緋道の神器


        第十九話  神姫



 周囲は美しい緑の広がる場所だった。
 神治は息を切らしながらも、その光景に心を安らかにしていた。
 緑自体は見慣れているが、こうした手入れの行き届いた庭園のような場所に来るのは初めてだったからだ。
「ふむ、どうやら着いたようじゃの。思ったより短時間で来られたな。お主の力もなかなかのものではないか」
 傍らで涼しげにそのような事を言っている未迦知神に神治は疲れた視線を向けた。
「やっぱりキツイですよ、この距離は……」
「何を言っておるか、これもお主の修行の成果を確認するための行為じゃぞ。少しくらい辛い程度がちょうど良いのじゃ」
 そこはヨーロッパにある小国。
 修行を終えた神治は、日常生活に戻る前に旅行をしようと未迦知神に誘われ、ユイリーエの故郷であるこの国に来ていた。
 そしてその移動手段というのが、飛行機や船といった乗り物を使ったものではなく、修行によって身に付けた神の力、体一つで一瞬にして移動する、いわゆる瞬間移動だった。
 最初は旅行する事を修行を終えたご褒美的に捉えていた神治だったが、移動手段を聞いた瞬間にガックリし、それが実質上修行の続きである事が分かったため悲しくなった。
 一概に瞬間移動とは言っても、神治は一度に移動できる距離が短く、それを回数によって補う必要があったため、ヨーロッパなどという場所へ行くには何十回と瞬間移動をする必要があった。
 本来瞬間移動は文字通り瞬間に移動する能力であるので、一度の移動距離が短くとも、移動した瞬間に移動、という行為を連続で行えば、どんな遠方にも一瞬で移動する事ができた。
 しかしそこはまだ未熟な神治であるから、連続での移動をする事ができず、時折休憩を入れていたためそれなりに時間がかかり、その分疲労も凄まじかったという訳だった。
「ふむ、帰りはもう少し早く着けると良いがな。一度経験したのだからコツは飲み込めたであろう?」
「ええっ? 帰りも俺がやるんですかぁ?」
 疲れ果てている時にその言葉はきつかった。
 普通の事で言えばマラソンを走り終えてゴールした後に、またマラソンをすると言われているようなものだろう。
 しばらく後でならともかく、今はそんな言葉は聞きたくなかったのだ。
「何を言っておるか。お主はまだまだ未熟なのだからな。一応力を使えるようになったとはいえ、それを使いこなすには経験が必要じゃ。そのためにはこれくらいの事はキチンとこなしてもらわねば困るぞ」
「分かりました……」
 修行モードになっている未迦知神に何を言っても無駄だという事が分かっている神治はしぶしぶ了承した。
 他の事に関しては神治に甘い未迦知神だったが、修行の事となると別人のように厳しくなった。
 これまでの修行でも、とにかく一切妥協をせず、神治が弱音を吐こうが絶対に課題をやらされたのである。
 そのおかげで短期間で修行を終えられたため感謝もしているのだが、それはあくまで結果としての事なので、実際に辛い時に厳しくされるのは嫌な事だったのだ。
(こんな事なら、さっさと家に帰ってみんなに会ってれば良かったなぁ……)
 これまで修行をしてきた数ヶ月間、家族と会えない事が神治にとって一番辛い事だった。
 毎日のように抱き、愛情を高め合った家族。
 世界中でこれほど愛し合っている家族はいないのではないかと思えるほど神治は家族の事が好きであったし、家族も自分を愛してくれていた。
 特に従妹の有希とは恋人関係にあり、顔を見られないだけでもかなりの辛さがあった。
 もしこのような旅行をせず家に帰っていれば、今頃は有希と楽しく過ごしていただろうと思うと激しい後悔の念が押し寄せてくる。
 だが例え断ったとしても、修行モードになっている未迦知神に無理矢理連れ出された可能性はあったのだが。
(まあ、ユイリーエに会えるから楽しみもあるんだけどさ……)
 家族と同じく修行に入ってから会えなくなったユイリーエ。
 ずっと禁欲状態だった神治にとり、再び彼女を抱けるのは何より楽しみな事だった。
 出発する前に未迦知神や葉那、そしてほたるを抱きまくってかなり満足していたものの、やはり白人であるユイリーエに対しては特別な想いがあったのだ。
 そのユイリーエともうすぐ会える。
 そう思うと神治の心は喜びに弾んだ。
「ところでここってどこですかね? 凄く綺麗な場所ですけど……」
 周囲には様々な花が咲いており、それが見事なまでに規則正しく見えるように調整されている点からして、かなりの手が加えられているように思えた。
 何というか金持ちの屋敷の庭のようなイメージがあったのだ。
「城の庭園じゃな」
「城? 城って……あのいわゆるお城ってヤツですか?」
 脳裏に中世ヨーロッパを舞台とした映画に出てくる石造りの城が思い浮かぶ。
 言われてみればそうした城にはこういった庭園があったような気がした。
「ほれ、あそこじゃ」
 未迦知神に示された方に視線を向けると、たった今想像したのと似たような城が建っているのが見えた。
「おおっ、ここって本当に外国なんですねぇ……」
 日本では見られない城の外観に感嘆の声を上げる。
 瞬間移動という慣れない移動手段で来ていたため、どうにも外国へ来た感覚が薄かったのだが、この事で神治はようやく実感を持つ事ができた。
「ここにユイリーエが居るんですか?」
「うむ、儂も数度しか来た事はないが、あやつの一族はこの地を根拠地としておるはずじゃからな」
「しかし城ってのは凄いですね。王様でも出てきそうな気がしますよ」
「何を言っておる。これから嫌でも会うぞ」
「え……?」
「ユイリーエの一族の部の民(べのたみ)はこの国の王族じゃからな。あやつに会うとなれば、その世話をしている国王とはそのうち会う事になるじゃろう」
「こ、国王って……そんな人がユイリーエの部の民だって言うんですか?」
 あまりの事に驚く。
 そのような凄い地位にいる人間が、ユイリーエの世話をしているとは信じられなかったからだ。
「そう言えば話しておらなんだか。あやつの一族は大昔からここいら一帯に勢力を持っておってな。それゆえ未だにこの国の神となっておる。小国ではあるが国教ともなっておるのだから大したものじゃな。ユイリーエの父親は政治的な意識が強い、というか悪く言えば俗物なところのあるヤツでな。それゆえ色々と動いておったようじゃ。この地域において己の信者を保ち続けたのであるから、そういう意味では大したヤツじゃよ」
 言われてみればヨーロッパではキリスト教が勢力を持っているのだから、そこで異なる宗教が生きながらえているのは確かにかなり凄い事だろう。
 どうやらユイリーエの父親は素晴らしい人物らしい。
「ま、一人の男として考えると、な〜〜んとも言えんがな。夫としては最悪としか思えんからの。ウィリーエのヤツの趣味はホント分からんよ」
 ウィリーエ。
 それはユイリーエの母親であり、未迦知神の友人である神の名だった。
 昔緋道村を訪れ、あわや村を壊滅状態に追い込む事件を起こし、それを村のためを思ってしたと言っているかなりズレた感覚の持ち主だ。
 未迦知神はそうした事などから嫌っているような言動をするのだが、それでいてどこか好意を感じさせる雰囲気も見せるため、ユイリーエの母親は憎めない性格をしているのだろう。
 以前から話だけは聞いていたため、神治としてはユイリーエと会うのも楽しみだったが、その母親に会うのも楽しみだったのである。
「取り合えずこのまま城へ向かうぞ。出かけていなければユイリーエはあの中におるであろうからな」
「このままって……姿を消したまま行くんですか?」
 瞬間移動やその途中での休憩の際に姿を見られないよう、神治たちは術を使って常人には見る事のできない状態になっていた。
「これも修行じゃ。姿が見えない状態で動く事に慣れるためのな。とはいえ、この地には力のある者が多いであろうからすぐに見つかってしまうかも知れんが……その時はその時。それまでは見つからぬようにするのじゃ、良いな?」
「分かりました……」
 何でもかんでも修行になってしまっている事に少々うんざりしながら神治は頷いた。
(まあ、部の民と会っても面倒だしね。ユイリーエに会って、両親を紹介してもらって帰ればいいか)
 そして帰る前にユイリーエを思う存分抱くのだ。
 何しろユイリーエは日本人にはない金色の髪と真っ白な肌をしていて最高だったし、何よりその膣の感触は蕩けるような気持ちの良さがあったのである。
(ユイリーエ……待っててくれよ……)
 いやらしい妄想で肉棒を硬くしながら、神治は未迦知神の後に続いて歩き出した。


 しばらく進んでいくと、広々とした広場のような場所へ出た。
 中央には噴水があり、見事な造形の彫刻から水が噴き出しているのに思わず見とれる。
 おそらくここが庭園の中心部なのだろう。
 先ほどまでの風景も良かったが、この場所はそれ以上に素晴らしかったからだ。
「どなたですか?」
 しばらくジッと噴水を見つめていると、突然声をかけられたため驚く。
 術を使って姿を見えないようにしているはずなのに声をかけられたという事は、その人物は何かしら力を持っているのだろう。
 見つからずにどこまで行けるかという事を試していたため、早速見つかってしまった事にガックリとしながら声のした方へ目を向ける。
(わ……き、綺麗だ……)
 そこに居たのは、神治と同じくらいの年齢の少女だった。
 白く美しいドレスに身を包んでおり、腰の辺りまで伸びた金色の髪が風に揺れている。
 頭にはティアラが乗っており、何というか王女さまといった言葉がピッタリに思えた。
 そして何よりその顔は信じられないほどに美しく、まさに絶世の美少女と言えただろう。
 未迦知神やユイリーエも美少女だったが、この少女にはどこか儚げな雰囲気があり、さらには花々に囲まれた場所に居る事もあって、まさに可憐な美少女という言葉がピッタリだった。
「あなた方は……いえ、あなたようたちは……」
 風鈴の音のような心地良い声が耳に響き、穏やかな青い瞳がジッと見つめてくるのに心臓が激しく鼓動する。
 まだ会って数秒しか経っていないにも関わらず、神治はこの少女に惹かれているのを感じていた。
 まさに自分の理想というべき容姿と、慎ましげな、こちらを包み込んでくるような優しげな雰囲気によって心臓を鷲掴みにされたのだ。
「もしや、ガジギール様のご友人でいらっしゃいますか?」
 ガジギールとは一体誰の事だろう。
 未迦知神は知っているだろうかと目を移すと、何やらガッカリしたような表情を浮かべているのが見えた。
「これほど早く……というか最初に出会った者が力を持っておるとは……何とも運の無いことよ……」
 どうやら姿を消したままでいる修行がいきなり挫折した事にショックを受けているらしい。
「あ、俺たちはその……って、ん?」
 未迦知神が話してくれないので自分で何とかしようと思いつつ、どう説明すればいいのか言葉に詰まっていると、不意に斜め前から強烈な力を感じたため神治はそちらへ視線を向けた。
「ゲッ……」
 思わずそんな言葉を口にした後、その信じられない光景に息を飲む。
 少し離れた場所に二メートルはあろうかという犬が、後ろ足だけでまるで人間のように立っていたからだ。
 その大きさにも驚いたが、やはり後ろ足だけで立っている事が強烈だった。
 何というかアニメや漫画に出てくる魔物のようなイメージがあったのだ。
 さすがは外国、真っ昼間から化け物が出てくるのか、などと馬鹿な事を思いつつ、どう対処すべきか神治は困った。
「ほほぉ、これはこれは……ここは結界内であるというのによくも入れたものじゃ。どこかに綻びでもあるのかも知れんな」
 未迦知神の声が聞こえた事にホッと息を吐く。
 自分一人であれば恐ろしかったが、未迦知神さえ居てくれれば何とかなるという安心感があったからだ。
「これって何なんです?」
 安心感が落ち着きを呼び、目の前の信じられない存在について尋ねる。
「ケルベロスじゃな」
「ケルベロス?」
 どこかで聞いた事のあるような名前だと思いつつ、詳しい説明を求めて聞き返す。
「ある神の配下の化け物じゃよ。というかその部の民が使役していると言う方が正しいか。その部の民の組織というのがどうにも厄介でな。己が信奉する以外の神を否定しておって、時折こうして嫌がらせのように犬を送り込んでくる訳じゃ」
「嫌がらせって……この犬って凄く危なそうなんですけど、そんなレベルで済むんですか?」
 ケルベロスの口にある牙や前足に生えている爪はかなりの凶器に見えたため、人死にが出るように思えたのだ。
「ユイリーエたちにとっては大した問題ではあるまい。しょせん犬は犬。神であるユイリーエたちには触れる事すらできんであろうよ」
「そうなんですか……」
 言われてみれば、神が神の配下でしかない相手にやられるなどというのはありえないように思えた。
「それゆえ奴らの狙いは部の民である訳じゃ。神にとって大切な存在である部の民を傷つける事により、精神的な攻撃をするのじゃな。何ともいやらしい奴らじゃよ」
 未迦知神は顔を歪めながら苦々しげに呟いている。
 確かに目的の相手を直接攻撃しても敵わないから、その人物が大切にしている存在を狙うとは嫌な行為だった。
(って、待てよ……?)
 すると今ケルベロスが狙っているのは、そこにいる少女なのではないだろうか。
 この城がユイリーエの部の民の物だとすれば、その庭園にいる少女が部の民である可能性は高いし、もしそうでなくても無差別に襲いそうな気がしたのだ。
(そんなの……許せないっ……)
 脳裏に少女がケルベロスに襲われ傷つけられる様子が浮かび、神治は激しい憤りを覚えた。
 出会って少ししか経っていないにも関わらず、神治の中にはこの少女を庇護したい思いが湧き起こっていたのだ。
「グルゥゥゥッ……」
 不意にケルベロスの口から唸り声が漏れ、その普通の犬の十倍はあろうかという迫力に驚く。
 ケルベロスの視線は少女に向けられており、彼女を狙っているのは明らかだった。
(何とか……何とかしなきゃ……)
 予想した通りの展開になってきた事に神治はどうすればいいかと焦った。
 少女を助けたい気持ちは溢れんばかりにあるのだが、ケルベロスに対して怖じ気づいている部分があったからだ。
 何しろ神とは言え神治はまだ未熟であり、ケルベロスを退けるような力が使えなかったからである。
 その状態でどうやって助ければいいのだろう。
(くそっ……)
 自分の不甲斐なさ、恐怖に震える体を情けなく感じる。
 神としての修行を積み、ある程度の自信を得たにも関わらず、自分には一人の少女を救う度胸すら無いのだ。何と情けない事だろう。
(そうだ、未迦知さまに頼めば……)
 自分は助けられなくとも、未迦知神なら何とかできるのではないか。
 そう思い、少女を助けてくれるよう頼もうとした時だった。
「ガルゥアッ!」
 激しい唸り声が響いたかと思うと、ケルベロスがその巨体に不似合いな敏捷さで飛び上がり、少女に襲いかかったのだ。
(危ないっ……って、え?)
 声にならない叫びが口から漏れた瞬間、周囲の風景が一瞬にして変わり、傍らに少女がいる事に驚く。
(これは……瞬間移動かっ……)
 少女を救いたいという思いが無意識のうちに力を使わせたのだろう。神治の体は一瞬で数メートル移動していた。
(って、呑気に考えている場合じゃなかった)
 目の前にはケルベロスが迫っているのだ。このままでは自分もやられてしまう。
(早く逃げなきゃ……)
 ケルベロスを退ける力は無くとも、逃げるだけの力ならある事に喜びを覚える。
 これでこの少女を助ける事ができるではないか。
「掴まって……」
 神治は少女に呼びかけると返事を待たずに引き寄せ、そのまますぐに移動した。
 次の瞬間未迦知神の隣に姿を現すと、それまで少女が居た場所でケルベロスがたたらを踏んでいるのが見える。獲物がいきなり消えたのだから当然だろう。
「ふん、お主にしてはなかなかの手際じゃな。今の己にできる事でそのおなごを助けたか」
「未迦知さま、この子を助けてあげて下さい。俺じゃ逃げるだけで精一杯ですから」
「いや、せっかくの機会じゃ。お主が何とかしてみせよ」
「!……」
 信じられないその言葉に激しく動揺する。
「何言ってるんですっ。人の命がかかってるんですよっ? あの犬の化け物はこの子を殺そうとしてるじゃないですかっ」
「じゃからこそお主にやれと言うておるのじゃ。必死になれば何とかなるはずじゃからな。これも修行よ」
「そ、そんなのっ……どうしろって言うんですかっ?」
 こんな状況でも修行などと言っている未迦知神に怒りを覚える。
 逃げるしか能のない自分に一体何ができると言うのだろう。
「攻撃じゃ……攻撃の意思を忘れるな。そうすれば何とかなる」
「何言ってるんですか? 攻撃って、そんなのどうするんです?」
 少し離れた所からこちらを睨んでいるケルベロスは、神治が殴ったくらいではビクともしなさそうな肉体をしていた。
 逆にその前足に生えた鋭い爪に触れられただけで、こちらの肉は削げてしまうだろう。
「お主の得意技は何じゃ?」
「得意技?」
 意味が分からず、どういう事であるのかを必死に考える。
「グルァアッ!」
 だが答えを出す間も無くケルベロスが襲いかかって来たため、神治は少女を連れて慌てて移動した。
「グルァッ!」
 少し離れた場所に移動するが、すぐさまケルベロスが再び襲ってきたため、落ち着く間も無くまた移動する。
 しかしそれを読んでいたのか、ケルベロスは途中で動きを止めており、そのまま移動した先に向かってきた。
(そうだっ、上にっ……)
 空へ逃げれば大丈夫なのではないかと思い上昇する。これで何とかしのげるはずだった。
「グルァァァッ!」
(って、嘘だろ? くそっ……)
 ところが驚いた事にケルベロスも空を飛んできたため、神治は慌てて瞬間移動を行なった。
(こうなったら遠くまで移動して……ぐっ……)
 追って来られないほどの距離を移動して逃げようと思った瞬間、激しい疲労を感じて膝を突く。
 連続で移動したために疲れが出たらしい。
 そもそもつい先ほどまで長時間移動していたのだから当然だった。
「グルァアアッ!」
 恐ろしい唸りを発してケルベロスが襲いかかってくる。
 このままでは少女を守るどころか自分の命も危ういだろう。
 何しろケルベロスの目には、すでに神治に対する憎しみの光が見えたからだ。
 おそらくまずは神治を攻撃してから少女を襲うに違いない。
(ぐっ……嫌だっ……こんなの嫌だぁっ……)
 鋭い爪が迫り、次に起こるであろう痛みに恐怖が湧き起こって体を硬直させ、目をギュッと瞑る。
 続けて左手が体を庇って無意識のうちに突き出された……。
「キャゥ……」
 不意に情けない声が聞こえたかと思うと、いつまで経っても体に何の衝撃も起こらない事に驚く。
 どうしたのだろうと思い、恐る恐る目を向けると、ケルベロスが硬直しているのが見えた。
 何やら微妙に体を震わせて膝を突いている。
(一体何が……?)
 そう思っていると、何やら妙な匂いが漂ってきた。
 どこか嗅ぎ慣れた感じのするその匂いと共に、ケルベロスの足下に白い液体がある事に気がつく。
(これって……精液……?)
 それはどう見ても精液だった。
 体を硬直させている様子からして、たった今ケルベロスが射精したとしか思えなかった。
 だが襲いかかろうとしていた状態で射精するなどあり得るのだろうか。
「なかなか見事じゃ。そのままそうして犬を大人しくさせるが良いぞ」
「え? 何の事です?」
 いつの間にか横に現れた未迦知神が楽しげに呟いているのに首をかしげる。
 一体どういう意味なのだろう。
「何の事とはこれまた異な事を……ふむ、なるほどまた無意識という訳か。まあ、このような術は教えておらんから当然と言えば当然か。それでいて見事に使いこなしておるのじゃから相変わらず大したものじゃのぉ」
 未迦知神の口調からすると、どうやら無意識の内に何か術を使ったらしい。
 だが一体どういう術なのだろう。
 ケルベロスを射精させたように思えるのだが、それが何か関係しているのだろうか。
「グルゥッ、グァアアッ!」
 そんな事を考えていると、射精後の脱力から回復したらしいケルベロスが再び襲いかかってきた。
「うわっ……」
 至近距離に迫る爪から少女を庇うようにして体を寄せる。
「キャゥッ……」
 ブシュウッ……。
 何かが噴出する音が聞こえると共に、ツンっとした匂いが鼻についた。
 どうやら再びケルベロスが射精したようだ。
 硬直した体が震えており、しばらくしてそれが治まると再び襲いかかってくる。
「くっ……」
 やめろ、という意思が強まると、何か力のようなものが自分の中から放出される感覚を神治は覚えた。
「キャゥッ……」
 それと同時に再びケルベロスが射精している。
 どうやらこの感覚がケルベロスの射精を促しているらしい。
「くそっ、くそっ、くそっ……」
 恐怖が行為を促すのか、神治は必死になって力を放出させていった。
「キャゥッ……グッ……ゥッ……」
 ケルベロスの体が激しく震え、そのたびに多量の精液が放出されていく。
 その異様と思える状況に恐怖を伴った面白さを感じていると、しばらくしてケルベロスはゆっくりその場に倒れ込んだ。
 驚いた事にその状態でも股間にある性器は勃起して精を放ち続けている。
「そのくらいで良いであろう。術を使うのをやめよ」
 未迦知神にそう言われ、ハッとして力を抜く。
 するとケルベロスの性器が小さくなっていき、ガクリと力を抜くのが分かった。
 信じられなかったが、どうやら今までケルベロスの射精を促していたのはやはり自分だったらしい。
「これは一体……」
「以前使いまくっていた眼力、あれを覚えておるか?」
「ああ、あれですか。覚えてますけど……」
 数ヶ月前、見るだけで女性を欲情させる事のできる力を得た神治は、それを使って村中の女性を抱いていた。
 その後修行に入ったためすっかり忘れていたが、確かにそうした力があった。
「この力はそれの応用じゃな。同じように相手を欲情させた訳じゃが、さらに強烈な力を加えたゆえ、この犬は耐えられず精を放ったのじゃ」
 それは何とも言えない事だった。
 助かったのはありがたいが、相手が雄であるのが微妙な感じがしたのだ。
 欲情させたというのが、まるで自分が同性愛者であるかのように思えてしまったからである。いや、この場合犬なのだから獣姦嗜好者と言うべきか。
「これはお主のように精に強い神にとって強力な武器となる術じゃぞ。何せどのような男であろうと、射精の瞬間は無防備になるからの。その隙に攻撃するなり逃げるなりできるからな。そして今お主がしたように射精そのもので大人しくさせるというのもありじゃ。気力や体力を奪う意味でも有効な手であるな」
 凄いのだか凄くないのだか分かりにくい術だった。
 それに相手が男なのが微妙だ。
 自分が原因で射精させているというのがどうにも気色悪かったのである。
「あの……ありがとうございました……」
 不意に声が聞こえ、見ると少女が穏やかな笑顔を浮かべて頭を下げていた。
 その顔は美しくもどこか心を落ち着かせる雰囲気があり、何とも癒される感じを神治は覚えた。
 未だに手を回している体も、抱き締めたらかなりの快感を与えてくるであろう事が伝わってきてたまらず、思わずゴクリと唾を飲み込む。
 何よりどことなく気品があるため、その高貴な雰囲気に微妙な緊張が湧き起こった。
「もうこうなったら仕方あるまい。姿を消す修行は止めじゃ止め。娘よ、儂らをユイリーエの所へ案内せよ」
「ユイリーエ様のご友人であらせられますか。わたくしはアンリーエと申します」
 未迦知神の言葉に、少女、アンリーエはそう言うと再び頭を下げた。
「ん? 何やらユイリーエと似た名前じゃの」
 言われてみれば確かに、後半の部分が同じだった。
「はい、わたくしはユイリーエ様と同じ年に産まれましたので、勿体なくも似た名前を戴いたのです」
「ほぉ、するとお主は部の民でも神に近しい者じゃな?」
「さようでございます。わたくしは……」
「姫さまぁ〜〜。姫さまご無事であられますか〜〜?」
 アンリーエが答えようとした瞬間、遠くから声が聞こえた。
 見ると数人の男がこちらへ駆けてくるのが見える。
 全員が白と緑を基調とした軍服のような服を身につけており、まだ二十歳そこそこの若い男ばかりだった。
 彼らは近くまで来ると整列して片膝を付き、右手を左胸に当てる礼を取った。
「お探ししましたぞ。お願いでありますから、我らに黙ってどこかへ行かれるのはおやめ下さい」
 一人だけ服が微妙に違うリーダーらしい人物が困ったような顔をしてアンリーエに話しかけている。
「ごめんなさい、イルミルート。でもどうしても一人になりたかったのです。何かが心に触れたものですから……」
「おお、神姫としてのお力が……」
 アンリーエがそう答えると、軍服の青年たちは感嘆したようにどよめきをもらした。
(神姫……?)
 その言葉に神治は首をかしげた。どういう意味なのだろう。
「それよりも姫さま、そのケルベロスは一体……」
 イルミルートと呼ばれた青年は、アンリーエの背後に倒れているケルベロスを示して尋ねている。
「どうやらわたくしを狙ったようです」
「何とっ?……教会の奴らめっ、我らが姫さまにかような獣を差し向けるとは何と無礼な輩かっ」
 握りしめた手を震わせ、イルミルートは怒りを顕わにした。
「しかしケルベロスを退けるとはさすがは姫さま。このイルミルート感服致しました」
 だがすぐさま感激した顔つきになると、深々と頭を下げている。
 その変化が可笑しさと共に彼の高潔な人間性を感じさせ、神治はイルミルートに好感を持った。
「いえ、このケルベロスを退けたのはわたくしではありません。こちらにおられる方です」
 そう言いながらアンリーエは神治を示した。
「は?……あの、姫さま……どちらにおられるのですか?」
 イルミルートは困ったように視線を動かしている。
 神治たちは普通の人間には見えない術を使っているのだから当然だろう。
「あ……あなたには見えないのですね……?」
「見えないとは……もしやその方は特殊な存在、もしや神であらせられるのでしょうか?」
 こちらに落ち着かない視線を向けながらイルミルートは尋ねている。
 見えない相手を即座に神と判断するとは何とも凄い思考の展開だったが、もしかするとこの国では当たり前の事なのだろうか?
「うむ、この国の民は普段から信仰の対象である神と接しておるからな。別に不思議な話ではない。特に見目麗しいおなごともなればそれは日常茶飯事であるし、神に近しい地位にいるこの娘の警護を担当している者であれば、会う機会も多いのであろう。ガジギールのヤツは若くて美しいおなごが大好きじゃからな、この娘であればかなりのご執心とみたぞ」
 未迦知神に尋ねるとそんな答えが返ってきた。
「ガジギールって誰ですか? 話からすると神っぽいですけど」
 先ほどアンリーエも口にしていたが、一体どういった人物なのだろう。
「ユイリーエの父親じゃよ。この国における最高神じゃ。一応この国で最も敬われている神じゃな。ま、儂にしてみれば女好きの駄目男でしかないが」
「そうなんですか……」
 未迦知神の何とも言えない毒舌ぶりに苦笑する。よほど気に食わない相手なのだろう。
「やはりガジギール様のご友人であらせられるのですね?」
「誰があんな男の友人かっ」
 会話から推測したのだろう、そう尋ねてきたアンリーエに未迦知神は凄く嫌そうな顔をして答えている。
「そうなのですか……では、ウィリーエ様のご友人でしょうか?」
 その反応に困ったような表情を浮かべつつ、アンリーエはすぐに気を取り直して違う形で尋ねた。
「む……ぬう……まあ、あやつは友人……う〜〜む、駄目じゃ、友人ではないな。腐れ縁の知り合いというところじゃ」
 やはりユイリーエの母親に対しては複雑な感情があるらしい。素直に友人と認める発言をできないのが何とも言えなかった。
「では、そのお知り合いのあなた様のお名前は、未迦知さまで宜しいでしょうか?」
「うむ、儂は未迦知じゃ」
「そしてあなた様は神治さま?」
「ええ、そうです」
 おそらくユイリーエからでも聞いているのだろう、名前を尋ねてくるのに頷いて答える。
 そしてそのように何とも上手い具合に未迦知神と話しているアンリーエに神治は驚いた。
 普通「友人ではない」と言われれば、そこで話は止まってしまうだろうに、聞き方を変える事によって会話を成立させているからだ。
「あの……姫さま……?」
 不意におずおずといった感じでイルミルートが声をかけてきた。
 そう言えば彼には神治たちの声が聞こえないのだから、アンリーエが一人で訳の分からない会話をしているように見えるに違いなかった。
「未迦知さま、そして神治さま。申し訳ありませんがこの者たちにもお姿を見せてはいただけないでしょうか?」
「別に俺は構わないですけど……どうします未迦知さま?」
「ここまで存在を知られてしまっては、今更姿を隠していても仕方がないわ。好きなようにするが良い」
 神治が尋ねると、未迦知神はつまらなそうに手を振りながらそう答えた。
「それじゃ、姿を現しますんで……」
「? い、今の声は……」
 先に声のみを聞こえるようにすると、イルミルート達が驚いたように視線を動かした。
『おおっ……』
 続けて姿を消す術を解くとどよめきが起こった。
 無理も無いだろう。彼らにしてみれば突然目の前に現れたように見えるに違いないからだ。
「この方たちはウィリーエ様のご友人であらせられます。失礼の無いようにして下さい」
「ハっ!」
 アンリーエが告げるとイルミルートたちは姿勢を正して頭を下げた。
「私はアンリーエ王女殿下の近衛騎士隊隊長、イルミルートと申します。お見知りおきのほど宜しくお願い致します」
 力強い口調でそう告げ、イルミルートは再び頭を下げた。
(王女って……本物かよ……)
 アンリーエに対し、見た目や雰囲気が王女のようだと思ってはいたが、まさか本物だとは驚きだった。
「うむ、こちらこそ宜しく頼む。ところで儂らはユイリーエに会いに来たのじゃが、あやつはここにおるかの?」
 慣れない言動に落ち着かない気分を味わっている神治と違い、さすが慣れているのか未迦知神は堂々とした態度でそう尋ねている。
「ハッ、ユイリーエ様はその……数日前に出かけられてしまいまして……」
 申し訳なさそうにイルミルートが答えた。
「そうか。ふむ、ではどうするかのぉ」
「ウィリーエ様はいらっしゃいますが……」
「あやつに会うのはな……少々悩むところじゃの……」
 本来なら久しぶりであるのだからユイリーエより会うべき相手だと思うのだが、未迦知神は気乗りしない様子で呟いている。
「取り合えず城の方へお越し下さい。出来うる限りのおもてなしをさせていただきたいと存じますので」
 微笑みながらそう告げてくるアンリーエに心臓が激しく鼓動する。
 何というか高貴なオーラとも言うべきものが感じられて緊張したのだ。
「そうじゃな。儂はともかく神治は疲れておるじゃろうから、もてなしを受けるとするか」
「ありがとうございます……イルミルート、お願いしますね?」
「ハっ! ではご案内させていただきます。こちらへどうぞ」
 イルミルートが立ち上がり歩き出す。
 軽く頭を下げてアンリーエがそれに続き、神治と未迦知神も歩き出した。
(って、凄い事になっちゃったな……)
 周囲を近衛騎士の青年たちに囲まれ、何とも言えない緊張を覚えながら神治は大変な状況になっている事に驚きを覚えていた。
 ここに来るまではユイリーエに久しぶりに会うだけのつもりだったのが、何やら一国の王女にもてなしを受ける事になったのだ。一介の中学生としては驚くしかないだろう。
(でも……アンリーエ……姫さまか……姫さまってホント綺麗だよな……)
 イルミルートの呼び方を真似て心の中でそう呼びながら、前を歩くアンリーエの姿を見つめる。
 腰の辺りまで伸びている金髪が歩くたびに揺れ、キラキラと光を放っていて美しかった。
(ここが緋道村だったら……抱けるのになぁ……)
 そんな不敬な思いを抱きながら、自由に女性とセックスできる自分の村は、何と素晴らしい所なのだろうと神治は改めて思った。


(いや〜〜、凄いもんだなぁ……)
 周囲の装飾に感動しつつ、神治は出された紅茶を口に含んだ。
 そこは城の中の一室。
 先ほど案内されてこの部屋に入ったのだが、見事なまでの装飾に驚いていたのである。
 芸術に疎い神治であっても、その作りが優れたものなのだという事が分かるくらいに素晴らしかったのだ。
(美味しい……)
 飲んだ紅茶の美味さも素晴らしく、神治は頬を緩めた。
 さすが小国とはいえ、一国の権力者が飲む紅茶ともなればかなり高級なものなのだろう。
 添えられたクッキーも実に舌触りの良い美味いものだった。
(凄いな……本物だよ……)
 しかしそうした食べ物よりも、神治の興味を引いているのは周囲にいる女性たちだった。
 何しろ日本ではコスプレとして認識されているメイド服を着込んでいるからだ。
 彼女たちは趣味でそうしているのではなく、仕事着として着ている訳だが、揃いも揃って美少女であったため、そういったアニメや漫画を観た事のある神治としては、何とも言えない感慨があったのだ。
 紅茶のお代わりを注がれ、ニコリと微笑まれるとこそばゆいような嬉しさが込み上げてくる。
 ここが緋道村であればすぐにでもセックスの誘いをしているだろう。
 だがそういった魅力的なメイドたちよりも、さらに神治の意識を集中させていたのが、斜め横に座る白いドレスを身につけた少女、アンリーエだった。
 先ほどはケルベロスが現れたため落ち着いて見る事ができなかったが、こうして改めてその容姿を眺めると、その信じられないほどの美しさに息を飲む。
 部の民ゆえか、どことなくユイリーエに似たその顔は美しく、体にしても男心を誘う何とも抱き心地の良さそうな柔らかそうな肉付きをしている。
 特に胸元はさすが白人と思わせるほどの膨らみがあり、思わず揉みしだき顔を埋めたくなるような衝動を呼び起こさせるほどだった。
 これまた緋道村であれば神の力で無理矢理にでも欲情させ、セックスをしているに違いないだろう。
 それができない事の歯がゆさを感じつつ、それでいてこうして眺めているだけでも至福の思いに浸れるアンリーエの魅力には凄まじいものがあると神治は思った。
 何しろその顔を見ているだけで心が穏やかになるし、微笑まれると何とも言えない幸福感が押し寄せてくるのだ。
 それはどうやら神治だけではないようで、周囲のメイドたちの態度にも、単に仕事でしている以上の熱心さが感じられた。
 何というか、アンリーエを慕うあまりにそうしているという印象を思わせる雰囲気があったのである。
「ふむ……やはりそれなりに力を持っているようじゃな。周囲の者がお主を見る目が尋常ではないわい……お主、何か特殊な存在であるのではないか? 先ほど神姫と呼ばれていたが、それはどういった意味なのじゃ?」
 同じように感じたのだろう、未迦知神は美味そうに紅茶を飲んだ後そう尋ねている。
「先ほども申しました通り、わたくしはユイリーエ様と同じ年に産まれているのですが、実はそれは同じ日、同じ時でもあるのです。それゆえ神の力をわずかながら戴く事ができまして、それゆえ皆はわたくしの事を神姫と申しているのです」
「なるほど、魂における双子か……それはまた珍しい事じゃ」
 アンリーエの言葉に未迦知神は納得したように頷いている。
「どういう意味なんですか?」
「うむ、滅多にない事なのじゃがな。神と同時に産まれた子供には、その神に備わる力がある程度与えられるのじゃ。それゆえ人には無い力を持つのよ。ある意味半神といった感じか。キチンと修行を積み、時を経れば神にもなれる存在じゃ」
 何ともとんでもない事に驚く。
 人でありながらそうした資質を持って産まれてくるとは凄い事だった。
「だから姿を消していた俺たちの姿も見えたって事ですか」
「そうであろうな。まあ、あれは大した術ではないゆえ、それほど力が強くなくとも見る事ができる訳じゃが……それよりもここまで周りの者を惹き付ける魅力、それの方が恐ろしかろう。何とも見事なまでの力じゃ。この儂ですら穏やかな気持ちにさせられておるからのぉ」
 そう告げる未迦知神の表情は優しげで、確かに穏やかな気分になっているように思えた。
「恐れ入ります」
 頭を下げるアンリーエの表情を見ていると、そのまま身を委ねたくなる感覚を覚えてくるから不思議だった。
 それが神姫としての力なのだろう。
「姫さまは国中の者に愛されておられます。世界中でこれほど愛されている王女はいないのではないかと言うくらいですわ」
 不意に傍らにいたメイドがそんな事を言ってきた。
「へぇ、凄いんですねぇ」
「ええ、そりゃあもう凄いのですわ。何しろ外国の使節の方々も姫さまにお会いする事を望まれ、お会いできないとそれはもう残念な顔をされるくらいですし。皆さま姫さまの微笑みを見ずには帰れない、などと仰いまして……」
 神治が興味を示すと、メイドは続けてそう告げた。
「リア、そのような事を……」
 アンリーエはそのメイドをたしなめると恥ずかしそうに俯いた。
「失礼しました。でも本当の事ですから……」
 一方リアと呼ばれたメイドの方は悪びれた様子も無く、軽く頭を下げるとケロリとした顔をしている。
 アンリーエを見つめる表情は誇らしげで、彼女の事を自慢したくて仕方がないといった感じが伝わってきた。
「でもその外国の使節の気持ちも分かりますよ。俺にしても姫さまに微笑まれると凄く幸せな気持ちになりますから」
「それは……あ、あの……ありがとうございます……」
 神治がそう告げると、アンリーエは一瞬顔を上げた後、頬を赤くして再び俯いた。
 動揺しているその様子が可愛らしく、心臓が激しく鼓動する。
「それにしても……ユイリーエと違ってお主は何ともよく出来た娘じゃなぁ」
 未迦知神が本当に感心したような口調で呟いている。
 確かに自由奔放なユイリーエと比べると、落ち着いているたたずまいが大人びて見えた。
 魂とはいえ双子であるというのに、その正反対な性格に神治は面白さを覚えた。
「そういや、ユイリーエはどこへ行ったんですか?」
「ユイリーエ様は、その……」
「あの子は遊びに行っちゃってるのよ〜〜♪」
 アンリーエが答えようとすると、不意に違う声がそれを遮った。
(え? 何だ……?)
「うふふ……やぁ〜〜と来てくれたのねぇ。嬉しいわぁ♪」
 続けて同じ声が聞こえたかと思うと、次の瞬間未迦知神の背後に一人の女性の姿が現れた。
「くっ……しまったっ。儂とした事が油断したわっ……」
 未迦知神は顔を歪め、慌てて席を立っている。
「ミ〜〜カちゃ〜〜ん。久しぶり〜〜。会いたかったわ〜〜♪」
「き、貴様。放せ、放さぬかっ……」
 年齢は三十代前半くらいだろうか、驚くほどの美しさを持ったその女性は、そのまま未迦知神に抱き付くと、激しく体を擦りつけながら頭に頬ずりしている。
「嫌よぉ。せっかくこうして会えたんですもん。じっくり再会を喜び合いましょう?」
「儂は別に喜びたくなどないわっ」
「またそんな意地悪言ってぇ。でも分かっているんだからね。ミカちゃんが私と会えて嬉しくて仕方がないのは」
「だから嬉しくなどないと言うておるのが分からんのかっ」
「いやぁん、ミカちゃんってば何でこんなに可愛いのぉ。ちっちゃくって可愛すぎるぅ〜〜♪」
 女性は未迦知神の頭を抱き締めると、服の中に手を入れて胸の辺りで動かしている。
「ば、馬鹿者っ……儂はそんな、あっ……こらやめ、あんっ……」
 激しく抵抗しながら甘い声を漏らしているのが何とも色っぽい。
「ふっふ〜〜ん、じゃあ一緒にいい事しましょ?」
「や、やめよっ。こ、神治、助け……」
 こちらにすがるような視線を向けてきた未迦知神は、次の瞬間女性と共に姿を消した。
 最後に助けを求めていた事を神治は大きな驚きとして感じていた。
 まさかあの未迦知神が自分に助けを求めるとは思わなかったからだ。
「い、今のは一体……」
「ウィリーエ様です」
 呆然とする神治の呟きにアンリーエが答えた。
「あれが……ウィリーエさん……」
 ある意味予想通りとも言える人物だった事に納得しつつ、未迦知神が苦手としているのが何となく分かった。
 こちらの話を全く聞かずに自分のしたい行為を押しつけるというのは、理屈っぽい未迦知神としてはやりにくい相手だろう。
「未迦知さまは、どうなるんですかね?」
 何となくどうなるのかは分かったが、思わずそんな事を尋ねてしまう。
「その……何と申しますか……」
 アンリーエが困ったように言い淀んでいる。
 あの様子から卑猥な行為をされる事が予想できたため、言いづらいのだろう。
「おそらく数日は部屋にお籠もりになられると思います。ウィリーエ様は気に入られた相手ができるとそうされますので」
 リアが淡々とした口調で告げてきた。
「数日って……そりゃ困ったなぁ……」
 その間は家に帰れない事になるからだ。
 瞬間移動ができるのだから本来なら帰れるのだが、そうは言ってもまだ一人で長距離を移動する度胸は無かったのである。
「下手をすると数週間になるかも知れません。何しろウィリーエ様は未迦知さまがいらっしゃるのをかなり楽しみにされておりましたので。きっと頭の先から足の先までを、それはそれは熱心に愛されるのではないでしょうか」
 その言葉に思わず興奮してしまう。
 少ししか見れなかったがウィリーエはかなりの美女であったため、そうした女性が美少女である未迦知神の体を愛撫しているのは凄まじそうだったからだ。
「宜しければ神治さまもご滞在下さい。未迦知さまがお戻りになられるまでご不自由のないように致しますので……」
「いや、でもそれじゃご迷惑でしょう?」
 アンリーエの申し出を申し訳なく思う。
 相手がユイリーエならともかく、今日会ったばかりの相手にそこまでしてもらっては居心地が悪かったからだ。
「迷惑などとんでもございません。神治さまはわたくしの恩人、もてなさせていただくのは当然のことですわ」
 優しく微笑むアンリーエの様子にドキリと心臓が跳ねる。
 そうした挙動の一つ一つに魅力が溢れているのだから凄い事だった。
「姫さま、恩人というのはまさか……」
「ええ、そうです。神治さまはわたくしをお救い下さったのですよ」
 驚いたように尋ねるリアに、アンリーエは微笑みながら答えている。
「そうなのですか。そう言えば確かにこの方の格好は……」
 しげしげとリアに見つめられ、神治は動揺した。
 アンリーエの美しさに紛れて意識が向かなかったが、リアもなかなかの美少女だったからだ。
 それにしてもこの意味ありげな会話は何なのだろう。
「あの……何なんですか?」
「いえいえ、何でも無いのでありますよ……そう……そうそう、神治さまのお召しになっている服が珍しかったものですからつい気になりまして……いやはや失礼致しました」
 リアは慌てた様子で謝っている。
 どうにも胡散臭い言い方であるため神治はひどく気になった。
 神治が着ているのは中学の制服であり、日本ではありふれたいわゆる学ランと呼ばれる服であり、珍しいというほどのものではなかったからだ。
(ってまあ、外国の人には珍しいのかも知れないけどさ……)
 それにしても二人の反応が妙だったので気になった。
「そんな事より、こちらのクッキーをどうぞ。これは他のと違って姫さまが作られたものなのですよ」
「え? そうなんですか? それはいただきます」
 他のものと比べるといくぶん形の悪いクッキーがあったのだが、よもやそれがアンリーエのお手製とは思わなかった神治は驚いた。
「あまり出来が良くないので恥ずかしいのですが……リアはいつもお客様に出してしまうのです」
 アンリーエは本当に恥ずかしそうにしながら顔を赤くしている。
「何を仰るのです。姫さまのクッキーは皆様に好評じゃないですか。是非とも土産として持ち帰りたいと仰るお客様の何と多い事か」
 リアは自慢げに胸を反らしている。
 神治にはその客たちの気持ちが良く分かった。
 アンリーエのクッキーともなれば、味以前にその存在だけで持ち帰りたくなるからだ。
「ではいただきます」
 クッキーを一つ手に取り、口に入れる。
(おぉっ……う、美味い……)
 今まで食べていたクッキーと遜色の無いその味に、アンリーエの菓子作りの腕前がかなりのものである事が分かった。
 しかもただ美味いだけでなく、何やら温かな気持ちが湧き起こってくるのだから不思議だった。
「凄く美味しいです……姫さまは凄いですね、こんな美味しいクッキーが作れるなんて……」
「ありがとうございます……神治さまにお褒めいただいて嬉しいですわ……」
 アンリーエは頬に両手を当てて恥ずかしげにしながら俯いている。
 その様子に心臓が激しく鼓動する。というか、何をされてもドキドキしてしまうのだ。
 神治はすっかりアンリーエに参っている自分を感じつつ、二つ目のクッキーを口に運び、その美味さに再び心地良さを覚えるのだった。


 夜、神治はあてがわれた個室のベランダで星を眺めていた。
 結局あれから未迦知神が戻って来なかったため、仕方なく泊まる事にしたのだ。
 脳裏には連れ去られた際にすがるようにして見つめてきた未迦知神の様子が浮かんでいる。
 あの誇り高い未迦知神が未熟な自分に助けを求めてきたくらいだから、相当に困った状況だったのだろう。
 相手は同じ神、しかも未迦知神の友人である事を考えると、自分などでは想像もできない事をされているように思えて興奮が高まっていく。
 連れ去られる間際にされていた行為が性的な愛撫であった事から、今頃はとんでもない快楽を与えられているのかも知れない。
 憧れの対象である未迦知神が、自分以外の者にそうされているのはあまり気分の良い事ではなかったが、しているのが同性の、ああした性格の女性だと思うとそれほど怒りも嫉妬心も湧いて来ないから不思議だった。
 会ったのはほんの一瞬だけだったが、そうしたマイナスの意識を持てない雰囲気がウィリーエにはあったのだ。
 未迦知神が嫌がりつつもどこか好意を抱き続けている理由が神治は分かったような気がした。
「こんばんは……」
 そんな事を考えていると、不意に声が聞こえたためそちらに視線を向けた神治は、そこにアンリーエが立っているのに驚いた。
 昼間のドレスと同じ白いネグリジェに身を包んだアンリーエは、月明かりに照らされていて、この世の者とは思えないほどの美しさだった。
 薄地の服であるせいか体の線がよく分かり、そのスタイルの良さにゴクリと唾を飲み込む。
 特に胸元を押し上げる乳房の様子は今すぐにでも掴み、吸い付きたくなる衝動を呼び起こさせるほどだった。
「姫さま、どうしたんですか?」
「眠れないのです……何しろ今日はわたくしの人生においてとても大切な日でしたから……」
 星空を潤んだ瞳で見上げながらそう呟くアンリーエの横顔を見ていると、ドキドキと心臓が激しく鼓動するのを抑えられない。
 これまで何人もの美しい女性を見てきたが、目の前にいる少女からはその誰とも異なる種類の美しさが感じられたのだ。
 大人しげでありながら芯の強さを感じさせ、儚げでありながら生命力に溢れたこの王女には、庇護したくなるようでいて身を委ねたくなる安堵感があったのだ。
 これが王族の持つ魅力、いや神姫としての力なのだろうか。
「大切な日、ですか……?」
 どのくらいその横顔に見とれていただろうか、意識を戻した神治は気になった言葉について尋ねた。
「はい……わたくしが産まれた時に告げられた言葉にこうあるのです……『王女が十六の歳に、襲い来るモノより救いたる勇者あり。そのもの黒き衣を纏いて花々が咲き乱れる庭園に降り立つべし』と……」
「それって……」
「そう、神治さまの事ですわ……あなた様はわたくしをお救い下さいました。黒い服を身に付け、花々の咲いている庭園で……あなた様はわたくしの勇者なのです……」
 アンリーエは潤みを帯びた瞳をこちらに向けながら、うっとりとした表情で見つめてくる。
「そしてその言葉には続きがあるのです……『勇者は王女と結ばれ、国に繁栄をもたらし、王女を幸福へと導くだろう』と……」
 その言葉にドキリとする。
 つまり自分がアンリーエと結ばれるという事になるからだ。
「わたくしは幼い頃から夢見ておりました……わたくしを救って下さる勇者とはどのような方なのだろうと……そしてとうとう今日、神治さまにお会いしました……」
「夢を壊しちゃって済みません。もっといい男だと思っていたでしょう?」
 冗談めかして神治は呟いた。
 自分は勇者などという柄ではなかったため、そういった理想の男性として語られる事がこそばゆかったのだ。
「いいえ、そのようなことはありません……神治さまは……まさに勇者として似つかわしい方……わたくしの夢見ていた勇者としてふさわしい方です……」
 そう呟いたアンリーエは不意にこちらに体を向けて手を掴むと、両手で包むようにしてきた。
 そのまま潤んだ瞳でジッと見つめてくるのに体が硬直する。
「どうぞわたくしを……あなた様のモノに……」
 小さな声で言いながら体を寄せ、背伸びをして顔を近づけつつゆっくりと瞼を閉じている。
 これはどう考えてもキスを求める態度だろう。
 その様子に神治は激しく心臓を鼓動させた。
 何しろこのような典型的なキスのシチュエーションは全くと言っていいほど経験した事がなかったからだ。
 今までセックスに伴うキスをしていたため、こうした恋人的なキスはほとんどした事がなかったのである。
(恋人……か……)
 その事にチクリと心が痛み、脳裏に有希の姿が浮かぶ。
 これまでも多くの女性を抱いてはきたが、それは性欲的な意味合いが強く、恋愛感情は無いと言って等しかった。
 恋愛的な意味で抱いているのは有希くらいだったのだ。
 無論未迦知神に対しても恋愛感情はあったが、やはり年上だけにどこか甘えている部分があったため、純粋に恋愛的な感情を抱いていたのは有希だけだったのである。
 そして今の神治は、アンリーエに対してもそうした恋愛的な想いが湧き起こっていた。
 現在の状況がまさに恋人同士のキスシーンであるように思えたからだろう。
 アンリーエが神治にとって恋愛対象となるタイプの女性である事も大きいに違いなかった。
(キス……したい……)
 ゆっくりと迫ってくる唇は実に吸い付きたくなる形をしており、肉体的にもアンリーエを求める想いが強くなっていく。
(有希ちゃん、ゴメン……)
 心の中で謝りつつ、その有希を裏切っているという想いに奇妙な興奮を覚えながら、神治は唇を寄せていった。
「んっ……」
 触れた瞬間、アンリーエの唇から微かな吐息が漏れ、それに反応した肉棒がムクムクと大きくなる。
 心臓も激しく鼓動していて痛いくらいだった。
 まるでキスをするのが初めてであるかのように興奮してしまっているのである。
 何しろ緋道村以外の場所で、家族以外の女性とキスをしているのだ。
 それは神治の経験の中で初めての事だった。
 しかも相手は一国の王女。
 誰かに見られたらただでは済まないだろうという、緋道村ではありえない怖れが興奮を高めていたのである。
「んんっ……んっ……んぅっ……」
 アンリーエの手が背中に回り、強く引き寄せられるのと同時に舌が入り込んできて口内を刺激してくる。
 神治も負けじとその柔らかな体をギュッと抱き締め、舌を絡めて強く吸い上げた。
「んっ、んっ……んふっ……」
 首に腕が絡み、しがみつくようにして抱き付かれ、唇と舌が荒々しく擦り合わされる。
 激しい快感が口内に発生し、股間に響いたそれは肉棒を強く刺激した。
「んっ……んっ……んんぅっ……」
 可愛らしい尻をゆっくり撫で回し、指を肉に食い込ませるようにして掴むと、アンリーエがピクッと体を震わせた。
 そのまま撫でつつ、反対の手を胸元へ持って行き、豊満な膨らみを揉みしだく。
「んっ……んっ……んぁ……はぁ……神治さまぁ……」
 唇を放すと、荒い呼吸を吐きながら潤んだ瞳でこちらを見上げてくるアンリーエの様子にたまらない想いを抱く。
 上気した頬が赤く染まり、未だに触れている体からは熱い肉の感触が伝わってきた。
「もっと……もっと強く、わたくしを抱いて下さいまし……無茶苦茶に……激しく愛して下さい……お願い……」
 その淫靡な誘いに神治の興奮は激しく高まった。
 清楚な雰囲気を持つアンリーエが口にする事で、色気溢れる熟女が発するよりも遙かに強烈ないやらしさを感じさせたのだ。
「姫さま……」
 神治はアンリーエを抱き締めると、そのまま部屋の中に連れて行ってベッドに押し倒した。
 振動に弾む乳房がたまらず、焦りに震える手でネグリジェの胸元を引き下ろし、隠されていた乳房を顕わにする。
 すると白くて柔らかな塊がぷるるんっといった感じで目に映り、その美しくもいやらしい姿に神治はゴクリと唾を飲み込んだ。
(凄い……凄く綺麗だ……)
 目の前に現れた肉体はあまりに白く、まるで芸術作品のようにそこに存在していた。
 それでいて生きている事を示すように呼吸に合わせて上下に揺れ動いているのがたまらず、その全体的に肉付きが良く、まるでこちらの体を包み込みそうな雰囲気のある肉体には圧倒されるものがあった。
 抱き締めたらそのまま取り込まれてしまうような錯覚を覚えたのだ。
 そうした肉の存在感は白人ならではのものであり、細身であっても肉感的な印象をもたらすアンリーエの体は、男の欲情を誘う魅力に溢れていた。
「あっ……はっ……んっ……」
 乳房をギュッと掴み、ゆるゆると揉みしだくと、美しい眉を歪ませてアンリーエが体を仰け反らせた。
 豊満な乳房は予想を裏切らず最高の柔らかさを手のひらに伝え、それでいて強い弾力がある事に何とも言えない心地良さを覚える。
 目の前でタプンっと緩やかに形を変える肉の塊は、見ているだけで股間に刺激をもたらし、その滑らかな肌触りは口内に次々と唾液を湧き起こらせた。
「はんっ……あっ……やっ……」
 両手で乳房全体をマッサージするかのように揉み、ギュウっと握り締めて親指と人差し指の輪から飛び出しているピンクの突起に唇を押しつける。
「あんっ……あっ、はぁっ……んぅっ……」
 巨大な柔らかい肉の塊の中で唯一硬さを持った乳首は、吸い付く器官としてまさに理想的とも言うべき歯触り、舌触りをしていた。
 すでに勃起している乳首は、吸い付くとまるで果実のように甘い味があり、舌を絡めているだけで口内にたまらない快感を呼び起こした。
「あっ、あっ……はんっ、あっ……やぁっ……」
 チュパチュパ、レロレロと吸い付き舌を動かしていくと、イヤイヤといった感じでアンリーエが頭を振るのが可愛らしい。
「あっ……神治さま、あっ……やんっ、ああんっ……」
 白い首筋に舌を這わし、美しい金色の髪を指でくしけずる。
 指に絡みつくことなく離れていく髪はサラサラで、少し力を入れたらすぐに切れてしまいそうに思えた。
「やっ……ダメ、あっ……そこは、やぁっ……」
 小さな耳を舐め、穴に舌を入れると、アンリーエはピクピクっと体を震わせた。
 その様子に可愛らしさを覚えつつ、そのまま甘噛みしながら耳の裏側に舌を這わせていく。
「綺麗ですよ、姫さま……それに凄くたまらない……」
 アンリーエの体は全てが信じられないほどの美しさで出来上がっており、見ているだけでどうにかなりそうだった。
 触れている肌全てから快感が押し寄せ、こちらの体重を受け止める肉の感触には意識が跳びそうなほどの快楽が存在していて凄まじかった。
 高貴で神聖な印象を持たせる体でありながら、それでいて奈落の底に突き落とされるのではないかと思えるほどの淫靡さを感じさせる肉体だった。
 そうした相反する要素が共存し、ある時は恥ずかしがり、ある時は誘ってくる様子は、男が女に求める最高の状態と言えただろう。
 まさにアンリーエは至高の女だったのだ。
「あっ……んっ……やぁっ、はっ……」
 続けて下半身へ移動した神治は、細くて白い脚を持ち上げると、太ももを荒々しく舐め回して数ヶ所に吸い付いていった。
「あっ……やっ……はぁっ……」
 甘い声が漏れるたびにピクッ、ピクッ、と震えが走る様子に可愛らしさを覚えつつ、両脚を唾液で塗装するかのようにしながら強く吸っていく。
「あんっ……あっ……やっ……」
 足の先まで一気に舐め上げ、指を一本一本あめ玉のように口に含んで擽ると、ギュッとシーツを掴むのが可愛らしい。
(いよいよあそこを……姫さまのあそこを見るんだ……)
 興奮が高まった神治は、アンリーエの秘所をさらけ出そうとパンティに手をかけた。
 一国の王女の、多くの人間に慕われている高貴で可憐な少女の秘所をこの目にするのだ。
 激しい興奮が湧き起こり、心臓を痛いほど鼓動させながらパンティを引き下ろしていく。
「あっ、いやっ……」
 その事に気づいたらしいアンリーエが、恥ずかしそうな声を発しつつ脚を閉じてくるのに興奮が高まる。
 そのまま鼻息を荒くしながらグイと脚を左右に開き、顔を近づけていく。
(おおっ……綺麗だ……)
 目に映った秘所は色素が薄いのか、まさにピンクといった色をした肉だった。
 すでに濡れているそこは光を放っており、まるで肉棒を求めるかのようにヌメヌメといった蠢きを示している。
 清楚なアンリーエの印象に不似合いなその淫猥なように、神治は頭がおかしくなりそうなほどの興奮を覚えた。
 可憐な王女であろうとも、この部分に関しては他の女と何ら変わらない、どころかかなりのいやらしさに溢れている事が分かったからだ。
「はぁんっ、あっ、ああっ……やっ、あんっ……ダメ、あっ……はぅっ……」
 秘所をペロリと舐め上げた途端、アンリーエの体がビクビクビクっと激しく震え、そのまま舐め続けるとさらに激しく体を揺らしながらシーツをギュッと掴んだ。
 その事にまるでアンリーエを支配下に置いたような感覚を覚えた神治は、さらに激しく舌を這わせていった。
「あっ、あっ、あんっ……それ、あっ……それダメです、あっ……そんな風にしちゃ、あぅっ……やぁんっ……」
 クリトリスにチュウっと吸い付き、嬲るようにして舌で弾くと、アンリーエは激しく頭を振りながら悶えた。
「あぅっ、あっ、ああっ……やっ、やっ、やぁんっ……はぅっ、はっ、はぁあああっ!」
 不意に大きな声をあげ、体を硬直させたアンリーエはガックリと力を抜いた。
 どうやら絶頂に至ったらしい。
 ハァハァと荒い呼吸をし、汗で髪が額に貼り付けているその姿は美しくもいやらしかった。
(凄い……もう我慢できないよ……)
 清楚な王女の雰囲気とは不似合いなその肉欲を示す様子に激しい興奮を覚えた神治は、いよいよとばかりにズボンとパンツを下ろすと肉棒を秘所に近づけていった。
「姫さま……入れますよ……?」
「……」
 神治の言葉に一瞬驚いたような表情を浮かべた後、コクリと頷くアンリーエに可愛らしさを覚えつつ、亀頭を膣穴へと押し込んでいく。
 ズブ……。
「あっ……」
「くっ……」
 押し寄せる快感に心地良さを覚えながら、そのまま一気に肉棒を押し込んでいく。
 ズブズブズブ……。
「あっ……ぐっ……痛っ……」
「え……?」
 アンリーエの発した言葉にギョッとして動きを止める。
 見ると辛そうな表情を浮かべている顔がそこにはあり、どう考えても痛みに耐えているように思えた。
「もしかして……姫さま、初めてなんですか……?」
「はい……」
 恐る恐るといった感じで尋ねると、コクリと頷く純真な瞳にギョッとなる。
「そ、そんな……初めてって……」
 あれほど積極的に誘ってきた様子から、よもや処女だったとは思わなかった神治は背中に冷水を浴びせられたような衝撃を受けた。
 何しろただの少女の処女を散らしたのではない。一国の王女の処女を奪ってしまったのだ。
 その認識は激しい恐怖となって神治を包んだ。
 いくら誘われたからと言っても、こういう場合男の方に責任があるだろう。
 下手をしたら国際問題になるのではないだろうか。
「お気になさらないで下さい。これはわたくしが望んだことなのですから……」
「いや、そうは言っても……」
「わたくしの純潔は勇者さまに捧げると、以前から決めておりました……ガジギール様もその想いを尊重して下さり、今日までわたくしは乙女として過ごして参ったのです……そしてようやくその想いは叶えられました……嬉しくて仕方がありません……」
 涙を浮かべながらこちらをジッと見上げてくるアンリーエの姿に、何とも言えない感動が込み上げてくる。
 アンリーエは幼い頃から夢見ていた勇者と結ばれた事を喜んでいるのだ。
 それは純粋な想いであり、おそらく彼女は今幸せを感じているのだろう。
 その事自体には何も問題は無かった。
 ただ果たして自分がその勇者であるのか、それだけが神治には気がかりだったのである。
「あなた様は勇者さまです」
 不意にまるでこちらの内心を見透かしたようにアンリーエが言ってきた。
 そしてその言葉がそれまでとは違った強い口調で発せられている事に、アンリーエの違った一面を見た気がして神治は驚いた。
「で、でも俺は……勇者なんかじゃないですよ……」
 すでに肉棒を挿入してから言う台詞では無かったが、罪悪感から神治はそう答えた。
「いえ、勇者さまです。これは他の誰にも分からない、わたくしだけが分かる事なのです……神治さまと会った瞬間、わたくしは感じました。ああ、この方が勇者さまであると、わたくしの運命の人であると……それだけが大事なのです……他にどれほど素晴らしい方がいようとも、わたくしにとっての勇者はあなた様だけなのです……」
 純粋な、まさに純粋なその想いに神治は心を打たれた。
 欲情が薄まり、何か高尚な想いに身も心も包まれていく。
(え……?)
 その瞬間、股間から何かが押し寄せてくるような感覚が起こった。
(うっ、これは……何だ……?)
 目の前が真っ白になり、意識が遠くなっていく。
(!……)
 しばらくすると周囲がそれまでと違っている事に驚く。
 何も無い。
 そこはまさに何も無い空間だった。
 周囲は全て真っ白で、床も硬いような柔らかいような微妙な感触になっていた。
 服が消えて裸になっており、抱いていたはずのアンリーエの姿も消えている。
 本来ならば怖くて仕方の無い状況であるはずなのだが、何故か神治は落ち着いた気分に包まれていて、逆にどこか安らぎを覚えている事を不思議に感じた。
「神治さま……」
 聞こえた声に驚いて視線を向けると、目の前にアンリーエの姿が現れた。
 やはり神治と同じくネグリジェが無くなっていて丸裸の状態だ。
 そしてアンリーエの存在を知覚した途端、先ほどと同じように性器で繋がっていることに気がつく。
「姫さま……ここは一体……」
「分かりません……ですが不安を感じないのだから不思議ですね……ふふ、神治さまと一緒だから、いえ、こうして繋がっているからでしょうか……」
「え……?」
「神治さまの温かさが伝わってきます……ドクンドクンって……これが男の方の力強さなのですね……わたくしの体を貫いて……まるで一部にされてしまったかのよう……」
 うっとりと見つめてくるアンリーエに激しい愛おしさを覚える。
「姫さま……」
 ギュッと抱き締めると、滑らかな肌触りと温かい肉の感触が伝わってきてたまらなかった。
 ビクビクと肉棒が蠢き、膣襞と擦れて快感が湧き起こってくる。
「どうぞアンリーエとお呼び下さい……そう呼び捨てて下さいまし……」
 その甘えるような言葉に激しい愛おしさと興奮が高まっていく。
 ここがどこで、自分たちが一体どうなってしまったのかなどという事が気にならなくなった。
 今自分は最高の女と繋がっているのだ。
 高貴で可憐な慎ましい少女の体を抱いているのである。
 それ以外何を必要とするものか。
「アンリーエっ」
 名前を呼び捨て、その美しい体を抱き締めると神治は激しく腰を振り始めた。
「あっ、あっ、ああっ……やっ、やっ、やぁっ……」
 こちらの動きに合わせてアンリーエの体が揺れ、その美しい唇から淫靡な吐息が漏れる。
「あんっ、あっ、はぁっ……凄い、あっ……これが、あんっ……これがセックスなのですね? あっ……神治さまが、ああっ……神治さまが感じられます、あんっ……」
 アンリーエは背中に手を回し、ギュッと抱き付いてくる。
 すると膣内も締まり、その快感に神治はますます腰の動きを激しくしていった。
「アンリーエっ……アンリーエたまらないよっ……アンリーエ最高だっ……」
 これまで「姫さま」と呼び、憧れていた相手を呼び捨てて喘がせる。
 それには何とも言えない快感があった。
 高貴な存在である王女をそうして従えている事に、満足感、優越感が押し寄せてきたのだ。
「わたくしも、あっ……わたくしもたまりません、ああっ……神治さま、あっ……神治さま素敵です、あっ、あんっ……」
 すでに痛みは無いのか、アンリーエは快感の声をあげている。
 膣内もまるで経験豊富な熟女のものであるかのように肉棒を激しく嬲っていた。
 さすが神姫と呼ばれるだけあって、その肉体は未迦知神やユイリーエを抱く時と同じような素晴らしさがあった。
 まるで膣が単体の生き物であるかのように絡み吸い付いて精を出させようとしてくるのだ。
 それは修行前の神治であればすぐにでも射精せずにはいられない刺激だったろう。
 しかしこの数ヶ月の修行の成果か、快感は得られるが、射精感は押し寄せないという状態を保つ事ができていた。
 神治は余裕を持ちつつも、さらなる快楽を求めて激しく腰を振っていった。
「やっ、やっ、やぁんっ……凄い、あっ……凄いです、ああっ……神治さま凄いぃっ……わたくし、あっ……わたくしどうにかなって、あぅっ……どうにかなってしまいそうです、あっ、ああっ……」
 アンリーエの細い脚が腰に絡み付き、もっと気持ち良くしろと言わんばかりに引き寄せられる。
 清楚な雰囲気を持ちつつも、こちらが与える刺激によって現れるそうした女としての表情がたまらない快感となった。
 普通の女性とは違う、本来ならば手の届かない高貴な存在の王女である点が征服欲を刺激しているのだろう。
 潤みを帯びた、求めるようにして見つめてくるその弱々しい瞳に嗜虐心が激しく反応する。
 この国で最も高貴で愛されている少女を自分は抱いているのだ。
 それは何とも言えない優越感を持たせるものだった。
「あっ、ああっ、はぁっ……神治さま、あっ……わたくしもう、あんっ……わたくしもうダメです、ああっ……もうダメぇっ、やぁっ……」
 顎を仰け反らせて悶えながら、アンリーエは絶頂が近い事を告げてきた。
「アンリーエっ、アンリーエっ、アンリーエぇっ……」
 名前を呼びつつ床に両手を突いて貫かんばかりの勢いで肉棒を叩き付けていく。
「あんっ、あんっ、ああんっ……わたくし、あっ……わたくし変です、ああっ……わたくし変になっちゃうのぉっ、やっ、やっ、やぁっ……ダメっ、いやっ、やぁんっ……あっ、あっ、あぁあああああああっ!」
「うぉっ!」
 アンリーエの絶頂と共に膣内がキュウっと締まり上がり、そのたまらない快感に神治は一気に精を放った。
 ドピュドピュドクドクドクドク……。
 凄まじい勢いで精液が放出され、それと共に押し寄せてくる快感に神治はだらしなく頬を緩め、何度も何度も精を放っていった。
「あ……は……ああ……」
 下を見れば、アンリーエが満足な笑みを浮かべてうっとりとした表情をしている。
(アンリーエ……何て可愛いんだ……)
 一国の王女を抱いた事に激しい満足感が込み上げてくる。
 清楚で美しく高貴な少女を抱いたのだ。
 何と素晴らしい事だろう。
「うっ……くっ……ふぅ……」
 最後の射精を終えた神治は、力を抜いてゆっくりとアンリーエの体に倒れ込んだ。
(え……?)
 すると不意に周囲の風景が変わった事に驚く。
 いや、変わったというより元に戻ったと言うべきか。
 先ほどまでの何も無い空間から、元の神治があてがわれた城の個室に戻っていたのだ。
 服もズボンとパンツは下ろした状態であるとはいえ身に付けており、アンリーエもはだけてはいるが寝間着を着ていて、真っ裸な状態では無くなっていた。
 一体今のはどういう事だったのだろう。
「神治さま……」
 不可思議な状況に不審の念を抱いていると、アンリーエの声が聞こえた。
 その声音には、交わる前には無かった甘えと媚びが感じられ、自分がこの少女を己のモノにしたのだという実感が湧いてくる。
「アンリーエ……」
 神治は未だ火照っているアンリーエの体を抱き締めると、軽く唇に口づけた。
「んっ……ふふ、何だか不思議です……神治さまとは今日会ったばかりですのに……まるで産まれた時から一緒に暮らしているかのような安心感がありますわ……」
 潤んだ瞳でこちらを見つめ、甘えるように頬ずりしてくるのがたまらない。
「俺もです……アンリーエをこうして抱き締めていると、凄く安心できる……」
 柔らかな金髪を撫でながら、その額に唇を寄せる。
 今告げた言葉に偽りは無かった。
 自分でも分からないが心地良い安堵感があるのだ。
「やはり魂での繋がりを得たからでしょうか……あのような体験は初めてです……ふふ、凄い初体験になってしまいました……」
「魂での繋がり……それってどういう事なんですか?」
 言葉の意味が分からず問い返す。
「わたくしと神治さまが、肉体だけでなく魂でも結ばれたという事ですわ」
「え……?」
「先ほどの異空間……最初は分かりませんでしたが、今は分かります。あれはわたくしたちの精神が混じり合った空間だったのです」
 話が難しい内容になったため目を白黒させる。
「それって……えっと……どういう意味なんでしょう?」
「簡単に言えば、二人で同じ夢を見ていたようなものですね」
「夢? じゃあ今あったのは夢……?」
「いえ、そういう事ではなく、夢のような空間で魂を繋げ合ったという事です。わたくしたちは肉体だけでなく、魂も繋がっていたのですわ」
「魂って……そんな……どうして姫さまと俺が……」
「アンリーエ、アンリーエと呼んで下さいまし……」
 アンリーエは唇に指を当ててくるとそう告げた。
「あ、はい……アンリーエ……」
「嬉しいです、神治さま……」
 恥ずかしそうに頬を赤く染め、嬉しそうに微笑むアンリーエの姿に愛おしさが込み上げてくる。
「それで、俺とアンリーエはどうしてそんな状態になったんでしょう?」
「おそらく神治さまがわたくしの運命の人だからですわ。結ばれるという言葉は肉体だけでなく、魂での繋がりをも意味していたのだと思います」
「それって、何か今までと変わるんでしょうか……?」
「もちろんです……わたくしと神治さまは魂の繋がりを持ったいわば夫婦のようなものですから」
「ふ、夫婦って……け、結婚するって事ですか?」
 その言葉に慌てて聞き返す。
 これまで自分は追い詰められた際にプロポーズしてしまった事が何度かあったが、よもやまたそれをしてしまったのかと思ったからだ。
「そうです、と言いたい所ですけど残念ながら違います。これはあくまで魂の繋がりですから……わたくしは神治さまのモノであり、神治さまはわたくしのモノである、いわば魂の共生関係と言えば宜しいでしょうか」
 分かるようでいて分からない話だった。
 どういう事なのだろう。
 実際に一体化したのならば納得できるのだが、肉体としては別々に存在しているため、その状態で繋がっているというのがよく分からなかったのだ。
「それほど深くお考えにならずに……今まで通りにしていて下されば良いのです」
「そうなんですか?」
「ええ、魂の繋がりというのは言わば強い絆のこと……そう、家族のような存在が増えたと思っていただければ宜しいと思います」
「それってやっぱり結婚するみたいな感じですね」
「ふふ、わたくしはそれでも構いませんわ……神治さまのことはお慕い申しておりますから……神治さまさえ宜しければ、いつでも妻になります」
 その言葉にドキンっと心臓が鼓動する。
 アンリーエほどの美少女にそう言われて動揺しない男などいないだろう。
 その言葉が冗談ではないと分かれば余計だ。
(神ちゃん……)
 脳裏に有希の姿が浮かぶ。
 結婚を誓い合った従妹の少女だ。
 有希の事を思い出した神治は、自分が浮気をしている気がして罪悪感を覚えた。
 普段から肉体的な意味であれば多くの女性を抱いているが、精神的な意味では有希一筋、という訳でもないが、取り合えず自分にとって一番は有希であると確信している部分があった。
 しかし今目の前にいる高貴な少女は、そうした意味で有希の立場を揺るがすほどに神治の恋愛感情を擽っていたのだ。
 よく考えてみれば、アンリーエの性格は有希に似ているように思えた。
 大人しく、こちらを立ててくれる優しい性格は有希と共通する部分だろう。
 要するにもう一人の有希といった感じで、そうした相手に激しい好意を寄せられては嬉しくて仕方がなく、恋愛感情を抱いてしまうのも仕方がないと言えた。
(でも……このままじゃマズイよね……)
 今ですらかなりの恋心を抱いているというのに、これ以上一緒に居てはおそらく有希と同じか、下手をしたらそれ以上に惚れてしまう可能性があった。
 そうなる前に離れた方がいいだろう。
 何しろ相手は一国の王女だ。
 神であるとはいえ、自分のような者が結婚相手になるなどありえない事なのだから、できるだけ早く想いは絶った方がいいに違いなかった。
「アンリーエ、俺はもう……」
「好きです……神治さまの事が、わたくしは好きです……だから、もっとお願い……」
 神治の考えを読み取ったのか、離れようとする言葉を遮ってアンリーエは告白してきた。
 そしてその姿はあまりに美しくもいやらしく、神治の動きを止めるのに十分な効果があった。
 しょせん男は女にこうして迫られると逆らえない生き物なのかも知れない。
 心ではいけないと思いつつも、その愛らしい姿と先ほど味わった快感が体を縛って動く事を拒否させた。
「ここにいる間だけは……どうかわたくしを、わたくしだけを見て下さい……決してそれ以上神治さまを困らせるような事はいたしませんから……」
 激しく求めるように、すがるように抱き付かれながらそう言われては、神治に逆らう術はなかった。
 それに若い肉体は未だに触れている柔らかな肉を求めており、その欲情が理性を駆逐していったのだ。
(有希ちゃん、ゴメン……)
 自分は浮気をしている。
 そう自覚すると激しい興奮が起こるから不思議だった。
 悪い事をしているはずなのに、どうしてここまで快感を覚えるのだろう。
「アンリーエ……」
「神治さま……」
 そんな事を考えつつ、この極上の肉体をまだ抱ける事に喜びを覚えながら、神治はアンリーエの美しくもいやらしい肉体を貪っていくのだった。


「あんっ、あんっ、ああっ……やっ、やっ、やぁんっ……」
 あれからどれくらい経っただろうか。
 神治はずっとアンリーエを抱いていた。
 今はお互い裸の状態で、四つんばいになったアンリーエを背後から貫いて腰を振っている。
 清楚な王女をこのような体勢にさせ、獣のように交わっている自分はこの国の民衆からしたらどう見えるのだろうか。
 しかもアンリーエはただの王女ではない。
 神姫と呼ばれ、国民から愛され慕われている王女なのだ。
 その素晴らしい王女を、自分は今こうして自由にしている。
 それは何とも言えない快感だった。
「ああっ、神治さま、あんっ……神治さまいいです、あっ……神治さま気持ち、あっ……気持ちいいですぅっ……」
 アンリーエはすっかり快楽の虜だった。
 始めは恥ずかしがったこの体位も、今や嬉しそうに自ら腰を振り、快楽を求めている。
 頭を快感に激しく振りながら甘い声を漏らしているその姿はいやらしく、時折もっと激しくして欲しいと言わんばかりに振り返って見つめてくるのがたまらない。
 そうした淫靡な様子でありながら、清楚な雰囲気を残したままであるためか、高貴な王女を犯しているという気分が味わえ、何ともそそられるものがあった。
「あっ、あっ、ああんっ……凄い、あっ……神治さま凄いです、ああっ……神治さま凄いのぉっ……」
 真っ白な背中に金色の美しい髪がかかり、それがこちらの腰の動きに合わせて揺れているのが淫靡さを感じさせた。
 掴んだ尻は小さいながらも肉付きが良く、撫で回すと手のひらに極上の感触が走る。
 膣内は肉棒に強く吸い付き、絡み、精を吐き出させようと蠢いていて、まさに快楽の坩堝といった感じだった。
「あぅっ、あっ、あんっ……胸を、あんっ……胸をそんな、やぁっ……神治さま、それ、ああんっ……」
 背後から豊満な乳房をギュッと掴み、やわやわと揉みしだくとアンリーエは頭を仰け反らせて悶えた。
(可愛いっ、可愛いっ……アンリーエ可愛いよっ……)
 すでに神治はアンリーエに夢中だった。
 好みの容姿と性格、そして体の相性も最高であり、何をしていても愛おしくてたまらない感情が込み上げてくるのだ。
「あんっ、あっ、あはぁっ……わたくしもう、あっ……わたくしもうダメ、あんっ……わたくしもうダメですぅっ……やっ、やっ、やぁんっ……」
 頭を左右に激しく振りながらそう訴えてきたアンリーエは、そのまま腕を崩し、尻を掲げる姿勢になった。
「俺も、もうっ……俺ももう出すっ……出すからっ……」
 アンリーエの絶頂に合わせて射精しようと、神治は今まで以上に強く肉棒を叩き付けていった。
「あぅっ、あっ、ああんっ……神治さま、あっ……神治さ、あんっ……神治さまぁっ……やんっ、やんっ、やぁんっ……」
 勢いのある腰の動きに尻と背中がくっつくほどになり、アンリーエがイヤイヤといった感じで頭を振っているのが可愛らしくもいやらしい。
 シーツの上にこぼれた金髪がそれに合わせて揺れる様子に、神治の興奮は最高潮に達した。
「あっ、あっ、ああっ……そんな、あっ……そんなの、ああっ……神治さまそんなぁっ……はんっ、はんっ、はぁんっ……もうイっちゃう、あっ……もう、あんっ……もうイっちゃうのぉっ……やっ、やっ、やぁああああああああっ!」
「アンリーエっ!」
 二人の叫びが重なり、その瞬間精が放たれた。
 ドピュドピュドクドクドクドク……。
 激しい勢いで精液がアンリーエの膣に放出されていく。
 王女の高貴な肉体に己の精液を注ぎ込んでいると思うと激しい満足感があった。
「ぐっ……くっ……ふぅ……」
 最後の放出を終えると、力を抜いてその柔らかな体に身を預ける。
 そのまま横に倒れ、アンリーエを背後から抱き締めるようにしながら神治は荒い呼吸を繰り返した。
「神治さま……好きです……愛しています……」
 こちらに体を向けたアンリーエは、胸に頬を寄せ、甘えるように頬ずりしてきた。
 その態度と「愛しています」といった言葉に神治はかなり蕩けさせられていた。
 特にジッとこちらを見つめてくる瞳がたまらず、そのすがるような、求めるような、自分しか頼る相手がいないのだと思わせる瞳が、強烈に庇護欲と嗜虐心をそそらせた。
「今度はわたくしが……神治さまを気持ち良くしてさしあげます……」
 体を起こしたアンリーエは股間に顔を寄せると、力なく垂れている肉棒を掴んだ。
 まさか口でしてくれるのかという期待に激しい興奮が起こり、一気に肉棒が硬く大きくなっていく。
「ふふ……凄く元気です。そして力強い……ああ、神治さま……愛しています……」
 その愛の言葉に心臓が跳ね、清楚な顔が汚らわしい肉棒に近づいていくのに神治はおかしくなりそうなほどの興奮を覚えた。
 アンリーエの可愛らしい唇が開き、その小さな口に肉棒が含まれていく。
「うっ……」
 その瞬間、たまらない快感が押し寄せ、意識せずとも体が震えた。
 フェラチオなど何度も経験しているはずであるのに、まるで初めて体験するような新鮮な感覚があったのだ。
(うぅっ……凄いっ……凄いよぉっ……)
 アンリーエの口内は含むだけで強烈な快感を与えてきており、その気持ちの良さに思わず頭を仰け反らせる。
 そして視線を股間に向ければ、愛おしくてたまらないといった表情を浮かべて肉棒を舐めている可憐な少女の姿があり、それは激しい射精感を誘うものだった。
「んぐっ、んっ……んんっ……」
 舌が亀頭に絡み、強く舐め回してくるのがたまらず、その温かくヌルヌルとした感触に体がビクンっと跳ねる。
 アンリーエの技術はまだ拙いものであったが、そうであっても十分過ぎる快感が舌や口内から押し寄せてきていた。
 こちらを上目遣いに見上げてくるその表情は実に嬉しそうであり、その温かさを感じさせる微笑みと、している行為の淫靡さのギャップに神治は激しい興奮を覚えた。
「んっ……んっ……んんっ……」
 顔にかかる髪をかき上げる仕草がたまらず、あっという間に射精感が込み上げてくる。
 修行でかなり鍛えられたはずであるのに、それが無意味であるかのようにアンリーエのフェラチオは強烈だったのだ。
 それは肉体的な事が原因というより、神治がそれだけアンリーエに対して無防備になってしまっている証だったろう。
「アンリーエ……もう……出るっ……」
 神治がそう告げると、アンリーエは肉棒の吸引を強くし、顔を上下に激しく動かし始めた。
「うっ……くっ……出るっ、出るっ、出るぅっ……」
 その刺激に耐えられず、神治は一気に精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、と激しい勢いで精液が放出され、アンリーエはそれを嬉しそうに飲み込んでいる。
 己の出した精液を飲んでくれているその様子がたまらず、神治はアンリーエに対する激しい愛おしさを覚えた。
「神治さま……わたくし、幸せです……」
 ゴクリと精液を飲み終えたアンリーエが、口元を指で拭いながらすり寄るようにして抱き付いてきた。
 上目遣いにこちらを見つめ、嬉しそうに微笑んでいる様子がたまらない。
 自分は何と幸せなのだろう。
 このように高貴で可憐で慎ましく美しい少女に愛されているのだから……。
「俺も……俺も幸せです……」
 そう答えつつ、神治はアンリーエを強く抱き締めると、その唇に吸い付いていった。


 目が覚めると朝だった。
 見慣れぬ周囲の様子にギョッとしつつ、すぐにそこがユイリーエの故郷であり、その部の民の城の一室である事を思い出す。
 視線を隣に向けると、朝日に輝く美しい少女の寝顔がそこにあった。
(アンリーエ……)
 白い布団に包まれた白い肌をした少女。
 金色の髪がキラキラしているのが何とも綺麗だった。
「ん……んん……」
 たまらずそっと頬に指を這わせると、アンリーエが可愛らしい吐息を漏らした。
 少し体を動かしたため、それに合わせて豊満な乳房がタプンと揺れ、その様子に欲情が高まっていく。
(ああ、アンリーエ……)
 我慢できなくなった神治はその柔らかな肉体を抱き締めた。
 温かく心地良い感触が伝わってくるのがたまらない。
「あ……んふ……ん……神治さま……おはようございます……」
 目を覚ましたらしいアンリーエがこちらにうっとりとした瞳を向けてくる。
「おはようございます……」
 神治が挨拶を返すと、恥ずかしそうに視線をそらして頬を赤くしたため心臓が跳ねた。
(何て可愛いんだろ……)
 ふわふわとした金色の髪が額にかかっていたため、それを優しく指で撫でる。
「わたくし……昨日神治さまと……結ばれたのですね……?」
「そうですよ……」
 潤んだ瞳で見つめてくる美しい顔を眺めながら、神治はゆっくりと唇を重ねていった。
「んっ……んんっ……」
 その甘い唇を味わうと、昨夜の交わりを思い出してアンリーエに対する執着が高まっていく。
「神治さま……宜しければもうしばらくご滞在下さい……わたくし……その……神治さまともっと一緒に居たいのです……」
 胸に顔を寄せ、上目遣いに見つめてくるアンリーエの姿は、神治の中にある庇護欲を激しく刺激した。
 朝日に照らされ、金色の髪と血管が透けるほどに白い肌が輝いており、その美しさに感動を覚える。
 自分はこれほど美しい少女に好意を持たれているのだ。
 それは何と素晴らしい事だろう。
「もちろん居ますよ……俺もアンリーエともっと一緒に居たいですから……」
「!……」
 そう答えると、アンリーエはパァっと明るい笑顔を浮かべ、甘えるように頬ずりをしてきた。
「神治さま……好きです……愛しています……」
「俺も……俺もアンリーエの事が好きだ……愛してる……」
 愛の言葉を交わしつつ、二人は再び唇を合わせていった。
 お互いの存在がそこにある、ただそれだけの事に激しい喜びを感じながら……。












あとがき

 私は王女さまが好きです。
 高貴な存在との恋愛関係ってのが良いのですな。
 アニメや漫画でそういったシチュエーションが出るたびに凄く興奮しているんですよね。
 特に王女さまが真面目でしっかりしているタイプだと凄く良いです。
 高貴さを感じさせ、大人しい感じなのに芯は強い性格だともう最高ですわ。
 要するに今回書いたような王女さまですね。
 こういう王女さまはホントたまりません。
 そういう王女さまとの絡みをいつか書きたいと思っていたので、今回頑張って書いてみました。
 とにかく高貴さと、可憐さと、慎ましさと、可愛さを持っていて、それでいて熱い想いをぶつけてくるような、そんな王女さまを書きたかったのですな。
 そしてそうした王女さまとのラブラブなエッチシーン。
 昔からアニメや漫画でこうした王女さまが出るたびに夢見てきたシーンを書いたのであります。
 いやはや、ホントたまりませんよ。
(2007.9.4)



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