緋道の神器


        第八話  当主の儀式



 神治は緋道村に戻っていた。
 佳奈と舞美とセックスした事により、嫌がっていた母を妥協させ、一家全員で緋道村に引っ越す決意をさせることができたのだ。
 いくら嫌がろうとも、姉妹二人が神治とのセックスを止める意思を示さない以上、いつまでも普通の社会で暮らしていても仕方がないと思ったのだろう。
 母は普通の家庭を夢見て村を出たのであって、その出た先でも村にいるのと同じ生活をするのでは意味がないからだ。
 それに当主となる神治だけが離れて暮らすよりは、息子と一緒に居たいという母親としての思いもあったに違いない。
 母は一言もその事について語らないので本当のところは分からないが、恐らくそういう理由ではないかと神治は思っていた。
 そして神治たち一家は再び緋道村に戻り、伯母の家、いや今となっては神治のものと言える家に住むことになった。
 ただ父だけは一緒に住まず、別の家で暮らしている。
 そこは父の実家であり、神治たちの家からそれほど離れているわけではなかったが、今まで一緒に暮らしていたことを思うと、寂しさを感じない訳にはいかなかった。
 なぜ父が同居しないのかと言えば、元々当主と血縁関係の無い男は一緒に住むことが許されていないそうなのだ。
 四年前までは一緒に暮らしていたはずなのだが、実は夜になるとコッソリ抜け出して家に帰っていたらしい。
 普通の家庭を夢見る母のために、伯父が特別にそういった事を許していたそうなのだ。
 父と伯父は親友同士で、父に対する伯父の信頼はかなりのものだったようだ。
 本来当主の血縁の女と結婚するのは形式でしかないため、夫婦が会うこと自体ほとんどないというのに、村を出て一緒に暮らすことまで許していたのだから相当な信頼と言えるだろう。
 当主の跡継ぎを生ませるべき女に手を出すかも知れない事を考えれば、他の男と生活させるなど絶対に許されるものではない。
 だが伯父は、父が決して母に手を出さないと信頼していたのだ。
 実際、父は母を抱いていないらしい。
 以前母を襲った時に、四年間セックスしないで過ごしてきたと母が言っていたからだ。
 あれだけ魅力的な母に手を出さないでいた父の忍耐力に神治は感心し、親友である伯父の信頼を裏切らなかった友情に感動した。
 引っ越す直前、神治は以前から気になっていた事を父に尋ねてみた。
(父さん……俺は父さんの子供じゃないんだよね……?)
(そうだ……)
 父の答えは簡潔で穏やかだった。
 予想していたとはいえ、実際に言われると少しショックを感じた。
(じゃあ……伯父さんの子供なのかな……?)
(それは分からない……あの頃はお爺ちゃんや、お爺ちゃんの兄弟も生きていたからな……)
 せめて誰が父親なのかハッキリさせたかったが、緋道家の慣習においてそれは無理なことだった。
(だが、お前の父親は私だよ……誰が何と言おうとな……血が繋がっていようがいまいが関係ない……お前は私の息子だ……)
 父は神治の肩に手を置くと、真っ直ぐ目を見つめながらそう呟いた。
 肩から父の力強さが伝わり、思わず目頭が熱くなる。
 神治は、伯父が父を信頼して母を任せた理由が分かったような気がした。
(俺の父親は父さんだけだ……)
 父との会話を思い出しながら、神治はそう思った。


 現在神治は、神社の建物の中にいる。
 当主になる儀式を行なっているのだ。
 儀式といっても大した事はなく、一晩神社に篭るだけだった。
 本来は「神と交わり、その力を分けてもらう」という趣旨があるのだが、しょせんは言い伝え、実際には何をすることもなくただ寝るだけのようだった。
 とはいえ、この儀式を行うことから神治の家は「当主家」と呼ばれ、緋道村において権威のある家となっていたため、そういう意味で重要な儀式ではあったのだが。
 目の前には夕食が並べられたちゃぶ台があり、傍らには布団が敷いてある。
 以前、なぜ神社にこのような物が置いてあるのかといぶかしんだが、ようやく理由が分かった。
 当主になる人間が泊まるためのものだったのだ。
(神様か……)
 伯母から聞いた話によると、この神社の神は大昔から緋道村を守っていて、名前を緋道未迦知神(ヒドノミカチカミ)というのだそうだ。
 緋道村の名前の由来もこの神から戴いたものだと言っていた。
 幼い頃から神に対する感謝の気持ちを持つように育てられたため、一応敬う気持ちはあるものの、実際その神と関わりを持つ立場に自分がなるとは思わなかった。
(交わるってことは……女の神様なのかな……?)
 下品な想像をしそうになって、今いるのがその神の神社である事を思い出し、慌ててそれを振り払う。
 幼い頃からの教育とは大したもので、神に対する敬いがきっちり心に根付いているのだ。
(でも性の神様なんだよね……だったら別にいいのか……)
 当主家の人間が高い性的能力を持っているのは、この神と交わったためだという事になっている。
 それに自分はその神と交わるはずなのだ。
 その想像をしても失礼にはあたるまい。
(凄い体なのかなぁ……)
 自分が今まで経験してきた女性たちよりも凄い肉体というのは想像ができなかった。
(でも神様だからなぁ……きっと物凄いんだろうなぁ……)
 人知を超えた快楽があるのではないかと想像し、思わず肉棒が硬くなる。
(おっと……ここではあんまりそういう想像をしない方がいいんだった……)
 以前有希を襲ってしまったのも、この場所で欲情したためだ。
 信じられないほどの興奮が湧き起こり、気絶するまでし続けたのである。
(奥に行こうとして……それで……)
 肉棒が激しく勃起し、女が欲しくてたまらなくなった。
 今は入り口付近にいるためそういった事はないが、奥の祭壇に近づけば同じようになるかも知れない。
 言い伝えでは、神に封じられた化け物が獲物を呼び寄せるために欲情させているらしい。
 だがそれはあくまで言い伝え、比喩でしかないため、実際のところはどうなのか分からなかった。
(しずねぇは、ガスとか言ってたけど……)
 だがあの時自分は声を聞いたのだ。
 有希を犯すように促す声を。
 静はそれも幻聴作用のあるガスのせいだと言っていたが、それを話している時の様子はどこかおかしかった。
 何かを隠しているような、そんな印象を受けたのだ。
(まさか……本当に化け物がいるとかね……)
 真意のほどはともかく、夜にたった一人でこのような場所にいると、化け物のイメージが湧き上がってきて思わず怖くなってしまう。
(ま、祭壇に近づかなければいいんだよ……)
 入り口付近にいれば大丈夫。
 伯母にそう言われ、神治はずっとそこから動いていない。
(しかしやる事ないよな……)
 普段ならテレビでも見ている時間であったが、今は儀式の最中。
 大人しくジッとしているしかないのだ。
(ホントなら神様とエッチしてるんだよねぇ……)
 それならば暇になる事なく時が過ごせたであろう。
 だが現実には神は現れることなく、神治はたった一人でボーっとしているしかない。
(あ〜〜、もう寝よう……どうせやる事ないんだし……)
 儀式とは言っても一晩いればいいだけなので、寝ても構わないのだ。
 神治はいつもより遥かに早い時間ながら布団に横たわった。
 眠れないかと思ったが、やはり当主になることに緊張していたのか、横になると眠気が襲ってきてすぐに寝入ってしまった。


(少年……)
 誰かの呼ぶ声が聞こえる。
(少年……起きぬか……)
 今まで聞いたことのない声だったが、実に気持ちの良い感じがした。
「少年っ! 起きよっ!」
 ハッキリと声が聞こえ、目を覚ます。
「うぉっ!」
 驚いたことに自分は立っていた。
(立ったまま寝てたのか……)
 確かに布団で横になっていたはずなのに、どうしてこのような状況になっているのか訳が分からなかった。
 しかも周囲は見慣れぬ場所である。
 床は石で舗装されているが、壁などは自然の洞穴を思わせるものだった。
(ここ……どこだ……?)
 辺りを見回しても見知った所はない。
「おお、起きたか……」
 先ほどから自分に呼びかけていた声が再び聞こえた。
 その持ち主を求めて声のした方を見ると、そこには一人の女性が立っていた。
 腰まである長く美しい黒髪に、白衣に黒い袴といった巫女のような格好をしており、年齢は三十歳くらいだろうか。
 なぜか手首に壁から延びた鎖がはまっていて、それが異様な思いを持たせたのだが、それよりも神治の興味を引いたのは、その女性の信じられないほどの美しさだった。
 これまで伯母を始めとする美しい女性たちに囲まれていたが、その女性の美しさはそういった次元を超越したような感覚があったのだ。
 美の女神がいるのならばこの女性のことに違いない、と思わせるほどの美しさがあったのである。
「あなたは……」
「儂のことはよい……早くこの場を去るのじゃ……でないと……」
 ずいぶんと年寄りくさい喋り方に驚きながら聞いていると、だんだんとその声が遠くなっていく。
 ドクンっ、ドクンっ……。
(何だ?……大きな音が……)
 ドクンっ、ドクンっ……。
 音は止まない。
 ドクンっ、ドクンっ、ドクンっ、ドクンっ、ドクンっ……。
 音はどんどん大きくなっていく。
(こ、これって……俺の心臓の音……なのか……?)
 音は体の中から発せられていた。
 激しい心臓の鼓動に合わせるように、体がガクガクと震えだす。
(これは……何だ……?)
 激しい興奮が押し寄せてくる。
「うぁっ……あぐっ……!」
 股間が凄まじい勢いで硬くなった。
 痛いほどに勃起した肉棒は、早く開放しろと言わんばかりにビクンビクンと激しく震えている。
 苦しくなって思わず股間を押さえる。
「あぐっ……!」
 自分で触ったのにも関わらず強烈な快感が押し寄せ、それに耐え切れず尻餅をつく。
(うぁ……何でこんな……俺のチンポが……)
 訳の分からない興奮状態になりながらも、以前同じようなことがあったのを思い出す。
(そうだ……祭壇……祭壇の近くに行った時と同じだ……)
 有希を襲った時に湧きあがった興奮。
 今の状態はその時とそっくりだった。
(でもここはどこなんだよ……)
 祭壇の傍でないにも関わらず、なぜここまで自分は欲情しているのか。
 だがその事を考えようとしても、だんだんと意識はそこから外れていく。
(あぅ……うぅ……)
 そして、ある一つのモノを求める欲求だけが脳を支配し始めていった。
(女……)
 股間から湧き上がる高まりがそうさせるのか、今や己の肉欲を発散させる女の肉体が欲しくてたまらなくなっている。
 それはまさに有希を襲ってしまった時の状態と同じと言えた。
 いや、あの時は有希に声をかけられ、自分の意識を取り戻したが、今の神治は自分の意識というものがほとんど欠落していた。
 まるで自由にならない夢を見ているような感覚で、ぼんやりとしか外部を認識できないのだ。
 しかもその微かな認識でさえ、女を犯したくて仕方の無い雄の本能に覆われ次第に消え去っていく。
「少年……どうした……?」
 先ほどの女性が声をかけてくる。
 だがそれは、獲物が狩人に居場所を知らせたようなものだった。
 目が女性の姿を捉えると、今まで以上に肉棒が猛り、神治は猛然と襲い掛かった。
「あっ、何をするのじゃっ……よさんか、これっ……」
 時代かかった喋りで逆らう女性を押し倒すと、白衣を左右にグイと開き、白い乳房をさらけ出す。
 涎を垂らしながら、まるで餓死寸前の者が食べ物を得たかのような勢いで、その豊かな乳房にむしゃぶりつく。
「ああっ……馬鹿者、あっ……止めぬか、あんっ……あっ、あああっ……」
 唇が恐ろしい勢いで乳房を吸い上げ、舌先が乳首を激しく舐め上げていく。
「止めよ、あっ……こんな、ああんっ……してはいか、あっ、あっ、ああっ……」
 女性は神治を止める声を上げながらも、快感に耐え切れぬように体を震わせている。
「こんな事をしている場合では、あぅっ……ないと言うに、はぁっ、あっ、あああっ……」
 何とか体を離そうとするのだが、そのたびに神治が乳房を吸い、揉み上げるためガクリと力を抜いてしまう。
「あっ、止めよ、あぅっ……それはいかん、ああんっ……それは駄目じゃ、はぅっ……」
 神治が袴を捲り上げたため、女性が激しく抵抗をする。
 なぜか彼女は下着を着けておらず、神治は防ぐものが一切ない秘所へと肉棒を導くと、抑えきれないように膣穴へ押し込んでいった。
「うがぁっ! あぐぅっ……!」
 神治の獣のような声が響く。
 入れた瞬間、射精してしまったのである。
 久美の時と同じように、たまらない膣の感触に肉棒が耐え切れなかったのだ。
「あぅんっ、あっ、入れてしもうたのか、あっ……駄目じゃと言うにぃ、ああっ……しょうがないのぉ、ああんっ……」
 半ば諦めたように呟いた女性は、まるで駄々っ子が泣き止むのを待つかのように、呆れた顔で神治を見つめた。
「うがっ、あぐっ、あがぁっ……」
 相変わらず獣のような声を発している神治は、その度に射精を繰り返していた。
 射精し終えた瞬間に回復させられ、また射精するという状態で、肉棒が小さくなるという事がない。
 普通ならばそのたまらない快感に何も出来なくなってしまうところだが、今の神治は肉欲に体を支配されている。
 射精しながらも、さらなる快楽を求めて勝手に腰が動き出していった。
「あっ、あっ、ああっ……少年、あっ……なかなか、あんっ……いいではないか、あぅっ……」
 女性がまんざらでもない声を上げる。
 だが神治にはそれを認識する事はできなかった。
 意識はすでになく、体だけが勝手に女体を貪っていたのだ。
 体も凄まじい快感を与える膣に少しは慣れたのか、射精するまでにだいぶ間ができるようになっていた。
「あんっ、あっ、ああんっ……いいっ、いいのぉっ……あっ、少年いいっ……」
 いつの間にか女性の腕が抱きしめるように神治の背中に回されている。
「あっ、お主、ああっ……これほどのモノを持っておるとは、あんっ……何者じゃ、ああっ……」
 意識のない神治はそれに答えることができない。
 腰だけが激しく動き、より快楽を求めようと肉棒を出し入れしていく。
「ああっ、ああっ、あああっ……儂は、はぅっ……もうイきそうじゃ、はぐっ……これほど早くイくとは、ああっ……久しぶり、はぁんっ……」
 女性はさらに快楽を求めるように神治の体に脚を絡めると、自らも腰を動かし始めた。
「あっ、あっ、ああっ……いいっ、いいっ、いいぞ少年、あっ……凄くいい、あぐっ、あっ、ああんっ……イく、あっ……儂はイく、はぁんっ……イくぞしょうねぇんっ……あっ、あっ、あああああっ……!」
 女性はギュッと抱きついてくると、体を震わせガクリと力を抜いた。
 その瞬間、神治の肉棒も精を放つ。
 女性の絶頂に合わせているせいか、今までより激しい射精が行われている。
 ガクガクと体が揺れ動き、凄まじい快感に顔がだらしなく歪む。
 最後の放出を終えるとそのまま女性の体に倒れこんだ。
 はぁはぁと二人の荒い息が響き、どちらも快感に浸るようにジッとしている。
「ふぅ……なかなか良かったぞ……じゃがこれで終いじゃ……」
 女性は神治の体の下から抜け出し、四つんばいになって少し距離をとろうとした。
 だが神治はその腰をグイと掴み、袴を捲り上げると再び硬くなった肉棒を押し込もうと近づける。
「こ、これ……こんな格好で……儂は許さんぞ、止めぬか……あぅんっ……」
 抗議の言葉もむなしく再び肉棒が膣に収まり、神治の腰が激しく動き出した。
「あんっ、あんっ、あああんっ……少年、あっ……儂にこんな、ああっ……屈辱的な姿勢をとらせるとは、あぅんっ……」
 女性は快楽に顔を歪めながら振り返って睨みつけてくる。
「はぁっ……だが、ああっ……お主はなかなか、あんっ……上手いからの、はぅっ……許してやろう、ああんっ……」
 嬉しそうに微笑みながら、腰をクネクネと動かす。
「それに、あんっ……早く満足、ああっ……させてやらぬと、はぅっ……奴が、はぁんっ……」
 その瞬間、神治が「の」の字に腰を動かした。
「あっ、あっ、あああっ……それ、あんっ……それいい、はぅっ……少年、あんっ……それをもっとじゃ、あっ……それをもっとぉ、ああああっ……」
 意識が無くても体が理解したのか、神治は何度も「の」の字に腰を動かす。
「はぐっ、あっ、あぁんっ……はっ、あっ、やぅっ……少年、ああっ……いい、あっ……いいぃ、ああんっ……少年いい、あっ……しょぉねぇ〜〜んっ……」
 女性はガクガクと震えた後、腕を崩して床に顔を押し付けると、腰だけ高く突き出した状態で激しく悶えた。
 己の行為によって女性が快感を得ていると認識したのか、神治の体は嬉しそうにブルブル震えると、ますます腰の動きを早めていく。
「あっ、あんっ、あああんっ……凄い、あっ……凄い、ああっ……凄いぞしょうねぇん、ああああっ……儂はもう駄目じゃ、あっ……儂はイく、はんっ……こんなに早く、あっ……またイくとは、はぁんっ……あっ、はぅっ、あんっ……イく、あっ……イくっ、ああっ……イくぅっ……あああああああっ……!」
 女性は体を仰け反らせると、ガクリと力を抜いて横たわった。
 その瞬間、神治も精を放ち、ガクガクと体を前後に揺らす。
 だがやはり肉棒は小さくなる事なく、まだまだヤりたりないと言わんばかりに膣の中でビクビクと震えた。
「あっ、あっ、ああっ……少年まだか? あんっ……まだ満足しないのか? ああっ……」
 再び動き出した神治に女性が問いかける。
 神治の体は、まるで「まだだ」と答えるかのように腰を強く突き込んだ。
「あんっ、あっ、あああんっ……しょうがないのぉ、はぅっ……しばらく付き合う、あっ……」
 女性は呆れながらも、少し嬉しそうに呟きながら、自らも腰を激しく動かし出した。


(あ?……あれ?……なんだ?……凄く気持ちいい……)
 ボンヤリとする意識の中で、神治は強烈な快感を感じていた。
「あっ、あっ、ああんっ……はぅっ、やっ、あああっ……」
 目の前では絶世の美女が、その魅力的な乳房を激しく揺らしながら甘い声を発して悶えている。
 どうやら自分はこの女性とセックスしているらしい。
 己の体が動くたびに女性が反応を示すところから神治はそう思った。
(でもどうしてこんな美人と……それに……この人って凄く気持ちいい……)
 肉棒から伝わる快感は、これまでしてきたどの女性の膣よりも凄まじいものがあった。
 まるで肉棒が溶けてしまったのではないかという一体感があったのだ。
 快感を感じる神経を直接舐め上げるような信じられない快楽と、激しい吸引による体の中身を持っていかれるようなたまらない快感。
 あらゆる女性の最高の要素が全て存在するような膣だった。
(ああ……凄い……凄いよぉ……)
 今すぐにでも射精しそうな気持ちの良さであるにも関わらず、肉棒はその予兆を見せていない。
 自分にはここまで耐久力があったのかと神治は驚いた。
 それはすでに死ぬほど射精したためだったのだが、意識のなかった神治には知りようのないことだった。
(この人って……凄い美人だ……)
 改めて自分の下で悶える女性を見ると、その美しさに感嘆してしまう。
(あれ?……でもこの人って確か……)
 どこかで会った気がして記憶を探ると、少し前の出来事が思い出される。
(そうだよ……鎖で繋がれてた人……)
 そこまで考えて、どうしてその女性とセックスしているのか分からなくなる。
(だけど凄く気持ちいい……何だか分からないけど……せっかくこんな美人としてるんだ……取り合えず楽しまなくちゃ……)
 そう思った神治は、腰の動きを早めていった。
「ああっ、あっ、あああんっ……はぁっ、あっ、はぁんっ……」
 神治の動きに合わせて女性の体が揺れるたびに、手首に繋がった鎖がジャラ、ジャラ、と音を発するのが何やら興奮を誘う。
 どうやら自由を奪われている相手とセックスするというのが嗜虐心をくすぐるようだ。
(俺ってサドの気があったのかな……?)
 鎖に繋がれた美女というのは妙な色気があった。
 白く美しい手首に鎖がはまっているのが、痛々しくもいやらしさを感じさせるのである。
 獲物を捕獲しているような錯覚から、雄の本能が刺激を受けているのかも知れない。
 興奮が高まった神治は、先ほどから触れたくてたまらなくなっていた乳房に手を伸ばし、ギュッと掴んだ。
「ああんっ、あっ、あああっ……」
 あきらかに腰の動きとは別の刺激に反応している女性の悶える姿に鼓動が早くなる。
(何て……何て気持ちいいんだ……)
 乳房に触れた瞬間、神治はまるで手のひらが溶けて吸い込まれたかのような錯覚を覚えた。
 そのまま自然と手が乳房を揉み始める。
 動かすたびに強烈な快感が手のひらから押し寄せ、憑かれたように神治は乳房を揉んでいった。
 何度掴んでも捉えられない果てしない柔らかさと、それでいていつの間にか押し返されている神秘的な弾力。
 皮膚を通じて伝わってくる耐え難い快感が、乳房を揉ませる事を止めさせない。
 雪のように白く芸術的なその塊は、神治の手によって形を変えつつも、すぐに元に戻っていく。
 頂点には、乳房の美しさを強調するかのように、桜色の乳首がフルフルと揺れており、そのまるで吸って欲しいと言わんばかりに勃起している姿に誘われ、神治は唇を押し付けていった。
「あっ、あっ、はぁっ……ああんっ、ああんっ、ああああんっ……」
 女性が体を仰け反らせ、頭を左右に激しく振る。
 そのたびに長く美しい黒髪と、手首に繋がった鎖がジャラジャラと波打ち、興奮を高めた。
(美味い……何て美味いオッパイなんだ……こんなの……たまらないよ……)
 その肌からは肉欲を高める甘い液が分泌されているのか、乳首を吸い、舐め上げるたびに肉棒に力がみなぎり、口の中に広がる甘露な味によって唇と舌を這わすことを止められない。
(ああ……こんなの……こんなの凄いよ……)
 チュパチュパと乳首を何度も吸い上げ、激しく弾き、力を込めて乳房を揉んでいく。
「ああっ、はぁんっ……あっ、あっ、あぁんっ……」
 女性の体に震えが走り、イヤイヤといった感じに何度も頭が左右に振られる。
 その顔は上気し、快感に歪みながらも美しさを損ねていない。
 甘い喘ぎを発するポテッとした唇は、とてもいやらしい肉付きをしており、半開きになった口からは、赤い舌がチロチロと蠢いているのが見える。
 神治はゴクリと唾を飲み込むと、その美しい顔に近づき、唇を合わせ舌を絡ませていった。
(うぁっ……なんだこれっ?……凄い……)
 唇と舌、そして口内が快感の渦に取り込まれる。
 女性の唇が擦れ、舌が触れると、それだけで射精してしまいそうな気持ちの良さが押し寄せてくるのだ。
 まるで自分の口の器官全てが肉棒と化し、女性のそれらが膣であるかのような快感があった。
 上と下両方に膣があり、そのどちらにも肉棒を押し込んでいるような状態になっているのである。
 本来なら一箇所でしか味わえない快楽を二箇所同時に体験しているのだ。
 狂いそうになるほどのとてつもない快感が脳を駆け巡り、神治は耐え切れないように体をガクガクと震わせた。
「んんっ、んっ……んんっ……」
 女性が絡めた舌をチューっと吸い上げた瞬間、体の中身が吸い取られるような凄まじい気持ちの良さに襲われ、それまで無かった射精感が一気に湧き起こった。
 とても我慢できない強烈な快感に、神治は唇を擦り合わせ舌を絡めながら、狂ったように激しく腰を動かしていく。
「んっ、んんっ……んんっ……」
 再び舌を強烈に吸い上げられると同時に、膣が肉棒をギュッと締め上げ、その周囲を覆っている肉襞がヌメヌメと蠢き、たまらない快楽を送り込んできた。
「んんんんっ……!」
 ギリギリの状態で我慢していた神治にとって、その蠢きは耐えられるものではなかった。
 最後とばかりに舌と肉棒をグイと押し込むのと同時に精を放つ。
 ドピュドピュドピュドクドクドクドク。
 激しい勢いで射精が行なわれ、体をガクガクと震わせながら何度も何度も精を放っていく。
 その間も唇を離さず、激しく舌を絡ませる。
 信じられないほど長く放出が続き、もう何も出せないと思った瞬間、ようやく射精が止まった。
 荒い息を吐きながら女性の体に倒れこむ。
 あまりにも疲れきってしまい、立ち上がる気力さえ起こらない。
「少年……凄いものじゃの……」
 女性の穏やかな声が聞こえる。
「ここまで儂を満足させてくれたのは、お主が初めてじゃ……」
 頭に手が置かれ、優しく撫でられている。
「あの……あなたは一体……どなたですか?……俺、記憶が無くて……」
 セックスしていた相手に聞くような質問ではないが、他に聞ける相手がいないのだから仕方がない。
「む? 記憶がないのか?……ふむ、なるほどな……だが儂のことは気にせんで良い……気持ち良くしてもろうたからそれで十分じゃ……男女の関係なぞ、そんなもんじゃろ……?」
「そんなもんですか……?」
「そんなもんじゃ……」
 女性は可笑しそうに笑った。
 確かにこれほどの美女とセックスし、その上満足してもらえたのだから、男としては十分すぎるだろう。
 しかしそう考えると、途中の記憶がないのは悲しすぎた。
 何しろ自分の記憶は最後の一回しかないのだから。 
(何回くらいしたんだろ……?)
 疲労具合からして十回以上はしているのだろう。
 先ほどの、この世のものとは思えない快楽を、自分の体は何度も経験したのだ。
 意識が無かったのが悔やまれる。
「それより早くここを離れるのじゃ……もうあまり時間がない……」
 女性は真剣な表情になると、不安そうな口調で早く移動するように言ってきた。
「時間ってどういう事ですか?……何かあるんですか……?」
「説明している暇はない……とにかくここを離れるのじゃ……お主がとんでもない精力の持ち主じゃったから、思ったより時間を食うてしもうた……今すぐここから出よ……」
 女性の言葉から、やはりかなりの回数をしていた事を推測し、神治はますます意識が無かったことを悔いた。
「でも……俺はここがどこか分からないんです……どこに行けば帰れるのかも……」
 周囲は見たことのない場所である。
 どうやって来たのか分からないのだから、どこへ行けばいいのか分かるはずがなかった。
「分からんじゃと?……そう言えばお主は寝ながら歩いておったからのぅ……それも仕方ないか……」
「寝ながら……?」
 その言葉に、ここでの最初の記憶がそうだった事を思い出す。
「あちらに少し歩いて行くと階段がある。それを昇っていけば祭壇の入り口に出ようぞ」
「祭壇……?」
 聞きなれた言葉に驚く。
「そうじゃ……お主は祭壇の入り口からここへ入ってきたのじゃろ……他は人が入れるような場所ではないからな……大方寝ぼけて来てしまったのじゃろうが、このような所には二度と来るでないぞ……」
「さ、祭壇って……緋道村の神社の祭壇のことですか……?」
「うむ、さようじゃ……ここへ繋がっておるのはそこしかないからの……しかしお主、神社なんぞで何をしておったのじゃ?……む……そうか当主家の者じゃな……」
 次々と自分の知っている単語が発せられるのに、神治は呆然としながらそれを見守った。
(ここって、神社の地下なのか?……へぇ、こんな場所があったなんて……って、それどころじゃないっ……)
 すっかり忘れていたが、自分はこんな所でこんな事をしている場合ではなかったのだ。
 何しろ当主の儀式の真っ最中なのだから、神社から離れてはいけないのだ。
「俺……行きます……」
 慌てて神治は立ち上がった。
 体を離すと、改めてこの女性の肉体の魅力が凄まじい事に気がつく。
 気を抜くと、再び女性に触れようと体が自然に動いてしまうのだ。
 何とも恐ろしい肉体だった。
「そうか……ようやく行く気になったか……」
 女性はホッとしたような表情をしている。
「ではな……達者で暮らすのじゃぞ……久しぶりに楽しませてもろうて嬉しかったわい……」
 穏やかに微笑むその美しい顔を見ていると、意識のある状態でこの女性ともっとしたいという思いが湧き起こった。
 だが今は取り合えず当主の儀式をしなければならない。
「失礼します……」
 そのたまらない肉体に後ろ髪を引かれつつ、軽く頭を下げてから神治はゆっくりと歩き出した。
(でも……この人って一体何者なんだろう?……こんな所に鎖で繋がれて……後で伯母さんに聞いてみよう……)
 しかし、伯母はキチンと答えてくれるだろうか。
 ここは神社の地下という、村の責任者が知らないとは思えない場所である。
(まさか……伯母さんが……?)
 神治はその嫌な想像を振り払った。
 あの優しい伯母がそのような事をするはずがない。
(何にせよ、まずは聞いてみることだな……)
 伯母に尋ね、それでも分からなければ、またここに来てあの女性に詳しく聞くのだ。
 もう二度と来るなとは言われたが、自分は約束などしていないし、第一、鎖で繋がれたままの女性を放っては置けない。
 取り合えず儀式が終わったらあの鎖を何とかしよう。
 神治はそう思いながら道を急いだ。
(!……)
 だが次の瞬間、股間から発した凄まじい刺激に足が止められた。
 肉棒が信じられないほど硬くなり、とてつもない肉欲が湧き上がってくる。
(ぐっ……これは……)
 意識に霞がかかり、ボンヤリとしか外部を認識できなくなる。
(こちら……こちらへ……)
 頭の中に声が響く。
(何だ?……声が……でも……何て気持ちいい声なんだろう……)
 その声には、まるで雄の本能をくすぐるようないやらしい雰囲気があり、耐え難い誘いに足が勝手にその方向へ動きだす。
「少年、そちらは違うぞ……そちらへ行ってはいかんっ……!」
 女性が大声で叫んでいる。
 だが神治の足は止まらない。
 奥へ奥へと歩いて行ってしまう。
(こちらへ……こちらへ……)
 声が聞こえるたびに肉棒がビクンビクンと震え、息を荒くしながら誘われる方へと足が動いていく。
(あれは……)
 歩く先に、一人の女性が立っているのが見えた。
 その顔立ちは、先ほどの女性に劣らぬほどの美しいものがあり、体には何も身に着けておらず、妖しいほどの白さを持つ肌がさらされていた。
(ぐっ……!)
 肉棒が猛り、痛いほど勃起している。
 体が引き寄せられるように女性の所へと動く。
(こ、これは……)
 体が思うようにならず、目は吸い付くようにその美しい肉体から離れない。
 だがこの女性の体は、先ほどの女性と同じように美しくはあっても、どこか違う、禍々しいものを感じさせた。
(あれは……あれは……良くないものだ……)
 まるで草食動物が肉食獣を本能で理解するように、神治はその女性が何か自分にとって怖ろしい存在ではないかと悟っていた。
(近づいちゃ……あの女に近づいちゃ駄目だ……)
 だがその思いとは裏腹に、体は逆にその女性の肉体を求めずにはいられないように肉欲に激しく震えている。
(駄目だ……行っちゃ駄目……)
 どうにかして行くのを止めようともがいても、体は言う事を聞かない。
 そうこうしている内に、とうとう神治は女性の目の前まで来てしまった。
(ああ……綺麗だ……)
 その妖しげな美しさを近くで見てしまうと、この女性以外のことが考えられなくなる。
 女性の両腕が広げられ、その誘うような仕草に、肉欲に支配されている神治は飛び掛っていった。
「うあぁっ……!」
 叫び声を上げながら押し倒し、乳房にむしゃぶりつくと、乳首を舐め回し吸い上げながら、我慢できないようにすぐさま肉棒を膣穴へと押し込んでいく。
「うっ、うがぁっ!……あがっ……!」
 入れた瞬間、強烈な快感と共に肉棒が消えた。
 いや、実際に消えたわけではない。
 感覚が、そこに肉棒があるという感覚が無くなってしまったのだ。
 慌てて挿入している部分を見つめると、確かにそこには肉棒があるのだが、目を離すと感覚が感じられないのである。
 まるで肉棒が膣に取り込まれ、一体化してしまったかのようだった。
 今までそういった錯覚を母の膣などに感じはしたが、存在自体が消えてしまったかのような状態は初めてだった。
 しかし存在が認知できなくとも、繋がっている部分からは凄まじい快楽が送られ、神治はその気持ちの良さに仰け反るだけで何もできなくなった。
 やがてヌメヌメと膣が蠢きだし、怖ろしいまでの快感が襲い掛かってくる。
「あがっ! うがぁっ……!」
 それは、通常の膣襞に擦られたり吸われたりといった摩擦による快感ではなかった。
 肉棒の感覚が無くなっているのだから感じないはずなのに、膣内が蠢くと激しい快感がどこからともなく伝わってくるのだ。
「うがっ、あがっ……!」
 その刺激に耐え切れず、射精してしまう。
 だが、放出しているという感覚すらない。
 今自分の肉棒が大きいのか小さいのかさえ把握できない。
 ただ快感だけが繋がっている部分から押し寄せ、脳を痺れさせる。
「うぐっ、あぐっ……!」
 腰を振ることさえ必要がなかった。
 なぜなら、ジッとしていてもそれ以上の快感がすでにあり、通常のセックス以上の気持ちの良さが押し寄せてくるからだ。
「ぐがっ!……ががっ……!」
 神治は動かず、ただその快楽に浸るように射精をし続けた。
 すでに射精をしているという感覚すらない。
 常に精を放っている凄まじい快感に心も肉体も包まれ、口からは獣のような咆哮が何度も何度も発せられた。
「あがっ!……がぁっ!……うがっ!……がぅっ……!」
 これまで経験した全てのセックスが馬鹿らしくなるほど、その快感は絶対であり、死さえもいとわないほどのたまらない快楽が押し寄せてくる。
(ああ……気持ちいい……気持ちいいよぉ……ああ……なんて気持ちいいんだぁ……)
 女性の体に身を横たえていると、肉体自体も溶けて一体となってしまうような心地良さを感じ、触れている部分の感覚が肉棒と同じように無くなりつつあった。
 唯一、体の反対側に寒い感覚があるのみだ。
(ああ……寒い……後ろが寒いよぉ……)
 前面の心地良さに比べ、背面の寂しさは、まるで大切なものを失ったかと思われるほどの消失感があった。
(もっと……もっと一つになりたい……体全部を包まれたい……)
 幼子が母を求めるように、神治は女性の肉体に押し込むように体を動かした。
(我と一つになりたいか……?)
 突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
 それは耳ではなく、直接脳に響くような声であり、何故か目の前の女性から発せられたのとは違うような気がした。
 そして、とてつもなく甘い蜜のように染み入り神治の心を犯していく。
(一つになりたい……もっと……もっと感じたい……もっと気持ち良くなりたい……)
 すぐさま神治は答えた。
 そこには理性や判断力などといったものは無かった。
 神治の中にある雄の本能が、雌と一体になりたいと欲求したのだ。
 とてつもない肉欲が肉体を支配し、さらなる快楽を欲していた。
(ならばそれを望むがいい……たやすいことだ……心を全て我に委ねよ……さすれば……そなたは最高の快楽を永遠に得ることができる……)
(最高の快楽……)
 今でさえ凄まじい気持ちの良さであるのに、これ以上の快楽があるのだろうか。
 その興奮に、体全体がまるで肉棒となったかのようにブルりと震えた。
(我と一つになれば……この世で最高の悦楽……興奮を味わえるのだ……今までそなたが経験した何とも比較できない高まりを永遠に得られる……)
(今まで経験した……高まり……?)
 その言葉に、神治はこれまでの己の性遍歴を思い返した。
 伯母との初体験から、母を陵辱し、憧れの静とのセックス……。
 有希、久美、佳奈、舞美たち魅力的な少女たちとの禁じられた交わり。
 それら全ての興奮が、彼女たちと初めて関係を持った時以上の興奮が、永遠に得られるというのか。
(そんな凄いことが……あんな凄い興奮がまた……いや永遠にできるっていうのか……?)
(さよう……そなたが交わったどの女の肉体よりも……素晴らしい快楽を我の体は与えられよう……)
 その言葉に、神治は何か引っかかるものを感じた。
(体……精神的な興奮はないの……?)
 自分が興奮したのは、ただ肉体が欲しかったからだけではない。
 初めてであったり、近親相姦の背徳感、憧れの女性を自由にするといった精神的な高まりがあったからだ。
(精神的?……それは何であろうか……?)
 声が疑問の言葉を発する。
(俺が今まで経験してきた快感は……何も体の気持ちの良さだけじゃない……その相手との色々な精神的な関係があったから……その関係の上に興奮があったんだ……)
 神治はゆっくりと、今までの経験を思い出すように謎の声に語った。
(……それは……我の知らぬこと……教えよ……もっと具体的な例を我は求める……)
(具体的……ね……)
 そこまで話して、神治は先ほどより頭がスッキリしている事に気がついた。
 女性を見てから靄のかかったような状態になっていた思考がハッキリとしているのだ。
 相変わらず肉体はたまらない快感に包まれている。
 だが意識がある分、落ち着きが出始めていた。
 落ち着きは冷静さに繋がり、冷静さは肉欲とは正反対のものであるため、興奮が治まりつつあった。
(俺は……伯母さんに初めてセックスを教えてもらった……その時まで女の体を知らずにいたから……見るだけで……触れるだけで凄く興奮したのを覚えている……)
 伯母との初々しい初体験について語る。
(その女は……我より肉体的に優れているのか……?)
(いや……あなたの体より気持ちのいい体を俺は知らない……)
 目の前の女性と謎の声が別の存在のような気がしながらも、とりあえず同一のものとして神治は話した。
(ではなぜ……なぜそなたはその女との行為に興奮したのだ……?)
(だから言っただろう……初めてだったからだ……)
(初めて?……初めてであると、我の肉体とするよりも興奮すると言うのか……?)
(少なくとも今よりは興奮していたよ……あなたの体は素晴らしいけど……精神的な興奮ではその時には及ばない……)
(むむ……)
 声は押し黙った。
 しばらく沈黙は続き、その間に神治は今の会話が非常に異常な事態である事を改めて思った。
(この声は……この女の人のものなのか?……だけど何で声に出して喋らないんだろう……って、何でそれで声が聞こえるんだ……?)
 女性の顔を見てみると、まるで人形のように全くの無表情であり、それが非人間性を思わせて神治は体を震わせた。
 だがたまらない快感は、肉体を縛り離れることを許さない。
(これからも……そなたはそういった興奮を味わうのだろうか……?)
 ようやく声が尋ねてくる。
(う〜〜ん、どうなるか分からない……でも俺は、そういった経験がもっとしたい……色々な相手と、色々なシチュエーションでしてみたい……その思いだけはある……)
(しちゅえーしょん?……それは何であるか……?)
 少し和らいだ雰囲気で声が尋ねてくる。
(そうだな……例えると、入院して看護婦さんとしちゃうとか……学校で女の先生としちゃうとか……要するにそういう設定かな……単にセックスするんじゃなくて……普段とは違う状況でするというか……)
 どうも上手く説明ができない。
(それは……我とするよりも興奮すると言うのだな……?)
 声が確認するように尋ねてくる。
(断言はできないよ……何しろあなたの体は凄く……気持ちいいから……)
 再び肉欲にぼぉっとしそうになるのを堪えながら答える。
(それであっても……我はそれを求める……そなたの言うしちゅえーしょんの興奮とやらを経験してみたい……)
 声が微妙に興奮しているように思えた。
(我は……そなたと一つになり……それを見届けよう……)
(一つ……?)
 神治はその言葉を疑問に思った。
 普通は今繋がっているようなことを「一つになる」と言うのではないのか?
「うぅっ……」
 途端、股間が熱くなった。
 今まで感じられなかった肉棒の感覚が蘇る。
(我はそなたの身に宿り……そなたの経験を共に得よう……)
 何かが股間から這い上がってくるのを感じる。
 激しい快感に体が跳ね上がった。
「うがっ……あぐっ……あああっ……!」
 体の中身が全て擦られるような感触。
 それはたまらない快感を伴っていた。
「あぐっ、あっ、うがぁっ……!」
 射精をしているようでしていないようであり、それでいて凄まじい快感だけが体中を駆け巡っている。
(我は……ホノチカ……そなたと我はこれより同一のものとなる……)
 体の中心が熱くなり、頭のてっぺんから足の先まで快感の波が激しく押し寄せる。
「うがっ! あぐっ! がぁぁぁっ……!」
 絶叫と共に全ての感触が治まった。
 はぁはぁとまるで射精した後であるかのように荒い息を吐きながら、神治は身を横たえた。
 今まで重なっていた柔らかい肉体の代わりに、冷たい石の感触がある。
(あの女の人は……?)
 辺りを見回しても誰もいない。
 全ては夢であったのか。
「少年……」
 突然声がすると、先ほどの鎖に繋がれた女性が目の前にいた。
 だがその手首からはいつの間にか鎖は外れている。
「お主、一体何者じゃ……?」
 その事を気にしていると、女性は不機嫌な表情を浮かべながら尋ねてきた。
「何者って……あ、まだ自己紹介してませんでしたね……俺の名前は緋道神治です」
 ペコリと頭を下げる。
「ふむ……で、新しい当主であろ……?」
「え、ええ……よく分かりましたね……?」
「先ほどもろうた精から情報を得た」
 女性は訳の分からない事を言っている。
「しかし、あのホノチカからよくも助かったものじゃ……」
「ホノチカ……?」
「インヨウじゃ……」
「インヨウ……?」
 分からない単語が続く。
 そう言えば、先ほどの女性は最後に「我はホノチカ」と言っていた気がする。
「そうじゃったの……お主は緋道の知識に疎いのであったな……」
「どういうことですか……?」
 女性は真剣な表情になると、一度深く息を吐き出した。
「人の精を糧として生きながらえる化け物……『淫妖』と書く」
 床に指で字を描く。
「その淫妖ホノチカ……『穂智過』と書くのじゃが、奴はここ五百年ほど生きておる化け物でな……まあ、ここまで生きるとすでに神とも言えるな……」
「神……」
 化け物が神というのは、神治の中にある神のイメージとはあまりにかけ離れていた。
「日本における神とはそういったものじゃ……お主の想像にあるものとは少々違うであろうな……」
 まるで神治の思いを見透かしたように女性は説明した。
「奴は人を淫の『気』で惑わし、引き寄せる……つまりお主は奴の発する誘いの『気』に囚われ、餌にされているはずじゃった……餌にされた人間は精を全て吸い尽くされ、死ぬ……」
「死ぬ」という言葉に体がビクッと震える。
 確かにあのまま精を放ち続けていたら、そうなってもおかしくないように思えた。
 そういった禍々しさをあの女性から感じていたのだ。
「あの女の人がその穂智過だったっていうんですか?」
 しかし、どう見ても普通の人間でしかない相手を化け物だとは思えない。
「奴は魅力的な異性を映し出し、その幻影をもって餌を取り込むのじゃ……お主が抱いていたのはそれじゃ……本来なら一度それを抱いた者は、そのまま取り込まれるはずなのじゃが……ところがお主は生きておる……これはどういう事じゃ?……お主には何か人と異なる力があるのか……?」
 人と異なる力……。
 そのようなものはない。
 あの時自分はただ会話をしただけだ。
 あの女性、淫妖だというあの女性とセックスの興奮について話しただけ。
 神治はその事を女性に告げた。
「ほぉ……そのようなことを……で、奴はそれでお主と一つになると言ったのじゃな……?」
「ええ……」
「なるほどなるほど……面白いの……」
 女性は楽しげに笑っている。
「あの……どういう事なんでしょう……?」
「お主は奴に気に入られたのよ……今まで肉体の快楽のみしか知らなかった奴にとって、精神的な興奮というのは新しい遊具を見つけたようなものじゃろう……じゃから奴は、それを楽しもうとお主と一体化したのじゃ……」
「一体化……?」
 思わずおかしな所がないかと自分の体を見下ろす。
「ふふ……そういった肉体的な問題ではない……魂に取り憑いたのよ……」
「魂……」
 肉体であれば手術でどうにかできるかも知れないが、魂などという部分に取り憑かれては対処のしようがなかった。
「まあ、そう恐れることはない……別に奴に操られるわけでもないしの……」
「そうなんですか?」
 普通、化け物に憑かれるというのは、乗っ取られる事と同義語だと思うのだ。
「奴に取り込まれたのならともかく、奴は自らお主に取り込まれたのじゃ、何もできんよ……主導権はあくまでお主にある……奴はただお主が見聞きすることを共に経験するだけじゃ……」
 それでも何やら気味が悪い。
「ま、一生見られているというのは確かに嫌な感じじゃの……っと、一生と言ってもな、お主は奴と一体化したゆえ、死ぬことは無くなったぞ……」
「なっ……!」
 突然とんでもない事を言われ驚く。
「奴もすでに神となっておったからの……不老不死じゃな……」
「不老不死……」
 物語の世界では何度も聞いたことがあるが、まるで現実味のない言葉に呆然とする。
「どんな権力者であっても得られないものを手に入れたのじゃ……良かったの……」
 まだ人生が始まったばかりの神治にとって、不老不死の素晴らしさを説かれても実感がなかった。
「何だか分かりませんが、凄い存在になったって事ですね俺は……何かしなきゃいけないんでしょうか……?」
 それほど凄いものを手に入れたのなら、それに値する行為をしなければいけない。
 そんな思いが神治の中にはあった。
「ふふ、真面目じゃの……ま、そういった事はないな……儂であっても特にしておらんし……気楽にすることじゃ……」
 その言葉に、神治はずっと気になっていた事があったのを思い出した。
「あの……ところであなたは何者なんですか……?」
「ぬ……?」
 神治の問いに、女性は予想外というか、呆れたような顔をした。
「儂を知らんのか?……お主は当主になろうというに……っと、そうじゃったまだ勉強中だったの……」
 すぐに納得したような顔をする。
「儂の名はミカチ……お主らの神よ……」
「……」
 女性の言葉に思考が止まる。
「ミカチ?……神……?」
 一瞬何のことか分からなかったが、すぐにそれが緋道村の神の名であることを思い出す。
「緋道未迦知神……」
 神治の言葉に女性、いや未迦知神は頷いた。
「その神様が……どうしてこんな所に……」
 そこまで言って「神が化け物を封じている」という話を思い出した。
「もしかして……あなたが封じてた化け物って……」
「そう、穂智過じゃ……お主が抱いておったオナゴじゃな……」
「じゃあ、その化け物が……」
 自分の中に入り込んでいるという事になる。
「まあ、気にするな……先ほども言ったように奴は何もできん……それよりもようやく自由になる事ができた……礼を言うぞ……」
「え……?」
「封じる相手がいなくなったからの……これからはここにいる必要もなくなった……さ、上に行こうぞ……」
 そう言うと、未迦知神は歩き出した。
「あ、はい……」
 慌てて神治も後に付いていく。
(……)
 しばらくそうして歩いていると、だんだんと頭の中に疑問がわいてくる。
(って……神だとか化け物だとか……俺は何をやってるんだ……?)
 今まではあまりの事に頭が混乱していて納得していたが、どう考えてもおかしな話だった。
(大体、この人だって神様だとか言ってるけど、そんなの信じられないよ……)
 確かにセックスした時は、この世のものとは思えないほど気持ち良かったが、それだけで神などと認められない。
 元々神を知らないのだから、何をもって神とするのか判断しようがないのだ。
(それに……淫妖とかって……)
 あの人形のような目を持つ女性が淫妖の作った幻影であり、その本体は今自分の中にいるという。
(信じられるかぁっ……!)
 心の中で怒鳴る。
「これは夢だよ……夢……いくら現実に見えても夢なんだ……その証拠に頭がボンヤリとしてるじゃないか……」
 自分を納得させるように神治は小さな声で呟いた。


 階段を上がり扉を開いて外に出ると、そこは先ほどまで神治が寝ていた神社の建物だった。
「ふむ、久しぶりに来たが昔と変わらんの……きちんと手入れもされておる……村の者たちは儂を忘れておらぬようじゃな……ありがたいことじゃ……」
 未迦知神は、懐かしげに周囲を見回している。
 入り口付近には、神治が使っていたちゃぶ台と布団が置いてあり、ちゃぶ台の上には、食べ物のカスやタレなどで汚れた食器があった。
(やっぱり……夢じゃないのか……?)
 いくら夢というのが記憶を基にして作られるとはいえ、ここまで細かく認識できる夢というのは信じられない。
 それにあの場所から出たせいなのか、頭もそれまでよりずっとハッキリとしている。
 どう考えても寝ている状態とは思えなかった。
(じゃあ……やっぱり……現実なのか……?)
 先ほどの女性は淫妖と呼ばれる化け物で自分の中に取り憑いている。
 それが全て事実だという事になる。
(そんな……)
 改めて自分の体に異様なモノが入っているという嫌悪感に神治は体を震わせた。
「ハっ!」
 そんな思いに浸っていると突然声が聞こえ、未迦知神が祭壇の前で手を組み、ジッと目を瞑っているのが見えた。
(!……)
 何やら空気が動いているような感覚があり、肌にピリピリとした感触が感じられる。
(な、なにを……)
 未迦知神の目がカッと開かれると、そこから強烈な光が発せられ、体が押されるような圧迫感を受けた。
 空気が振動している。
 未迦知神の周囲に、それまでは無かった清い気が漂っているのが感じられ、圧倒的な力が伝わってくる。
(これは……)
 人ではない。
 すぐに理解した。
 それは理屈ではなく、本能というべきか、見た瞬間そう思ったのだ。
「す、凄い……」
 感嘆の声が漏れる。
「ふむ、このようなものか……」
 未迦知神はふぅと息を吐き出した。
「な、何をしたんですか……?」
 突然の現象に、神治は面食らってしまった。
「今まで穂智過を封じるために使っていた『気』を戻したのよ……奴はなかなか強い『気』の持ち主じゃったからな……儂の力はほとんどそれに回されておった……」
「うっ……」
 未迦知神は前と同じように喋っているのだが、その言葉にはそれまで無かった迫力が感じられ、それに押されるように神治は少し顎を引いた。
「しかし……やはりお主は穂智過と一体化したのじゃな……」
 感心したように見つめてくる。
「なぜですか?」
「ここまで『気』を発している儂を見ても平然としておるからじゃ……」
「いや、圧倒されてますよ……凄く……」
 実際、逆らいがたい重圧を感じているのだ。
 こんな経験は初めてのことだった。
「ふふ……その程度しか感じておらぬというのが凄いということじゃ……普通の人間ならばそうはいかん……もっとこう……」
 そこまで言ったところで、突然扉が開いた。
「神ちゃんっ……何があったのっ……?」
 興奮した様子で伯母が入ってきた。
「さっき凄い『気』がこの建物から……」
 神治を見、そして目が未迦知神を捉えた瞬間、伯母は動きを止めた。
「あ……ああ……未迦知さま……未迦知さまですねっ……?」
 その場に正座すると、床に両手をついて深く頭を下げる。
「さよう……未迦知じゃ……お主は当主家のものじゃな……ふむ、亜樹子と申すか……」
「わ、わたくしの名をご存知とは恐縮でございます……」
 伯母はさらに頭を下げる。
「うむ……こやつの精をもろうたのでな……大体のことは分かる……」
 未迦知神は神治を顎で示した。
「で、では……神ちゃ、神治にお力を下されましたのですね……ありがとうございます……」
「交わったのは確かじゃがの……こやつは儂が力を与えるまでもない……凄まじい力の持ち主じゃ……何せ穂智過から儂を解放したのじゃからな……」
「こ、神治がですか?……そ、そんな……」
 伯母は驚きの声を上げている。
「ふふ……儂も驚いたがの……事実じゃ……」
 伯母は呆気に取られて神治を見つめた。
「何にせよ、穂智過はもうおらん……よって儂は以前と同じくここにおる事が出来るようになった……この建物もきちんと手入れをしていてくれたようじゃな、礼を言うぞ……」
「い、いえ、とんでもございません……いつか……いつか未迦知さまがお戻りになられる事を……それだけを祈ってわたくし達は生きて参りました……ですから今は嬉しくて仕方がありません……」
「うむ……そなた達に感謝を……よくぞ忘れずにいてくれた……緋道の人間は良い者たちじゃ……」
「あ、ありがとうございます……」
 伯母は再び深々と頭を下げた。
「ではこれから儂は新当主に話がある……少々二人きりにしてもらえるかの……」
「は、はい……よろしくお願い致します……」
 伯母は嬉しそうに頭を下げると、建物から出て行った。
「す、凄いんですね……」
 神治は伯母のあまりに恐縮した態度に驚いていた。
 そして先ほどの現象や、今も感じる圧倒的な力の感覚から、目の前にいる女性が神であるという事にもはや疑う気持ちは無かった。
「当然であろ……儂は神じゃぞ……信仰している者にとってはそれだけで畏れ多いものじゃ……それに儂の発する『気』に耐えられる人間はそういない……信仰しておらずとも自然と畏怖の念を感じ、あのような態度を取るじゃろな……」
「そうなんですか……俺は全然ないですねぇ……ちょっと圧倒はされてますけど……」
 思わず正直に答えてしまう。
「お主も神じゃからの……無くて当然じゃ……」
 未迦知神は可笑しそうに笑った。
「じゃあ、俺もあんな風に怖がられるんですか?」
「まだ無理じゃな……ある程度経験を積まねば、見ただけで畏怖するなどという『気』は出せまい……」
「そうなんですか……」
 ホッと息を吐き出す。
 まだ神などという存在になった感覚はないが、会う人ごとにあのような態度をとられてはかなわない。
「お主は人としてもまだまだ修行不足じゃ……まずは大人になることじゃな……神としての修行なんぞ、それからでも十分じゃ……何せ不老不死じゃからの……」
 何度聞いても信じられない。
 自分が神とも言える淫妖と一体化し、不老不死になったというのだ。 
 神治は未迦知神を見つめてみた。
 だが、その肢体が普通の人間と大差ない事は、抱いた時の記憶によって確かである。
(凄く気持ち良かったんだよなぁ……)
 未迦知神との行為を思い出し、肉棒がグンと力を増す。
 前に「神の体はどうなのか」と考えたが、やはり物凄い肉体だった。
(あれ?……そういえば……)
 神治は未迦知神の手首にあった鎖がどうなったのか気になった。
 かなり頑丈そうで、ちょっとやそっとじゃ外れそうもないものだったのだ。
 あれをどうやって外したのだろう。
「あの……手首にあった鎖ってどうしたんですか……?」
「ん? あれか?……あれは幻影じゃ……」
 未迦知神は、手首を持ち上げるようにして示した。
「幻影?」
「穂智過を封じておる間は見えるようにしておいたのよ……出そうと思えば、ほれ……」
 手首に鎖が現れ、伸びると祭壇に繋がった。
「わっ……」
 突然のことに神治は驚きの声を上げる。
「ふふっ……まあ、こうでもしておかぬと、自分が何のためにあの場所にいるのか忘れてしまうかも知れぬでな、一種の戒めじゃ……それに、こういう風にした方が気分が出るじゃろ……?」
 未迦知神は得意げに微笑んだ。
「気分、ですか……」
 この神様は古臭い喋り方をするくせに、結構くだけているのだなと神治は思った。
 まあ、堅苦しいよりは親しみが持てていいのだが。
 それに長い年月あのような場所に化け物と一緒にいたことを思えば、明るいままでいるというのは凄いことであろう。
(俺だったら耐えられないよ……)
 神治は未迦知神に対して尊敬の念を持った。
「それより、興奮したじゃろ……?」
「え?」
「鎖に繋がれたオナゴを襲うなど、男にとってはかなり興奮するのではないのか?」
「な、何言ってるんですか」
 せっかく心の中で誉めたというのに、あまりに下世話な発言をする未迦知神に神治は呆れてしまった。
「ふふんっ……襲ってきた時はかなり興奮しておったからのぅ……お主も好きじゃなぁ……」
「あ、あれは、穂智過にやられてて……」
「本当かのぉ?……しちゅえーしょんに興奮しておったのであろ……?」
「違いますって……」
 必死に否定する神治を未迦知神は面白そうに見ている。
「まあ、何にせよ……そのしちゅえーしょんの経験がお主を救ったのじゃな……普通の緋道の人間では無理であったろう……」
 真面目な顔になると、しんみりとした声で未迦知神は呟いた。
「そうなんですか……?」
 自分が他の人間とそれほど違いがあるとは思えない。
「緋道の者は幼い頃から身近に性があり、さらには身内とする事が当たり前であるため、近親相姦の興奮なぞありえないからじゃ」
 確かにその通りだ。
 思春期を迎える前にセックスを始め、肉親とセックスすることが当たり前の状況では、初体験の興奮もそうでない人間より下がるであろうし、たとえ肉親とセックスしても普通以上の興奮は起こるわけが無いからだ。
「この村から離れ、その歳までセックスの経験がなく、近親相姦に背徳感を感じながらもそれを行なったお主だからこそやれた偉業であろうな」
「そうですか……」
 偉業と言われても、近親相姦は世間的に許されるものではない。
 吹っ切れたとはいえ、未だにその事を神治は気にしていた。
「お主は面白いの……」
 少し暗くなった神治を未迦知神は微笑みながら見つめてきた。
「何がですか……?」
「ふんっ……色々な意味でじゃ……」
 何やらニヤニヤとしながら神治の体を舐めるように見た後、納得するように頷いている。
「よしっ、儂はこれからしばらくお主についておる事にしようっ」
「え? どういう事ですか?」
 訳が分からず尋ねる。
「背後霊のように常に後ろにいるということじゃ」
 悪戯っ子のような顔をしながら呟く。
「なっ、そんなの止めてくださいっ……大体、皆が変に思うじゃないですかっ」
「他の人間には見えないようにしておくから大丈夫じゃ……」
「そういう問題じゃありませんっ」
 常に見られているのでは落ち着かないし、プライバシーが無くなってしまう。
「別にいいであろ、何もかも見せ合った仲であるのじゃし……」
 未迦知神はいやらしそうに片目を瞑った。
「うっ……だからそういう問題じゃありませんってば……お願いですから止めて下さい……」
 とてつもない美女によるウィンクに動揺しながら、何とか止めてもらおうと頼み込む。
「ふはははっ……無理やり襲った罰じゃ……しばらく我慢せよ神治……」
 未迦知神は大声で楽しそうに笑った。
「そんなぁ……」
 情けなく呟きながらも、美しい神に自分の名を呼ばれたことに神治は何か嬉しさを感じるのだった。












あとがき

 はい、こんな話になりました(笑)
 いや、いきなり神だとか化け物だとか出て来て驚かれた方もいるかも知れませんが、初めからこれがやりたかったんです。
 昔、菊地秀行さんの作品をよく読んでいたせいか、こういう人外の者とセックスするってのが大好きなんですよ。
 で、連続モノをやろうと思った時に、そういうネタを入れようと思ったのですな。
 まあ、普通の話は短編の方でやってるので、こっちは好き放題しようと思いまして。
 近親相姦の相手もいなくなっちゃいましたしね。
 これからは普通の相手も色々出していく予定です。
 あ、もちろん人外も。
 でも人外とのセックスって、人以上の快楽を描かなきゃいけないので難しいんですよねぇ。
(2004.10.16)



一覧へ   トップへ