2002年10〜12月の道中記

10/02『どさんこ大将』

真砂坂上の「どさんこ大将」で、とんこつ味噌ラーメン(七百五十圓)を食する。その名の示す如く、札幌ラーメンだ。

丼が、よくある扇形でも梅形でもなく、御飯を盛るやうな牡丹形なのが意外であつた。かなりボリュームを感じさせる效果があるのだ。麺は太めで、スープは案の定こてこて。でもとても好みの味だ。ネギと炒めたもやし、そして紅生姜が、アクセントを附けてゐる。こつてりだが重たくない。スマートと呼んでもいゝのではないか。だから、殘さず平らげることが出來た。

唯一の不滿は、具の種類の少なさ。チャーシューがのつてゐなかつたので、肩透かしをくらつた心持ちになつた。でも充分に堪能しました。

10/05『福しん』

江古田の「福しん」で手もみラーメン(半)(二百五十圓)を食べる。かういふ、ちよつと小腹がすいた時、輕食替はりにに食べられるラーメンはなかなかない。手頃な分量、手頃な値段。氣構へず、たゞラーメンを食べたい時にとても重寶する。

10/06『眞龍軒』

中山競馬場三階の「眞龍軒」で醤油ラーメン(五百四十圓)を食する。開店したのが昭和十四年だといふから(セントライトよりも前なのが驚き。ちなみこの年のダービー馬はクモハタ)、かなりの老舗である。

薄めの醤油味に鰹風味のスープ。麺も太め。心無しか、中華そばの味はひを感じた。私好み。こゝの名物は、カレーラーメン。次囘挑戰してみよう。

10/13『究極 Y’S ラーメン』

赤塚新町のラーメン屋さん。店の雰圍氣からかなりの有名店とみる。何せかなりお晝を廻つてゐる時間帶なのだが、お客がひつきりなしにたえない。

ラーメンと玉子(六百五十圓)を食べる。スープは豚骨醤油。麺は太めの縮れ麺。チャーシューはかなり厚い。それぞれが突出してゐるといふより、全體が調和して味をまとめてゐる、いはば弦樂四重奏團のやうな感じを受けた。

10/14『ちりめん亭』

神保町のちりめん亭で煮玉子中華そば(五百七十圓)を食する。特徴的なのは、細めの縮れ麺。あつさりした醤油と出汁(鷄か)のきいたスープ。すいすいと食がすゝむ。中華そばといふより、二八そばみたい。

10/16『江戸っ子ラーメン』

けふもごま味噌ラーメン(七百二十圓)。玉子(五十圓)とコーン(百圓)も附け加へる。ラーメンの美味しい季節になりつゝある。これを食すると、暫く他のラーメンが入らなくなる。

10/22『麺屋こりん』

最近できたお店。こりん麺(六百圓)を食べる。半ライスが附いてこの値段はお得だ。醤油ベースのスープ。太めの麺。たまたまかもしれないが、何か近所の「香味屋」と似たやうな味なので一つ印象に殘らず。たゞ、決してまづいわけではない。

10/27『眞龍軒』

再び中山の「眞龍軒」へ。今日はこゝの名物メニューであるカレーラーメン(六百六十圓)を食べる。ラーメンだけでなく、カリーもこよなく愛する私にとつて、カレーラーメンとは理想のメニューといへなくはなからうか。まさに願つたり叶つたりとでもいふか、一擧兩得、盆と正月、兩手に花といつた、意味のない言葉が頭を去來する。

スープはおそらく醤油ベースか。それにカリールゥを附け加へた模樣である。例へると、片栗粉の入つてゐないカレーうどんみたい。麺はこの間と同じもの。

想像してゐたよりも口に合ふので、カレー味の新鮮味を樂しむ。たゞ、今までカレーラーメンを食べたことがなかつたので、善し惡しまではうまく判斷出來なかつた。一言いへば、具はまだ一考の餘地があるやうに思へた。

10/29『どさんこ大将』

この頃矢鱈冷え込むので、こつてりしたラーメンが戀しくなる。今月初めに行つた「どさんこ大将」で、とんこつ味噌(七百五十圓)を食する。一口含むとずつしりと腹に響くスープ。それでゐて後味を殘さないから、幾らでも飮めるやうな氣になる。とんこつ味噌が好みであることを差し引いても、このスープは他にない、麻藥のやうな依存性があると感じた。

11/02『ラーメン創房 玄』

今日は味噌ラーメン(七百三十圓)、玉子(百圓)ともやし(五十圓)附。昔味噌とも呼ばれてゐる。どちらかといふと、こつてりといふより濃い目の味附けである。たゞ、嚴選された食材を使つてゐるので、それほど鹽つぱくは感じず、くどくはない。

いつもは若い店員さんが厨房にゐるのだが、今日初めて店の主人を見た。

11/07『角煮そば本舖 英二』

板橋本町の「英二」でみそ(六百圓)と玉子(百圓)を食べる。まづこのラーメンに使はれてゐる食材の紹介を引用しよう。

角煮
九州宮崎産の雌豚を使用し、豚一頭からわずか三百グラム前後しかとれない豚トロ(首の肉)を、贅沢に使用しております。
小麦の麦ガラを取り、玄麦の回りのみを精製し、そば粉を九対一の割合でブレンドした喉越しのよい噛みごたえのある黒みがかった麺です。
スープ
角煮の肉汁に干し貝柱・アサリ・豚足・背脂などを三十六時間煮込み、特有の臭みを消すために宗田鰹や煮干しを入れたスープを整えております。

例へるなら、今年の巨人軍みたいなものだらうか。勝つて當然、四連勝して日本一は當り前といふ、有無を言はせぬ食材である。しかし、ではその巨人の試合が野球として、面白いかといふとまた別の話になる。

少し眞面目に書くと、以前食した時、私はオルケストラを引いて複雜な味はひを説明した。しかし今囘味噌が新たに加はることによつて、微妙なバランスが崩されて了つたのではないか。なまじ個々の食材が強いが爲に、ちよつとのバランス加減の惡さが、目立つて了ふのではないか。そんなことを思つた。

11/19『助六』

本郷二丁目の「助六」にて、チャーシューメン(八百圓)玉子(百圓)を食する。

まづ驚いたのが、この店の營業時間帶である。午前の十一時半から午後二時までといふ、およそ飮食店らしからぬ(しかも土日祝日も休みといふ念の込みやう)に度膽を拔かれる。食事をするといふよりも、恰も彗星を觀察するとか、海龜の産卵に立ち合ふかのやうな、そんな面持になる。だからドンブリが目の前に差し出されただけでも、何たる僥倖か、と感歎して了ふのだつた。

最早、味云々といふ氣にもなれないが、一應書いておくと、スープは豚骨醤油で麺は太め。實にまとまつた、それでゐて小ぢんまりとしたところのない、かなりのレベルの高さを伺はせる味だ。食べてゐる時は氣に掛からないが、食後徐々にまた食べたくなるやうな、後味の良さを感じた。

11/22『馬賊』

日暮里驛前の「馬賊」で、ラーメン(六百五十圓)を食する。本格手打麺が賣り物のお店。ちようど窓から厨房が覗けて、表から麺を打つ樣子が見物出來る。よく練られた小麥粉の生地が、巧みな手捌きによつてみるみる伸ばされる樣をみるのは樂しい。

スープはシンプルな醤油ベース。そして麺。いざ箸に取つてみるとこれが實に太い。今までお目に掛かつたことがない。口にして直ぐ樣あるものを聯想した。この太いもちもちした麺に醤油とダシのきいたスープ。

これはまるで讚岐うどんだ。

いやしかしこれはラーメンなんだらうけど。でもやつぱりうどんかなあ。心は千千に亂れる。ラーメンを食べ隨ら何ゆゑハムレットのやうな惱ましい思ひをするのか。

結局、美味しかつたからそれで良し、といふ風に強引に納得することにした。

11/23『北斗ラーメン』

中山競馬場内馬場のラーメン屋。鹽つぱい。

11/27『江戸っ子ラーメン』

けふもごま味噌ラーメン(七百二十圓)と玉子(五十圓)にコーン(百圓)。毎度々々同じものを頼んでゐるが、食する毎に、違つた味や知らない味に氣が附くことがある。これもラーメンを食べる樂しみ方の一つである。

11/28

水道橋驛前の屋臺にて、玉子ラーメン(六百五十圓)を食する。寒いからこそ、表で食べるラーメンの美味しさを味はふ。氣が附いたけど、この屋臺のラーメンのスープはとても習慣性があるやうに思つた。つまり毎日食べても飽きのこない味。かういふのは大事だ。

12/13『白山ラーメン』

「白山ラーメン」でラーメン(玉子入)(七百五十圓)を食する。こゝは、かなり音に聞く有名店らしく、深夜通り掛かつた時、結構な時間帶にも關はらず人で賑はつてゐた。出てきてのは、こつてこつての豚骨醤油のラーメン。背脂が浮いてゐる。麺が細くてこのスープに實に合ふ。

たゞ難點は店の造り。お店は厨房だけで、椅子や机は通りに竝べられてゐる。けふみたいな寒い日では、つらいものがある。暖房も覆ひもない。冷たい夜風の洗禮を受けながら、熱々のラーメンを啜つてゐるのに、凍える指は冷たく震えてゐる。陽氣を選んで食べに行きたい。

12/19

なぜか家に、通販で購入したと思はれる「沖縄ソーキそば」があつたので、早速食する。

特徴的な平べつたい麺に、鰹風味の薄い鹽味のスープ。ソーキ肉と云ふのは、豚のアバラ肉のことだ。軟骨が附いてゐる。

拙い手振りで自分で料理する。たまには自分で作つて味はふのも一興也。實に美味しい。

12/20『江戸っ子ラーメン』

けふもごま味噌ラーメン(七百二十圓)と玉子(五十圓)にコーン(百圓)。

12/21『萬楽』

外神田の「萬楽」にて醤油ラーメン(五百圓)と小粥(三百圓)のセットを食する。

今囘、ラーメンのことがうまく書けさうもない。實はこの店で、一緒に頼んだ小粥の方に強い衝撃を受けたのだ。取り敢へずラーメンの事を書くと、細い麺に、鷄と醤油ベースのスープ。チャーシューも美味しい。

そしてお粥。中華粥とでも云ふのか、今まで味はつたことのないスープの味。中に小海老などの具が交じる。突き出しのザーサイも良い取合せだ。

中華粥は季節限定のメニューださうなので、心して食する所存である。毎日通つてもいゝと思はせる。