霊媒師の父娘


 育真(いくま)には、辛い過去があった。
 いや、当時は辛さを感じつつも、幸せでもあったのだから、辛いというだけでは無かったのだが。
 その思い出は、十四歳の夏に起きた。
 家で夏休みの宿題をしていて、ふと喉の渇きを覚え、台所へ向かった時の事だ。
 途中の部屋で母が昼寝をしているのを見かけ、その姿に動揺してしまったのである。
 母はその時、浴衣を身に着けていたのだが、寝苦しさのためか、かなり乱れた状態だった。
 胸元が大きく開いていて乳房が半分ほど見え、裾の間から太ももが覗いており、その肌の白さと柔らかそうな肉の印象に、その場に立ちすくみ、ジッと見つめてしまったのだ。
 そのまま立ち去ればそれだけで終わった出来事だったろう。
 しかしその時の育真は、母の体に対して日頃感じた事の無い衝動を覚え、それをはね除ける事が出来なかった。
 すでに十四歳であり、自慰も覚えていて、女性の体に対する興味は強まっていた。
 ゆえに母の体と言えど、女の体をちょっと見てみたいという気持ちがあったのだ。
 何より母は美しい顔立ちをしており、年齢も二十七歳と若く、少年の育真から見ても、十二分に魅力的に映る肉体をしていたのである。
 今家には自分と母しかおらず、母さえ目覚めなければ誰にも知られないし、もし目覚めたとしても、「様子を伺っただけだ」と言い訳すれば良い。
 そう自分に言い聞かせた育真は、ゆっくりと母の傍へ寄っていった。
 近づくにつれ、スースーといった静かな寝息が聞こえ、大きく上下する胸元に目が釘付けになる。
 服の上からであれば見慣れた母の乳房は、生で見るとまるで別の存在だった。
 その柔らかそうな肉は、見ているだけで心臓を激しく鼓動させる効果があり、乱れた裾から伸びる太ももは、思わず撫でてみたくなる衝動を呼び起こした。
 ふと「母親に対して何をしているのだ」という想いが起こるが、女体に対する興味はそれを上回り、「ちょっと女の体を見せてもらうだけだ」という言い訳から止める事が出来ない。
「ん……んぅ……」
 不意に母が身じろぎしたため体を硬直させる。
 どうやら起きた訳ではないようなので、ホッとしつつ見つめ直すと、今の動きでさらに浴衣がずれて肩が顕わになり、裾の乱れも激しくなったため、見える肌の面積が広がった事に興奮する。
 特に淑やかな母のそうした様は、普段とは異なる雰囲気を感じさせ、育真をいつもと異なる気持ちにさせる効果があった。
 実の母親に対して抱く事が許されない、肉欲を覚えたのだ。
 股間の一物はすでに痛いほど勃起しており、育真は自分が母親相手に欲情しているのだと罪悪感を覚えつつ、逆にそれだからこそ余計に強く興奮もしていた。
 いけない事をしている、という想いが心臓を激しく鼓動させ、体に震えを走らせたのである。
 特に男には存在しない胸元の柔らかそうな膨らみは、育真の興味を強くそそった。
(触りたい……)
 そう思うと同時に手が動いた。
 恐る恐る乳房へ近づけ、指先が膨らみに触れそうになったところで一瞬動きを止めるが、意を決してゆっくり乳房に触れさせてみる。
 その瞬間指先から伝わってきた柔らかな感触に、育真はゴクリと唾を飲み込みながら、慌てて母が目を覚ましていないかと確認した。
 大丈夫であると分かると、さらに大胆になり、手のひら全体を乳房に這わせていく。
 浴衣の中に手を差し入れ、覆うようにして手のひらを当ててみると、温かい肉の感触が伝わってきたためうっとりとなる。
 ゆっくり力を入れると乳房はぷにっとへこみ、その何とも言えない柔らかさに肉棒が痛いほどに勃起した。
 呼吸が乱れ、鼻息を荒くしながら乳房を掴むのを繰り返していく。
 ここまで来たら乳房全体を見たいと思った育真は、震える手で浴衣をずらし、その白い膨らみを顕わにした。
 二つの肉の塊が目に映り、その美しさに心臓を強烈に鼓動させながら魅入る。
 先端にある二つの桜色の突起は、男のものにはない存在感があり、思わず吸い付きたくなる衝動に駆られた。
 赤ん坊の頃はこれを吸って生きていたのだと思うと、そうするのが当然ではないかと感じられ、その美しい突起に唇を近づける。
 母の顔をチラチラと見つつ、まだ起きないで欲しいと願いながら、ゆっくり乳首に吸い付いていく。
 唇に硬い感触が触れ、舌で舐めてみると、強烈な悦びが湧き起こった。
 そのままチュウっと吸い上げ、続けてチュパチュパと吸い付きつつ乳房を揉みしだく。
 鼻息を荒くしながら何度も吸い、乳房を揉んでいるとたまらない悦びに包まれ、このままいつまでもこうしていたくなった。
(!……)
 不意に後頭部に何かが触れた感触を覚えた育真は、ギョッとして体を硬直させた。
 母の手だ。
 母が目を覚ましたのだ。
 どう言い訳しよう。
 恐ろしさが心を支配する。
 母は許してくれるだろうか。
 父達に言われたらどうすればいいのか。
 自分がとんでもない事をしてしまったのだと気づき、体がガタガタ震え出す。
「良いのですよ……」
 しかし母の口から聞こえたのは、穏やかな声だった。
 ハッとなって顔をあげると、そこには微笑みを浮かべた母の顔があった。
 普段の淑やかさとは異なり、どこか淫靡さを感じさせるその雰囲気に、肉棒が今まで以上に硬くなる。
「好きなだけ、なさい……」
 その予想外の言葉に驚きを覚えつつ、行為を許してくれた事に喜びが溢れる。
 母は受け入れてくれたのだ、自分のしている事を……。
 嬉しさに包まれた育真は、鼻息を荒くしながら乳房にむしゃぶりついていった。
 思い切り肉を揉み、吸い、舐めていくと、母の口から甘い吐息が漏れ始め、それを聞いていると肉棒が強く震えた。
(たまらない……たまらない……たまらない……)
 自分の肉欲をぶつけるようにして乳房を揉み、落ち着かない衝動を発散させるようにして乳首に吸いついていく。
 力を込めると指を吸い込む柔らかさが感じられ、力を抜くと指を跳ね返してくる弾力が感じられる乳房の感触に、蕩けるような気持ちの良さを覚える。
 顔を押しつけ、両の乳房に包まれるようにすると、たまらない心地良さと、落ち着かない肉欲の衝動が湧き起こった。
 もっと母を感じたい。
 もっと母の肉に包まれたい。
 育真の心と体は、母と一つになりたい想いで一杯だった。
 今股間で猛っている肉棒を、母の中に入れたくて仕方がなかった。
 それは許されない事であり、だがそれゆえにしたくてたまらない事でもあった。
 母親を抱きたいなど異常な事だろう。
 しかしこの目の前の女体は、母親のモノとはいえ育真には魅力が有りすぎた。
 この体をもっともっと自由にしたかった。
 男として、この女体を自分のモノにしたかったのだ。
 育真の心は、激しい肉欲で一杯になっていった……。
「して、良いのですよ……」
(!……)
 不意に発せられた母の言葉に心臓が激しく鼓動する。
 何故ならそれは、最後の一線を越えて良いという了承の言葉に思われたからだ。
 あの母が、淑やかで真面目な母が、息子と交わる事を受け入れている。
 それは驚愕な事であり、一方でたまらなく嬉しさを感じさせる事でもあった。
 母は肉欲で苦しんでいる自分の事をおもんばかり、抱いて良いと言ってくれたのだ。
 喜びに包まれた育真は、体を起こしてズボンと下着を膝まで下ろすと、母の下着を脱がし、そのまま肉付きのいい両脚を左右に広げると、間に腰を入れていった。
 母の気が変わらぬ内に入れなければ……。
 そう焦る気持ちが膣穴から亀頭を何度も外れさせるが、数度目にようやく亀頭の先が膣穴へとハマり込む。
(!……)
 その瞬間起こった強烈な快感に、育真は頭を仰け反らせた。
 何という気持ちの良さだろう。
 信じられない快感だった。
 これまでの人生で味わったことのない、蕩けるような甘美さがそこにはあった。
 そのまま快感に引かれるようにして肉棒を押し込み、奥へ入れていくと、やがて全てが収まった。
 温かで湿った肉に肉棒が覆われ、まるで体全体を包まれているかのような錯覚を覚える。
 さらなる快楽を求めて腰を引くと、その瞬間、頭がおかしくなりそうなほどの快感が湧き起こり、意識せずとも勝手に腰が前後に動いていった。
 肉棒を突き込むたびに母の唇から「あっ、あっ……」といった甘い吐息が漏れ、美しい顔が快楽にゆがみ、豊満な乳房が揺れ動く。
 白い肌が桜色に染まり、唇から淫靡な喘ぎが漏れる。
 今まで見たことのなかった母のいやらしい姿に、育真の射精感は一気に高まっていった。
 それを察したらしい母は、育真を逃がすまいとするかの様に背中に手を回し、腰に脚を絡ませ、強く抱き締めてきた。
 そうされると体全体が母の肉に包まれ、その柔らかな温かい感触に、それまで以上の気持ちの良さが広がっていく……。
「!……」
 次の瞬間、快感が脳天を貫き、熱い何かが体の芯を駆け抜けるような感覚を覚えた。
 精を放ったのだ。
 日頃自慰で味わっているのとは比較にならない強烈な快感に、育真は顔をだらしなく緩めながら、ガクガクと射精を繰り返していった。
 意識が蕩けそうなほどの射精を連続で行い、しばらくして精を放ち終えると母の体に身を預ける。
 柔らかで温かな肉が受け止めてくれ、母に包まれている喜びを感じながら交わりの余韻に浸る。
 耳元では母が荒い呼吸を繰り返しており、上気した顔には普段見たことのない女の雰囲気があった。
 自分は母と交わったのだ。
 息子でありながら実の母親と……。
 そう考えると恐ろしさが湧き起こり、畜生道へ堕ちたのだという想いを抱いたが、それ以上に「初めてを母に捧げた」という感覚も起き、嬉しさで一杯になる。
 罪悪感と幸福感が同時に発生し、たまらない悦びを覚えた。
「気持ち、良かったですか……?」
 その声にハッと顔を上げると、母が笑みを浮かべ、ジッとこちらを見つめていた。
 それは普段の母とは別人を思わせる淫靡な表情で、見ているだけで肉棒があっという間に回復していく。
 コクコクと慌てて頷く育真に、母は満足げな笑みを浮かべながら、「もっとして良いのですよ」と告げ、優しく口づけをしてきた。
 口内に母の舌が入り込み、自分の舌に絡んで吸ってくるのに肉棒が激しく猛る。
 強く吸い付いてくる口づけを受けながら、母が浴衣を脱ぎ、育真の体からも服を剥いでいくのに身を任せる。
 母に服を脱がされるなどいつ以来だろうかと思いつつ、その母親を感じさせる行為に幼い頃を思い出し、くすぐったいような喜びを覚えた。
 そしてそんな母といやらしい行為をしているのだと思うと、ゾクリとした興奮と荒々しい衝動が湧き起こり、育真は母にのし掛かると、再び肉棒を押し込んでいった。
 母の気が変わる前にもっと抱かなければ、という想いが湧き起こり、落ち着きなく腰を振りまくっていく。
 体を動かすたびに、母の口から「あっ、あっ……」という甘い吐息が漏れ、それを聞くと腰の動きにさらに力が入った。
 そして股間からは蕩けるような快感が湧き昇り、体中が快楽で一杯になった。
 最高だった。
 信じられなかった。
 今自分は母と繋がり、そのいやらしい体を自由にしているのだ。
 だがこのような事は、恐らくもう二度と出来ないだろう。
 あの淑やかで真面目な母が、息子に抱かれる事を許すなど、再びあり得るはずがないからだ。
 こんな事が出来るのは今だけであり、だったら思い残す事がないほど母の体を味わわなければ……。
 そうした想いが今まで以上に肉棒を高ぶらせ、腰を激しく振らせた。
 先ほどと異なり、裸同士で交わるのには、生の肌と肉が強く感じられ、まるで自分の全てが母に包まれているように思えてくる。
 特に背中に腕を回され、腰に脚を絡みつかれて強く抱き締められると、母の中に取り込まれたように感じられ、何とも言えない安堵感が起こった。
 白く滑らかな肌と擦れ、温かい肉に包み込まれるのにはたまらない心地良さがあり、今自分の接している存在は、まさに母性の塊と言え、安心感を感じさせるモノだった。
 その一方で、腰を動かすたびに耳に響く甘い吐息は女を感じさせ、母という女を自分が支配している喜びを感じさせた。
 母性の肉に身を委ねる事で母に支配され、雄の象徴で貫く事で女である母を支配する。
 その相反する状態に、育真はおかしくなりそうなほどの快楽を覚えた。
 自分はもう母から離れられない。
 この気持ちの良さを忘れることなど出来はしない。
 全てを母に捧げるのだ。
 強い想いが湧き起こり、それが体に作用したのか、腰の動きがさらに激しさを増していった。
 そしてそれに合わせて高まる母の甘い喘ぎ、いやらしい悶えに、育真は何度も何度も母の肉体を味わっていくのだった。


 気がつけば外は夕闇に染まり始めており、もうすぐ父が帰ってくる時刻となっていた。
 その事で「もしバレたら」と考え、ゾッとしつつも、素晴らしい体験が出来た事に喜びを覚える。
 隣を見れば、惚けた表情をした母がおり、その体には育真の付けた情事の名残があった。
 それはまさに母を自分の物とした証に思え、男としての誇らしさが湧き起こってくる。
 しかしこれも今日限りの事だろう。
 真面目な母がまた抱かせてくれるなどあり得なかったからだ。
 今日の事はおそらく気の迷いであったに違いない。
 それは非常に悲しい事だったが、考えてみれば母子で交わるなど許されない事であり、畜生道へ堕ちる行為なのだから、これで良いのかも知れない。
 そう考え、寂しさを感じながらも、まともに生きるためにはその方がいいのだと己に言い聞かせる。
 母の体は気持ち良かったが、実の母親なのだ。
 その肉の味は、禁断の味なのである。
 本来味わってはいけないものなのだ。
 だからこれでいいのだ……。
「また誰も居ない時に、いらっしゃい……」
 だが不意に発せられた母の言葉は、育真の決意を揺るがすものだった。
 それはまるで、今日と同じことを再びしようと誘っているように聞こえたからだ。
「この事は内緒……二人だけの秘密……」
 母は人差し指を唇の前に当てて淫靡な笑みを浮かべると、育真の体を優しく抱き締めながら軽い口づけをしてきた。
 ゾクゾクした快感が湧き起こり、その事で母の言葉に逆らう事など考えられなくなってくる。
 何よりこの温かで気持ちのいい肉体を、もっと味わいたいという強い欲求があったのだ。
 育真が落ち着き無く何度も首を縦に振ると、母は嬉しそうに微笑みながら優しく頭を撫でてきた。
 そうされると幼い頃を思い出し、自分が母に愛され、包まれている幸福感を覚えた。
 そしてそれと共に、母を女として求め、己の肉欲を発散させる対象として見ている事も感じられた。
 結局自分は、母子相姦という畜生道へ堕ちていくしかないのだろう。
 それは何とも恐ろしい事であったが、母と一緒ならば構わないではないかとも思った。
 美しく、自分を愛してくれている母。
 自分も母が大好きであり、そんな母と一緒に堕ちていくのであれば、それは悦びでもあった。
 育真は、己が今までとは異なる世界へ入り込んでしまった事を感じつつ、その事に恐怖と幸福感を覚えるのだった。


 それから育真は、家族が居ない時には母を抱きまくった。
 父達は仕事で忙しく、家を空ける事がよくあったため、そうした機会は沢山あったのだ。
 育真は父達に知られる事を恐れつつも、夢中になって母を抱いた。
 まさに母の体に溺れていたと言って良いだろう。
 とにかく母の体を貪り、精を注ぎ込む事に執着していたのだ。
 そうせずには居られない激しい衝動があったのである。
 自分は狂ってしまったのではないかと思えるほどのその状態に、育真は恐怖を感じつつも、強烈な快楽の日々に満足もしていた。
 特に普段の母は、以前と変わらない淑やかで真面目な様子であったため、抱いている時の淫靡な姿との差に魅了されたと言っても良い。
 いつもは処女ではないかと思えるほどに楚々とした母が、自分に抱かれ、肉棒で貫かれている時はいやらしく乱れるのだ。
 その「自分だけが知っている母の姿」に夢中になったのである。
 普段は以前通り母親として接するのだが、交わっている時は「自分の女。これは自分の物」といった意識が強まった。
 抱いている時だけは母を、一人の女として求めてしまうのである。
 だからある日、交わりの後に母が「妊娠した」と告げてきた時も、恐れよりも喜びがまず起きた。
 自分の物である母の中に、自分の子が宿ったのだから当然だろう。
 しかしすぐにそれがマズい事であるのも分かり、どうすればいいのかと動揺した。
 こうして母と交わっている事は未だ家族にバレていないし、今後も知られないようにする事は可能だったが、子供が出来てしまってはそれも不可能になるからだ。
 だがよく考えれば、お腹の子の父親が自分であると決まった訳でもないのだから、そう悲観する事もないと気がつく。
 母を抱いているのは自分だけではなく、父もそうだからだ。
 つまりどちらの子であるかなど分かるはずもなく、他の家族からすれば、お腹の子は、父の子として認識するはずだからである。
「この子は、あなたの子ですよ……」
 しかし母はその考えをあっさりと否定した。
 しばらく父には抱かれていないと言うのだ。
 つまり確実にお腹の子は育真の子であり、父から見れば、自分以外の人間がお腹の子の父親であるのは当然分かる事だったのである。
 さらに母は、それが育真である事も、父はすぐに見抜くであろうと告げた。
 その事に育真は恐怖し、自分は一体どうなってしまうのかと怯えた。
 母はそんな育真を優しく抱き締めると、何も問題は無いと告げてきた。
 父は、育真がお腹の子の父親だと知っても怒りはしないと言うのである。
 父にはその事に対する理解があり、決して理不尽な扱いをする事はないと言うのだ。
 信じられない事だったが、実際数日後に父に呼び出されてみると、確かに怒りをぶつけられる事はなかった。
 父は冷静で、逆に育真を慰めるような、そんな態度だったのだ。
 そしてこうなってしまったのは、自分の予測の甘さだと詫びてきた。
 どういう事なのかと尋ねる育真に、父は一族の呪われた運命について語り出した。
 一族の人間には、魔の魂が取り憑いていると言うのだ。
 育真の家は代々霊媒師の家系なのだが、その開祖である人物が滅ぼした魔の夫婦が、一族の体に取り憑く事で、現在まで生きながらえてきたというのである。
 そして新たな自分達の体を作るべく、一族の者に近親相姦を行わせてきたのだという。
 魔にとって、汚れの濃い肉体こそが自らの体にするのにふさわしいものらしく、その汚れは、近親の血肉が交われば交わるほど強まるため、魔は取り憑いた者の意識を消し、体を操って誘惑させ、近親同士を代々交わらせてきたというのである。
 実は両親も兄妹であり、父は魔に操られた母に誘惑され、近親の交わりをしたのだそうだ。
 その結果として産まれたのが育真であり、父の中に居た魔は育真に移った。
 そしてもう一人子供を作る事で、母の中の魔も移動すると思われたのだが、父との間には再び子供が出来る事はなかった。
 その事で父は、魔が次の世代へ移行する事を防げたと喜び、さらに最近では魔による誘惑も無くなっていたため、魔は諦めたのだろうと安心していたのだそうだ。
「だが甘かった。私とではもう子が得られぬと判断したヤツは、お前との間に子を作る事に変えたのだ」
 その事に気づけなかったと父は嘆き、自らの不明から育真が近親の交わりをする事になってしまったと詫びた。
 どうやら育真が感じていた母に対する異常なほどの執着や肉欲も、魔の影響らしかった。
 あれは育真と母の中に居る魔同士が求め合っているために起きるものらしい。
 その話を聞かされた育真は、知らぬ間に自分が魔に操られていた事に恐怖を覚えた。
「母さまはこの事を……」
 知っているのかと尋ねると、どうやら育真に抱かれていた記憶は無いとの事で、その事を聞かされた母は驚愕していたらしい。
 そして父を深く愛している母は、息子とはいえ他の男に抱かれ、さらに妊娠までしてしまった事を申し訳なく感じ、今は部屋に閉じこもっているという。
 真面目な母であればあり得る事だと思いつつ、そんな状態にまで母を追い込んでしまった事を育真は悔いた。
 そしてそれと同時に、今まで自分の抱いてきた相手が、母ではなかった事に悲しみを覚えた。
 あの淫靡な母は、母では無かったのだ。
 自分が夢中になって抱いていたのも、肉欲を優しく受け止めてくれていたのも、忌まわしき存在の魔だったのである。
 せめて母に少しでもその記憶があるのならば救われただろうが、母は全く覚えていないという。
 育真は、何か大切なものが無くなってしまったかのような喪失感を覚えた。
 そして今後の事について思いを馳せると憂鬱な気分になった。
 父の話によれば、子が産まれた後、母か育真の中に残っている魔が、再び交わりを強要してくると思われるのだが、もし母の中から魔が消えていた場合、魔の肉欲に染まった自分は、今度こそ本当に母を抱いてしまう事になったからだ。
 これまでと違い、意識をしっかりと持った母を抱く事になるのである。
 母は育真が求めても拒絶するだろう。
 それだけ母は父を愛しているし、何より貞節の想いが強いからだ。
 ゆえに本来ならば育真も母を抱きたくは無かったが、これまで経験した異常なまでの肉欲の強さを考えると、抑えられずに襲ってしまうのは確実だった。
 つまり母を強姦する事になる……。
 その事に育真は恐怖を感じ、母を悲しませ、今以上に不幸にしてしまうであろう事に苦悩し、一体どうすればいいのかと悩むのだった。


 十五年後……。
 二十九歳となった育真は、家業である霊媒師の仕事に就いていた。
 育真の家は業界でも名家と呼ばれる家柄であり、実際それは名前だけではなく、能力的にも優れていて、育真自身も己の力が他の霊媒師より抜きんでている実感があった。
 しかしその事には秘密があった。
 少年の頃に知った、一族の身に潜む魔の存在だ。
 育真の一族は、その身に魔が取り憑く事により、常人よりも優れた能力を引き出されているのである。
 それは霊媒師としての才能が無い人間であっても、一流の能力が得られるようになるほどであり、実際先祖の中にはそうした者も多く、育真の母や祖父なども魔の存在が活性化したことで力を伸ばしたらしい。
 取り憑かれていない者にしても、先祖が代々引き継いできた魔の影響によって力を伸ばしていると言ってよかった。
 そして一族はその力の恩恵を得るため、本来滅ぼすべき魔をその身に宿して生きてきたのだ。
 一度手に入れた名家の地位を失う事に恐怖したのである。
 少年の頃に知ったその事実に、当時の自分は憤ったが、大人になってみれば受け入れるしかないものだという事も分かった。
 名家の地位というものが、如何に重要であるのかを理解したからだ。
 力を失った霊媒師の一族が、没落していくのを目の当たりにしたのである。
 この仕事はそれほど需要のあるものではない。
 科学が進歩していなかった頃、迷信が未だ力を持っていた時代であればそうでも無かっただろうが、今や人の信用は、霊媒ではなく科学にあった。
 数式やデータとして確認出来ない霊媒などというものは、否定される世の中になっていたのである。
 何か奇妙な事が起きても、それを霊の影響と考える人間は少なくなってしまったのだ。
 そしてその数少ない霊媒を信じる人間も、仕事を依頼する際は名の知れた霊媒師へするのが通例であり、何よりそうさせる仕組みを作ったのが、育真の一族のような名家の人間だった。
 名家でない者や、名家の後ろ盾の無い者は、仕事を得にくい状態になっていたのである。
 ゆえに古くから名家として存在する事は、この仕事を続ける限り大切な事だった。
 しかしその名家としての地位も、まもなく失われるのではないかという恐れが最近感じられていた。
 霊媒の力を伸ばす源である魔の存在が、感じられなくなっていたからだ。
 育真と母との間に子が産まれた時、すぐにまた自分達は近親での交わりを強要されるものと思っていたのだが、そうした事は起きなかったのである。
 産まれた子は女の子であったから、母の中から魔が消えた事は分かるが、育真の中には未だに存在しているはずであるのに、いつまで経っても母に対する欲情が起きず、逆に「母を抱いてはならない」という理性がきっちり働き、肉欲も並程度にしか起きなかったのだ。
 それは母を強姦する事を恐れていた育真としてはありがたい事であったが、何故そうなっているのか分からないため違和感があった。
 父は魔自体に力が無くなったのではないかという楽観的な推測をしたが、育真はそうは思えなかった。
 過去、魔が行ってきた事を調べるに付け、そのような単純な相手とは思えなかったからだ。
 そもそも自分が受けた魔からの誘惑、そして身に潜んだ魔が起こした激しい肉欲を思うと、あれが何の前触れも無く消えてしまうとは思えなかったのである。
 もしかすると、何か目論見があって力を抑えているのではないか。
 自分達は何か重要な事を見過ごしているのではないか。
 そう思えて仕方がなかった。
「父さま、宜しいですか?」
 不意にかけられた声に視線を向けると、そこには白衣に袴という格好をした少女が正座しているのが見えた。
 名は凪子(なぎこ)
 育真と母との間に出来た子だ。
 今年十四歳になった凪子は、母に似て美しく、霊媒師としての能力も幼い頃から秀でており、才女という言葉がピッタリの優れた少女として育っていた。
 性格も真面目で落ち着きがあり、大人が相手でも物怖じしないその態度は、一見生意気に取られそうなものであるのに、そうならずに済む人徳も備えており、まさに完璧と言える少女なのだった。
 あらゆる面で優れた娘の存在に、育真は誇らしげな想いを抱いていたが、日に日にどこか不安になっていく自分も感じていた。
 これほど素晴らしい娘に、何を不安がっているのかと可笑しくなるのだが、どうにも落ち着かない不安感が付きまとっていたのだ。
 その不安感の正体は、魔だった。
 凪子の中には魔が潜んでいる。
 凪子の完璧さも、その魔が仕組んだものではないかと思え、いつかそれが凪子に牙を剥くのではないかと恐れていたのである。
「また一族の歴史を調べておいでになっているのですか?」
 今居る場所は一族の記録が残っている書庫であり、育真は昔から暇を見つけては一族の歴史、というより魔について調べていたのだ。
 無論その事は凪子には伝えていないため、娘は単に歴史好きな父親だと思っているだろう。
「そうだな。調べていると色々興味深いことがあってね」
「歴史も宜しいですが、これからは経営学のようなものを学ばれた方が宜しいと思います」
「経営学?」
 妙な事を言い出した娘に苦笑する。
「今の世の中は着実に霊媒を否定するものへと進んでいます。ですからわたくし達としましても、如何に顧客を逃さず、多く得られるように仕事をしていくのか、また組織としての運営体制、霊媒師の教育方法なども考え、生かしていくことが大切なのではないかと思うのです」
 何とも小難しい事を言い出した娘に驚く。
 まるでどこかの新興企業の社長のようではないか。
「組織はともかく、教育方法ってのは、今私がお前にしているやり方が気に食わないって事かい?」
「有り体に言えばそうですわ。現在父さまがして下さっている方法では効果が薄いと判断しました。もっとより良く、効率的に能力を伸ばす方法があるのですよ」
 育真からしてみると、自分の事を否定されたようなものだが、その事に反発は無かった。
 何故なら凪子は、幼い頃からあれこれと霊媒師の修行について改革案を述べ、実際試してみると実に効果的な事が証明されていたからだ。
 今や家族の誰よりも才覚があると認識されている凪子の意見は、それこそ新興企業の社長並の権限と信頼があったのである。
「これは父さまのお好きな歴史も証明しているものですわ。最近わたくしも父さまを見習って歴史を学びましたの。そして知ったのです。まさに我が一族の根幹たる修行法と言うべきものを」
 凪子は肩に掛かった髪を払うと、得意げな笑みを浮かべた。
 その笑みに一瞬何かを感じ、体が反応した事に育真は衝撃を受けた。
 何だろうこれは……。
 どこかで覚えのあるこの感覚は……。
「そもそもわたくし達のこの力、霊媒の能力とは一体どこから来ているのか。何に基づいているのか。わたくしは考えたのですわ。通常の人が持ち得ない力を持ち、それが代々伝わっていくのは何故か。その原因は血筋でしょう。などと言うと、昔から当たり前に言われている事になりますが、わたくしが言っているのはもっと本質的な部分になります。血筋、すなわち遺伝子の問題ですね。そこに何か原因があるのではないかと」
 とても十四歳とは思えない内容をスラスラ話している娘を見つめつつ、育真は先ほどの妙な感覚が強まっていくのを感じていた。
「わたくし達の血には特殊な要素があり、そのため純粋な人間とは異なる力を得ている。これは他の霊媒師にも言える事だと思いますが、特に名家と呼ばれるように、血筋を重んじている家の人間は、その事を無意識の内に理解し、出来るだけ血を外に出さぬようにしてきた。我が一族などはそのために近親婚を繰り返してきたのでしょう」
「!……な、凪子、それは……」
 娘が一族の近親相姦について知っているのではないかと思った育真は動揺した。
「どうなされました父さま? ああ、もしかしてわたくしが近親婚について知っていた事に驚かれたのですか? このような事、少し調べれば分かる事ですよ。我が一族は代々近親によって子を成し、それによって力を保ってきたのでしょう?」
 平然と述べる凪子に目を白黒させる。
 自分は幼い頃、その事を知らされて、というか経験した事に苦悩したものだが、この幼い娘は全く動揺していないらしい。
「お前はそれを知っても平気なのか?」
「ええ、当然ですわ。霊媒の力を保つ根拠が血であるならば、そのために近親による生殖を繰り返す。実に合理的ですもの」
 何とも冷めた認識の娘に苦笑する。
 年頃の娘であれば、こういった事を汚らわしく感じ、己を含めた一族全員を否定するようになってもおかしくないであろうに、全く平然と受け入れているのだ。
「何より我が一族は、交わる事で力を伸ばす事が出来るという、さらなる特異な点もあるようですしね」
「!……」
 凪子の言葉に心臓が跳ねる。
 よもやそこまで知っていたとは……。
「これこそが、我が一族がこれまで名家としての地位を存続出来た大きな理由でしょう。何しろ生まれつき能力が低い者であっても、近親と交わるだけで能力が伸びる訳ですから。そうなれば他家と比べて余計に血を外に出す事を忌避するのも当然です。我が一族が婚姻に関して閉鎖的であるのも納得できましたわ。ではそうした霊媒の能力を得る血とは何であるのか。遺伝子に一体どのような要素があるのか。わたくしは考え、そして一つの仮説に至りました」
 そこで凪子は一旦言葉を切ると、ジッとこちらを見つめて小さく笑った。
(!……)
 その瞬間、体に走った震えに、育真は激しく動揺した。
 何故ならそれは、昔何度も経験した、体の奥底を揺さぶる淫靡な感覚だったからだ。
 育真はあろう事か、娘である凪子に肉欲を覚えたのである。
「わたくし達の遺伝子には、人ならざるモノの血が流れているのではないか。それがどういった存在であるかは分かりませんが、人よりも遙かに力の強い存在、そうしたモノの血が混ざっているのではないかと思ったのです」
 まさに魔の存在を指摘した言葉に、育真は驚きつつ、一方で肉棒が硬くなってきている事に動揺した。
「そして調べていったところ、驚くべき事実が判明しました。これは公的な記録には残っていないのですが、個人の日記などには明確に記載されていました。開祖が滅ぼした『魔』と呼ばれる存在が、魂となって代々一族に取り憑いているという事が……」
(何……?)
 育真はその言葉を聞いた瞬間、不信感を抱いた。
 何故なら魔の事は、日記などにも書かれているはずがなかったからだ。
 悪霊として記載されているものはあるが、「魔」とハッキリ書かれたものは無かったのである。
 しかもそれが開祖の伝承に出てくる魔であるとするものなど皆無だった。
 幼い頃、父から魔について聞かされて以来調べてきたが、どの日記にも書物にも書かれていなかったのだ。
 なのに何故凪子はその事を知っているのだろう。
「魔は代々一族の体に潜み、近親同士を交わらせ、自らの新たな肉体を得ようとしてきたそうです。それは霊媒師としては屈辱的な事ですが、違った見方をすれば恩人とも言えるでしょう。何しろ彼らは、我が一族に優れた霊媒の能力を与えてきてくれたのですから。そしてその結果として名家の地位を保てた事を考えれば、魔に取り憑かれているといった事は、些細な事だと言えると思います」
 再び書物では分かるはずの無い「魔の目的」について凪子が語った事に驚愕する。
 これは一体どういう事なのだろうか。
「無論この事は一族にとって最重要機密。外へ漏らすことなど出来ません。そしてその事に関しても、近親婚というのは上手く作用している訳です。身内による婚姻であれば、そうした恐れは少なくなりますから」
 得意げに語る凪子の姿に、育真は恐ろしさを感じ始めていた。
 いや、懐かしさかも知れない。
 今語っているのは、恐らく魔自身。
 幼い頃自分を誘惑し、快楽へと狂わせた、あの魔が喋っているのだ。
 それならば、調べても知り得ようのないはずの事を知っていてもおかしくないし、何より突然起き始めた、異常なまでの肉欲の高まりも納得出来た。
 こうして考えている間も、育真の視線は凪子の体の線をなぞり、膨らみ始めた胸元を見つめてしまっているのだ。
 呼吸が乱れ、目の前の若い肉体を抱き締め、舐め回し、肉棒を押し込みたい衝動が激しく高まっているのである。
 それはまさに十五年前に母に感じたものと同じであり、凪子から感じる女の色気は、当時の母そのものと言って良かった。
「……お前は、魔か?」
「……」
 一度大きく息を吸い、静かな声で尋ねると、それまで喋っていた凪子が黙り込む。
 そして面白そうな表情を浮かべると、こちらを見つめながら小さく微笑んだ。
「いいえ違いますわ父さま。今喋っているのはわたくし、凪子自身です」
「それは嘘だろう。何故ならお前は、一族の記録に記載されていない内容を今語った。それはお前が魔自身であるからではないのか?」
 育真が追求すると、凪子は少し目を瞑った後、楽しげに微笑んだ。
「わたくしは、魔に聞かされたのです」
「何……?」
「幼い頃からわたくしは、魔から一族の事や魔自身の事を教えてもらいました。他にも『気』の扱いや、様々な知識、多くの事を……」
 淡々と語り出した驚愕の内容に、育真は呆然となった。
 確かに凪子は、家族が教える前から「気」の扱いに長けていたため驚いたものだったが、よもや魔が指導していたなどと、信じがたい事だった。
「ではまさか、これまでお前が述べてきた修行法も……」
「はい、魔から効率の良い方法を教わったのです」
「ぐ……」
 これまで凪子が進言してきた改革案はかなりの数だった。
 それが魔の考えたものだったとは……。
「わたくしの先生は魔なのです。今のわたくしがあるのは魔のおかげ。そう申して構わないと思います」
「何という事だ……」
 これまで優れた娘だと誇りに思ってきたものが、全て魔によって作られたものだと知らされた育真は、何とも言えない苦悩を抱いた。
「そう苦しまられずとも宜しいではないですか。元々我が一族は魔の力によって隆盛してきた訳ですし、今更そういった事が増えた所で問題はありませんでしょう?」
 確かに表面上はそう言えるだろう。
 だが「魔」とまで言われてきた存在が、単に一族のためだけに何かしてくれるとは思えなかった。
 何しろ過去に、これほど魔が干渉してきた事などなかったのだ。
 近親相姦を促す事以外、これまで魔は関与してこなかったのである。
 それだけに今回の事は、何か特別な目的があるように思えた。
「それに魔は、わたくしの母さまでもあられます。母親が娘のためにして下さる事に不安はありませんわ」
 続けて告げられた内容にハッとなる。
「何を言って……」
「ずっと父さまや家族の皆は、母さまは亡くなられたと仰ってましたが、こうしてわたくしの中にいらっしゃるのです」
 育真と母との関係は、行為時に母の記憶が無かった事と、母が父以外との子供を我が子として認識したくない、という点から、無かった事とされていた。
 凪子が産まれた頃、ちょうど病死した親族の娘がいたため、対外的には彼女を母親とする事にしたのだ。
 その娘とは許嫁の関係でもあったため、問題が無かったのである。
「わたくしを産んで下さったのはお祖母さまなのでしょう? 当時母さまはお祖母さまの中に居らっしゃって、父さまとの間にわたくしをもうけられた。交わりの際、お祖母さまに意識は無く、父さまを求められたのは母さまだった……ゆえにわたくしの母親は母さま、魔なのです」
「!……」
 そこまで知られている事に育真は衝撃を受け、苦悩した。
 何故なら母との事は、育真にとって辛い思い出だったからだ。
 母に行為時の記憶さえあれば良かったが、実際はそうではなかったため、意識の無い母を無理矢理抱き、妊娠までさせてしまったという罪悪感があったのである。
「母さまは、全てをわたくしに話して下さいました。おかげで幼い頃より寂しくありませんでしたわ。常に母さまと一緒で、母さまに色々教わり、母さまに褒めていただいて。わたくしは本当に幸せでした……ただその事を誰にも言えない事だけが辛かったのです」
 魔を母と慕う凪子の様子に、育真はどうすればいいのか悩んだ。
 凪子の言葉が本当であるなら、まさに魔は凪子にとって母親であり、それを今更否定させるのは難しいだろう。
「でもようやく父さまに話す事が出来て嬉しいです。ずっと母さまに、わたくしの準備が整うまでは我慢なさいと言われてましたから。それがこの間許可をいただけて、凄く嬉しいのです」
「準備、だと?」
「はい。この事を父さまに話すには、わたくしの準備が必要だったと……母さまがわたくしの体を使って父さまと愛し合い、子を成すための準備ですわ」
「なっ……」
 驚愕の言葉に目を剥く。
 魔は何という事を考え、実行しようとしているのだろう。
 だが内容自体は、自分が少年時代、母とした事であるのだから、魔の行動としてはおかしくはなかった。
 ただ当時の自分が、相手が魔だと知らずにしていたのに比べ、凪子はその事を知りながらしようとしている点が異常に感じられた。
「お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか? 父親である私に抱かれるという事なのだぞ?」
「ええ、もちろんですわ。近親婚は我が一族の伝統。娘であるわたくしが、父さまに抱かれる事に問題はないでしょう?」
 そうだった。凪子は魔の教育により、近親婚が当然のこと、どころか一族としてはするべきものだという意識を植え付けられていたのだ。
「何より、ずっと愛し合えなかった父さまと母さまを、わたくしが結びつけられるのだと思うと凄く嬉しいですし」
「なっ……私が、魔と愛し合う、だと……?」
 肉欲はともかく、愛などと言われた育真は、目を大きく開くと、唇をわなわなと震わせた。
「さようです。母さまから聞きましたわ。父さまは母さまに夢中になって、何度も何度も求められたと……母さまは幼い父さまのそんな姿を可愛らしく感じられて、強い愛情を抱かれたそうですよ……ああ、そういえば母さまにとっては父さまも、自分の息子であるのですよね。強い愛情があって当然ですわ」
 確かに凪子の理屈からすると、自分にとっても魔は母親になった。
 何しろ父は魔に取り憑かれた母、つまり魔との交わりによって自分を成したのだから。
 そう考えていくと、魔は先祖それぞれの母親でもあるのだという事に気づいた育真は、その事に恐怖を覚えた。
「ですから父さま、わたくしを抱いて下さいまし。そして母さまと愛し合い、わたくしとの間に子を成して下さい。父さまと母さまの愛の証、そして父さまとわたくしの愛の証でもある子を……」
 凪子は真剣な目でこちらを見つめている。
 その瞳はいつもと同じで、異常さは全く感じられなかった。
 だが発している言葉の内容は、あまりに異常であり、とても受け入れられるものではなかった。
「わたくしが産んだ子は、母さまの新しい憑り代となり、そしてその子をわたくしが育てる……ああ、母さまをわたくしがお育て出来るなんて感激ですわ」
 凪子はうっとりとした表情をして微笑んでいる。
 幼い頃からの魔による教育で、それが当然のことであり、喜びであるように認識してしまっているのだろう。
「何より父さまと交わる事により、わたくしの力はさらに増すでしょう。大人になる頃にはかなりの力になっていると思います。我が一族の名声は益々高まるというものですわ」
 それはいつもと変わらぬ、一族の将来を見据えた凪子らしい言葉であったが、その内容は、これまでとは異なる淫靡な意味を持つものだった。
「さあ、父さま……わたくしを……その……抱いて下さいまし……お願い、致します」
 凪子はそこだけは年相応の娘らしく、初々しい恥ずかしさを見せつつ、床に両手をつくとゆっくり頭を下げた。
「……」
 育真は娘に交わりを求められ、どうすればいいのかと苦悩した。
 無論ハッキリと断れば良いのだが、体は強く疼き、凪子の体を求めていたのだ。
 いや、凪子ではないだろう。
 凪子の中に存在する魔を求めていたのである。
 自分を交わりに導き、交わりの素晴らしさを教えてくれた女。
 その女に対する思慕があったのだ。
 凪子が述べたように、自分は確かに魔に惹かれているのかも知れない。
 当時は母だと思い込んでいたが、母親に対するのとは異なる愛情を抱いていたのは確かなのだ。
 そして交わりが途絶えた後の喪失感。
 あれは魔を愛していたがゆえに感じた、魔を失った事への悲しみだったのではないだろうか。
 そんな相手が、再び自分を求めてきている。
 それは育真にとって、拒否しがたい甘い誘惑だった。
 しかし体は凪子だ。
 そして凪子は魔の歪んだ教育によって、父親に抱かれる事に全く禁忌の想いを抱いていない。
 そのような娘を抱いてしまって良いのか。
 もっとまともな倫理観を教育し直すのが自分の役割ではないのか。
 そうした父親としての義務感が、かろうじて凪子を抱くのを押しとどめていた。
「ふふ……わたくしでないと、抱けないのでしょう?」
 不意に聞こえた声に体が硬直する。
 それは凪子の口から発せられはしたが、喋っているのは凪子ではなかった。
 口調も雰囲気も違うのだ。
 そう、これは魔が喋ったのだ。
 凪子の中に存在する、十五年前、自分に性の快楽を教えてくれた魔が、語りかけて来ているのである。
「あ、あなたは……」
 その瞬間、育真の意識は十四歳のあの頃に戻った。
 目の前の遙かに年下な娘が、年上の女性のように感じられてくる。
 実際凪子の雰囲気は少女のそれではなく、色気に満ちた大人の女性のものに変わっていた。
「お久しぶりですね。ふふ……そうは言ってもわたくしは、ずっとあなたの事を見てきましたけれど……」
 凪子、いや魔は、大人の女を思わせる楚々とした動きで口に手を当てると、小さく笑っている。
「何故、この様な事を……凪子に何てことを吹き込んだのです……」
 相手は魔であると分かっているのに、幼い頃に母として接した記憶が、丁寧な言葉遣いと意識をもたらしていた。
「そう怒るものではありません。あなたも経験してきた事ではないですか」
「それはっ……私は母さまだと思って……でも凪子は自分のする事があなたの、魔のためだと考えて抱かれようとしている……」
「ふふ、つまり凪子が、あなたを愛して抱かれたがっていないのが口惜しいと?」
「!……」
 指摘された瞬間、自分が何を言っていたのか気づいた育真は愕然とした。
 本来魔との交わりについて否定するつもりであったのに、いつの間にか凪子が魔のために抱かれようとしている事を、悔しがっているような内容になってしまっていたのだ。
「大丈夫ですよ。この娘はあなたを愛しています。あなたが相手だからこそ、こうして嬉々として抱かれたがっているのですから。その上でわたくしとあなたが再び結ばれる事を喜んでいるのです」
「その事自体が、あなたが凪子に吹き込んだ誤った考えです。娘が父親に抱かれる事を喜ぶなどと……」
「しかしあなたは母親と何度も交わった。そしてその事を喜んでいたのではないのですか?」
「!……」
 それはその通りだった。
 当時は母だと思い込み、母が自分を受け入れてくれている事に喜びを感じていたのだ。
 そしてその事が偽りだと知った時の喪失感……。
「だがあれは母さまではなかった。あなただっ……あなたは母さまの中から居なくなり、私は母さまに酷い事をしてしまったと悔やんで……あなたは酷い人だ……幼かった私の気持ちを弄んで……母さまだと思い込んで抱いていた私を笑っていたのでしょう?」
「そのような事、あるはずがないでしょう? 先ほど凪子も申した通り、わたくしにとってあなたは息子なのですから」
「!……」
 その言葉に心臓が強く跳ねる。
 魔に息子と認められた事が嬉しかったからだ。
(馬鹿なっ……私はそのような……)
 否定しようとして否定しきれない自分に驚愕する。
「あなたは私の大切な息子です。愛しているのです。ですからこうしてまた、あの頃のように抱かれる事を望んでいるのですよ? 母として息子を愛するがゆえに……凪子に全てを話したのは、あの子が何も知らずに抱かれれば、その事を知ったあなたがまた悲しむと思ったから……わたくしは見ていましたから。あなたがずっと苦しんでいたのを……」
「!……」
 思わず目頭が熱くなる。
 魔は、いや、もう一人の母は分かってくれていた。
 優しく快楽へといざなってくれたあの優しい母は、自分の苦しみを分かってくれていたのだ。
「母、さま……」
「可愛い育真……あなたは優しい子ですね……」
 十四歳の頃のように呼びかけると、魔は強く抱き締めてくれた。
 その瞬間、当時何度も感じた母の温かさが蘇る。
 交わっている時には快楽もあったが、それ以上にこの温かさ、優しさに自分は浸っていたかったのだ。
 その感覚は産みの母からではなく、魔の母から感じていたものだった事が今ハッキリと分かった。
 自分は魔を愛している。
 母親として、そして、女としても……。
「さあ、いらっしゃい……あの頃のようにわたくしを抱くのです……また秘密を持ちましょう……」
 ドクンっ……。
 その瞬間、強烈な禁忌の想いが湧き起こり、震えるような背徳感を覚えた。
 意識は十四歳の頃に戻り、母と許されない秘密の交わりをするのだという興奮が高まっていく。
「母さまっ……」
 擦れる声で母の体を押し倒すと、唇に吸い付く。
 舌を押し込み、絡み合わせ、口内を刺激していくと肉棒が強く勃起した。
 そのまま白衣の前をはだけ、膨らみを顕わにする。
 十四歳の頃の記憶よりも小さな、というより成長途上の乳房には張りがあり、手で直接触れると滑らかな肌触りがあって心地良かった。
 桜色をした突起に口づけて強く吸うと、母は「あっ、あっ……」と可愛らしい声を漏らした。
 手で包み込めるほどの大きさしかない乳房は愛らしさを感じさせ、細い腰は折れてしまうのではないかと思えるほど華奢だった。
 以前の母は、もっとふくよかであったが、今の母は細身の体だった。
(十四歳なのだから当然か……って、私は何を……!)
 そこまで考え、今自分が乳房を貪っている体が、凪子の物である事を思い出す。
 魔の言葉に流され、つい昔のように抱いてしまったが、この体は娘の凪子なのだ。
 抱くなど許されないのである。
「わ、私は……ぐっ……」
 慌てて体を放そうとすると、下から強くしがみつかれる。
「母さま止めて下さいっ、抱けませんっ。この体は凪子なのですからっ……?」
 必死にふりほどこうとするが、恐ろしく強い力で押さえられ、離れる事が出来ない。
「父さま、抱いて下さい。わたくしは父さまならば嬉しいです……」
「な、凪子、なのか……?」
 幼さを感じさせる口調に、いつもの凪子だと悟った育真は力を抜いた。
「ええ、凪子です。父さまの娘の凪子です」
「ならば放してくれ。私はお前を抱く訳にはいかない」
「しかし母さまを、母さまをお抱きになりたいのでしょう?」
「いや、あれは気の迷いだ。昔を思い出し、ついしてしまっただけだ。許してくれ……」
「許すも何も、わたくしは父さまが母さまを抱く事には賛成です。その事にわたくしの体が使われる事も分かっていますから」
「それは間違っているのだ。お前はお前の意思で、お前自身として愛する男と結ばれるべきなのだ。このように誰かのために抱かれるなど間違っている」
「そんな事はありません。わたくしは、父さまに抱かれる事が嬉しいのです。何故なら今父さまが仰った愛する男とは、父さまの事なのですから」
「何を……」
 驚愕の言葉に目を見開く。
「わたくしは、幼い頃から父さまを、父さまだけを見て参りました。男女の事について知ってからは、父さまに抱かれ、父さまとの子を得たいとずっと夢見てきたのです……」
 信じられない事を言い出した凪子に、育真はどう応えれば良いのか分からなかった。
「そして母さまも大好きですから、母さまと二人一緒に父さまに抱かれ、愛され、子を得られる今の状態は、わたくしにとって素晴らしい事なのです。ですから父さま、わたくしを抱いて下さい。わたくしを愛して欲しいのです。わたくしの全てを父さまの物にして下さいっ」
 潤んだ瞳でジッと見つめ、強く抱き付いてくる凪子の初々しい態度に、育真は呆然とするしかなかった。
「このように凪子も申しておるのです。父親として、そして一人の男として、愛を受け入れる事は出来ませぬか? そしてわたくしの愛も凪子の想いに負けませぬよ? 抱いて欲しいのです。あの頃のように……」
 今度は母がそう告げ、大人の色香で迫ってくる。
「父さま……」
「育真……」
 幼い純真さと熟した色香が交互に迫り、そのたびに育真の中で興奮が高まり、肉欲が強まっていった。
(私は……)
 育真の頭は混乱の極みにあった。
 同じ体から別人の雰囲気と言葉を発せられ、その二人に性交を迫られているのだ。
 娘は抱いてはならないが、母は抱きたい。
 娘はまともな倫理観を持たせたいが、母とは禁忌を破る行為をしたい。
 してはいけない、だがしたい。
 頭がクラクラし、何も考えられなくなってくる。
 そうなると純粋な本能、そして感情だけが育真を突き動かす事になった。
 理性が駆逐され、肉欲が心と体を包み込んでいく。
「凪子っ、母さまっ……」
 育真は目の前にある少女の体を抱き締めると、二人まとめて口づけるつもりで唇を重ねていった。
 心の中では、娘と口付けている背徳感と、母の唇に久しぶりに吸い付いた幸福感が湧き起こっていた。
 今自分が抱き締めている相手は、娘であり、母であり、夢中になった女でもある存在だった。
 その訳の分からない認識が強烈な興奮を呼び起こし、凄まじい肉欲を生んでいた。
 組み敷いている肉体は、初々しい反応を示したかと思うと、次の瞬間にはこちらが導かれているような印象を抱かせた。
 一つの体の中に、少女と熟女の意識があり、それが交互に現れては育真を誘うのだ。
 実際に触れている肌は、十四歳の少女らしく滑らかで若さを感じさせるのだが、不意にまるで熟女の肌のような吸い込まれる感覚に変わるのである。
 それは錯覚であるはずなのだが、本当の事であるように感じられるため、育真は同時に少女と熟女、そして娘と母を抱いているような感覚になっていた。
「あっ、あっ……いいっ、いいぃっ……」
 可愛らしく喘いだと思えば、次には色っぽく悶える。
 されるがままに愛撫を受け入れていると思えば、こちらを誘導し、愛撫を指示するようにしてくる。
 唇を重ね、乳房を揉み、乳首を吸い、太ももを撫でさすり、体中を愛撫していく過程で、育真は混じり合う二人の女に翻弄されていった。
「父さまお願いです、ああっ……育真ちょうだい、ああんっ……」
 もう肉棒を入れずにはいられないと思った瞬間、二人からも求められた事に嬉しさを覚える。
(ああ、自分達は家族なのだ。だからこうして同じ感覚を……そしてこれから一つになる……)
 二人に対する強い愛情を感じながらズボンとパンツを膝まで下ろした育真は、パンティを脱がして細い両脚を左右に開くと、まるで女を知らなかった頃に戻ったかのような興奮に包まれつつ、娘、そして母の中へと肉棒を押し込んでいった。
 ズブリ……。
「やっ……」
「あんっ……」
「ぐぅ……」
 三人の声が発せられ、育真は家族が一つになった喜びを覚えた。
 肉棒は奥へと進み、途中、処女膜らしきものを破った事で凪子が苦悶の声をあげたが、母は嬉しげに微笑み、育真の体を抱き締めてきた。
「凪子、くぅ……気持ちいいぞ、うぅっ……母さまの中も久しぶりで、うっ……気持ちいいです……」
 二人の意識が入っているためなのか、凪子の体は、十四歳の処女のような反応を示したかと思うと、次の瞬間には交わりに慣れた熟女のような反応を示した。
 強烈な締め付けが起きた後には吸い込まれるような蠢きが起き、育真はその刺激だけで射精しそうなほどの快感に蕩けそうになりながら腰を動かし始めた。
「父さま、あぅっ……父さまぁ、ああっ……育真いいですよ、あっ……やはりあなたは素晴らしいです、あんっ……」
 凪子は可愛らしくすがるように抱き付き、母は誇らしげに脚を絡ませてくる。
「あっ、あっ、ああんっ……いいっ、いいです、いいのぉっ……」
 凪子の初々しい悶えと、母の色気のある悶えに育真の肉棒は猛り、腰の動きに力が入った。
 凪子に抱き締められ、母に脚を絡みつかせられ、二人に包まれる状態になりながら、育真は無茶苦茶に肉棒を叩き付けていった。
 そのたびに起きる快楽は絶品で、幼い少女の初々しい絡み付きと、熟れた大人の女の蕩けるような吸い込みに、育真の頭は快楽で一杯になった。
 涎が垂れ、目は虚ろになり、ただ気持ちの良さを求めて腰を動かしていく。
 擦れる肌と肌、触れ合う肉と肉の感触に、強い一体感を感じ、激しい幸福感を覚える。
 今自分は娘と母と一つになっている。
 親子として絶対的な幸せを得ているのだ。
 心も体も一つとなり、強烈な愛を交わし合っているのである。
 何と素晴らしい事だろう。
「凪子っ、母さまっ……」
 唇に吸い付き、舌を絡ませながら、強く抱き締め、腰を荒々しく動かす。
 そうしていると、凪子も母も唇を強く擦り、舌を吸い、抱き付きながら腰を蠢かせてきた。
 自分の動きだけでなく、二人の動きが加わる事で快楽は加速し、育真の射精感は一気に限界まで高まっていった。
「やっ、やっ、父さま、やぁんっ……わたくしもう、ああっ、わたくしもう駄目ぇっ……育真お願い、ああっ……そのまま、あぅっ……そのままもっと激しくぅっ……一緒に、あんっ……一緒にぃっ……」
 そしてそれは凪子と母も同じらしく、限界が来ている事を告げてきた。
 一度に二人の女を絶頂に導いている事に興奮が高まった育真は、一気に射精しようと腰の動きをさらに速めた。
「やんっ、やんっ、やぁっ……イくっ、イくっ、イくのですぅっ……ああっ、ああっ、ああんっ……父さまっ、育真っ、父さ育真ぁっ……やっ、あっ、やぁあっ、あっ、やぁっ、ああああああああああああっ!」
「うぁっ!」
 二人分の絶叫が響いた瞬間、膣内も恐ろしいほどに収縮を起こし、育真は耐えきれなくなって精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ……。
 ドクドクドクドクドクドクドクドクドクっ……。
 凄まじい勢いと量の精液が迸り、何度も何度も射精が繰り返されていく。
 そのたびに起こる快感に、育真は頭を朦朧とさせながら、愛する女の体を抱き締め、自分の精液を注ぎ込んでいった。
 終わりが無いのではないかと思えるほど射精をした後、しばらくしてようやく精を放ち終えた育真は、力を抜いて凪子と母の体に身を預けた。
 荒い呼吸が部屋に響き、外で小鳥が鳴いているのが聞こえてくる。
 ついにしてしまった。
 娘を抱いてしまった。
 その事に後悔と苦悩が湧き起こってくる。
 だがそれと共に喜びもあった。
 愛する娘、愛する母、二人を同時に抱き、一つとなって精を注ぎ込んだのだ。
 それは父親として、息子として、してはならない事であったが、そうであるがゆえに、男としての強い満足感があった。
 抱いてはならぬ女を抱き、己の物とした悦び。
 それは支配欲、征服欲を激しく刺激する事であった。
 何より交わりの最中の恐ろしいまでの気持ちの良さ、射精をした際の、溶けて消えてしまうのではないかと思えるほどの快感。
 それには以前、母の体で味わっていた時以上の素晴らしさがあった。
「気持ち、良かったですか?」
 まるで心を読んだかのように、母が呼びかけてきた。
 魔である母にとっては、育真の心の内などお見通しなのかも知れない。
「はい。やはり母さまは最高です」
 昔を思い出し、変わらぬ母の素晴らしさに感嘆しつつ応える。
「父さま、わたくしは? わたくしは?」
 不意に凪子が心配そうな顔をして尋ねてきた。
 女としての自分に対する評価が気になったのだろう。
「もちろん凪子も最高だ。お前はこのような面でも優れているのだね」
 あらゆる面で才覚のある凪子は、交わりにおいても才能があった。
「じゃあ、もっと抱いて下さい」
「え?……しかしそれは……」
 射精し、冷静さが戻ったせいか躊躇が起きる。
 一度抱いたとはいえ、やはり娘を抱く事には罪悪感があったからだ。
「良いではないですか。もっと親子で気持ち良くなりましょう?」
 母が述べた「親子」という言葉に心臓が跳ねる。
 自分は母と娘、両方を抱き、快楽を貪った。
 それはたまらなく心地良く、蕩けるような快感だった。
 罪悪感を感じるがゆえに、余計に気持ちの良さが高まったのだ。
 母の体、娘の体には、他人の体では味わえない淫靡さがあり、それをもっと味わってみたかったのである。
「ねぇ、父さまぁ……育真、いらっしゃい……」
 娘に可愛らしくおねだりされ、母に甘く誘われるともう我慢出来なくなった。
 育真は落ち着き無く服を脱ぎ捨て裸になると、その幼くも熟れた体を抱き締め、肉棒を一気に押し込んでいった。
「あっ……」
「やっ……」
「ぐっ……」
 途端、蕩けるような快感が脳天を貫くと同時に、親子三人の声が重なり、再び一つとなった事に喜びが溢れる。
 一方で「再び禁忌を破ってしまった」という恐れが湧き起こり、ゾクリとした背徳的な興奮が押し寄せてきた。
「くぅ……母さまっ、凪子っ……」
 性徴途上の乳房をギュッと掴み、腰を思い切り動かし出す。
「あんっ、あんっ、ああんっ……あっ、あっ、ああっ……」
 すると色っぽい声と可愛らしい声が交互に発せられ、自分が母と娘を同時に抱いているのだという興奮が湧き起こった。
 通常ならばあり得ない、母と娘を同時に抱く行為。
 それが今出来ているのだ。
 本来母と呼ぶべきではない魔を母と呼び、その魔との間に出来た娘の体を使って交わりを行う。
 何と恐ろしく、許されない行為を自分はしているのだろう。
 激しい背徳感と悦びが育真の心を包み込み、体を荒々しく突き動かした。
「はぁっ、はっ、はぅんっ……やぁっ、やっ、やぁんっ……」
 着崩れた白衣から覗く白い肌が眩しく、淫靡な桜色に染まっているのを見下ろしながら腰を強く叩き付ける。
 逃げるように動く体を引き寄せ、さらに強く肉棒を突き込むと、長い黒髪を乱して体をくねらせ、激しく喘ぐ姿に肉棒がさらに猛った。
「ああっ、はぅっ……やんっ、やっ……あっ、あっ、ああんっ……」
 体が前後に動くたびに、慎ましい乳房が揺れ、膣内がキュウっと収縮する。
 たまらない。
 何とたまらない体なのだろう。
 肉棒から伝わる感触もそうだったが、可愛らしさと淫蕩さを交互に見せるその喘ぎと悶えには、男の本能を強く刺激するものがあったのだ。
「あんっ、ああっ……育真っ、育真ぁっ……やぅっ、やっ、やぁっ……父さまっ、父さまっ……」
 母娘が甘く叫び、強くしがみついてくるのを抱き締める。
 荒々しく口づけ、舌を絡ませながら肌を擦り合わせていると、体中が快楽に満ち、頭が気持ちの良さで朦朧としてきた。
 それと共に母に抱かれ、娘を抱いている事から安堵感が湧き起こり、幸せな気分に浸った。
 自分は愛する母と娘を抱いている。
 肉棒を押し込み、愛する家族と繋がり、包まれているのだ。
 それは信じられないほどの幸福感であり、激しい快楽を感じさせる事だった。
「母さまっ、凪子っ……愛してる、愛してるぅっ……」
「育真っ、父さまっ、愛してます、愛してますぅっ……」
 愛を確認し合う事で、快感が一気に高まった。
 単なる快楽のための交わりでなく、愛情を交わらせてるのだという意識が、喜びとなって現れているのだろう。
 それは体の動きにも影響し、恐ろしいまでの速さで腰が動いていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……やんっ、やんっ、やぁんっ……育真っ、育真っ、育真ぁっ……父さまっ、父さまっ、父さまぁっ……」
 背中に腕が回り、腰に脚が絡んで、家族は一つになっていた。
 肉棒も、幼く熟れた膣襞と擦れ、吸い付かれ、強烈な快感を生んでいる。
 その事で射精感は一気に高まり、育真は精を放とうと、それまで以上に激しく腰を振っていった。
「あっ、やっ、あやぁっ……はぐっ、はぅっ、はぁんっ……もう駄目、あっ……もう駄目なの、ああっ……イくっ、イきます、あんっ……イくの育真っ、父さまぁっ……やっ、あっ、やぁあああああああああっ!」
「うぅっ!」
 母と凪子の絶頂と共に膣内が収縮し、その刺激に耐えられなくなった育真は精を放った。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 精液が迸るたびに脳を貫く快感が起き、その強烈な気持ちの良さに頭が朦朧としてくる。
 眼下では母と凪子が快楽に染まった顔を浮かべ、「あ……あ……」と吐息を漏らしていた。
 その様子に男としての満足感を得つつ、家族として一つになれた事に喜びを覚える。
 しばらくして射精を終えた育真は、母と凪子の体の上に倒れ込んだ。
 温かく柔らかな肉の感触にうっとりしつつ、荒い呼吸を整えていく。
「育真、素晴らしかったですよ……父さまぁ、気持ち良かったですぅ……」
 母が誇らしげに囁き、凪子が嬉しそうに抱き付いてくるのに喜びが溢れる。
 自分は母と娘を満足させる事が出来たのだ。
 何と嬉しい事だろう。
 喜びと共に肉棒も硬く大きくなり、また二人を抱きたくてたまらなくなってくる。
 未だ心の片隅では、母と娘を抱くことに禁忌の想いがあったが、逆にその事で肉欲が高まるのだから不思議だった。
「母さま、凪子……」
 育真が体を起こし、再び肉棒を押し込んでいくと、母と娘は嬉しそうに笑い、いやらしくも可愛らしい悶えを見せながら抱き締めてきた。
 その事に二人への愛情を強く感じつつ、育真は腰を激しく振っていくのだった。


「あっ、あっ、ああっ……」
 四つんばいになった凪子を背後から貫き、育真は勢い良く肉棒を叩き付けていた。
 あれから数ヶ月が経ち、その間親子は毎日のように交わっていた。
 少女の初々しさと熟女の甘美さを持つ凪子の体は、抱けば抱くほど魅力を増し、今や育真は、凪子を抱かずには居られない状態になっていた。
 元々娘として愛していた訳だが、今やすっかり女としても愛するようになり、交わり以外でも一緒に居なければ落ち着かないほどだった。
 少年の頃に恋い焦がれた母である魔に、凪子が似てきた事が影響しているのかも知れない。
 あれから少しして、魔は何故か表に現れなくなっていたのだが、凪子の雰囲気は日に日に魔に似てきていた。
 いや、元々似ていた事に、今まで気づかなかっただけなのかも知れない。
 何故なら幼い頃からの凪子の様子を思い返してみれば、魔の雰囲気に似ていたように思えたからだ。
 実際凪子にその事を尋ねてみると、魔に憧れていたため、似るように努力していたというのである。
 特に交わりに慣れてからの凪子は、色気が強まったせいか、魔にそっくりと言っても良かった。
 それまで足りなかった大人の女の雰囲気が増した事や、最初の交わりの際に、擬似的に魔の反応を経験した事が影響しているのかも知れない。
 さすがにまだ十四歳であったため、魔と同等の落ち着きは無かったが、大人の女としての魅力は十分に持っていたのだ。
 以前から大人びた少女であったが、それに磨きがかかった訳である。
 その事も育真が、凪子に娘に対する以上の愛情を感じてしまった原因だったろう。
 娘としても愛しているが、一人の女としても愛してしまっていたのだ。
「父さまっ、父さまぁっ……もっと、もっとお願いです、はぅっ……もっと強くぅっ……」
 振り返り、おねだりしてくる凪子の姿に興奮が高まった育真は、小さな尻を掴み、腰を叩き付けていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……いいっ、いいですっ、ああっ……父さまいいのぉっ……」
 突き込みに合わせて頭が仰け反り、長い黒髪が乱れるのに色気を覚える。
 顔は幼いくせに、雰囲気は熟女の赴きのある凪子は、そういう仕草をすると強烈にそそるのだ。
 膣襞も初々しさは残しつつ、時折蕩けるような刺激を与えてくるのがたまらず、益々腰の動きを速めてしまう。
「はぅっ、はっ、はぁんっ……それ、それをもっと、あぁっ……それ凄くいいです、やぁんっ……そうっ、それっ、やっ、やぅっ……それなのぉっ……」
 涙声になりながら激しく喘いだ凪子は、腕を崩すと上半身を布団に押しつけ、尻を高く掲げる体勢になった。
 その様子に色気を感じた育真は、それまで以上に肉棒を叩き付けていった。
「あっ、あっ、もう駄目、あんっ……もう駄目なの、ああっ……もう駄目ですぅっ……やっ、やっ、やぅんっ……」
 シーツを引き寄せ、頭を左右に振って喘ぐ凪子は実に可愛らしく、その愛らしい存在を自分が支配しているのだという事に喜びが溢れる。
 それと共に射精感が一気に高まり、育真は最後とばかりに思い切り腰を振っていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……イくっ、イくっ、イっちゃうぅっ……父さまっ、父さまっ、父さまぁっ……やっ、やっ、やぁああああああああんっ!」
「凪子ぉっ!」
 親子の絶叫が重なり、肉棒から精液が迸る。
 勢い良く放出される精液は、幼い膣に注ぎ込まれ、それを感じているらしい凪子は「あ……あぁ……」と甘い吐息を漏らしながら悶えた。
 育真はその様子を見つめながら、何度も何度も射精を繰り返し、しばらくして精を放ち終えると、ゆっくり布団の上に転がった。
 ハァハァという荒い呼吸が部屋に響き、親子は見つめ合うと抱き合い、唇を重ね合った。
 何と素晴らしいひとときだろう。
 愛する娘とこうしていると、それだけで幸せだった。
「父さま、あの……お話があるのですが……」
 しばらくして口づけを終えると、凪子が恥ずかしげな様子で告げてきた。
「何だ?」
「えっと、その……わたくし……父さまの子を……宿しました……」
「え……?」
 予想外だった言葉に、一瞬頭が真っ白になる。
 少しして意識を取り戻すと、それが何とも喜ばしい事であったため、嬉しさで一杯になった。
「そうか、私の子が……凪子と私の子が……素晴らしい、素晴らしいじゃないか……」
 本来であれば、父娘の間で子を作るなど許されない事であったが、近親婚を繰り返してきた一族としては問題ない事だろう。
 とはいえ、以前であれば育真個人としての苦悩があったに違いなかったが。
 何しろ少し前までは、母と娘を抱いたことに苦悩していたのだから。
 しかし今やそうした感覚は薄れており、何より凪子を一人の女として愛し始めていたため、これで堂々と結婚が出来る事に嬉しさが起きたのだ。
 長年近親婚をしてきた一族とはいえ、近親婚はあくまで子が出来てしまった際の処置であり、子が出来なければ普通の婚姻をしてきたのである。
 そのため凪子と結婚したいと思っていた育真としては、妊娠は実に喜ばしい事だったのだ。
「父さまに喜んでいただけて……わたくし、嬉しいです……」
 恥ずかしげに微笑みながら、凪子は体を寄せてくる。
「当然だ。私はお前が一番大切なのだからな……これで凪子、お前は私の妻になるのだよ。愛しているぞ」
「! 父さま……わたくしも、わたくしも父さまを愛しております……んっ、んんっ……」
 育真は凪子を抱き締めると、優しく口付けた。
 少ししてから唇を放すと、可愛らしい顔をジッと見つめる。
 そこには年齢にそぐわない色気のある顔があり、育真はその事で母である魔の事を思い出した。
「母さまはこの事を、もちろんご存じなのだよね? 出てきては下さらないのかな?」
「ふふ、もちろん知っておりますよ」
 その瞬間、凪子とは異なる雰囲気が目の前に現れた。
「母さまっ……」
 久々に現れた母に喜びが溢れる。
 凪子への愛おしさは変わらないが、やはり母には甘えてしまう意識があるからだ。
「さすがわたくしの子供達です。見事に素晴らしい体を作ってくれました。これならばわたくし達の新しい体としてふさわしいでしょう」
 母はそう告げると、満足そうに微笑んだ。
「もうそこまで分かるものなのですか?」
「ええ。出来かけの体に入ってみましたが、まさに自分の体のようでしたから。これならば何も問題はないでしょう」
「そうなんですか。それは良かった」
 母の言葉に安堵の想いと喜びを覚える。
 自分と凪子とで作った体が、母に気に入ってもらえた事が嬉しかったのだ。
「凪子の体はこれまでの中で最高でしたからね。わたくしの力がこれほど作用する体は今までありませんでした。元々凪子には能力者としての才能もありましたし、その事が影響しているのでしょう。何しろわたくしが何もせずとも、これだけの才能を開花させたほどですから」
「え? 凪子の力は、母さまが引き出したのではないのですか?」
「違います。わたくしは少しコツを教えただけ、後は凪子が自身で能力を伸ばしていったのですよ」
 それは驚きだった。
 てっきり凪子の能力の伸びは、母が助力した結果だと思っていたからだ。
「そして育真、あなたも同じです。あなたはわたくしと交わる以前から優れた力を持っていました。歴代の中でもかなり優れた力が元々あり、それがわたくしと交わった事によってさらに伸びた訳です」
 その通りだった。
 育真は幼い頃から優れた能力を持っていたが、それが母と交わった事で急激に伸びたのだ。
「つまりあなた達二人は親子でよく似ている訳です。体も才能も、そしてわたくしに対する想いも……わたくしの事が好きでしょう?」
『はい。大好きです』
 育真と凪子は同時に答えた。
「可愛いあなた達。わたくしの息子と娘……強烈な汚れに満ちた肉体を持つあなた達二人が交わる事で、ついにわたくし達の宿願が達成されます。凪子という優れた母胎に、育真という優れた精が注がれ、それが強い愛情に基づいている事で、わたくし達の新しい肉体が誕生するのです」
「愛情も必要だったのですか?」
 父から聞かされていた内容だと、単純に汚れた肉体のみを求めているように思えたため、その事が意外に聞こえた。
「愛情とは、強い執着でもあります。強い執着は大きな力となり、肉体を並以上に頑健にし、さらにより強い異能の力を扱える下地となります。ゆえにただ汚れているだけではわたくし達の肉体としては駄目なのです。そういう意味であなた達は互いを強く愛していますし、産まれてくるわたくしも愛してくれています。その事は、より肉体を素晴らしくするのです」
「そうだったのですか……」
「十四年前、凪子を得た後、あなたと母親を交わらせなかったのはそのためです。あの者は兄を強く愛しておりましたから、息子のあなたとでは駄目だったのです」
 確かに母は父を強く愛していた。
 何しろ息子である自分との交わりについて、未だに父に申し訳なく思っているくらいなのだ。
 魔の新しい肉体に強い愛情が不可欠であるというのなら、確かに母とでは上手くいかないだろう。
「何より汚れの強さという意味でも、これまで数百年に渡って積み重ねられてきた汚れは、あなた達で最高に至りました。母親との間に子を作り、その子と父親が交わった……この最終的な汚れの交わりにより、完全にわたくし達の肉体は出来上がった訳です」
「では母さまは、これから私達の子供として産まれてこられると……」
「ええ。わたくしだけでなく、育真、あなたの中に居るわたくしの夫と共にね」
「私の中に居る……」
 母の夫である魔が、自分の身に潜んでいる事は知ってはいたが、実感の無い育真には奇妙な事に感じられた。
「父さまも? わぁ、凄いですね母さま」
 凪子が嬉しそうに笑ったため、そのまるで魔と面識があるかのような口ぶりを不審に思う。
「凪子、お前、私の中の魔と会った事があるのか?」
「はい。何度かお話した事があります……あ、これは父さまはご存じなかったんでしたね。わたくしは、父さまの中のもう一人の父さまにも修行を見ていただいた事があるのですよ?」
「そんな事が……」
 考えてみれば、自分がこうして凪子の中の母と会話しているのだから、凪子が同じようにしていても不思議はなかった。
「あの人は表に出るのを嫌いますから、これまでも存在を感知された事はほとんどありません……ですが常にあなたを見守っておいでですよ」
 母にそう告げられ、自分のこれまでの行動が全て見られていたのかと思った育真は、少し恥ずかしくなった。
(!……こ、これは……)
 その瞬間、不意に育真の意思とは無関係に体が震えたためギョッとなる。
 続けて身の内に、何かが存在している感覚を覚えた。
 だがその事に恐怖はなく、逆に温かさが感じられた。
 そう、家族に対して感じるのと同じような温かさを……。
「おお、珍しい。あの人が存在を主張するなど……未来の父親への挨拶といったところですか?」
 母がそう尋ねると、育真の意思とは関係なく首が縦に振られた。
(!……)
 完全に自分の体が別の意思によって動かされた事に驚く。
 だが恐怖は無かった。
 まるでずっとそうしてきたかの様な安心感があったのだ。
 先ほどの凪子の言葉からすれば、何度か体を操られた事があるらしいのだから、そのせいで無意識の内に慣れていたのかも知れない。
「ふふ、面白い事ですね。これほど面白い事はいつ以来でしょう」
「母さまとても楽しそう」
「そうですね。こうして家族が存在を認識し合えたのが嬉しいのかも知れません。これまでそういった事は無かったですから」
 母は温かな笑みを浮かべ、実に楽しげに笑っている。
「でしたら父さま、もう一度繋がりましょう? 家族として愛し合うのです。いえ、一度でなく何度でも」
 凪子の言葉に体の中が熱くなり、肉棒が強く勃起した。
 身に潜む魔が賛同し、交わりを求めているのだろう。
「ふふ、そうしましょうか。さ、育真、抱きなさい。何度でも……」
「父さまお願いします」
 母に引き寄せられ、娘におねだりされ、育真は母娘の体にのし掛かっていった。
 その事を喜ぶように体が一瞬震える。
 恐らく父である魔も喜んでいるのだろう。
 その事に未だ慣れずにいるが、何やら家族が増えたような嬉しさを覚えた。
 愛すべき家族と一つになる。
 育真はその事に興奮と喜びを覚えつつ、母娘の体に肉棒を押し込んでいくのだった。


 部屋を覗いていた育真の父は、大きく溜息を付いた。
 目の前では息子と孫娘が裸で絡み合い、愛の言葉をかわしながらまぐわっている。
 その事自体は構わない事だった。
 父娘と言えども男女の愛を得る事に理解があったからだ。
 自分自身、妹と愛し合い、その結果として息子を得たのである。
 だが自分はあくまで妹を愛しているのであり、その体を乗っ取った魔に心を許した訳ではなかった。
 しかし息子と孫娘は魔を母として愛し、慕っている。
 すっかり魔にたぶらかされてしまっているのだ。
 魔は愛を語っているが、そのような感情があるとはとても思えない。
 あれは息子達を上手く利用するための言葉でしかないだろう。
 そして魔は、ついに己の新しい肉体が出来たという。
 本来ならば可愛い曾孫となるべき存在が、魔などという忌まわしいモノになるなど、悲しくて仕方が無かった。
 だがそれを防ぐ方法は何も無かった。
 例え無理矢理中絶させたとしても、魔は再び凪子を妊娠させるだけだろう。
 何より可愛い孫の凪子に、そのような辛い想いをさせる事は出来なかった。
 それに魔の誘惑をはね除けられなかった自分が、今更そのような事を出来る訳も無い。
(!……)
 そんな事を考えていると、不意に凪子と目が合った。
 いや、魔と目が合ったのだ。
 その目には見覚えがあった。
 普段は妹の振りをしていた魔が、時折見せた本性。
 心を凍り付かせ、恐怖を与える目だ。
 凪子の顔から表情が無くなり、形だけの笑みが浮かんでいく。
 激しい恐怖が湧き起こり、体に震えが走った。
 やはり魔は恐ろしい存在だ。
 このような相手とまぐわうなど、正気の沙汰ではない。
 だが育真はその変貌に気づかないのか、夢中になって凪子を、いや魔を抱いている。
 涎を垂らし、目を虚ろにさせ、時折呻き声を発しながら激しく腰を振っているのである。
 視線が合っても、こちらの姿が見えていないらしく、一心不乱に目の前の体を貪り続けるばかりだ。
 その様は、性欲に取り憑かれた獣そのものだった。
 今育真の頭の中には、凪子の体を抱く事しか無いのだろう。
 大人の男が、少女の白い肌を舐め回して柔肉を揉みしだき、腰をいやらしくくねらせながら幼い肉体を貪るその様は、強烈な卑猥さと汚らわしさに満ちていた。
 育真の動きに合わせて前後に揺れる凪子の小さな体は、少女らしからぬ淫猥な蠢きを見せ、甘くいやらしい吐息を漏らしつつ、父親である男の肉棒を咥え込んでいる。
 自らも腰を振り、快楽を求めるその姿は、男を誘う淫らさに溢れ、それに魅せられている育真は、益々腰の動きを激しくしていった。
 肉欲に狂ったその様子は、かつての自分だ。
 妹を抱きながら、魔をも抱き、魔の思惑通りに子を成してしまった自分。
 当時の自分もこうして妹の、いや魔の体に夢中になっていたのだろう。
 客観的に見ると、いかに自分が快楽に狂わされていたのかが分かる。
 何と見苦しく、淫らな様か……。
 だが当事者となると、それが分からないのだ。
 他人にどう見られようとも、目の前の女を貪り、精を放ちたくてたまらず、その事に一心不乱になってしまうのである。
 自分が経験してきた事であるため、現在の育真の状態は嫌というほど分かった。
同じ道を辿った息子は、同じように魔との間に子をもうけた。
 そしてこれから凪子の腹から産まれてくる子は、魔そのものとなる。
 何百年と魔が得ようとしてきた新しい肉体を、自分たちが与えてしまったのだ。
 それも嬉々として……。
 自分は表面上は魔を否定していたものの、とてつもない快楽を与えられる事で、心の奥底では認めていたに違いない。
 だからこそ「妹と区別が付かない」といった事を言い訳にして、抱き続けられたのだ。
 そして今息子は、表面上すら否定せず、全身全霊で魔を愛し、子を得、それが魔の肉体になる事を心底喜んでいる。
 これから魔が産まれ、現実に目の前に現れたとしたら、自分達は一体どうなってしまうのか。
 その事に強い恐怖と激しい懊悩を抱いた育真の父は、悲しげに溜息をつくと、息子の荒い呼吸と、孫娘の甘い喘ぎが響く部屋の前から去っていくのだった。












あとがき

 今回はちょっと段階を踏んで書いてみました。
「母親との間に出来た娘を抱く」というのと、魔に対する思慕というものを描きたかったもので。
 そのため、今までと違って母親に対する愛情よりも、魔に対して愛情を抱いてしまう感じにし、その上でああいった性格の娘を出して、魔の肉体が無事出来上がる様子を書いてみた訳です。
「魔を恐れていない状態であるがゆえに、肉体が完成した」ってのが何気にポイントになっているのですな。
 やはり積極的に協力してくれる事が上手くいくコツという事ですね(笑)
 ただそれだけだと何かラブラブで幸せな感じになってしまうので、最後に客観的な視点として前作の主人公である父親を出し、彼の視点から、二人がたぶらかされてああなっているという説明をさせてみました。
 まあ、普通に考えたら、「娘に取り憑いている化け物に惚れて、娘と子供を作り、その子供に化け物が宿るのを喜んでいる」なんてのは頭がおかしいとしか思えませんから。
 そういう意味で、この作品の主人公はかなりぶっ飛んだ状態になっている訳でありますわ。
(2010.7.13)



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