緋道の神器
第三十四話 女社長との日々
飯塚冴美(いいづかさえみ)は、友人の紫藤依子の格好を見て溜息を付いた。
喫茶店のテーブル席の向かいに座る依子の服装が、女子高生が好んで身に付けるような、若者向けのファッションだったからだ。
実際依子が女子高生であれば何も問題はなかった。
だが彼女は自分と同じ、四十歳を越えた大人だった。
それなのにそうした服装が似合い、凄く可愛らしいのだから参ってしまうのである。
それはもう何十年と見てきたはずの事であったのに、どうしても慣れない事なのだった。
依子は、小学生の頃は逆に大人びて見える容姿をしていた。
小学生でありながら、中学生に見られる事が日常茶飯事だったのだ。
そして小学校高学年の頃に、十六、七歳ほどに見られるようになると、それ以降は容姿的に歳を取らなくなり、四十歳をすぎた今も、どう見ても女子高生としか思えない姿のままだった。
自分などは日々若さを保つため努力をしており、その成果として常に十歳は若く見られるが、身近にこうした異常としか思えない若作りの友人がいるため、何とも自信を失うばかりなのだった。
などと、いつも依子と会うたびに感じる虚しさを噛みしめていると、ふと依子の様子がどこかおかしい事に気がついた。
何というか妙に明るく浮ついており、通常とは異なる雰囲気があったのだ。
だがそれは何度か見た事のあるものであったため、すぐに何が原因であるのかはピンっときた。
「で、今度は何て宗教なの? またハマったんでしょ、新しいのに」
何度目になるか分からない問いかけをしながら溜息を付く。
昔から依子は、新興宗教に何度もハマり、そのたびに痛い目を見てきたのだ。
喉元過ぎれば熱さ忘れる、のことわざ通りの性格のため、過去の失敗を生かす事のない依子は、懲りるという事を知らなかった。
冴美にしても、信仰自体を否定するつもりはなかったが、依子がハマるのは決まって胡散臭げな所ばかりであり、それゆえ新しい宗教を始めるたびに心配してしまうのだ。
「え? 別に宗教はやってないよ」
だが冴美の予想と異なり、依子は驚いたようにして否定した。
その様子に嘘を付いている感じが無かったため、意外な想いを抱く。
というか、そもそも依子は、宗教を始めたとしてもその事を隠す人間ではなかった。
逆に嬉々として語り出すため、もし本当にやっていたとしたら、この様な返答はしないだろう。
「それじゃ何なのよ、あんたのその態度は」
「態度? 何か変かな?」
依子は自分の体を見下ろすようにすると、不思議そうにしている。
「あんたのそうした浮っついた態度は、宗教にハマった時になるものなの。だから今回もそうなんだと思ったんだけど、あんたは違うって言うでしょ? 嘘じゃないみたいだし、だったら何なんだろうって思った訳」
「え〜〜? 私ってそんな態度取ってるんだ。今まで気づかなかったよ。でも宗教やってないってのは信じてくれるんだね。それは良かった。実際もう止めたから、疑われたら嫌だもん」
「止めた? って事は、少し前まではやってたって事?」
意外な言葉に驚く。
これまで宗教を始めた事を自分が知る前に、依子が宗教を止めた事は無かったからだ。
「あ、うん。でも止めたの。宗教なんかより凄い事があったから」
「凄い事?」
「うん。内緒にするって約束したから大きな声では言えないけど、あ、だから冴美ちゃんも他の人には言わないでね?」
「別に構わないけど」
内緒にする約束なのに話していいのかと思いつつ、昔から自分にだけは何でも話してくれる事に嬉しさを覚える。
「実はね……神さまに会ったんだ……」
「……」
声を潜め、秘密を告白するようにして依子が口にしたその言葉は、冴美にとってあまりに想像外の内容であったため、一瞬どう対応すれば良いのか分からなかった。
「……えっと……え〜〜、もう一度言ってくれる? ちょっとよく分からなかったんだけど」
「神さまに会ったの……」
「……」
満面の笑みで再びそう告げてくる幼い頃からの友人に、冴美は心の底から溜息を付いた。
「あぁ〜〜、それは信じてないね。冴美ちゃってば信じてない。私の言ったこと、信じてないでしょ?」
四十歳を過ぎた大人とは思えないその口調に、さらに溜息が出る。
とはいえ、高校生にしか見えない容姿からすると似合っており、可愛かったりもするのだが。
「信じてないというか、突拍子なさ過ぎて受け入れられなかったの。信じない訳じゃないから話してみなさい。どうして神さまと会ったと思ったのか」
頭から否定するとへそを曲げてしまう事は、長い付き合いから分かっていたし、こうした事を言い出す時は、何かしら原因がある事を分かっていた冴美は、冷静に尋ねてみる事にした。
「あ、そうだよね。いきなり神さまじゃ、冴美ちゃんも驚いちゃうか。うんとねぇ、何から話せばいいかなぁ……そうそう、齋ちゃんが最初に知り合ったんだよ」
「齋が?」
「うん。それで齋ちゃんがね、神さまだって言ったの」
齋というのは依子の十歳になる娘であり、母親が昔そうであったように、すでに中学生にしか見えない容姿をしていた。
その一方、性格的には母親に似ず、落ち着いていて思慮深かったため、冴美としては依子よりも齋の判断を信用しているくらいだった。
何より彼女には常人にはない不思議な力があり、これまで依子がハマった宗教のインチキを見抜いてきたのは、全て齋だったのだ。
その齋が神さまだと言ったというのはどういう事なのだろう。
まさか本当に神なのだろうか。
いくら何でも突飛過ぎるとしか思えなかった。
「それって本当に神さまって断定したの? 単純に凄い力を持っている事の比喩とかじゃなく?」
直接齋から聞いた訳ではないため、依子が大げさに語っている可能性もある、というか、その可能性が高そうだと思った冴美は、詳しく尋ねてみる事にした。
「断定してたよ。『お兄さんは神さま』って。実際凄い力も持ってるんだけどね、それがホント物凄いの。私も見せてもらったけど、神さまだって信じられるもん」
依子の感想はともかく、齋がそこまで言うとは驚きだった。
その人物は本当に神なのだろうか。
(って、何考えてるの。そんな訳ないでしょ。そもそもいくら大人びてるからって、齋だってまだ十歳なんだから、変な風に解釈しちゃうことだってあるんだし……)
思わず信じかけた自分を否定し、冷静に判断しようとする。
要はその人物は、神でないにせよ、そう思わせるほどの力があるという事なのだろう。
不思議な力を持つ齋がそう感じたのだから、その事に間違いは無いのだ。
問題はその事よりも、その神という人物に、依子がどう関わっていくかだった。
変な風に関係していくとなれば、後で問題が起きかねないからである。
「取り合えずその神って人は、どういう人なの? 年齢的にはどのくらいよ? 齋は『お兄さん』って呼んでるみたいだけど、二十代くらい?」
「十五歳だよ」
「十五……って、まだ子供じゃない……」
少し想像とは違っていた事に驚く。
どうも神というと青年のイメージがあったからだ。
だがそんな年齢であれば、騙すような事をしてくる事もないかとホッとする。
(いえ、最近の子は分からないから……十五歳だからって安心しちゃ駄目よね……)
ニュースなどで見る、未成年の凶悪犯罪を思い出した冴美は、慌てて気を引き締めた。
警戒心の欠片も無い友人を守ってやれるのは自分だけなのだ。
「子供だけどねぇ、凄いんだよぉ。とんでもなく凄くて、私なんかいっつもおかしくさせられて……ああ、凄いんだぁ……」
両手を組み合わせ、うっとりとした表情で呟いている依子の様子に、冴美はどうにも違和感を覚えた。
何というかそれは、いつもと同じく新興宗教にハマった時の雰囲気のようでもあるのだが、どことなく女を感じさせる部分もあったからだ。
まるで恋する乙女のような表情に思えたのである。
その事から嫌な推測を思いついた冴美は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あんたまさか、その十五歳の子に、変な想いを抱いてないでしょうね?」
「変な想いって何?」
「ストレートに言えば恋。惚れてないかってこと」
遠回しな言い方が嫌いな冴美は、ズバリ尋ねてみた。
よもや二十歳以上も歳の離れた少年に恋しているとは思わないが、相手は依子だ。あり得ない事ではないのである。
「やだぁ、そんな事ないよ。さすがに私だって歳考えてるし。いくら若作りだからって、中学生相手に恋なんてしません」
「そうよね。あ〜〜、安心した……」
勘が外れた事にホッとする。
もし十五歳の少年に惚れていたりしたら、新興宗教どころの騒ぎではなかった。
未成年の子供に恋してるなど、世間体が悪すぎるだろう。
若いアイドルに血道を上げているより質が悪いに違いない。
「でもね……セックスはしちゃった……」
「ハ……?」
不意に聞こえた言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
そして意識が戻ってくると、今聞こえた言葉がとんでもない内容だという事が認識され、沸々と怒りが込み上げてきた。
「い、い、今……今何て言った……?」
顔を下に向け、体を小刻みに揺らしながら、出来るだけ抑えた声で尋ねる。
「やだ、もう一回言うの? 恥ずかしいよぉ。やっぱり大人としてはマズい事だと思うしぃ……」
頬に手を当て、恥ずかしそうに体をくねらせながら依子は呟いている。
その様子は、どう見てもマズい事だと思っているようには見えなかった。
「い、いいから……いいから言ってみなさい。言ってみなさいって……」
机の下で強く拳を握り締め、声を震わせながら促す。
「分かった言うね……あのね、セックスしちゃったの……やぁっ、やっぱ恥ずかしいよぉ。これって冴美ちゃんだから言ったんだからね、他の人には絶対内緒だよ?」
「当たり前でしょっ。言える訳ないわぁっ」
思わず大きな声を出しそうになったが、一応少しは理性が残っていたのか、抑える事が出来た。
だがあまりに怒りが強かったため、依子の腕を両手で掴むと、雑巾を絞るようにして思い切り捻りあげる。
「うわっ、痛っ、痛いよ冴美ちゃんっ。止めて、止めてぇっ……」
本来はそのままずっと絞り続けてやりたかったが、依子の悲鳴が店内に響いてしまったため、慌てて手を放す。
周囲からは何事かと見られたが、そのままジッとしていると、やがてそれも無くなっていった。
「酷いよぉ。何でこんな事するの?」
「あんたが馬鹿っ、だからよ」
「馬鹿って……何がよぉ」
全然分かっていない様子の依子に全身の力が抜けていく。
まあ、そういった性格だからこそ、十五歳の少年と平然と性的な行為が出来るのだろう。
口では「マズイこと」などと言っていたし、おそらく本気でそうも思っているのだろうが、だからといって「止めなければいけない」とは本気で考えないのが依子なのだ。
何とも言えない事に大きな溜息が漏れる。
これでは宗教や神どころの騒ぎではなかった。
もっと現実的な、淫行の問題だ。
よりにもよって、自分の友人から淫行を行っている人間が出るとは……。
冴美は情けなくて涙が出そうになった。
「で、その子とは、もうしてないのよね? 一回だけの関係よね?」
気を取り直し、もし気の迷いという事でしてしまったのであれば、まだ許せると思い尋ねてみる。
「ううん、してるよ。齋ちゃんが留守の時に……あ、これって齋ちゃんには内緒って事でお願いね?」
楽しげに笑いながらそう告げてくる依子に力が抜ける。
だが予想していた事ではあったため、さほど驚きはしなかった。
「それはいいけど、分かってるの? これって浮気よ?」
気を取り直し、別の角度から指摘してみる事にした。
淫行の意識は薄くとも、浮気となれば気にするかと思ったからだ。
「うん、分かってるよ。いけない事なんだよね。駄目なんだって分かってる」
冴美の言葉に、依子はしんみりとした様子で俯いている。
どうやら理解しているのだと安堵し、これなら説得出来るのではないかと胸を撫で下ろす。
「だけど凄く求められちゃうんだよね。そうなると私、断りきれなくって……」
だがすぐさま嬉しそうに呟いた依子にガックリとなった。
結局本気ではないのだ。
いや、依子がそういう人間である事は分かっていたはずだった。
依子にそうした常識的な発想を求めるのが意味の無い事であるなど、以前から知っていたはずなのに、何を期待していたのだろう。
自分は何と愚かな事をしていたのかと自嘲しつつ、ではどうしたらいいのかと考え始める。
(依子が駄目なら、その神さまだっていう子の方を説得するしかないか……)
だが上手く説得出来るだろうか。
何しろ十五歳と言えば思春期であり、ヤりたい盛りであり、女と見れば興奮し、いやらしい事ばかり考える時期だと、以前知り合いの男性に聞いた事があったからだ。
そんな状態の時に、依子のような、女から見ても可愛らしく、スタイルのいい女性とセックス出来ているとなれば、それを止めてもらうなど絶対無理だろう。
(でもこのままじゃ……)
何か方法があるはずだった。
それを考えるのだ。
落ち着いて冷静に状況を分析し直してみる。
要はその少年は、依子に恋している訳ではなく、初めて知ったセックスに夢中になっているだけだろう。
無論、年上の女性に対する思慕程度はあるかも知れないが、恋というほどではないに違いない。
つまり精神的な意味での執着は弱いはずだ。
少年の依子に対する執着は肉体的なもの、性欲である訳だから、それを上手く利用すれば、依子との関係を止めさせる事が出来るのではないか。
(だったら方法としては、ああするのが一番……と思うけど……でも……)
上手くいきそうな方法を思いつくが、それを実行する事に躊躇の想いが起きる。
何故ならその方法は、少々道徳的に許されない行為だったからだ。
だがそれを上手く行えば、おそらく少年の意識は依子から離れるだろう。
何しろ少年にとってマイナス面は無いからである。
そして実際行うにしても、上手くやれる自信はあった。
これまでの経験から、初心な少年相手なら出来ると思えたからだ。
ただ精神的に抵抗があるだけだった。
しかし依子とその少年のためにするのだと考えれば、これも仕方のない事だろう。
そう思い、迷いを断ち切る。
「依子、その子を私に紹介しなさい」
内心少々緊張しながら、何気ない風を装って依子にそう持ちかける。
「え? 別にいいけど、急にどうしたの?」
「興味が湧いたから会ってみたくなったのよ」
「わ〜〜、そうなんだ。嬉しいなぁ、冴美ちゃんが興味持ってくれるなんて。いつもこの手の話って無関心じゃない」
勘ぐられるかと思ったが、依子はどうやら「少年が神である」という部分に反応したと思ったらしく、素直に喜んでいる。
「今回は齋も認めているしね。ちょっと話をしてみたくなったのよ」
「ふ〜〜ん、そうなんだ。分かった今度連絡しておくね。予定空いてる日が出来たら教えてよ」
「了解……あ、それと二人きりで会いたいから、あんたは来ないでね」
「え? 別にいいけど、どうして?」
「あんたが居ると、相手の子も言いにくい事があるかも知れないからよ。あんただって、その子が居たら言いにくい事あるでしょ?」
「私は無いけどなぁ……でもそういう事なら分かった。二人きりでもいいか聞いてみるね?」
一瞬思惑がバレたかとドキリとしたが、依子はそんな事に気づかない様子で納得している。
考えてみれば、依子がそんな風に気の回る人間でないのは分かっているはずだった。
ただ少々後ろ暗い事をするため、気になってしまったのだろう。
それだけ自分にとってこれからする事は、罪悪感を感じる事になっていたからだ。
実際、依子のため、少年のため、と割り切っているつもりであっても、納得しきれていない部分があった。
だがやるしかないのだと心に決め、手を強く握り締める。
取り合えずはその少年が、自分にとっても好ましい人物だと良いのだが。
あまり好みではない相手では、やる気すら起きなくなってしまうからだ。
(まあ、依子は昔から面食いなとこがあったから、顔に関しては大丈夫だと思うけど……)
そんな事を思った冴美は、目の前でウキウキと少年の事について語り出した依子の言葉に耳を傾けつつ、どうやって少年を説得していくかの手順を考えるのだった。
冴美はホテルのラウンジで少年を待っていた。
あれから数日が経ち、少年を説得する手はずを整えたため、依子に頼んで呼び出してもらったのだ。
教えてもらった少年の名前は、緋道神治。
十五歳の中学三年生であり、受験生という事で、一瞬受験シーズンというマズい時期に呼び出してしまったかと思ったが、どうやらついこの間志望校の受験が終わったところらしい。
ゆえにこれから何をしても受験には影響しない事が分かってホッとした。
何しろ今から自分がしようとしている事は、相手に動揺を与えかねないからである。
少年、神治に対する説得の方法に関して、あれから何度も考え、やはりそうするしかないという結論に至ったのだが、果たして本当にそれで良かったのかと未だに思っていた。
何しろこの方法は、あまり褒められた事ではなく、もし自分が第三者として聞いたら、罵りそうな方法だったからだ。
本当にこんな事をしていいのだろうか。
いや依子とその少年のためだ。
何度目になるか分からない迷いが浮かび、何度目になるか分からない結論に至る。
大体もう呼び出してしまったのだし、今更止める訳にはいかないだろう。
ここまで来たらやるしかないのだ。
そんな風に何度目か分からない決意を新たにしていると、不意に「飯塚さんですか?」と声をかけられた。
視線を向けると、すぐ傍に中学生くらいの少年が立っているのが見える。
おそらく彼が緋道神治だろう。
「ええ、そうですけど、あなたが緋道くん?」
冴美が聞き返すと、少年は「はい」と言って少し微笑んだ。
依子のハマり具合から、凄まじい美少年を想像していたため少々拍子抜けする。
神治はどこにでもいる感じの普通の少年だったからだ。
とはいえ、それなりに顔立ちは良かったので、冴美は大人の女が少年に対して抱く可愛らしさを覚えた。
それにしても、この様な少年が依子と性的な関係を結んでいるとは想像出来なかった。
何しろその顔立ちは、ようやく子供らしさが抜けてきたような幼いものであったため、そんな少年が大人の女と淫らに絡み合っている姿など想像出来なかったからだ。
「それじゃ取り合えず座って。飲み物はコーヒーでいい?」
気を取り直してそう告げると、神治は頷きつつ、落ち着かない様子で向かいの席に腰を下ろした。
どうやらこういった場所には慣れていないらしい。
だがそれも当然だろう。ここは高級ホテルのラウンジだ。
普通の中学生が訪れるような場所ではないのである。
実際神治は物珍しそうに周囲を見回しており、その様子に冴美は再び可愛らしさを覚えた。
「まずは改めて自己紹介するわね。私は飯塚冴美、あなたの知っている紫藤依子の友人です」
ウェイターを呼び、コーヒーを注文した後、取り合えずそう切り出す。
すると神治も自分の名前を述べ、軽く頭を下げた。
何とも初々しいその様子に、思わず笑みがこぼれてしまう。
考えてみれば、こうして十代の少年と二人きりで話すなどいつ以来だろう。
学生時代以来だろうか。
社会人になってからは、大人の男性とばかり接してきたため、冴美は何とも懐かしい気分になった。
「仕事は、ちょっとした会社を経営してるの。はい、これ名刺ね」
そう言って名刺を手渡すと、神治はそれをジッと見つめた後、「社長さんなんですか、凄いですね」と驚いたように言ってきた。
そのお世辞ではない褒め言葉に嬉しくなる。
最近は褒められても、全てお世辞として聞こえるようになっていたのだが、この少年の言葉には嘘が感じられなかったからだ。
その事で気分が良くなったのか、続けていつもなら自分から話すことなど無い、これまでの苦労話や自慢話をしてしまった。
数年前に夫を亡くし、一人で会社を設立して頑張ってきた事、それもようやく軌道に乗り、最近では経営しているブティックがテレビ番組に取り上げられるほどになった事、などをだ。
それらの話を聞いた神治は、「大変だったんですね」と言ったり、「そんな凄い人だったんですか。驚きました」と目をまん丸にして驚いたり、「でも確かに凄く才能のある人って印象はありますよね。知的というか、迫力があります」などと言って微笑んだ。
同じような言葉は多くの人間から何度も聞いていたが、神治の態度には純真さが感じられ、その事に嬉しさが込み上げてくる。
自分でも不思議なのだが、この少年に褒められると、異様に嬉しさが湧き起こるのだ。
褒め上手というか、相性の問題なのだろうか。
とにかく彼に褒め称えられると、どうにも嬉しくなって仕方がないのである。
「それで今日わざわざ来てもらった理由なんだけど……」
コーヒーが届き、神治がそれを口にして少しした後、冴美はいよいよとばかりに本題を切り出す事にした。
神治は少し不安そうな顔をしながらこちらをジッと見つめている。
「私は周りくどい言い方は好きじゃないから、直接的に言うわね……緋道くん、依子とセックスするのはもう止めて欲しいの」
その言葉を聞いた瞬間、神治は一瞬体を硬直させたが、すぐに何事も無かったように力を抜いた。
こちらの予想としては、もう少し取り乱すと思っていたため、そうでない事に驚く。
「あなたももう十五歳なんだから分かるでしょ? あなたが関係を持っている依子には夫がいるの。あなたがしているのは不倫なのよ」
そう告げられた神治は、困ったようにして俯いた。
「あなたくらいの年齢じゃ、女の体に夢中になるのは分かるけど、相手は結婚しているの。あなたのしているのは良くない事なのよ……これは依子にとってもそう。いえ、あちらはもっと良くないわ。何しろ旦那さんを裏切っている事になるんだから。あなたはそういった良くない事をしているの。分かるでしょう?」
真剣にそう話すと、神治は「ええ、分かります。俺も良くない事だって思ってましたから」と少し暗い表情になって頷いた。
「なら約束出来る? これから依子とセックスしないって」
続けてそう告げると、神治は困ったようにして俯いた。
即答は難しいだろうと思っていたため、冴美はゆっくり答えを待つつもりだった。
そもそも分かっていても止められないのがこの年頃だろう。
おそらく初めて知った女の体の良さを、もっと味わいたくて仕方がないに違いない。
頭では「良くないこと」と理解していても、依子を前にしたら欲情を抑えられなくなってしまうのだ。
つまり本来であれば、大人である依子が止めればいいのだが、あの馬鹿はそれが出来ないのであり、そのために自分は純真な少年の説得をしているのだと思うと怒りが込み上げてくる。
目の前に座る少年は、どうも見ても初心で、自ら依子に襲いかかるようには見えなかった。
つまり実際のところ、依子が誘惑し、セックスを求めたのだろう。
どうせ神治を神だと信じ込み、その事で欲情してしまったに違いない。
そう言えばここのところ「旦那が抱いてくれない」と不平を漏らしていたから、その事もあって誘惑したのかも知れない。
欲求不満であったため、手近な所に現れた少年に食らいついた訳だ。
浅はかな依子ならあり得そうな事だった。
となると、やはりこの少年は依子から引き離した方が良いだろう。
このままの関係を続けさせては、少年にとって宜しくない結果になるのは目に見えていたからだ。
ならばそのために自分が犠牲になるのもやむを得ず、それが少々道徳的に良くない事であってもするべきだった。
何しろこれは、依子がしたのとは違って、自分の欲を満たすためではなく、人助けなのだから……。
そう考えると決心が出来た。
これまで躊躇が強かったが、「この少年のためだ」と思うと意思を強く持てたのである。
(この可愛い男の子を、依子の魔の手から救ってあげなきゃ……)
神治の幼い顔を見つめながらそう決意する。
これは母性愛なのだ。
幼い少年を悪い人間から守る、母親的な意識なのである。
自分はこれから、この少年を母親のように守ってあげるのだ。
そう思うと、強い愛情と使命感が湧き起こり、体が火照ってきた。
呼吸も乱れ、自分が興奮しているのが分かる。
初めて会ったばかりの少年相手に、何故これほど執着しているのか不思議だったが、大人として当然の行動だろうと考えると、これからする事も正しい事のように思えてくるから不思議だった。
「あの、緋道くん……その……」
だが実際口にしようとすると躊躇が起きた。
やはり心のどこかでは「いけない事だ」という意識が強いに違いない。
これまで自分は世間に恥ずべき事は一つもしてこなかったが、これからするのは公には出来ない内容だったからだ。
だがすぐに「彼のため」と意識を切り替えると、大きく息を吸い込んで話し出した。
「いきなりセックス出来なくなるってのは辛いと思うのよ。あなたの年頃だと、凄くしたいでしょうし……だから、だからね、その……依子は駄目だけど……えっと、私なら……私なら問題ないから……私とするってのはどう? その、セックスを……」
いつもの自分からすれば信じられないほどドキドキし、たどたどしくなりながら、最後の方は凄く小さな声で告げてしまった。
これまでどんな権力のある人間に会っても緊張などしたことのない自分が、この少年にこれだけの事を告げるだけの事で、恐ろしく緊張してしまったのだ。
まるで思春期の少女が、好きな男の子に告白したかのようではないか。
現実の自分は、思春期の頃に好きな男など出来ず、一方的に告白され、男を選別する立場にあって、恋など馬鹿馬鹿しく感じていたくらいだった。
死に別れた夫とも、結婚相手としてふさわしいと考えたから結婚しただけで、そこに恋心のようなものはなかった。
その後も多くの男性と付き合ってみたが、こうした緊張などは無縁の関係だったのである。
その自分が、これほど緊張し、相手の返事がどうなるかを落ち着かない気持ちで待っている。
それは何とも不思議な感覚だった。
そして普段の自分なら愚かしさから冷笑の対象にしそうな発言を口にしたのだと思うと、強烈な恥ずかしさで一杯になった。
あろう事か今自分は、未成年の子供に対し、誘惑の言葉を述べたのだ。
セックスしようと誘ったのである。
理由があるとはいえ、端から見たら依子と同じように性欲から誘っていると取られてもおかしくないだろう。
というか、この少年にそう取られてもおかしくないのだと気づくと、ますます心臓が激しく鼓動した。
「えっとその……これは違うの、違うのよ……これは別に私があなたとしたいって意味じゃなく……あなたのためを思って……依子と不倫関係を続けるんじゃ良くないと思うから……でもセックスを我慢するんじゃあなたが辛いだろうと思うから……だから私が……自分の体で代わりをしてあげようと……」
そこまで告げた後、不意に「果たしてこの年頃の少年にとり、自分の体は魅力的なのだろうか?」という不安が湧き起こった。
大人の男性を相手にしてきた時には、そうした不安は無かった。
何故なら皆、自分に大人の女としての色気を感じ、その事に魅了されていたからだ。
しかし相手は十五歳の少年だ。
自分のような歳の女は、すでに相手に出来ない、興味を持てない、欲情しない対象なのではないかと思えたのである。
同い年の依子が相手をしている事から気にしていなかったが、よく考えてみれば、依子は彼と同世代に見える容姿なのだ。
参考にならないのである。
こちらは頑張ってもせいぜい三十代前半の容姿であり、彼から見ればオバさん、母親と同じ年頃だろう。
果たしてそんな相手とセックスする気になるだろうか。
そこまで考えた冴美は、ある事に気づいてハッとなった。
(この子……あの子より年下なのよね……)
目の前に居る少年は、自分の娘より年下なのだ。
十六歳の娘より、彼は年下なのである。
そんな相手と、自分はこれからセックスしようとしている……。
しかも自らが誘惑する形で。
何と破廉恥な行為だろう。
羞恥心で顔が熱くなっていく。
もう止めた方がいいのではないか。
神治に「冗談は止めて下さい。あなたみたいなオバさん相手に出来る訳ないでしょう」と言われる前に、とっとと撤回し、帰った方が良いのではないか。
その方が傷は浅くて済むだろう。
今なら直接そうした事を言われず、「言われたら悲しかった」という想像だけで済むのだ。
もしこの目の前にいる可愛い男の子に、侮蔑の意識を持たれ、冷笑されたらと思うと、恐ろしくて仕方がなかった。
(そうよ、もう帰りましょう……その方がいい……)
頭の中に恥ずかしさと恐怖が渦巻き、今すぐにでもこの場を立ち去りたくなった冴美は、そのまま素早く立ち上がろうと思った。
だが次の瞬間、耳に聞こえた言葉に驚く。
何と神治は、「分かりました。お願いします」と告げてきたのだ。
その瞬間、心が軽くなり、体の緊張が一気に抜けるのが分かった。
そして自分の恥ずかしい部分を受け入れてくれ、女として自分を見てくれた神治に、強い感謝の想いが湧き起こった。
この可愛い少年は、自分に女として恥をかかせないでくれたのである。
「あ、ありがとう。その、嬉し……い、いえ、ありがたいわ……」
思わず自分を抱いてくれる事への感謝を述べてしまいそうになったため、慌ててそれを否定し、提案を受け入れてくれた事への礼として頭を下げる。
いつの間にか自分は、神治に抱かれたがっているような感覚になっていたのだ。
女として魅力的であると、彼に認めてもらいたがっていたのである。
神治はこちらの様子を気にした風も無く、「お礼を言うのはこちらです。飯塚さんみたいな女性と、その、そういう事が出来るなんて、信じられませんから……」と、嬉しそうに、恥ずかしそうに述べた。
そしてそれまでただ可愛いとだけ思っていた目から、男の欲を感じさせる光が放たれており、視線がこちらの体の線をなぞっている事に気づいた冴美は、強い悦びを覚えた。
可愛く見えてもすでに男なのだ。
考えてみれば、依子とは何度もセックスしているのだから当然の事だろう。
これから自分も、彼と男と女の関係になるのである。
十五歳の少年と、セックスをするのだ。
そう考えると強烈な背徳感が湧き起こり、信じられないほどに心臓が鼓動した。
まるで初めてセックスをするような感覚になった冴美は、震える手を何とか誤魔化しつつゆっくり立ち上がると、神治を促して予約していたホテルの部屋へと向かうのだった。
シャワーを浴び、バスタオルを巻いた姿でベッドへ近づくと、神治は待ちきれないとばかりに抱き付いてきた。
そしてそのまま乳房を掴み、荒々しく揉みしだきながらベッドに押し倒してくると、冴美の体からバスタオルを剥いだ。
その瞬間、恐怖と緊張が走り抜ける。
果たして自分の体は、少年の目に耐えうるものになっているのだろうか。
普段なら誇らしげに晒す体も、この時ばかりは不安で一杯だった。
だがそんな事は杞憂であったようで、神治は「綺麗です」「凄くおっきい」と呟きながら、乳房にむしゃぶりついてきた。
一心不乱に乳房を揉み、乳首に吸い付いてくる姿に、セックスに慣れていない少年らしさを感じ、心臓がキュウっとなった。
今自分の体は、この可愛い少年を夢中にさせている。
その事が女として強烈な喜びとなった。
大人の男相手では味わえないこの感覚は、何と新鮮で楽しいものなのだろう。
これまでも自分の体を賞賛した男は幾人もいたが、こうして無茶苦茶に、テクニックも無く、ただただ求めるようにして貪りついてくる男は居なかった。
おそらく今この少年の頭の中は、目の前にある女体を求める事しか無いに違いない。
こちらに快感を与えるといった意識は無く、自分が気持ち良くなる事だけに執着しているのだ。
大人の男が相手であれば、何と自分勝手な男だろうと思っただろうが、幼い少年が相手となると、そういった事も可愛らしく感じられるのだから不思議だった。
落ち着き無く自分の服を脱ごうとしている神治は、緊張からか上手くボタンを外せないでおり、それが何とも初々しかった。
愛らしさを感じつつ、ボタンを外すのを手伝ってあげると、「ありがとうございます。その、すみません」などと恥ずかしげに言ってくるのに、さらに可愛らしさが強まった。
少しして裸になった神治がのし掛かってくると、生の肌と肌が触れ合う感触にゾクリとした悦びが生まれた。
そして熱い肉が押しつけられると、自然と呼吸が荒くなった。
まだ成長期のためか、身長が大人の男より低い神治の体は、こちらの中にすっぽり収まる感じで、抱き締めるとたまらない良さがあった。
こちらを見上げ、「凄いです。凄く気持ちいい。飯塚さんの体、信じられないくらい気持ちいいです」と告げてくるのに愛おしさが強まる。
「冴美よ。冴美って呼んで……そう呼んで欲しいの」
思わず甘えるようにしてそう告げてしまう。
神治に名字で呼ばれているのは寂しかった。
名前で呼ばれ、抱かれたかったのだ。
そうされると、本当の意味で彼とセックスしているように思えたのである。
神治はこちらをジッと見つめると、「分かりました、冴美さん。冴美さん素敵です」と言いながら口づけをしてきた。
たどたどしく唇が擦りつけられ、舌が入り込んできて荒々しく口内に触れてくるのに悦びが溢れる。
ああ、今自分は、この可愛い少年とキスをしているのだ。
何と嬉しい事だろう。
冴美は神治の頭を抱えるようにすると、左右に顔を入れ替えるようにしてキスを繰り返した。
神治の拙い様子から、どうやら依子はあまり技術的な事を教えていない事が分かったため、ならば自分が大人の女として、一人前の男として恥ずかしくない技術を教えてあげなければ、という思いが湧き起こったのだ。
依子に対する優越感、初心な少年を導く悦びに、冴美の心と体は興奮で一杯になった。
だがそういった事もこれからの楽しみであり、取り合えず今は、このがむしゃらな愛撫を楽しむことにしよう。
そう考えた冴美は、自分の体に這わされる手、舐めてくる舌、吸い付いてくる唇からの刺激に体を震わせて喘いだ。
「あっ……やっ、あんっ……いいわ、あっ……そう、ああっ……」
これまで男に抱かれていても、どこか冷めていて、演技として発していた部分のあった喘ぎが、今は自然と口から漏れていた。
神治に触れられ、舐め、吸われるだけで、蕩けるような快感が走り抜け、意識しなくとも甘い声を漏らしてしまうのだ。
何とも気持ちのいい刺激なのである。
そしてまた「冴美さん気持ちいいです。冴美さんの体、凄いです綺麗です。俺、たまりません」などといった、己の体に対する賞賛と、夢中になっている神治の言葉に、快感がさらに高まっていく。
太ももを持ち上げられ、舐め回されながら、チュパチュパと何ヶ所かに吸い付かれると、それだけで秘所に刺激が走った。
この程度の刺激でここまで感じるなど今までに無い事であり、すでに体は自分の意思とは関係なくピクピク震えていた。
「あぅっ、あっ……胸をまた、やっ……そんな、はぅっ……」
神治が両手で乳房を握り締めるようにしながら、「だって冴美さんのオッパイ、凄いんですもん。おっきくて、綺麗で、俺、たまらないですっ」などと血走った目で言ってくるのに、女としての嬉しさが込み上げてくる。
乳房を強く揉みしだかれ、大きく開かれた口に何度も吸い付かれると、ゾクゾクとした快感が走り抜け、意識が真っ白になりそうになった。
何と気持ちのいい行為なのだろう。
これまでもセックスで気持ちの良さは感じてきたが、これほどまでにたまらないのは初めてだった。
何よりこれはまだ前戯なのだ。
もし肉棒を入れられたら、自分はどうなってしまうのだろうと思うと、期待と共に少し恐怖を覚える。
だが入れてみたかった。
この可愛い少年の男を、咥え込んでみたい。
一つになって、互いに快楽を与え合ってみたかった。
それは何と素晴らしい事だろう。
女としての心と体が、神治を強く求めていた。
するとその想いが伝わったかのように、不意に神治が体を起こし「冴美さん、俺、入れますから」と告げてきた。
その顔は、早く入れたくて仕方がないといった表情をしており、その切なげな様子にキュンっと心臓が縮こまる。
何と可愛らしいのだろう。
そんな愛らしさで一杯になりながら、「いいわ、いらっしゃい。あなたの好きなようにしていいのよ」と大人の色気を漂わせるようにして囁く。
こうすれば神治は、もっとたまらなくなるだろうと思ったからだ。
案の定、それを聞いた瞬間、神治は落ち着きが無くなり、「い、入れますっ」と叫びながら肉棒を手に持つと、膣穴に押し込んできた。
ズブリといった感触が起きると共に、太いものが膣穴にハマったのが分かり、大きく頭が仰け反って、いやらしい声が口から漏れてしまう。
一瞬意識が無くなったように思え、気づいた時には肉棒が勢い良く押し込まれている所だった。
体の中をゾリゾリと擦りあげる感触が伝わってきて、その事で強い快感が湧き起こると共に、今あの可愛い少年が自分の中に入り込んでいるのだという悦びが溢れた。
全てが収まり、神治が動きを止める。
(ああ……私、この子と一つになってる……)
心と体に湧き起こる快感に、冴美は神治の体を抱き締めて一体感に浸った。
目の前にある少年の顔は、何とも気持ち良さそうな、だらしない表情を浮かべており、その事で自分の与える快楽が、彼を悦ばせているのだと実感した冴美は誇らしさを覚えた。
神治は「冴美さん、たまらないです。俺、もうたまらないです」と言いながら、腰を動かし始めた。
(ああっ……何これ? 凄いぃ……)
その瞬間起きた快感に、冴美は体を硬直させつつ、突き込まれるたびに頭を仰け反らせ、神治の体にギュッと抱き付いていった。
だが動きが激しさを増すと、快感から力が抜け、全てを委ねるようにしてベッドに身を投げ出してしまう。
それを見た神治は、体を起こすとベッドに手を付き、それまで以上に強く大きく腰をぶつけてきた。
(やだっ、もっと凄く……す、凄くなって……ああっ、たまらないぃ……)
その刺激は、一瞬一瞬意識が無くなるほどであり、冴美は頭を左右に激しく振りながら喘ぎまくった。
これほど快楽に狂わされているのは初めてだった。
セックスが自分をここまで快楽で満たすとは驚きだった。
少年の肉棒が突き込まれるたびに、全てが侵略される悦びに震え、引き抜かれるたびに、全てが略奪されていく悦びに悶えた。
何という存在感。
今や神治の肉棒は、冴美を支配しており、これ無くしては生きていけないと思えるほどの気持ちになっていた。
それだけの快楽が心と体を包み込み、全てをさらけ出して捧げてしまいたくなる気持ちになっていたのだ。
(ああ……私、もう駄目……全部あげたい……私の全部……何もかも……もう何も要らない……こうして抱いてもらえるなら、どうなったっていい……)
強烈な突き込みと共に意識が解放され、全てを神治に委ねる気持ちに溢れていく。
「やっ、やぁっ……凄い、凄いのぉっ……あっ、ああんっ……もっと、もっとぉっ……やっ、やぁんっ……」
自分でも驚くほど可愛らしい声をあげ、可愛らしく体をくねらせる。
それはいつもの自分が見たら、恥ずかしさで一杯になるであろう態度だったが、今の自分はそれを受け入れられた。
神治の前なら、どんな状態であっても恥ずかしくなかったからだ。
自分の全てを知って欲しい。
自分の全てを貰って欲しいのだ。
そうした想いに包まれながら神治を見つめると、「可愛いですよ冴美さん。もうあなたは俺の物です。俺の女ですから」と微笑みながら告げられた。
その事に死にそうなほどの喜びが溢れる。
自分は神治の物となった。
神治の物にしてもらえたのだ。
何と素晴らしいことだろう。
もう死んでも構わない。
歓喜と快楽が体中を走り抜け、頭が真っ白になり、神治の与えるものだけが感じられてくる。
恐ろしいまでに快感が湧き起こり、「ああ、これはイくんだ。イくんだわたし……」と思った瞬間、最大級の快楽が押し寄せると共に体が硬直した。
耳元で女の大きな喘ぎ声が聞こえ、それが自分の物だと気づくと同時に、意識がぷっつりと途絶えていった。
神治は、ある高級ブティックに居た。
先日知り合った冴美が、神治に服をプレゼントしたいと言って、自分の経営する店へ連れてきたのだ。
高そうな服ばかりがある店であったため、遠慮したのだが、どうしても貰って欲しいと泣きつかれたため承諾したのである。
どうやら冴美は、男に貢ぐのが好きな性格らしく、そうしたくて仕方がないらしかった。
すっかり自分に夢中になっている女性の願いを無下にする訳にもいかず、神治は最近、冴美から色々プレゼントされる状態になっていたのだった。
一応、冴美自身の生活を心配してもみたのだが、彼女の経営する会社は順調であるようだし、この程度なら生活を圧迫するほどでも無いと思って安心はしていた。
何よりプレゼントを受け取ると、非常に嬉しそうにするため、その顔を見たいという部分もあったのだ。
冴美がこのような状態になっているのは、神治に抱かれた事が原因だった。
依子の友人である冴美は、神治と依子との関係を心配し、止めさせようとしてきたのだが、その方法というのが、自らが代わりに抱かれるというものだった。
その事を最初に提案された時は驚いたものだったが、冴美のような美人でスタイルの良い女性を抱く機会などそうそう無かったため、神治はこれ幸いとその提案に乗ることにした。
冴美はどうやら神治を初心な少年と思い込んでいたようなので、そういった雰囲気を出しつつ、淫の「気」を徐々に強めていくと、あっさりと自分に夢中になったのである。
一度目の交わりで意識を失うほどの快楽を味わったせいか、冴美はそれ以降、神治に従属する態度を示すようになった。
その後は、外食に誘われるなどして何度も会うようになり、その都度抱いた結果、冴美の自分に対する執着は強烈なまでに高まっていった。
神治としても、美人でスタイルのいい女社長を自分の物として感じるのは気分が良かったため、積極的に抱いていった。
何より知的でキビキビとした性格の冴美は神治の好みであり、そうした女性に甘え、逆に支配していく事は、何とも言えない喜びがあったのだ。
特に冴美は、社会人として成功した人間であり、その姿は「出来る女性」としての魅力に溢れていて、今も目の前で店員に指示を出している姿は、働く女性として一つの理想と言えただろう。
鋭い視線を走らせているその顔は、何とも凛々しく、並の男であれば従いたくなる欲求を起こすものだった。
実際神治も、冴美には甘えたいと思う事が多く、またそうした態度を彼女も喜ぶため、ちょくちょくしており、そしてその後に、逆に思い切り喘がせ、おねだりをさせると、支配欲が刺激されてたまらなかったのである。
「これなんかどうかしら?」
不意に声をかけられたため意識を戻すと、冴美が服の掛かったハンガーを持って立っていた。
それはファッションに疎い神治が見ても、実にカッコ良く思えるデザインの服だった。
とはいえ、それが自分に似合うかどうかという事に関しては自信が無かったのだが。
「う〜〜ん、俺、そういうの分からないんですよね。だから冴美さんの気に入ったのでいいですよ」
「言うと思ったわ。でも取り合えず聞いておかないとね、分からないといっても、嫌なものもあるでしょうし」
「それはまあ……あまり奇抜すぎると、着て歩くのに抵抗ありますから」
「ふふ、そう思ったからそういうのは選んでません」
楽しげに笑う冴美を見ながら、その華麗に着こなしているスーツの下にある肉体に想いを馳せる。
大きく膨らんだ胸元、キュッと締まった腰、ぷっくりとした尻、肉付きのいい太もも……。
このスタイル抜群の体を、自分は自由に貪っているのだ。
この店に居る男は皆、冴美を極上の女として感じているだろう。
実際先ほどから、チラチラと冴美を見ている視線が多くあるのだ。
冴美は年齢の事を気にしているが、そんな事など全く意味は無かった。
何故ならこれほど完成した女の色気の持ち主であるならば、どんな男でも抱きたくてたまらなくなるからだ。
事実その熟れた体には蕩けるような良さがあり、一度味わってしまえば、その虜になるのは受け合いだったのである。
「それじゃ行きましょうか。ホテルのラウンジで食事しましょう?」
「あ、終わったんですか?」
「もう、気づいてなかったの? しょうがないんだから」
その口調は、ボンヤリしていた少年をたしなめる母親のようであったが、気をつけて聞けば、男に対する媚びが含まれている事が分かっただろう。
この店の中の何人がその事に気づいただろうか。
母親と息子ほど歳の離れた二人が、男と女の関係であることを……。
食事を終え、ホテルの部屋へ来た神治達は、ベッドの上で裸で絡み合っていた。
「あっ、あっ……いいっ、神治くんいいわぁっ……」
色っぽい喘ぎが耳に響き、それに勢いづいた神治は、豊満な乳房をギュッと掴んだ。
高校生の娘が居るという話から、四十歳は過ぎていると思われる冴美の体は、その年齢を思わせない締まった体つきをしていた。
大きな乳房は横たわっても形を崩しておらず、その美しい造形のまま神治の指を吸い込んでいる。
手のひらに余るその豊満さは、男の肉欲を十二分にそそり、何度揉んでも飽きる事はなかった。
吸い込まれるような感触と、力を抜くと緩やかに押し返してくる弾力は、若い女には無い肉の魅力に溢れていて素晴らしく、頂点にある二つの突起は少し大きめで、吸い付いて舌を絡ませると心地良かった。
赤ん坊の頃の記憶が蘇るのか、口の中で乳首の存在感が大きいと、どこかホッとするような気分になるのだ。
冴美の乳房にはそうした母性愛を感じさせるところがあり、揉んでも吸っても気持ちの良さが湧き起こるのだった。
「あっ、あんっ……さっきから胸ばっかり、あっ……神治くんは、オッパイが好きね……」
「ええ、冴美さんのオッパイは素敵ですから。いつまでもこうしていたくなります」
そう言いながら乳房に顔を押しつけ、左右から挟むようにしてその感触を味わう。
そうすると柔らかさが顔全体で味わえ、そのしっとりとした肌触りとプニプニとした肉の感触に気持ちの良さが溢れた。
乳房全体を舌で舐め回し、所々強く吸い付いていくと、口内に甘さが広がり、夢中になってそれを繰り返していく。
「あんっ、やっ……ふふ、可愛いわ、あっ……神治くん可愛い、あっ、ああんっ……」
冴美が優しく頭を撫でてくるのに心地良さを覚える。
こうした母性を感じさせる仕草は、普段のキビキビとした冴美しか知らない人間であれば驚く事だろう。
それを知っているのは自分だけなのだと思うと、優越感を感じて嬉しくなった。
そしてもう一つの顔である、女の面を見たくなった神治は、起き上がると肉棒を手に持ち、秘所へと近づけていった。
「入れるのね……いいわ、いらっしゃい。私の中へ来て。私をあなたの物にしてぇ……」
大人の女らしく優雅に微笑み、初心な少年を導くようにして囁いてくるのに興奮が高まる。
すでに何度も抱いているが、冴美は最初に入れる時には、必ずこうした言葉を述べてくるため、神治はそれが気に入っていた。
その瞬間だけ、まるで童貞の頃に戻ったように思えてくるからだ。
「冴美さ、ん……」
擬似的な童貞喪失の気分を味わいながら、肉棒を膣穴へと押し込んでいく。
亀頭がヌメヌメとした膣襞に絡みつかれながら奥へ進む感触に気持ちの良さを覚えつつ、全てを入れた神治は大きく息を吐いた。
「ああっ……おっきぃ……太いわぁ……私が全部貫かれてるぅ……」
うっとりとした表情で、冴美はこちらを見つめてくる。
そこには先ほどまであった母性愛の顔はなく、肉欲に染まり始めたいやらしい女の顔があった。
まさに肉棒の挿入が、冴美の中の女を呼び覚ましたのだ。
「あっ、あっ、ああっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……」
腰を動かし出すと、冴美は顎を仰け反らせ、脚を上へ伸ばした。
ズンズンと突き込むたびに甘い吐息が発せられ、肉付きのいい脚が揺れ動くのに興奮が高まっていく。
肉棒を包み込む膣襞はジンワリと絡み付き、腰を引くたびに吸引してくるため、下半身が吸い取られそうな感覚を覚えた。
「ああんっ、あっ、ああっ……凄い、あっ……凄くいいわ、やっ……凄くいいのぉっ……」
強く大きく肉棒を突き込むと、豊満な乳房がタプンと揺れ動く。
耐え難いように人差し指を噛みしめる仕草が何とも色っぽく、体全体から大人の女の色気が発せられており、その若い女では味わえない濃厚な女肉の味わいに、肉棒が高ぶっていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……はぅっ、はっ、はぁんっ……」
腰を動かすたびに漏れ聞こえる甘い吐息は、熟れた女のみが持つ男への媚びに溢れており、聞いているだけで射精感が強まるほどだった。
それは特殊な力によるものではなく、男を多く受け入れた経験により、自然と体が覚えた男を誘う声だろう。
冴美は熟女として、実に魅力溢れる女性なのだった。
「あぁっ、あぅんっ……それいいっ、やっ……それいいの、はぅっ……それいいぃっ……」
腕が背中に回り、グイと引き寄せられる。
体が密着し、その柔らかな肉の感触にうっとりとなる。
一見細身でありながら、熟女らしく肉の感触に溢れたその体は、極上のクッションとして神治の体を受け止めていた。
こうして身を預けているだけで、蕩けるような気持ちの良さが溢れてくるのだ。
「あぁっ、あっ……んっ、んんぅっ……んっ、んんっ、んんぅっ……」
唇を重ね、舌を絡み合わせながら、腰を小刻みに振りまくると、冴美は泣きそうな顔になってこちらを見つめてきた。
その切ない表情がたまらず、神治はさらに唇を擦りつけ、腰を激しく振っていった。
「んぅっ、んっ、んぁっ……あっ、ああっ……凄い、あっ……凄いの、ああんっ……凄いぃっ……」
脚が腰に絡み付き、快感を逃すまいと強くしがみついてくるのに興奮が高まる。
体の全面が柔らかな女肉に覆われ、その蕩けるような感触に肉棒が激しく蠢く。
(うぅ……やっぱいい……冴美さんの体って、凄く気持ちいいや……)
まるで体の全てが冴美の中に取り込まれたかのような錯覚を覚えつつ、その柔らかな圧迫感に気持ちの良さを感じながら、このまま射精したい想いに駆られた神治は、激しく肉棒を突き込んでいった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……わたしもぉ、あっ……わたしもう駄目、やぅっ……わたしもう駄目なのぉっ……」
頭を左右に振り、髪を乱しながら喘ぐ冴美は、切羽詰まった声をあげながら、それまで以上に強くしがみついてきた。
「ああぅっ、あっ、ああんっ……駄目っ、イくっ、やっ……イっちゃう、イくっ……あっ、ああんっ……やっ、やっ、やぁあああああああああっ!」
「うっ!」
冴美が絶叫すると共に強くしがみついてきた瞬間、膣内も激しく収縮し、それに耐えかねた神治は精を放った。
ドピュッドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
凄まじい勢いで放出される精液を感じながら、温かく締め付けてくる肉の感触にうっとりとなる。
肉棒が鼓動するたびに精液が迸り、それと共に湧き起こってくる快感に、たまらない気持ちの良さを覚えた。
冴美は脱力した様子で、時折「あ……はぁ……」と色っぽい吐息を漏らしつつ、神治の放つ精液を受け止めている。
熟れた肉の中に射精するのは何とも言えない心地良さがあり、若い女には無い全てが包み込まれるような安堵感はたまらなかった。
射精を終え、脱力して冴美の体に身を預けると、優しく頭を撫でてくるのに嬉しくなる。
こうした甘えさせてくれる雰囲気が、熟女とセックスする際の良さだった。
同年代や、年下の少女相手では、どこかカッコつけてしまう感覚があるのだが、遙かに年上の女性に対しては、身を委ねて安心出来るところがあるからである。
「神治くぅん、良かったわぁ……やっぱり神治くんは素敵。凄いのぉ……」
そしてこうして褒め称えてくるのもたまらなかった。
年上の女性にそうされると、何とも言えず嬉しくなってしまうのだ。
特に冴美のような優れた女性からされると、それは格別なものなのだった。
「冴美さんだって素敵ですよ。俺、おかしくなりそうでしたもん」
甘えるように頬ずりし、その温かい体に口付ける。
「そう言ってもらえて嬉しいわ。私みたいなオバさんじゃ、神治くんは満足してくれないんじゃないかって、いつも不安だから……」
「何言ってるんですか。こんなに凄く気持ち良くしてくれる体なんてたまりませんよ。冴美さんみたいな年齢だからこその良さってのがありますし。俺はそれが凄く好きなんです」
「本当に?」
「本当ですって。じゃなきゃこんなに抱きませんから。俺は嫌だったら抱きません」
「ふふ、ありがとう……神治くんに満足してもらえているのなら、私は凄く幸せだわ」
ギュッと抱き付いてくるのを可愛らしく思う。
母親くらいの年齢でありながら、こうして男女の関係になると、可愛さが感じられるようになるのだから面白かった。
やはり女として支配している感覚があるからだろうか。
ブティックで見た社長としての厳しい顔を思い出すと、そんな女性をここまで可愛らしくさせている事に誇らしくなってくる。
その時着ていたスーツは傍に掛けてあり、先ほどはその上から体の線をいやらしく見たのだと思うと、その時隠されていた肌が晒され、その肉体を自由に貪っているのだという事に興奮を覚える。
他の男であれば、妄想するしかない事を、今自分はしているのだ。
多くの男が欲情する冴美のような女を、自分は己の物にしているのである。
何とも言えない満足感が湧き起こってくると共に、肉棒が勢い良く勃起した。
「冴美さん、俺、もうしたくなっちゃった」
「え? あらもう? 元気ねぇ……ふふ、そこまで私の体に興奮してくれてるのね。嬉しいわ」
冴美は笑みを浮かべると、強く抱き締め、荒々しく唇を重ねてきた。
何のことはない、冴美ももう我慢できないほどに欲情していたのだ。
経験豊富な熟女だけに、神治の与える快楽の余韻が体を疼かせて仕方がないのだろう。
男慣れしたその体は、いくらでも快楽を受け入れたくてたまらないのである。
そしてそうした体を舐め、吸い、肉棒を押し込んで擦りつける行為は、男としても蕩けるような気持ち良さがあった。
神治はその事に興奮し、ゴクリと唾を飲み込むと、再び冴美の熟れた肉体を味わおうと、勢い良くのし掛かっていくのだった。
「あっ、あっ、ああっ……」
神治は、四つんばいになった冴美を背後から貫き、激しく喘がせていた。
腰を突き込むたびに体がいやらしくくねり、振り返っておねだりしてくる冴美の様子は、何とも可愛らしく、普段のキビキビした様子とのギャップで肉欲がたぎってくる。
そこは冴美の自宅の部屋であり、かつては夫婦の愛の場となっていたダブルベッドの上だった。
冴美の夫は数年前に亡くなっており、それ以来彼女はここで寂しく独り寝をしていたらしい。
と最初は思ったのだが、こうして交わり始めてすぐに、ベッドから強烈な淫の「気」を感じとった神治は考えを改めた。
それは多くの人間の淫靡な「気」が混じり合ったもので、積み重なってこの場に停滞しているものだった。
おそらく冴美は、ここに何人もの男を連れ込み、何度も交わったのだろう。
冴美の性格的に、男遊びというより、恋人にした男がそれだけ多かったという事に違いない。
彼女ほど美人でスタイルが良く、成功している女性であれば、近づいてくる男は多いだろうからだ。
何よりここに停滞している「気」には重みがあり、冴美自身の相手に対する執着と、相手の冴美に対する執着が強く発露したものに思え、それは軽い付き合い程度では感じられない類のものだったからである。
そうした淫の「気」が停滞している場所であるせいか、ここに居ると性的な気分が高まった。
いつも以上に冴美を求め、冴美も激しく求めてきているように思えたのだ。
おそらくそういった事が無意識に感じられているため、冴美はここへ誘ったのかも知れない。
表向き「いつまでもホテルじゃお金ががかるから」と言っていたが、実はこの場で交わる事による興奮を求めていたのだろう。
「あんっ、あんっ、ああんっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……もっとよ、もっとぉっ……ああぅっ、神治くぅん、あっ……もっとお願いぃっ……」
実際冴美の乱れはかなりのものだった。
抱かれ始めた途端、すぐさま目が虚ろになり、体が上気し、涎を垂らしながら悶え狂ったのだ。
その状態に驚いた神治は、与える淫の「気」を抑える事にしたのだが、それでも治まらず、驚くほどの乱れ具合で神治を求めてきたのである。
どうやらこの淫の「気」が停滞する場に慣れた、というより染まっている冴美にとり、ここでのセックスというのは、それだけで蕩けてしまう良さがあるらしい。
神治は興奮を抑える術を知っていたため、いつもより少し興奮した程度で済んでいたが、これが常人であればかなり快楽に狂っている可能性はあった。
互いにそうして激しく興奮して交わるとなれば、実際面における快感もかなりのものになるだろうから、冴美がここでセックスをしたがったのも納得出来る事だった。
「ああんっ、あっ、ああんっ……やっ、やぁっ、やぅんっ……あぅっ、あぅっ、あぁんっ……」
そのような事を考えつつ、腰を激しく突き込んでいくと、冴美は手を崩し、上半身をベッドに押しつけ、尻を掲げる姿勢になりながら悶えた。
「凄いっ、いいっ、凄いの、ああっ……神治くんっ、神治くんっ、神治くぅんっ……もっとっ、もっとっ、もっとしてぇっ……」
頭を左右にブンブンと振り、シーツを強く掴んで引き寄せる冴美の姿は、自分の与えている快楽が強烈なものに思え、神治の中の支配欲、征服欲を刺激した。
この場の力が作用しているとはいえ、それでも実際に喘がせているのは自分であるのだから、こうした乱れた姿を眺めるのは男として最高の気分だった。
自分の一突きごとに頭が仰け反り、いやらしい喘ぎが漏れ、もっとして欲しいとおねだりされる。
それは何とも誇らしい気分にさせられる姿だったのである。
「あぅっ、あっ、ああんっ……激し、あっ……激しいわ、ああっ……そんな激しくされたらわたし、あぅんっ……おかしく、あっ……おかしくなっちゃうぅっ……やっ、やぁんっ……」
振り返り涙を流しながらそう訴えてくる姿に、ゾクリとした興奮が湧き起こる。
狂った色気というべきか、どこか狂気を感じさせるその姿は、恐れを伴う快楽を感じさせたのだ。
神治は心臓の鼓動を高めながら、それまで以上に荒々しく腰を突き込んでいった。
セックスに夢中になり始めたせいか、場の力を防ぐのが弱まり、意識が性欲に染まり始めているのだろう。
自分でも驚くほどに興奮しているのが分かった。
「冴美さん、くっ……冴美さぁんっ……」
歯を食いしばり、射精感を抑えつつ、叩き付けるようにして肉棒を突き込んでいく。
そこにはテクニックなどなく、ただ快楽を求める雄の動きがあるだけだった。
「ああっ、凄い凄い凄いぃっ……凄いのよぉっ……神治くん素敵、ああっ……素敵なのぉっ……こんなの素敵すぎるわ、ああっ、あんっ……」
体をビクンビクンと震わせながら、本当に狂ったとしか思えないような乱れを見せ、冴美は悶えまくった。
それは熟女の色気が最大限に高まった姿であり、その淫靡な雰囲気は、見ているだけでたまらない刺激となって興奮を強めさせた。
「ああんっ、あっ、あはぁっ……もう駄目、やっ……もう駄目なの、ああっ……もうわたし駄目ぇっ……やっ、やっ、やぁあああああああああああっ!」
冴美が全身を硬直させ、凄まじい勢いで仰け反った瞬間、神治も精を放った。
ドクドクドクと勢い良く注がれていく精液と共に、押し寄せてくる快感を感じながら、それが通常よりも強いものである事にうっとりとなる。
やはり場の力が作用して、快感を高めているのだろう。
何しろ精を放つたびに、体に痺れるような快感が走り抜けるのだ。
これは何ともたまらない快感だった。
これからは是非ともここで冴美を抱いていきたいものだ、などと思いながら射精を終えた神治は、肉棒を引き抜くと腰を下ろした。
冴美はまだ快感の余韻が抜けないのか、尻を掲げた姿勢のまま動かないでいる。
時折ピクッ、ピクッ、と体を震わせているのが何ともいやらしい。
だがそんな様子を見ている内に、肉棒が力を取り戻してきたため驚く。
意識せずにこれほど回復が早いとは、この場の力というのは、やはりなかなかのものと言えただろう。
何より肉欲に関しても沸々とたぎってきているのだから凄かった。
精を放ったばかりだというのに、もう抱きたくてたまらなくなってきているのだ。
神治は起き上がると、未だ動かない冴美の腰を持ち、精液で一杯の膣穴に肉棒を押し込んでいった。
ブニュリといった感触と共に肉棒が入り込み、膣襞が絡み付いて、もっと精を寄こせと言わんばかりに蠢いてくる。
場の力により、冴美の体が男を強く求めているのだ。
「……あぁ……あれ? 終わったんじゃなかった?……もしかして、また入れたのぉ?」
冴美はとろんっとした表情をこちらに向けると、不思議そうに尋ねてきた。
「そうですよ。俺、またしたくなっちゃったんです。いいですよね?」
「ふふ、いいわよ……神治くんの好きなだけしていいわ……私をもっともっと神治くんの物にしてぇ……あっ、あっ、ああんっ……」
熟女の色気を強く発散しながらそう告げてきた事に、強い興奮が湧き起こった神治が激しく腰を動かし始めると、とろんっとしていた冴美の表情が一瞬にして悩ましげなものに変わり、甘く喘ぎ出した。
「あっ、ああっ……やっぱり凄い、あっ……やっぱり凄いわぁっ……こんなに凄いの初めて、あんっ……やっぱり神治くんは違う、やっ……神治くんは他の男と違うの、ああっ……神治くんは、あんっ……他の男なんかより凄く凄いのぉっ……」
その男遍歴を匂わせる言葉に、自分が過去冴美を抱いてきた男達よりも優れているのだと認識した神治は、それまで以上に興奮して荒々しく腰を叩き付けていった。
(それにしても……何て気持ちいいんだろ……)
やはりここでしていると、普段より興奮が強くなっている気がした。
腰を動かすたびに押し寄せてくる気持ちの良さ、気分の高揚がいつもより強烈なのだ。
まるでこれから初めて抱くような感覚になっていて、落ち着かない気分になり、早くこの女体を自分の物にしたいという気持ちになっているのである。
これもこの場に停滞している淫の「気」の影響なのだろう。
こうした場の力というのは、結構影響力があるものなのだなと感心しつつ、そのまま何度も冴美を喘がせ、自分の精を注ぎ込みたくてたまらなくなった神治は、その急かされるような感覚に新鮮な想いを抱きながら、激しく腰を振っていくのだった。
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