緋道の神器


        第四十三話  強気の先輩



 一色陽菜(いっしきひな)は、友人の岡嶋琴巴のことを心配していた。
 どうにも最近様子がおかしいからだ。
 琴巴とは中学からの友人で、ずっと仲良く付き合っている。
 自分は活発で強気の性格であり、琴巴は天然で大人しい性格であったため、一見すると上手くいきそうもなかったが、逆にそうした性格の違いが良かったのか、これまで上手くやってきた。
 琴巴は顔が可愛らしく、胸も驚くほどに大きかったため、男に言い寄られることが多く、そうした事から守ることもしばしばあった。
 大人しい性格からなかなか断れない琴巴の代わりに、強い口調で男を追い払うのが自分の役目であり、それは普通であれば面倒に思えることだろうが、頼られるのは嬉しかったし、何より琴巴を可愛く思っていたため、特に苦痛に感じることはなかった。
 己の小学生のような小柄な体や、巨乳とは呼べない小さな胸の膨らみの事を考えると、劣等感を刺激されることもあったが、そんな事が気にならないほど琴巴に対する友情は強かった。とにかく一緒に居ると楽しかったし、琴巴を見ているだけで幸せになれたからだ。
 そんな琴巴が、最近恋人を作った。
 同じ学校の藤平統真という男だ。
 自分の知らない間に関係が築かれていた事にまず驚愕し、続けて相手の藤平が一体どんなヤツなのかと気になった。
 体目当ての最低男であれば、絶対に許せないと思ったからだ。
 あまりに胸の大きい琴巴は、いやらしい事を目的として付き合おうと言ってくる男が多かった。
 いつもはそうした輩を自分が事前に見抜き、琴巴が好意を抱く前に視界から去らせていたのだが、今回は失敗だったらしい。
 藤平との馴れ初めを聞くと、通学の際に落とした物を拾ってもらったことから親しくなり、少ししてから「付き合って欲しい」と告白されたという。
 その頃には琴巴も藤平に強い好意を抱くようになっていたため、自分に相談することなく承諾し、付き合い始めたというのだ。
 紹介された藤平というのは、どうにも気に食わない雰囲気を持つ男だった。
 自分の知らない間に琴巴と付き合った、という先入観もあったのだろうが、とにかくいけ好かない感じを覚えたのである。
 だが藤平と付き合っている琴巴は実に幸せそうであったため、その状態を壊すことなど出来るはずもなく、せいぜい嫌味を言うことくらいしか出来なかった。
 そんな状態がしばらく続いたある日、琴巴の様子がおかしいのに気づいた。
 時折ぼんやりとして、暗い表情を浮かべていたのだ。
 これは何かあった。
 そう思って琴巴に尋ねてみても、恥ずかしそうにするだけで何も教えてはくれなかった。
 藤平を呼び出して問い詰めてみたりもしたが、何のことだか分からない、という態度を取っており、それには嘘をついている感じはしなかったため何も分からなかった。
 そうこうしている内に、琴巴の様子は益々おかしくなり、時折だったぼんやりがしょっちゅうになり、暗い表情を浮かべるのが常態になっていった。
 藤平を改めて問い詰めてみれば、態度があからさまに悪くなっていて、「何が悪いのか」という様子を示してきたため、何かあったことが分かった。
 まさに開き直りの態度であり、藤平が酷いことをしたのは確実だった。
 琴巴にその事を尋ねてみるが、「統真くんは悪くないです。悪いのは私なんです」と言うだけで、何があったのか全く分からなかった。
 可愛い琴巴が日に日に辛そうにしていくのを見るのは悲しく、何も出来ないでいる自分が情けなくて涙を流すこともあった。
 このままでは琴巴は自殺でもするのではないか、と思えるほどに追い詰められているのが感じられたため、こうなれば嫌われても良いから徹底的に問い詰めようと決意するに至った。
 休みを挟んだ月曜日、覚悟を決めて琴巴に声をかけると、驚いたことにすっかり様子が変わっていたため愕然とした。
 暗さなどはどこへやら、妙に明るく、楽しげにしていたのだ。
 これは一体何がどうなったのかと訳が分からなくなり、その事を尋ねてみると、琴巴は「私、素晴らしい存在と出会えたんですよぉ」とだけ言ってうっとりとした表情を浮かべた。
 それは何とも奇妙というか、怖さを感じさせるほどの陶酔状態であったため、変な宗教でも始めたのかと思うくらいだった。
 恐る恐る藤平のことを尋ねてみると、「彼、浮気したから今度別れることにしました。今まで陽菜ちゃんには心配かけてごめんなさい。もう大丈夫ですから」などと言われ、そのあっけらかんとした態度に呆然とした。
 あれほど藤平のことを気に掛け、苦しんでいたというのに、この急激な変化は一体何なのだろう。
 休みに入る前まではいつもと同じだったのだから、休みの間に何かあったに違いない。
 そう思い尋ねてみると、琴巴は妙に恥ずかしそうな、それでいて凄く嬉しそうな表情を浮かべ、「凄いことがあったんです。だから私、幸せで一杯なんですよぉ」と言って、再び陶酔状態になった。
 あまりに抽象的すぎるため、具体的に何があったのか聞き出そうとしたが、それに関しては頑として答えてくれなかった。
 というか、顔を真っ赤にして「そ、そんなの答えられません。無理です言えないです。ごめんなさい」とオロオロされるのにはどうしたらいいのか困ってしまった。
 仕方なく直接聞き出すのは諦め、他の方法で情報を集めようと、休みに琴巴と接触のあった、園芸部の知り合いに尋ねてみることにした。
 その知り合いの話によると、どうやら休みの日は部員で買い出しに出かけたらしいのだが、その時の琴巴の様子はいつもと変わらず暗かった、というか、さらに酷かったようなので、変化が起きた理由としては違うようだった。
 仕方なく礼を告げて去ろうとすると、園芸部の知り合いは、ふと思い出したように「そういえば、緋道くんが家まで付き添ってたから、彼なら何か知ってるかもよ」と言ってきた。
 緋道?
 聞いたことのない名前に驚きつつ、彼、つまり男であるという事に敏感に反応する。
 もしや何かあったとすればその男とだろうか。
 その緋道という部員と琴巴はどんな感じだったのかと尋ねると、「緋道くんは部員じゃないよ。一年生でね、時々植物園に来てて、手伝いもしてくれてる子。正式な部員じゃないけど、準部員みたいな感じかな。岡嶋さんと仲良かったから付き添ってもらったのよ。岡嶋さん、ホント酷い状態だったから。岡嶋さんも他の部員が来るのは嫌がったけど、緋道くんだと受け入れてくれたからね。だから彼に頼んだんだ」と答えた。
 誰かの同行を嫌がる状態の琴巴が、一緒に来ることを許した相手。
 それはかなり親密な関係と言えるのではないか。
 これまで全く聞いたことのなかった男だけに、激しい動揺が起こる。
 またもや自分の知らない間に、琴巴と親しくなっている男が居る。
 このままでは藤平が恋人になった際の二の舞になりかねなかった。
 何しろ琴巴はその時藤平との事で暗くなっていたのだから、それを慰める形で心に入り込まれてしまう可能性はあっただろう。辛い時に優しくされれば、ほだされてしまうのが人情だからだ。
 そして純粋な琴巴は、それを恋心と勘違いし、好きになってしまうかも知れない。いや、それ以前に、そうした所につけ込まれ、いやらしい事をされてしまう可能性があった。
 もしやその緋道という男も、それが目的で近づいたのではないか。部員でもないくせに部活の手伝いをしているなど、いかにも琴巴に好感を持たれるための算段と言えたからだ。
 そうだ、きっとそうに違いない。
 琴巴のテンションが妙に上がっているのも、緋道と一緒に帰った時に何かあり、その事で藤平との関係を吹っ切ることが出来たからかも知れない。
 考えてみれば簡単なことだった。琴巴はその緋道という男に恋をしたのだ。
 ゆえに藤平のことがどうでもよくなったのだろう。新しい恋に目覚めたから、古い恋を捨てられたのである。
 その事自体は、藤平と切れるという意味で歓迎すべきことだったが、問題は相手の緋道が、また体目当てのどうしようもない男である可能性がある事だった。
 おそらく十中八九そうだろう。
 琴巴の大きな胸に引き寄せられ、その体を自分のモノにしたいと張り切っているのだ。
 琴巴に近づいてくる男はみんなそうだった。
 欲情したいやらしい目で、琴巴の胸を見、鼻息を荒くしながら近づいてくるのである。
 この緋道という男も絶対そうに違いない。
 そんな男、琴巴の傍に一秒たりとも置いておく訳にはいかなかった。
 絶対に邪魔してやる。
 藤平との時のような失敗は二度とご免だった。
 琴巴がいくら悲しもうと、今度は無理矢理にでも早く別れさせるのだ。
 陽菜はそう決意すると、緋道という男の情報を得ようと、園芸部の知り合いにさらに詳しく話を聞いてみることにした。
 そこで聞かされたのは驚くべき内容だった。
 何とその緋道という男は、ハーレムを作っている噂があるというのである。
 自らの所属している文芸部に可愛い女子生徒を集め、好き放題しているというのだ。
 しかも美人で人気のある海棠先生もその一員であり、さらにはあろうことか女の子のように可愛らしい男子生徒も加えているという。
 そう言えば、自分も確かにそんな噂話を聞いた覚えがあった。
 あまり興味が無かったため、男の名前など記憶していなかったのだが、それがまさか緋道だったとは。
 園芸部の知り合いは「あくまで噂よ噂。私が見た限りじゃ、緋道くんって真面目だし、逆にそういう事には奥手っぽい印象があるから。岡嶋さんと一緒に居るときも、いつも落ち着かない感じだったしね。あれってかなり恥ずかしがってたからだと思う。ほら、彼女って胸が凄いから、純情な男の子ならそうなっちゃうでしょ。私の考えでは、ハーレムなんて噂は、偶然可愛い子に囲まれているせいで、周りが面白がって言っているだけだと思うな。大体、本当にそんなこと出来るとは思えないし。だってハーレムよハーレム。あり得ないでしょ」と述べた。
 言われてみれば確かにその通りで、現実にハーレムを作ることなど無理だろう。
 大金持ちが金に物を言わせて女性を集めたりしている訳ではないのだ。
 高校生が個人の魅力だけで複数の女性を集めるなど、あまりにもあり得ないことだった。
 しかし逆に言えば、そのあり得ないことに関する噂を立てられるというのも不思議なことだ。
 ある程度は納得できる雰囲気がなければ、そんな噂は立たないだろう。
 おそらく緋道という男は、女ったらしに違いない。
 ハーレムは大げさにしても、数人の女性をたらしこんでいる可能性はあった。
 琴巴もその手管にやられてしまったのだ。
 そう考えると怒りが込み上げてくる。
 文句の一つでも言ってやらなければ、と思い、適当な理由を作って緋道のクラスを教えてもらい、部活中に撮影したという写真で顔を確認させてもらうと、陽菜は緋道の居る文芸部の部室へと向かった。
 クラブハウスのある付近まで来ると、上手い具合に緋道らしき男子生徒が歩いている所に出くわした。
 そしてそこには、予想通りと言うべき光景があったたため、怒りではらわたが煮えくりかえりそうになった。
 緋道の周りには、何とも可愛い女子生徒が二人に、美人の海棠先生、そして男にしておくには勿体ないほど可愛らしい男子生徒が居たのだ。
 彼女たちは緋道を中心に実に楽しげにしているのだが、注意深く見ていると、妙な雰囲気があることに気がつく。
 その理由は視線だった。
 緋道に向けられている視線が、何というか実に特殊なものだったのだ。
 それは普通に見ていたら気づかないものだったろうが、以前から琴巴に向けられるいやらしい視線に慣れていた陽菜には何となく分かった。
 琴巴にいやらしい想いをぶつけている男達と似たような、ねっとりとした絡みつくような視線だったのである。
 おそらくその視線の存在が、見る者に妖しげな雰囲気を感じさせ、ハーレムなどという噂の原因となっているのだろう。
 彼女たちは緋道に対していやらしい想いを抱いている。
 まさか全員と肉体関係を持っているのでは、と思ったが、さすがにそれは無いだろうと慌てて否定する。
 複数の、しかも可愛い相手とばかりセックスしている、などという高校生が居るはずがないと思ったからだ。
 しかも一人は男なのである。
 それを考えるだけでも、肉体関係には至っていないように思えた。
 とはいえ、妖しい雰囲気がある以上、それに近しい間柄にはなっていそうに思えたが。
 どちらにせよ、女ったらしであるのは確実であるように思えた。
 さらに男もたらしこんでいるとなれば、やはり緋道はとんでもない男という事になった。
 このような男と、可愛い琴巴を付き合わせるなど言語道断だった。早々に琴巴と別れさせなければ……。
 そんな事を思っていると、緋道が一人でこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。
 慌てて物陰へ隠れると、どうやらジュースを買うつもりらしく、自動販売機の前でポケットから財布を出している。
 他の連中は来なかったため、何か告げるとすれば今がチャンスだった。
「ちょっといいっ?」
 近づいてから少し強めの声で呼びかけると、緋道は驚いたように体を震わせた後、こちらへ振り返った。
 近くで見ると、特に目立った雰囲気のない、どこにでも居そうな男子生徒であったため、一瞬たじろいでしまう。
 どうにも脳内で創り上げた「極悪非道な女ったらし」というイメージが強かったせいか、ギャップに驚いてしまったのだ。
 大きく呼吸してから気を取り直し、用件を告げようと息を吸い込む。
「あんた、緋道ってんでしょっ?」
「そうですけど……」
 緋道は面食らった顔をして、少し怯えたような素振りをした。
 これまたどうにもイメージと食い違ったため動揺してしまう。脳内で創った緋道は、もっと剛胆な人物だったからだ。
「私は琴巴、岡嶋琴巴の友達の一色陽菜っていうのっ。あんたに言いたいことがあって来たのよっ」
「俺にですか?」
「そう、あんたにねっ。あんた、琴巴にまとわりつくの止めなさいっ。今後琴巴には近づかないことっ」
「な、何でですか……?」
 緋道は理解できない、といった表情を浮かべて不審そうにしている。
 それも当然だろう、いきなり知らない相手から、友人に近づくなと言われたのだから。
 しかしその程度の理不尽さで引き下がってはいけないのだ。全て琴巴のためなのである。
 そう思い、語気をさらに強めていく。
「決まってるでしょっ。琴巴のためよっ」
「岡嶋先輩のためって……何でそうなるのか全然分からないんですけど……」
「あんた、琴巴のこと狙ってるんでしょっ?」
「狙ってる?」
「彼女にしたいとか、いいえ、それならまだしも、体目当てで付き合おうとしてるでしょっ。そのために琴巴が辛い時につけ込んで、色々しているんだろうって言ってるのっ」
「えっと……え〜〜、何でそんな風に思われてるのか分かりませんが、俺は別に何も……」
「何もしてないって言うのっ?」
「いや、まあ……その、してると言えばしてますが……」
「やっぱり何かしたのねっ。何て男なのかしらっ。あんた、とんでもないわっ。もう絶対琴巴に近づかないでよっ。近づいたら許さないんだからねっ」
 具体的に何をしたのか分からなかったが、どうせ琴巴を惑わす何かに違いない。そんなことは言われなくても想像できた。
 何しろ先ほど緋道は、一瞬ニヤけたような表情を浮かべたのだ。それは実にいやらしさを感じさせるものであり、琴巴に対して性的な行為をしたのは確実だった。
 何ということだろう。あの可憐な琴巴がこの男の毒牙にかかってしまったとは……。
 藤平にもされたに違いないが、この男の方が何やらいやらしさを感じさせたため、より宜しくない行為をされたように思えた。
 許し難い。何とも許し難い男だった。
「もう絶対に琴巴に近づかないでよっ。絶対駄目だからねっ。近づいたら絶対に許さないんだからっ」
 こちらの意思を強く伝えるため「絶対」を繰り返して告げると、そのまま立ち去ろうと歩き出す。
 言いたいことを言ったので、実にすっきりした気分だった。最低最悪の男にグウの音も出ないほど言ってやったのだ。
 これでもう緋道は琴巴に近づかないだろう。これまでの男は皆そうだったからだ。強気で言われると引き下がるのである。
 何とも情けない限りだと思うのと同時に、琴巴に対する想いはその程度なのかと腹立たしく感じたりもした。
 本当に琴巴の事が好きであれば、本来無関係である自分に言われた程度で引き下がるなどおかしいからだ。
 つまり引き下がるということは、その程度の想いしか持っていないということだろう。
 そういう意味で琴巴に近づく男というのは、ろくなのが居ないのだった。
「近づかないってのは無理ですかねぇ。俺、岡嶋先輩と仲良くしたいですし。まあ、先輩の気持ちも分かりますけど、強制は出来ないでしょ。そもそも岡嶋先輩は嫌がってないんだから、それを無理矢理邪魔するってのもどうかと思いますよ」
「!……」
 カチーンっと来た。
 いきなり何か言ってきたと思ったら、完全なる敵対的な態度をとったからだ。
 これは今までに無い経験だった。
 この緋道という男、思っていた以上に気骨があるのかも知れない。
 なるほど、これならばハーレムを作った印象とズレはなかった。
「へ、へぇ……私の言うことが聞けないって言うの? そ、そう……琴巴の親友たるこの私に逆らうなんていい度胸ね……分かったわっ。今からあんたと私は敵同士よっ。琴巴との関係を徹底的に邪魔してやるんだからっ。覚悟しておきなさいっ」
 腰に手を当て、人差し指を突きつけながらそう叫ぶ。
 実に決まった。
 まさに宣戦布告という感じで宣言が出来ていた。
 これならば緋道も動揺するだろう。
 先制攻撃として上手くいったのだ。
 しかし緋道の様子をうかがうと、そんなこちらの想いとは裏腹に、一瞬驚いたようにはしたものの、何だか嬉しそうな面白そうな笑みを浮かべていた。
 それは陽菜にとって予想外過ぎる反応だった。
「先輩って、いいですね……岡嶋先輩が友達にしてるのも分かるなぁ……参ったですよ。ホントヤバい……」
 続けて嬉しそうな表情を浮かべながら、何やら訳の分からないことを呟いている。
 その様子に不安になってくる。
 一体どう受け取ればそんな楽しげな感じになるのだ。
 己の狙っている女の親友に、「徹底的に邪魔してやる」と言われて何故嬉しそうに出来るのだろう。
 緋道という男が分からなかった。
「な、何言ってるのよ……あんた何なのよ……ホントに分かったのっ?」
「分かってますよ。俺と先輩は敵同士なんでしょ? 岡嶋先輩を巡って争うんですよね? 了解しました。頑張らさせていただきます」
 動揺しつつ念を押すと、緋道は言葉だけは理解できたように言ってはきたが、態度はまるきり分かっていない感じだった。
 まるでたわいのない幼い少女をあしらうように告げているのだ。何とも遊ばれている感じがしてきて、違った意味で腹が立ってきてしまう。
 何故なら自分は童顔で背が低かったため、幼い少女の印象を持たれることが多く、その事で軽く扱われたり、からかわれたりすることがよくあったからだ。
 これまでもそうしてきた相手には容赦のない態度で接してきたのだが、緋道に対してもその怒りが込み上げてきた。
「あんたっ。私が小さいからって馬鹿にしてるわねっ」
「え?……いや、その……馬鹿にしてるだなんて……確かに先輩は小さいですけど、別に馬鹿にはしてないですよ。むしろ可愛いなって思うし、そう思われるのは嫌ですか?」
「嫌よ嫌っ。可愛いっていうのだって、小学生に対して可愛いって思うのと同じ意味でしょうがっ。結局小さいことを馬鹿にしてるから、可愛く思っているのよあんたはっ」
「そんな事ないですよ。可愛いって思うのが馬鹿にしてるからだなんて間違いですって。そりゃ、そう思っているヤツもいるかも知れないけど、俺は違います。可愛いから可愛いって思ってるんですから。だって先輩、凄く可愛いじゃないですか。顔だって凄く可愛いですし、お団子みたいな髪型だって可愛いですし、小さな体つきだって可愛すぎますよ。何よりその気の強いところなんて凄くツボで、俺はもうどうしたらいいのやらって感じで参ってますから」
 緋道は凄く慌てた感じで言ってきた。
 それはこれまでの雰囲気と違って、何ともオロオロとした情けなさを感じさせたため、妙な可笑しさを覚えた。
「あんた、本気で言ってるの?」
「本気ですよ。先輩は可愛いです。もっと言うなら俺の好みです。だから馬鹿にしてるなんてあり得ません。だって仲良くしたくなる相手を馬鹿にするなんってあり得ないでしょ?」
「仲良くしたいって……何言ってるの。あんたと私は敵同士だって言ったでしょうがっ」
「いやまあ、そうなんですけどね。先輩みたいに可愛い人となら、そういうのも嬉しいかなって……」
「う〜〜、何言ってるのよあんたっ。訳分からないっ」
 実際、訳が分からなくなっていた。
 宣戦布告をしたはずなのに、いつの間にやら「仲良くしたい」などと言われているのだ。
 しかも取りようによっては恋愛の告白のような意味にも聞こえたため、恥ずかしさから顔が少し熱くなってくる。
 考えてみれば、ここまで率直に「可愛い」と連呼されたのは初めてだったかも知れない。
 さらに困ったことに、緋道の言葉には本人の言う通り馬鹿にした雰囲気は感じられず、女の子として可愛く思っているらしいのが伝わってきていたのだ。
 緋道は本気で自分のことを可愛いと思っているのである。その事に嘘は無さそうだった。
 普通であればそれで気分を良くし、緋道に対して好意的になれただろう。
 しかし琴巴のことがある以上、そうした事は絶対にあり得ないことだった。
 いや、あってはならないのだ。
 そう結論づけた陽菜は、動揺を振り払うと大きく息を吸い込んだ。
「とにかくっ、あんたと私は敵同士よっ。これから容赦しないからねっ。次に会った時は覚悟しておきなさいっ」
 そう宣言すると勢い良く振り返り、足早にその場から立ち去った。
 緋道の言い分を聞いてしまえば、またおかしくなりそうに思えたからだ。
 声をかけられるのではないかとドキドキしていたが、特に何も聞こえず、その事にホッとすると共に、物足りなさを感じている自分に気づいて動揺する。緋道の言葉をもっと聞きたいと思っているような気がしたからだ。
(馬鹿っ、何考えてるのよ。あいつは敵なのよ敵。琴巴を酷い目に遭わせる最悪男なんだから……)
 とはいえ、話した感じではそこまで酷い男には思えなかった。
 ただ、そう思えてしまっている自分の状態こそがあの男の手かも知れないと考えて気を引き締める。
 ああして「可愛い」などと言ってこちらの動揺を誘い、意識させるのが手口なのだろう。
 きっと琴巴や文芸部の女性達はそれにやられたに違いなかった。
 やはり緋道は酷いヤツなのだ。
 そう無理矢理結論づけた陽菜は、これからどうやって琴巴を守っていこうかなどと考えつつ、時折頭に浮かんでしまう緋道のニヤけ顔に苛つきを覚えながら、教室へ向かってのしのしと歩いていくのだった。


 神治は秋羅を待っていた。
 秋羅とは、琴巴の元恋人である藤平の様子を見に行った際に知り合った男子生徒であり、一つ上の二年生の先輩だった。
 琴巴を心配した神治は、藤平の事を知る秋羅に、彼について聞かせてもらう約束をしていたのだが、結局あれから何の連絡もなく、そうこうしている内に琴巴と藤平の関係は解消されてしまった。
 そのため今となっては会う必要は無くなっていたのだが、この間突如として「会いたい。是非とも見せたいものがある」という内容のメールが送られてきたのである。
 どうしようかと思ったが、あの先輩にはどことなく惹かれるものを感じていたし、「是非とも見せたいもの」というのも気になったため会うことにした。
 一度会っただけの自分をわざわざ呼び出してまで見せたいものというのは一体何なのだろう。何か面白いものには違いないと思うのだが、予想が付かないため気になった。
 そんな事を考えながら秋羅を待っていると、不意に前方に何やら見知った顔が現れ、こちらへ近づいて来ているのが見えた。
 小さな背丈に、髪を二箇所お団子のようにした髪型、童顔の可愛らしい顔を憎々しげに歪め、勢い良く歩み寄ってくる女子生徒。
 それは先日、印象的な出会いをした一色陽菜だった。
 この先輩は琴巴の親友で、小学生のような容姿と強気の性格が何とも愛らしい少女であり、神治はおっかなさを感じつつも好意を抱いていた。どこか従妹の久美に似た雰囲気を持っているせいだろう。
 敵宣言をされた際の、仁王立ちして指を突きつけてくる様子などは、まさにそんな感じであり、その事から余計に惹かれていたりした。
 どうやら彼女は琴巴の保護者を自認しているようで、近寄る男を排除する事に使命感を燃やしており、神治もそうした男の一人としてキツく当たられたのだ。
 陽菜に惹かれている部分があるとはいえ、そうした態度は辛かったし、実際に接するとなると身構えてしまう部分があったため、今も近づいてくる姿に緊張を感じていた。
 だがこちらを睨み付けている姿に可愛らしさを感じ、思わず抱き締めたくなっていたりもしたため、そんな己に苦笑の想いを抱く。
 おっかながりつつも愛らしく感じているとは、何と矛盾した想いだろう。
 しかし陽菜の魅力としては、まさにそうした要素こそが大きなものであり、もし大人しく弱々しい態度など取られたりしたらつまらなかったに違いない。
 罵ってくるような態度こそ陽菜の魅力なのだった。
「女ったらしのハーレム王、こんな所で何してるのよっ。いたいけな女子生徒を毒牙に掛けようと狙ってるわけっ?」
 何とも強烈な第一声に力が抜ける。
 最近神治は、女ったらしとしての噂をされていたのだ。文芸部でハーレムを作り上げている、などと言われてしまっているのである。
 実際それは事実でもあったため、否定できないのが何とも言えないことだったが、実際本気にしている人間も居ないだろう。ハーレムなどと真面目に受け取る方がおかしいからである。
 陽菜にしても「女ったらし」の部分がメインらしく、神治がそうした手口で琴巴をたらしこんだのだと信じているようだった。
 その事に関しても否定は出来なかった。
 実際いつもの手口、快楽や神の力で琴巴を自分に夢中にさせたからだ。
 意識してした訳ではないのだが、どういう訳か自分と親しくなる女性は、部の民としての資質を持っていたため、ある程度親密になるとセックスに至るようになり、その結果虜にしてしまうのである。
 そう考えると、こうしてわざわざ突っかかってくる陽菜にしても、部の民の資質があるのではないかと思えてくる。
 このキツい先輩を部の民にするというのもなかなか良いな、などと思いつつ、顔がニヤけそうになるのを抑える。
 そんな風にしては、それをネタに責められそうだったからだ。
「何をニヤニヤしてるのよっ。どうせいやらしいことでも考えてたんでしょっ。あんたホントいやらしいわよねっ」
 だが上手くいかなかったようで、陽菜にキツく言われてしまう。
 その言葉に辛さを覚えるが、それと共に嬉しさも感じてしまうのだから困ったものだ。
 しかしキツく言ってくるのが可愛らしいのだから仕方ないだろう。
 陽菜はキツくなればなるほど可愛さが増すのだ。
 この凶暴な可愛さを持つ少女を抱いたらどんな感じになるのか。
 文句を言いつつも喘ぐ姿を見てみたい。
 そんな想いが湧き起こり、顔がまたニヤけてしまうのを抑えられなかった。
「あんたホントに変態ねっ。どうして罵られてそんな嬉しそうなのよっ。全く何でこんなのが琴巴もいいんだろっ。信じられないわっ」
 呆れたように罵ってくるのにまた可愛らしさを覚える。
 思わず頭を撫でたくなる衝動に駆られ、実際にしたらどう反応するのか想像し、ドキドキしてしまった。
 してみようか。
 どうしようか。
 よし、してみよう。
 そんな事を思って手を上げると、その瞬間、勢い良く陽菜が距離を取った。
「今、何するつもりだったのっ? エッチなことしようとしてたんでしょっ。やだ、私にまで何かするつもりっ? あんたホント節操ないわねっ。女なら誰でもいいんでしょっ」
「いや、誰でもって訳じゃないですけど。先輩可愛いんでちょっと頭を撫でたくなったんです」
「! 何ですってっ。頭を撫でるって、あんたやっぱり私のこと子供扱いしてるでしょっ。許し難いわホントっ」
 子供扱いされる事を嫌っている陽菜は、神治の言葉に敏感に反応している。
 そういう意味でこの言い方はマズかったかも知れないが、こうして怒っている姿もまた可愛かったため良いことにした。
「別に子供じゃなくたって頭は撫でたいですよ。大人相手だってしたいですから俺は」
「嘘言わないでっ。じゃあ、海棠先生にもしたっていうのっ? したことないでしょっ」
「したことありますよ。先生を可愛いって思ったらしてます」
「嘘……そんなの嘘よっ。あんたいい加減なこと言わないでよねっ」
 予想外の答えだったのか、陽菜は一瞬呆けたような表情を浮かべたが、すぐさまからかわれたと思ったらしく怒りを強めている。
「嘘を言ってもしょうがないじゃないですか。大人だろうが子供だろうが、可愛く思ったら頭撫でたくなるんです。まあ、先生の場合、撫でると怒られますけど」
 実際、母や伯母など、年上の女性を可愛く思った際には、頭を撫でたりしていた。
 これが結構好評で、もっと撫でて欲しいと言われることが多かったのだ。
 教師という立場を気にする麻衣などには怒られたりもするが、撫でられる行為自体は喜んでいるふしがあった。
「やっぱりあんた、海棠先生に手ぇ出してるのね……何てこと……さすがに先生には手を出してないと思ってたのに……こうなると男にも手を出しててもおかしくないわよね……やだ何それ、本当に変態じゃないっ。あんた変態すぎるわっ」
 勝手に結論づけた陽菜は、気色悪そうにこちらを見ている。
「いや、男は撫でてないですって。俺は女性しか相手にしません。って、あ〜〜、でも前撫でたくなったか……そういやそうだなぁ。変態なのか俺?」
 否定しようとしたが、以前男だと思っていた朱理の頭を撫でたいと思ったことがあったのを思い出す。
 並んで立った際に、ちょうど良い位置に頭があったため、何となくそうしたくなったのだ。
 考えてみれば、あれは気色の悪い衝動だったのではないだろうか。
 とはいえ、朱理は結局女の子だったのだし、それを本能的に察していたから撫でたくなったのではないかと思ってもみる。
 しかし朱理の身につけている護呪鎧は、本能的な要素でも女であると気づかせないほどの力があったように思えたため、やはりあの時の自分は男の朱理の頭を撫でたくなっていたのかも知れない。
 何やら考えるだに気色悪くなってきた。
「何よ急に元気無くなってるわね。まさか変態だって自覚してショック受けてる訳?」
 神治の様子を怪訝に思ったのか、陽菜が声のトーンを落として尋ねてきた。
 そう言えば、以前鷺子にも変態だと言われたことがあるのを思い出し、やはり自分は変態なのだろうかと考える。
 女性に対する節操の無さを考えれば、確かに変態と言えるのかも知れないが、さすがに男には性的な興味は無いから、そういう意味での変態というのは無いはずだった。
 朱理に関してはたまたまに違いない。何しろ彼女は男の状態でも見た目自体が女の子みたいな雰囲気があるからだ。そのせいで撫でたくなったのであり、男として撫でたい訳ではなかったはずなのである。
 きっとそうだ、そうに違いない。
 そう結論づけると、ホッと一安心な想いが起きた。
「やあ、待たせたね」
 そんな事を考えていると、不意に陽菜とは違う声が聞こえたため、驚いて視線を向ける。
 そこには秋羅が立っていた。
「やだ、男を待ってたの? しかもかなりのイケメンじゃない。やっぱりあんた、そういう趣味があったのね……」
「ち、違う違うっ。何言ってるんですかっ。違いますってっ」
 慌てて力強く否定する。
 それにしても何というタイミングだろう、寄りにもよってそうした誤解をされやすい美形の秋羅が現れるとは。
「でも待ち合わせしてたんでしょ? これからデートってことじゃないの?」
「おや、よく分かったね。僕と緋道くんはこれからデートなのさ。そういう約束でね。彼に是非とも見せたいものがあるから誘ったんだよ。彼とはまだ知り合って少ししか経ってないが、実に好ましいので見せたくなったのさ」
 秋羅までそんな事を言ってきたため、さらに慌ててしまう。
「何言ってるんですかっ。誤解されるような事を言わないで下さいっ。ただでさえ今誤解されかけてるところなのにっ」
 だが考えてみると、神治にしても秋羅に対して好ましい想いを抱いている。
 ほんの少しの時間しか一緒に居なかったにも関わらず、会うのを楽しみにしてしまったほどなのだ。
 やはり自分にはホモの気があるのだろうか。
 いや、そんなはずはなかった。
 自分は女好きだ。
 女の子が好きなのだ。
 男になんぞ興味はなかった。
 男を抱く、抱かれることを想像したら、気色の悪さが起こるのだから当然だろう。
 以前ヨーロッパで「男の神に襲われる」と誤解した際、凄まじい恐怖に囚われたのだから、それを考えれば自分がホモなはずはなかった。
「へぇ〜〜、見せたいもの? それって何なの? もしかしていやらしいものなんじゃないの?」
 神治が苦悩していると、陽菜は秋羅の「見せたいもの」という言葉に反応して尋ねている。
 そう言えば、自分にしても何を見せられるのか知らなかった。秋羅が来たら聞こうと思っていたのだ。
 さすがに陽菜の言うような「いやらしいもの」ではないだろうが、何なのか気になっていた。
「そうだよ。いやらしいものなんだ」
 だが神治の予想とは裏腹に、秋羅はにこやかな顔をしてそう告げてきた。
 そのあまりの答えに神治は呆気にとられたし、陽菜にしても驚きに顔を硬直させている。
 陽菜にしてみれば嫌味として「いやらしいもの」と言ったのだろうから、それを肯定された事に肩すかしを食らったというところだろう。
「あんた、私のことからかってるでしょ。子供扱いして笑ってるんでしょ。いやらしいものって認めればいいと思ってるんでしょ」
 そしてすぐさまからかわれているのだと思ったらしく、顔を歪めながら静かに怒りを顕わにしている。
「からかうだなんてとんでもない。それに君を子供扱いなんてしないよ。十分に大人だと思うしね。とはいえ、世間のいわゆる大人から言わせれば、僕らはまだ子供な訳だが……それからいやらしいものであるのも嘘じゃない。僕は彼にいやらしいものを見せるつもりだからね」
 淡々と述べる秋羅の言葉に、からかいや嘘の雰囲気は感じられなかった。本気でいやらしいものを見せるつもりらしい。一体何を考えているのだろう。
「あんた何考えてるのよ? いやらしいものを見せるために待ち合わせてたっての?」
「男同士がそうした理由で待ち合わせるというのは奇妙かい? エロ本の回し読みなどに代表されるように、昔から男というのはそうした事で集まるものなのだよ」
「信じられないっ。あんた一体何なのよっ。女の子に向かってそういうこと言う普通っ?」
「君から言ってきたんじゃないか。図星を指された側としては、慌てて誤魔化すか、開き直るかするしかない訳だが、僕は後者なんだねこれが」
 実に見事なまでにスケベな想いを隠さない秋羅の態度に爽快感を覚える。
 よくもここまで女の子に対して言えるものだ。普通はいやらしいことで責められれば恥ずかしさから縮こまるものだが。
 そうした秋羅の態度に言葉を無くしたのか、陽菜は怒りに体を震わせながら、顔を歪めて睨み付ける事しかできなくなっている。
「そういう訳で、そろそろ行ってもいいかな? いつまでもこうして話していても仕方ないだろうし」
「逃げるつもりっ?」
「逃げるつもりは無いんだが、僕らにも予定というものがあるからね。何ならまた後日にお相手させてもらうけど? 君はなかなか素敵なお嬢さんだからね、僕としてもこうして関われた事に至福の想いを得ているのだよ」
 秋羅は本当に嬉しそうに微笑んでおり、それには嘘が感じられなかった。
 陽菜も同じように感じたのか、大きく息を吐き出すと怒りを抑え込んでいる。
「いいわ。逃げないのなら今日は見逃してあげる」
「それはありがたい……ちなみに僕の名前は矢神秋羅、二年A組だ。覚えておいてくれたまえ」
「私は一色陽菜。二年C組よ……って、矢神秋羅? どこかで聞いたことある名前ね……?」
「僕は色々噂されてたりするからね。そのせいじゃないかな? まあ、そういう訳で行かせてもらうよ。さ、緋道くん、行こうじゃないか」
「え? あ、はい……」
 神治が返事をすると、秋羅は歩き始めたため後に続いていく。
 陽菜の様子を見ると、何か悩んでいるような表情を浮かべ、ウンウン唸っていた。秋羅の噂について思い出そうとしているのだろう。
 どんな噂なのか気になったが、このままここに居てはまた陽菜に罵られそうだったし、秋羅とは約束があったのだからそちらを優先させるべきだった。
 そう思った神治は、秋羅が見せたいといういやらしいものとは一体どんなものなのかと考えつつ、案内される方へと歩いていくのだった。


 そこは旧校舎だった。
 この学校はかなり昔の創立なため、木造の古い建物が残っているのだが、この旧校舎もその一部だった。
 秋羅は入り口の前まで来ると、古めかしい取っ手に手をかけて扉を開いた。
 ギギギといった音が周囲に響く。
「ここの中に見せたいものがあるんだ。きっと君も気に入ると思うよ」
 楽しげに微笑みながら、手で示して校舎内へ入るように促してくる。
 こんな所に何があるのだろうと思いつつ、神治はゆっくり中へ入っていった。
 奥へと進み、少し先に「大教室」と書かれた表示板のある教室が見える所まで来た時だった。
 不意に妙な感覚を覚えたため体をピクリと震わせてしまう。
 それは何かが直接肌に触れてくるような不思議な感覚であり、どこかで似た経験をした記憶があるのだが、何であったのか思い出せない。
 その事を気にしつつも大教室まで辿り着くと、秋羅が「ここだよ」と言いながら扉を開いて入っていった。
 促されるまま後に続くと、中は予想外の状態だったため驚く。
「大教室」と表示されていたのとは裏腹に、目の前には複数のドアがあり、いくつかの小部屋が存在していたからだ。
 しかも驚いたことに小部屋を構成している壁の作りは真新しく、最近設置されたものであるのが分かる。
 部屋の中には花の香りのような甘い匂いが漂っており、妙に神経に引っかかる感じを受けた。
 そんな状況に奇妙さを覚えていると、秋羅が少し奥にあるドアの中へと入っていったため後に続いた。
 そこは長細い部屋になっていて、物置になっているのか、ゴチャゴチャと色々な物が置いてあった。
 どうやら全ての小部屋と壁で接しているようで、長細くなっているのはそのためらしい。
 奥に机が一つ、椅子が数脚置いてあり、秋羅は机の傍まで行くと、神治に座るように示して自らも腰を下ろした。
「ここが僕が君に見て欲しいと思ったものが見られる場所なんだ。あちらを見てくれたまえ」
 秋羅は一度大きく息を吸った後、そう言いながら壁を示した。
 続けて何かスイッチが押されたような音がしたかと思うと、一部の壁がスライドしてガラス張りの状態になった。
 どうやら仕切られた小部屋の中が見られる作りになっているらしい。
 部屋の中には一体何があるのかと目を向けた瞬間、神治は意外な光景に驚いた。
 何故ならそこには、学校ではあり得ないはずの状況があったからだ。
 何と男女がベッドで絡み合っている姿があったのである。
 防音がしっかりしているのか、声は全く聞こえなかったが、それはどう見てもセックスしている状況だった。
「これはマジックミラーになっていてね。あちらからは見ることはできないんだ。完全防音にもなっているから声も聞こえないしね。でもそれもこうして切り替えると……」
 秋羅が告げてリモコンらしきものを操作すると、不意に複数の女性の喘ぎと男の呻く声が聞こえてきた。
 視覚だけでなく聴覚でも認識したため、ちょっとした興奮が湧き起こってくる。
 それにしてもこれは一体どういう事なのだろう。
「驚いたかい? これが君に見せたかったものなんだよ。言った通りいやらしいものだろう?」
「確かにそうですけど、何でこんな事になってるんですか?」
 得意げに告げてくるのに呆気にとられつつ、疑問に思ったことを尋ねてみる。
 何故学校でセックスをしているのだろう。というより、この部屋はどうしたのだろうか。まさか秋羅が作ったのだろうか。
「もう驚きからは立ち直ったのかい? さすがだね。僕の見込んだとおりだよ。普通の人はもう少し動揺しているものだが。君はこういう事に慣れている訳だね」
「いや、まあ……」
 確かに普通の反応としてはあまりに落ち着きすぎていたかも知れない。何と答えたものかと困りつつ、適当に相づちを打つ。
「君の事情は取り敢えず良しとするさ。それよりもこれについて説明をしよう。まずはそうだな、あの部屋の二人を見てくれたまえ」
 そう言って秋羅が示した部屋では、中年男性と女子生徒が交わっていた。普通で言えば淫行といったところだろうか。
 しかし緋道村でこうした光景を見慣れている神治は、動揺することもなく、世間にバレたら大変だろうな、といった感想を持った。
 だが二人の顔にどこか見覚えがあるのに気がつくと、誰であったかと記憶を探る。
「遠田先生と花塚さんだよ」
 秋羅が告げた名前に、一瞬誰だったかと思いつつ、少ししてから、それが秋羅と知り合った際に廊下で指導をしていた教師と、指導を受けていた女子生徒であることを思い出してギョッとなった。
「え? え? ちょっと待って下さいよ。何であの二人が……どうしてこうなってるんですか? 変でしょう?」
 あまりに予想外すぎる答えに訳が分からなくなった。
 何しろこのような事をする関係にはとても思えなかったからだ。どちらかと言えば互いが互いを毛嫌いしている方が納得できるだろう。
「まあ、普通はそう思うよね。だけど現実はこういう事なんだよ。遠田先生は花塚さんを求めていたし、花塚さんも遠田先生を求めていたんだ。とはいえ、彼ら自身もそんな自覚は無かったと思うよ。これはあくまで無意識下での話なんだ。心の奥底ではお互いを求めていたという訳さ」
「無意識って……どういう事なんですか?」
「人は、表面に現れる人格とは別に、心の奥底に無意識という本質的な部分を隠しているものなんだ。それは本人にも認識できないものでね、色々と複雑だったり意外なものだったりするんだよ。そしてそれを解放してやると、こうした普通ならあり得ない事が起きたりするんだな。表面上の人格では嫌悪し合っているはずの二人が、仲良くセックスしちゃったりするね」
 淡々と語る秋羅に、一体この人は何者なのだろうと不審の念を抱く。
 普通の高校生がこのような知識を持っているのも奇異だったが、それはまだ知識というだけであり得ることだろう。しかしその知識に基づくことを現実に反映させ、しかもそれを行うための場所を用意するとなれば、並の高校生では無理なことだからだ。
 どうやらこの矢上秋羅という上級生は、単に魅力的な人物というだけではなく、普通とは異なる要素を持った人らしい。
「解放してやるって、先輩がしたんですか?」
「そうだね。僕はそういう事が出来るんだ。少々薬物を使ってね。ほら、この部屋には妙な香りが漂っているだろ? これは特殊な媚薬でね、性的に興奮させるだけじゃなく、理性を狂わす作用があるんだよ。その結果として無意識の欲望が現れてくる訳さ。強力すぎるから使い方には気をつけなければいけないんだけどね」
「強力って……大丈夫なんですか?」
 そんなものを嗅いでいるのかと思うと不安になってくる。体に害は無いのだろうか。
「ああ、君は大丈夫さ。これに耐性があるのは確認済みだからね。前に僕と話をした時にこっそり嗅がせていたんだけど、全く変化が起きなかったからね。人によっては効かない場合もあるんだよこれ」
 その言葉にホッと息をつく。だがいつの間にそんな事をしていたのだろう。全く気がつかなかったのだが。
「あなたも効かないんですか?」
「そうだね。だからこうした場所の管理なんかも出来ている訳さ」
「管理……ですか。一体何のためにこんなことをしてるんです?」
「まあ、何というか……心の奥に秘めた想い、まあ、いわゆる性的な欲望なんだけどね、それのせいで歪んでしまっている状態の治療ってとこかな?」
「歪んでしまっている状態?」
「うん。遠田先生達はまさにその典型だね。遠田先生は本当は女子高生が大好きなんだよ。女子高生とエッチなことをしたくてしたくてしょうがないんだ。でも表面にある人格は、そうした事を決して許さないものなので、結果そうした想いが溜まっていって、抑圧された状態になってしまう訳さ。一方花塚さんは、ある種のファザーコンプレックスになっていてね、中年男性に無性に惹かれてしまうんだ。特に決まり事に執着するような堅物だと凄く惹かれてしまうらしい。二人は表面上は相性最悪と言えるけど、本質の部分ではまさに相性ピッタリなカップルってことになるんだよ。だからほら、あんなにも興奮して互いを求め合っているだろ?」
 秋羅の示した先では、はだけた制服からこぼれる乳房に遠田教師がむしゃぶりついており、その頭を愛おしそうに花塚が抱えて悶えている。
 遠田教師の腰が動くたびに、花塚の「先生、ああっ……先生もっと、あんっ……先生いいよぉっ、先生大好きぃっ……もっと、もっとしてぇっ……」という甘い喘ぎが響き、遠田教師もそれに応えて「いいぞ花塚、うぅっ……お前は最高だっ、素晴らしい生徒だっ……先生はお前のような生徒と知り合えて幸せだぞ、うぅっ……」と花塚を絶賛しながら夢中になって腰を振っている。
 以前見た時の険悪なムードが嘘のように、互いを強く求め合い、愛し合っている様子には驚くべきものがあった。
「これが彼ら本来の欲望なんだよ。でもそれが普段は隠れてしまっているんだ。無意識の内にね。しかもそのせいで歪みが出来てしまっている。だから僕はそれを解放してあげるんだよ。僕には何故かそうした隠されている欲望が見える力があるのでね。見えてしまえば何とかしてあげたくなるのが人情ってものだろう?」
 それは何とも驚きのことだった。
 どうやら秋羅は特殊な能力の持ち主らしい。
 心が見える、というより、さらに奥底の無意識の欲望が見えるという事だろうか。
 確かにそのようなものが見え、さらにその事で歪みが生じているとすれば、何とかしてあげたくなるのも理解できた。
「だからこうした部屋を用意して、無意識下の欲望を解放してあげている訳さ。そうすると歪みが消えていくんだな。実際遠田先生と花塚さんのはかなり解消できてるしね。そしてそれは表面上の人格にも影響を与えたりするんだよ。最近遠田先生は細かい事ではあまり叱らなくなったし、花塚さんも校則違反を抑えるようになっているからね」
 それは何とも凄いことだった。
 無意識下の欲望などというのは本来認識できないものなのだから、それが原因で何か影響されていても治しようがない訳だが、秋羅はそれを治してあげているというのだ。
 これは単に特殊な能力があるから出来るという話ではなかった。
 たとえそうした能力があったとしても、それによって知り得た歪みをどうすればいいのか、という話になるし、また治療してあげる事にしたとしても、どうすればいいのか分からないからだ。
 だが秋羅はそれらの事を見事に実践しているのである。やはりこの上級生は並の人間ではないと言えるだろう。
「凄いですね……先輩凄いですよ……」
「ありがとう。まあ、今のところ微々たるものでしかないけどね。それに薬物を使うしかないってのも悲しいところでね。本来薬物無しで欲望を解放できればいいんだが……」
「その、薬物って本当に大丈夫なんですか? 何か遠田先生達の様子が凄く危ない感じに思えるんですけど……」
 遠田教師と花塚の交わりは、凄まじいの一言だった。
 まるで飢餓状態の人間が食べ物を与えられたかのように、互いを求め合っているのだ。何とも狂気を感じさせるような雰囲気があったのである。
「まあ、ちょっと危険な部分もあるんだけどね。何しろ効果が出始めてからセックスをしないでいると、死んでしまう場合もあるみたいだから」
 物騒なことを告げてくるのにギョッとなる。そんな危険な薬物を使っていて本当に大丈夫なのだろうか。
「無論、使用には十分注意しているよ。相手が居ない状態では絶対に使わないようにしているし。どのみちこの部屋へ入るには僕の許可が無いと無理だからね。相手が居ない人間は入れないようになっているのさ」
「許可が無いと入れない?」
 どういう意味だろう。
 先ほど入ってきた時に鍵など全くかかっていなかったように思えたのだが。
「ああ、入れないってのは物理的なことじゃなくてね、精神的なものなんだな。いわゆる結界ってやつさ」
「結界?」
 何とも馴染みがありつつも、一般的には非日常的すぎる用語に驚く。
「うん、そう。理屈はよく分からないんだが、結界を張ると、その場所へ近づきたくなくなるらしいんだよ。無意識下へ働きかけるので何となくそうなるらしいんだけど」
「そんなのよく知ってますね?」
「まあ、うちは昔からそうした事に精通している家でね、色々書物があったのさ。欲望を解放する薬物もそうした中に書かれていたものなのだよ。僕に不可思議な力があるのも、ご先祖様から遺伝したものらしい。霊媒師とか呪術師とか、よく分からないけどそうした家系らしいから」
 何とも胡散臭さを感じさせる家系ではあるが、実際に効果のある薬物がある訳だから大したものだろう。
「そういう訳で、この場所へ入るには僕の許可が無ければ駄目なんだな。無関係な人間は入ってこれない訳だよ。だから僕の管理下にない状態で薬物に影響される人間は居ないってことさ。無意識の歪みを治療する人たちが居る時だけ薬物は使っているからね」
 確かにそれなら安心だろう。実に見事に治療を行っているという訳だ。やはりこの先輩はとんでもない人だった。
「それと、欲望が解放されるとかなりテンションが上がるみたいなんだよね。遠田先生達がおかしな感じになっているのは、薬物の影響よりもそっちの方が大きいんだな。ほら、こっちのカップルの場合は、そこら辺が顕著に出てるよ。あまり薬物を使ってないんだけど、こんな風になっているから」
 示された先では、男子生徒と女子生徒が絡んでいた。制服の印から二人とも二年生らしい事が分かる。
 そして秋羅の言う通り、物凄い勢いで互いを求め合い、むしゃぶり合っているのだが、そのあまりの凄まじさに思わず引いてしまった。これほどまでに執着し合っているのはなかなか見れないものだろう。
 これで薬物をあまり使っていないのだとすれば凄いことだった。
「男子の方は君も一応知ってるだろ? 藤平くんだよ」
「え……?」
 秋羅の言葉に驚き、改めてまじまじと見つめてしまう。
 確かにだらしのない表情をして、女子生徒の体を舐め回している男子生徒の顔には見覚えがあった。
 以前顔を覚えようと写真を何度も見たせいか記憶に残っていたらしく、琴巴の元恋人である藤平だというのが分かった。
 何故彼がこんなところでこんな事をしているのだろう。
「藤平くんはね、性的におかしくなりそうになっていたんだ。今は別れたみたいだけど、前の彼女、おそらく緋道くんが言っていた彼女だね、その子の体に凄く執着を持っていて、無理矢理にでも抱いてしまいたいくらいになっていたんだよ。でも彼は生来気弱でね、相手の気持ちを無視してまで抱くことは出来なかった。偉いよね。でもその偉い行動のせいで、無意識では凄い歪みが起きていたんだな。精神的におかしくなりかねないほどにね」
 それは何とも驚きのことだった。
 まさか藤平の琴巴に対する想いはそこまで歪んだ状態になっていたとは。
 しかしあの時の藤平の「気」はまともであったから、それ以後にこうなったという事だろうか。
「いつからそんな状態になっていたんですか?」
「そうだね、君と僕が会ったあの時に、もうすでに兆候はあったかな。僕はそれが気になったので彼を見ていたんだけどね」
 なるほど、それで藤平を見ていた神治のことにも気がついたということらしい。
 しかしあの頃に兆候があったということはどういう事だろう。「気」の様子としては何も異常が無かったからだ。
 もしかすると無意識下の歪みというのは、「気」には現れない要素なのだろうか。
「それで僕は彼をここへ呼び出して、今相手をしている女子とセックスするようにし向けたんだよ。実は彼女もね、藤平くんに好意を寄せていたんだけど、その事を告白できないでいたんだ。彼女と藤平くんとは仲のいい友人だったせいか、余計告白しにくかったみたいでね。しかも藤平くんと恋人の仲を取り持ったりなんかもしてたものだから、余計に歪みが激しくなっていって大変だったんだよ。そうした状態を僕が解放してあげたという訳さ。藤平くんにしても、表面上は友人としてしか彼女を認識していなかったんだけど、無意識では性欲の対象としていたので上手くいったんだね。まあ、あれだけ可愛い女の子だから、男にしてみれば性欲の対象にしているのは普通ってことで上手くいった訳さ」
 確かに藤平の相手をしている女子生徒は、なかなか可愛い容姿をしていた。
 胸の膨らみにしても、琴巴には及ばないとはいえ大きいと言えるものだったため、琴巴の肉体のせいで盛り上がった性欲を解消させるには十分な相手と言えたかも知れない。何より自分の事を好きでいてくれるとすれば、余計に問題ないだろう。
 実際、女子生徒は何度も「大好き」と藤平に告げており、ああして言われるのが興奮や満足度を高めるのは、経験として神治も知っていることだった。
「ここはそうした歪んだ欲望を抱いている人たちの解放の場になっているんだよ。他にも何組かそうした人たちに利用してもらっているんだ。どうだい? 緋道くんとしてはこういうのはどう思う?」
「いいことなんじゃないかと思います」
 性欲の発散の場になっているという点で評価できたし、何より無意識に歪みが出来ているのだとすれば、それを何とかするという点でも良いことだろう。
 それにこうした場は、神治自身も作ってみたいと思っていたものなので、それを実践している秋羅は大したものだと思った。
「褒めてもらえて嬉しいよ。君ならきっとそう言ってくれると思ったからね」
「何でそんな風に思ったんです? 先輩とはほとんど話なんてしてなかったのに」
「まあ、勘だね。僕はそうした勘というのは外したことがないのさ」
「というか、どうして俺にこんなものを見せたんですか? ここを利用している人にとっては秘密のことでしょうに」
「確かにそうなんだが……君は僕と同じタイプの人間だと思ったのでね。どうしても教えたくなってしまったんだよ。ほら、同じ趣味の人間になら、趣味に関する面白情報を話したくなるものだろ? それと同じさ。あとは僕と同じくこの薬物が効かない体質ってのも共感を強めたかな。この薬が効かない人はあまりいなくてね。これまで沢山の人間に試してみたけど、効かなかった人ってほとんど居なかったんだよ。そういう部分でも君に知ってもらいたくなったという訳さ」
 そう語る秋羅の様子は実に嬉しそうだった。こうしているのが本当に楽しいのだろう。
「その、この薬物って本当に大丈夫なんですか? 死ぬ場合もある訳だし、法に触れたりとか……」
「大丈夫だよ。だって一般には知られていないものだからね。僕の家に製法が伝わっていただけで、普通の薬剤師は知らないようなものさ。それに使用法も難しいから、普通であれば効果を出せないんだ。だからもし公になっても、人死にが出る場合があるなんて分からないんじゃないかなぁ」
 死に至る可能性がある薬物を使用しているにも関わらず、楽観的な発想をしている事に少し怖さを覚える。そういう意味で、やはり特殊な人物と言えただろう。
 行っていることには賛同出来るが、薬物の使用だけはどうにも違和感を覚えた。いつか薬物のことで失敗しないと良いのだがとそんな事を思う。
「薬物が怖いかい? まあ、当然だよね。でも僕はそうした危険を冒してでもみんなに幸せになってもらいたいんだよ。だからこうした事もしているし、君のように多くの女性を幸せに導いている人を見ると、凄く嬉しくなっちゃうんだな」
「俺が、女性を幸せに導いている?」
「だってそうだろう? 君の周りに居る女性達はみんな幸せそうだよ。しかも表面的な薄っぺらいものではなく、心の底から喜んでいるからね。いや、魂全てが歓喜に満ちていると言ってもいい。君にはそうした力があるんだな。人の心の奥底を覗ける僕だからよく分かる。君は普通じゃない。人間以上の素晴らしい存在だね」
 ニコリと微笑む秋羅の瞳には、全てを見通すような光があった。
 いや、無意識の欲望を知ることができるのだから気のせいではないだろう。
 こちらの無意識の欲望を読んでいるがゆえに、神治が自分と同類だと感じ取っているに違いなかった。
 神治にしても、幸せになる方法としてセックスが大事だと考えていたし、それを実現する方法として、緋道村のようなシステムを使えればと思っていたのだ。
 秋羅のしている事はそれに近い内容に思えたため、実際強い共感を得ていたのである。
 そうした想いが無意識でどうなっているのか分からなかったが、何となく人一倍凄そうに思えたため、秋羅に興味を持たれるのも当然なのではないかと思えた。
 きっと自分の無意識は、とんでもない欲望を持っているに違いない。
 時折暴走気味になることがあったが、その原因にしても、そうした無意識の歪みが出てきてしまっているせいなのではないだろうか。
 そう思うと凄く納得できたのである。
 などと、そんな事を考えていると、不意に携帯電話の着信音らしきメロディが流れため驚く。
「おっと、ちょっと呼び出されてしまったよ。僕は少し席を外すけど待っていてくれないかな? 済まないね」
 届いたメールを読むと、秋羅はそう言って足早に部屋から出て行ってしまった。
 このような場所に一人で残されても困ってしまう訳だが、勝手に帰る訳にもいかないだろうと思った神治は、そのままジッと椅子に座っていた。
 少し視線を向けると、男女の絡み合う姿が目に映り、そうでなくても秋羅が音声を切らずに行ってしまったため、周囲にはいやらしい喘ぎと呻きが響いていた。
 普通の男子高校生であれば自慰でもしなければ落ち着かない状況と言えただろうが、神治はそうした事がコントロール出来たため、平然と座り続けた。逆にやることがないため暇になってしまったほどだ。
 教師と生徒の淫行模様を眺めるのも、琴巴の元恋人がセックスしているのを見続けるのもどうかと思ったため、視線をそらして意識しないようにする。
 これがまだ普通の関係のセックスであるのなら良いのだが、この二組はどちらも訳ありな要素があったため、見ていること自体に申し訳なさを感じてしまったのだ。隠したい要素がありながらセックスする気持ちはよく分かるからである。
 そこまで考えて、ふとそうした訳ありの要素から発生する歪みを秋羅は何とかしたいと思っているのだな、と理解する。
 自分にしても、性的な衝動に関してはかなり歪みを持っていたため、彼らに共感する部分があるように思えた。
 もし緋道村が普通の村だったとして、身近に静や有希という、自分が強く意識し、性欲を持つであろう相手が居るにも関わらず、何も出来ない状態が続いたとしたら、自分の無意識にはやはり歪みが起きるのではないだろうか。
 そうならずに済んだのは、緋道村の慣習のおかげであり、それによって今の自分がある事を考えると、秋羅のしている事には凄く賛同できる部分があった。
 以前考えた、緋道村の外に緋道村のような環境を作る、といった構想と合致するように思えたのだ。
 秋羅はそれと似たようなことを実現しているのだから大したものだった。
 そう思いながら部屋の中をボーッと眺めていた神治は、改めてこの部屋について考え始めた。
 こうした設備というのは、一体どのようにして用意したものなのだろう。
 部屋の仕切りやスライドする壁、マジックミラー、そして防音や音声の設備などは、素人が作ったとは思えない出来だったからだ。
 秋羅は結界を使えるらしいから、学校にバレずにこっそり作ることは可能にしても、こうした事には金がかかるのだ。相当な資金が無ければできないことだろう。彼は金持ちだったりするのだろうか。
 そんな事を考えながら、秋羅の出て行った出入り口へ視線を向けた神治は、ふと妙なモノが目に映ったため気になった。
 自分の座っている場所からは死角になっているのだが、少し離れた場所の物陰に、誰かが隠れているような感じを受けたからだ。
 どうやらその人物はかなり興奮しているらしく、淫の「気」を強く発散していたため気づいたのである。
 一体誰なのだろう。
 興奮しているのは、この部屋の状況を見ているせいだろうが、自分以外にも観覧者が居たとは驚きだった。
 だがそうした人間が居れば秋羅が教えそうな気がしたため、もしかすると秋羅も知らない、つまり勝手にここへ来ている人物なのではないかと思えた。
 結界が張られているとはいえ、ある程度の力があれば入ってこられるのだから、完全に安心とは言えなかったからだ。
 もしそうした事であるとすれば、秋羅やこの場所を利用している人間にとってマズいことになるだろう。
 ここは相手の正体を知っておくべきだろうと思い、その人間が居る所へそっと近づいていくことにする。
 気づかれないかとヒヤヒヤしたが、物陰を覗き込んだ瞬間、その心配が無用のものだったと分かった。
 何故ならそこに居た人物は、自らの胸元と股間に手をやり、自慰にふけっている状態だったからだ。
 手が動くたびに胸の膨らみが歪み、腰がいやらしくくねって、小さな体がピクピクと震えている。
 可愛らしい顔は上気し、お団子のように括った髪を乗せた頭が時折跳ね上がっていた。
 普段の印象とはかけ離れた、女を思わせるその状況に、神治はどうしたものかと困ってしまった。
 何しろその人物は知り合いだったからだ。
 そこに居たのは、散々自分に悪態をついていた上級生、一色陽菜だったのである。
 どうして彼女がここに居るのか分からなかったが、もしかしたらこっそり後を付けて来ていたのかも知れない。
 そしてこの場所で自分と同じく部屋の状況をずっと見ていたのだとすれば、こんな事をしているのも納得だった。何しろそれだけ部屋で行われている事は刺激的だったからだ。
 とはいえ、いやらしい事に嫌悪感の強いであろう陽菜が、誰かに見つかるかも知れないこのような場所で自慰にふけるというのも奇妙に思えた。
 いくらいやらしい光景を見て興奮したにせよ、我慢くらいは出来ると思うからだ。
 何しろ陽菜の目的は、自分や秋羅が何をしているのかを探ることに違いないのであり、このような事をする気にはならないはずだからである。
 だが陽菜の様子は、そうした何か別のことを目的としている状態とは思えないほどに、自慰に夢中になっているように見えた。
 半開きになった唇からは断続的に甘い吐息が漏れ、手は必死になって小ぶりの胸を揉み、股間を撫でさすっており、それは実に熱心さを感じさせるものだった。
 目は虚ろで何も見えていないようであり、火照った体をいやらしくくねらせているのが何とも興奮を誘う。
 実に良い眺めであり、あの悪態をついていた陽菜のこのような姿を見られるのは運がいいなと思いつつ、ふと、妙な感覚を覚えて目を細める。
 どうにも陽菜の喘ぐ姿には、苦痛を感じさせるものがあったからだ。
 快楽に染まっているようでいて、その奥に苦しみの要素があるように思えたのである。
(これは……狂気、か……)
 普通の快楽以上の快楽。
 耐え難いほどの快楽を得ているように思えたのだ。
 いきすぎた快楽は人を殺す。
 自身も味わったことのある、快楽の恐怖。
 それと似た状態になっているように思えたのである。
(! 薬物のせいか……)
 この部屋には特殊な薬物が漂っているのを思い出した。秋羅が作った謎の媚薬だ。
 陽菜はそれに影響されているのだろう。
 自分と秋羅には全く影響がなかったため忘れていたが、普通であれば快楽に染まる状態になるものであり、まさに今の陽菜はそうなっていると言えただろう。
(って、ヤバいじゃんか。下手したら死ぬんだよなこれ……)
 秋羅の話では、効果が出始めてからセックスをしないでいると死んでしまう場合もあるとの事だった。
 つまり相手の居ない状態の陽菜は、死んでしまうかも知れないのだ。それは非常にマズい状況と言えただろう。
 どうすればいい……。
 薬物について知っている秋羅はまだ戻ってこない。
 慌てて携帯電話で連絡を取ろうとしてみるが、電源が切られているのか電波の届かない場所に居るらしく繋がらなかった。
 そうこうしている間にも、目の前の陽菜は明らかに興奮が上がっているように見えた。
 このままそれが続けば、死んでしまう可能性を感じさせるほどに興奮しているのが分かる。
 放っておく訳にはいかないだろう。死ぬのを見過ごすなど出来ないからだ。
 しかしどうする。
 この状態で死から救うには方法は一つ、セックスするしかなかったが、陽菜相手にしてもいいものだろうか。
(でも……ヤるしかないよな……)
 本来であれば、自分のことを嫌っている相手を無理矢理抱くなどするべきではなかった。
 以前似たような事をしていた訳だが、今の神治にはそこまでする意思はなかった。
 しかしこのまま放っておいては陽菜は死んでしまうだろう。
 ならば抱くしかなかった。
 後で怒り狂われるのは確実だろうし、下手をしたら訴えられてしまうかも知れない。
 そうなったら警察沙汰になるのだろうか。
 そんなことはご免だった。人助けをして逮捕されるのでは割に合わないからだ。
 そのためにも陽菜を快楽漬けにする必要があるだろう。そうして自分に夢中にさせれば、訴えるような意思を持たれないからである。
 これまで無理矢理抱いた相手に、恨まれないで済んだ理由はそれだった。
 もう使うまいと思っていた方法だが、今回は仕方ないだろう。
 何とも憂鬱なことだったが、人の命には替えられなかった。
 自分の衝動のためではなく、陽菜自身のためなのだから許してもらうしかない。
 そう結論づけた神治は、陽菜の火照った体に手を伸ばしていった。
 触れた瞬間、小さな体がビクッと震え、虚ろな瞳がこちらを見つめてきた。
「ふぁ、緋道ぉ……何する気ぃ……?」
 どうやら少しは意識が残っているらしい。
 その事にホッとしつつも、意識のある状態で色々していったら怒られるだろうな、と憂鬱になる。
 だがこれも人助けだと意識を切り替えると、どうせやるなら一気に抱いてしまえとばかりに、神治は勢い良く陽菜にのし掛かっていくのだった。


 陽菜は、緋道達が立ち去ってから一人で考えていた。
 矢上秋羅という男子生徒のことについてだ。
 どこかで聞き覚えのある名前であり、本人曰く「色々と噂されている」という点から、そうした事で知っているのだろうと思ったが、それがどんな噂だったのか思い出そうとしていたのだ。
 あれほどのイケメンであるから、女子に人気があるのは確実だろう。
 そうした程度の噂であれば、特に気にするほどでもないのだが、矢上秋羅という名前には、何やらそれ以上に嫌な印象があったのだ。
(あの顔……そうよあの顔よ。あのいけ好かない、いつも笑っているような顔……単にイケメンってだけなら誠実な男もいるけど、ああいうタイプは絶対裏で何かしてるわ……)
 ウンウン唸りながらそんな事を考えつつ、ふとあの二人が何をしようとしていたのかが気になった。
 いやらしいものを見せるため、などと言ってはいたが、それだけではないだろう。
 何しろ相手は女ったらしのハーレム王である緋道と、腹黒そうなイケメンの矢上なのだ。
 この二人が連れだってこそこそどこかへ行くなど、考えるまでもなく悪巧みに決まっていた。
 それを放置しておくなどとんでもないことである。
 矢上の噂について思い出せないのは気になったが、それは奴らの悪巧みを確認しながらでも出来ることだと結論づけた陽菜は、慌てて二人の後を追った。
 運良くすぐに追いつくことができ、物陰で様子を伺いながらこっそり後を付けていくと、二人が旧校舎の中へ入っていくのが見えた。
 普段は使用していない、あまり立ち寄らないように言われているこのような建物に、一体どんな用事があるというのか。
 いや、そうして一般の生徒が近づかない場所であるのをいい事に、何か悪さをしているのだと思いついて納得する。
 すぐさま自分も旧校舎の中へと入り込み、奥へと進んでいく。
 少し先の方で、二人が教室の中へ入っていくのが見えたため、小走りで追いかける。
(?……)
 途中で何やら奇妙な感覚を覚えたため立ち止まった。
 何というか、服を着ているにも関わらず、肌に直接何かが触れてきたような変な感覚を覚えたのだ。
 だが特にその後は何も無かったため、気のせいかと思って先へ進む。
 二人の入った教室へ入り込むと、驚いたことに中は小部屋が沢山ある状態になっており、しかも周囲の古臭さと違って、仕切りとなっている壁は真新しいものになっていた。
 これはいよいよ奴らの悪巧みに近づいたのだと思った陽菜は、心持ち慎重の意識を強めて室内を探っていった。
 不意に声が聞こえたため、そっと忍び寄って覗き込むと、奥の方の長細い部屋の中で、椅子に腰掛けた緋道達が、何やら会話をしているのが見えた。
 内容はよく聞こえないが、矢上の方が壁を示しており、それと共に小さな駆動音が聞こえてきた。
 さらに突如として、妙な声が部屋に響き渡ったため驚く。
 そしてその声の意味を理解した瞬間、顔が一気に熱くなった。
(な、な、な……何よこれ……凄いエッチな声じゃない……何だってのよこれ……もしかしてエッチなDVDの鑑賞会ってんじゃないでしょうね……」
 先ほどの駆動音はDVDプレイヤーのものであり、今緋道達はアダルトビデオの鑑賞をしているのではないかと思ったのだ。
 この部屋はそうしたいやらしいビデオを見るためにしつらえたものであり、仕切られた小部屋では他の男子が鑑賞中、という事もあり得た。
(矢上……あいつやっぱりとんでもないヤツだったのね。学校にこんなもん作って……許せないわっ……)
 怒りに震えつつ、責めるには確実に証拠を押さえなければと、嫌でしょうがなかったが、アダルトビデオを確認するために映像が見える場所へと移動する。
 上手い具合に緋道達からは見えない物陰があったため、そこへ腰を下ろしてから視線をモニターがあるらしき方向へ向ける。
 だがその瞬間、あまりの事に硬直してしまった。
 何故ならそこにあったのは、モニターなどではない、あまりに予想外すぎる光景だったからだ。
(な、な、な……何よこれ……これは一体どうなってるのっ? 何でこんなっ……やだっ、やだぁ〜〜っ)
 慌てて視線をそらして耳を塞ぐ。
 顔が先ほどよりさらに熱くなって、体がガクガク震えているのが分かった。
 あまりの事に頭が混乱して訳が分からなくなっている。
 何しろ目の前にある光景はあまりに信じられないものであり、学校では絶対にあり得ない、いや、あってはならないものだったからだ。
 それは数人の男女が服をはだけ、絡み合っている姿であり、いわゆるセックスをしている状況だったのである。
(この人達……しちゃってるのよね……しちゃってる……嘘、やだぁ……)
 嫌なはずなのにチラチラと視線を向け、何をしているのか見てしまう。
 そして目で認識するたびに心臓がドキドキと激しく鼓動し、顔が熱くなり、体が震えるのを抑えられない。
 特に股間の辺りには熱いものが感じられ、自分がかなり性的に興奮状態になっているのが分かった。
 その事でも恥ずかしさが強まり、顔が益々熱くなっていく。
 このような場所からは早々に立ち去るべきだろう。
 矢上の悪巧みの証拠を得る必要はあったが、そんな事以上に恥ずかしくてたまらなかったからだ。
 許し難いことではあったが、さすがにこのようなレベルは、自分の手に余ることだった。
 教師に報告すべきかどうか悩むところだったが、取り敢えずそうした事はここを出てから考えるべきだろう。
 何しろあまりの事に思考が混乱しまくりだったからだ。
 そう決めて立ち上がろうとしたが、何やら体がだるいことに気がつく。
(あれ?……何か変、だよ……体が変……)
 強烈なだるさが体に押し寄せており、さらには火照っていて熱くてたまらない。
 呼吸が乱れ、目が虚ろになり、意識がぼんやりとしてくる。
 肌に触れる服の感触にゾクリとし、体を動かすことで擦れると快感が起きた。
(ちょっとぉ……何よこれ……何でこんな風になってるの……?)
 今や立ち上がるどころではなく、座っているのすら辛くなってきた。
 ガクッと力が抜けて床に横たわってしまう。
 ひんやりとした感触が心地良いが、それ以上に体内から湧き起こってくる火照りが苦しさを生んでいた。
(何か変……だるいし辛いし……どうしちゃったの私……)
 急に風邪でも引いたのかと思うが、病気とは違っているように思えたため、訳が分からなかった。
 何より体が何かと擦れると、気持ちのいい感覚が起きてくるのに動揺してしまう。
 特に胸元と股間はそれが顕著であり、胸にそっと触れるとゾクッとする快感が走り抜けたし、太ももを擦り合わせて股間に刺激を与えると体が強く震えた。
(やだ……何かやだ……したくなっちゃってる……こんなとこで何考えてるのよ……)
 思わず股間に手をやりそうになって慌てて抑える。
 今自分は、股間を撫でさすって快感を得たいと欲していた。
 自慰をしたくなっているのだ。
 何しろそれだけ体は敏感になっていたし、股間に刺激を与えると凄く気持ち良かったからだ。
(ダメ……でもしたい……ダメなんだけどしたい……う〜〜、我慢できないよぉ……)
 苦悩の末、ついにスカートを捲り上げてパンティの上から手で触れてしまう。
 すると強烈な気持ちの良さが溢れたため、そのまま勢い良く撫でさすってしまった。
 胸元にも手をやり、小ぶりの乳房を鷲掴みして荒々しく揉みしだいていく。
(はふぅ……気持ち、気持ちいぃ……やだ、何でこんなにいいの?……信じられない……こんなの凄いよぉ……)
 気がつけば夢中になって手を動かしており、パンティの上からでは物足りなくなって指を直接秘所へと触れさせる。
「!……」
 思わず声を漏らしそうになったため、慌てて口をつぐみつつ、抑えきれない小さな吐息を漏らしながら、指を必死に動かし、体を震わせて快感に悶えていく。
 何とたまらなく気持ちのいい行為だろう。
 これまで何度か自慰はしたことがあったが、ここまで気持ちがいいのは初めてだった。
 何しろさするだけで快感が全身を走り抜けるのだ。
 これほどの気持ちの良さを止めるなど無理な話だった。
 とにかく擦ってさすってこの快感を味わい続けていきたくて仕方がなかったのである。
 どれくらいそうしていただろうか、すっかり自慰をするのに躊躇が無くなり、さらに周囲に対する意識がぼんやりしたせいか、普通に声を出して喘いでいる己に気がつく。
 何と恥ずかしいことをしているのだろうと思うが、考えてみれば、すぐそこではそれ以上に恥ずかしい行為をしている人たちがいるのだから、大したことではないように思えてくる。
 だがそうした様子を目の端に捉えると、自分の行為に物足りなさを覚えてきたため、激しい動揺に襲われた。
 自分はもっと強い刺激を求めている。
 もっと激しく、強く、誰かに触れてもらいたいと思っているのだ。
 自分を強く抱き締め、舐め回し、撫でさすり、秘所に強烈な刺激を与えて欲しい。
 セックスをしている連中は、そうして互いに互いの肉体に刺激を与えているのであり、自分にもそんな相手が欲しいと望んでしまっていた。
 未だ処女であり、こうした肉欲のためにセックスをするなど、普段の自分であれば絶対に否定することであるはずなのに、そうされる事を強く求めてしまっているのだ。
(あぁ……誰か……誰か触って……わたしに触ってよぉ……)
 そんな想いが強く湧き起こってきた時だった。
 視界に見知った顔が映った。
 それは緋道であり、何やら心配そうな表情でこちらを見つめている。
 本来であれば、凄く恥ずかしい姿を見せてしまっているのだから、強い動揺が起きそうなのだが、そういう事はなく、逆に見せていることに快感を覚えているような感じがあった。
(馬鹿……緋道相手に何やってるの……こいつにこんな姿見せちゃ駄目、なんだから……)
 ぼんやりとした意識に鞭を打ち、出来るだけ毅然とした態度を取ろうと思うが、胸元と股間で動く手を止めることは出来ず、口から漏れる喘ぎもそのまま聞かせてしまっている状態だった。
(!……)
 不意に緋道の手が伸び、体に触れてきたため、強烈な快感が走り抜けてビクッと震えてしまった。
 何と気持ちのいいことをしてくれたのだろう。
 思わず感謝しそうになりながら、いやらしい気持ちからされたに違いないと思うと、それを受け入れそうになった自分に腹立たしくなってくる。
「ふぁ、緋道ぉ……何する気ぃ……?」
 睨み付けて罵ろうとするが、緩んだ顔の筋肉は上手く動かず、口調もぼんやりしたものになってしまった。
 その事に恥ずかしさを感じつつ、考えてみればもっと恥ずかしい状態を晒しているのだという事に怒りが込み上げてくる。
「こら緋道ぉ……見るんじゃないぃ……どっか行きなさいよぉ……馬鹿ぁ……」
 普段であればキビキビとした口調で言える言葉も、だらしのない甘ったるいものになってしまっているのが歯がゆい。
 快感からフラフラとしている視界の中で、緋道は困ったような表情を浮かべており、それが徐々に近づいてきているのが見えた。
 ついには接触せんばかりに寄ってきた緋道の体が、ゆっくりとのし掛かってくるのに驚愕する。
「ちょぉ……止めなさいよぉ……何やってぇ……あっ、やぁっ……」
 逃げようと体を動かそうとするが全く反応せず、その隙に触れられた際に起きた快感に硬直する。
 少し触れられただけであるのに、たまらなく気持ちの良い刺激が走り抜けたのだ。
(やだ……何今の……)
 先ほど触れられた時もそうだったが、自分で秘所に触れるのよりも良かったのではないだろうか。
 通常であればさして感じる訳ではない箇所に触れられただけだというのに、どうしてこれほどの気持ちの良さが起きたのか訳が分からない。
「あっ……あぁっ……ちょぉ、どこ触ってぇ、あっ……痴漢ぅ、あぁっ……止めぇ、あんっ……」
 緋道の手が制服の上から胸を掴み、緩やかに揉んでくると体がピクピクと震えた。それと同時に蕩けるような快感が全身を駆け抜け、気持ちの良さで一杯になっていく。
 口では否定の言葉を発するものの、内心はもっとして欲しくてたまらなくなっているのに動揺する。
 緋道相手に、何故自分はこれほど感じてしまっているのだろう。
 いや、そもそもどうして自分はこんなエッチな状態になっているのだろうか。
 そうしたおかしな状況に違和感を覚えるものの、不意に胸を強く掴まれたことで起きた快感に、その想いは吹き飛んだ。
「あんっ、あっ……こら止めぇ、あぁっ……緋道ぉ、許さないんだからねぇ、あっ……覚えてぇ、あぅっ……」
 両方の乳房を鷲掴みされ、制服越しに回すようにして揉みしだかれると、強烈な快感が湧き起こった。
 胸を揉まれただけでここまで感じてしまうのに怖さを覚えつつ、そうされているとホッとするような想いに包まれていくのを感じる。
 何故嫌な男に胸を揉まれて自分は安堵感を得ているのだろう。訳が分からなかった。
「こら何やってぇ、あっ……脱がすな馬鹿ぁ、あんっ……止めろぉ……」
 制服のボタンが外され、ブラジャーに包まれた乳房が顕わになるのに文句を言うが、ジッと胸を見つめられると恥ずかしさから顔をそらした。
 そのままブラジャーがずらされ、直接乳房が揉まれ始めると、肌同士が触れているのが感じられ、心地良さと気持ちの良さが上がったように思えた。
「ひゃんっ……やっ、駄目ぇっ……こら吸うなぁ、あんっ……吸うなってば馬鹿緋道ぉっ……」
 乳首に吸い付かれた瞬間、強い刺激が走り抜けたため可愛らしい声をあげてしまう。
 そのままチュウチュウと吸われ続けると、腰が砕けそうなほどの快感が襲いかかってくるのに意識が朦朧としてくる。
 乳首が丁寧に舐められ、チュッと吸い付かれては舐められを繰り返し、時折強くチュウっと吸われると、脳が快楽で痺れまくった。
 呼吸が乱れ、全身が火照り、体が勝手に反応するのに、抵抗する意識も弱まっていく。
「って、ダメぇ……そこはダメだってぇ……そこはダメだからやだぁ……」
 パンティを脱がされ、両脚を開かれた瞬間、慌てて閉じながら叫ぶ。
 毛嫌いしている緋道に何と可愛らしい口調で言っているのかと自己嫌悪するが、すでに体は快楽でグダグダ状態になってしまっていた。
「先輩、スゲェ可愛いですよ……俺、たまらなくなってきました」
 その言葉に思わずキュンっとしてしまう。
 いつもは「可愛い」と言われたら反発していたのに、どうして嬉しく感じてしまったのか。
 だが実際今の自分はかなり可愛い状態になっているのだろう。
 何しろ男に愛撫され、その刺激でいやらしく喘ぎ悶えているのだから。
「ひゃっ、ひゃぅんっ……そこダメぇ、あぁぅっ……そこダメだってぇ、ああっ……そこダメなのぉっ……」
 秘所をペロリと舐め上げられ、続けて敏感な突起を丁寧に舐め、吸われると、体がガクガクと震え、驚くほどに甘ったるい声をあげてしまう。
 何よりずっと誰かにそうして欲しいと願っていた行為であったため、ようやく得たその快感に、身も心も捧げたくなってしまっていた。
(緋道なのに……舐めてるの緋道なのに……何でこんなに気持ちいいのよぉ……)
 今まで自分が経験してきた快感とは比較にならない気持ちの良さが全身を貫いており、もっとして欲しいという想いに意識の全てが包まれていた。
 呼吸を乱して何度も「あっ、ああっ……」と喘ぎ、体をクネクネと震わせながら、股間にある緋道の頭を掴んで押しつけてしまう。
 どうしてこれほど気持ちがいいのだろう。緋道の舌は最高だった。
「緋道の馬鹿ぁ……絶対許さないからねぇ……こんなにしてぇ、絶対許さないんだからぁ……」
 快楽に対する悦びとは別に、緋道に対する悪態が口から零れる。
 いくら気持ちがいいとはいえ、無理矢理されているこの行為を認める訳にはいかなかった。
 言葉だけでもこうして否定できる事に、自分はまだ大丈夫だと安心しつつ、押し寄せてくる快楽に抗えないでいる己に苦悩する。
 しばらくそうして愛撫を受け続けていたが、不意に快感が感じられなくなったため、どうしたのかと目をやると、緋道が頭を上げてこちらを見ているのと目が合った。
「先輩……すみません、しますから……」
 緋道は困ったようにして笑った後、ゆっくりと体を起こして小さく呟いている。
 一体何を謝っているのだろうと思うが、朦朧とする頭は上手く働いてくれない。
 カチャカチャと音がして、緋道が何かしているのが分かった。
 どうやら穿いているズボンをパンツごと下ろしているらしい。
 そして次の瞬間、目に飛び込んできた物体にギョッとなった。
 いわゆるオチンチンというヤツが見えたのだ。
 それはキノコのような形をしており、ピンっと跳ね上がった状態になっていて、まるで単体の生き物であるかのように鼓動していた。
(って、やだぁ……何見せてるのよぉ……)
 初めて見る男性の一物に驚いて視線をそらしつつ、そのくせ思わずチラチラと見てしまう。
 見たことの無かったモノであるという点や、性的な意味を持つ物体という点で興味を引かれてしまっているのだ。
 そしてそこまで考えて、ようやく緋道が何故そのような事をしているのかに思い至る。
(こいつ、する気なんだ……)
 セックスをするつもりなのだ。
 先ほど謝ったのはそのためなのだろう。
 何ということか。よりにもよってセックスをするつもりなどと……。
(って、謝るくらいならするんじゃないっ……何考えてるのよこの馬鹿はっ……)
 怒りが込み上がってくるのと同時に焦りが生まれる。
 何しろ今の自分は体が上手く動かないのだ。
 というか、かなり快楽に染められており、緋道が触れてくるだけで敏感に反応してしまうくらいなのである。
 その状態でセックスしようとしてくるのを防ぐなど、絶対に不可能だろう。
 だが何とかしなければいけなかった。
 でなければ処女を失ってしまうのである。
 どうすればいい。
 どうしようもない。
 慌てて頭を回転させようとするが、快楽でボケた頭は上手く働いてくれなかった。
 逃げようと体を動かそうとしても、クネクネとするだけで全く動かず、そうこうしている内に、緋道は手に一物を持った体勢で、腰を近づけてきた。
「こらぁ、止めろぉ……するな馬鹿ぁ……入れるなダメだってぇ……入れたら殺すぅ、殺すからねぇ……」
 強い口調で言ったつもりが、弱々しい言葉にしかなっていないのにガックリとなる。
 このような迫力の無い口調では止まるはずがなかった。
 いや、迫力があったとしても止まらないだろう。男というのはそういうものだと聞いた覚えがあったからだ。
 その話を聞いた時は、男というのは本当に馬鹿でどうしようもない存在だと思ったのだが、まさか自分がそうした事態に遭遇するとは予想だにしなかった。
 必死に入れられるのを避けようと体を動かそうとするが、全く反応しないことに焦りが強まっていく。
 緋道は全く止まる様子もなく、徐々にのし掛かって来ている。
「ば、馬鹿ぁ……入れるなって言ってるのにぃ……入れちゃダメってぇ、入れるな馬鹿ぁ……」
 秘所に何かが触れた感触があり、それがオチンチンだと認識した瞬間、ゾッとするような恐怖を覚えると共に、それまで以上に快感が走り抜けるのに驚愕する。
 心は嫌悪しているにも関わらず、体は歓喜に震えているのだ。
 先ほど緋道に愛撫された時と同じだろう。自分の体は一体どうしてしまったのか。
「あ……ダメぇ……や、ダメぇ……入れちゃぁ、やだってぇ……あ……入れるなって言ぃ、うぅっ……入れぇっ……」
 ズブリっといった感触と共に、何かが入り込んできたのが伝わってきた。
 最後は何やら抵抗の言葉が弱々しくなってしまったのに情けなさを覚える。
 だが初めて入れられることへの恐怖と、それとは逆に体が悦びに震えていたため、そうした弱った口調になってしまったのだ。
 処女を失った、という喪失感が押し寄せ、涙が溢れそうになってくる。
 そしてそれと共に、無理矢理そうされた事への怒りが徐々に湧き起こってきた。入れられた瞬間に弱まった気力が復活してきたのだ。
「殺すぅ……緋道殺すぅ……絶対殺すからぁ……こんな事して絶対に許さないからねぇ……絶対殺すぅ……」
 とはいえ、相変わらず弱々しい口調にしかなっておらず、そんな己の状態に歯がゆさを覚える。
 胎内には異物が入り込んでいる感触があり、その事に強い恐怖と、妙な満足感を覚えて苦悩する。
 自分は怒らなければならないのに、何を怖がったり満足したりしているのか。
 その事に混乱しつつ、それとは別に悲しみが急激に湧き起こってくるのを感じた。
(入れられちゃった……こんなことで初めて無くしちゃうなんて……しかも相手があの緋道……何てことなの、何てこと……)
 男があまり好きではない自分にしても、理想的な男子と初体験する夢くらいはみたことがあった。
 それがよりにもよって、毛嫌いしている緋道としてしまうとは……。
 何と悲しすぎることだろう。
 目から涙がこぼれ落ちていくのを感じながら、その間にも胎内へ何かがズブズブと入り込んでくる感触が伝わってきた。
(ああ……入れられちゃってる……馬鹿緋道のが入れられちゃってる……何かおっきいのが入ってきてるよぉ……)
 経験したことのない妙な感触に動揺しつつも、これがセックスなのだという認識を得る。
 自分はセックスをしているのだ。
 もう処女ではないのだ。
 大人の階段を上ってしまったのだ。
 しかも気に食わない男子を相手に。
 怒りを込めて緋道の顔を睨み付けると、何やら大きな息を吐き出して動きを止めているところだった。
 その表情は何ともだらしないもので、相当に気持ち良くなっているらしいことが分かった。
 自分にしても、徐々に気持ちの良さを感じるようになっており、全てを委ねたくなるほどのその良さに、流されてしまいそうになる自分を必死に抑える。
 もしそんな事になってしてしまえば、強姦された怒りが消えてしまいそうで怖かったからだ。
 先ほど秘所を舐められていた時と同じように、全てを緋道に委ねてしまうのは許し難いことであり、強姦している相手にそのような状態になるなど愚かすぎるだろう。
(そういや……全然痛くないなぁ……初めては痛いっていうのに、何で痛くないんだろ……)
 処女を失う際には痛みを伴うものだと聞いていたが、そうなっていない自分の状態を不思議に思う。
 それと同時に、痛みを示さない自分の態度により、緋道に初めてではないと思われるのではないかという危惧の念が起きてくる。
 男は処女を価値あるものだと思っているようだから、もし自分が経験者だと認識されたら、軽く扱われるのではないかと思ったのだ。
 何より「大事な処女を奪った」という事で緋道を責められなくなってしまうではないか。それが一番問題だった。
 などという事を考えていたのだが、ふとそんな自分に違和感を覚えてハッとなる。
 普通、強姦されて処女を奪われたら、もっと悲しみで一杯になるように思えたからだ。
 それが自分は、まるでちょっと嫌なことをされただけであるかのように、どう仕返しをするかという事ばかり考えている。それはあまりにおかしな状態だった。
「あっ……やだちょぉっ、あっ……嘘ぉ、あんっ……」
 不意に緋道の腰が前後し始め、それに合わせて起きた快感に、思わず甘い声を発してしまう。
 自分の中に入れられた何か、それは緋道のオチンチンな訳だが、それと擦れる感触が起きると、意識せずとも甘ったるい声を漏らしてしまうのだ。
 ズンっ、ズンっ、と強く突き込まれるたびに体に震えが走り、それと共に蕩けるような気持ちの良さが押し寄せてくる。
 だがそれに流されてしまっては駄目だった。
 受け入れてしまっては駄目なのだ。
 緋道には怒りを、憎しみを覚えつつけなければいけないのだから。
「あっ、あんっ……殺すぅ、あぁっ……緋道殺すぅ、あんっ……絶対殺すからぁ、ああっ……」
 言葉だけは何とか憎まれ口を叩くが、可愛らしい声も一緒にあげてしまっているため、効果としては無いように思えた。
 さらに徐々に気持ちの良さが増してきており、憎い意識が薄れ、もっとして欲しいという想いが強まっていくのを認識する。
 強姦してきている相手に何を考えているのだと思うのだが、あまりの良さにそうなってしまうのだ。
「馬鹿緋道ぉ、ああんっ……馬鹿ぁ、あっ、ああっ……殺すからぁ、あっ……絶対殺すぅ、あっ……こんな凄いのぉ、やっ……こんな凄ぉ、ああっ……こんなの凄いよぉっ……」
 責め立てている言葉が、途中から褒め称えている言葉になっているのに苦悩する。
 与えられる快感があまりに良すぎるため、どうしても緋道を求める意識が出てきてしまっているのだ。
 始めは強引だったにせよ、こうして気持ち良くされている現状を考えると、別に構わないではないかと思えてきてしまっているのである。
 それは絶対に認めてはならない想いなのだが、逞しい腰が動き、大きくて硬い肉棒が突き込まれると、意識がそちらに流されてしまいそうになった。
「許さないぃ、あぅんっ……こんな事してぇ、あっ、ああっ……絶対に許さないぃ、ああんっ……こんな凄いのぉ、あっ、あんっ……こんな凄いの絶対許さないからぁっ……」
 批判しつつも、やはり褒め称えてしまうのを止められない。
 しかも「許さない」という想いが、内心では「止めたら許さない」というものになっているように思え、自分はいよいよおかしくなっているのかも知れないと悲しくなった。強姦してきている相手に「止めたら許さない」などと願うなど、異常としか思えなかったからだ。
 だが緋道の与えてくる快楽には絶対的な良さがあったため、そうなってしまっても仕方ないだろう。
 何よりそうして受け入れる気持ちが強まると、快感がさらに増していくように思え、それに逆らうことが出来なくなっていたのである。
「あっ、ああっ……やだぁ、あんっ……そんな強くぅ、あっ、あっ……強くされたらわたしぃ、ああっ……緋道ダメぇ、あっ……ダメなのぉっ……」
 強く大きく突き込まれると、全てを緋道に委ね、身も心も捧げたくなってくる。
 それほどに強烈な快感が押し寄せてきているのだ。
 肉棒が突き込まれると、脳を痺れさせる気持ちの良さが意識を貫き、麻痺させているように思えた。
 このままこれに身を委ねたらどれほど楽だろう。
 きっと幸せになれるに違いない。
 快楽にまみれることで得られる幸福感が想像でき、たまらなくなってくる。
「あんっ、あっ……あっ、あっ、ああっ……こんなのぉ、あんっ……こんなのいぃっ……緋道いぃ、あっ……緋道いいよぉっ……」
 ついには完全に受け入れる言葉を発してしまった。
 緋道にされていることが気持ちいいと告げてしまったのだ。
 何ということだろう。
 恥ずかしくて顔が熱くなってくる。 
 だがその熱さは、本当に恥ずかしさのためだろうか。
 自分は喜んでいないだろうか。
 緋道のモノにされている事を喜んでいないだろうか。
 何故なら今目の前にある緋道の姿は、実に美しかったからだ。
 緋道の体はぼんやりとした光に覆われており、動きが激しさを増すと光量が多くなっていき、それと共に得ている快感が大きくなり、喜びが溢れてくるように思えたのである。
(ふぁ……何か綺麗……緋道綺麗だよぉ……何でこんなに綺麗なんだろぉ……凄く綺麗で、緋道が素敵に見える……嫌なヤツのはずなのに……凄く素敵……)
 緋道の全てが光り輝き、素晴らしい存在に見えてくるのに感嘆の想いを抱く。
 自分はこれほど素晴らしい存在に抱かれているのだ。処女を捧げたのだと思うと、嬉しさで涙が溢れてくるほどだった。
 光がこちらを包み込み、それに合わせて快楽と心地良さで心と体が一杯になっていく。
 今自分は、緋道の全てを受け入れ、それによって究極の素晴らしい状態にされていた。
 そんなことを出来る緋道という存在は、一体何なのだろう。
 信じられなかった。これこそまさに天上の悦びと呼べるものではないだろうか。
 こんな経験が出来るなら、また抱かれたい。もっと抱かれたい。絶対に緋道とセックスしたかった。
 強姦された事に怒りを覚えていた心には、いつの間にか緋道に対する強い執着が根付いていた。
 腹立たしいがゆえに、その謝罪のためにも抱け、というような想いになっていたのだ。
 緋道は自分を抱くべきなのだ。というか、抱いて欲しいのだ。理由を付けて無理矢理にでも抱かせるようにしたいのである。
 だからこれからも自分は緋道を責め立てる。
 責任を取って抱いてもらうために。
 きっと緋道は応じてくれるだろう。そんな素敵な男なのだ。
 嫌なヤツだけど、素晴らしい男なのである。
 ムカつくほどに愛おしい存在であり、無視されたら悲しくて仕方のない存在だった。
 自分は緋道から離れられない。緋道に意識されたい。緋道のモノになっていたい。緋道と一つで居たかった
 陽菜の中では、そうした強い執着が湧き起こっていた。
 緋道に抱かれたくて仕方のない、緋道に構って欲しくて仕方のない想いで一杯になっていたのである。
「あっ、あっ、ああっ……何か凄いぃ、あっ、あっ……凄いの来るぅ、ああんっ……わたしもうぉ、あっ、ああっ……わたしもうダメぇ、あっ、ああっ……ダメなのぉ、やっ、やっ、やぁあああああああああんっ!」
 絶叫と共に体が硬直し、一瞬意識が真っ白になる。
 緋道の体がガクガクと震え、硬直するたびに何かが注ぎ込まれてくるのが感じられた。
(やぁ……出されちゃってるぅ……緋道の、精液ぃ……)
 つい先ほどまでであれば、嫌悪で死んでしまうのではないかと思える状況だったが、今や心は歓喜で満ちあふれていた。
 あの素晴らしい緋道の精液を注ぎ込まれているのだ。
 それはまるで緋道の一部になれたかのように思えて最高の気分だった。
 セックスを始めた時とは全く異なる想いを抱いていることに驚きつつ、そんな自分に変えてしまった緋道という存在は一体何なのだろうと思いながら、射精を終えて倒れ込んできた逞しい肉体を、陽菜は愛おしく受け止めるのだった。


「あっ、あっ、ああっ……」
 神治は、四つんばいになった陽菜を背後から突き込んでいた。
 そのたびに甘い吐息を漏らす姿は、日頃の悪態が嘘のように可愛らしい。
 いや、悪態をついていても可愛らしいのが陽菜の良さな訳だが。
 とはいえ、悪意を持たれていた相手とこうしてセックスしている現状を考えると、何とも世の中は不思議なことが起こるものだと思ってしまう。
 少し前までは、陽菜とセックスするなど思いも寄らない事だったろう。
 いや、魅力的な女の子であるから、抱きたいとは思ったりもしたが、陽菜の方は自分を嫌っていたし、何より学校でこうした事をしないようにしている事を考えれば、二重の意味であり得ないことだと思っていたのである。
 それがいつの間にやら、すでに何度も抱いてしまっていた。
 無論これは、薬物で興奮状態になり、死に至るかも知れない陽菜を助けるためという理由があった訳だが、すでにそれとは別に抱きたくて仕方のない状態になっているのも事実だった。
 何しろ陽菜の肉体はかなり良かったからである。
 肉棒を包み込む膣の具合や、肉体の感触などが自分好みだったのだ。
 薬物の効果もあるのかも知れないが、とにかく肉棒を出し入れしているだけでも並ではない良さがあったのである。
 何よりこちらの与える刺激に対する反応が敏感で、それを見ているだけで可愛さと共に、もっとしてあげたくなる気持ちが湧き起こった。
「あっ、あんっ……いぃ、いいのぉ、あっ……それいいっ……緋道いいよぉっ……」
 振り返り、こちらを見つめてくるのにゾクリとした想いを抱く。
 年上でありながら、小学生のような童顔をしたこの先輩は、淫靡な状態になると、妙な色気を発してたまらなかった。
 天性の色気というか、そうしたものを持っているのだ。
 小さな体にお団子頭、幼い顔立ちと、どう考えても色気とは無縁の要素であるはずなのに、一旦淫靡な雰囲気が漂うと、突如として熟女のような色気を発するのである。
 肉体もそれに作用するのか、若さに似合わない淫猥な蠢きで膣襞が肉棒に絡みつき、吸い付いてくるため、思わず精を漏らしそうになって慌てることがあった。
 まだ処女を失ったばかりである事を考えれば、恐ろしいまでの資質と言えただろう。
「緋道ぉ、あぁっ……分かってるでしょねぇ、あんっ……後で殺すからぁ、ああっ……殺すぅっ……こんな事した責任取らせるからぁ、ああんっ……死ね馬鹿ぁ、やぁんっ……」
 時折表情を歪ませ、甘えるように喘ぎながらそう言ってくるのにゾクゾクした想いを抱く。
 すっかり自分に夢中になっているくせに、未だに憎まれ口を言いながら喘いでくるのだ。
 しかも「殺す」「死ね」などと物騒な言葉を使ってくるため、余計にそそられる部分が強まった。
 何度か神性を見たと思える言葉を発しているところから、すでに部の民として心酔しているはずだったが、その状態でこうした言葉を言えるというのが、陽菜の個性に思えて可愛らしかった。
 素直でないところが従妹の久美を思わせ、彼女以上に頑固である態度が愛おしさを強めているように思えた。
「先輩可愛いですっ……スゲェ可愛いっ……俺、参っちゃいますよっ……たまらないですっ……」
 思いの丈を吐き出しながら、さらに強く腰を叩き付けていく。
「可愛いって言うな馬鹿ぁ、ああんっ……どうせ小学生みたいだってぇ、あんっ……思ってぇ、やっ……そのくせこんな事してぇ、あっ、ああっ……このロリコンぅ、ああっ……それいぃ、あんっ……緋道馬鹿ぁ、あっ……何でこんなにいいのよぉ、やぁんっ……」
 普段と同じく「可愛い」という言葉に反発しながら、それでいて褒めてくるのに苦笑する。
 不思議なことにこうして反発されたり罵られたりすると、興奮が高まり、肉欲が強まるのだから面白かった。
「先輩は小さいんだからしょうがないでしょっ……先輩の体、小さいくせにスゲェ気持ちいいんですもんっ……こんなの凄いですよっ……これが味わえるなら俺、ロリコンで構わないですっ……」
 尻を強く掴み、それまで以上に勢いを付けて腰を叩き付けていく。
「やっ、はぅっ、はぁんっ……馬鹿緋道ぉ、あっ、ああっ……ロリコンでいいなんてぇ、あぅっ……あんた馬鹿でしょぉ、やっ、やぁっ……私はあんたより年上ぇ、あっ、あんっ……馬鹿にするんじゃぁ、ああんっ……ちょっと、あっ……良すぎぃ、あっ……あんた良すぎぃ、ああっ……ロリコンのくせに何でこんないいのよぉ、あっ、ああんっ……」
 快感に耐えかねたのか、陽菜は腕を崩して上半身を床に付けると、尻を掲げた姿勢になった。
 そうなると益々体の小ささが認識でき、そんな肉体を犯している事に興奮が高まっていく。
「ロリコンだから先輩の体に夢中なんでしょうがっ……こんな小さくて、そのくせ色っぽくて気持ちのいい体っ……夢中にならずにいられる訳ないですっ……」
 実際、今の神治は少々おかしくなっていた。いつもより興奮が抑えられない感じなのだ。
 もしかしたら薬物がある程度効いているのかも知れない。
 秋羅は大丈夫と言っていたが、かなり長時間嗅いでいる訳だし、少しは影響が出ていてもおかしくないだろう。
「あんっ、あんっ、ああんっ……こんな凄いことしてぇ、あっ、ああっ……殺すからぁ、ああんっ……殺す死ねぇ、ああんっ……緋道殺すから死んでぇっ、やっ、やぁっ、やぁんっ……」
 お団子頭をいやいやと左右に振り、床に爪を立てて悶え狂う陽菜の姿には、幼さがあるだけに強烈な淫靡さがあった。
 腰の動きが激しさを増し、可愛い尻を小さな背中に押しつけるほどに突き込みながら、高まっていく射精感を意識する。
「わたしもう死ぬぅ、ああっ……緋道に殺されちゃうぅ、あんっ……殺すはずなのに殺されちゃうぅ、あっ、ああっ……緋道凄いんだもぉん、あっ、あっ……凄いのぉ、ああっ……凄いんだよぉ、やっ、やっ、やぁんっ……」
 床をひっかいている手がピクピクと痙攣し、突き込みに合わせて小さな頭が仰け反るのを満足げに見下ろしながら、このまま一気に精を放とうと腰の動きをさらに強く大きくしていく。
「もうダメぇ、あっ、あぅんっ……もうダメ緋道ぉ、ああっ……わたしもうダメなのぉ、やっ、やぅっ……緋道ぉ、あっ……馬鹿緋道ぉ、ああっ……緋道好きぃ、あんっ……緋道大好きだよぉ、あっ、あぅんっ……死んじゃえ馬鹿ぁ、やっ、やっ、やぁああああああああああんっ!」
「うぁっ!」
 最後の「大好き」という言葉を聞いた瞬間、心臓が激しく鼓動し、それと共に肉棒の栓が一気に解放された。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 肉棒が律動するたびに射精が行われ、それと共に強烈な快感が押し寄せてくる。
 最後の最後で「大好き」と言われたことがたまらず、精神的にも強烈な気持ちの良さに溢れていた。
 眼下では小さな可愛らしい先輩が、体をピクピクさせながら、射精に合わせて悶えている。
 その様子を見ていると、また抱きたくてたまらなくなり、精を放っている最中であるにも関わらず、肉棒が硬くなっていくのが分かった。
「ひどぉのばかぁ……しねぇ……」
 可愛らしく悪態をついている姿を見つめながら、この先輩をこれからも抱いていきたいと思いつつ、素直に抱かせてくれるはずもないからどうすればいいだろう、などと考えながら、最後の精を放った神治は、大きく息を吐き出すと脱力するのだった。


 あれから数日が経った。
 あの日、結局秋羅は最後まで現れず、神治は暗くなるまで陽菜を抱き続けた。
 どこまで抱けば薬物の効果として大丈夫なのか分からなかったというのもあるし、陽菜が「私をこんな風にしておいてぇ、もう止めるって言うのぉ? 私の体ぁ、あんたがおかしくしたんだからぁ、ちゃんと責任とってもっとしなさいよぉ」と悪態をつきながらも可愛らしく求めてくるのを放っておけなかったのもあった。
 薬物の効果なのか、元々の資質なのか、陽菜は何度抱いても満足することがなく、いつまで経っても求めてくるのを止めなかった。
 さすがに暗くなったため止めるように告げると、「仕方ないわねぇ。でもこれくらいで責任取れたと思わないでよぉ。あんたは私の初めてを奪ったんだからぁ、死ぬまでしてもらうからねぇ。殺すってのはそういう意味だから覚悟しておきなさいぃ」と宣言してきた。
 ただそれを力の入らない様子で横たわったまま言ったので、迫力は全く無かったのだが。
 とはいえ、「殺す」という言葉には信憑性があるように思えた。何しろ陽菜の精力は凄まじかったからだ。
 普通の人間であればこれほど精を吐き出させられたら枯れてしまうだろう。それを何度もされたら死んでもおかしくなかった。神治であるからこそ最後まで抱き続けられたのである。
 そういう意味で陽菜の精力には何とも驚かされた訳だが、もっと驚いたのが、翌日に秋羅に聞かされた事だった。
 何と今回の事は、秋羅が仕組んだ企みだったというからだ。
 実は秋羅は、以前から陽菜のことを、無意識下の歪みが大きくなっている人物としてマークしていたらしい。
 陽菜は無意識下におけるセックスに対する欲望がかなり強いそうで、その事で歪みが生じていたと言うのだ。
 何しろ表面上の人格としては性的なことに対して、というより男に対して嫌悪感が強いため、欲望が発散されることがなく、そうしたアンバランスな状態である事が歪みを大きくしていたと言うのである。
 このままでは危険だと判断した秋羅は、セックスを経験させることで、その歪みを解消させようとずっと考えていたのだが、ちょうど良い相手が見つからず、困っていたらしい。
 だがあの待ち合わせの場所で、神治に食ってかかっている陽菜の無意識を探ったところ、神治に強烈に惹かれているのが分かったというのだ。
 それほどまでに無意識下で惹かれているのなら、まさにピッタリの相手だと思った秋羅は、陽菜の興味を引くような言動をして後をつけさせるように誘導し、あの部屋で神治に抱かれるようにし向けたと言うのである。
 何とも驚きの事であり、そこまで瞬時に判断し、実行出来る秋羅というのは、本当に凄い人物だと感嘆した。
 神治個人としては、今回の事で「学校では抱かない」という決まりをまた破ってしまった事になる訳だが、陽菜の歪みを解消できたのであれば良かったし、部の民を得られたのだから問題なしとすべきだろう。
 というより、もうこの決まりはほとんど意味を成していないように思えた。何しろ親しくなる女性を学校で抱いてばかりだからだ。
 だったらもっと好き放題しても良いのではないだろうか。
 実際そうした我慢をしていると、無意識に歪みを生じさせるという話を聞いた訳であるし、そうすべきなのかも知れない。
 しかしそうなると、またセックスに対する意欲がなくなる可能性もあるため難しいところでもあるのだが。
「ちょっと緋道、聞いてるのっ?」
 不意にかけられた声に、慌てて意識を戻す。
 どうやら考え事に夢中になっていたため、すっかり話を聞いていなかったらしい。
 ここは旧校舎の一室。
 秋羅が用意した部屋であり、目の前には陽菜が立っていて、ベッドに腰掛けた神治を睨んでいた。
「すみません。聞いてませんでした」
「あんたってば失礼なヤツよねホント。っていうか、目の前でこんな可愛い女の子が服を脱いでいるってのに、他のことに意識を向ける普通?」
 そう告げてくる陽菜は、制服のボタンを外し、ブラジャーに包まれた乳房を顕わにした状態だった。
 その可愛らしくも色っぽい姿に少々興奮を高める。
 最近の陽菜は、性的な興奮が少し高まるだけでも色気を発するようになっていたため、こうしてセックスをするために服を脱いでいる時には、すでにいやらしさを強く感じさせていた。
「あ〜〜、あまりに色っぽい先輩の着替えに意識が集中してました、ってのじゃ駄目ですか?」
「駄目に決まってるでしょうがっ。そもそも疑問系って何よっ。断定しなさいよ断定っ。それだったらまだ許してあげたかも知れないのにっ」
 可愛らしく怒りをぶつけてくるのにゾクゾクした想いを抱く。
 やはり陽菜は怒ってこそ魅力があった。素直なだけになってしまえば、その魅力は落ちてしまうだろう。
「すみません。色々と考えてしまったもんで……」
「考えてたぁ? 馬鹿な緋道が何を考えてたっていうのよ? どうせろくでもない事でしょうけど、素敵なお姉さんが相談に乗ってあげるから話してごらんなさい」
 年上風を吹かせながら言ってくるのにゾクリとした興奮を覚える。
 小さい体に童顔でありながら、色気を感じさせる陽菜がそうした言葉を言うと、奇妙な魅力を醸し出して肉欲が高まるのだ。甘えたくなるような衝動を覚えるのである。
 そんな事を思って気づいたのは、こうしたシチュエーションは未迦知神相手によくしている、という事だった。
 幼い容姿でありながら遙かに年上であり、頼れる女性として慕っている未迦知神としている会話と似ていると思えたのである。
 そうした事が陽菜に対する興奮を高める要素の一つになっているのかも知れない。
 そもそも自分は厳しくしてくる年上女性に弱いところがあった。
 周囲にそうした女性が多く、さらには甘えさせてくれたり、セックスで従えたりしている経験が、陽菜のそうした要素と重なって、普通以上に愛おしく感じさせる原因になっているように思えたのだ。
「何黙ってるのよっ。ほらさっさと言いなさいよっ。もしかして私をからかってるっ? だとしたら許さないからねっ」
「いえ、違います。またちょっと考え事をしてただけで……」
「あんたねぇ……いい加減怒るわよっ」
「すみません……」
 こうした会話をしながら、陽菜もかなり丸くなったものだと思った。
 最初に出会った頃はかなり悪意に満ちた言動をされたものだったが、今は言動自体は同じであっても、悪意ではなく好意に満ちていたため、嫌悪感が起きないのだ。
 それにどこかこちらに甘えてくるような雰囲気もあったため、そこが可愛らしく感じられる部分でもあった。
 やはり部の民として目覚めているのが大きいのだろう。
 態度が悪いため、表面上は分かりにくかったが、確実に陽菜の魂は、神治の中の神性に惹かれて従う状態になっていたのだ。
 それは時折向けられる執着の籠もった熱い視線で明らかだった。
「実は、こんなこと学校でしてていいのかと思いまして……」
「ああ、その事……まあ、確かにそうよね。いくら見つかりにくいからって、学校でするってのはマズいもの。でもいいじゃない。あんたとするにはここは便利なんだからさ」
 陽菜は淡々とそう言いながら制服を脱いでいっている。
 真っ白な肌が徐々に晒され、華奢な肉体が生まれたままの状態になっていく様は、見ているだけでたまらないものがあった。女性の体というのは、どうしてこう美しいのだろう。
「だけど、こうした事に慣れるってのも良くないんじゃないかと思いまして……」
「う〜〜ん、言われてみれば確かにそうかもね。でもいくら慣れるって言ったって、学校である事には変わりないんだから、見つかるかも知れないって緊張感はあるでしょ。あんたはそういうの無くなってるの?」
「いえ、ありますけど」
「だったらいいじゃない。緊張感さえ無くさなければ大丈夫よ。だから気にせず思い切りすればいいの。大体、あんたには私を死ぬまで抱く義務があるんだからね。そのこと忘れるんじゃないわよ?」
 ジトっとした目で、陽菜はこちらを見つめながらそう告げてくる。
 あの初めて関係を持った日の翌日、神治を呼び出した陽菜は、怒りながら「責任取りなさいよねっ。あんたのせいで私、おかしくなっちゃったんだからっ。朝からあのことばかり考えちゃってしょうがないのよっ。どうしてくれるのよホントっ。あんたが責任持って何とかしなさいよねっ」と言ってきた。
 そしてこの部屋へと強引に連れて行き、制服を脱いでベッドに横たわると、「ほら、さっさとしなさいよ。あんたは私とする義務があるんだから。このロリコン強姦魔」とキツく告げ、顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに顔を背けた。
 その様子があまりに可愛らしかったため、神治も興奮を高めて結局また遅くなるまで抱いてしまったのだが、陽菜の様子はあまりに積極的すぎる、というより追い詰められたゆえの暴走とも取れたため心配になった。
 部屋に入ってからであれば薬物の影響というのも考えられたが、それ以前から陽菜のテンションは高かったのだ。
 秋羅に相談してみると、陽菜の現在の無意識の状態は、歪みが無くなっていて安定しているのだが、逆に妙に活性化しているようで、暴走気味なのはそれが原因なのではないかと言われた。
 これは無意識下の歪みを解消した人間にありがちの状態ではあるのだが、それにしても陽菜の場合は異常なほどに強いらしい。
 ゆえにそうした事とは別の何か、陽菜の中にある特殊な要素が影響してそうなっているのではないか、というのが秋羅の分析だった。
 思い当たることはあった。
 部の民だ。
 陽菜は部の民として目覚めたため、その事が影響しているのではないかと思えたのである。
 歪みを解消したことでの活性化に加え、部の民として神治を慕う想いが影響しているとすれば納得出来たからだ。
 他の部の民の女性達にしても、陽菜ほど強烈ではないが似たような積極性を示していたため、原因とするならばこれしか思いつかなかった。
 陽菜の場合は、元々の性格に加え、この部屋へ来てからは薬物の影響もあるために異常さが際立っているのだろう。
 最近は活性化が治まってきたようで落ち着いてはいるが、少し前までは大変だったことを思い出して苦笑する。あの状態もそれはそれで楽しかったが、やはりあまり興奮しすぎるというのは体に悪いように思えたため、今の状態になって良かったと思った。
「またボーッとしてる。ホントやる気あるのっ? 自分の責任忘れてるんじゃないでしょうねっ?」
「忘れてないですよ。先輩のこと忘れるなんてあり得ないですから」
 神治が応えると、陽菜は一瞬嬉しそうな笑みを浮かべたが、それを慌てて隠すようにして顔を歪めると、フンっと鼻を鳴らして近づいてきた。
 そしてそのまま神治の足下に跪き、ズボンに手を掛けてカチャカチャとベルトを外している。
「やる気のないこと言ってるくせに、ここは元気なんだから。ホントあんたって嫌な男よね、ほら腰上げてっ」
 ズボンとパンツを引き下ろし、硬く大きくなっている肉棒を握りしめてくるのに体を硬直させる。
 確かに陽菜の言うとおり、言葉とは裏腹にこれほど肉棒が元気になっていては皮肉の一つも言いたくなるだろう。
「せっかく矢上が用意した部屋なんだし、活用しないと勿体ないじゃない。私はそれを条件にしてここの事、黙っててあげてるんだからね、んんっ……」
 上目遣いで見上げながらそう告げ、肉棒を口に含んでくる。
 すでに何度もした経験があるせいか、最初から神治の弱い部分を舐めてくるため、思わず頭を仰け反らせてしまう。
 お団子頭が熱心に動き、肉棒を口に含んで舐め回しているのが何とも可愛らしい。
 チュパチュパと音をさせながら強く吸い付き、舌先で亀頭をチロチロと舐めてくるのに体がピクッと反応してしまう。
「ふふ、変な顔……私に舐められてそんなにいいの? あんたを罵ってばかりの私に舐められて……あんたホントに変態よねっ」
 そう言いながらも、目では「どう? 気持ちいい?」と尋ねるようにして上目遣いで見つめてくるのにゾクリとした興奮を覚える。
 小柄な裸身をさらし、小ぶりの乳房を揺らしながら肉棒を咥えて得意げにしている様は、可憐な美しさといやらしさがあってたまらなかった。
 このような少女に誘惑されて逆らえる男など居るはずもないだろう。
 そう、陽菜は誘惑してくるのだ。
 罵りの言葉と、セックスを否定するような言葉を口にしつつ、それでいて誘うようにしてくるのである。
 事情があったとはいえ、強姦してしまった経緯のある神治としては、ただでさえ逆らえないというのに、その事でさらに従うしかない相手となっていた。
 しかしそうした状況が嫌かと言えばそうではなく、むしろ喜ばしいと思えていたので、ここ数日の陽菜との関係は実に楽しかった。
(緊張感が無くならなければいい、か……)
 先ほど陽菜に言われた言葉を思い出す。
 確かにいくら慣れると言っても、学校でしている以上、見つかったら問題視されるのだし、そういう意味では絶対的に安全な緋道村とは根本部分が違っていた。
 村の外では、高校生が学校でセックスをしていたら大問題になるのである。
 そうした緊張感がある限り、いくら学校でセックスする事に慣れたとしても、飽きるということはないだろう。
 神治は何やら目の覚める想いがした。
 陽菜はあっけらかんと告げてきたが、まさにその部分こそが神治が気にしていたことのポイントに思えたからだ。
 やはりこの先輩は素敵だった。
 その感謝を込め、いつもより気持ち良くしてあげたくなってくる。
 見下ろせば、陽菜はお団子頭を熱心に動かして肉棒を舐め回している。
 口では何だかんだ言うが、実に熱心にフェラチオしてくる態度は、こちらに対する執着を感じさせて嬉しかった。
 そういうところが部の民として神治に依存している状態なのだろう。
 以前の陽菜であれば、さすがにここまで熱心にしたりはしなかったと思うからだ。
 自分の魂を捧げた神であるからこそ、強烈な執着と、自らを認めて欲しい衝動に駆られているに違いない。それがこうした奉仕に対する熱心さに繋がっているのだ。
 神治は自らも制服を脱ぐと裸になり、目の前にある可愛らしいお団子髪の頭を撫でた。
「先輩、抱かせて下さい……」
 屈んで陽菜をお姫様抱っこで持ち上げると、そのままベッドに横たえる。
 白いシーツの上に、生まれたままの姿で存在する陽菜は実に可愛らしくもいやらしかった。
 か細く弱々しさを感じさせる小柄な体。
 胸元で小ぶりながら綺麗な山を描く膨らみ。
 そしてそれらを染み一つ無い真っ白な肌が覆っている様は、少女特有の美しさ、内に籠もったような淫靡さを感じさせてたまらなかった。
「もう我慢できなくなってるの? しょうがないんだから。もっと我慢しなさいよねっ」
 プイッと横を向きながらそう言いつつも、口元に笑みが浮かんでいるのを神治は見逃さなかった。
 そうして自らは望んでいないようにしながら、内心では早く抱くように訴えているのが何とも可愛らしいのだ。
「すみません。でも先輩が可愛いから我慢できなくなっちゃったんですよ」
 そう言いつつのし掛かり、その小さな体に覆い被さっていく。
 滑らかな肌と擦れると蕩けるような快感が触覚に起こり、それをもっと味わおうと体を擦り付けていく。
「あんっ……もう、あんたはホントがっついてるわよね。いつだってそう。あんたは私を無理矢理でも抱きたくてしょうがないんだわ」
「そうですよ。そうしたくなるくらい先輩の体は魅力的なんです」
「こんな小学生みたいな体に何言ってるんだか。ロリコンよねホント」
「ロリコンでもいいですよ。先輩を抱けるなら」
「馬鹿よねホント。あんたは馬鹿だわ、んっ、んんっ……」
 唇に吸い付き、舌を押し込んでいくと、陽菜は背中に手を回して抱き付いてきた。
 小さな体でそうされると、陽菜の全てを自分の物に出来ているようで嬉しくなってくる。
「んっ、んぁっ……んふっ、んはぁ……やっ、あんっ……胸も好きよね、あっ……こんな小さな胸をさ、やっ……そこもロリコンよね、あっ、あんっ……」
 小ぶりの乳房を揉みしだくと、陽菜は気持ち良さそうにしながら悪態をついた。
 だが陽菜の乳房は、本人が卑下するほど小さいという訳ではなかった。十分な大きさがあるし、体格が小さいため普通に比べて大きく見えるほどだ。
「そんな事ないですよ。これくらいあれば十分でしょ」
「だけどあんた、大きいの好きでしょ。琴巴くらいのさ……」
 悲しげにそう呟いている様子に、どうやら琴巴と比較してコンプレックスを抱いているらしいのが感じられた。
 だがあのような巨乳と比較するとなれば多くの女性が勝てないだろうから、そんな胸を大きさの基準にするのもどうかと思った。
「岡嶋先輩と比較したらそりゃ小さいですけど、別にこれくらいでも俺は好きですよ。大体男ってのはオッパイ自体が好きなんですから、小さいからどうでもいい、なんて事はあり得ません。それにこれくらいあれば十分満足できますし」
 そう言いながら、形の良い膨らみに吸い付いていく。
「そんな気を遣うんじゃないわよ、馬鹿緋道のくせに、あんっ……私は気にしないし、あっ……自分の体が子供っぽいのは分かってるから、あっ、あんっ……」
「そうして自虐的になるのは先輩の悪い癖ですよ。こんなに可愛くて抱きたくてたまらない体してるくせに。そうじゃない人に怒られますよ。先輩はかなり可愛いんですから」
「ばっ……何言ってるのっ。緋道のくせにお世辞なんか言うんじゃないってのっ。ホント馬鹿緋道なんだからっ」
 まんざらでも無いのか、口では悪態をつきつつも嬉しそうにしているのを可愛らしく思う。実に素直に喜べない人なのであり、そこが陽菜の魅力なのだった。
「お世辞だったらこんなに夢中になって抱きませんよ。先輩の体は凄く魅力的です。見ているだけで色々触りたくなるし、舐め回したくなるし、可愛い声をあげさせたくてたまらなくなります。だから俺、何度も抱いちゃうんですから」
 事実陽菜とは毎日のようにセックスをしており、一度にする回数にしてもかなりのものになっていた。
 この部屋を管理している秋羅には、「君たちはホントよくヤるよね。一色さんもまさかここまでセックスが好きだったとはなぁ。さすがセックスが出来ない事で歪みが生まれていただけの事はあるよ」などと呆れつつも感心されたのだ。
「ふんっ……まあ、信じてあげるわよ。確かにあんたは私に夢中だもんね。だからいいこと、琴巴には手を出すんじゃないわよ? あの子にはあんたみたいなヤツは似合わないんだから。その代わり私を抱かせてあげるんだからありがたく思いなさいよね……体は負けるかも知れないけどさ……」
 最後にそっぽを向きながら小さく付け加えるのを可愛らしく思う。
 陽菜は分かっているのだろうか、そうした自虐的な発言が男心を擽っているということを。
 このような発言をされては、体だって魅力的なのだと証明してあげたくなり、必要以上に熱心に抱きたくなるだろう。
 実際、そうしてこれまで抱く意欲が上がっていたのだ。陽菜に自分の体に自信を持ってもらいたくてそうなっているのである。
「感謝してますよホント。俺みたいなのを先輩が相手してくれるんですから……先輩みたいに可愛く可愛くて可愛い人は、ホントたまりません」
 そう言いながら顎の下を舐め、舌を這わせていく。
 そのまま徐々に下へ移動していき、胸、腹部、太ももと吸い付き、足先までを唾液で塗装するようにしていく。
「あっ、もぉっ……そんな舐めてばっか、やんっ……馬鹿緋道、ああっ……ホントエッチなんだからぁ、やっ、やぅんっ……」
 擽ったそうに体をクネクネ動かしながら、可愛らしく、そしていやらしく悶える陽菜の姿は、それだけで射精したくなるほどに淫靡だった。
 幼い容姿のくせに、いや、それゆえに陽菜には色気が強まる部分があった。
 この小さな体が快楽に染まると、熟女に負けない色っぽさを発するのだ。
 そうしたギャップが、陽菜にのめり込んでしまう理由だった。
 何より悪態をつきつつも積極性のある陽菜の態度が、さらにそれを促していたのかも知れない。
 他の女性達は、ある程度は抱くことを要求してきたが、陽菜ほどに強くは欲して来ていないからだ。
 そうした部分が、セックス出来ない事で無意識下に歪みを生んでしまう陽菜の性質なのかも知れない。彼女にとってセックスは必要不可欠なものなのだろう。
 そんな人間にとり、秋羅の設置したこの部屋というのは実にありがたいものに違いなかった。何しろ誰にも気づかれず、学校で好きなだけセックスが出来るのだから。
「ね、緋道、あんっ……そろそろ、ああっ……入れてもいいわよ、あっ……入れたいでしょあんた、ああんっ……」
「入れて欲しいんですか?」
「馬鹿違うわよっ……あんたが我慢できなくなってるんじゃないかと思って、あっ、ああっ……そこをそんな、やぁっ……だから早く入れなさいよぉ、やっ、やぅんっ……」
 自分が入れて欲しいくせに、それを隠してこちらが入れたがっているかのように言ってくるのを可愛らしく思う。
 しかも快感に耐えかねて、最後には入れるように泣きそうな声で言ってくるのだから益々可愛かった。
 体を起こして見下ろせば、白い肌を桜色に染め、小さな体をピクピク震わせながら、潤んだ瞳で入れてくるのを期待するように見つめてくる姿があった。
 その無言でおねだりしている様子には、ゾクゾクするような興奮を起こすものがあってたまらなかった。
 この可愛らしい少女を快楽で無茶苦茶にしてやりたい。甘く喘がせ、いやらしく悶えさせたい。
 耐え難い欲求に押された神治は、細い両脚を持つと左右に開き、肉棒を持って腰を近づけていった。
 ズブリ……。
「あんっ……」
「うぅっ……」
 二人の声が重なり、体が硬直する。
 そのままゆっくりと肉棒が入り込んでいくと、「あ……あぁ……」というか細い声が耳に響いた。
 肉棒の全てを収めた後、続けて勢い良く腰を前後させ始める。
「あっ、あっ、ああっ……いきなり、あんっ……いきなりすぎよ、ああっ……あんたいきなりぃ、やっ、やぅんっ……あっ、あぁっ……」
 激しいピストン運動に、陽菜は文句を言い切れずに喘ぎ、体を小刻みに震わせている。
 小ぶりの乳房が腰の動きに合わせて前後左右に揺れ、快楽に染まった顔がいやいやとばかりに左右に振られる。
 その可愛らしくもいやらしい様子に、肉棒が猛り、突き込みも激しさを増していった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……緋道馬鹿、ああっ……緋道馬鹿ぁっ……こんな、あっ……こんなの、ああっ……こんなの凄いよぉっ……」
 泣きながら悪態をつきつつ褒め称えてくるのにドクンっと心臓が跳ねる。
 この可愛らしく拗ねる、とでも言うような陽菜の態度には、強烈に男心を擽るものがあった。
 小さな体であるだけに、その態度がよく似合い、可愛らしい顔が効果を増大させているのだろう。
 この様子を見せられるため、何度でも抱きたくなってしまうのだ。
「あぅっ、あっ、あぅんっ……いいっ、いいっ、いいっ……馬鹿緋道のオチンチン、あぅっ……いいよぉっ……あっ、あぐっ、あぁんっ……」
 シーツを強く掴み、顎を何度も仰け反らせながら喘ぐその姿には、支配欲を刺激する良さがあった。
 悪態が混ざっているため、そんな事を言うような相手を自由にしているという悦びも湧いているに違いない。
 生意気な女を従える快感とでもいうものだろうか。
 とにかく陽菜にはそうした魅力があったのだ。
「やっ、やぅっ、やぁんっ……凄、あっ……凄いの、ああっ……凄いから死ぬ、ああっ……死んじゃう、ああっ……わたし死んじゃうぅっ……あっ、ああんっ……」
 目を虚ろにし、涎を垂らしながら陽菜は悶え狂った。
 どうやらあまりに可愛かったため、淫の「気」を送りすぎたらしい。
 慌てて「気」の放出を抑えるが、すでに快楽に染まった陽菜は、そのままおかしいほどに喘ぎまくった。
「緋道に殺されちゃう、ああっ……緋道にわたし、ああっ……緋道に殺されちゃうぅっ……あっ、ああっ……殺して、あんっ……緋道殺してぇっ……わたしをもっと殺してぇっ……」
 何とも物騒な事を口にしながら、甘えるようにしがみついてくるのに苦笑する。
 最初に抱いた時に「殺す」とか「死ね」とか言われたものだったが、そのせいなのか、切羽詰まってくると「殺される」や「死ぬ」といった言葉を発するのだ。
 それが快楽に染まった状態を表していて面白かったし、何より元々陽菜を抱いたのも、セックスしないでいることで死んでしまうのを防ぐためだったため、自分たちには合っている言葉であるように思えた。
「あっ、ああっ……緋道、あっ……わたしもう、ああっ……わたしもう駄目ぇっ……あっ、ああんっ……死んじゃう、あっ……死んじゃうよぉ、ああっ……死んじゃうのぉっ……」
 涙を流し、頭を左右に激しく振って、小さな体でしがみついてきながら喘ぐ陽菜の姿に、神治の射精感も高まっていた。
 このまま一気にトドメの一撃とも言うべき精を注ぎ込むのだ。
「あんっ、あぅっ……緋道、あっ……緋道ぉ、ああっ……緋道好きっ、緋道大好きぃっ……あっ、あんっ……大好きっ、大好きっ、大好きぃっ……やっ、やっ、やぁああああああああんっ!」
「うぅぁっ!」
 大好き、と連呼されたことで、その可愛らしさに逆にトドメの一撃を食らったような感覚を覚えつつ、心と体が最高の快楽に包まれた状態で神治は精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 勢い良く迸る精液を感じつつ、肉棒が律動するたびに押し寄せてくる快感に身も心も委ねていく。
「あ……ああぅ……はふぅ……」
 背中に爪を立て、肩に噛みつき、泣きながら悶える陽菜の姿は、神治に全てを捧げた女の姿そのものだった。
 ピクピクと震える小さな体を抱き締めつつ、数度の射精を繰り返した後、ゆっくりと力を抜いていく。
 二人の荒い呼吸が部屋に響き、徐々にそれが治まっていくのを感じながら、改めて陽菜の可愛らしい肉体の感触を味わう。
 それは温かくて柔らかで、女の魅力に溢れた素敵なものだった。
 快楽の余韻にボーッとしつつ、目の前にある可愛らしい耳に唇を寄せた神治は、ペロリと軽く舐めた後、小さく愛の言葉を囁いた。
「先輩、大好きですよ」
「!……」
 声にならない声を発して陽菜が硬直している。
 すでに上気して赤かった耳がさらに赤くなり、真っ赤になっていくのを面白く見つめる。
「!……!……」
 体を離した陽菜が、無言で叫ぶようにしながら両手を握りしめてポコポコと叩いてくるのを楽しく思う。
 怒っているような嬉しそうな表情でそうしているのが何とも可愛らしく、そんな陽菜をこうして抱ける自分は何と幸せなのだろうと思った神治は、その小さな体を強引に抱き締めつつ、愛らしい唇に吸い付いていくのだった。












あとがき

 年下のような容姿のくせに年上であり、おっかない言葉を言ってくるけどそれがまた可愛らしい。
 そんな先輩を描いてみました。
 抱かれることを嫌悪しているくせに、強く罵ってきながらも感じてしまう。
 そうしたシチュエーションを描きたくて考えた先輩です。
 要するに「嫌よ嫌よも好きのうち」の強烈バージョンですか。
 普通は「駄目」「止めて」とかそういう言葉を言ったりする訳ですが、この先輩の場合は、「殺す」「死ね」になっている訳ですな。
 強烈な否定の言葉であるにも関わらず、快楽のために受け入れてしまう状態がたまらない内容になっている訳です。
 そこが強い興奮を得られる内容になったのではないかと思うのですが、いかがだったでしょう。
 秋羅に関しては、男で絡んでくるのが欲しかったのと、ああした特殊な場所を管理している存在というので、前々から出そうと思っていたキャラでした。
 本当は学校の外でやるつもりだったんですけど、陽菜の設定上、学校の外となると後を付けるのが大変そうなので、学校内にさせていただきました。
 結果として、神治が学校でセックスする際の不安を解消する意識に持って行きやすくなったので良かったかな、と。
(2013.12.31)

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