緋道の神器


        第二十七話  伝わる気持ち



 神治はここ数日、東京にある静の部屋で暮らしていた。
 出来るだけ緋道村へは帰らない様にしているのだ。
 村に居るとどうしても「家族とセックスしなくては」という想いが起き、鬱屈した状態になってしまうからである。
 家族も神治が悩んでいたのを知っていたため、それを快く許してくれた。
 一応ミカへ精液を与えるために毎夜村へは帰っているのだが、未迦知神の神社からは一切出ず、用事が済むとすぐに戻る様にしていた。
 出来るだけ村から離れ、意識を変える事が必要だという静からのアドバイスに従ったのである。
 実際村から離れて生活していると、今まであった鬱屈した感覚が少しずつ薄れていっている様に思えた。
 やはり緋道村と全く異なる生活環境が、気分を変えさせる効果になっているのかも知れない。
 何より静は全く性的な誘いをしてこなかったため、その事がかなり気を楽にさせる効果となっていた。
 最初は「口では否定したけど、本心では抱いて欲しいのでは?」と思っていた神治だったが、今やそういった感覚は無くなっていた。
 それだけ静の態度は自然であり、神治をただの従弟として扱ってくれていたのだ。
 それでいて従弟としては十分に可愛がってくれたため、神治は幼い頃に戻ったかの様に思えて楽しく過ごす事が出来ていたのである。
 静は毎日の様に色々な場所へ案内してくれ、それがまるでデートの様に思えた神治は、憧れの静と二人きりで過ごせるこの生活をかなり気に入り始めていたのだった。


「どう? 大学は面白い?」
 静は手に持っていた缶ジュースを差し出しながらそう尋ねてきた。
 ここは静の通っている大学の構内。
 今日の神治は大学を案内してもらっていたのだ。
 以前から大学という所に興味があったし、静がどういった場所で過ごしているのかも気になったため、見学させてもらう事にしたのである。
 ある程度校内を見て回った後、現在は一休みという事でベンチに座っている。
 そこはちょっとした庭の様になっていて、花壇や芝生のある場所だった。
 まだ夏休みのせいか人影はほとんど見られないが、サークル活動をしているらしい学生の姿が幾人か見られた。
「うん。面白いね、大学って」
 何とも広い校内、いくつもある施設に神治は驚いていた。
 自分の知っている小学校や中学校とは規模があまりに違っていたからだ。
 施設に対する興味で「将来は自分も大学へ行ってみたい」などと思ったくらいなのである。
 そしてこうした事をしていると、特に何かあったという訳でもないが、気分が晴れていくのが感じられて嬉しかった。
 だが完全に気分爽快という程ではなかったため、まだ微妙な感覚は残ってはいたのだが。
 いつになったらこういった感覚がなくなるのかと思うと、神治は少し暗くなった。
「あ、また何か考えてるわね。駄目よ、変な風に考え込んじゃ」
 勘の鋭い静は、神治の内心を見抜いてそう指摘してきた。
 ここ数日は暗くなるたびにツッコまれていたのだ。
「ごめん……」
「謝らなくていいって言ってるじゃない。私は神ちゃんがそのまま暗〜〜くならない様にブレーキかけてるだけなんだから。ほら、さっさと気分を切り替える。笑って笑って。笑うと気分も明るくなるし、健康にだっていいんだからね? 病気も笑っていると治ったりするくらい笑いにはパワーがあるのよ。笑顔、スマイル、ほらほらぁ」
 楽しげにからかう様にして静がそう言ってくると、神治の顔にも自然と笑顔が浮かんだ。
「うん、良し。それでいいの。明るく楽しく笑顔で過ごすのがいいんだから。それじゃもっと笑顔で居るためにも、今夜はお笑い番組のDVDを一緒に観ましょう」
 その言葉は一見神治を気遣っている様に聞こえるが、実際は静が観たいだけであるのを知っていたため苦笑する。
 静はこう見えてお笑いが大好きなのだ。
 落語や漫才、お笑い番組のDVDを沢山持っているのである。
「それってしずねぇが観たいっていうか、俺に一緒に観てもらいたいってだけでしょ?」
「だって一人で観るより二人で観た方が楽しいじゃない。今まで一人で観てたから寂しかったんだから。神ちゃんが一緒に暮らしてくれてホント嬉しいわ」
 一緒に暮らす様になって以来、毎日の様にお笑い番組のDVDを観せられていたため、実はこれを目的に同居を薦めてきたのではないかと疑うくらいだった。
 だがもしそれが目的だったとしても、実際に神治の意識は改善されつつあるのだから、十分に感謝すべき事ではあったのだが。
「明日は寄席に行きましょう? 生で聞く落語はいいわよぉ。特に今回は、っと、電話だ。ちょっと待ってね」
 不意に電子音のメロディが流れ、静は鞄から携帯電話を取り出すと耳に当てている。
「……え? もう、しょうがないなぁ……分かった、すぐ行くから……」
 静は携帯電話を切ると、困った様に息を吐き出した。
「神ちゃん、悪いけど今日はここまでにしてもらえる? ちょっと友達に頼まれごとされちゃったのよ。どうしても私じゃないと駄目だって言うから。まだ全部回ってないのに、ホントごめん」
 静は両手を合わせると、申し訳なさそうに頭を下げた。
「別にいいよ。俺はどうせ暇なんだしさ。それに今日中に全部回らなきゃいけないって訳でもないじゃない」
「そう言ってもらえるとありがたいわ。それじゃ正門まで一緒に行きましょ。私の用事もそっちだから」
 微笑みながら立ち上がった静に続いて神治もベンチから腰を上げる。
 そしてそのまま正門に向かって歩きだそうとした時だった。
「あ、静さん。こんにちは」
 不意に声が聞こえ、視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。
「あら、満里奈じゃない。あなたも何か用事があったの?」
「ええ、サークルの集まりで……」
 どうやら静の友人らしいその女性は、一瞬こちらに視線を向けたが、神治と目が合うと慌ててそらした。
「あ、この子は私の従弟で神治って言うの。大学が見たいっていうから案内してたのよ」
「そうなんですか。私は静さんの後輩で小原満里奈と言います。静さんとはゼミが同じなんですよ?」
 その女性、満里奈はそう言いながら軽く頭を下げた。
「どうも、緋道神治です」
 神治も名前を言いながら頭を下げる。
 そして改めて満里奈の姿をまじまじと見つめた。
 背は神治より少し高いくらいだろうか。
 長い黒髪を腰の辺りまで伸ばしており、全体的に細身の体型をしている。
 それでいて胸元は大きく膨らんでおり、かなり巨乳であるのが分かった。
 顔は美人と言える部類だったが、どこか自信無さげな雰囲気が儚げな印象をもたらして影を薄くしている。
 悲しげな、今にも泣き出しそうな表情が余計それを助長している感じだった。
 何というか「気弱なお嬢さま」といった表現がピッタリの女性だった。
「本当はね、もっと案内しようと思ってたんだけど、ちょっと呼び出されちゃって……だから帰るところなのよ」
「そうなんですか、それは残念ですね」
「まあ、別の日にまた案内するって事にしたけどね。でも今日で全部案内できれば明日は寄席に行けたのよね。まったく急に呼び出すんだもの。困っちゃうわよ」
 静は腹立たしげに呟いている。
 昔から計画した事が上手く進まないと嫌なのだ。
 特に今回は寄席に行けなくなったため、余計腹を立てているのだろう。
「あの……もし宜しければ、私が静さんの代わりに従弟さんをご案内しましょうか?」
「え? 別にいいわよ。あなただって暇じゃないでしょう?」
「いえ、ちょうど暇なんです。さっき言ったサークルの集まりが駄目になったんで、これから帰るところでしたし。案内するくらい大丈夫ですから」
「そうなの?……どうする神ちゃん、案内してもらう?」
「迷惑でないのなら、お願いします」
 本来なら断っても良いのだが、神治は何となく満里奈に興味があった。
 今まで周囲に居なかったタイプのせいか、もう少し話をしてみたかったのだ。
 以前ならそれこそ「抱きたい」という意識があっただろうが、今はそういった事よりも人間性に引かれたのである。
 それに性欲が無くとも、美人とはやはり親しくなりたいという部分もあったのだ。
「ふぅん……じゃあ満里奈、お願いできるかな?」
 静は一瞬何か含んだ様な笑みを浮かべたが、特に何も言わずに満里奈に尋ねている。
「ええ、お任せ下さい。きちんと案内しますから」
「うん、宜しくお願いね。それじゃ私はそろそろ行くから」
 静は満里奈の了承を聞くと、そのまま手を振り、軽やかな足取りで去っていった。
 神治はしばらく静の後ろ姿を見ていたが、少しすると満里奈に視線を向けた。
 その視線を感じたのか満里奈はこちらを向いたが、目が合うと慌ててそらしている。
 そしてそのままでいるのかと思いきや、今度はゆっくり視線を合わせてくると、困った様に微笑んだ。
(う〜〜ん、面白いなぁ……)
 神治はこれまで多くの女性と知り合いになったが、満里奈の様なタイプは初めてだった。
 何というか、こちらを怖がっているというか、気後れしている様に見えるのだ。
 多分気の弱い性格なのだろうが、それが分かりやすく伝わってくるのである。
「カッコいいですよね、静さんって」
「そうですね。しずねぇ、あ、静さんは小さい頃から俺の憧れなんですよ」
 不意にかけられた声に応えつつ、思わず「しずねぇ」と言ってしまったことを恥ずかしく感じる。
 親しい人間相手ならともかく、会ったばかりの相手との会話で使う言い方ではなかったからだ。
「ふふ、普段は『しずねぇ』って呼んでるんですか? いいですねぇ、お姉さんって感じで」
「まあ、実際姉みたいなもんなんですよ。俺には姉が居るんですけど、もう一人の姉って感じになってますから」
「そうなんですか。静さんみたいなお姉さんなら素敵ですね」
「からかわれてばかりですけどね」
「それじゃ私たちは似た者同士かも知れませんね。私も静さんにはからかわれてばかりですから」
 そう言って満里奈は笑った。
 気弱そうな性格から人見知りしそうに思えるのだが、自ら話しかけてくる点からして、実際はそうでも無いのかも知れない。
 そもそも案内を買って出るほどだから、見た目と違って積極性はあるのではないかと神治は思った。
「えっと、神治くん、でいいんですよね? そう呼んでいいですか?」
「いいですよ」
「じゃあ、私の事も満里奈でいいですよ」
「はい、満里奈さん」
 神治がそう答えると、満里奈は嬉しそうに微笑んだ。
 どことなく儚げな印象のあるその笑顔は、何とも神治をドキリとさせるのだった。


 その後、神治は見ていなかった施設を満里奈に案内してもらい、しばらくしてからテラスでコーヒーをご馳走になっていた。
 テーブルの向かいでは、満里奈がボンヤリと空を見上げている。
 案内してもらっている最中もそうだったのだが、満里奈は時折そうして何事かを考えているのかいないのか、ボーッとしている事があったのだ。
 最初は何か悩みでもあるのかと思ったのだが、そういう感じでもなかった。
 おそらくこうした状態が普通なのだろう。
 いわゆる天然系の人間に違いなかった。
(やっぱり面白いなぁ……)
 コーヒーの入った紙コップを両手で抱える様にして持ったまま、ボーッと空を眺めている満里奈を見つめる。
 美人だけにそうしていると実に絵になっており、神治は何やら嬉しい気持ちで一杯になった。
「一応これで全部案内出来たと思いますけど、どうでした?」
「あ……ええ、面白かったです。今日はどうもありがとうございました」
 それまでずっと黙っていた満里奈が急に質問してきたため、神治は驚きつつ慌てて礼を述べた。
 ここら辺の不意打ちが、どうにもマイペースというか、満里奈が天然と思えるゆえんだった。
「いえ、拙い案内でごめんなさい。私があまり行かない施設もあったから……」
 案内の途中、何度か迷ったのだが、その事を言っているのだろう。満里奈は申し訳なさそうにしている。
「そんな事ないですよ。十分楽しかったですから」
 迷った時の満里奈の様子が、本当に困っている感じで可愛かったのを思い出しながら神治は答えた。
 オロオロとしていて何とも言えない良さがあったのだ。
 美人の満里奈のそうした姿を眺められたという点で、今回の案内に関しては満足する内容だった。
「そうですか? それなら良かったですけど……」
 満里奈は困った様な表情を浮かべた後、嬉しそうに微笑んだ。
「それにしても神治くんって、やっぱり静さんの従弟って感じがしますね」
「え? 何でですか?」
「う〜〜ん、雰囲気が似ているっていうか、一緒に居ると妙な感じがするのが同じっていうか……」
「妙な感じ、ですか?」
 そんな事を言われたのは初めてだった。
 静とはさほど顔は似ていないし、性格的にかなり違っているため、似ているというのが分からなかったのだ。
「言葉では上手く言えないんですけど、何か似ているんです……あ、これって私が勝手に感じているだけですから気にしないで下さい……私っていつもこうなんです。友達にも『あんたはいつも変な事ばかり言ってる』って言われて……」
 満里奈は恥ずかしげに呟いている。
「大丈夫ですよ。俺、そういう変な事って好きですから」
「ありがとうございます……ふふ、そんなところも静さんと似てますね。静さんもそう言ってくれたんですよ?」
 嬉しそうに笑っている満里奈を見ながら、やはり面白い女性だと神治は思った。
「それじゃこれからどうしましょうか? もう家に帰ります? 静さんのマンションなら送りますけど」
「そうですね、帰ります。でも送ってくれなくても大丈夫ですよ」
「そうですか? でも迷ったりとかしないですか?」
 かなり心配そうに見つめてくる満里奈の様子に神治は可笑しくなった。
 先ほど満里奈自身が迷った時の、オロオロした様子を思い出したのだ。
 思わず笑いそうになって口を押さえる。
「あ、失礼なこと考えてますね? もう、神治くんったら酷いです」
 その事で神治が何を想像しているのか分かったのか、満里奈は拗ねた様に顔をそらした。
 ボケている様でいて、結構鋭いところもあるらしい。
「すみません。迷った時の満里奈さん、凄く可愛かったもので……」
「え? あ、う……そ、そうですか……」
 思わず口にした神治の正直な感想に、満里奈は恥ずかしげに俯いた。
 見ると顔が赤くなっている。
 神治としては軽い気持ちで言ったのだが、どうやらかなり本気で受け止められてしまった様だ。
 そうした態度を取られると、何やら神治自身も恥ずかしくなってしまった。
「そ、それじゃ神治くん。か、帰りましょうか?」
「あ、はい……」
 二人は妙な雰囲気になりながら、無言で正門へ向かって歩き出すのだった。


 そうして無言のまましばらく歩いていたのだが、正門が近づくにつれ、神治はこのまま満里奈と別れるのが寂しく感じられてきた。
 満里奈は年上の優しさと、年上らしくない可愛らしさがあり、何というか一緒に居て楽しかったのだ。
 簡単に言えば「気が合う」「相性がいい」といったところだろうか。
 要するにこの短い間に、神治はすっかり満里奈に対して好意を抱くようになっていたのである。
 ゆえに出来ればもっと一緒に居たいという想いがあったのだが、先ほど断ってしまった手前、今更送ってもらうのも気が引けた。
 断らなければ良かったと思いつつ、今度また会う事にすればいいか、などと思う。
「あの、神治くん……」
「はい、何ですか?」
 不意にそれまで黙っていた満里奈が声をかけて来たため、神治は驚きつつ返事をした。
「その、もし良かったら、これから私の家に来ませんか?」
「え……?」
「その……神治くんって大学がどういう所なのか見に来たんでしょう? だったら大学生の暮らしってのも興味あるかと思って……それで私の住んでいる部屋を見てもらえばいいかなぁって……」
 確かに大学生の暮らしというのは興味あったが、それはすでに静の部屋を見て知っている。
 普通に考えればその事は分かるはずなのだが、満里奈は気がついていないのだろうか。まあ、天然の満里奈の事であるから、実際そうなのかも知れない。
 何にせよ、家への招待というのは好意の現れであるため、神治はその事が嬉しくなった。
「それじゃ、ご迷惑で無ければお邪魔します」
 元々別れがたい気持ちのあった神治としては喜ばしい誘いであったため、素直に応じる事にした。
「迷惑なんて無いですよ。私から誘ったんですし……それじゃ行きましょう」
 嬉しそうに笑うのにドキリとしながら、神治は満里奈の後に付いていくのだった。


(こいつは凄いなぁ……)
 案内された満里奈の住んでいる部屋は、何とも立派なマンションの一室だった。
 静の部屋も豪華だったが、満里奈の部屋も負けず劣らず豪華だったのだ。
 どうやら見た目の印象通りのお嬢さまらしい。
 高そうな絨毯の上に小さなテーブルが置かれてあり、神治はその前に座ってキッチンに立った満里奈が戻ってくるのを待っている。
「お茶です、どうぞ」
 部屋に戻ってきた満里奈はテーブルの上に紅茶の入ったカップを置くと、ニコリと笑って正面に座った。
 神治はその様子に、どことなく外に居た時と異なった雰囲気を感じてドキリとしてしまった。
 女性経験はかなり豊富であるにも関わらず、そうした反応をしてしまうのは、セックス抜きで女性に接した経験が少ないせいかも知れない。
 そうした意味で、神治は女性と密室で二人きりで話すという行為には慣れていなかったのだ。
「神治くん、そのぉ……ちょっと聞きたい事があるんですけど……えっと、いいですか?」
 満里奈が何やらモジモジしながら聞きにくそうに尋ねてきた。
「ええ、いいですよ。何でしょう?」
 その様子を微笑ましく感じながら、何が聞きたいのかと身構える。
「何て言うか、聞きにくい事なんですけど……間違ってたらゴメンなさい……その……神治くんって、普通の人には無い力とかってあります?」
「え?」
 あまりにも予想外の事を聞かれたため驚く。
 いくらなんでも突拍子が無さ過ぎだった。
 だがそれは満里奈にも自覚があるゆえに、聞きにくそうにしていたのだろう。
「いきなり変な事を聞いてしまってごめんなさい。でもそれには訳があって……実は私、変な力を持っているんです」
「変な力?」
「人の存在っていうか、私は『オーラ』って呼んでるんですけど、そういうのが感じられるんです」
「オーラ、ですか?」
「ええ……見えない場所に居ても、その人がそこに居るってのが分かるんです。その人の発しているオーラが私に教えてくれるというか……」
 どうやらそれは「気」の事を言っているらしかった。
 神治自身も「気」を読む事で人の位置を把握出来るからだ。
 おそらく満里奈には「気」を読む能力があるのだろう。
 そう言えば大学を案内してくれた時にも、神治と静に対する印象として「妙な感じがする」と言っていたが、その力ゆえの感想といったところだろうか。
 神治が尋ねてみると、満里奈はその通りだと答えた。
「力のある人って普通の人とは違う感じがするんです。それはえっと……そう、飲み物で例えると普通の人は水なんですけど、静さんと神治くんは紅茶って感じなんですね。だからお二人は妙な感じがしたんです……それで特に強い力を持っている人は濃い紅茶の感じがして、それを神治くんにも感じたんです……」
 満里奈は手元の紅茶を見つめながらそう呟いた。
「なるほど、だから俺にも何か普通じゃない力があるかもって思った訳ですか?」
「はい……あ、ごめんなさい。別に問いただしている訳じゃなくて……もしそうだったら嬉しいなぁ、と思っただけなんで……」
「嬉しい?」
「あ、はい……私、その、神治くんと仲良くなれたから……もし同じ様に力を持っていたら、もっと仲良くなれるんじゃないかと思って……」
 満里奈は恥ずかしげにそう呟くと、下を向いてしまった。
 かなり顔が赤くなっているのが分かる。
(か、可愛い……)
 年上であるにも関わらず、何と可愛らしい女性だろうか。
 神治は満里奈に対して激しい愛おしさを覚えた。
 そしてそのせいか、力の事を話しても良い様に思えてきた。
 というか、別に隠している訳ではないので、元々言っても構わないのだが。
「満里奈さんの感覚は間違ってませんよ。俺、力を持ってますから」
「そ、そうなんですか……やっぱり……」
 神治の言葉に、満里奈は顔を上げると嬉しそうに微笑んでいる。
「そういう訳なんで、今後とも仲良くして下さい。俺、満里奈さんと一緒に居るのって楽しいですから」
「はい、それはもちろんです。こちらからお願いします」
 同じ様に力を持っている事がよほど嬉しかったのか、満里奈は泣きそうな顔をしながら満面の笑みを浮かべている。
「それで満里奈さんの力って、そのオーラを感じる事だけなんですか?」
 オーラ、つまり「気」を感じる事が出来るのなら、その応用として何かしら力が使えるのではないかと思って尋ねてみる。
「そうですね。一応ちょっとした事は出来ます」
「どんな事です?」
「オーラを感じる事で、相手の気分や感情なんかが分かります。それと、私の気持ちを逆に伝える事も……」
 そう言っている満里奈からはピンク色の気が感じられた。それは普段神治が淫の気として認識しているものだ。
 どうやら満里奈はかなりこちらに好意を抱いてくれているらしい。
 控えめの女性であるからあからさまな態度は見せていないし、本人も気づいてはいないが、体はすでに神治に抱かれたい状態になっているのである。
 これは別に今すぐにでもセックスしたいと満里奈が思っているという事ではなく、体が本能として神治を求めているという事だった。
「それで、神治くんはどんな力を持っているんですか?」
「え? あ、そうですね……ええっと、何て言ったらいいのか……」
 具体的に尋ねられた神治は一瞬言い淀んだ。
 何しろ日頃自分が使っている力と言えば、女性を欲情させ、気持ち良くさせるためのものだったからだ。
 そんな能力の事を純真そうな満里奈に告げるのははばかられたのである。
 緋道村であれば問題ないが、相手は普通の社会に住む女性だ。その様な力があると知ったら嫌がるだろう。
「あの……言いたくないんでしたら、無理に言わなくてもいいですから……」
 神治が黙り込んだせいだろう、満里奈は済まなそうにして呟いている。
「いえ、そういう訳じゃないんですけど、ちょっと女性には言いにくいというか……」
「そうなんですか? でも私は気にしませんよ。大丈夫です」
 満里奈は神治を安心させる様にして頷いている。
「そうですか?……じゃあ、言いますけど……その、女性を抱く時にですね、より気持ち良くさせる力というか……」
「え?……あ、え? 抱くって……その……」
「ハッキリ言えば、セックスを気持ち良く行うための力です」
「!……」
 神治が告げると、満里奈は一瞬驚いた様に目を見開いた後、顔を真っ赤にして俯いた。
「あ、ご、ごめんなさい。気にしないって言ったのに……さすがにちょっと予想外だったから……」
「いいんですよ。恥ずかしい事ですから」
「そ、そんな事ありませんっ。だ、大事な事ですからっ」
 神治が少し恥ずかしげに呟くと、満里奈は大きな声で否定した。
「セックスは子供を作るための行為ですし、そうでなくても男女の愛の証です。それがより素敵になるのなら、それは素晴らしい力ですよ」
 何とも美しいイメージで語られた事に苦笑する。
 神治としては、普段快楽のためにしているだけに、セックスとはそんな高尚な物だったかと思ったからだ。
「ありがとうございます。まあ、こんな力、あったってなかなか役に立ちませんけどね」
 以前は誇らしく感じていたのだが、今はセックスが疎ましいため、そのための力などあっても嬉しくはなかった。
「でも恋人が出来れば喜ばれると思いますよ。き、気持ちいいんですから……」
 満里奈は恥ずかしそうにしながら、そんな事を言っている。
 どうやら神治が少し暗くなったため、励ましてくれたらしい。もしかしたら自分のせいで暗くなったとでも思ったのだろうか。
 それは勘違いなのだが、優しくそう言ってもらえる事が神治には嬉しかった。
「そうですね。恋人なら喜んでもらえるかも……自信はありませんけど……」
 こんな気分の乗らない状態で抱いたとしても、相手は気を遣ってしまい、本当の意味では楽しめないだろう。
 実際家族は皆そうなのだ。
 気にしていないのは無邪気なミカと巫女のほたるだけだった。
「大丈夫ですよ。神治くんはきっと上手くやれると思います。わ、私も経験は無いですけど、神治くんとするとしたら気持ち良くなると思いますし……」
 満里奈は一生懸命励ましてくれているが、事実上手くやれていない神治としては、あまり元気にはならなかった。
 それより「経験が無い」という言葉から、満里奈が処女だという事を知って少し興奮を覚えた。
 村ではこの年齢での処女など居ないため、その事が刺激的だったのだ。
「俺とだったら気持ち良くなれるんですか? 本当に?」
 不意にいたずら心を起こした神治は、少し挑戦的な口調で尋ねてみた。
 こうやって尋ねたらどう答えるか興味があったのだ。
「な、なれます。神治くんが相手なら気持ち良くなれますよ。それに力があるのなら余計になりますよっ」
 満里奈も自分で言い出した手前、否定出来ないのかそう答えている。
 大人しい様でいて妙に頑固な部分もある女性だった。
「それじゃ、俺としてみます? セックス」
 冗談っぽく尋ねてみる。
 これで満里奈は返答に困るだろうから、その様子を見てみたかったのだ。
 案の定、満里奈は息を飲み、どうしたものかと視線を泳がせている。
(ちょっと可哀想かな……?)
 これ以上虐めるのは可哀想だと思った神治は、冗談だと告げようと口を開きかけた。
「は、はいっ。しますっ。セックスしますっ」
 だが満里奈はこちらが何か言う前に、大きな声でそう答えた。
「……」
 さすがに予想外だった返答に神治は固まった。
 いくらなんでもつい少し前に会った男とセックスするなどあり得ないだろう。ここは緋道村ではないのだ。
 しかも満里奈は処女なのだから、そんな気楽にセックスを受け入れるなどおかしかった。
「あの……するんですか? 俺と……その、セックスを……?」
「ええ、します。しますよ」
「で、でも、満里奈さん、さっき経験無いって言ってましたよね? 初めてをこんな風にしちゃうってのは……」
「いいんです。どうせいつかはする事ですし。相手が神治くんなら構いませんっ」
 これはやはり意固地になっているとしか思えなかった。
 もしかしたら、年下の子供相手に負ける訳にはいかないとでも思っているのではないだろうか。
 そんな意地で初体験をするなど良くない事だろう。
 神治は、自分が軽い気持ちで言った事が満里奈を追い詰めてしまった事を申し訳なく感じた。
 そもそも全くセックスをする気が無いのだから、そういう意味でも酷い事をしたと言えるのだ。
 ここはこちらが謝って、丸く収めるのが一番に思えた。
「満里奈さん、俺が馬鹿でした。変なこと言ってすみません。セックスなんてしなくていいですから……」
「何を言ってるんですか? しましょう。私、神治くんとセックスしたいです」
「いや、俺が言ったのは冗談で……満里奈さんが困るのを見たかっただけなんですよ、ゴメンなさい……」
 深々と頭を下げる。
 このまま謝り続け、満里奈のプライドを傷つけず無かった事にするしかなかった。
「そんなの関係ありません。私が自分で神治くんとセックスしたいんですから」
「いや、でも俺……」
 セックスしたくない、と言いかけ、その言葉が満里奈の女としての魅力を否定する意味に聞こえる事に気づいた神治は口をつぐんだ。
 以前であれば、満里奈の様に魅力的な女性は抱きたくてたまらなかっただろう。
 だが今の神治は誰が相手であれ、セックスをする気が起きなかったのだ。
「私じゃ……嫌って事ですか?」
 ボケているくせに妙なところで勘の鋭い満里奈は、神治が言いかけた言葉の続きを推測したらしく、そんな事を言っている。
「そ、そういう訳じゃありません。満里奈さんは魅力的ですから。本当なら喜んで抱かせてもらいます。でも今は……」
 神治はどう説明したものかと黙り込んだ。
 考え出した途端、セックスの際に気を遣ってくる家族の顔が浮かんで暗くなってしまったのだ。
「何か、理由があるんですか?」
「え?」
「神治くん、何か悩みがあるみたいな感じだから……」
 満里奈は労る様に尋ねてきた。
 その事で神治は、満里奈が何と心の優しい女性なのだろうと思った。
 腹を立てているはずなのに、神治が暗くなっているのに気づくと労ってきたからだ。
 それが何やら嬉しかった神治は、このまま正直に話してしまおうかと思った。
 だが村の住民ではない満里奈に、どうやって説明すればいいのだろう。
 まさか「家族とセックスしまくっているけど、最近それが楽しくない」などと言える訳が無いからだ。
「やっぱり力の事ですか? セックス関係の力なんて、神治くんの年頃じゃ凄く辛いでしょうし。私で良かったら相談に乗りますよ?」
「え? いやその……」
「恥ずかしがらないで……どんな事でも話してくれていいんですよ? 聞いた事で私が何か出来るか分かりませんけど、人に話す事でスッキリする場合もありますし。試しに話してみるってのはどうですか?……それに私たちはセックスしようとした仲じゃないですか。もう他人じゃありませんよ」
 最後は冗談っぽくそう告げると、満里奈は優しげに微笑んだ。
 何やらすっかり悩み相談の場になった事に心の中で苦笑する。
 まあ、先ほどの様にセックスを迫られるよりはマシだが、一体何を話せばいいのかと困ってしまった。
「具体的にどういった力なんですか? そこから話してみて下さい」
 そう言われてハッとなる。
 力の話だけであれば問題は無かったからだ。何しろ家族との関係を話す必要は無いのである。
 その事に少しホッとしつつ、神治は力について話す事にした。
「じゃあ、話しますね……その、俺の力は、簡単に言えば媚薬みたいなもんなんです」
「媚薬って、あの凄く興奮させる薬のことですか?」
「そうです。俺は薬を使わないで同じ効果を与えられるんですよ。それで女性を気持ち良くさせられるんです」
「そ、そうなんですか……」
 話す様に促したものの、やはり性的な話は恥ずかしいのか、満里奈は顔を赤くしている。
「色々やり方はあるんですけど、簡単なのは目を使うのですね」
「目? 目でどうするんです?」
「意識して相手の目を見つめると、その人は興奮してしまうんです」
「興奮って……目を見るだけでですか……?」
 満里奈は納得できない感じで呟いている。あまり実感が持てないのだろう。
「ちょっと分かりにくいですかね。まあ、変な力ですからしょうがないんですけど」
「そ、そんな事ありませんよ。分からない私が悪いんです……そ、そうだ、試しに私に使ってみてくれませんか? そうすれば実感が持てると思うので」
「え? でも興奮するんですよ? 嫌でしょうそんなの」
「構いません。私は神治くんの力が知りたいですから……それに、さっきまでセックスしようとしてたんですから、それくらいいいでしょう?」
 確かに実際にセックスをするつもりだったのだから、大した事ではないのかも知れない。
 それに言葉で言われるよりは分かりやすいだろう。
「分かりました。じゃあ、使いますね?」
「お、お願いします……」
 神治が了解すると、満里奈は姿勢を正した。
 その様子を少し可笑しく感じながら、神治は満里奈の目を見つめ、眼力の力を使った。
「あっ……」
 次の瞬間、満里奈は体をビクビクっと震わせ、体を硬直させた。
 見る間に頬が上気し、目がトロンとした状態になっている。
 半開きになった唇からは、ハァハァといった熱い吐息が漏れ始めたのが分かった。
 脚をモジモジさせているのは、秘所が感じやすくなっているせいだろう。
 おそらくすでに愛液が溢れているに違いなかった。
「どうですか?」
「え?……あ、はい……そうですね、何か凄いです……」
 満里奈は惚けた口調で答えながら、視点の合わない目をこちらに向けている。
「取り合えずこれが俺の力です。分かってもらえましたか?」
「はい……わか、分かりました……」
 落ち着かない様子でボンヤリ答えながら、満里奈は何かを求める様にしてこちらを見つめている。
 その目は激しく潤んでおり、もう耐えられない状態であるのは明らかだった。
(ちょっとやりすぎちゃったかな。久しぶりに使ったからなぁ……)
 などと神治が思った瞬間だった。
(え? な、何だこりゃっ?)
 突如満里奈の体から凄まじい量の霧の様なものが吹き出し、神治の方に迫ってきたのだ。
 それはピンク色をした霧であり、あっという間に神治にまとわりついてきた。
「ぐっ……」
 すると驚いた事に股間の一物が激しく勃起し、急激に女が欲しくてたまらなくなった。
 呼吸が乱れ、目が勝手に動いて満里奈の体を舐める様にして見てしまう。
(こ、これは……もしかして、満里奈さんの力、なのか……?)
 先ほど「自分の気持ちを伝える事ができる」と言っていたが、確かに今の神治には満里奈の気持ちが物凄く分かった。
 現在神治が感じている「異性が欲しくてたまらない」という気持ちは、まさに満里奈が眼力によってなっているはずの状態だったからだ。
 しかしこれが満里奈の特殊な力のせいだとすれば、その効果は気持ちを伝えるだけではなく、肉体に対しても変化を及ぼしている事になるだろう。
 何しろ単に「セックスがしたい」という気持ちが分かっただけでは、肉体変化をもたらすには至らないからだ。
 だが実際神治の体は欲情しており、それは先ほど体にまとわりついたピンク色の霧が何かしらの作用を肉体に与えたとしか思えなかった。
 そして目の前では満里奈が色っぽく体を揺らしながら甘い吐息を漏らしており、神治はその様子に激しい肉欲を覚えた。
 満里奈の力のせいか、久しぶりに女が欲しくてたまらない状態になっていたのだ。
 今すぐにでも満里奈を押し倒し、その豊満な肉体を貪りたい気持ちになっていたのである。
(お、俺……したくなってるじゃん……)
 これほど積極的にセックスしたくなるなどいつ以来だろう。
 その事に嬉しくなったが、問題なのは相手が緋道村の人間ではない点だった。
 普通の社会に暮らす女性、しかも処女とセックスしてしまっていいのだろうかという想いがよぎったのだ。
 そういった相手を抱いた事のない神治にとり、それは結構な決断を要する事だったのである。
(だ、だけど……凄くしたい……)
 しかしそうした理性は、体の奥底から押し寄せてくる衝動によって消えそうになっていた。
 そもそも神治には性欲を抑える力があるのだから、それを使ってしまえば良いのだが、久々にセックスしたい気持ちになったのを強引に消し去るのが嫌なのも正直な想いだった。
「神治、くん……」
 そうして悩んでいると、不意に満里奈が辛そうな、求める様な口調で囁いてきた。
 それは実に強烈な刺激であり、セックスがしたくてたまらなくなっている神治にとって耐えられる誘いではなかった。
(くっ……もう駄目だっ……)
 目を上げ、満里奈の弱々しい表情を見た瞬間、神治の中で何かが弾けた。
「満里奈さんっ……」
 勢い良く満里奈に襲いかかると、細い体を強く抱き締め、その場に押し倒す。
「あっ……」
 満里奈は一瞬驚いた表情を浮かべたが、抵抗する事無く倒れ込んだ。
 柔らかな肉の感触が伝わり、神治は激しく興奮しながら唇に吸い付いていった。
「んっ……んんぅっ……」
 舌を押し込み、口内を舐め回して満里奈の舌に絡めつつ唇を擦り合わせる。
 顔を左右に入れ替えながらキスを繰り返し、豊満な乳房に手を伸ばしてギュッと掴む。
「んんっ……んぁっ、はぅっ……神治、くぅん……」
 甘える様な声を発して、満里奈がこちらをジッと見つめてくる。
 その頼り切った様子は獣性に火をつけ、神治は両手で乳房を荒々しく揉みしだいた。
「あぅっ……あっ……やぁっ……」
 満里奈は泣きそうな顔をしながら頭を左右に振っている。
 そうした表情は、何やら「もっといやらしく、もっと激しく責めて欲しい」と言っているかの様に見え、神治の興奮はさらに高まった。
 落ち着き無く満里奈の服を捲り上げ、ブラジャーに包まれた乳房に見入る。
 そのままその白い膨らみを覆う布を剥ぐと、桜色をした突起が顕わになった。
 顔の美しさに似合った乳房の形の良さに鼻息を荒くしながら、神治は乳首に吸い付いていった。
「あっ……やっ……」
 満里奈が可愛らしい声をあげながら顔を背ける。
 その様子が何とも色っぽく、神治の興奮は激しく高まった。
 豊満な乳房をギュッと掴むと心地良い柔らかさが手のひらに広がり、桜色の乳首をチュパッと吸うと、甘い味わいとどこか懐かしい感触が口の中に広がった。
「あんっ、やぁっ……はぅっ……」
 長い黒髪を乱し、満里奈は快感に耐えられない様にして体を小刻みに震わせている。
 それは泣きそうな表情と相まって、何とも言えない嗜虐心を呼び起こした。
 この弱々しい生き物をもっと虐め、もっと自分に従わせたい。
 そんな荒々しい衝動が体中に広がり、神治は満里奈の体を強く愛撫していった。
「あっ、あっ……やっ、あぁ……んっ、んんっ……」
 首筋を軽く舐め回し、可憐な唇に吸い付いていく。
 舌を押し込んで口内を刺激すると、満里奈は体をピクピク震わせ、求める様にして抱き付いてきた。
「んんっ……んっ、んぅっ……んぁっ、はぁっ……」
 しばらくねちっこいキスを繰り返した後、ゆっくりと唇を放す。
 体を起こして見下ろすと、満里奈はトロンとした表情で甘い吐息を漏らしながらあらぬ方向を見つめていた。
「しますよ……?」
 神治が問いかけると、満里奈はそれが聞こえているのかどうなのか分からない感じで視線を彷徨わせている。
 おそらく初めて経験した快感に意識がボンヤリしているのだろう。
 返事はもらえなかったが、先ほどセックスをする了解は得ているのだ。
 気にせずしてしまって構わないだろう。
 何より神治自身がもうしたくてたまらなかったため、我慢など出来なかった。
 下半身に移動し、スカートを捲り上げるとパンティに手をかけて一気に引き下ろす。
 秘所を見ると、すでに濡れ濡れになっているため、このまま入れても大丈夫に思えた。
 神治はズボンとパンツを下ろして肉棒を取り出すと、のし掛かる体勢になりながら秘所へ近づけていった。
 ズブ……。
「あ……」
 亀頭が膣穴にハマった瞬間、満里奈が驚いた様に目を大きく開き、小さな声を漏らした。
 だが抵抗する様子が無かったため、そのまま肉棒を押し込んでいく。
「あ……ぐ……」
 処女らしく痛みに歪めた顔が妙にそそり、神治は久々に激しい興奮を覚えていた。
 元々どこか虐めたくなる雰囲気のある満里奈は、こうした表情をすると何ともたまらない良さがあったのだ。
(うっ……何だろ、変な感じが……)
 不意に体の奥底から、激しい衝動が押し寄せてきた。
 それは荒々しいものであり、神治は満里奈を無茶苦茶にしたくてたまらない気持ちで一杯になった。
 本来なら経験者らしく穏やかに満里奈を気持ち良くさせたかったのだが、それ以上に自分が快楽を貪りたい想いに包まれていたのだ。
「あっ、あっ、ああっ……」
 勢い良く腰を動かして満里奈の中を擦りあげると、弱々しい可愛い声が部屋に響いた。
 同時に気持ちのいい感触が股間から湧き昇り、神治はそれに夢中になった。
 セックスでの快感など慣れているはずだったのだが、それは何故かいつもしているものとは異なる心地良さがあったのだ。
「やっ、あっ……やぁっ、あっ、あんっ……」
 満里奈ももう痛みが無いのか、快感の喘ぎを発しているのが余計それを助長させた。
 腰が前後するたびに、か細い声で満里奈が甘く泣き、それが心地良さを高めてさらに強い快感となっていく。
 眼下では長い黒髪を乱し、頬を上気させながら快楽に悶える満里奈の姿があり、その頼りなげな悶え方が嗜虐心をそそってたまらなかった。
 この女を自分のものにしたい。
 もっといたぶり、もっと快楽に狂わせたい。
 そんな荒々しい想いが湧き起こると共に、慈しみ、優しく守りたい様な温かさも感じた。
 相反する想いが混じり合う事で、妙な気持ちの良さが心身に溢れ、神治はその経験した事のない状態に面白さを覚えた。
 満里奈は他の女とはどこか違っている。
 力があるせいだろうか、そして自分が満里奈の力にやられているせいだろうか。
 理由はよく分からなかったが、とにかく神治は満里奈をもっともっと気持ち良くさせたくてたまらなかったのだ。
「あぁっ、あっ、ああんっ……」
 自分の唇と手、そして肉棒の「気」を高め、触れる事で快感が強まる様にすると、満里奈が激しく悶えた。
 それは強烈な刺激であり、今彼女は人間相手では味わえない快楽を得ているはずだった。
(くっ……これは……)
 そして神治自身も強烈な快感を味わっていた。
 まるで神の女性を相手にしている時の様な、凄まじい快楽があったのだ。
 何故人間であるはずの満里奈相手にここまで気持ち良くなれるのか分からなかったが、神治はその快感に悦びを覚え、ますます激しく腰を振っていった。
「あんっ、あっ……やっ、やぁっ……神治、くぅんっ……」
 潤んだ瞳で満里奈が求める様にして見上げてくる。
 何とも可愛らしくもいやらしいその様子に、神治は再び「この女は俺の物だ」といった強い想いを抱いた。
 今日会ったばかりであるというのに、他の男には絶対に渡したくない強い執着心を覚えたのである。
「あっ、あっ、ああっ……わたし、わたしぃっ……おかしく、あっ……おかしくなっちゃうぅっ……」
 頭を左右に振り、満里奈は激しく乱れた。
 求める様にして伸びてきた手が背中に回り、グイと引き寄せられる。
「凄い、あっ……凄いよぉっ……あんっ、あっ、ああっ……凄い、凄いのぉっ……」
 もう何が何だか分からない様子で、満里奈は強く抱き付いてくる。
 元が大人しい雰囲気の女性であったため、そうした乱れ具合はギャップとなって強い快感を呼び起こした。
 自分がそこまで満里奈を狂わせているのだと思うと誇らしかったのだ。
「あんっ、あっ、ああっ……わたし変、あっ……わたし変なの、あんっ……わたし、わたしぃっ……」
 絶頂が近いのか、満里奈は不安げな声をあげつつも強くしがみついてくる。
 神治もそれに合わせて射精感を高め、限界一杯まで快感を盛り上げていった。
「やっ、やっ、やぁっ……あっ、あっ、ああっ……もうわたし、わたしぃっ……やっ、やっ、やぁああああああああああっ!」
「ぐっ!」
 満里奈が体を硬直させるのと同時に精を放つ。
 ドピュドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 激しい勢いで精液が迸り、満里奈の中へと注がれていく。
 数え切れないほど経験している行為だが、久々に強烈な爽快感があった。
 心身共に快楽に包まれ、精液が放出されるたびに気持ちの良さが増していくのが分かる。
 しばらくして射精を終えた神治は、ゆっくりと満里奈の体の上に倒れ込んだ。
(き、気持ち良かったぁ……)
 何とも言えない幸福感に包まれながら、セックス後の脱力を心地良く感じる。
 何も考えず、ただ快楽だけを想いながらセックスしたのはいつ以来だろう。
 その事が神治は何とも嬉しかった。
(え……?)
 不意に目の端に、ピンク色の霧が見えたためギョッとなる。
 先ほど体にまとわりついてきたものが、また満里奈の体から吹き出しているのだ。
(く……)
 そしてそれが体に触れた瞬間、再び激しい肉欲が湧き起こってきた。
 最近感じた事のない「女が抱きたい。肉棒を押し込んで思い切り腰を振りたい」といったヤる気が起きているのだ。
 とにかくセックスをしたくてたまらなくなっているのである。
「満里奈さんっ……」
 我慢できなくなった神治は、再び肉棒を満里奈の中に押し込んでいった。
「あぅっ……あっ……あぁ……」
 一瞬、二度目は許してもらえないかと思ったが、こちらを見上げる満里奈はか細い喘ぎを漏らしながら微笑みを浮かべており、受け入れてくれているのが分かった。
 その事に嬉しくなりつつ、そんな満里奈をもっと悦ばせたいという想いで神治は一杯になった。
 自分は経験者であり、さらには神なのだから、いくらでも満里奈を悦ばせる術を持ち合わせているのだ。
 そう思った神治は、満里奈がより快感を得られるように熱心に「気」を操り始めた。
「あっ、あぅっ……やっ、ああっ……」
 次の瞬間、満里奈が激しく体を震わせた。
 顎を大きく仰け反らせ、床に強く爪を立てている。
 処女を失ったばかりとは思えないその痴態は、神治が送った強烈な淫の気によるものだった。
「ああっ、あっ……ああんっ……やっ、あぅっ、あぁあっ……」
 続けて神治が腰を振り出すと、頭をブンブンと左右に振り、耐えられない様に悶えている。
 それは今にも失神するのではないかと思えるほどの様子であり、それを見た神治は少々「気」を緩めた。
 すると悶えが穏やかになったため、満里奈の快楽に対する限界はこの位なのだろうと理解する。
 その状態を保つ事で、耐えきれるレベルでの最大の快感を与える事が可能となるのだ。
 普段はそこまで考えてセックスしないのだが、今の神治はとにかく「満里奈に凄く気持ち良くなってもらいたい」という想いで一杯であったため、強い快楽を与える術を模索していたのだった。
「あっ、あっ、あぁんっ……凄い、あっ……凄いですぅっ……あっ、あっ、ああっ……」
 先ほどより快楽が緩んだため少し余裕が出来たのか、満里奈は満足そうな笑みを浮かべつつ、求める様にして抱き付いてきた。
「満里奈さん、気持ちいいですかっ?……どうですかっ……?」
「いいです、あっ……いい、あんっ……気持ちいぃっ……やっ、やっ、やぁっ……神治くんって、あんっ……凄いよぉっ……」
 腰に脚が絡み付き、逃がすまいといった感じでしがみついてくる。
 それはセックスする前の満里奈からは想像出来ないいやらしい行為であったため、神治は激しい興奮を覚えた。
 清楚なお嬢さまのイメージを持つ満里奈が、今や肉欲に悶え狂い、咥え込んだ男を逃がすまいとしているのだ。
 それは何ともたまらない刺激となって神治に襲いかかった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……そんな、あっ……そんなの、あんっ……そんなぁっ……やっ、やっ、やぅっ……神治くんっ、神治くんっ、神治くぅんっ……」
 それまで以上の大きく強い突き込みに、満里奈はビクンビクンと体を震わせつつ、求める様にして神治を抱き締めてきた。
「あっ、ああっ……やっ、やぁっ……何か、あんっ……何かが、ああっ……これって何? やっ、やぁっ……神治くん、あっ……神治くんがぁっ……」
 満里奈の体からピンク色の霧がさらに激しく吹き出し、神治にまとわりついてくる。
(これって……うっ……)
 すると満里奈の姿がそれまで以上に美しく見え、輝いているかの様に見えた。
 同時に肉棒に強烈な快感が走り、神治は思わず射精しそうになったため、「気」を操る事で防がなければならなかった。
 それほど凄まじい快楽が瞬間的に肉棒に走ったのだ。
 それはまるで神の女性を相手にしている時の様な凄まじいものだった。
「やんっ、やんっ、やぁんっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……神治くんいいよぉっ……もっと、あっ……もっとおねがいぃっ……」
 言われずとも神治は、もっともっと満里奈を気持ち良くさせたくてたまらなくなっていた。
 自分が気持ち良くなるのはもちろんだが、満里奈と一緒に気持ち良くなりたくて仕方がなくなっていたのである。
 満里奈に対しては、初めて会った時からかなりの好意を抱いていたが、今や快楽を与え合い、共に味わっていきたいという、何とも言えない気持ちで一杯だったのだ。
「あっ、あっ、ああっ……わたしもう、あっ……わたしもうダメ、あんっ……わたしもうダメなんですぅっ……やっ、やっ、やぁっ……」
 激しく悶え喘ぐ満里奈の姿は、いやらしさを思わせつつも、どこか光り輝く様な美しさも感じさせ、神治は夢中になって腰を振っていった。
「あぅっ、あっ、あはぁっ……やんっ、やんっ、やぁっ……イく、あっ……わたしイく、あぁっ……わたしイくのぉっ……あっ、あっ、あぁああああああああああっ!」
「うぅっ!」
 満里奈の絶頂に合わせて神治は精を放った。
 激しい勢いで精液が迸り、満里奈の胎内へと注がれていく。
 ドピュっ、ドピュっ、と射精が行われるたびに快感が体を駆け抜け、神治は強烈な悦びに心身共に包まれていった。
 何という快感だろう。
 これほどの気持ちの良さは本当に久しぶりだった。
 何しろ体だけでなく、心も快楽に包まれているのだから。
 神治はうっとりとした表情を浮かべながら、最後の射精を終えるとゆっくり体の力を抜いた。
「神治、くぅん……あなたって、凄いですぅ……」
 するとボンヤリとした様子で、満里奈が起き上がり、首に腕を絡ませて顔を近づけてきた。
 そのまま唇が重なり、舌が絡み合う。
「んっ……んんっ……んふぅっ……んっ、んっ……」
 満里奈の初々しいキスに応じつつ、ゆっくりと体を押し倒していく。
 はだけた服の間から覗く肢体は、快感によって火照っており、桜色に染まっていて実に美しかった。 
 特に先ほどから体全体がどこか輝いている様に見えるのが、余計にそれを思わせていた。
 これも満里奈の力なのだろうか。
 この美しい体を全て見てみたいと思った神治は、満里奈の体から服を脱がし、己も裸になっていった。
「満里奈さん……素敵です……綺麗です……」
 真っ裸になった満里奈の肉体は、まさに芸術とも言うべき美しさを持っており、思わずそんな賛嘆の言葉が漏れる。
 桜色に染まった肌に覆われた肉体は全体的に細く、弱々しい印象を与えるが、それでいて乳房といった女を主張する部分は肉付きが良くていやらしかった。
 満里奈はそうした、美しさと淫靡さの混じり合った肉体をしていたのだ。
「恥ずかしいです……でも、神治くんも素敵ですよ……?」
 顔を赤くしながらそう呟く満里奈の体から、再びピンク色の霧が吹き出し、まとわりついてくるのが分かる。
 途端、肉棒が力強く勃起し、すぐにでも満里奈の中に入れたくてたまらなくなった。
「満里奈さん、またしますよ?」
 そう告げると満里奈がコクリと頷いたため、神治は再び肉棒を膣内に押し込んでいった。
「あっ……あぁ……」
 顎を仰け反らせる様子にいやらしさを感じつつ、神治はもっと満里奈を気持ち良くさせようと激しく腰を振っていくのだった。


「あっ、あっ、あぁっ……」
 高級そうなベッドの上で、神治は満里奈を背後から貫いていた。
 四つんばいになった満里奈は美しい黒髪を乱して悶えている。
 すでにあれから数時間が経っていた。
 その間、ずっと神治は満里奈を抱いていたのだ。
「あんっ、あんっ、ああっ……そこいいです、あっ……そこいぃ、あんっ……神治くんそこぉっ……」
 肉棒を突き込むたびに満里奈は頭を仰け反らせ、押し寄せてくる快感に喘いだ。
 その様子は何とも色っぽく、元が清楚なだけにより興奮を高めた。
「ここですかっ? こうっ? どうですっ?」
「ああんっ、あっ、やぁっ……そう、あっ……そこですぅっ、あぁっ……神治くん凄い、あっ……すご、あぁっ……神治くぅんっ……」
 満里奈は強い突き込みにシーツを握り締め、ガクガクと腕を震わせている。
 そのまま同じ様にして突き込み続けると、耐えきれない様にして腕を崩した。
 上半身をベッドに押しつけ、下半身を突き出す体勢になった満里奈を満足げに見下ろした神治は、細い腰をしっかり持つと、尻が背中に付くのではないかという勢いで肉棒を強く叩き付けていった。
「あっ、あぅっ、あぁっ……それダメ、あっ……それダメなのぉっ……あっ、ああっ……それされるとわたし、あんっ……ダメになっちゃぅっ……」
 満里奈は振り返って泣きながらそう叫んだ。
 その様子にゾクリとする興奮を覚えた神治は、益々同じ様にして突き込んでいった。
 満里奈の泣き顔は、どうにも神治の中の嗜虐心を刺激し、もっと泣かせたくて仕方がなくなるのである。
「あんっ、あんっ、ああっ……らめって、あっ……らめっていっらのにぃっ……やっ、やぁっ、やぅっ……神治くんの、あっ……神治くんのいじわるぅっ……」
 可愛らしく泣きながら、それでいていやらしく悶える満里奈の姿は、神治の中に激しい興奮をもたらした。
 この顔をもっともっと泣かせ、悦ばせたい。
 そういった願望と嬉しさが押し寄せてくるのだ。
「やっ、やぁっ……やんっ、やんっ、やぁんっ……わらしもう、あっ……わらしもうらめぇっ……あっ、あっ、ああっ……イっちゃう、あんっ……イっちゃうろぉっ……」
 呂律の回らなくなった状態でシーツを引き寄せ、泣き声の混じった喘ぎを漏らす満里奈の姿に、神治の射精感も強烈に高まっていった。
「それじゃ、イきますよっ……一緒に、イきましょうっ……」
 ラストスパートとばかりに、神治はそれまで以上の速さと強さで肉棒を叩き付けていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……いいっ、いいっ、いいよぉっ……もうわらし、あっ……わらしイく、あっ……わらしイくのぉっ……神治くんっ、神治くんっ、神治くぅんっ……やっ、やっ、やぁああああああああああんっ!」
「満里奈さんっ、満里奈さんっ、満里奈さぁんっ!」
 ドピュッドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 強烈な開放感と共に、勢い良く精液が迸る。
 肉棒が律動するたびに、精液が放出され、満里奈の膣に注がれていく。
 何とも言えない快感と達成感、満足感が心と体に溢れ、神治は凄まじい幸せを感じながら射精を繰り返していった。
 しばらくして精を放ち終えると、満里奈の体に重なる様にして倒れ込み、その柔らかな肉体の感触を味わう。
(あ〜〜、凄く気持ち良かった……凄く幸せだ……何て素晴らしいんだろ……)
 神治の心は、最近感じた事のなかったセックスに対する喜びで一杯だった。
 誰としてもスッキリしなかった想いが、満里奈との交わりで一気に解消されたのだ。
(やっぱりこれって、満里奈さんの力のせいなのかな……?)
 セックスを終えるたびに吹き出してきたピンク色の霧。
 あれが体にまとわりつくと、激しく満里奈を求めてしまうのだ。
 やはりあの霧が原因としか考えられなかった。
 満里奈はその霧というか、己の力について「自分の気持ちを相手に伝える力」と言っていたが、それだけでは無いだろう。
 おそらく相手の気持ちにも影響を与えるほどの力なのだ。
 これは要するに強い自己主張と同じなのではないだろうか。
 自分の意見を述べる場合、強い口調で言えば、ある種脅しの様な効果が発生し、結果として強制力を伴う事になるが、それと同じ様な事が満里奈の能力にもある様に思えたのだ。
 つまり満里奈の「セックスをしたい」という気持ちが、強い主張となって神治に伝わったため、強制的に神治もセックスしたくなる状態になったという訳だ。
 実際神治は初めてセックスをした時の様な新鮮な想いに包まれ、もっともっとセックスをしてみたいという気持ちで一杯になっていたが、それを初体験の喜びに溢れている満里奈の気持ちと考えれば、実にしっくりくる様に思えたのである。
 さらに言えば、神の女性を相手にしている時の様な快感を得たのも、満里奈がそうした快感を得ているのが伝わってきたせいだと考えれば納得出来た。
 何しろ神治は神の快楽を満里奈に与えていたのだから、それが満里奈の力によって神治自身にも感じられたのだとしたら、神の女性を相手にしている時と同じ感覚になって当然だからである。
 そこまで自分の気持ちや感覚を相手に伝え、強制的に同じ状態に出来るというのは、何とも凄まじい力であると言えただろう。
 普通はその様に強制的に気持ちを変えられるなど嫌悪感が起きるものだが、そういった事にすら気づかせず、自然に気持ちを変えさせる事が可能な能力なのかも知れない。
 何故なら神治自身、そうした力の仕組みを推測したにも関わらず、強制的に気持ちを変えられた様には思えなかったからだ。
 セックスしたくなった気持ちに、自分の意志以外が絡んでいるような、そうした違和感が全く無かったのである。
 それほど自然にセックスをしたい気持ちになったのだ。
 つまり満里奈の力とは、相手に嫌悪感を持たせず、また意識させる事なく自分と同じ気持ちにさせる事が出来るものであり、結果として自分のしたい事を自然と相手にも行わせる事が出来る能力なのではないだろうか。
(もしそうだとしたら、とんでもない力だよな……)
 神治にはそれが何とも恐ろしい力に思えた。
 何しろ自分が「こうしたい」と思った事を、誰もがしてくれる様になる訳だから、出来ない事など何も無いのと同じだろう。
 権力者相手に使えば、自由に世界を操る事も可能に違いない。
 一瞬満里奈が世界征服をし、高笑いしている姿を想像してしまった神治は苦笑した。
 何故ならそれは満里奈の印象からはあまりに程遠い、全く似合わないものであったからだ。
「何が面白いんですかぁ?」
 不意にそう言われたため視線を向けると、満里奈が楽しそうにこちらを見つめていた。
 そこには神治に対する愛情を感じさせる雰囲気があり、それは神治にしても同じだった。
 すでに満里奈に対しては、家族に対するほどの想いが生まれていたのだ。
 たった数時間前に会ったばかりの相手にその様な想いを抱くのは不思議だったが、何十回という交わりの結果、満里奈という人間が理解出来たせいかも知れない。
 以前銀色の少女に「短時間で相手を知るのにはセックスが一番」と言われたが、それが実感出来た感じだった。
「満里奈さんが凄く素敵だなって思って……」
「そんなこと言って、本当は何か失礼な想像をしてたんでしょう? 顔を見れば分かりますよ。もう、神治くんったら酷いです」
 あっさり想像した内容を見抜かれ、神治は苦笑した。
 満里奈はボケている様でいて結構鋭いのだ。
「すみません。でも満里奈さんが素敵だっていうのは本当ですよ? 俺、こんなに気持ち良かったのって久しぶりですから」
「え? 久しぶりって……じゃあ、神治くんって経験あったんですか?」
「あ……いや、その……」
 ついセックスの経験がある事をほのめかす様に言ってしまったが、普通の中学生ではなかなかそんな事はないだろう。
「あ、私馬鹿な事を聞きました。神治くんはそういった力があるんだから、経験があって当然ですよね……よく考えたら初めてなのにあんな風に慣れた感じで出来るなんておかしいし……はぁ……やっぱり神治くんは凄いんですねぇ……」
 どう言い訳しようかと思っていると、満里奈は勝手に自己完結し、感心した様にそう言ってきた。
「いえ、ただ気持ち良くさせられるだけですから……」
「そんな事ないです。凄いですよ……私、ビックリしました。まさかあんなに凄いだなんて……綺麗な風景が見えて、体が軽くなって、まるで雲の上に浮かんでいるみたいな感覚なんて……」
 何とも芸術的な表現だと思いつつ、少々快楽を与えすぎたのではないかと心配する。
 神の与える快楽は、普通の人間にとっては害になる場合があり、多くはこうした幸福感に浸ったまま戻れなくなるのだと以前教えてもらったのだ。
 今回神治は久しぶりに積極的になれた事にはしゃぎ、満里奈にかなりの快楽を与えたのだが、それがやりすぎだった可能性があったのである。
「綺麗な風景と、凄い気持ちの良さ……そして目の前には輝いた姿が……あぁ、何て凄いんでしょう……そう、あれって神々しいって言うんですよね……神治くんは凄く神々しかった……まるで神さまみたいに……」
 その言葉にドキリとする。
 普通ならただの例えに思えるのだが、こちらを見つめてくる満里奈の瞳には、本気でそう思っている様な光があったからだ。
「あの……神治くんって……どれくらいこっちに居るんですか?」
「え? 特に決めてませんけど……」
 不意に変わった話題に驚きつつ、正直に答える。
「ならしばらくは居ますよね? 良かったら私が色々お世話したいんですけど、駄目ですか?」
「世話って、いや別にそんな事はいいですよ」
 突然何を言い出すのかと思い、慌てて断る。
「いえ、お世話させて下さい。私、神治くんのお役に立ちたいんです」
「そう言われても……世話してもらう事なんて無いですし……」
「お食事の用意や、掃除とか洗濯とか……私、何でもします……」
「そんな事をしてもらう訳にはいきませんよ」
「気にしないで下さい。私がしたいだけですから」
 何やら凄い迫力で迫ってくるのに動揺する。
 本当にどうしてしまったのだろう。
「何で急にそんな事を言い出したんですか?」
「私、神治くんのお役に立ちたいんです」
「いや、だから何でそんな事を思ったんですか?」
「私、神治くんが何だか凄い存在の様な感じがしてしょうがないんです。さっき抱いてもらった時に、その、凄かったし……それ以上に何か普通の人とは違う様な、凄さを感じたっていうか……とにかくお世話をしたくてたまらなくなったんです」
 恋愛感情、というのとは異なる雰囲気がそこにはあった。
 それは神治が感じた家族的なものともまた異なり、もっと強烈な、強く熱い想いに思えた。
「決してお邪魔にはならない様にしますから……お願いします、お世話させて下さいっ」
 満里奈は勢い良く起き上がると、その場で正座して頭を下げた。
 すでに愛おしさを感じる様になっている相手にそうされ、神治はどうしたものかと困ってしまった。
 やはり快楽を与えすぎたのだろうか。
 そのせいで満里奈はおかしくなり、この様な熱狂的な状態になっているのだろうか。
 もしそうであるのなら、少しして幸福感が抜ければ元に戻るかも知れない。
 だとしたら、それまでの間は素直に申し出を受けておいた方が良い様に思えた。
 何しろ満里奈の様子には、絶対に引かない雰囲気があったため、下手に断り続ければ何をするか分からない感じがしたからだ。
 神治はそう考えると、取り合えず満里奈の申し出を受け入れる事にした。
「分かりました。でも嫌になったらすぐに止めてくれていいですからね?」
「ありがとうございますっ。嫌になるなんてあり得ません。私、神治くんのためなら何でもしますから。何でも言いつけて下さいね? どんな事であっても私、神治くんのためならしますからっ」
 どこか異常な雰囲気を醸し出しながら、満里奈は嬉しそうに微笑んだ。
 神治は何だか分からないその状態に、少し怖さを感じつつも、愛おしさが増した様な気もした。
 何しろ満里奈は美人であり、性格も体も自分との相性は凄く良いのであり、そんな相手が自分に夢中になっているのは、男として実に気分のいいものだったからだ。
 そしてこれからしばらくの間、満里奈という一人の人間を好きなように扱えるのだという事に、背徳的な興奮を覚えるのだった。












あとがき

 神治のリハビリって事で、美人のお姉さんに頑張ってもらいました。
 性格的にも今までにない感じの、基本的に気弱なお嬢さんです。
 最近こうした「虐めて光線」(笑)を出しているタイプの女性に興奮していたので、今回出してみた次第。
 根っからの気弱ではなく、芯はしっかりしていて、でも表面上は気弱な感じのお嬢さんですわ。
 私はどうも芯から弱いタイプは駄目なんで、そういう風にしてみた訳です。

 今回の話は、緋道村や神といった要素と関係なく女性とセックスさせるって事で結構大変でした。
 一般社会だとセックスに至るのは難しいですからね。
 だから最初は満里奈の設定も、積極的でセックスしまくっている感じにしていたんですよ。
 そうすれば向こうから誘わせる事が出来ますから。
 でもそれだと何か村に居るのと変わらないので止め、真逆の大人しくて純真なタイプにしてみた次第。

 特殊能力に関しては、一般にもこういう力を持った人がいると面白いと思ったんで出してみました。
 何より神治のヤる気を出させるのに便利ですしね。
 単に性欲が起きるのではなく、セックスしたくなるというのがポイントですわ。
 今回それによって神治の鬱憤もだいぶ晴れたように思えるのですが、果たしてこのまま回復するのか否か。
 次回をお楽しみに。
(2009.4.2)



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