時にそうだったから分かるんだ。最初に抱かれた後って、おかしくなりそうなほどに緋道くんを求めちゃってるから……」
「うぅ……実は、そう……凄くして欲しい……」
 歩美の言葉に、雪花は恥ずかしそうに俯いた。
「という訳で、緋道くんは雪花をもっと抱いてあげて。それで少し落ち着いたら私もお願い。いいでしょ?」
「いいよ。俺的には二人を抱けるのは嬉しいからね。っていうか、こんな事になるなんて思ってもみなかったなぁ。何か未生さんに上手く乗せられたって感じだ。まあ、聖川さんを抱けるようになったから最高だけど」
「ほら、聞いた雪花? 雪花を抱けるのって最高だって。こんなに緋道くんは雪花のこと求めてるんだよ?」
「うん……嬉しい……」
「もう自分の体、卑下しない?」
「しない……だって緋道が……悦んでくれるから……私の体……凄く、いい……」
「そう、それでいいんだよ。雪花の体は凄くいいんだから。ね、緋道くん?」
「当然でしょ。俺は前からそう言ってたからね。だから聖川さんの事はずっと抱きたかった」
 そう言いながら雪花の体を引き寄せる。
「あ……」
「未生さんの了解も得られたことだし、満足するまで抱くからね」
「うん……」
 恥ずかしそうに頷く雪花を可愛らしく感じながら、神治はその小さな体を抱き締めると、ゆっくり押し倒していくのだった。


「あっ、あっ、ああっ……」
 ベッドの上で四つんばいになった雪花を背後から犯していると、その体の小ささがより感じられ、何ともいけない事をしているような気がしてくる。
 これまで多くの小学生を抱いてきてはいるが、幼い少女を抱く行為というのには、いつになってもそうした感覚が付きまとっていた。
 やはりどこかひ弱な存在をいたぶっているような雰囲気があるからだろう。
 実際には相手は快感によがっている訳だが、そうした様子というのは苦しんでいるようにも見えるため、そんな想いが起きるのかも知れない。
 裸になった雪花の体は、そのか細さがより分かるようになっており、腰を両手で掴んでいると、左右の指先がくっつくのではないかと思えるほどだった。
 目の前では可愛い尻がこちらの突き込みに合わせて揺れており、その小ささにも嗜虐的な想いが湧き起こってくる。
 真っ白な肌には染み一つ無く、降り積もった雪のような美しさがあり、体の小ささと相まって、汚したくなる衝動を覚えさせるものがあった。
「やっ、やっ、やぁっ……ダメ、あっ……ダメぇ、ああっ……それダメぇっ……」
 普段の口調からは想像出来ない甘ったるい声が聞こえ、それがまた幼さを感じさせたため、さらに嗜虐心が高まった。
 この幼い肉体を征服したい、支配したい、思い通りにしたい。
 そうした衝動が湧き起こり、肉棒が激しく猛っていく。
 よく知っている友人であるせいか、普段は見せない女の部分を見ていることに、より興奮が高まっているのかも知れない。
 さらには膣内の感触もかなり良く、肉棒に強く吸い付き、なぶってくるその蠢きは、蕩けるような快感を感じさせた。
 幼い容姿に似合わない、女としての優れた機能。
 そうしたギャップも、雪花の魅力となって肉欲を高めていたのだった。
「あんっ、あっ、緋道、あっ……緋道それ、ああっ……緋道それダメぇっ……」
 強い突き込みに合わせて大きなリボンを付けた頭が何度も仰け反り、ベッドに付いた手がブルブル震えているのが見える。
 今にも崩れそうなその様子に、神治はもう一押しとばかりに突き込みを大きく深くしていった。
「ああっ、あっ……やっ、当たる、あんっ……当たるの、ああっ……当たるよぉっ……凄い、あっ……凄いの、あぅっ……凄いよぉっ、ああんっ……」
 亀頭の先に何かが当たる感触が起きると共に、それを感じたらしい雪花が腕を崩した。
 上半身をベッドにつけ、尻を掲げた姿勢は、幼い容姿だけに実に卑猥な印象を与えた。
「あんっ、ああっ……やっ、やんっ、やぅっ……」
 そのまま小さな尻が背中に付きそうになるほど強く突き込んでいくと、雪花は大きなリボンを付けた頭を左右に激しく振り、シーツを掴んで引き寄せている。
 その様子は、幼い少女を己の支配下に置いている感覚を強め、ゾクゾクするような興奮を感じさせた。
 この少女をもっと好きにしたい。肉棒で突いて喘がせ悶えさせ、もっともっと自分に夢中にさせたい。
 そうした想いが溢れるように押し寄せ、腰の動きを激しくさせていく。
「わたしもうダメ、ああっ……あっ、あぅっ……わたしもう、あんっ……もうダメだよぉ、あっ、ああっ……イっちゃう、あっ……イっちゃうの、ああんっ……」
 シーツを強く掴み、泣き声混じりの喘ぎをあげながら、雪花は小さな体を震わせていた。
 振り返って見つめてくる瞳には、女を感じさせるいやらしさがあり、それは幼い容姿には不似合いな、何とも淫靡なものがあった。
 もうすでに何度も絶頂を経験し、女としての悦びを味わってきたゆえに、そうした色気を纏うようになっているのだろう。
 鼻に掛かった喘ぎにも、再び訪れる絶頂の瞬間を期待し、早くそれを自分にもたらすよう要求しているような雰囲気があった。
 そんな雪花の様子に神治の射精感も目一杯高まり、このまま一気に精液を放とうと腰の動きに力が籠もっていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……いいっ、いいっ、いいよぉっ……緋道いいのぉっ……わたし、あっ……わたしダメぇっ……緋道っ、緋道っ、緋道ぉっ……やっ、やっ、やぁああああああああんっ!」
「うぅっ!」
 小さな尻をギュッと掴み、思い切り精を放っていく。
 ドクドクドクと放出されていく精液を感じながら、それを吸い取ろうとするかのように収縮する膣内の蠢きに歯を食いしばる。
 何ともたまらない快感が脳を刺激し、蕩けるような気持ちの良さにうっとりとしながら射精を繰り返していく。
 目の前では小さな裸体がピクピクと震えており、その中へ自分の精液が注がれているのだと思うと、強烈な満足感が起こった。
 ベッドに押し付けられた可愛い顔からは、「緋道……緋道ぉ……」といった呟きが漏れ聞こえ、自分を求めているその様子に嬉しさで一杯になる。
 しばらくして射精を終えた神治は、肉棒を引き抜いて腰を下ろした。
 雪花は意識が朦朧としているのか、上半身をベッドに付け、尻を掲げた状態のまま動かずにジッとしている。
 小さな割れ目から精液が垂れるのが見え、この少女の中に射精したのだという実感を得て興奮が高まっていく。
「雪花は満足したみたいだね……何か寝ちゃってるよ」
「え? 寝てるの?」
 驚いて顔を覗き込むと、確かに可愛らしい寝息を立てて寝ているのが見えた。
 姿勢は先ほどの状態のままであったため、よほど疲れたということかも知れない。
「ふふ……このままの方が可愛いけど、疲れちゃうだろうから横にしてあげるね」
 歩美はそう言いながら雪花を横たえると、こちらをジッと見つめてきた。
「それじゃそろそろ……私もいいよね? ずっと見てるだけだったから、辛かったんだからぁ」
 不意に抱き付いてくるのに驚きつつ、体の前面に押し寄せてくる肉の感触に心地良さを覚える。
 雪花と同じく童顔で小柄な肉体ではあるが、歩美は肉付きが良く、胸はもちろんだが、体全体に柔らかな感覚があった。
 今までか細い雪花を抱いていただけに、この感触は違った気持ちの良さを呼び起こし、肉棒を硬く大きくさせていった。
 幼い肉体を堪能した後は、豊満な肉体を味わうのだ。
 そう思いながら抱き締め返すと、女肉の心地良い感触が強く感じられるのに肉棒が猛っていく。
「緋道くぅん……んっ、んんっ……んふぅ……」
 泣きそうな顔でしがみつき、唇を寄せてくるのに吸い付いていく。
 小さな舌が絡み、口内を舐め回してくるのに肉棒がビクンビクンと震える。
 すでにセックスに慣れている歩美との絡みは、肉欲を高めるのに時間がかからなかった。
 雪花相手に何度も射精しているにも関わらず、すぐにでも入れたくなっているのがその証拠だろう。
 ゆっくりと床に押し倒し、制服の胸元をまさぐると、豊かな乳房の存在が感じられ、その量感に雪花の時とは異なる興奮が湧き起こっていく。
 雪花は全てが小学生のようであるため、幼い少女を犯しているような禁忌の想いを呼び起こすが、同じく見た目は小学生であっても、肉付きが豊満な歩美には、ギャップから来る興奮があった。
 小学生みたいであるのに胸は大人並。いや、大人であっても大きめであることを考えると、その差が強烈な刺激となるのである。
「あっ、あんっ……緋道くんに揉まれると、あっ……蕩けちゃうぅ……」
 手で巨乳を鷲掴み、ヤワヤワ揉みしだくと、歩美は嬉しそうな声をあげた。
 まだ硬さを残しつつも、かなりの柔らかさを感じさせるその膨らみは、まさに女を抱いているという感覚を抱かせ、肉欲の衝動を強めた。
 この肉を直接味わいたい。
 そうした意識が高まり、鼻息を荒くしながらブラウスのボタンを外していく。
 左右に開かれた白い布地の間から、ボヨンっといった音が聞こえてくるかのようにして大きな膨らみが現れた。
 その白い肉の塊に一瞬見とれつつ、そのままブラジャーも下へ引き下ろすと、ボヨンボヨンっといった感じで乳房がまろび出てくる。
 幼い顔立ちに小柄な体のくせに、どうして胸だけはこれほど大きいのだろう。
 このような存在が傍に居るとなれば、雪花が胸の大きさに拘ってしまうのも仕方ない事なのかも知れない。
 何しろ胸以外は同じ要素になっているのだから、「何故そこだけが自分は違うのだ」となってもおかしくないからだ。
「あんっ、あっ、ああっ……いいっ、吸われるといいよぉ、あっ、あんっ……緋道くんに吸われるの、あっ……凄くいいっ……」
 乳首に吸い付き、舐め回すと、歩美が可愛らしく悶えた。
 短い髪を揺らしながら頭を左右に振り、もっとして欲しいとばかりに胸を押し付けてくるのがたまらない。
 顔が巨乳に埋もれ、その事に苦しさを覚えるが、女肉の感触にうっとりとした想いを抱きつつ、そのまま大きな乳房を激しく揉みしだいて、乳首に強く吸い付いていく。
 白い膨らみがムニュムニュと形を変え、ピンク色をした突起がプックリと立っていく様には、何とも言えない満足感と充実感があった。
 桜色に上気した幼い顔が快楽に歪み、小さな体が愛撫に合わせていやらしくくねる様子を見ていると、それだけで射精したくなってきた。
「はぅっ、あっ、はぁんっ……ね、緋道くん、ああっ……もう、あっ……もう入れて、ああっ……わたしずっと見てたから、あんっ……もう限界、あぅっ……入れてもらえないと、やんっ……おかしくなっちゃう、ああっ……」
 腰に脚を絡みつかせ、肉棒を擦るようにして動かしてくるのに快感が走り抜ける。
 何といやらしい動きをしてくるのだろう。
 それだけ肉棒が欲しくてたまらなくなっているに違いなかった。
 確かに雪花との行為をずっと見ていた訳だから、欲求不満にもなるだろう。
 それなのに雪花が寝るまでは、その事を言わずに待っていた事を考えると、何とも我慢強いというか、雪花の邪魔をしたくなかったのだという想いが伝わってきた。
「分かったよ。入れるから……取り敢えず脚を放してくれ」
「あ、うん……早く、早くね? もう我慢できなくなってるんだからぁ……」
 泣きそうな顔で告げてくるのに可哀想になってくる。
 そう言えば歩美は、抱かれていないとおかしくなる傾向が以前からあった。最近あまり抱いていなかっただけに、そういう意味でも辛くなっていたのかも知れない。
 プリーツスカートを捲り上げ、パンティを引き下ろすと、そこにはすでに濡れ濡れの秘所が存在していた。
 パンティもかなり濡れていたため、よほど感じていたのだろう。
 目の前でセックスを見せられていた訳だから当然かも知れないが。
「それじゃ入れるよ?」
「うん、うん……早く早くぅ……」
 腰を近づけると、すぐさま両脚が絡みついてきた。
 まるでもう逃がさないと告げているかのような動きであったため、思わず苦笑すると共に、それだけ歩美を夢中にさせているのだという事に嬉しくなってくる。
「あぅんっ……あっ……あぁっ……いい……緋道くんの……いい……」
 ズブリズブリと入り込んでいく肉棒を感じているのか、歩美はうっとりとした表情であらぬ方向を見つめている。
 肉棒は膣襞にガッチリと掴まれ、いやらしい蠢きでなぶられており、その感触に強烈な気持ちの良さを覚える。
「未生さんの中も……凄くいいよ……ふ〜〜、いい……」
 奥まで肉棒を押し込んだ後、一旦動きを止めて大きく息を吐き出す。
「ああっ、緋道くんだ……緋道くんだよぉ……緋道くんを凄く感じる……緋道くんと一つになってる……嬉しい……嬉しいよぉ……」
 背中に腕を回し、強く抱き付いてきながら、涙を流して喜ぶ歩美の姿に愛おしさを覚える。
 何とも強い執着を持たれているのだと改めて認識しつつ、このような可愛い少女相手にそうされている事に嬉しさが湧き起こった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……動かれると凄くいい、やっ、やんっ……緋道くん最高、ああっ……緋道くん凄いの、あんっ……もっとして、あっ……もっとだよぉっ……」
 両腕両脚が強く絡みついて引き寄せられると、胸元で豊満な肉の潰れる感触が広がり、その心地良さに腰の動きが速まっていく。
 幼い顔に似合った幼い声が、幼さに似合わない淫靡な喘ぎを発するのが、たまらないギャップとなって肉欲をそそった。
 すでに雪花で何度も射精をしているが、すぐさま射精したくなってくるのだから、かなり興奮が高まっていると言えただろう。
 やはり雪花とは異なる魅力があるゆえに、新鮮な想いで抱いているからかも知れない。
 特に胸元でポヨンポヨンと揺れ動く肉の塊は、肉欲を激しく刺激し、腰の動きを激しくさせる要因となっていた。
「やっ、やぅっ……あんっ、やんっ、はぁんっ……緋道くぅん、あっ、ああっ……そこ、あぅっ……そこぉ、ああっ……そこもっとぉっ……」
 何とも可愛らしい声でおねだりされると、要求通り、いや、要求以上の快楽を与えたくなり、強く大きく肉棒を突き込んでしまう。
 ここら辺のおねだりの上手さも、雪花にはない、歩美独特の良さだった。
 幼さを嫌っている雪花と異なり、幼さがいやらしさに繋がっていると無意識に認識しているように思える歩美は、抱けば抱くほど幼さからくる淫靡さが増していくのだ。
 甘えるように可愛らしく喘がれると、それだけで射精しそうなほどの興奮が湧き起こり、その声を何度も聞きたくなって腰を激しく振ってしまうのである。
「ああんっ、あっ、やぅっ……凄い、ああっ……凄いよぉ、あっ、あぅっ……緋道くん凄いの、ああっ……凄いの凄いぃっ……」
 頭を左右に激しく振り、床に爪を立てて甘く喘ぐ歩美の姿は、容姿や声が幼いだけに何ともたまらないものがあった。
 何よりそうした幼さに似合わない胸元の大きな膨らみとのギャップは、さらに興奮を誘い、射精感を一気に高めていく。
 肉棒を包み込む膣襞もウネウネと絡みつき、強烈に吸い付いてきたため、早く射精したくてたまらなくなった。
「緋道くんわたしもう、あっ、ああっ……わたしもう駄目だよ、あっ、ああっ……イっちゃう、あんっ……もうイっちゃうの、ああっ……イっちゃうんだからぁっ……」
 体全体でしがみつき、もう限界であると主張してくる様は実にいやらしく、肉棒の臨界点が間近に迫っているのを感じさせた。
 歩美の体を抱き締め返し、小刻みに高速で腰を動かし、肉棒を叩き付けていく。
「あっ、あっ、ああっ……こんな、あっ……こんなの、あぅっ……凄い、あっ……激しくて、ああんっ……わたし、あっ……緋道く、ああっ……駄目っ、駄目ぇ、やぁっ……イく、あっ……やっ、やぁあああああああああっ!」
「くっ!」
 可愛らしい絶頂の叫びが部屋に響くと共に、肉棒の栓が解放された。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 強烈な勢いで放出される精液を感じながら、押し寄せてくる快感に浸る。
 両腕両脚でガッチリと固定された状態であるため、歩美の柔らかな肉体が硬直し、脈打っているのが強く感じられた。
 射精のたびに吐き出される精液と、それを感じているらしい歩美の「あ……あぁ……」という可愛らしい吐息を認識していると、強い満足感が押し寄せてくる。
 目の前には毎日のように見ている友人の顔があり、それが快楽に歪んで女の面を見せている様子に、自分は友人とセックスしているのだという現実が認識され、強い背徳感を覚えた。
 他のクラスメートは友人相手にこのような事をしていないだろう。
 自分は雪花と歩美、二人も相手にセックスをしている。
 普通ではありえないそんな状況に、やはり自分には通常の高校生活は送れないのかもな、などと思った。
 射精を終えてから力を抜くと、歩美が優しく抱き締めてきた。
「ねぇ……わたし、まだ満足出来ないよぉ……もっとして欲しいの……わたしをもっと抱いて……お願い……ね? お願い抱いて……じゃないとわたし……おかしくなっちゃう……おかしくなっちゃうんだよぉ……緋道くんが欲しいの……凄く凄く欲しいのぉ……」
 少しおかしくなったような雰囲気でそう告げながら、可愛らしくおねだりしてくる歩美の様子に、嬉しくなりつつ微笑んで頷く。
 こうして可愛くなった歩美を抱かずに居られるはずなどないからだ。
 隣のベッドでは雪花が目を覚ました雰囲気があり、今の様子を見ているとすれば、この後また求められる可能性があった。
 もしかしたらまた辛くなっているかも知れないのだから、十分に可愛がってあげないといけないだろう。
 その事を大変だと思いつつも愛おしさを強めた神治は、この可愛らしい二人を存分に満足させてあげるまで抱くのだと決意し、まずは歩美の二回目だとばかりに肉棒を押し込んでいくのだった。


「という事で、雪花と伊吹くんが新しく入ることになりました。宜しくね」
 そこは文芸部の部室であり、雪花と伊吹が部員達に紹介されていた。
 とはいえ、柚華以外は同じクラスであるし、柚華にしても友人付き合いをしていて、予め入部する事も知っていたため、改めて紹介する必要はなかったのだが。
「聖川は何となく分かるけどよ。何で伊吹も入るんだ?」
 皆が疑問に思っているであろう事を朱理が尋ねている。
「俺は聖川さんと一緒に居たいからな。それだけだ」
 あっさりと答える伊吹に苦笑してしまう。予想通りの答えだったからだ。
 この雪花命な男が、他の理由で入部するはずがないから当然な訳だが。
「まあ、そうだろうとは思ったけどよ……でもHIJIN会にも入るとか言ってるんだろ? お前、分かってるのか? HIJIN会の趣旨」
「分かってるさ。緋道を崇める会なんだろ? 俺は別に問題ないぜ。聖川さんが入るから入るだけだからな」
「いや、そのお前が入る理由の聖川なんだが……聖川がHIJIN会に入る理由ってのは聞いてるのか?」
「そんなの未生が居るからだろ? 仲のいい友達と同じ部活に入りたいってのはありがちじゃんか。ここには須田も居るしさ。聖川さんとしては楽しいんじゃないの?」
 雪花はあまり友達が居なかったため、友人である歩美や柚華が居ることが入部の理由になると考えれば、確かに納得出来るように思えた。
「まあ、それもあるんだろうけどよ……聖川、お前はそれだけじゃないよな? 他にも理由あるよな?」
「ある……」
「そうだよな……で、伊吹としては、そこは気にならない訳か?」
「あ?……何か別に理由があるってことか? まあ、そりゃ気になるっちゃ気になるけどよ……え〜〜、教えてもらえます? 聖川さん?」
「教えない……」
 きっぱり断られた事に、伊吹は悲しそうに顔を歪めた。
「分かってたさ……どうせそうなんだろうって……でもいいんだよ。女の子同士の仲には男が入れない部分もあるからな。聖川さんが未生達と秘密を持っていても、俺は別に構わないから……」
「あ〜〜、でも雪花が入る理由って、緋道くんも埜々宮くんも知ってると思うよ」
「なっ……」
 歩美の言葉に伊吹は絶句している。
「どうしてお前らは知ってるんだよっ。聖川さんに教えてもらったのかっ?」
「いや、教えてもらってないけど」
「言われなくても大体分かるからな」
「なん……だと……?」
 神治と朱理の答えに、伊吹は衝撃を受けたようにしている。
「何でだっ、何で分かるんだっ。どうしてなんだよっ?」
 今にも首根っこを掴んで揺すってきそうな勢いで尋ねてくるのに少し引いてしまう。
 あまりに切羽詰まった様子なだけに教えてあげたくなったが、理由を知ればそれ以上の地獄に堕としてしまうであろう事から止めておくことにした。
「あ〜〜、何となく、かな?」
「そうだな、あとは経験から来る認識ってヤツか」
「何じゃそりゃっ? お前らエスパーかよっ。それとも達人か何かかっ? もっとちゃんとした理由を言えってのっ」
「そう言われてもなぁ……」
「それ以外は無いしな……」
「うぬぅ……じゃ、じゃあ、未生と須田っ。お前らは知ってるのかっ? どうなんだっ?」
 伊吹は焦った様子で叫び、二人の方へ視線を向けている。
「あれ? さっきは女の子同士の仲には入れない、とか言ってなかった? 私たちなら秘密でもいいんでしょ?」
「う……それはそれってことで……もし教えてくれるのならありがたいかなぁ、なんて思ったりして……」
 歩美のツッコミに、伊吹はしどろもどろになっている。
「教えてもいいけど……でも伊吹くんに理解してもらえるかどうか……」
「何っ? いいよいいよっ、取り敢えず教えてくれっ。理解出来るかどうかは後でどうにかするからっ」
 柚華の言葉に、伊吹は大喜びで頷いている。
 よそのクラスであるためか、さほど伊吹に対して意地悪をしない柚華としては、可哀想に思って言ったのだろうが、どう説明するつもりなのだろう。
 まさか部の民の気持ちでも語るのだろうか。
「えっと……そうだね……私たちは、緋道くんに夢中なの。そういう集まりなの。それで同じような人を増やそうって思ってて、それで歩美が作ったのがHIJIN会なのね……つまりHIJIN会に入るってことは、緋道くんに夢中で、緋道くんのために生きたいって思っているって事になるんだよ……だから雪花がHIJIN会に入る決意をしたってことは、そういう想いを持っているってことなの」
「ほ〜〜、なるほど……まあ、そうなんだろうな。前から未生達ってそんな感じだったし。何で緋道がそこまでモテるのか知らんけど、とにかくそんな風になっている訳だよな。ハーレムってのはそういう事だろ? 俺だってそれくらいは知ってるさ。伊達に緋道と友達やってないしな。そんで聖川さんはそこに入る、と。それは未生達と同じ感じになっているからって訳で……」
 柚華の説明に頷きながら呟いていた伊吹は、不意に無言になると、宙の一点を見つめたまま動かなくなった。
「あ……え……あれ?……聖川さんが未生達と、同じ?……同じように、緋道を想っているぅ?……あれ?……何だろ変だな?……それっておかしかないか……?」
 少しすると動きだし、ギクシャクとした様子で柚華の告げたことを咀嚼しているように見えた。
「……それってつまり……聖川さんが緋道の……緋道のハーレムに入るって……そう決意したって事か?……未生達と楽しくやるためだけじゃなく……緋道の物になるって……そんな風に考えているって……そういう事なのかよぉっ?」
 驚愕の表情を浮かべ、伊吹は両手を握り締めたまま固まった。
 その迫力に全員が飲まれたようにして見つめつつ、この後起こるであろう伊吹の崩壊を、不安そうに、気の毒そうに見守っていた。
「ひ、聖川さん……そう、なの、か?……緋道の、物に……緋道の物に、なるつもりで……」
「そう……私は……緋道の物になる……というか、すでになってる……」
「な……」
 雪花の言葉に伊吹は絶句している。
「嘘……だと言ってくれ……嘘だって……緋道の物になってるだなんて、嘘だって……そう言ってくれぇ……」
「本当……私は……緋道の物……」
「う……」
 雪花のきっぱりとした言葉に伊吹は硬直した。
 そして少しするとくたくたと膝を突き、床に崩れ落ちた。
 皆はそれを見つめながら、どうしたものかといった顔をして伊吹を見守っている。何と声をかければいいのか分からないからだ。
 何か言えるとすれば雪花だけだろうが、何を言ったとしても追い打ちにしかならないように思えたため、雪花も黙っているようだった。さすがにいつものようにからかい混じりに伊吹を責める気にはなれないに違いない。
 そんな固まった空気に部屋が包まれていた時だった。
 不意に入り口のドアが開いたかと思うと、誰かが入ってきた。
「みんな揃ってるわねぇ。今日は新しい部員が来てるんでしょ? 先生も楽しみで……って、あら、どうしたの?」
 現れたのは麻衣だった。
 顧問として様子を見に来たのだろう。
 しかし異常な雰囲気を感じたのか、驚いたようにして部屋の中を見回している。
「この子は……えっと新入部員よね? 何で床に座ってるの? というか、顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫です……ハハ……大丈夫ですよ先生……俺は大丈夫なんです……」
 これまでの状況の部外者であったためか、伊吹は麻衣の言葉に反応し、立ち直りそうな様子を見せている。
「そう……ならいいけど。でも無理しちゃ駄目よ? 辛くなったら言ってね?」
「うぁっ……辛く……辛くなったら……そう、辛くなったら言います……今俺は辛いです……凄く凄く辛いです……」
「やだ、やっぱり辛いんじゃないの。保健室に行きましょう?」
 驚いたらしい麻衣は伊吹に駆け寄り、肩を貸そうと腕を掴んでいる。
「違います……体は大丈夫です……俺が辛いのは心……心なんですよ……俺の心はズタボロなんです……」
「そうなの……よく分からないけど辛いことがあったのね。そういう時は思いきり泣くといいわ。自分を抑えちゃ駄目。泣いて想いを晴らすのよ。それから考えるの。そのために涙はあるんだから」
 何とも教師らしい言葉を述べている麻衣に、伊吹は泣きそうな顔を向けた。
「泣く……そう、これは泣くしかないよな……そうなんだよ……泣くしかない状況だよ……そうしなけりゃ、やっていけない……やっていけないんだ……うあぁっ、先生っ、先生ぃ〜〜っ」
 突然叫んだかと思うと、伊吹は麻衣にすがりつくようにしていった。
 そのまま激しい勢いで涙を流し、大声を上げて泣いている。
 この歳になってこれほど豪快に泣いている姿というのは初めて見たため、神治は呆気にとられながら伊吹を見守った。
「伊吹……」
 不意に聞こえた小さな声に視線を向けると、雪花が悲しそうな顔で伊吹を見つめているのが目に映った。
 自分が伊吹を苦しめている原因であるため、辛いのだろう。
 そういう意味では神治も申し訳無く思ってはいたが、部の民を得るということは、こうした事もあり得るのだから慣れなければいけないのだろう。
 神の物になるということは、友人や恋人、伴侶よりも神を優先させることなのだから。
 それが今目の前で起きていることなのである。
(って、あれ……?)
 そこまで考えて、ふと何かが違うのではないかという想いが起きてきた。
 自分が考えた辛さというのは、恋人を奪ってしまうようなものだった訳だが、別に伊吹は雪花の恋人でも何でも無かったからだ。
 伊吹は単なる片思いであって、その想いに関しては以前から雪花も認識しており、それで何度も告白されては振るのを繰り返していたのである。
 つまり今回の事にしても、いつもと変わらない「伊吹が振られた」という状況でしかなかった。
 無論、雪花が神治の物となった事を告げては居るが、それがあろうが無かろうが、伊吹が振られるのはいつもの事だったからだ。
 それに以前聞いた話では、神に対する想いは絶対的な物ではあるが、恋愛的なものとは別であり、部の民であっても神以外の異性に恋もするし、結婚もするのだという事だった。
 実際、緋道村では皆が未迦知神に恋愛感情を抱いている訳ではないのだ。恋愛対象は別に居るのである。
 ゆえに雪花の自分に対する想いにしても、神に対する強い執着から来るものであって、恋愛的なものではないはずだった。
 無論、未迦知神と緋道村のように長い年月を経た関係ではないし、雪花達にしても若いことを考えれば、神に対する想いを恋愛的に捉えてしまう可能性もあるだろう。
 しかし神に従うことの絶対性に比べれば、いくらでも変えられる想いでしかなかった。
 つまり今後雪花が伊吹を恋愛的に好きになる可能性だって無くなっている訳ではないのだ。
 要はこれまでと同じであり、悲しむほどの事ではないのである。
 とはいえ、肉体関係を持っているという意味では、悲しむ状況であると言える訳だが。
 雪花の告げた「緋道の物になった」という言葉を、「セックスをした」という意味で捉えるとすれば、全く間違いは無かった。
 つい緋道村的な考えで、「肉体関係は恋愛感情とは別」みたいに発想していたが、村の外では肉体関係が恋愛感情の証明となるのだ。
 ゆえに伊吹の悲しみというのもおかしくはないし、それを申し訳なく思うのも間違ってはいないだろう。
 自分は伊吹の思い人を抱いたのだ。
 友人としてはその事を重く受け止めるべきだった。
「それで……何を悲しんでいたの? みんなの前で言いにくいことなら言わなくてもいいけど」
 しばらくして伊吹が泣きやみ、落ち着いた頃を見計らって麻衣はそう尋ねている。
「いえ……みんなも知ってることですから……俺はそこに居る聖川さんの事が好きなんですが、聖川さんは緋道の物になったって……さっき言ったんです……だから俺、悲しくて……」
 伊吹は雪花に少し視線を向けてから俯いた。
「なるほど、HIJIN会にも入る新入部員だものね。そりゃ緋道くんの物になっているわよね。というか、あなたは違うの? 確かHIJIN会に新しく入るのは二人だって聞いてたから……」
「俺は違います。俺は緋道の物になんかなってません。大体男なんですからそういう事はないでしょう?」
「え? でも埜々宮くんは入ってるわよ? だからてっきりあなたもそうなんだと思ってたんだけど……違うの?」
「あ……そういや、何で埜々宮は入ってるんだハーレム……ホモってのは嘘の噂だって思ってたんだけど、お前も緋道の物になってるのか?」
 麻衣の言葉に、伊吹は不審そうな顔をすると朱理に尋ねている。
「いやまあ、そうなんだな実は……ここだけの話だけどな。他では絶対言うなよ? ホモだって噂が益々広まっちまうから」
「ってことは、ホモってのは本当……」
「だぁ〜〜っ、違うって、オレはホモじゃないっ。緋道とはそういう関係じゃないってっ」
「違うのか? なのに緋道の物ってどういう事だよ……」
 確かに分かりにくい内容だった。
 本来朱理は女性であるため、雪花達と同じな訳だが、それを言えない事から、弁明するのが難しくなっているのだ。
「まあ、何て言うかな……えっと、そうだなぁ……実はオレ、人には見えないモノを感じたりする力があるんだよ。それで時折緋道のことを凄く感じている訳だ。そこからまあ、未生達と似たような状態になっているっていうか……」
 朱理には「気」を感じる力があり、護呪鎧を付けない状態であれば神治の力を感じる事が出来たため、これは本当の事ではあった。
 とはいえ、それだけでは部の民としては目覚めなかった訳だから、半分誤魔化している訳だが。
「へ〜〜、お前ってそんな力あったんだ。そりゃ驚いた。っていうか、緋道ってそんな凄いのか? 俺にはそんな力無いから分からねぇけど、霊力とかそういうの? 緋道はあるのか?」
「まあ、あるって言えばあるかな……あんまり大っぴらにはしたくないんで黙ってたけど……」
「そうなのか? それで埜々宮は緋道のことを凄いと思って、それで緋道の物に……っていうか、緋道の物って言い方、どういう意味なんだ? 何か俺、その、エッチなことを想像してたんだけど、違うのか?」
 これにはどう答えるべきか難しいところだった。
 何しろそうなるための行為として、性行為をしているのは事実だったからだ。
 しかし「緋道の物」という意味には、肉体的な意味よりも精神的な意味の方に重きがあるのであり、単に肉体的な繋がりを表している訳ではなかった。
 とはいえ、部の民となった女性達が神治との性行為を求めているのも事実であり、それは神治の神性を感じる手段として、今のところそれしか方法が無いからだった。
 もし普通の状態でも神性を感じられるのであれば、性行為をしなくても済むのだろうが、そうする事が出来ていない自分は、まだまだ修行不足なのだという事を、神治は改めて認識させられた。
「もぉ、さっきから聞いていれば伊吹くん、何か私の作ったHIJIN会が凄くいかがわしいものみたいじゃない。これはそんなエッチなものじゃないんだからね。もっと高尚な、精神的な、ううん、魂としての繋がりをもった同志の集まりなの。その魂の繋がりの大本が緋道くんなんだよ。私たちの魂は、緋道くんに隷属して、緋道くんのために存在しているの。そういう意味からくる「緋道くんの物」って意味なんだよ。雪花だってそういう趣旨で言ってるんだから。ね? 雪花?」
「うん……」
 雪花は恥ずかしそうに頷いている。
 顔が赤くなっているところから、もしかしたらこの間のセックスの事を思い出しているのかも知れない。
 何しろ部の民となった原因はセックスなのだから、その事を連想しても不思議ではないからだ。
「そうなんだ……じゃあ、緋道とはエッチなことはしてないんだな? それなら全然OKだぜ」
 伊吹は安堵したように息を吐き出しているが、それが間違っているのは他の全員が分かっていることだった。
 ただそれを伊吹に伝えるかという事であれば、隠しておきたいというのが皆の思いだろう。
 ここで「エッチなことをしている」などと言ったら、伊吹がまた落ち込むのは目に見えていたし、何よりHIJIN会がそうした組織、つまりは噂通りのハーレムだと認めることになってしまうからだ。
 それは出来れば避けたかった。
 それが皆に共通した意見であるように思えた。
「大体さぁ、伊吹くんには前から何度も話してたよね? HIJIN会がどういうものかって。その時にも今の話をしてたよ私。聞いてなかったんでしょ?」
「あ、そうだったっけ? いやまあ、そうだったかもなぁ。でもしょうがねぇだろ、何か宗教っぽい感じで胡散臭かったんだから。魂の繋がりとか言われたって信じられないぜ」
「今はどうなの?」
「え……?」
「雪花が私たちの同志になって、一応伊吹くんも入りたいんでしょHIJIN会。それでもまだ信じられない?」
「正直言えば信じられねぇな。だって俺には緋道は普通のヤツにしか思えないしよ。魂が何だって言われたって、俺は分からねぇからなぁ」
 それは伊吹にしてみれば当然のことだろう。部の民として目覚めなければ、魂としての繋がりなどという事が理解できるはずがないからだ。
「でも……実は違うんじゃないかな?」
 不意に柚華がそう言ったため、皆が驚いて視線を向けた。
「何が違うんだ? 須田」
「うん……私ね、思うんだけど……HIJIN会に入っている人って、元から緋道くんと特に親しい人ばかりだよね。そういう人がみんな入ってるってのは偶然にしては凄くおかしいんじゃないかって……」
「確かにそうだなぁ。ここに居るのは緋道としょっちゅう一緒に居るようなヤツばかりだ。あ、先生は違うんじゃないの? まあ、生徒じゃないんだから関係ないか」
「私……実は以前に、緋道くんに助けてもらったことがあるの。その時に緋道くんの凄さを感じてて……だからもし生徒だったら私も入ってたと思うわ。教師だから顧問って形になってるけどね」
 伊吹の言葉に、麻衣は訂正するように告げてきた。
 確かに麻衣は、ストーカーから助けた際に、神治を凄い存在と感じたと言っていたのだ。
「ええ? そんなことあったのかよ。先生を助けてるなんてスゲェな緋道。っていうか、凄さを感じたってことは、先生も霊感とかあるんですか?」
「無いわよ。でも感じたの。そこが不思議なのよねぇ」
「私もそこがポイントだと思うんだ。霊感の無い人でも、緋道くんの事を凄いって感じる。だからHIJIN会に入った。そういう流れになっているのよね。でも私は、実はそうじゃないんじゃないかって思うの」
 柚華は、麻衣の言葉を受けて自分の推測を語り出した。
「どういう事だよ?」
「順番が逆なんじゃないかって……元々緋道くんと魂の繋がりを持つべく生まれてきて、それで出会った。そういう事なんじゃないかって……」
「わぁ、それって素敵だよ。いいねその考え。私、気に入っちゃったなぁ」
 歩美がうっとりした様子で感動している。
「そういう事って、結局どういう事なんだ?」
「だからね、今は何も感じてないけど、伊吹くんにしても、そうした繋がりを持つために緋道くんと仲良くなったんじゃないかって……だって最初は二人って揉めてたんでしょ? それなのにこんなに仲良くなるなんて不思議じゃない?」
「確かに……言われてみればそうだな……俺、最初は緋道のこと、嫌なヤツだと思ってた訳だし……そういや、何で仲良くなったんだっけ?」
「知らないよ。俺は何もしてないぞ。お前がやたらと話しかけてきたんじゃないか」
 伊吹がこちらを見ながら疑問を投げかけてきたため、神治は当時を思い出しながら答えた。
 確かあの一件の翌日、伊吹が何事も無かったかのように話しかけてきたのだ。
 揉めた訳であるし、少しは躊躇があるのが普通だと思うのだが、そうした事を気にした様子もなく、まるですでに友人であるかのように話しかけてきたのである。
「え? そうだったっけ?」
「あ〜〜、そうだね確かそうだったよ。あの時クラスのみんなで注目してたから覚えてる。伊吹くんと緋道くんの関係がどうなるのか噂してたんだよ。そしたら伊吹くんが揉め事のこと忘れたみたいに普通に緋道くんに話しかけてて、緋道くんもあっさり受け入れてたから拍子抜けしたんだから。ね? 雪花?」
「うん……伊吹……やたらと緋道に、話しかけてた……」
「クラスじゃ、伊吹くんが緋道くんのこと、師匠みたいに思ったんじゃないかって噂してたんだよ」
「何だそりゃ、緋道が師匠?」
「ロリコン師匠……」
 雪花の言葉に、神治と伊吹は固まった。
 どうにもロリコンと言われると辛さが出てきてしまうのだ。
 ロリコンであるのは事実であるため否定するつもりはないが、そうした呼びかけ自体には抵抗を感じるのである。
「緋道くん、ロリコン宣言してたしね。伊吹くんにも『自分と同じじゃないのか?』みたいに訴えかけてたし。だからみんなは、伊吹くんがそれに感動して弟子入りしたんだって話してたんだけど」
「確かにまあ、ロリコン宣言には感動というか、驚いたけどな。おかげで聖川さんに謝ったり、告白できるようになれたのはその通りだな。そういう意味じゃ感謝してる。でもそれで弟子入りはねぇだろ。師匠扱いはねぇよ」
「でも内心、というか魂ではそうなんじゃないかって事を私は考えたの。伊吹くんは緋道くんに付き従う意識が、自覚の無いまま起きていたんじゃないかって。だから揉め事の相手でも憎むんじゃなく、好意を抱くようになったんじゃないかって。それが私たちが緋道くんに感じている意識と同じじゃないかって思ったんだよ。そしてそれはその時そうなったんじゃなく、元々付き従う魂として、出会う運命にあったんじゃないかなって」
「わぁ、いいねぇ運命。素敵だよ柚華。それいいなぁ……」
 再び感動している歩美の様子を見ながら、神治も内心で同意している部分があった。
 何しろこれまで抱いてきた女性達が、こぞって部の民として覚醒していたため、まるで部の民である人間を引き寄せているのではないかと思っていたからだ。
 抱いた相手がたまたま部の民になる資質を持っていた、という事ではなく、部の民になる資質を持った人間が近づいてきていた、という事なのではないか思ったのである。
 実際未迦知神にも以前似たようなことを言われていたのだ。
 部の民との出会いは偶然などではなく、無意識の内に神治に引き寄せられた結果だという風に。
 これまでそれは、知り合った中にそうした女性が居るだけだと思っていたのだが、こうも確率が高いと、部の民であるから親しくなっている、という感じにも思えてきていたのだ。
 柚華の考えも入れると、自分の周りには男女問わず部の民ばかりが集まっている、といったところだろうか。そう考えると納得しやすかったのである。
 とはいえ、伊吹に部の民の資質があるかは疑問ではあったが。
 何しろ男の部の民というのはまだ現れていなかったため、確認しようがなかったからだ。
「俺が緋道に付き従う、ねぇ……う〜〜ん、分かんねぇなぁ。別に普通の友達って感じしかしねぇぞ」
 それも当然だろう。
 今の伊吹は部の民としては目覚めていないのだから。
 他の女性達にしても、ほとんどが神治に抱かれるまでは普通の友人関係でしかなかったのだから、抱いてはいない伊吹に自覚が無くても当然だった。
 というか、男を抱くなど考えられないため、このままでは目覚める事はないかも知れない。
 そういう意味で、男の部の民はどう目覚めさせればいいのかというのが問題だった。
 やはり自分の神としての力が増すのを待つしかないのだろうか。
「ま、取り敢えずそこら辺の事はいいじゃない。伊吹くんは友達としてなら緋道くんのことを好きなんだし、ここには雪花が居る。だったらそれでHIJIN会に入ればいいよ」
「おいおい、そんなんでいいのかよ」
「まあ、本当は駄目かも知れないけどね。でも柚華の説を考えれば、伊吹くんも私たちと同じかも知れない訳だから、入れておいてあげてもいいかなぁって。一緒に活動していく内に染まっていくかも知れないしさ。それに伊吹くんが入れば、ハーレムだって噂も減るかも知れないでしょ? 今まで女ばかりだったから言われちゃってたんだから」
「おい、オレはどうなる……」
「ああ、埜々宮くんね。ごめん忘れてた。じゃあ、言い直すよ。女ばかりに加えて、ホモっぽく見える男子の存在でハーレムに思われてきたって感じ?」
「う……」
 歩美の容赦無い修正の言葉に、朱理はガックリとしている。
 悪気無く事実を述べただけなのだろうが、その事を気にしている朱理にはキツい言葉になっているようだった。
「何だよ、俺は噂よけか」
「それが嫌なら別に入らなくてもいいよ。雪花と一緒に居る時間が減るけどね」
「入るっ、入りますっ。是非とも入れて下さいっ」
「宜しい……みんなもいい?」
 慌てたように応える伊吹を満足げに見つつ告げた歩美の言葉に、皆は無言で頷いている。
「でも伊吹くん、会の活動は出来るのかなぁ。緋道くんについて書くんだよ?」
「何だ? 緋道について書く?」
 柚華の呟きに、伊吹は不審そうな顔を浮かべている。
 確かに何故そのような事をするのか普通は分からないはずだから当然だった。
「うん。HIJIN会はね、緋道くんに対する想いを書く活動をするの。だからそうした想いが無いと出来ないんじゃないかなぁって」
「ああ、それなら伊吹くんは雪花について書けばいいんじゃない?」
「何だそりゃ? そんなんでいいのかよ?」
「うん。だって雪花のことを書けば、必然的に緋道くんの事を書かざるを得なくなるからね。雪花は緋道くんのために生きるんだから、雪花の人生には緋道くんが必ず関わるんだよ」
「う〜〜、怖ぇなそれ。お前やっぱり宗教臭いわ……まあ、聖川さんの事を書けばいいんならいいぜ。もしそれだけで不都合があるなら、ちょこっとくらいは緋道の事も書くからよ。そうすりゃ会員としての体裁も取れるだろ?」
「おお、伊吹くん分かってる。そうよ、それでいいの」
「任せておけ。聖川さんの傍に居られるなら、俺は何だってするぜ」
 景気よく叫ぶ伊吹の様子に、何とも妙なヤツが入る事になったものだと思った。
 そして気づいてみればHIJIN会も人数が増えたものだな、と感慨深くなった。
 始めは自分と歩美、そして柚華しか居なかったのが、今や六人にもなっている。顧問とはいえ、実質会員でもある麻衣を入れれば七人だった。
 というか、それは自分が学校関係者をそれだけ抱いた証という事にもなったたため、何とも言えない想いを抱いた。
 入学した時には普通の高校生として暮らすのだ、と決意していたはずだったのが、いつの間にやら緋道村に居る頃と変わらないような状況になってきている。
 無論村と違っていつでもどこでも安心して抱けるという訳ではなかったが、状況的には変わらないだろう。
 これは部の民が自分に引き寄せられたゆえの結果なのか、それとも単に自分の節操の無さゆえなのか。
 どちらにせよ、自分はもう普通の高校生とは言えないだろう。
 噂にもなってしまうほど、複数の女性を己の物としている特殊な高校生なのだから。
 これ以上は増えないようにしないとな、などと思いつつも、もっと増やしてみたいものだ、などと思ってもいたりする自分に苦笑する。
 そしていつも通り変なことを語り出し、雪花にツッコまれて強烈に落ち込んでいる伊吹の様子を、神治は皆と一緒に生温かい目で見守るのだった。


 神治は、植物園の傍にある森でボーッと過ごしていた。
 最近はどうにも色々な出来事があったせいか、何だか疲れてしまっていたのだ。
 特に桜子達や美子といった、自分と関わりのある女性達と連続して出会い、その現場に歩美達が居たという状況も、気疲れを起こす原因となっていたかも知れない。
 そんな状態の時に、人が来ないこの場所に居ると、何とも癒される想いがして良かったのである。
 大きな木に寄りかかり、周囲の木々を眺めていると、それだけで心が落ち着いてくるのが感じられた。
 今日は陽菜にも呼び出されておらず、文芸部の活動も無かったため、のんびりと過ごすつもりだった。
 さっさと帰って他の女性達を抱いても良かったが、たまにはセックス無しで過ごす日があってもいいだろう。
 何しろあまりセックスが日常化してしまうと、自分は嫌気を感じてしまう可能性があったからだ。
 とはいえ最近では、完全に安心して抱ける緋道村と異なり、緊張感が無くならない村の外では、抱きまくっても大丈夫なのではないかと思ってもいたのだが。
 そういう意味では、部の民の集まりであるHIJIN会の会員をもっと増やし、噂通りのハーレムのようなものを創るのも楽しそうだ、などと妄想していたりもした。
 歩美の計画では、将来的にHIJIN会を学校の外へも拡大するつもりらしいし、そうなれば多くの部の民の女性で本当にハーレムを楽しむ、という事も可能になるだろう。
 脳裏には、部の民の女性達が裸で自分にかしづく様が浮かび、そんな事が出来たら素晴らしいなぁ、などと思った。
 というか、そうした状態をすでに経験していたことを思い出す。
 緋道村で、小中学生相手にハーレム状態を味わっていたからだ。
 あれは実に楽しかったと思い返しながら、結局自分が目指しているのは緋道村のような環境なのかも知れないな、と思う。
 何しろあそこは性的にあまりに居心地が良かったからだ。
 それをさらに自分のみの、自分だけに抱かれる女性達で構成したら、夢のような状態になるのではないかと思えた。
 それこそがまさにハーレムというヤツだろう。
 それを創るために、歩美の提案にもっと積極的になるべきだろうか。
 とはいえ、緋道村のようなことを村の外で実現するのはなかなか難しそうではあったが。
 何しろ一般社会の中にハーレムを創るとなれば、法律や倫理、道徳の問題が関わってくるからだ。
 誰かに見つかってしまえば大騒ぎになるだろうし、そうなれば自分や部の民達は、肩身の狭い思いをして暮らさなければならなくなるだろう。
 そのような事は避けなければならなかった。
 もし実際にハーレムを創るとすれば、緋道村のような一般社会から離れた独自の社会か、見つかりにくい環境を構築する必要がある訳だが、自分にはそんな能力はなかったため、実現するのは難しいように思えた。
 しばらくの間は、個別に関係を持っている今の状態を維持する方が良いだろう。
 一度に複数の女性と楽しむような事はできないが、それでも多くの女性を抱けるという意味では、十分に素晴らしい状況と言えるのだから、満足すべきだった。
 そんな事を考えながらボーッと空を見上げていると、不意に目の端に、誰かがこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
 視線を向けると、やってくるのは小柄な女性であり、どうやら雪花であることが分かった。頭に大きなリボンが付いているところからそう思えたのだ。
 ゆっくりと近づいてきた雪花は、傍まで寄ってくると、ジッとこちらを見つめたまま何も言わないでいる。
 神治も何やら声をかける気になれず、互いに無言で見つめ合ったままの状態が少し続いた。
 やがて雪花は、眉根を寄せて悩むような表情を浮かべると、落ち着きなく視線を彷徨わせていたが、意を決したようにして、神治の横に並んで木に寄りかかった。
 そのまま無言で居たため、神治も話しかけることはせず、特に何をするでもなく空を見上げ続けた。
 しばらくそうしていると、不意に視線を感じたため顔を横へ向けてみると、困ったような表情をしてこちらを見ている雪花と目が合った。
「どうした?」
 さすがにこれで何も言わないのは悪いだろうと思い、声を掛けてみる。何しろこちらの顔を見ながら困ったようにしているのだから、原因は自分にあるように思えたからだ。
「緋道……私……邪魔……?」
「え?」
「埜々宮が、言ってた……ここに居る時の緋道……一人で居たい……」
「あ〜〜、そうか、朱理に聞いたのかここのこと」
 この場所の事は誰にも話したことは無かったため、知っているのは偶然やって来た朱理くらいなものだった。
 その朱理にしても、神治がわざわざこのような場所へ来ている理由を察してくれているのか、滅多に来ることはなかった。
「嫌……だった……?」
「別に嫌じゃないよ。聖川さんなら全然OKさ」
 これが歩美などであれば、色々話しかけられたり、媚びた視線を向けられたりして落ち着かなくなるだろう。
 そうした態度も可愛くて好きなのだが、ここへ来る時はテンションが落ちているため、あまり歓迎できないものだった。
 その点、雪花は口数が少ないし、存在を感じさせない雰囲気があったため、気にならなかったのだ。
「なら……良かった……」
 雪花はそう言うと、嬉しそうな顔をして押し黙った。
 それが何とも可愛らしく、思わず頭に手をやって撫でてしまう。
 大きなリボンの付いた頭がゆっくりと揺れ、恥ずかしそうに俯いている雪花の姿に益々可愛らしさを覚える。
 だが不意に、こういう行為はマズいのではないだろうか、という思いが湧き起こった。
 何故なら同じように容姿の幼さを気にしている陽菜が、頭を撫でる行為を非常に嫌っていたからだ。
 雪花も同じく嫌っている可能性がある訳で、このような事をしては殴られるのではないかと思えたのである。
 実際、これまでも雪花の頭を撫でたくなる事はあったが、そうしようとするたびに武の「気」が膨れあがるのが感じられたため、恐ろしくて出来なかったのだ。
 それは雪花が頭を撫でられることを嫌い、警告としてそうしていたように思えたのである。
 つまりこのまま撫で続けるということは、雪花の怒りのボルテージを上げるだけなのではないだろうか。
 とはいえ、この間抱いた時に頭を撫でても平気だった訳だし、今の雪花からも怒りを思わせる「気」は感じられなかったため、大丈夫なのではないかと思えた。
 だがそうは言っても違っている可能性もあったため、安心は出来なかったのだが。
 そんな事を考えていたせいか、気づけば手の動きが止まっていた。
 やはり雪花の拳に関しては、体がかなりの恐怖を感じているのだろう。危険の可能性のある行為は、自然と体も止めてしまうのかも知れない。
「もう……お終い……?」
 不意に止まった撫でる行為を不審に思ったのか、雪花がこちらを見上げながら尋ねてきた。
 その上目遣いで見上げてくる様子が何とも可愛らしく、思わず手で頭を優しく掴んでしまう。
「いや……その……聖川さんが嫌なんじゃないかと思って……こういうの好きじゃないでしょ?」
「好き、じゃない……でも緋道なら、いい……」
 嬉しい事を言ってくるのに思わず微笑んでしまう。
 どうやら殴られる心配はないようだった。
「俺ならいいの?」
「うん……私……緋道の物、だから……」
 恥ずかしそうに告げてくるのに益々可愛らしさを覚えた。
 思わず抱き締めたくなったが、人目が少ないとはいえ、誰に見られるか分からない場所であることから衝動を抑える。
 ただでさえハーレムの噂があるのだから、それを加速させるような行為は慎むべきだろう。
「うぅ……」
 そんな事を思っていると、不意に雪花が小さく唸りながら抱き付いてきた。
 まさかそのような行動を取るとは思ってもみなかったため驚く。
 小さな体がギュッと抱き付き、大きなリボンの付いた小さな頭が顎の下にあるのを心地良く感じる。
 まるで小動物にしがみつかれているような、幸せな想いが湧き起こってくるのだ。
「どうしたの?」
「少し……こうしてて、いい……?」
「いいけど……」
 何やら普通ではない雰囲気を感じたため、理由を聞かない方がいいだろうと思った神治は、そのまま大人しくしている事にした。
「うにゅぅ……」
 そんな風にしばらく抱き付かれたままボーッとしていると、突然雪花が可愛らしい声をあげながら、顔を擦り付けるようにしてきた。
 これまた何とも愛らしい仕草であったため、今度は衝動を抑えることをせずに強く抱き締めてしまう。
 小さな体がピクッと震え、「うぅ……」というくぐもった声が聞こえてくる。
 そのまま頭に手をやり、ゆっくり撫でていくと、雪花の体から力が抜けていくのが感じられた。
「緋道……」
「ん? 何?」
「緋道って……やっぱり胸、大きい方が……好き……?」
 相変わらずの質問に少々呆れてしまう。
 あれだけ抱いたというのに、まだ気になるのだろうか。
 いや、それだけコンプレックスが強いという事なのだろう。
 女の子にとって胸の大きさというのは、男が思うよりも傷つきやすい要素なのかも知れない。
「何だよまたその質問か? 俺はどっちでもいいよ。大きいのも小さいのも好きだから」
「私……のは……?」
「もちろん大好き」
「くぬぅ……」
 伊吹のノリを真似して答えると、雪花は妙な声をあげながら抱き締める腕に力を入れてきた。
 少々強すぎたため、苦しくなってくる。
「聖川さん……苦しい……力、緩めて……」
「あ……う……ごめん……」
 慌てて力を抜いてくるのにホッと息をつく。
「緋道……相談……ある……」
 いきなり話題が変わった事に驚きつつ、もしかしたらそのためにここへ来たのではないかと思ってみる。
 何しろわざわざ朱理に居場所を聞いてまで来たのだから、何か用事があったと考えるのが妥当だからだ。
 しかしそれにしては、抱き付いてきたりして妙に行動が不審ではあったが。
「相談? いいよ、何?」
「と……友達の……悩み……」
「友達か……うん、分かった……」
 雪花の友達、しかも相談を受けるような友達と言えば、歩美か柚華しか居ないように思えたが、どのような事だろうか。あの二人が何か悩んでいるようには見えなかったのだが。
「と……友達には……き……気になる男が、居る……」
「え? 恋愛話なの?」
 それは意外であったため驚く。歩美達が恋愛で悩んでいるとは思わなかったからだ。
「恋愛……じゃない……気になる、だけ……」
「あ、そうなの?」
「でも……凄く、気になってる……気になって……しょうが、ない……」
「ふ〜〜ん、難しいな」
 それはどう考えても恋愛話にしか思えなかった。
 もしかするとその友人というのは、恋愛だと認めたくなくて、わざと雪花にそう言っているのではないだろうか。
 そうした事を、恥ずかしさから認めようとしない人物を何人か知っていたからだ。
 しかしそうなると、やはりこの話は歩美達の事ではないのだろう。
 あの二人であれば、恋心を「気になる」というような言い方で誤魔化すとは思えなかったからだ。
「その男は……凄く、モテる……女の子に、囲まれてる……しかもみんな、可愛い……あと……胸、大きい……」
 最後の言葉だけ小さく、悲しげに言っているのに、やはり胸を気にしているのだな、と思った。
「友達は……胸、小さい……だから、心配……」
 自分の事を重ねているのか、雪花はさらに悲しそうな表情になりながら呟いている。
 その様子にどうしたものかと思いつつ、ここは胸の大きさは恋愛に関係ない事だと語るのが良いだろうと思った。
「その男ってのは、小さい胸じゃ駄目だとか言っている訳?」
「言ってない……」
「なら大丈夫でしょ。っていうか、胸が小さいから嫌だとか言うようなヤツだったら相手しない方がいいしさ。そんなのは女の子のこと、体でしか判断してない訳だからね。その男がちゃんとしたヤツなら、その子の胸がどんな大きさだろうが気にせずに居てくれると思うよ」
「私も……そう思う、けど……でも……心配……やっぱり、おっきい方が……魅力ある……男……すぐに興奮する……」
「まあ、興奮しやすいと言えばしやすいけどさ。でもそれは体だけを見た場合の話であって、人間関係は別だって。特に恋愛なら、好きになるのに体なんか関係ないだろ。相手の人間性が好きなんであって、体が好きなんじゃないんだから」
「だから……恋愛、じゃない……」
「あ、そうか……でもそれじゃ、何を心配してるのさ。友達関係であれば余計気にしないだろそんなの」
「う……男の……興味、惹きたい……見て欲しい……」
 下から上目遣いで見つめられ、しかも何やら泣きそうな表情を浮かべていたためドキリとしてしまう。
 まるで自分に対して言っているように思えたからだ。
「恋愛じゃないけど興味は惹きたいの? 難しいなぁ……というか、何でそんな風になってる訳? その男を気になり出したのって何でさ」
「前に……助けてもらった……嫌なことされて、困っていたら……助けてくれた……それから、気になった……」
「そうなんだ。接点はあるんだね。んで、友達にはなってるの?」
「なってる……凄く仲、いいと思う……だから、気になる……」
「つまり、友達以上の想いはあるけど、恋愛感情ではないって感じなのかな?」
「そう、だと思う……」
「やっぱり難しいなぁ……結局その友達はどうしたいんだろ。仲良くなるという意味じゃもうなっている訳だし、恋人になりたい訳じゃないとすれば、どうすれば満足なんだ?」
「う……その……えっと……抱かれたい、のかも……」
 最後を物凄く小さい声で言っていたため、聞き逃しそうになった。
 そしてその言葉の内容に驚いてしまう。
「抱かれたいって……つまり恋人になる気はないけど、肉体関係だけは結びたいってこと?」
「そ……そうかも……」
「そいつは何とも……男ならそういうのもあるだろうけど、女の子でねぇ……まあ、相手の男にしてみたら嬉しいだろうけどさ……でもそんなんでいいの? っていうか、そこまでしたら、相手の男の方が惚れちゃうんじゃない?」
 セックスさせてくれたりしたら、そのまま好きになりかねないだろう。
 元々友人でもあり、仲が良いのだとすればそうなる可能性は高いように思えた。
「それは無い……と思う……」
「何でさ?」
「実は、もう抱かれてて……それでも……友達のまま、だから……」
 それは何とも驚きだった。
 友達関係のまま抱かれて、その後も関係に変化が起きていないとは。
 相手の男にしてみれば、そのまま彼女にしたいと考えてもおかしくなさそうなものだが。
「そいつはまた凄いな……でもその聖川さんの友達ってのは、そこまでしてても別に恋人になりたいって訳じゃないんだよね? う〜〜ん、そうなると……ホントにただエッチしたいだけな訳か」
「う……でも誰とでもって、訳じゃない……その男とエッチしてると……幸せに、なれる……だからもっとしたい……その男のことが……好き、だから……抱かれたい……これが一番……」
「そりゃまあ、そうだろうね。好きじゃなきゃ幸せにはならないでしょ。でもそれで恋人にはならないってんだから分からないなぁ……」
「私も……分からない……でも抱かれたい気持ちは、ある……周りに居る女の子達も……抱かれたがってる……だから興味、惹きたい……」
「そういやライバルが居るんだったっけ……って、恋愛じゃないんだからライバルじゃないのか? というか、他の子も抱かれたがってるの? あ〜〜、何だろねその人、凄いモテてるなぁ……」
「そう、モテる……だから不安……私……胸、小さい……大きな胸見ると……勝てる気がしない……だから、何とかしたい……」
「え? 聖川さんは関係ないでしょ? 友達の話なんだからさ」
「う……あ……間違えた……」
 そう呟くと、雪花は恥ずかしそうに顔を押しつけてくる。
 その誤魔化し方が何とも可愛らしく、思わずギュッと抱き締めてしまった。
「うにゅぅ……く、苦しい……」
「あ、ごめん……」
 慌てて力を緩めると、雪花は大きく息をついている。
 そしてそのまま今度は自ら抱き付き、体を擦り付けるようにしてきた。
「緋道……小さい胸でも……好き……?」
 心配そうな表情を浮かべ、上目遣いで見つめてくるのに何とも言えない愛らしさを覚える。
 それにしてもまたこの質問か。
 雪花の胸に対するコンプレックスは相当なものらしかった。
「好きだよ。もう、何度言えば納得するのさ」
「だって不安……緋道の周り、おっきな胸ばかり……私、小さい……だから不安……」
 先ほど語った友達の気持ちと同じようなことを告げてくる。
 やはり自分も似たような状況であるため、気になるのだろうか。
 雪花も胸が小さく、周囲に胸の大きい友人達が居て、皆が神治の気を惹こうとしていた。
 この事については、何度「大丈夫」と言っても納得してくれないのだが、やはり強いコンプレックスというものは、なかなか解消されないという事なのだろう。
(って……あ……!)
 などと考えていた神治は、不意にとんでもない事に気がついて硬直した。
 これまで語られた内容、自分と部の民の女性達との関係、そして雪花のコンプレックス。
 それらを合わせて結論づけると、今までされてきた話が、友人の事などではなく、雪花自身の事なのだという事が分かったからだ。
 気になる男というのも、他でもない神治の事だったのである。
 何とも言えない己の鈍感さに、恥ずかしさから顔が熱くなっていくのを覚える。
 考えてみれば、これだけ自分の状況に酷似した内容を語られていたのだから、もっと早くに気がつくべきだった。
 このような状況、自分以外にそうそうあるはずがないのだから。
 それを今の今まで気づかなかったのだから、何とも間抜けとしか言いようがなかった。
「もしかして、ずっと友達の事だって言ってたの、聖川さん自身の事? 気になる男って、俺?」
「うん……」
 素直に認めた雪花は、恥ずかしそうに顔を押し付けてきている。
「聖川さんは、俺の興味惹けるかどうかで不安なの?」
「そう……不安……緋道にもっと、見て欲しい……私を見て欲しい……私をもっともっと、見て欲しい……緋道に抱かれたい……抱いて欲しい……沢山エッチして欲しい……私をもっともっと、緋道の物にして欲しい……好き……好き……大好き……緋道大好き……」
 泣きそうな顔で一気に言ってくるのに心臓が跳ねる。
 何と可愛らしくも愛らしい少女なのだろう。
「緋道は……私のこと、好き……?」
「好きだよ」
「なら、抱いて……」
「え? 今?」
「うん……」
「ここ、外だよ?」
「そう……」
「誰かに見られちゃうかもよ?」
「少し森の奥へ行く……そうすれば、見つかりにくい……」
「そりゃそうだけど……」
「ちょっとだけ……ちょっとだけで、いいから……お願い……」
 泣きそうな顔でそうおねだりされてしまうと、抵抗出来なくなってしまう。
 そもそもこんな場所で抱いて欲しいと望むなど、いつもの雪花であればあり得ない事だろう。そういう意味で言えば様子がおかしかった。
 もしかして精神的に追い詰められているのだろうか。
 相談として先ほど言ってきたことは、かなり辛く感じている内容なのかも知れない。
 考えてみれば、雪花は以前からずっと胸が小さいことを気にしていたのだから、部の民となり、神治の気を惹きたい意識が強まった今であれば、その想いがさらに強くなっていてもおかしくはなかった。
 何しろ雪花以外のHIJIN会の女性達は、皆胸が大きいのだ。
 その事に焦りのような不安を覚えても当然だった。
 ゆえにここで断ったりしたら、「やはり自分には魅力が無いのか」と思わせてしまう可能性があった。
 決してそんな理由で断る訳ではないのだが、そう思ってしまうところが雪花にはあるように思えたのである。
「分かったよ。じゃあ、もうちょっと見つかりにくい所へ行こうか」
「う……うん……」
 返事を確認してから歩き出すと、雪花は緊張した様子で付いてきた。
 そしてそのまま嬉しそうに腕に寄り添い、頭を当ててくるようにしてくる。
 それが何とも可愛らしく、この小動物のような可愛さを持つ少女を己の物としている事に、神治は強い嬉しさを覚えた。
 森の奥へ少し入ると、周囲からは見えない状態になった。
 これなら大丈夫だろう。
 元々結界を張るつもりであったため、そこまで用心しなくても大丈夫なのだが、その事を知らない雪花への配慮だった。
「聖川さん……」
「緋道……」
 屈んで顔を近づけると、クリクリとした瞳がゆっくりと閉じられていった。
 少し背伸びをするようにして顔を寄せてくるのが何とも可愛らしい。
「ん……んふ……」
 唇が重なると、小さな吐息が漏れ聞こえ、その愛らしい反応に興奮が高まっていく。
 小柄な体を抱き締め、頭を抱えるようにしながら強く吸い付くと、ピクッと震えが走ってしがみついてきた。
 舌を絡み合わせ、口内を舐め回していくと、心地良い快感が押し寄せてくる。
「んっ……んんっ……んっ、んぅっ……んっ、んぁっ……」
 顔を左右に入れ替えながら少し荒っぽく唇を擦り付け、強く舌を吸って抱き締め合っていく。
 雪花の体がグイグイ押しつけられると、小さいながらも柔らかな女肉の感触が感じられ、肉棒が硬く大きくなっていった。
 お返しとばかりに肉棒を擦り付けると、気持ちの良い刺激が股間に湧き起こった。
「んっ、んっ、んはぁ……ふぁ……ふぅ……緋道の……おっきく……なってる……」
 潤んだ瞳でこちらを見上げながら、体全体で肉棒を撫でるようにしてくるのにうっとりとなる。
 そのような事をしてくるとは思わなかったため、意外な行為に興奮がさらに高まっていくのを感じた。
「私が……してあげる……」
 雪花はそう呟くと、ズボンのベルトに手をかけ、パンツと共に一気に引き下ろしてきた。
 肉棒が勢い良くブルンっと跳ねて姿を現す。
「元気……」
 嬉しそうに微笑みながらしゃがんだ雪花は、細い指で肉棒を掴むと、軽く上下に動かしてきた。
「舐めても……いい……?」
 小首をかしげ、心配そうに上目遣いで見つめてくるのがあまりに可愛らしく、心臓が激しく鼓動した。
 何と愛らしい仕草なのだろう。
 容姿が幼いだけに、これは何とも最高だった。
「いいよ。っていうか、してくれると嬉しい……」
「なら、する……」
 そう言ったかと思うと、小さな口を大きく広げ、そのままパクリといった具合に肉棒を含んできた。
 その瞬間、気持ちのいい刺激が肉棒を包み込み、その温かくぬめりを帯びた感触にうっとりとなった。
 おずおずといった感じで舌が動き、亀頭をゆっくりと舐めてくるのにムズムズするような快感を覚える。
 大きなリボンを付けた頭が動き、肉棒全体を擦るようにしてくるのに可愛らしさと卑猥さを感じつつ、その小さな頭に手を乗せて撫でていく。
「んんっ……んぐっ、んっ……んんっ……んふぅっ……んっ、んぐっ……」
 前後に頭を動かし、熱心に肉棒を擦り上げ、時折「これでいい?」といった感じで見つめてくるのに愛おしさが強まっていく。
 こちらが気持ち良くなるよう頑張ってくれているのが伝わってきて、何とも言えない嬉しさが湧き起こった。
 幼い顔の小さな唇の中に、己の肉棒が現れては消える様を見ていると、実にいけない事をしているような感覚を覚えた。
 森の奥で人目が無いとはいえ、見た目小学生な少女を相手に肉棒を咥えさせているのだから当然だろう。
 これまでも小学生相手に同じようにした事はあったが、やはり学校の中である事が大きいのかも知れない。
 この姿が誰かに見られたりでもしたら、普通に高校生に見える相手としているよりも問題視されるような気がしたのだ。
 雪花は嫌がるだろうが、それが容姿が幼いゆえに感じさせてしまうマイナス面であり、逆に興奮してくるプラス面だろう。
 緋道村であれば、本物の小学生といくらでもセックス出来たが、村の外ともなれば、そうそう出来ないことを考えると、見た目が幼い雪花との行為には背徳的な良さがあった。
 このままこの可愛らしい口の中に射精したい。
 そう思った神治は、自らも腰を動かして刺激を求めていった。
「んっ、んんっ……んぐぅっ、んっ、んっ、んんぅっ……」
 雪花が辛そうに顔を歪めたため止めようかとも思ったが、肉棒から口を放そうとしなかったので、そのまま腰を振り続ける。
 学校の森で幼い少女に肉棒を咥えさせ、腰を振っている自分、という姿を再確認すると、激しく興奮が高まり、射精感が強まっていった。
 苦しげな表情を浮かべながらも、舌で絡めるように亀頭を刺激し、時折チュウっと強く吸い付いてくる雪花の様子に、我慢が出来なくなってくる。
 普段このような扱いをされれば怒るであろう雪花が、むしろ熱心に行為をしてくる事に、自分に対する隷属の想いを感じて嬉しくなった。
 そんな愛おしい少女の口に精液を吐き出したい。
 この可愛らしい口の中に、ドロドロの白濁液を注ぎ込むのだ。
 そうした淫靡な想いを抱きながら腰を振っていくと、雪花が「んんぅっ……」と大きく唸ると共に、涙ぐんだ瞳で上目遣いに見つめ、これまで以上に強く吸い付いてきた。
「ぐっ、うぅっ……」
 そのあまりに可愛らしくもいやらしい表情に耐え切れなくなった神治は、大きく肉棒を突き込むと、一気に肉棒の栓を開いた。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドク……。
 大量の精液が迸り、その衝撃に苦しそうに顔を歪める雪花を見つめながら、何度も射精を繰り返していく。
 雪花はくぐもった声を漏らしつつ、ゴクゴクと精液を飲み、肉棒を優しく掴んでいる。
 その様子に愛らしさを覚えながら精を放ち続け、少ししてから射精を終えた神治は力を抜いた。
 雪花は肉棒を綺麗にするようにして舐めてから口を放すと、荒い呼吸をしながら立ち上がり、脱力したように寄りかかってきた。
「ごめん……乱暴にしちゃった……」
「いい……それだけ興奮してくれた……嬉しい……」
 満足げな笑みを浮かべ、上唇を舐める姿に色っぽさを覚える。
 幼い容姿なだけに可愛らしさもあり、その様子には何とも言えない興奮を感じさせた。
「聖川さん……」
「あっ……やっ……」
 首筋に吸い付き、舐め回すと、可愛らしい声を漏らすのがたまらない。
 そのまま顎の下に舌を這わし、耳たぶを甘く噛みながら、手を胸元に当て、制服の上からほんのりとした膨らみを優しく撫でていく。
「やっ、あんっ……小さいの……恥ずかしい、あっ……」
「小さくても、可愛くて凄くいいよ……」
 乳首がある辺りを摘むようにしながら揉みつつ、耳の穴に舌を入れる。
 そのままブラウスのボタンを一つ一つ外していき、手を差し入れて直に乳房に触れていく。
「あっ、あんっ……やっ、やぅっ……」
 現れた慎ましい膨らみに顔を寄せ、頬ずりするようにしながら舌をチロチロと這わせると、ピクっ、ピクっ、と体を震わせるのが可愛らしい。
「凄く綺麗だよ……こんな綺麗なオッパイ……触れられるだけで素晴らしいよ……」
 形をなぞるようにして白い膨らみを指で撫で、可愛らしく勃起している桜色の乳首を突いていく。
「はぅっ……やっ、やぁっ……緋道、あっ……変態っぽい、あんっ……」
「変態かもね……だって聖川さんのいやらしい姿を、もっともっと見たいって思っちゃってるもん……」
 そう言いながら乳首をベロリと舐め、チュっ、チュっ、と小刻みに吸い付いていく。
「やぁっ、やっ、やんっ……大きい声、出ちゃう、あっ、やっ……誰か来たら、あんっ……マズい、ああっ……」
 自分から誘っておいてそう言ってくるのに苦笑するが、確かにあまり大きな声を出されても困るところだった。
 一応結界は張ってはいるものの、あまり存在を主張するような行為は避けるべきだったからだ。
「それじゃ、誰か来る前にしないとね」
 そう言いながらスカートを捲り上げ、パンティを引き下ろす。
 そのまま近くにある木に掴まらせると細い腰を持ち、背後から肉棒を入れていく。
「あぅんっ……あっ、ああっ……」
 一気に根本まで押し込むと、雪花が頭を仰け反らせて可愛らしく喘いだ。
 肉棒がキュウっと締め付けられており、膣襞がヌメヌメと絡みついてくるのに強い気持ちの良さを覚える。
「凄くいいよ聖川さん……聖川さんの中、あったかくてヌルヌルしてて、凄く最高だ……」
「うぅ……そういう事、言わない……恥ずかしい……」
「でも本当のことだからさ。聖川さんはどうも自虐的な所があるから、こうして褒めておこうと思って。凄くいいよ。気持ちいい」
「ありが、とう……嬉しい……」
 恥ずかしそうに礼を言ってくるのに笑顔で応えつつ、もっと喜ばせようと腰を動かし始める。
「あっ、あっ、ああっ……いきなり、あんっ……凄い、あっ……気持ち、ああっ……いい、あんっ……」
 木に必死にしがみつき、小さな尻を突き出して喘ぐ姿は、幼い容姿だけに何とも卑猥だった。
 突き込みが行われるたびに大きなリボンの付いた頭が仰け反り、可愛らしい喘ぎが唇から漏れるのに興奮が高まっていく。
「緋道、あっ、ああっ……緋道ぉ、あんっ、あぅっ……緋道ぅ、ああっ、ああっ……」
 振り返り、名前を呼びながら潤んだ瞳で見つめてくるのが何とも嗜虐心をそそり、肉棒が激しく猛った。
 この小さな体をもっと貪りたい。激しく責めて、泣き叫ばせたい。
 そうした想いが強まり、腰の動きが強く大きくなっていく。
「ああぅっ、あっ、ああんっ……あぐっ、あっ、あぅっ……凄い、あっ……凄い、ああっ……凄いぃっ……やっ、やはぁっ……あっ、あっ、ああっ……」
 プリーツスカートが捲れ上がり、丸出しになった小さな尻が背中に付きそうになるほど押し出され、そのたびに可愛らしい喘ぎが周囲に響いた。
 かなり大きな声になっており、近くを通りかかれば何をしているのかすぐに分かってしまうだろう。
 しかしここまで興奮してしまうと、それを抑えることも出来なかった。
 何しろとにかく気持ちが良いため、動きを緩めるなど勿体なさすぎたからだ。
「やっ、やっ、やんっ……そこ、あっ……そこは、ああっ……そんな風にぃ、やっ、やっ、やぁんっ……」
 特に感じるらしい箇所へ肉棒を打ち付け、小刻みに腰を振ると、雪花はそれまで以上に甘ったるく喘いだ。
 背後から手を胸元へ伸ばし、重力の影響で少し量が増えた膨らみを掴みつつ、荒々しく揉みしだいていく。
「あっ、ああっ……胸を、あっ……胸をそんな、やぅっ……胸ダメぇ、あっ、ああっ……ダメだよ緋道ぅ、あっ、やっ、ああぅっ……」
「聖川さんは気にしてるけどっ……小さくてもこんなに感じてるっ……男はねっ……こうして可愛らしくしてくれるとっ……すっごく嬉しいんだよっ……そいう意味でっ……聖川さんの胸はすっごくいいんだっ……最高だよっ……」
 実際胸に刺激を与えると、雪花の反応は格段に良くなった。
 膨らみは小さくとも、感度はかなり良いらしい。
「胸、あっ、ああっ……この胸も、あんっ……緋道の、ああっ……緋道の物、ああっ……緋道の物なのぉっ……」
 可愛らしい叫びに応じて、慎ましい膨らみを強く握り締め、肉棒を勢い良く突き込んでいく。
 それと共に膣内が激しく収縮し、肉棒はたまらない気持ちの良さで満たされていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……わたしもう、ああっ……わたしもうダメ、ああぅっ、あっ……わたしもうダメだよぉ、あっ、あっ、ああっ……」
 腕の力が抜けたのか、ズルズルと下がっていく上半身を抱え上げ、そのまま打ち上げるようにして腰を叩き付けていく。
 そうすると雪花の体重が乗ってきたため、それまで以上に肉棒が奥へと突き刺さった。
「あぅっ、あぐっ……こんな、ああっ……こんなの、あふっ……ダメっ、ダメっ、ダメぇっ……わたしイっちゃう、ああっ……イっちゃうの、あんっ……イっちゃうよぉ、やっ、やぅっ、やぁんっ……」
 涙声で喘ぎ、限界を告げてくる雪花の様子に、神治の射精感も激しく高まっていった。
 このまま一気に精を放つのだと意識し、それまで以上に強く大きく肉棒を叩き付けていく。
「あんっ、あぅっ、ああんっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……緋道っ、緋道っ、緋道ぅっ……やっ、やっ、やぁあああああああああんっ!」
「聖川さんっ!」
 雪花の体が硬直し、泣き叫びのような喘ぎを発した瞬間、神治も精を放った。
 激しい勢いで精液が放出されていき、小さな子宮に注がれていくのを認識すると、何とも言えない満足感が押し寄せてくる。
 目の前の小さな体はピクピクと震えており、時折「あ……あぁ……」といった吐息が漏れ聞こえてくるのに幸福感を得る。
 やはりこうして女性の中に射精している瞬間は最高だった。
 全てが快楽に染まり、体全体で女性を感じているこの瞬間こそ、生きている証のように思えた。
 数度の射精の後、小さな体を支えながらゆっくりと腰を下ろし、背後から抱き締めていると強い安堵感を覚えた。
 未だ肉棒は膣内に入ったままであるため、雪花と繋がっているのが感じられて嬉しくなってくる。
 大きなリボンのついた頭に顎を乗せ、回り込むようにして頬ずりしていくと、応じるようにして雪花も頬を擦り付けてきたため心地良さに包まれた。
「緋道……わたし……緋道の物、だよ……好き……大好き……」
「俺も好きだよ……聖川さんが大好きだ……」
 うっとりとした表情で告げてきた雪花にそう応えながら、桜色をした愛らしい唇に己の唇を重ねた神治は、その小さな体を強く抱き締めると、再び腰を勢い良く振っていくのだった。












あとがき

 長くなってしまいました。
 最初は単純に無口なクラスメートの話にしようと思って、嫉妬から抱かれる展開にしようと思った訳です。
 それは変わっていないのですが、何か色々要素が増えちゃいまして。
 書き始めてみると、あれもこれもと加わっていっちゃって、気がついてみればかなりの長さに。
 まあ、書くのが面白かったから良かったんですけど。
 最初お嬢様校に所属しているのは、生徒会三人組と、冴花達、そして美子で終わるつもりだったんですよね。
 でもやはりトドメとして「小学生なのに中学生みたいな容姿でさらに巨乳」という設定の齋も出すべきだろうと思って増やしました。
 体にコンプレックスのある雪花にしてみれば、最も耐え難い相手でしょうからねぇ。こりゃ出さんといかんな、と。
 そして実際書き始めてみると、みんな喋りやがるんですよ(笑)
 生徒会三人組は久々だから喋らせなきゃいけないって感じになりましたし、美子なんぞは喋ってナンボですからね。
 さらに美子の時には、他のキャラでは抑えていた歩美達との会話まで入れちゃいましたから。
 そりゃあ、台詞もどんどん増えますわ。
 取り敢えず冴花達と齋は減らしたんですが、それでもある程度の量はありますからねぇ。
 その部分でまずは想定外。
 さらに本来このエピソードに関わるのは、新キャラの雪花と伊吹だけだったんですけど、神治と仲がいいという設定なのに歩美と朱理が関わらないのは変だろうと、二人を加えたのが運の尽き。もう喋りまくる(笑)
 気がつけば物凄い量になっていました。
 まあ、楽しい学園生活のノリも描けたので良かったですけど。
 さらに「歩美が変な風に促して雪花が抱かれる決意をする」というこれまでなかった展開に出来たのも良かったです。
「嫉妬から抱かれる」ってのが、雪花の性格から描くのが結構難しかったんですよね。あまり積極性のある子じゃないですから。
 そういう意味でありがたかったです。
 あと歩美の宗教臭さも出せたのも良かったですか。
 あれはかなり胡散臭いっす(笑)
 だけど歩美のエッチシーンも書いたのは誤算でした。
「そういや歩美は別の話で書いて無かったなぁ」と思ったので、この状況なら抱かせてあげないと可哀想だなぁ、という感じで書いちゃったんですよね。
 本来は雪花と歩美と一緒にしているのも書こうかと思ったのですが、さすがに嫌になったので止めました。
 まあ、HIJIN会メンバーは、その内一緒にやるようなものも書きたいと思ってますけど。
 作中でも示唆してましたが、実際にハーレムにしちゃうのですな。
 そういうのもやりたいですね。
 朱理だけは難しそうですけど。
 あと伊吹はどうするかなぁ、と。
 何か勢いで入れちゃいましたが、果たして彼は部の民になるのか否か。
 初の男の部の民入りか。
 どうなりますやら。
 まあ、そんな感じで、実に長い話になってしまいました。
 書いている最中は楽しかったのですが、読んでも楽しめる内容にもなっていたら嬉しいです。
 って、あとがきも長いですね(笑)
(2014.2.12)

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