緋道の神器


        第三十六話  清楚なお嬢様



 ここ最近、神治は冴花に付き合わされていた。
 買い物だなんだと呼び出され、色々な場所へと連れ回されているのだ。
 しかも買い物をする店は、神治にとってあまり興味を持てないファッション関係の店ばかりであったため、少々辟易させられていたのだった。
 高校生にしては荒い金遣いに、やはりお嬢様なんだな、と思ったが、どうやらそれは、中学生の頃から貯金してきた金で買っているらしい。
 これまで冴花は必要最低限の物しか買わず、お洒落にしてもほとんどしていなかったのだが、その理由は、冴美に貰った金を出来るだけ使いたくなかったから、という事らしかった。
 よく分からないのだが、おそらくは反抗期みたいなものなのだろう。
 冴花は冴美に対して反感を抱き、その結果として小遣いを使う事を忌避していたらしい。
 しかしそうした意識が最近急に無くなったとの事で、今までの鬱憤を晴らすかのように、こうして買い物をしまくっているのだという。
 冴花はファッションに興味が無い訳ではなかったため、これまでの生活は我慢をしていた状態であったらしく、今はそれを発散しているとの事だった。
 女性の欲求不満に関しては、神治は性的な部分でよく知っていたので、それと似たようなものだと考えると、この買い物の付き合いはこれからも続くのだろうと思えた。
 買い物が神治にとっても興味のある対象の物であるならば良いのだが、どうやら冴花とは趣味に関しては合わないようで、あまり期待は出来ないようだった。
(あ、先に来てる……)
 待ち合わせの場所へ近づくと、すでに冴花が待っているのが見えたため、神治は溜息を付いた。
 冴花は待たされるのが嫌いで、遅れてくると怒るのだ。
 今も広場の中央に建てられた像に寄りかかるようにして立っており、不機嫌そうな顔を浮かべて正面を見据えている。
 約束の時刻にはまだ時間があったものの、自分より遅れてくる事が気に食わない冴花は、いつも遅れてくる神治に腹を立てていた。
 男は女性を待っているべきだ、という考えを持っているのだ。
 何とも理不尽な事ではあったが、そうは言っても冴花は本気で怒る訳ではなく、軽い我が儘のようなもので、「私の言うこと聞いてよぉ」と甘える雰囲気を感じさせるため、神治としてもさほど気にしている訳ではなかった。
「すみません、待ちました?」
 苦笑気味にそう言いながら近づくと、腕組みをして立っていた冴花は、ジロリとこちらを見た後、不機嫌そうに唇を尖らせた。
「いつも言ってるでしょ? 女を待たせるなんてマナー違反って。いつまで経っても守れないんだから……ったく、私がどれだけ楽しみにしてるか分かってるのかしら……」
 最後の一言だけは小さな声でブツブツ呟いていたが、神治の耳にはちゃんと聞こえていた。
 普通なら言わないだろうに、小さな声とはいえ、思わず口にしている冴花を可愛らしく思う。
 実際そうやって不機嫌そうにしていても、顔の作りが可愛いせいか、まったく嫌な風には見えないのだ。
 さらにそうした事に加え、金髪で日本人離れした顔立ちをしている事から、冴花は周囲の注目を集めまくっていた。
 こうして待っている間にも何度かナンパされるらしく、待たされるのを怒るのにはそうした理由もあったのだ。
「まあ、いいわ。それより今日は紹介したい子がいるのよ。私の友達で、隼瀬摩箕子(はやせまみこ)っていうの」
 冴花は得意げにそう告げると、その人物を示すようにして横に腕を伸ばしたのだが、そこには誰も居なかった。
「……どこに居るんですか?」
「え?……あ、あれ? ちょっと摩箕子、どこ行ったのよ?」
 冴花は慌てた様子で周囲を見回している。
 だが近くにはそれらしき人物は居なかったため、冴花は益々慌てたようにその友人を捜し始めた。
「って、こんなとこに……もぉ、いきなり移動しないでよ、恥かいちゃったじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
 どうやらその人物は像の背後に居たらしく、冴花はそこから一人の少女を引き寄せている。
 年齢は十五、六歳だろうか。
 冴花と友人というのだから、おそらく高校一年生なのだろう。
 腰まである長い黒髪と、大人しそうな、気弱なそうな表情が印象的な少女だった。
「改めて紹介するわね。私の友達で、隼瀬摩箕子よ。摩箕子とは小さい頃からずっと一緒なの。今友達って言ったけど、いわゆる親友って事になるわね。だから変な事するのは駄目っ。分かった?」
 いきなりの釘を刺す言葉にギクリとなる。
 実際神治は、大人しそうな摩箕子の様子に、性的な食指を伸ばしたくてたまらなくなっていたからだ。
 かなり可愛い顔立ちと、長い髪に気弱そうな印象から、まさに大和撫子といった風情のある摩箕子は、どこか男の嗜虐心をそそる雰囲気を持っており、こんな女性を喘がせたら気持ちがいいだろうなぁ、などと思っていたのである。
「変な事って何ですか?」
「そういう事は聞かないっ。感覚で理解しなさい感覚でっ。要はあんたが私にしたような事よ。あれは駄目。絶対駄目だから。分かった?」
 顔を赤くしながら指摘してくる冴花を可愛らしく思う。
 おそらくいやらしい行為をするなという事なのだろうが、ハッキリそう述べていない以上、意味は無かった。どうとでも取れるからだ。
「分かりました。しません」
 神治としては、これならばいくらでも誤魔化しが出来ると思い、ほくそ笑みつつ返事をする。
 まあ、バレたら大変だろうから、その点だけは注意しなければならないだろうが。
「宜しい。じゃ、摩箕子にも紹介するわね。これが前から話してた男よ。緋道神治。私の、その……友達、よ……」
 冴花は最後の部分を恥ずかしげにたどたどしくそう告げると、そっぽを向いている。
 その様子が何とも可愛らしい。
「あ、あなたが……いつも冴花さんが……た、楽しそうに話している人、なんですね?……わ、私は……その、えっと……は、は、隼瀬……ま、摩箕子と言います。宜しく、お願い、し、します」
 摩箕子は不意にギクシャクした様子になると、とぎれとぎれにそう告げ、深々と頭を下げた。
 体が小刻みに震えている点からして、緊張しているのかも知れない。
「ちょっ、何言ってるのよ摩箕子っ。私は楽しそうになんか話してないってばっ」
 冴花は慌てたように摩箕子の言葉を否定している。
 本当は楽しく話しているのだろうが、それを認めるのが嫌なのに違いない。
 そうした素直ではない部分が冴花の可愛らしさだった。
「俺は冴花さんが建前上、楽しくなく話しているらしい緋道神治です。宜しくお願いします」
「あんたも何言ってるのっ。建前上って何よ建前上ってっ」
 冴花のツッコミを無視し、神治も深々と頭を下げる。
 慌てて怒っている冴花は何とも可愛らしく、その事に微笑んでしまう。
「冴花さんどうしたの? 何を怒っているんですか?」
「だから、あんたが今言った、私が楽しそうにこいつのこと話してるって部分」
「え? それで何で怒るの? いつも楽しそうにしてるでしょう?」
「だから違うって言うのにぃ……」
 不思議そうに呟く摩箕子に、冴花は悔しげに唸った。
 おそらく摩箕子は天然系であるため、こうした心の機微に関しては、説明してもあまり分かってもらえないのだろう。
 口調もおっとりとした上品なものであったため、育ちの良さを感じさせる雰囲気がある事から、お嬢様なのかも知れない。
 冴花にしても社長令嬢なのだから、その親友である摩箕子がそうであってもおかしくないだろう。
「まあ、そう気にしないで下さいよ。俺はちゃんと分かってますから。冴花さんが俺の事を楽しくなんか話してない事を。建前として」
「だから建前言うなっ。もぉ、知らないんだからっ」
 冴花は顔を真っ赤にすると、プイッとそっぽを向いた。
 少々からかいすぎたか、と思いながらも、その怒った様子を可愛らしく思う。
 そしてその傍らで、何だか分からない様子で冴花を心配そうに見ている摩箕子の姿に可笑しくなった。
 彼女はおそらく冴花が何故怒っているのか未だに分かっていないのだろう。
 そうした天然系の摩箕子は、キツい性格の冴花の友人としては案外ちょうどいいのかも知れない。
「それより今日はどうするんですか? 俺、隼瀬さんが一緒だなんて聞いてなかったんですけど」
「……取り合えず今日は、二人を引き合わせようと思ったの。あんたも摩箕子も私の友達だから、お互いを知っておいてもらおうと思って……」
「なるほど。それじゃ改めて宜しくお願いしますね、隼瀬さん」
「!……こ、こちらこそ……」
 神治が再び頭を下げると、摩箕子も慌てて頭を下げている。
 その慌て振りが何とも可愛らしい。
「冴花さんが、お、男の子の友達を作るなんて……は、初めてなので……で、出来ればずっと……な、仲良くしてあげて、下さい……」
「え? そうなんですか? 俺が初めての男の友達? でも学校とかで少しくらい仲良くなった男とか……」
「居ないのよ、ほっといてっ」
 摩箕子の言葉に驚いて問い返すと、冴花は不機嫌そうにそう答えた。
「そうなんですか? 隼瀬さん」
「は、はい……男の子とはいつも、け、喧嘩ばかりしているので……あまり仲が良く、ないんです……冴花さん、男の子のこと嫌ってます、から……えっとその、そうなんです……」
 神治が尋ねると、摩箕子はギクシャクと答えた。
 どうやらかなり緊張しているらしい。
 冴花とは普通に会話しているところからして、初対面の人間が駄目なのか、男が駄目なのかのどちらかだろう。
 頬を赤らめ、恥ずかしそうに視線を逸らしているのが何とも可愛らしかった。
 思わず抱き締め、好き放題に愛撫したい衝動が湧き起こってくる。
「ちょっと、摩箕子に変な事したら駄目よっ?」
 その瞬間、冴花がまるでその想い見透かしたかのように言ってきたためギョッとなった。
 何ともこちらの反応に敏感なお嬢さんだ。
「分かってます。しませんから」
「本当かしら? それにしては摩箕子を見る目が怪しいけど」
 慌てて否定すると、さらにそんな事を言ってくるのに苦笑してしまう。
 確かにいやらしい目で見ていたからだ。
「そりゃ気のせいですよ。俺は綺麗な女性を見る時はこうなるだけです」
「それが怪しいっていうの。この子は私の大切な親友なんですからね。そこを分かっておいてよ?」
「分かってます」
「ったく、本当に分かってるのかしら……大体、ただでさえママと三角関係なのに、摩箕子まで加わったらシャレにならないわよ……」
 最後の方はブツブツとした小さな呟き声になっていたが、それが聞こえた神治は苦笑した。
 すでに何角だか分からないほどの相手がいるからだ。
 もしその事を冴花が知ったらどう思うだろう。
「それより男の友達が居ないって本当なんですか? 喧嘩って、殴り合いしたりとか?」
「するわけないでしょっ。そんなのは小学校で止めたわよっ」
 小学校まではしてたんだ、と思いつつ、確かにこの性格では、男の友達はなかなか作りにくいだろうと納得した。
 冴花にはどことなく男を嫌っている雰囲気があったため、それを乗り越えて友人になれる男はそう居ないだろう。
(それにしても、こうして見ると何とも凄いね……)
 冴花と摩箕子が並んで立っているのは、実に魅力的な光景だった。
 金髪で日本人離れした容姿を持つ活発な冴花と、黒髪で典型的な日本人容姿の大人しい摩箕子、というのは、何とも好対照で素敵だったのだ。
 しかも二人とも美少女ときているため、見ているだけで実に幸せな気分になれる状況だったのである。
 そのせいか周囲の視線もかなり集まっており、その事が少々気になった神治は、早く移動したくなった。
「それでこれからどうするんですか? 今日は隼瀬さんと三人でどこかへ行くとか?」
「今日は摩箕子と服を見るのよ。あんたはその付き添いアンド荷物持ち。これ決定だから宜しくね」
「まあ、それはいつもの事だから構いませんけど」
 付き添い自体は退屈だったが、色々な服を試着した冴花の姿は可愛かったので、神治は服の買い物は結構楽しかった。
 何しろ金髪美少女の冴花が可愛らしい服を身に付けると、たまらなく魅力的だったからだ。
 今回はそれに大和撫子然とした摩箕子が加わるとなれば、何とも楽しそうに思えたのである。
「当然摩箕子の分も持つんだからね?」
「分かってますって」
「あ、私は自分の分は自分で持つから……」
「いいのいいの。せっかく男手があるんだから、そういうのは任せなきゃ。男だって女の役に立っていると思うと嬉しいんだから。そうでしょ神治?」
「え? あ〜〜、まあ、そうですかね」
「ほ、本当に、い、いいんですか?」
「ええ、気にしないで下さい。冴花さんのは持つのに、隼瀬さんのは持たないってのも何だか嫌ですから」
 神治がそう応えても、摩箕子は申し訳なさそうにモジモジしており、その様子が実に可愛らしかった。
 思わずこのまま抱き締めて頬ずりしたくなる可愛さがあったのだ。
 どうにも摩箕子には、小動物を可愛がりたくなるのと同じような衝動を呼び起こす雰囲気があるのである。
「さ、そういう訳で買い物にゴーよゴー。今日は摩箕子が一緒だから色々買っちゃおうっと」
 そう言いながら歩き出した冴花に、神治と摩箕子も慌てて付いていく。
 その際に何とはなしに摩箕子と目が合い、摩箕子が慌てて視線を逸らしているのに可愛らしさを覚える。
 実に初々しいお嬢さんであり、その態度に神治はかなりやられていた。
 この清楚な大和撫子を自分の物にしたい。
 そうした想いが強まっていたのだ。
 何とか冴花に気づかれず、二人きりで会う方法はないだろうか。
 そんな事を考えながら神治は、楽しげに歩いている冴花の後を追っていくのだった。


 それから数日が経った。
 あの日、冴花と摩箕子の荷物持ちをし、簡易ファッションショーに付き合わされた神治は、何とも可愛い二人の姿に幸せで一杯になった。
 特に見慣れていない摩箕子に対してはそうした想いが強く、大和撫子然とした摩箕子が次々に可愛らしい服を身に付けていく様は、実に素晴らしかったのだ。
 こうした可愛い服を身に付けた状態で抱いたら最高だろうな、などと思い、密かに肉棒を硬くしたりもしていたのである。
 それゆえ、是非とも摩箕子と二人きりで会い、自分の物にしたいと思ったりもしたのだが、肝心の摩箕子との連絡手段が「自宅の電話」となっては、どうにもやる気が削がれてしまった。
 さすがに誰が出るのか分からない電話ではかけにくかったからだ。
 摩箕子は携帯電話を持っていないため、冴花にしてもいつも自宅へ電話をかけているらしい。
 冴花は摩箕子と幼い頃からの友人で、両親とも知り合いであるため、気軽にかけられるが、そうはいかない神治としては、摩箕子と密かに連絡を取る手段が無い状態だったのである。
 冴花は神治が摩箕子に手を出す事を警戒しているため、絶対に二人きりでは会わせてくれないだろう。
 これは冴花の神治に対する独占欲というより、男全般に対する警戒心がさせている事らしかった。
 冴花は男嫌いであり、特に性的な事に関して過敏に反応するのだ。
 男はすぐにいやらしい事をしてくる、という意識があり、親しくなったとはいえ、神治に対してもそうした部分では未だ警戒しているのである。
 無論、自分が神治に抱かれる事は喜んでいる訳だが、同じ事を親友である摩箕子にさせたいとは思っていないのだ。
 未だセックスが汚らわしいという想い自体は残っているがゆえに、そんな行為を清らかな摩箕子にはさせたくない、というのが、あの日最後に別れる際に冴花に言われた言葉だった。
 神治にしてもその気持ちは何となく分かった。
 摩箕子には、女性の持つ清らかさを強く感じさせられたため、それが汚されるのが嫌だというのは理解出来たからだ。
 だがそれは「他の男に」という意味であり、自分が汚すとなれば、ゾクゾクするような悦びを覚えたのである。
 あの清楚で奥ゆかしい摩箕子の体を、好き放題汚しまくったら、どれほど気持ちがいいだろう。
 まだ快楽を知らない、おそらく自慰すらもしたことがないであろう純粋な肉体を、快楽に染めていったらどれほど爽快だろうか。
 そう考えると肉棒がたぎってたまらなかった。
 男に対して免疫が少なく、喋るのですらギクシャクしている摩箕子が、自分の愛撫で可愛らしく喘ぐ。
 それは強烈に肉欲をそそる妄想だったのである。
(摩箕子さんって穏やかに喋るけど、喘ぎ声もあんな感じなのかなぁ……)
 自分と会話する時は落ち着いていなかったが、それでも口調自体はおっとりとした、育ちの良さを感じさせるものがあったため、そんな摩箕子が喘いだらどうなるのかと神治は興味を持った。
 やはり慎ましく、小さな声で吐息を漏らす感じなのだろうか。
 それは何とも摩箕子に似合っており、その想像をすると肉棒が激しく高ぶった。
 大人しい女性を喘がせるというのは、実にゾクゾクする悦びがあるのだ。
 これまで何人かそうした女性を抱いてきた神治は、そこにもう一人、摩箕子を加えたいと強く思っていたのである。
(でもなぁ……連絡取れないし、どうしたらいいかなぁ……)
 そんな事を考えつつ、目の前に並んでいる本の背表紙を眺めていく。
 ここは神治の住むマンションの近くにある公立図書館だった。
 本を読みたくなった神治は、何か面白そうな本は無いかと探しに来ていたのだ。
 家にも色々と本はあり、そのほとんどが静のものだったのだが、専門書かお笑い関係の本であったため、神治の興味を惹かなかった。
 神治としてはファンタジーやSFのようなライトノベルを読みたかったので、そうした系統の作品、特にシリーズ物を求めて図書館へやって来たのだが、目の前の棚に並んでいる作品は、どれも一巻が貸し出し中だった。
(あ、このシリーズ、新しく入ったんだ。前から読みたかったんだよね……って、やっぱり一巻が無いや……)
 以前から読みたかったシリーズを見つけたものの、一巻が無いのでは意味が無かった。
 他に色々見て回るものの、どうにも読みたくなるような本が見つからない。
 このまま何も借りずに帰るのも悔しいと思った神治は、違った傾向の本でも読もうかと、歴史小説の置いてある棚へと足を運んでみた。
 歴史小説はそれほど好きではないが、他のジャンルに比べればまだ好みであったので、たまに読んでいるのだ。
(え? 嘘だろ……?)
 通路に視線が入った瞬間、意外な人物が居たため驚く。
 そこには腰まである長い黒髪をした、大人しそうな気弱そうな顔をした、大和撫子然とした少女、摩箕子が立っていたのである。
 どうしてこんな所に居るのかと思いつつ、近所に住んでいれば居てもおかしくないと思って納得する。
 何より大人しい雰囲気の摩箕子が、本好きであっても不思議はなかった。
 それよりも、偶然にも二人きりで逢えた事に嬉しさが込み上げてきた。
 上手くすれば摩箕子を抱けるではないか。
(って、冴花さん居ないよね?)
 慌てて周囲に目を走らせるが、視線を遮る物が沢山ある図書館では、居るのか居ないのかハッキリしなかった。
 もし一人きりであればこの機会を逃す訳にはいかないだろう。
 それに冴花が居たとしても、冴花が来る前に後で二人きりで会うように約束してしまえばいいのだ。
 とにかく今は、冴花が現れる前に摩箕子と話すべきだった。
「あの、隼瀬さん……」
「!……」
 神治が声をかけると、摩箕子はビクッと体を震わせ、驚いたようにしてこちらを見た。
 そして神治の姿を確認すると、目を丸くしてジッと見つめてくる。
「偶然ですね。隼瀬さんもここ利用してたんですか?」
「あ、はい……ぐ、偶然ですね……ひ、緋道さんがいらっしゃるので、お、驚いてしまいました」
 ギクシャクと、しかしおっとりとした様子で摩箕子は告げてきた。
 少々緊張した顔に微笑みを浮かべているのが何とも可愛らしい。
「冴花さんは一緒じゃないんですか?」
「は、はい。私一人です……す、すみません……」
 その言葉に内心ほくそ笑む。
 これなら安心して摩箕子を口説けるからだ。
「別に謝る必要は無いですよ。確認しただけですから」
「そ、そうですか……私は緋道さんが冴花さんと、あ、逢えるので喜ばれたのかと、お、思ったもので……」
 視線を落ち着き無く動かしながら、体を硬直させて呟くのに苦笑してしまう。
 それほど緊張しなくても良いと思うのだ。
「どんな本を読まれてるんですか?」
「え?……あ、はい……歴史小説で何か読もうかと……」
「そうなんですか。俺はホントはライトノベルで読みたいのがあるんですけどね、みんな一巻が貸し出し中で……」
「そうなんですか。そ、それは残念ですね……」
「だから歴史小説でも読もうかと思ったんですけど、何か面白かったのってあります?」
「それならこれなんか……少し長いですけど面白いですよ。特に主人公の奥さんが面白い人で、夫婦の会話が魅力的で、私はあっという間に読んでしまいましたから」
 摩箕子は手近にあったシリーズ物の小説を示すと、嬉しそうに説明をしている。
 口調が今までと異なり、とぎれる事が無かったため意外に思う。
「あ、それともこちらがいいかも知れません。これは主人公の恋人になる女性が武芸も出来るんです。それで戦場で活躍するんですよ。少し異色な感じですけど、そこが上手く表現されていて面白いですから。歴史小説というよりライトノベルに近いので、緋道さんも入りやすいと思います」
 続けてスラスラと本の説明をしているのに呆気に取られる。
 どうやら好きな事になると、神治の存在が気にならず喋れるらしい。よほど本好きなのだろう。
 神治は可笑しくなって口元をほころばせた。
「それからこちらは……って、あ……えっとその……す、すみません……」
 神治の視線に気づいたのか、摩箕子はハッとしたように喋るのを止めた。
「別に謝らなくても……」
「いえ……わ、私その……つい夢中になって、しゃ、喋ってしまって……」
「凄く参考になりましたよ。それじゃ俺、これ読んでみる事にしますから……」
 神治はそう言って、武芸の出来る女性が出るという本を手に取った。
「そ、そうですか……それは良かったです……あ、でも……も、もしつまらなかったら、す、すみません……今のは私の勝手な感想なので……」
「気にしないで下さい。どうせ他のにしても、面白いかどうか分からないまま読むんですし。それを考えれば一応面白いと思った人が居るこの本の方が面白い可能性は高くなりますから」
「そ、それはそうかも知れないですね……ひ、緋道さんにとっても、お、面白いといいんですけど……」
 摩箕子は頬を赤くすると恥ずかしそうに俯いた。
「そうですね。これだけ長いと読み応えあるので、面白いと嬉しいですよ……ただ面白かったとしても、図書館だと誰かが借りたりしますからね。次来た時に続きが無い事があるのが困りものです」
 実際何度かそうした経験をしているため、溜息を付きながら呟く。
「こ、このシリーズなら、わ、私持っていますから……お、お貸ししましょうか?」
「え? そうなんですか? それは嬉しいですけど。いいんですか?」
「はい、構いません」
 頷く摩箕子に嬉しくなってくる。
 本を貸して貰える事もそうだが、これで冴花が関わらない繋がりを得る事が出来たからだ。
「それじゃ、これから本を借りに家まで行ってもいいですか?」
「は、はい、そうですね……それでは少しだけ、ま、待っていただけますか? わ、私が読む本を、か、借りてしまいますので……」
 摩箕子はそう言いながら、少し先の棚に置いてあった本を数冊手に取った。
 どうやら借りる本はすでに決まっていたらしい。
 そのまま貸し出しカウンターへ行く摩箕子に付いていきながら、神治は何とも上手い具合にいったものだと嬉しくなった。
 そしてこれから摩箕子をどうやって抱く状態にまでしようかと考えつつ、いやらしい笑みを浮かべるのだった。


 それから数日が経ち、神治はちょくちょく摩箕子の家へ本を借りに行くようになっていた。
 摩箕子はシリーズ全部を一度に貸すと言ってくれたのだが、摩箕子と会う機会を増やしたい神治はそれを断り、一冊ずつ借りる事にしたのだ。
 その言い訳として、「読み終わるごとに感想を話したい」という事にした。
 実際読み終わった後というのは、誰かに感想を話したいものだし、摩箕子も以前に読んだ作品とはいえ、感想を話す相手が欲しかったらしく、すぐに了解してくれた。
 そしてそうした決めごとをしてから数日、神治は一冊読み終わるごとに摩箕子の家を訪れ、感想を語り合うようになっており、今日もそうした理由で彼女の家を訪れていたのだった。
「いらっしゃい、緋道さん」
 呼び鈴を鳴らすと、門が開いて摩箕子が出迎えてくれた。
 摩箕子の家は、古くから続く由緒正しい家柄のようで、家の造りもまさに日本の屋敷といったたたずまいであり、最初に来た時は凄く驚いたものだった。
 これまでも金持ちの家というのはいくつか見たが、こうした日本風の屋敷は初めてだったからだ。
 門をくぐってそこから少し歩き、大きな池のある日本庭園を抜けると、本が貯蔵されている建物が見えてくる。
 この建物は摩箕子の祖父が建てたものだそうで、彼の集めた本が沢山収まっていた。
 摩箕子の祖父も本好きで、あまりに多くの本を収集してしまったために、屋敷の部屋では収まり切れず、こうして庭の隅に本専用の建物を建てたのだそうだ。
 そして祖父が死んだ際に、遺言状に「貯蔵してある書籍は全て摩箕子に譲る」と記されていたため、摩箕子が引き継ぐ事となったのである。
 最初親戚一同は、価値のある書物があるのではないかと思い、色めき立ったそうだが、調べてみれば中にあるのは大した価値の無いものばかりであったため、あっさりと摩箕子の物になったのだそうだ。
 摩箕子の祖父は本を読むのが好きなだけで、収集家では無かったのだろう。
 読む本を買っていくうちに、結果として数が増えてしまっただけに違いない。
 その血は摩箕子にも受け継がれているようで、この建物の本は、摩箕子が買ってくる本で日に日に増えているとの事だった。
 実際建物の中は本だらけで、本来十畳はあるであろうその部屋は、四畳半ほどの空間しか空いていなかった。
 何度訪れても驚いてしまう凄い量の本に圧倒されながら、用意されていた座布団の上へ神治が座ると、摩箕子も正面に腰を下ろした。
 扉を閉めて密閉空間になったせいか、本の存在感が増して、何とも言えない圧迫感を覚える。
 だが摩箕子ほどではないにせよ、本好きである神治には辛いという感覚はなく、充満している何とも言えない本の匂いにホッと息を付く。
「はい、借りてた五巻です。今回は凄く面白かったですよ。まさかあそこであんな展開になるとは……」
 神治は本を手渡しながら、今回借りていた五巻の感想を述べた。
「私も最初に読んだ時は驚きました。あれは予想外でしたから……」
 摩箕子は嬉しそうに微笑むと、本を撫でるようにしながら呟いている。
 ここ数日こうして会い、語り合っている内に、摩箕子の口調は普通のものになっていた。
 神治に対する緊張が無くなったのだろう。
 そしてそれこそが神治の狙いでもあった。
 摩箕子と図書館で再会したあの日、神治はこの部屋へ案内された時点で抱いてしまおうかと思った。
 何しろこの部屋は、独立した建物であるため周囲に人はあまり来ず、さらに本が多く置かれているせいか、防音性も高くて、何をしても摩箕子の家族に気づかれる心配が無かったからだ。
 そこにさらに「気」による結界を張ってしまえば、誰にもバレる事なく摩箕子を抱けたのである。
 しかし神治は躊躇した。
 何故なら摩箕子の様子があまりに辛そうだったからだ。
 考えてみれば、摩箕子は普通に話していても緊張しているというのに、このような密室で二人きりとなれば、その緊張度はかなりのものになっているだろうに、その様な状態で性的な行為に及んでは、さすがに可哀想だと思ったのである。
 ゆえにこうして自分に対して打ち解け、ある程度好意を持ってもらってから抱こうと思ったのだった。
「六巻以降はさらに凄い事になりますから、期待して下さい。面白いですから」
 摩箕子はニコニコと微笑みながら、嬉しそうに語っている。
 こうして同じ趣味を持つ相手と話せるのが楽しくて仕方が無いのだろう。
 冴花はあまり本を読まないため、これまで摩箕子は本について話す相手が居なかったらしい。
 そういう意味で、摩箕子にとって神治は友人として大きな存在になっていると言え、そうした想いがある事で、抱かれる事への忌避感が弱まっているに違いなかった。
 つまり現状であれば、かなり自然な形で摩箕子を抱く事が出来るはずだった。
 おそらく今の摩箕子であれば、迫っても強く抵抗する事はないだろう。
 さらに「気」で欲情させてしまえば、流されて受け入れてしまうのは容易に想像出来た。
 特に摩箕子は意志が強い訳ではないため、神治の行為に戸惑いはしても、嫌悪する事はないと思えたのだ。
 やり方としては少々強引だと思いはするものの、神治はどうしても摩箕子を抱きたかった。
 最初は肉欲からそう思った訳だが、今や友人として親しくなっていたため、より親しくなるための行為としての意識もあったのである。
 これまで多くの女性を抱き、その事で親しくなっていった経験があるため、神治にとってセックスとはまさに愛情表現であり、好意を抱いた女性と親密になり、互いにさらに好意を抱き合うための儀式だった。
 抱けば抱くほど好意は強まり、互いに強く惹かれ合うようになるのだ。
 ゆえに摩箕子とももっと親しく、仲良くなりたいがため、セックスをしたかったのである。
「……だから冴花さんがしたのは凄いことなんですよ。私はそれが嬉しくて……」
 話題はいつの間にか本の事から冴花の事へと変わっていた。
 摩箕子と話す際のネタは本か冴花の事であったため、これはいつもの事なのだが、神治はここから上手く抱く流れに持っていくつもりだった。
「そう言えば、隼瀬さんには話してましたっけ? 俺と冴花さんのこと」
「え? 何のことですか?」
「どうして俺が、冴花さんと仲良くなれたのかって事です」
「それは……知らないです。実はずっと不思議でした。冴花さん、男の人が嫌いなのに、どうして緋道さんだけは平気なのか……」
 摩箕子は視線を下に向け、不思議そうに小首をかしげている。
 サラサラの髪が顔にかかり、それを指でかきあげるのが何とも可愛らしい。
「ある事をしたからなんです」
「ある事?」
「ええ、それはお互いをよく知るのに効果があって、それをしたから冴花さんは俺に好意を持つようになってくれたんですよ」
「そうなんですか……」
 摩箕子は驚いた表情を浮かべてこちらをジッと見つめている。
 何とも美しい、大人しめの顔立ちにゾクリとした欲情を覚える。
 この大和撫子然とした摩箕子を、いやらしく喘がせたらどれほど気持ちがいいだろう。
 そして自分に対して今以上に強い好意を抱いてくれるようになったら……。
 そんな事を思い浮かべると、神治は摩箕子を自分の物にしたくてたまらなくなった。
「実は俺、隼瀬さんともそれがしたいんです」
「え? 私とですか?」
「ええ……隼瀬さんとももっと仲良くなりたいですから……だから、してもいいですか?」
「……はい。良く分かりませんけど、緋道さんがしたいのでしたら、どうぞ……」
 内容を確認せずに了解してくれた事に嬉しくなる。
 摩箕子の自分に対する信頼が、かなり強い事が分かったからだ。
 これからその信頼をもっと高め、友人としてさらに親しくなりたい。
 そう思った神治は、ゆっくりと体を移動させると、摩箕子の隣に座った。
「あ……」
 そしてそのまま体を密着させるようにすると、摩箕子が微かな声を漏らした。
 体が硬直し、少し震えているのが分かる。
 まさに初心な少女の反応といった感じで、何とも可愛らしい。
「ほら、こうして体をくっつけると、何だか幸せな気分になりませんか?」
「え?……あの……その……」
 摩箕子はどうしたらいいのか分からない様子で、オロオロと視線を彷徨わせている。
 それは実に摩箕子らしい反応であったため、神治はその事に嬉しさと興奮を覚えた。
「こうやって存在を感じ合って、こうして顔を向け合うと……お互いが凄く身近に感じられませんか……?」
 小さな顎に指をかけ、顔をこちらに向かせると、摩箕子は一瞬視線を合わせたが、すぐに慌てて目をそらしている。
「こっちを見て下さい隼瀬さん……俺の顔を見て……」
「だ、駄目です……その……は、恥ずかしくて……」
「ここには俺しか居ませんよ? 恥ずかしがる必要なんて無いです……だから俺のことを見て下さい……」
 続けてそう告げると、摩箕子は少し逡巡した後に、ゆっくりとこちらに視線を向けてきた。
「あ……」
 目が合った瞬間、すかさず淫の「気」を送り込むと、摩箕子は体をビクっと震わせ、硬直した後にゆっくり力を抜いていった。
 頬が上気し、瞳が潤んで唇が半開きになっているのが色っぽい。
 眼力の作用で、一瞬にして欲情したのだ。
 淫の「気」を送る方法は色々あったが、やはりこうして目から送るのが一番効果的だった。
「目は口ほどに物を言う」と言われるほど、目には想いを伝える強い力が備わっているのだろう。
 何よりこうして見つめ合う事によって欲情させる事は、精神的にも相手を魅了する効果があった。
 欲情した瞬間に見つめている事が、「相手への好意の結果」と思い込ませる作用があるらしいのだ。
 生殖本能の反応が精神へ働きかけ、擬似的な恋愛感情を呼び覚ますのかも知れない。
 いわば吊り橋効果に似た作用が働いているといったところだろうか。
「あ……あの……」
 実際摩箕子は顔を真っ赤にし、それまで無かったモジモジとした反応を示すようになった。
 それは単純に欲情しているから、というより、神治を男として意識し始めているためだろう。
 こちらをチラチラと見つめ、嬉しそうにはにかんでいるのが何とも可愛らしい。
「摩箕子さん……」
「!……」
 とどめとばかりに名前で呼び、肩を抱き寄せると、摩箕子はこちらをハッと見つめて目を合わせた後、慌てて視線をそらした。
「どうですか? 幸せな気分になりませんか?」
「……あ……え……その……ドキドキしてしまって……よ、よく分かりません……」
 動揺している摩箕子を可愛く感じつつ、そのまま体の位置をズラして正面向きで抱き締める。
「……」
 摩箕子は一瞬体をピクッとさせたものの、特に抵抗する事なくされるがままになっており、その事が自分に対する信頼の強さを感じさせて神治は嬉しくなった。
 至近距離にある摩箕子の顔は実に可愛らしく、オドオドした雰囲気が嗜虐心をそそって、無茶苦茶にしたくなる衝動が湧き起こってくる。
 神治はその衝動を抑えつつ、摩箕子を怖がらせないよう、ゆっくりと背中を撫でるようにしてみた。
「……」
 すると摩箕子の唇から小さな吐息が漏れ、困ったような表情を浮かべるのにゾクゾクする興奮が湧き起こった。
 大人しい性格ゆえか、その慎ましい反応が強烈な刺激として感じられるのだ。
「……わ、わたし……その……」
 うっとりとした瞳をこちらに向け、すがるようにして見つめてくるのに心臓がバクバクと鼓動する。
 長い黒髪が顔にかかっているのが何とも言えない色気を感じさせ、肉棒が硬く勃起した。
 何とたまらないお嬢さんなのだろう。
 以前からその大和撫子然とした、無茶苦茶にしたくなる雰囲気に興奮を覚えていたが、こうして少し欲情させてみると、それが何倍にも膨れあがり、抑えられないほどになっているのだ。
 このまま一気に押し倒し、体中を舐め回し、吸い付き、肉棒を押し込んで好き放題したくてたまらない凄まじい衝動が湧き起こっているのである。
 肉棒も痛いほど勃起しており、呼吸もかなり荒くなっていた。
 元々好みの容姿と性格のせいか、早く抱きたくて、早く自分の物にしたくて、抑えられない状態になっているのだ。
「それじゃ、摩箕子さんが幸せな気分になれるよう、もう少し色々しますね……いいですか?」
 神治の言葉に、摩箕子は一瞬逡巡していたが、すぐにコクリと小さく頷いた。
 その様子を可愛らしく感じつつ、神治は摩箕子をさらに引き寄せると、完全に体を密着させて顔を近づけていった。
 体の前面に、温かで柔らかな女肉の感触が溢れ、肉棒がそれまで以上に勃起していく。
「摩箕子さん……」
「……」
 顔が触れんばかりに近づくと、摩箕子の口から震えた吐息が漏れ、その初々しい反応に興奮を覚えつつ唇を重ねていく。
 唇が触れた瞬間、摩箕子の体が硬直し、微かに震えが走った。
 伝わってくる震えに可愛らしさを感じながら、少ししてから唇を放すと、摩箕子は力を抜き、肩を小刻みに揺らして荒い呼吸をしている。
 初めてのキスにボーッとしている様子は何とも可愛らしくもいやらしく、そうした姿をもっと見たくなった神治は、再び唇を押しつけていった。
「ん……んんっ……」
 今度は唇を重ねるだけでなく、舌を口内に押し込んで舐め回していくと、摩箕子は驚いたように体を震わせ、くぐもった声を漏らした。
 舌を絡みつかせ、強く吸い、口内を優しく愛撫しながらサラサラの髪をくしけずりつつ、その柔らかな肉体をもっと感じようと強く抱き締めると、摩箕子の体がピクっ、ピクっ、と震えるのを可愛らしく思う。
「んぅ……んんっ……んぁ、んふ……んんっ……あぁ……はぁ……あ……」
 ねちっこいキスを繰り返した後、しばらくして唇を放すと、摩箕子はボンヤリとした顔で甘い吐息を漏らした。
 体はすっかり脱力し、全てを委ねている状態になっている。
 トロンっとした瞳は何も見ていないようでいて、こちらの顔をジッと見つめており、体全体から、もっとして欲しいという意志が伝わってきていた。
 心も体も神治に抱かれる事を望んでいる状態になっているのだ。
「摩箕子さん……」
「……」
 神治が呼びかけると、摩箕子は少しだけ視線を動かした。
「俺と、これから一つになりましょう……気持ち良くなって、幸せになるんです……」
 その言葉に摩箕子は微かな笑みを浮かべ、こちらに体を預けてきた。
 それを了承のサインと受け取った神治は、そのまま後ろへ摩箕子を押し倒すと、強い興奮を覚えながらのし掛かっていった。
「あ……」
 服の上から慎ましい脹らみに手を這わせると、摩箕子が体をピクッと震わせ、驚いたような吐息を漏らした。
 そのままゆっくり優しく揉みしだくようにすると、呼吸を少し乱しつつ、こちらをジッと見つめてくる。
 切なげな表情がたまらず、再び唇を重ねながら胸を揉んでいくと、摩箕子は体を震わせながら背中に手を回してきた。
 その事で完全に受け入れてもらえたのだと思った神治は、服の下に手を入れ、直接乳房に触れていった。
「……」
 その瞬間、摩箕子はハッとしたように体を硬直させたものの、すぐに力を抜き、神治にされるがままになっている。
 初めてされる事に動揺はしても、神治のする事ならばと受け入れてくれている事を思わせるその反応は、実に嬉しい事だった。
 そのまま服を捲り上げ、ブラジャーを押し上げると、慎ましい脹らみが現れた。
 真っ白な肌に覆われたその小さな脹らみは、摩箕子の性格を表しているかのように美しい曲線を描いており、何とも魅惑的だった。
 頂点にある突起も薄桜色をしており、その形状は美しくありつつも、男を誘う魅力にも溢れていて、何ともたまらなくなった神治は唇を寄せていった。
「あ……」
 チュッと吸い付き、強く吸い上げると、摩箕子が体をビクッと震わせ、甘い吐息を漏らした。
 続けて慎ましい脹らみを両手でヤワヤワと揉みながら、乳首を吸い、舌で回すようにして舐め上げていく。
「あ……や……」
 そのたびに摩箕子は小さな甘い吐息を漏らし、体をクネクネと動かしたため、その事に神治は激しい興奮を覚えた。
 何と可愛らしい反応なのだろう。
 実に摩箕子に似合った、慎ましい、大人しい反応だった。
 強い刺激を受けているはずなのに、体はさほど大きく動かず、声も微かに聞こえるほどなのだ。
 嗜虐心を擽るその反応は、神治の中の獣欲を激しく刺激し、摩箕子を蹂躙したくなる気持ちを高めさせた。
「あ、あ……やぁっ……」
 スカートの中に手を入れ、パンティの上から秘所をなぞると、摩箕子がビクビクビクっと体を震わせた。
 そこまでされるとは思っていなかったのか、こちらを困ったように見上げてくるのが可愛らしい。
 しかし全く抵抗を示さないところから、許してくれているのだと思った神治は、そのままパンティの中に指を入れると、秘所を直接刺激していった。
「あんっ……あぅっ……あっ、あぁっ……」
 クリトリスを刺激すると、それまでより大きな声が漏れたのにゾクゾクする悦びを覚える。
 自分の刺激によって、慎ましい摩箕子が快感に強く反応したという事が嬉しかったのだ。
 このまま快楽を与え、女として開発していきたい。
 自分色に染め、己に従う女として育てていくのだ。
 それは何ともたまらない、男として強烈な悦びを感じさせる事だった。
「摩箕子さん……入れますよ……一つになりましょう……」
 しばらく愛撫を続けた後、そろそろいいだろうと判断した神治はそう呼びかけた。
 すでに快楽で意識が朦朧としているらしい摩箕子は、何も応えなかったが、求めるようにして見つめてくる熱い視線には、それを断る雰囲気は無かった。
 そもそも嫌ならば、とっくにそうした意思表示をしているだろう。
 摩箕子は表面上すら全く抵抗を示さなかったのだ。
 恥ずかしがっている様子はあったものの、神治のする事を受け入れ、神治のしたいようにさせてくれたのである。
 ならばこのまま肉棒を押し込んでも、嫌がる事はないだろう。
 そう判断した神治は、パンティを脱がし、細い脚を左右に広げると、間に腰を入れていった。
「摩箕子さん……」
 顔を近づけ、囁くように呼びかけると、摩箕子はこちらを見上げ、うっとりとした表情でコクリと頷いた。
 夢うつつながらも、神治の望みを受け入れる意志を示してくれたのだ。
 それは何とも嬉しい事であり、摩箕子という存在が自分を受け入れてくれた事を感じさせるものだった。
 この女は俺のものだ……。
 そうした強い想いが湧き起こると共に、肉棒がそれまで以上に勃起し、体の奥底から恐ろしいまでの肉欲が押し寄せてくる。
「あ……」
「く……」
 肉棒を膣穴にハメると、気持ちのいい感触が亀頭を覆い、そのたまらない刺激に腰が勝手に動いて肉棒を奥へと押し込んでいく。
 処女らしい強烈な締め付けと共に、膣襞が絡みついてくるのがたまらず、頭を仰け反らせつつ、さらに肉棒を押し込む。
「あっ……あっ……」
 摩箕子は異物が胎内に入り込んでいる事に恐怖を覚えているのか、少し強張った表情を浮かべ、すがるようにしてこちらを見つめてきた。
「気」の作用によって破瓜による痛みは感じていないはずだったが、その切羽詰まった表情は、神治の中に女を蹂躙している感覚を呼び起こし、摩箕子を自分の物にしている実感を感じさせた。
 肉棒を全て収めると、一旦動きを止めて眼下の美しい少女を見つめる。
「……」
 摩箕子は少し不安げな表情を浮かべながらも、何も言わずにジッとこちらを見上げていた。
 畳の上に広がる長い黒髪と、乱れた服がゾクリとした色気を感じさせ、潤んだ瞳から弱々しい視線を向けられている事にドクンっと心臓が跳ねる。
 このか弱い存在をもっと蹂躙したい。
 もっと無茶苦茶にし、己の物にしたい。
 そうした衝動が湧き起こると共に、腰が動いて肉棒を出し入れし始めた。
「あっ……あっ……あぁっ……」
 摩箕子の細い体が前後に揺れ、微かな甘い吐息が聞こえてくるのに強烈な悦びを覚える。
 慎ましい摩箕子が、腰の一突き一突きに反応し、いやらしい声を漏らすのだ。
 それは何ともたまらない状況だった。
「あんっ……あっ……やっ……」
 少し強めに突き込むと、声が大きくなったため、その事に興奮が高まっていく。
 大和撫子然とした、大人しく可憐な少女である摩箕子は、今自分の肉棒に擦られ、いやらしく悶えているのだ。
 汚れを感じさせない、清らかな摩箕子の体は、今自分の醜い肉棒によって蹂躙されているのである。
 そこには美しい雪原を踏み荒らすような、どこか罪悪感を感じさせる悦びがあった。
 綺麗なままにしておきたかったのに、それを自分は汚してしまったのだ。
 だが汚さずには居られない魅力が摩箕子にはあり、それを抑えるなど不可能だった。
 実際こうして可愛らしく喘いでいる様を見ていると、それだけで恐ろしいまでの興奮が発生し、男としての強い誇らしさが湧き起こってくるのである。
「あっ、はっ……やぁっ……あっ、あっ、ああっ……」
 快感が強まってきたのか、摩箕子の声は小さいながらもいやらしさを増す感じになっていた。
 またそれが実にそそられるため、神治の腰の動きがさらに強まっていった。
「やぅっ……やっ、やぁっ……あんっ、あっ……あっ……」
 眉根を寄せ、可愛らしい顔を快楽に歪めながら、摩箕子は頭を左右に激しく振った。
 耐え難い快感をどう処理して良いのか分からないのか、体全体を震わせ、悶えまくっている。
 長い黒髪が顔にかかっているのが色っぽく、あの大人しい摩箕子がここまで乱れるのは何とも言えない興奮だった。
「あっ、あっ、ああっ……いや、やぁっ……あっ、あぁっ……」
 だんだんと快感が高まっているのか、摩箕子は切羽詰まった表情を浮かべ、床に爪を立てている。
 その様子に興奮を高めながら腰をズンズンっと突き込むと、形のいい顎を仰け反らせ、甘く喘ぐ姿に嗜虐心がそそられる。
 まさに今の摩箕子は神治の物だった。
 神治が腰を動かし、その強さを変えるだけで、喘ぎ悶える姿が変化するのだ。
 眼下では小さな乳房が揺れ動いており、それを掴んで優しく揉みしだくと、さらに「あっ、やぁっ……」と可愛らしい声を発したのに肉棒がビクンっと反応を示した。
 大人しい顔が快楽に染まり、それでいて清楚な雰囲気を保ちつつ、そうであるがゆえにいやらしさを感じさせる摩箕子の様子は、まさに男の支配欲を刺激する女の姿と言えた。
 肉棒で陵辱し、侵略し、征服していく事に快感を呼び起こす女だったのである。
 このまま一気に精を放ち、己の物たる証を注ぎ込みたい。
 精神的な欲望が強まり、急速に射精感を高めていく。
「あんっ、あっ……やっ、やぁっ……駄目、あっ……駄目です、ああっ……わたし、わたしぃっ……」
 今まで以上に摩箕子が切羽詰まった表情を浮かべ、耐え難いように喘ぐ姿に、限界が近いのを悟る。
 膣内もぐにゅぐにゅと蠢き、肉棒から精を引き出そうとしていたため、神治はこのまま一気に昇天させてやろうと思った。
「あっ、ああっ……おかしく、あっ……おかしくなって、あっ、ああっ……わたしもう、あっ……わたしもぉ、あんっ……わたしぃっ……やっ、やっ、やぁあああああああああっ!」
「くっ!」
 普通の女性に比べれば小さな声であったが、それでも強烈な快感を思わせる摩箕子の叫びに合わせ、神治は精を放った。
 ドクドクドクと迸る精液を感じながら、それが清楚で可憐な摩箕子の胎内に注がれているのだと思うと、たまらない悦びと満足感を覚える。
 眼下では、摩箕子が体をヒクヒクとさせながら、少し強張った表情で神治の精液を受け止めている。
 ついに自分の物にした。
 あの大人しいお嬢様な摩箕子を己の物としたのだ。
 清らかな肉体を精液で汚し、少女だった摩箕子を女にしたのだという想いは、ゾクゾクする背徳的な悦びをもたらし、神治は何度も射精を繰り返していった。
 少しして最後の精を放ち終えると、ゆっくり肉棒を引き抜き、摩箕子の隣に横たわる。
 周囲には多くの本が置かれており、そんな中でセックスをしたのだと思うと奇妙な面白さを覚えた。
 本独特の匂いに混じって精液の匂いが感じられると、摩箕子を抱いたのだという実感を覚えて嬉しくなってくる。
 隣に視線を向ければ、まだ意識が朦朧としているのか、摩箕子はボンヤリとした様子で宙を見つめていた。
 そんな姿も美しく、いやらしさを感じさせたため、神治は再び摩箕子を抱きたくなった。
 起き上がって顔を近づけると、摩箕子はこちらを見つめ、困ったような表情を浮かべると、小さく微笑んだ。
 その様子から、今した事を嫌がっていないと判断した神治は、微笑み返すと、唇を重ねていった。
 二、三度軽く口付けた後、舌を押し込んでねちっこいキスを繰り返す。
 すると摩箕子の鼻から棒のような息が漏れ、背中に手が回って抱き締めてきた事に嬉しさを覚えた。
 完全に摩箕子は受け入れてくれているのだ。
 セックスされた事に嫌悪感を抱いていないのである。
 それは何とも嬉しい事だった。
 そして喜びが強まった事で肉欲も高まったため、神治は摩箕子の体にのし掛かると、すでに再び硬く大きくなっている肉棒を押し込んでいくのだった。


「あっ、あっ、ああっ……」
 摩箕子の慎ましい甘い吐息が部屋に響いている。
 お互い裸になって体を擦り合わせていると、蕩けるような快感があって気持ち良かった。
 摩箕子の肌は真っ白で、滑らかな感触が実に素晴らしく、こうして抱き締めていると最高の気分になった。
 細身の体にほんのりと付いた肉が、こちらの体を受け止め、白い肌に美しい黒髪が絡みついている様は、肉棒の猛りを激しくした。
 慎ましい胸の膨らみを掴み、ピンク色の乳首に吸い付くと、摩箕子が「あっ、ああっ……」と小さく強く喘ぐのに興奮が高まっていく。
 この素晴らしい体を貪っていると、強い悦びが起き、何度でも抱きたくてたまらなくなってくる。
 特に摩箕子の慎ましい喘ぎや、大人しい体の反応などは実に魅力的で、見ているだけで肉棒が勃起して仕方がなかった。
 いつまでも抱いていたいほどなのだ。
 しかし外は夕闇に染まりつつあったため、そろそろ止めないとマズいだろう。
 本来今日は一度抱くだけにし、後は別の機会にするつもりだったのだが、あまりにも摩箕子が魅力的であったため、止める事が出来ずに抱いてしまっていたのである。
 思っていた以上に自分は、摩箕子のように慎ましく、大人しい反応を示す女性に弱かったらしい。
「あっ、あぁっ……やぁっ……あっ……」
 こうした摩箕子の弱々しい、小さな喘ぎ声を聞いていると、それだけで肉棒がたぎってしまい、止められなくなってしまうのだ。
 特にそれが自分の腰の動きによってもたらされているのだと思うと、摩箕子を支配している想いが強まり、それをもっと味わいたくなってしまうのである。
「あんっ、あっ……やっ、やぁっ……駄目、あっ……そこ駄目ですぅっ……やっ、はぁんっ……」
 摩箕子の弱い部分を少し強めに刺激すると、可愛らしく逃げるように悶えるのがたまらない。
 その反応は嗜虐心を強く刺激し、もっともっと責め立てたくなる衝動を呼び起こした。
「やっ、はぅっ……駄目です、あっ……駄目ですよぉ、ああっ……そこは駄目、あんっ……駄目なんですぅ、やぁんっ……」
 頭を左右に振り、困ったように可愛らしく喘ぐ摩箕子の姿は、それだけでおかしくなりそうな悦びがあった。
 肉棒を激しく突き込むと、それに合わせて泣きそうになりながら喘ぐのがたまらない。
 まさに摩箕子とのセックスは、神治にとって優れたオモチャで遊ぶような魅惑的な行為だった。
 もっとこのオモチャを弄び、探求したい。
 そうした想いが刺激され、摩箕子のあらゆる箇所を刺激し、愛撫し、舐め回して吸い付きたい想いで一杯になっていたのである。
「はぅっ、はぁっ……そこ駄目です、あっ……そこはぁっ……やっ、あぅっ……わたし、あっ……わたしぃっ……」
 ビクッ、ビクッ、と体を震わせ、畳に爪を立てて顎を仰け反らせる姿に、強烈な嗜虐心が湧き起こる。
 もっともっと摩箕子を味わいたかった。
 もっともっと摩箕子を知りたかった。
 この素晴らしい体を、隼瀬摩箕子という女を調べ付くし、自分の物にしたかった。
 神治はそんな想いに包まれながら摩箕子の体をひっくり返すと、四つんばいにさせた。
「あっ、やっ……こんな格好……駄目ですよぉ……恥ずかしいですぅ……」
 今まで従順だった摩箕子は、不意に逃げるように体を動かした。
 さすがにこうした体勢は嫌だったらしい。
「でも気持ちいいんですよ。今までと違った感覚で出来ますし」
 そう告げると、摩箕子は少し逡巡した後、こちらをジッと見つめてきた。
「……緋道さん、したいのですか?」
「え?」
「この姿勢でしたいのですか?」
「あ、はい。したいです」
「……それなら、して、いいです。緋道さんがしたいのでしたら……」
 摩箕子は恥ずかしげにそう呟くと、体を寄せてきた。
 自分のために受け入れてくれた事を匂わすその言葉に、神治はたまらなく嬉しくなった。
 本当は恥ずかしいのに、神治のためならばと了承してくれたのだ。
 それは実に嬉しい事だった。
「摩箕子さんっ……」
 神治は形のいい尻を掴むと、勢い良く肉棒を押し込んでいった。
「あっ……んっ……」
 ズブリと入り込んだ感触と共に、小さな喘ぎが聞こえてくる。
 そのまま腰を動かし出すと、それに合わせて摩箕子の頭が上がり、甘ったるい「あっ、あっ……」という声が耳に響いた。
 真っ白な背中に長い黒髪がかかっているのが何とも色っぽく、清楚な摩箕子にこうした体勢を取らせているのだと思うとゾクリとした悦びが湧いた。
「あんっ、あんっ、ああんっ……やっ、やっ、やぁっ……」
 小さな声ではあるが、確実に快感に染まっている事を感じさせる甘い喘ぎを聞いていると、肉棒がたぎって仕方がなかった。
 どうにも摩箕子の声には、聞いているだけで肉欲を高めさせられる部分があったのだ。
 鼓膜に快感神経があるのではないかと思えるほど、聞いているだけで肉棒が猛ってしまうのである。
 それが肉体の快感を伴って押し寄せてくるのだから、神治としては何ともたまらない状態になっていたのだった。
「はぅっ、はっ、はぁんっ……あっ、あっ、やぁっ……そんな凄い、あぁっ……凄いですぅっ……」
 摩箕子が振り返り、泣きそうな顔で言ってくるのに蕩けるような快感を覚える。
 こうした表情をさせると、摩箕子は強烈な嗜虐心をそそり、もっともっとそうした表情をさせたくなるのだ。
 自然と腰の動きが激しくなり、摩箕子の中を激しく擦りあげていく。
「やっ、やぁっ……さっきより凄く、ああっ……さっきより凄いですぅっ……あっ、ああっ……」
 摩箕子は腕を崩すと、上半身を床に付け、尻だけを掲げる姿勢になった。
 そのいやらしい状態に興奮を高めつつ、さらに激しく肉棒を出し入れしていく。
「あっ、ああっ……そんな駄目、あっ……駄目ですぅっ……そんな風にされたらわたし、ああっ……わたしぃっ……」
 耐え難いように頭を振り、長い黒髪を乱しながら摩箕子は激しく喘いだ。
 今までにない声の大きさからして、かなり強烈な刺激となったらしい。
 その事で神治の興奮も強まり、このまま一気に絶頂へ導き、射精しようとさらに激しく腰を振っていく。
「やっ、やっ、やぁっ……そんな、あっ……駄目、あっ……やっ……わたし、あぅっ……わたしもぉ、ああっ……やっ、やっ、やぁあああああああああっ!」
「ぐっ!」
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドク……。
 小さな尻をギュッと掴み、思い切り精を放つ。
 勢い良く迸っていく精液を感じながら、押し寄せてくる快感にうっとりとなる。
 何度経験してもこの瞬間の気持ちの良さはたまらず、意識が朦朧とするほどだ。
 特に摩箕子のような可愛らしくて大人しい少女を自由に貪った結果としての射精となると、支配欲が強烈な満足感を覚え、蕩けるような悦びとなるのである。
 摩箕子は「あ……あ……」と甘い吐息を漏らしつつ、射精が行われるたびに体を震わせ、頭をピクッ、ピクッ、と揺らしている。
 その様子に満足な想いを抱きながら射精を終えた神治は、肉棒を引き抜くと、ゆっくりその場に横たわった。
 摩箕子の魅力に流され、予定よりも多く抱いてしまった事に自分の未熟さを感じつつも、取り合えず抱けた事に喜びを覚える。
 今後も摩箕子とはこうした関係を続けたかった。
 抱き合い、愛し合い、お互いの想いを高め合うのだ。
 そう思いながら横にある顔に視線を向けると、摩箕子がこちらを見つめており、目が合った事に苦笑してしまう。
「あの……俺、そろそろ帰ります……」
 何を言おうか迷ったが、そんな普通の言葉が口から零れた。
「分かりました……あ、じゃあ六巻を……はい、どうぞ」
「え?……あ、ありがとうございます……」
 すっかり忘れていた借りる本を差し出され、神治は驚きながら受け取った。
 摩箕子を抱く事に夢中になるあまり、当初の目的を忘れてしまっていたからだ。
 実際この小説を読むことも楽しみなので、もし六巻を忘れて帰ったら悲しかっただろう。
 それにしてもいきなりセックスを、しかも何回もしたというのに、摩箕子は本の事を忘れていなかったらしい。
 さすが本好きと言うべきだろうか。
 いや、それよりも、ここまで普通に対応されるというのは予想外だった。
 抱かれた事に関して何か反応があると思っていたからだ。
 何しろ摩箕子にしてみれば処女の喪失である。
 女性にとっては大きな出来事だろう。
 なのに何故その事について言わないのだろうか。
「摩箕子さん……今した事、どう思います?」
「え……?」
「俺とこういう事をしたのをどう思うかなって……嫌じゃありませんでした?」
「はい、嫌じゃありませんでした」
 何の動揺もなく、きっぱりとそう言い切られた事に驚く。
「でも俺、ちょっと強引だったから……辛かったんじゃないかって……」
「緋道さんのされる事ですから、私は信頼してます。辛くありませんでしたよ」
 微笑みながらそう言われると、少々良心が痛んだ。
 摩箕子は思っていた以上に自分の事を信頼してくれており、そんな相手を半ば無理矢理抱いてしまった事が気になったからである。
 強姦的なことすらも信頼で安心して受け入れてくれる。
 それは嬉しい反面、少々怖さを感じさせる部分でもあった。
 あまりに強い信頼は、自分という人間がそこまでされるのに値するのかという不安を覚えさせるからだ。
 実際何故ここまで摩箕子が信頼してくれているのか分からなかった。
 摩箕子にとっての神治は、冴花と共通の友人で、本好き仲間というくらいのものだろう。
 摩箕子の態度が、あからさまに恋愛感情を匂わせるものであれば納得なのだが、そうした雰囲気は無かった。
 恋愛感情を抱いた女性特有の熱い想いは感じず、これまで通りの友人としての意識しか感じられなかったのだ。
 そう、まさに友人として、面白い遊びを一緒にしたかのような雰囲気が感じられたのである。
 それはまるで、緋道村で友人達とセックスをした後のような感覚だった。
「きっと六巻はすぐに読み終わると思いますよ。凄く面白くて止まらなくなりますから」
 不意に摩箕子がそんな事を言ってきたため意識を戻す。
 普通ならセックスについてもう少し話をすると思うのだが、摩箕子の興味は貸す本の方へ向いているらしかった。
 初体験よりも本の面白さの方が大事という事だろうか。
 やはり恐るべき本好きなのかも知れない。
「じゃあ、七巻もすぐに借りに来ますね。いいですか?」
「ええ。どうぞいらっしゃって下さい。お待ちしてます」
 あれだけの事をしても、また神治が来る事を受け入れる。
 やはりセックスに関しては拘りが無いらしい。
 何故そこまで関心を持たずに居られるのか。
 神治はその事を不思議に感じながらも、取り合えず摩箕子は抱けた訳だし、さらに今後も抱けるのだろうから、喜んで置くべきなのだろうと思いつつ、部屋を出ていくのだった。


「あっ、あっ、ああっ……」
 目の前では、本棚に手を付いた制服姿の摩箕子が、背後から神治に貫かれ、激しく喘いでいた。
 以前冴花が着てくれたのと同じ、有名お嬢様校の制服は、奥ゆかしさと可愛らしさを感じさせ、摩箕子によく似合っていた。
 摩箕子の持つ、清楚で可憐な印象を強めて最高だったのだ。
 そしてそんな相手を犯しているのだと思うと、たまらない悦びが湧き起こった。
 腰を動かすたびに腰まである長く美しい黒髪が乱れ、制服に絡んで揺れるのが何とも言えない興奮を呼び起こし、神治は夢中になって肉棒を叩き付けていった。
「あんっ、ああっ……やっ、やぁっ……はっ、はぁんっ……」
 小さな喘ぎを漏らしながら、摩箕子は本棚にしがみついて頭を何度も仰け反らせている。
 背後から手を回し、制服の間に手を入れて慎ましい脹らみを直接掴むと、「ああんっ……」と可愛らしい声をあげるのに興奮が高まった。
 乳首を摘み、クリクリと捻りながら腰の動きを速めると、「いや、やっ……そんなの、あっ……そんなの駄目ですぅっ……」と頭をイヤイヤと左右に振るのにゾクゾクする興奮を覚える。
 あれから数日が経ち、神治は毎日のように摩箕子の家を訪れ、本を借りるついでにセックスを繰り返していたが、一向に飽きることが無いのも、摩箕子のこうした態度が非常に可愛らしく、そそるものだからだろう。
 セックスだけでなく、本の感想を語り合うのも楽しく、神治にとって摩箕子との関係は二重の意味で素晴らしいものだった。
「あっ、あっ、ああっ……そんな、あっ……そんな凄い、ああっ……それ凄いですぅっ……」
 大きく強く擦りつけるようにして腰を動かすと、摩箕子はかなり大きな声で喘いだ。
 摩箕子にしては珍しいその乱れの激しさに、神治の興奮は益々高ぶった。
 最近は摩箕子自身もセックスに慣れてきたのか、かなり快感を得るようになっていたのだ。
 これは単に快感を受け入れやすくなったというだけでなく、神治に対する親密度が上がったせいもあるだろう。
 何しろ摩箕子にとって神治は、セックスする相手というだけでなく、大好きな本について語り合う仲間でもあるからである。
 実際、セックスを終えるたびに本の内容について語り合っており、あの展開がどうだとか、あのキャラがどうだとか会話しつつ、それが一段落すると再びセックスを始めるというのが最近のパターンになっていた。
 摩箕子はその事がかなり嬉しいらしく、「こんなに沢山感想を話せて幸せです」と言い、セックスに関しても「本当に気持ち良くて、凄く幸せな気分になります。素敵です」と述べていた。
 神治にしても、好きな作品の感想を話すのは楽しかったし、摩箕子のような可愛い女性と何度もセックス出来るのは最高の気分であったため、その気持ちはよく分かった。
 いわば二種類の楽しみを同時に行っている訳で、それは趣味が同じ人間同士ならではの楽しみ方と言えただろう。
 何より摩箕子の作品に対する好みは神治と似ていたため、自分が気に入った部分や似たような発想について話すのが楽しかったのだ。
 セックスにしても、相性がいいのか、互いが悦ぶ行為が何となく分かり、抱く回数が増えていくたびにそれに慣れ、気持ちの良さが上がっていったのである。
 そうした事で親密度が高まったせいなのか、最近の摩箕子の態度には、どこか甲斐甲斐しさを感じさせる雰囲気があった。
 元々他人に気を遣う性格に思えたが、それが強まったようで、神治に対して積極的に世話を焼きたがるようになっていたのだ。
 大人しいお嬢様な雰囲気のある摩箕子のそうした態度は、何とも男心を擽り、支配欲を刺激して満足感を与えるものであったため、神治は摩箕子に世話をされるのが心地良かった。
 摩箕子は控えめで自分を出してこない性格のせいか、そうした行為をすると、実に魅力的だったのである。
「あっ、あっ、ああっ……神治さん、あっ……神治さぁんっ……」
 こうした関係になってから、摩箕子は神治を名前で呼ぶようになっており、その事も摩箕子が自分の物となったように思える要因となっていた。
 そして抱いている事によってその想いはさらに強まり、神治は摩箕子に対して強い愛おしさを覚えるようになっていた。
 友人というより、自分の物、自分の女としての愛情が強くなっていたのである。
「あんっ、そこ駄目です、ああっ……そこ駄目、あっ……ああっ、そんなの駄目ですぅっ……」
 回すようにして肉棒を突き込むと、摩箕子は耐えられないようにズルズルと本棚から手を下に滑らせていった。
 そのまま床に手をついて喘いでいるのを可愛らしく感じながら、神治は摩箕子の体をひっくり返して正面向きにした。
 制服をはだけ、快楽に喘ぎながら虚ろな瞳でこちらを見つめてくる女子高生。
 しかもお嬢様で、清楚で大人しい、可憐な美少女。
 そうした摩箕子の姿には、何ともそそるものがあった。
 肉棒をそれまで以上に高ぶらせた神治は、プリーツスカートを捲り上げると肉棒を押し込んでいった。
「あっ……神治さぁん……」
 ズブリと肉棒が入り込んだ瞬間、摩箕子がとろんっとした表情に笑みを浮かべ、早く突いて欲しいとばかりにこちらを見つめてきた。
 そのすがるようなおねだりのサインに興奮を高めた神治は、勢い良く肉棒を叩き付けていった。
「やっ、やっ、やぁっ……そんな凄い、ああっ……凄いです、あんっ……神治さん凄いですぅっ……」
 小さな声で激しく喘ぎ、頭を振って悶える摩箕子の姿に肉棒が益々猛った。
 有名お嬢様校の制服に身を包んだ摩箕子は、まさに奥ゆかしいお嬢様という風情に溢れており、そんな相手をこうして犯しているのだと思うと、たまらない良さがあったのだ。
「あっ、ああっ……やっ、やっ、やぁっ……もう駄目、ああっ……もう駄目です、あっ……神治さん、神治さぁんっ……」
 切羽詰まった擦れるような声で喘ぎ、泣きそうな顔をした摩箕子が、潤んだ瞳で何とかして欲しいとばかりに見つめてくる。
 限界がもう近いのだろう。
 その様子に可愛らしさを覚えた神治は、このまま一気に絶頂を迎えさせてやろうと激しく腰を振りまくっていった。
「あっ、あっ、ああっ……もうっ、もうっ、もぉっ……わたし、あっ……駄目、駄目ですぅっ……やっ、やっ、やぁあああああああっ!」
「うっ!」
 ギュッとしがみつかれた瞬間、神治は精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 強烈な快感と共に精液が迸り、摩箕子の中へ注がれていくのが感じられる。
 射精をするたびに気持ちの良さが脳天に響き、「あ……あ……」という摩箕子の甘い吐息が聞こえてくるのがたまらなかった。
 少しして射精を終え、そのまま柔らかな体に身を預けると、摩箕子が荒い呼吸を吐きながら、嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
 こちらも微笑み返し、頬に手を当てて優しく撫でる。
 スベスベの摩箕子の肌は、触れているだけで心地良く、そのままサラサラの髪をくしけずるようにすると、それだけで幸せな気分になった。
「神治さん、少しお聞きしたい事があるんです……」
 いつものように本の事を話し出すのかと思いきや、摩箕子はそんな事を言ってきた。
 真面目な顔をしているところからして、何か大事な話なのだろう。
「何ですか?」
 その事に驚きつつ、意識を切り替えて言葉の続きを待つ。
「冴花さんの事なんです……神治さん、冴花さんともその……こうした事をされているんですよね?」
「え……?」
 予想外の話題に意表を突かれる。
 今更何故冴花との事を言ってくるのだろう。
「以前、冴花さんと仲良くなるためにした事を私ともしたいと仰って、それでこういう事をされましたから……」
「確かに……そうですけど……」
「今も冴花さんとは、されているんですか?」
「……してます」
 一瞬、どう答えようかと思ったが、隠しても仕方ないだろうと正直に答える。
 元々冴花との関係をダシにして摩箕子に関係を迫ったのであり、最初から話していたようなものだからだ。
 もしやその事で摩箕子は悲しくなり、冴花との関係を止めるように言うつもりなのだろうか。
「そうですか、良かった……」
 しかし神治の予想に反し、摩箕子は安堵したように息を吐いたため、その反応に驚く。
「何で良かったんですか……?」
 神治には訳が分からなかった。
 最初に言っていたとはいえ、他の女性を抱いている事を知って、良かったと告げるというのが理解出来なかったからだ。
「神治さんは……緋道村の方なのでしょう?」
「!……」
 あまりに予想外すぎる言葉に、神治は意表を突かれた。
 どうして摩箕子が緋道村の事を知っているのだろう。
 というか、村の名前を知っているだけでは、ここで持ち出してくる意味は無いはずだった。
 何しろ今話しているのはセックスに関する事だからだ。
「私の母は、緋道村の出身なんです」
「!……」
 その言葉に驚きつつ、神治はようやく納得する事が出来た。
 村の住民の中には、村の外へ出て行っている者もいたため、摩箕子の母親がそうした人間の一人だとすれば、摩箕子が村の事情を知っていてもおかしくなかったからだ。
「ですから緋道村の事も知っていて……その、村ではこうした事を色々な人とすると……」
 そこまで語った摩箕子は少し恥ずかしそうにした。
 すでにセックスを経験しているとはいえ、そこは奥ゆかしい摩箕子の事だ、言葉として述べるのには抵抗があるのだろう。
「友達とするのが当然というか、するのが友情の証みたいなものだと……ですから神治さんが冴花さんとしているのも不思議じゃないですし……私も友達として認めていただけたから、あの日神治さんは冴花さんとしているように、私ともしたいと仰られたのだと……」
 確かにその意図もあったが、神治としては摩箕子を自分の物にしたいという気持ちの方が強かった。 
 とにかく抱いて、自分に従う女にしたかったのだ。
 最近はどうにもそうした「好みの女を手に入れたい」という衝動が強く起きており、そうしないではいられない状態だったのである。
 以前も肉欲からそうした衝動、つまり肉体的な衝動から女性を求める事はあったが、今はそれだけでなく、心としても女を自分の物にしたい欲求があった。
 要するに心身共に自分に従う事を欲していたのだ。
 ゆえに摩箕子の言う、「友達だからしたい」というのとは少し違っていたのだが、敢えてそれを訂正する必要も無いだろう。
 実際そうも思ってはいたし、友人の延長としてセックスをし、その結果として心身共に己の物としたかったからである。
「ですから神治さんが、今も冴花さんとしているのが分かって嬉しいんです……冴花さんの事を、今も大切に想ってくれている事が分かったから……」
 摩箕子はそう言いながら嬉しそうに微笑んでいる。
 神治はその様子に少々呆気に取られていた。
 確かに村の事情を知っていれば、神治が冴花を抱いている事の理由は理解出来るだろう。
 しかしだからといって、感情的に自分以外の女性と関係を持つ事を受け入れられるとは思えなかったからだ。
 これまで神治は、東京へ出てきてから幾人かの女性を抱いてきたが、他の女性とも関係を持っている事を知られるのは避けていた。
 何故ならそれは普通の感覚で言えば浮気となり、その事に怒りを覚える女性は多いと思ったからである。
 一応、自分とのセックスは友人としてのものであり、恋愛上のものではない、というのが女性達との暗黙の了解であったし、神治にしても、相手に恋愛的な意識は持っていなかった。
 無論、強い愛おしさはあったから、普通の友人以上の感覚は持っていたが、あくまで友情の延長としての肉体関係であり、恋愛感情を持ってはいなかったのだ。
 しかし神治の気持ちがそうであったとしても、相手の女性達も同じであるとは限らないだろう。
 その事はすでに未迦知神に忠告されていた。
 いくら口で「友達であって恋人ではない」と言ってはいても、女というのは本音は別であると。
 特に神の快楽という、強烈な気持ちの良さを味わわされている以上、そこで発生する執着は並ではなく、その想いが恋愛感情に作用して、強い恋心を抱かせるようになっても不思議はないと言うのだ。
 実際これまで関係を持ってきた女性達の態度を思い返すと、恋する男に示すものとも取れたため、皆が自分に恋愛感情を抱いていると解釈してもおかしくはなかった。
 もしそれが事実であれば、「他に抱いている女性が居る」という事を知られるのは、かなりマズい事になるだろう。
 今のところ、他の女性との関係を知っているのは冴美と冴花だったが、彼女達は「自分の方が後から関係を持った」という意識があるためなのか、そうした事をあまり強くは言って来なかった。
 無論表面上は言ってくるのだが、最初の頃に比べると、その口調は凄く弱かったのである。
 冴美にしてみれば、「娘と同じ年頃の少年に夢中になっている」という引け目があるのだろうし、冴花の場合は「ずっと否定してきたはずのセックスに夢中になっている」という罪悪感があるのかも知れない。
 二人とも、本来己が嫌悪感を抱いた行為をしてしまっているのであり、つまりそれを否定する事は、自らをも否定する事になるからだ。
 自尊心の強い二人の事だから、「自分の事を棚に上げ、他人だけを責める」という事が出来ず、それが神治に関係を止めるよう、強く言えない理由になっているに違いなかった。
 それは神治にとって都合の良い事であり、また、そうした状況にしてしまえば、他の女性を抱いている事が知られても大丈夫なのだという安心感をもたらしていた。
 その結果として、「冴花の事をネタに摩箕子に迫る」という行為に走らせた訳だが、よく考えてみれば、これは結構危ない事だったのかも知れない。
 何故なら摩箕子が冴花と異なり、自分のした事を棚に上げ、自らの望みのみに意識を向けて、関係を迫るタイプの人間であったかも知れないからだ。
 それこそ冴花に神治との関係を告げ、別れるように迫る可能性だってあったのである。
 そうなったら冴花にしても黙ってはいないだろう。
 元々潔癖症なところのある少女だ。
 友人、それも凄く大切にしている友人に裏切られたとなれば激しく腹を立てるだろうし、神治に対しても、摩箕子に手を出した事に関して激しく怒りをぶつけてくる事は容易に想像出来た。
 何しろ最初に摩箕子を紹介した際に、「手を出すな」と釘を刺してきたくらいなのだ。
 下手をしたらドロドロの三角関係に陥っていた可能性もあったのである。
 そう考えると、今摩箕子が言った「冴花との関係が今も続いていて嬉しい」という言葉には、救われる想いがあった。
 どうやら摩箕子は、神治が冴花とセックスをし続けても気にならないらしい。
 それは何とも緋道村的な感覚であり、神治にとってはありがたい事だったが、母親が村の出身者とはいえ、村の外で育ったはずの摩箕子が、何故そうした感覚を持っているのか不思議だった。
 十歳まであの村で育った神治ですら、未だ少々微妙に感じる時があるというのに、摩箕子は何故平気なのだろう。
「それでお願いがあるんです……私をその……ずっとお傍に置いていただけないでしょうか……?」
 不意に発せられた言葉に驚く。
 どういった意図のある言葉であるのか分からなかったからだ。
「私、聞きました。神治さんが緋道村の当主であるという事を……」
 よもやそこまで知っているとは驚きだった。
 だが母親が村の出身者なのだから、そうした情報を知っていてもおかしくないだろう。
 村の外へ出たからといって、村へ戻らなかったり、連絡を取らない訳ではないのだから。
「当主というのは、その……家族以外とは、ああした事をされないのでしょう?……そういった事は、あまり良くない事になっていると聞きました……」
 そう言えば建前上はそうなっていたな、と思いつつ、全くそんな事を守っていない自分の行動に苦笑する。
「ただ特別に親しい友人とだけは許されていると……そして神治さんは、冴花さんと私にして下さいました……つまりそれだけ私達を友達として大切にして下さっている訳で、私はそれが嬉しくて……初めて神治さんがああした事を求められた時に、感動してしまって……私は大切に思われているのだと分かって、凄く嬉しかったんです……」
 摩箕子はそう述べると、嬉しそうに微笑んだ。
 神治としては、そこまでの考えは無かったのだが、確かに友人として二人を大切に想っている事は確かであったため、否定する事もないだろうと思った。
「でも、いつまでも同じように想っていただけるのか、少し不安になって……だから今日、冴花さんの事をお尋ねしたんです……もし、冴花さんとはもうされていなかったら、私もいつかそうなるんじゃないかと思って……」
 摩箕子はそこで言葉を切ると、不安そうな表情でこちらを見つめてきた。
 よもやそんな風に考えているとは思ってもみなかった神治は驚いた。
 どうやら摩箕子は、神治がセックスによって友情の度合いを示すものだと考え、セックスをされなくなる事を恐れているらしい。
 抱かれなくなったら、友人として駄目になっているのだと考えているようなのだ。
 それはまさに緋道村的発想であり、そうした考えを自分よりも意識している事に驚いてしまう。
 だが何故村の住民でもない摩箕子が、そこまで緋道村の慣習を理解している、というより己の常識であるかのようにして話しているのだろう。
 いくら知識として知っていても、普通の感覚で言えば、異常なものだと感じるはずだからだ。
「あの、摩箕子さんはどうしてそこまで村の事を分かってくれているんです? 普通なら嫌になりませんか? 多分冴花さんだったら怒ると思いますし」
「冴花さんならそうでしょうね。こういう事を凄く嫌っていますから……だから私は驚いたんですよ。冴花さんが緋道村の当主とお友達になったと聞いた時は……」
 確かに男嫌いの冴花が、よりにもよって友情の証としてセックスをする村のトップと仲良くなったとあっては驚きだろう。
「じゃあ摩箕子さんは、俺と会う前から、俺が緋道村の当主だって知っていたんですか?」
「はい、珍しい名字ですから。それに下の名前まで同じで歳も同じなら、別人と思う方が難しいでしょう?」
 確かにそれはその通りだった。
 村の事を知っている人間であれば、すぐに分かる事だろう。
「それで私が何故緋道村の事を理解出来るのかというと……実は昔、何度か行った事があるんです、あの村に……」
「え……?」
 一瞬驚きつつも、考えてみれば母親が村の出身者なのだから、それは十分あり得る事なのだと思い直す。
「幼い頃に、母に連れられて行ったんです。それでその時、親戚の人達がしているのを見てしまって……その時に、仲が良ければするのは当たり前の事だと言われて……だから私は少しの間、それが普通の事だと思っていたんです……」
 なるほど、それならば納得出来た。
 幼い頃に当然だと教えられ、信じていた事であれば、普通の人間よりも受け入れ易いからだ。
 とはいえ、自分が実際にセックスをするとなると話は別になると思うのだが。
「実は私……親戚の人に、神治さんとしたような事をされそうになった事があって……」
 神治の質問に、摩箕子は小さくそう答えた。
 それがいつの事であるのか分からないが、これだけ可愛い摩箕子の幼い頃だ。
 親戚の男からすれば、すでに抱きたい対象であった事だろう。
 何より親族の娘であるのだから、愛情もあるだろうし、摩箕子にしても相手に好意を抱いていただろうから、セックスをする条件は整っていると言えたのである。
 しかも周囲はそうするのが当然という認識の人間ばかりである事を考えれば、しない方がおかしいくらいと言えた。
「怖くなって泣いたので、実際はされなかったんですけど……その時、相手の方が凄く申し訳なさそうにされていて、必死に謝って下さっていて……だから私は、この人は私の事を好きだからしようとしていたんだ、と思って……何だか嬉しくなったんです……」
 それは何とも驚きの事だった。
 とはいえ、緋道村では当たり前である事だから驚くほどではないのだが、村に関わりが無いと思っていた摩箕子が、そうした目に遭っていたというのが驚きだったのである。
 もしそこで抱かれていたとしたら、摩箕子の性に対する感覚も変わっていたのだろう。
 いや、すでに少々普通では無くなっていたのだった。 
 神治に抱かれる事を友情の証と捉えているのだから。
「その時に思ったんです。もし今度そうした機会があったら、受け入れようって……私の事を大切に想ってくれている人が望んだら、受け入れようって……」
「え? じゃあ、俺の前にも誰かと……」
「いえ、それはありませんでした。母は私が嫌がったのを気にしたらしく、次の年からは村へ連れて行かなくなりましたから……」
 その事に思わず安堵した後、摩箕子が処女であった事は自分がよく知っていた事を思い出して苦笑する。
「最初の男ではなかった」という事を恐れるとは、自分は何と独占欲が強いのだろう。
 だがこれで、何故摩箕子がすんなり抱かれる事を受け入れたのかが分かった。
 緋道村の住人ではないが、幼い頃にその洗礼を受けた事で、一般常識からは少々外れた性的意識を持つようになっていたのだ。
 それは神治にとってありがたい事であったため、思わぬ所で村の恩恵を受けた形となった。
「ですから神治さんとする事が出来て、凄く嬉しいんです……昔謝って下さったあの人にも、今度は大丈夫でしたよ、とお伝えしたいくらいで……」
 いくら何でもそこまでする必要は無いだろうと苦笑しつつ、その律儀さが摩箕子の良いところだとも思った。
「そしてこれからもずっと、神治さんとはこうして、友達としてお付き合いしていきたいと思っているんです……」
 それは通常であれば特に問題の無い発言だったが、今摩箕子が言った言葉には「セックスをして」という意味も含まれている事を考えると、何ともここが緋道村ではないかと思えてしまうほどだった。
「ただ……少し不安なんです……」
 急に摩箕子が辛そうな表情を浮かべたため不審に思う。
 一体どうしたのだろう。
 神治は心配になって顔を見つめたが、その美しい顔を見ている内に、肉棒がムクムクと大きくなったため、節操のない自分に呆れてしまった。
 どうにもこの摩箕子の不安げな表情というのには、嗜虐心をそそるものがあってたまらなかったのだ。
「まぁ……」
 その様子に気づいたらしい摩箕子は、暗くしていた顔を恥ずかしそうに赤くした後、肉棒をジッと見つめてきた。
「いや、これはその……つい……すみません……」
 真面目な話の最中に、思わず肉棒を立ててしまった事を謝りつつ、見られている事に少々恥ずかしさを覚える。
 すでに何度も見られているのだが、改まってジッと見つめられると妙な恥ずかしさを覚えたのだ。
「謝られることなんてありません。これは神治さんが私の事を大切に思って下さっている証ですから。凄く嬉しいです……」
 摩箕子はうっとりと肉棒を見つめながら起き上がると、硬くそそり立つそれを優しく掴んだ。
「ですから私も、その想いにお応えしたいんです……神治さんが気持ち良くなっていただけるよう……私の、神治さんを大切に想う気持ちを、お伝えしたいんです……んんっ……」
 摩箕子はそう言いながら肉棒を口に含んだ。
 ゆっくり舐め回し、愛おしげに舌を絡ませてくるのが何とも色っぽい。
 これまで摩箕子がこうした事をして来た事はなかったため、その予想外の積極性に驚く。
「それは分かりましたけど……でもどうしてそんな……不安だなんて……俺、摩箕子さんの事、大切にしますよ……?」
「それは分かっています。神治さんは良い方ですから……でも不安なんです……神治さんは当主様で……ご家族を第一にされなければなりませんし……いくら大切に想って下さっても、友達はその次でしょうから……それで、不安なんです……その内、離れて行かれてしまうのではないかと……んっ、んぐっ、んんっ……」
 摩箕子は悲しげな表情を浮かべながらそう述べ、自らの不安を払拭しようとするかのように熱心に肉棒を舐めていった。
 初めてしているせいか、拙い部分はあるものの、そうした部分が逆に肉欲をそそる結果となって気持ちの良さが溢れてくる。
 摩箕子は肉棒を嬉しそうに見つめつつ、顔にかかる黒髪をかき上げながら舐め、吸っていっている。
「つまりこれからも俺と友達で居たい、俺とこうした関係を続けたい、と……そういう事ですか……?」
「そうです……」
 嬉しそうに微笑む摩箕子の様子に、どこか歪んだ執着を覚える。
 何故ここまで友人であり続ける事に拘っているのだろう。
 セックスが友情の証である事に対する理解については、先ほど聞いた幼い頃の経験から納得出来たが、友人である事への拘りについてはよく分からなかった。
「どうしてそんなに、俺と友達で居たいんですか?……確かに友達は大切ですけど、そんなにまでするってのは何で、うっ……」
 神治が問いかけた途端、強く肉棒を吸引されたため、思わず頭を仰け反らせてしまう。
「私は……神治さんが大切なんです……ずっとお傍に居たいんです。あなたの傍に……駄目ですか? 私では、神治さんの友達にはふさわしくないですか?……やっぱり冴花さんの方が……私より素敵ですし、一緒に居て、友達として楽しいですよね……私なんかでは駄目……私は友達としては駄目なんですね……」
 急に暗く呟き始めた摩箕子にギョッとなる。
 一体どうしてしまったのだろう。
「そんな事ないですよ。俺は摩箕子さんと一緒に居て凄く楽しいです。ずっと仲良くしていきたいですから」
「本当ですかっ?」
 神治の言葉に勢い良く嬉しそうに返事をする摩箕子に驚く。
 ここまでテンションの高い摩箕子は初めてではないだろうか。
 好きな本の事について語っている時よりも高い感じなのだ。
 よほど嬉しかったという事だろうか。
「ええ……本当です。ですからもっと安心して下さい。俺は摩箕子さんの事、大切な友達だと思っていますから」
「ありがとうございます……凄く、凄く嬉しいです……神治さんがそこまで私の事を思って下さっているなんて……凄く、凄く嬉しい……」
 摩箕子は神治の言葉に涙を浮かべながら嬉しそうに微笑んだ。
 その様子にどこか異様な雰囲気を感じつつも、それほど自分との関係を大切にしてくれている摩箕子に嬉しくなった。
 もしかしたら摩箕子は昔、友人関係で何かあったのだろうか。
 緋道村での経験でセックスに対する意識が一般社会の常識から外れてしまったように、友人に対する想いも、何か強烈な出来事があって執着を強く持つようになってしまったと考えれば、この異常なまでの執着も納得出来るからだ。
(ならもっと、摩箕子さんが安心出来るようにしてあげないとな……)
 そのためには、セックスを沢山して、神治の摩箕子に対する友情を感じさせる事だろう。
 要はセックスによって心身共に満足させてあげるという訳だ。
「神治さんが望まれるなら、私、何でもします……仰って下さい。私に出来る事なら何でもしますから……」
 こちらを上目遣いで見つめ、すがるようにそう告げてくる姿には、何ともそそられるものがあった。
 元々摩箕子には「私を従わせて下さい」と感じさせる部分があって、神治の嗜虐心を刺激していた訳だったが、今の「何でもします」という言葉には、それを強める効果があった。
 この女を無茶苦茶にしたい。
 肉棒で貫いて、好き放題に喘がせ悶えさせたい。
 そんな想いが湧き起こったのだ。
「俺のためなら、何でもするんですか?」
「はい、何でも仰って下さい。私、何でもしますから……」
 神治が了承する雰囲気を見せた途端、嬉しそうな表情を浮かべた事にゾクリとする。
 この女は、すでに自分に従属しまくっているのだ。
 自分に仕え、自分のために生きる事を望んでいるのである。
 それは何とも支配欲を刺激する、心地いい態度だった。
「俺の望みはそうですね……今まで通り友達で居て欲しいって事ですか」
「ありがとうございます。神治さんもそう思って下さっているのは凄く嬉しいです。……でも他にもありませんか? 私、神治さんのために何かしたいんです……」
 困ったように心配そうに告げてくるのに嬉しくなってくる。
 摩箕子は神治が何か要求しないと不安なのだ。
「言おうと思ったら、摩箕子さんが自分でしてくれましたからね」
「え?」
「俺のこれ、舐めてくれたじゃないですか」
「あ、はい……その、男の人はこうされるのが好きだと、何かの本で読んだもので……」
「ずっとお願いしようかと思ってたんですよ。だからそれを摩箕子さんの方からしてくれたのは凄く嬉しいです」
「ほ、本当ですか? それなら私……あ、もっとしますね。いくらでも仰って下さい。私、神治さんが望むことなら何でもしますから……んっ、んぐっ……」
 そう言うと、摩箕子は必死になって肉棒を舐め始めた。
 その様子は何とも甲斐甲斐しく、そうする事が嬉しくて仕方がない雰囲気を感じさせた。
 摩箕子にとって神治のためにする事は、それだけ幸せな事なのだろう。
「だから、あの……傍に、傍に置いて下さい……お願いします、神治さま……」
 不安げな、切なそうな瞳でこちらを見上げてくる摩箕子の様子に、強烈な興奮が湧き起こる。
 そして何より「神治さま」と呼ばれたのが最高だった。
 それはまさに摩箕子の従属する意志の現れとして感じられ、摩箕子が自分の物になった感覚を強めたからだ。
 どうして摩箕子がここまで卑屈になり、神治に気に入られる事を望み、嫌われる事を恐れているのか分からなかったが、こうした摩箕子の態度というのは、何とも心地良く、神治の中に強烈な悦びを生んだ。
「もちろんですよ。離れたいって言ったって無理矢理引き留めますよ。それだけ摩箕子さんは素敵ですから……」
「嬉しいです、あっ、あんっ……」
 すっかりいきり立っている肉棒を摩箕子の口から引き抜くと、そのまま摩箕子を押し倒し、勢い良く秘所に入れていく。
 すると肉棒が柔らかで湿った肉に包まれる感触が広がり、たまらない気持ちの良さが押し寄せてきた。
「あ、あぁ……神治さまの、おっきくて硬い……素敵です……私はどうですか? 気持ちいいですか神治さま?」
 うっとりとした表情を浮かべ、それでいて自分に何か落ち度があるのではないかと不安そうにこちらを見上げている摩箕子を見ていると、それだけでたまらなくなった。
「ふふ、あなたのここも素敵ですよ。俺のを凄く締め付けて……気持ちいいです……」
「あっ、あっ、ああっ……」
 神治が腰を振り始めると、摩箕子は小さく喘ぎ始めた。
 慎ましい吐息が漏れ、奥ゆかしく体をクネらせる姿に、神治はこの女が自分の物であるという事に嬉しさを覚えた。
「お前は俺の物だ……摩箕子、摩箕子は俺の物だ。いいな……?」
 丁寧語を止め、名前を呼び捨てて告げると、摩箕子はそれまで以上に激しく喘ぎ、嬉しそうな笑みを浮かべると、大きく頷いた。
 その様子に普段よりも強烈な女を従えたいという衝動が押し寄せ、神治は目の前にある、己の物である肉体をさらに激しく貪っていくのだった。












あとがき

 今回は大和撫子で、神治にとことん従う感じの女性を出してみました。
 こういうタイプってそそるんですよね。
 だから書いていて楽しかったです。
 一方、神治の態度的にはかなり強引さが出てきていますが、色々な事からそうなっている感じですか。
 神治にはこれまでも色々変化がありましたけど、現状はそうなっているのだとご理解下さい。
 普通の人間でも成長と共に性格に変化が出たりしますから、神治の経験から考えれば色々変わってもおかしくないですからね。
 今後も色々経験させていくつもりなので、そうなるとまた変わっていくと思います。
(2011.3.20)

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