霊媒師の先祖


 一人の少年が書物を読んでいた。
 そこは周囲に様々な書物が保管されている部屋であり、書かれてある文字は古い書体のものが多く、十一、二歳と思われる少年が読むには不似合いなものばかりだった。
 しかし少年はその文字が読めているらしく、目の動きにはよどみないものがあった。
 単に文字を見ているだけとも取れたが、時折内容に関する独り言を呟いている点から、そうではない事が分かる。
 しばらくの間少年は、手近にある書物をいくつか読んでいたが、少しすると脇に置いてあった二冊の冊子を取り上げ、感慨深そうに眺めた。
 それはかなり古い物であり、記載されている日付を見ると、千年以上も昔の書物だというのが分かる。
 少年はその書物を、まるで自分と関わりがあるかのような懐かしい目で見つめ、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
 そしてそのまま片方の冊子を開くと中身を読み始めた。


 これは悔恨の書である。
 私が犯した過ちを告白したものだ。
 それだけの事を私はしてしまった。
 もし御仏の救いがあるとしたら、それを受け入れたいと思うが、果たしてその資格が私にあるのだろうか。
 慈悲深い仏であろうとも、私のような下劣な人間は救っては下さらないのではないか。そう思えるのだ。
 ゆえに私のしてしまった非道なる行いを、ここに書き記すことにした。
 別に救いを求めての事ではなく、ただ誰かに知ってもらいたいだけの事だ。
 生きている間に知られるのは辛いため、こうして書き残すことで、死後に罪を知ってもらう事にしたのである。
 我が子孫、もしくは全く関係の無い者が読むかも知れぬが、どうかこの哀れで外道な男の悔やみを聞いてもらいたい。
 それで救いが訪れる訳でもないが、私は書かずにはいられないのだ。


 あれはそう、私が十五歳の時のことだ。
 父の仕事の手伝いで村の長に会った私は、そこで気に入られ、長の屋敷に住み込みで働く事となった。
 その事に家族は喜びつつも、私ともう会えなくなるのではないかという心配をしていた。
 何故なら長というのは、村において禁忌の存在とされていたからだ。
 年齢は二十代後半で、男でありながら異様に美しい容姿をしており、周囲の人間を嫌がおうにも惹き付ける魅力に溢れている一方、どこか心が冷えるような恐ろしさを感じさせる雰囲気を持った人物だった。
 そういった点から、長は村において絶対的な恐れと、それに基づく権力を得ており、村人は長に絶対的に従い、何があろうと逆らう事はなかった。
 例え殺されたとしても、誰も文句を言うことはなかったのだ。
 ゆえに長の屋敷で働くという事は、名誉な事であると同時に、「何があってもおかしくない」という意味を持つ事でもあった。
 実際、長の屋敷で働いていた者の中には、行方不明になった者が多くいた。
 誰もが表だっては言わないが、そうした者達は長に殺されたのではないかと考えられていた。
 そういった噂が起きるほど恐れられている一方、村人は熱烈に長を求めている部分もあり、まさに正と負の魅力といった、強烈な吸引力を持つ存在だったのである。
 ところが私には、その事が分からなかった。
 長に対し、魅力も恐れも抱かなかったのだ。
 確かに美しい容姿だとは思ったが、それで皆のように夢中になる事はなく、恐ろしさも特に感じなかったのである。
 そのせいか私は、他の者とは異なる態度をとっていたようで、長は何故かその事を気に入り、屋敷で働くように言ってきたのだった。
 この村において長の言葉に逆らう事など出来ないため、私は翌日から長の屋敷で働く事になった。
 その頃はその事に特に思うところもなく、農作業よりも楽だろうとか、自分が手伝わなくなったら家族は大丈夫だろうか、とかいった事ばかり考えていた。
 ただそんな私でも、唯一喜びを覚えた事があった。
 長の妻である奥方様が、夫と同じく美しい容姿をしていた事だ。
 年齢は二十代後半だったが、それを思わせぬ若々しさと妖艶さに溢れており、村のどんな女とも違った、天女のような美しさを持っていたのである。
 私はそんな奥方様に強く惹かれた。
 これほど美しい女性を時折見る事が出来るとは、何と幸せな事だろう。
 すでに長と夫婦である以上、自分と結ばれる望みは全く無いが、それでもその美しい顔を見られるだけで幸せだった。
 しかし私のそうした喜びを理解してくれる者は誰もいなかった。
 何故なら私以外の使用人は、長に対するのと同じように、奥方様に熱狂的に惹かれ、また恐れていたからだ。
 私のように単純に、美しい女を愛でる感覚で奥方様を感じる者は居なかったのである。
 皆、全てを捧げる勢いの熱意や強烈な恐れを抱いており、私のような軽い気持ちの者などいなかった。
 奥方様はさほど表に出ないため、村の中では知られていなかったが、そういう意味で、屋敷の中では長と同等の存在感を持っていたのだった。
 そして私は、やはり他の使用人のような態度を取らなかった事から、長に気に入られたのと同じく、奥方様にも気に入られる事となった。
 美しい女性に優しく微笑まれる事が、これほどの喜びになるのかと驚くほど、奥方様に笑みを向けられた時は震えが走った。
 他の皆はこれで熱狂的になるらしかったが、私はそうはならず、そういう所が長達に好まれた理由のようだった。
 美しい長達に好意を持たれ、与えられた仕事も特に辛くはなく、私は毎日を楽しく過ごすことが出来ていた。
 しかし、自分が恐ろしい屋敷へ住む事になってしまったのだと理解するまでに、それほど時間はかからなかった。
 屋敷で同室の、年齢も近く、気の合う少年が、ある日行方不明になったのだ。
 そしてその現場を、私は見たのである。


 少年は居なくなる少し前、大きな失敗をし、その事で長に仕置きをされる事をずっと恐れていた。
 実際、長は特に怒ることもなかったため、私などは大丈夫だと慰めていたのだが、長を盲目的に恐れている少年には意味の無い事だった。
 いつまでも長の仕置きを恐れ続け、眠れない日々を過ごしていったのである。
 そんなある夜、隣で寝ていたはずの少年が、不意に部屋から出て行ったため、心配になった私は後を追った。
 あれほど気に病んでいては、もしや自害でもするのではないかと思ったのだ。
 少年が向かったであろう方向へ早足で歩いていくと、しばらくしてようやく見つける事が出来た。
 少年は月明かりに照らされた庭に佇んでいたのだ。
 だがすぐに一人でない事に気がつく。
 もう一人、いや、二人が少年の傍に居た。
 長と奥方様だった。
 そしてその瞬間、私は恐怖に包まれた。
 目に映ったのが、あまりにも恐ろしい光景だったからだ。
 長が少年の首筋に食らいつき、血を滴らせ、奥方様がそれを眺めているという、何とも心が凍るような光景だったのである。
 その美しい顔に表情は無く、それはとても人のモノとは思えなかった。
 長の喉もとが動くたびに少年の体が小刻みに震え、唇の端から血が垂れていく。
 長は少年の血を吸っていたのだ。
 長夫婦は、人の血を吸う、恐ろしい化け物だったのである。
 私はガクガクと震え、今まで何故この恐ろしさが分からなかったのだろうと後悔した。
 他の村人達の感覚こそが正常で、私はおかしかったのだ。
 震える脚を叱咤し、私は見つからないように気をつけながらその場から逃げ出した。
 しかし視界から長達が消える一瞬、冷たい目がこちらを見たように思えた。
 見つかったかも知れないという恐ろしさと、次は自分が殺されるのではないかという恐怖から、私は四つんばいになりながら部屋へ戻った。
 頭から布団を被り、ブルブル震えながら朝が来るのを待つ。
 その間に長達が現れ、自分の首筋に食らいついてくるのではないかと怯えながら……。
 だが気がつけば朝になっており、何事も無かったかのようにその日が始まった。
 恐ろしさに怯えながら長達に会ったりもしたのだが、彼らはいつも通りであり、あの月明かりの下で見た冷たい表情はどこにも無かった。
 あまりに通常と変わらぬ様子に、夢だったのではないかと思ってもみたが、少年が消えた事がそれを否定した。
 他の使用人達は、少年が居なくなった事を全く気にして居らず、その事がさらに恐怖を感じさせた。
 おそらく彼らは、少年がどうなったかを分かっていて口にしないのだ。
 それがこの屋敷における決まりなのだろう。
 唯一長だけが、少年がどうしたか知らないかと尋ねてきたが、それはまるで「知っているのだろう?」と告げているかのようで、心臓が止まるかと思った。
 恐る恐る知らない旨を伝え、その事を長が否定しなかった事に安堵した。
 その場はそれで済んだが、私の心は恐怖に染まったままだった。
 少年は殺されたのだ。
 次は自分かも知れない。
 そう思うと屋敷から逃げ出したい想いに駆られるが、村は長の支配下にあり、実家へ逃げても意味はないだろう。
 村の外へ逃げたとしても当てはないし、逃げたところですぐに捕まるのではないかという恐れがあった。
 さらに逃げなかった事で生かしてもらえているのかも知れないと考えると、逃げた瞬間に殺されるのではないかという恐怖もあり、私は結局逃げることなく屋敷に留まり続けた。


 そうして落ち着かない日々を過ごしていたある夜、一人きりになった部屋で眠れずにいると、不意に廊下の障子が音もなく開いた。
 恐怖から鋭敏になっていた感覚が、誰かが部屋へ入ってきたのを伝えてくる。
 恐る恐る視線をそちらへ向けると、そこに立っていたのは奥方様だった。
 あの時のように顔に表情は無く、ジッとこちらを見下ろしている。
 起きていると気づかれてはならないと思うのだが、体は恐怖から震え出した。
 いよいよ自分も殺されるのだと思い、強く目を瞑る。
 だが続けて聞こえて来た音に、私は恐怖とは異なる感覚を覚えた。
 しゅるしゅるといった布が擦れる音、つまり着物を脱いでいる音が聞こえたのだ。
 奥方様が肌を晒している。
 そう認識した瞬間、目が勝手に開き、視界に入った光景に股間の一物が激しく震えた。
 そこには真っ白な、美しい裸体があった。
 これまで村の女を何人か抱き、男とは異なる体の美しさに感嘆したものだったが、今目の前にある裸体は、それとは比較にならない素晴らしさがあった。
 まさに天女。
 これまでも奥方様に対してそう考えた事はあったが、この裸身の美しさは、天女と呼ぶのにふさわしかっただろう。
 均整の取れた細身の肢体に、驚くほどに膨れた乳房。
 月明かりに照らされて映える、あまりにも白い肌。
 その雪のような肌に絡みつく、長く綺麗な黒髪。
 美しいとしか形容出来ないその姿に、私は恐怖も時間も忘れて見惚れた。
 奥方様は、私の様子に満足げに頷くと、そのまま布団の中へと身を入れてきた。
 そして私の体を包むようにして抱き締めてくると、小さく笑った。
 その瞬間、私の中で何かが爆発し、奥方様にのし掛かっていった。
 狂ったように首筋を舐め、吸い、豊満な乳房を荒々しく揉みしだく。
 これまで幾人かの女性経験はあったが、それが吹き飛ぶほどに奥方様の体は魅惑的だった。
 初めて女の体に触れた時以上の興奮と悦びが心と体を突き動かし、落ち着かない状態で貪るように奥方様の体を味わっていく。
 擦れる肌は滑らかでありながら、しっとりとした感触をもたらし、こちらの体を受け止める肉は、心地良い吸い込みと、程良い弾力を感じさせた。
 白桃のごとき胸の膨らみに吸い付き、舐め回すと、まさに果実に食らいついたかのような甘みが広がり、それは股間の一物を嫌というほど高ぶらせた。
 この美しい肉の膨らみは、触れているだけで気持ち良く、舌を這わせればそれだけで頭が甘美さに包まれた。
 薄桜色をした突起に吸い付き、強く吸い上げると、奥方様の唇から甘い吐息が漏れ、その事に悦びが溢れた。
 今自分はあの奥方様を、天女を抱いているのだ。
 叶わぬ夢だと思っていた体を手にしているのである。
 白い太ももに舌を這わし、何ヶ所も吸い付いて脚の先まで舐め回すと、それだけで頭がクラクラしてきた。
 何と美しい肉体であり、素晴らしい体なのだろう。
 それを自分が好きなように貪っているのだと思うと、肉棒が痛いほど勃起し、我慢出来なくなった。
 落ち着き無く奥方様の肉付きの良い両脚を開き、秘所へと肉棒を押し込んでいく。
 亀頭が膣穴に吸い込まれた瞬間、蕩けるような快感が脳内に溢れ、頭の中が真っ白になった。
 湿り気と圧迫感が素晴らしいその場所は、とんでもなく気持ちが良かった。
 肉棒にウネウネと膣襞が絡み付き、精を吐き出させようと吸引してくるのに、蕩けるような快感を覚える。
 まさに極楽浄土とは、この場所の事を言うのではないだろうか。
 もう何も要らない。
 ここにずっと居させてくれれば、それで私は幸せだ。
 そんな想いが浮かぶ。
 だがそこからさらに極楽は広がっていった。
 奥方様が腰を動かしたのだ。
 その瞬間、とてつもない快感が走り抜け、意識しないまま腰が動いて前後運動を開始する。
 その後はとにかく腰を無茶苦茶に振りまくり、それによって起きる快楽に私は染まっていった。
 眼下では、奥方様がいやらしくくねり、淫らに悶えており、その淫靡な姿に頭がおかしくなりそうになった。
 白い肌が上気して桜色に染まり、腕と脚が蛇のように私の体に絡みついて逃がさないようにしてくるのに、ゾッとするような淫猥さと悦びを覚えた。
 腰を強く動かすと、奥方様の美しい顔がいやらしく歪み、顎が何度も仰け反り、形のいい唇が半開きになって激しい喘ぎを発しつつ、赤い舌が上唇を舐めるのに興奮が高まっていく。
 肉棒を包む膣は、蕩けるような感触をもたらし、全てをその中に注ぎ込みたくなる衝動を呼び起こした。
 この世にこれほど気持ちのいい事があるとは信じられなかった。
 今まで自分が知っていた女体、交わりなど偽りのものだ。
 これこそが、この天女の体こそが本当の女体であり、天女を抱く行為こそが本当の交わりなのだ。
 自分は男として最高の女を手に入れた。
 だから放ちたい。
 思い切り。
 己の証をこの天女の中に……。
 狂わんほどの快楽と、蕩けるような甘さの中で、気がつけば私は精を放っていた。
 強烈な甘い刺激が脳天を貫き、恐ろしいまでに長く続く射精と、それに伴う強い快感に心と体が包まれる。
 息も絶え絶えに射精を終えると、私は奥方様に身を預けた。
 体が、熱い肉としっとりとした肌の感触に覆われ、徐々に何かが体の中に浸透してくる感覚を覚える。
 目の前には奥方様の、美しくも恐ろしい笑みがあり、私は恐怖に包まれると同時に、強烈な肉欲を覚えた。
 股間から落ち着かない衝動が湧き起こり、力を失っていた肉棒が勢い良くそそり立つ。
 私は獣のような咆吼をあげると、痛いほどに勃起した肉棒を、再び奥方様の中へ押し込み、そのまま何度も何度も貪っていくのだった。


 目を覚ますと朝になっており、隣には誰も居なくなっていた。
 一瞬夢だったのかと思うが、周囲には私の放った精液の匂いが満ちており、さらに布団の上に、奥方様の長く美しい髪が落ちている点から夢ではない事が分かる。
 何という素晴らしい一夜だったろう。
 あれほどの素晴らしい肉体、気持ちのいい体は初めてだった。
 あの快楽をまた味わえるのならば、何をするのも厭わないだろう。
 そう思う一方で、自分がとんでもない事をしてしまった事も理解した。
 夢中になって抱いてしまったが、相手は奥方様、長の妻なのだ。
 私は使用人の分際で、主の妻に手を出してしまったのである。
 それは殺されても当然と言える事だろう。
 だが元々殺される身であった事を考えれば、今更な想いもあった。
 というか、何故奥方様はその身を与えて下さったのか。
 長の妻として、一使用人に体を許すなど、とんでもない不貞行為だ。
 しかも殺す予定の男が相手となると、益々訳が分からなかった。
 私はその事を疑問に思ったが、それ以上に昨夜の奥方様との蕩けるような記憶がいつまでもくすぶり続け、どうでも良くなっていった。
 そしていつの間にか、昨夜までは強くあった長夫婦への恐怖が薄れている事に気がつき、愕然となった。
 早く逃げなければならないのに、何をしているのだろう。
 当てなど気にしている場合ではない。
 とにかく村から逃げるのだ。
 少年が殺されている姿を思い出し、再び恐怖心が高まった私は、逃げる事を固く決意した。
 だが実際に逃げる事は出来なかった。
 何故なら逃亡の予定とした日の夜、また奥方様が部屋を訪れたからだ。
 そして同じように私を誘い、身を任せてきたのである。
 奥方様の体に溺れた私は、逃げる事など忘れ去った。
 この天にも昇る気持ちの良さを味わえるのなら、死んでも構わないと思ったのだ。
 そうした欲望が、命を守る事よりも上になったのである。
 私は狂気に満ちた意識のまま、天女の柔肉を貪り、女肉に押し入る快楽に夢中になった。
 包み込んでくる肉の心地良さに意識は朦朧とし、涎が垂れ、狂ったように腰を動かしまくった。
 奥方様の美しい顔が快楽に歪み、赤みを帯びた唇から甘い吐息が漏れるのに、信じられないほどの悦びを覚える。
 天女の淫らな姿に激しく興奮し、獣のようにむしゃぶり続け、私は数え切れないほどの精を注ぎ込んでいった。
 そうして快楽に染まっていると、気がつけば朝になっており、奥方様はまさに天女のごとく消えていた。
 その素晴らしい体験を思い出すと、それだけで一物が高ぶり、私は強い幸福感に染まりながら日々を過ごす事となった。
 だが何日か経つと快楽状態に染まっていた頭も冷めていき、徐々に恐ろしさが復活したため、再び逃げ出す事を考えたりもしたのだが、そのたびに奥方様が現れ、私の逃げる気力を奪っていった。
 そうした事が数日ごとに繰り返され、次第に私は逃げる事を諦めるようになっていた。
 実際このままで居ても殺されないかも知れないし、こうして奥方様を抱き続けられるのならば、それで幸せではないかと思ったのだ。


 そんなある日、屋敷の外で仕事をしていた私は、不意に背後から羽交い締めにされ、物陰に引きずり込まれた。
 助けを呼ぶために声を出そうとしたが、口を塞がれている訳でもないのに何故か声は出ず、さらに体も強く押さえられている訳でもないのに動かなかった。
 その恐ろしい状況に恐怖しつつ、少しして体を放された私は、振り返って犯人の姿を見た。
 どれほど凶悪な顔をした男が居るのかと思いきや、そこに居たのは、何とも美しい一人の女性だった。
 年齢は二十代前半だろうか、その女性は驚いている私に乱暴を詫び、続けて驚くべき事を告げてきた。
 この村に、人を食い物とする「魔」という存在が居る事を……。
 それはすなわち長夫婦の事であり、この村は魔によって支配されていると言うのだ。
 確かに長夫婦には妖しげな雰囲気があったし、少年の首に噛みついていた姿を考えれば、魔という存在だと言われても違和感はなかった。
 女性には異能の力があり、そうした魔を滅ぼす旅をしているそうで、先ほど私を動けなくしたのもその力の一端らしい。
 そしてこの村においても魔を滅ぼそうと思っていたが、魔の潜む屋敷には特殊な結界が張られていて、中に入る事が出来なかったのだという。
 その結界は、許可された者と一緒であれば通る事が出来るため、その許可された人間である私に、中へ連れて行って欲しいと言うのである。
 そこで私は躊躇した。
 確かに長夫婦は恐ろしい。
「魔」なのかも知れない。
 だが果たしてそれでも、この女性を屋敷へ連れて行って良いものだろうか。
 使用人として、主人を害しようとしている者を案内するなど、許されない事ではないだろうか。
 そうした想いが湧き起こり、そしてそれは、不意に頭に浮かんだ奥方様の痴態、私を快楽へと誘った交わりの記憶によって確固たるものへとなっていった。
 天女である奥方様に危害を加える者など排除すべきだ。
 この女は許されざる存在である。
 突如強烈な怒りが湧き起こり、そのまま女性を取り押さえようと体が動く。
 だがその瞬間、女性がこちらに手をかざして何か呟いたかと思うと、体がギクシャクと止まり、急速に怒りが治まっていくのが感じられた。
 何事が起きたのかと驚く私に、女性は「魔によってかけられていた淫の呪縛を解除した」と告げてきた。
 どうやら私は、奥方様を抱く事によって、長夫婦に逆らえなくなる術をかけられていたらしい。
 その術が解除された今、私の中には長夫婦への強烈な恐怖が湧き起こり、心が恐ろしさで一杯になった。
 当然のごとく私は女性に協力する旨を申し出、屋敷の中へと案内する事にした。
 女性は屋敷の中へ入るや否や、素早い動きで奥へと進んでいった。
 それは女性とは思えぬ、いや男であってもあり得ないほどの凄まじい速さであり、女性が異能の力を持っている事を理解させた。
 慌てて私も走り出し、少しして追いついた時には、すでに女性と長夫婦が対峙している状態だった。
 そして女性が手をかざしながら何か呟いた瞬間、長夫婦の体が粉々に砕け、地面に散らばっていくのが見えた。
 それは本当に一瞬の出来事だった。
 あの恐ろしさを感じさせた長夫婦が、まるで土人形のようにあっさりと砕けたのだ。


 その後、女性はしばらく村に留まる事となった。
 どうやらあまりにも呆気なく倒せてしまったため、本当に長夫婦を滅ぼせたのかいぶかしんでいるらしい。
 村に残るとなると、長夫婦を倒した者として命を狙われる危険性もあったが、どうやらそれは杞憂に終わった。
 村人の長達に対する熱狂的な想いは、その死と共に消えてしまったらしく、誰一人として仇討ちをするといった行動に出るものはいなかったのだ。
 というより、崇め恐れる存在が突如居なくなった事で放心している、と言った方が正しかったろう。
 村人にとって長夫婦というのは、自分達が依存するための対象であったため、その存在が居なくなった事で、どうすればいいのか分からなくなっていたのだ。
 そのため新しく依存する対象を欲した村人は、女性を新しい長として迎える事を願うようになった。
 長夫婦を倒すほどの力の持ち主となれば、崇め恐れる存在として十分だったからだ。
 何より女性は滞在中、その異能の力で村人の病気や怪我などを治し、困りごとを解決していったため、益々そうした期待が高まった。
 私は女性を屋敷へ案内した経緯もあって、女性の世話役のような立場となり、相談事を持ちかける村人の対応をする事になった。
 そんな事を繰り返していく日々を過ごす内に、次第に私は女性に惹かれている自分を感じるようになった。
 元々美しい容姿に惹かれてもいたが、一人の女性としても愛情を感じるようになったのだ。
 出来れば妻にしたいと思うようになっていたのである。
 そしてある日、意を決して想いを告げた私を、女性は受け入れてくれ、彼女は私の妻となった。


 それから十五年が経ち、私達の間には二人の子供が出来た。
 妻は村の長となり、私はその補佐をして平和に幸せに過ごす日々が続いていった。
 そう、あの日の夜までは……。
 仕事で疲れた妻をゆっくり寝かせてやろうと、別の部屋で寝ていた私は、何故か眠る事が出来ず、しばらく布団で横になったままでいた。
 すると不意に障子が音も無く開き、誰かが入ってきた。
 視線を向けると、それが十四歳になる娘である事が分かった。
 娘は黙ったまま布団に近づいてくると、ジッとこちらを見下ろしてきた。
 月明かりに娘の顔が見え、その表情を見た瞬間、私は恐怖に取り憑かれた。
 娘は無表情であり、それは十五年前に、奥方様がしていたのと同じものだったからだ。
 その瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、「奥方様の呪い」だった。
 裏切った私を許さない奥方様が、娘の体を使って復讐に来たのだと思ったのだ。
 そしてそれを証明するかのように、娘はあの時の奥方様のごとく、着物をゆっくり脱いでいった。
 しゅるりと着物が床に落ち、現れた裸身は、見事なまでに美しかった。
 細身の、未だ子供らしさを残す体つきの中で、胸だけが微かに膨らみを見せており、その幼い体を覆う肌は雪のような白さを持っていて、そこへ長く美しい黒髪がまとわりついている様は、何とも言えない色気を感じさせた。
 そのまるで、奥方様の幼い頃はこうであったのではないかと思わせる娘の肢体に、私はあろう事か欲情した。
 娘の体に興奮してしまったのだ。
 娘に対して何を想っているのだろうと自分を叱るが、そんな意思を無視するかのように、目はいやらしく娘の体の線を追っていく。
 この艶やかで張りのある肉体を思い切り抱き締めてみたい。
 そう思った瞬間、娘が布団の中へと身を入れてきた。
 そしてそのまま抱き締めてくると、小さく微笑んだ。
 その瞬間、私の中で何かが爆発し、娘にのし掛かっていった。
 まるであの時の再現だと思いつつ、もし本当に奥方様が娘に取り憑いているのだとすれば、逆らう事など出来なかった。
 もう二度と裏切る事など出来なかったからだ。
 何より強烈な肉欲は、娘の体を抱かないで居ることを許さなかった。
 私は膨らみかけた乳房を荒々しく揉みしだき、薄桜色をした可憐な乳首に吸い付いていった。
 娘の小さな唇から甘い吐息が漏れ、その可愛らしい声に興奮が高まっていく。
 擦れる肌は滑らかで心地良く、潰れる肉はまだ硬さを持っているものの、女としての柔らかさを十分に感じさせた。
 妻に似て美しい顔は、愛撫を加えるごとにいやらしく歪み、求めるように差し出された手を掴んでやると、もっとして欲しいとばかりに強く引き寄せてきた。
 愛する娘の痴態は、他の女とは異なる魅力があり、父親として許されぬ行為をしているという想いが背徳的な悦びを生んだ。
 やがて我慢が出来なくなり、肉棒を幼い秘所へと突き込むと、娘は苦悶の表情を浮かべ、強く抱き付いてきた。
 私は娘の初めての男となったのだ。
 その事に強い満足感を覚えると同時に、取り返しの付かない事をしてしまったという恐怖が湧き起こる。
「奥方様の呪い」などと言い訳して、自らの欲望を娘にぶつけてしまったのだ。
 確かに最初は奥方様のように感じたが、今眼下で破瓜による苦痛の声を上げているのは、どう見ても娘でしかなかった。
 自分は娘に肉欲を覚え、それを発散させる言い訳として、亡き奥方様を利用したのだ。
 そんな悔恨が頭をよぎるが、それ以上に股間から押し寄せてくる快感は強かった。
 肉棒が入り込んだ膣内は、初めて男を受け入れたとは思えない具合の良さで、早く精を吐き出せとばかりに蠢いている。
 それは妻との交わりの際の感触と似ており、やはり娘なのだと強く意識した。
 よく見れば、今見せている表情にしても妻そっくりであり、奥方様の面影を感じたのは気のせいだったとしか思えない。
 やはり私は、奥方様に強い恐怖と思慕を抱いているのだろう。
 安易に死へ導いてしまった悔恨が、そうした想いを抱かせているのかも知れない。
 そのような想いを抱きつつ、腰を激しく振っていくと、娘は次第に甘い声を発するようになった。
 破瓜の痛みが無くなったのだ。
 私の腰の動きに合わせて頭が仰け反り、幼い乳房が揺れ動くのに興奮が高まっていく。
 女を感じさせるが、まだ幼さを残す喘ぎ声と、いやらしいが、やはり初々しい痴態に、私の我慢はあっという間に限界に達した。
 脳天を貫く快感と共に、娘の中へ思い切り精を放っていく。
 荒い呼吸を繰り返し、愛する娘を自分の物とした悦びに浸りつつ、それと同時にとんでもない事をしてしまったという恐怖を覚えた。
 そもそも何故娘はこのような事をしてきたのだろう。
 夜に父親の部屋へ忍び入り、誘惑するなど娘のする事ではなかった。
 私がその事を尋ねると、娘は「父さまを愛しているから」とだけ告げてきた。
 愛しているから抱かれたかった、と。
 単純な理由と言えば単純すぎたろう。
 娘はいつの頃からか、私を男として見、抱かれる事を夢見ていたらしい。
 それは狂ったとしか言えない想いだったが、肉欲に流されて娘を抱いてしまった父親に比べれば、素晴らしい理由と言えたかも知れない。
 私は娘をたしなめ、今後はしてはならないと約束させようとしたが、それは無理だった。 
 駄々をこねる娘が必死になって抱き付いてきた瞬間、私の中に恐ろしいほどの肉欲が湧き起こり、気がつけばのし掛かってしまっていたのだ。
 父親として娘をたしなめるべきであるのに、率先して抱いてしまったのである。
 抑え切れない肉欲は、私の意識を父親よりも男にしたのだ。
 何より娘の体は幼いながらも魅力的で、抱かずにはいられなかったのである。
 いや、幼いからこそ、かも知れない。
 娘の肉体には、大人の女には存在しない、性徴途上であるがゆえの魅力が存在していた。
 そのまだほとんど汚されていない体を無茶苦茶にしたい。
 美しい雪原を踏み荒らしたくなるのに似た衝動が、激しく湧き起こっていたのだ。
 幼い肉体を思うがまま自由にしたい。
 自分色に染めたい。
 そうした激しい欲求が湧き起こっていたのである。
 私は自分を抑える事が出来ず、結局一晩中娘の体を貪り続けたのだった。


 それ以来、娘は機会を見つけては私を誘惑してきた。
 情けない事にその誘いに逆らえない私は、何度も何度も娘を抱いてしまった。
 だがしばらくしてその事に決別するべく、私は娘を結婚させた。
 さすがに夫を得れば、私を誘惑する余裕もなくなるだろうと思ったのだ。
 しかしそれは浅はかな考えだった。
 娘の行動は何ら変化しなかったのである。
 それどころか、「夫の目を盗んで愛し合う事は素晴らしい」とまで言い出す始末で、以前より余計に私を求めてくるようになった。
 障害を作った事で、娘の気持ちをさらに高ぶらせてしまったのだ。
 だが高ぶったのは娘だけではなかった。
 私自身も、夫を得た娘を抱く事に強い興奮を覚えていたのである。
 他の男にやったはずの娘を、密かに自分が抱いている。
 その事が強烈な悦びとなり、肉欲も激しく高まったのだ。
 間抜けなことに、以前よりも強く娘を求め、夢中になって抱くようになってしまったのである。
「娘は自分の物だ」という執着が、結婚させた事で強まってしまったらしい。
 そうして娘を抱いていく内に、さらに私は後悔する事となった。
 娘が妊娠したのだ。
 その事を聞かされた瞬間、私はすぐに自分の子だと理解した。
 娘は夫にも抱かれていたが、何故かそう確信したのだ。
 私は強い苦悩に襲われ、自分が何という事をしでかしたのかと今更ながらに後悔した。
 しかし後悔は、行動に繋がらなかった。
 私は娘の誘いを断る事が出来ず、結局延々と娘を抱き続けたのだ。
 結果として、娘との間に幾人もの子を作った。
 後悔を生かすことなく妻を裏切り続け、娘との肉欲に溺れる日々を過ごしていったのである。


 以上が私の過ちの告白だ。
 私の人生は、裏切りと肉欲にまみれたものであり、良識ある人間であれば唾を吐きかけたくなるものだろう。
 ゆえにこれは、生きている間は誰にも告白出来ない事なのだ。
 私は臆病で、度胸の無い人間なのである。
 だが良心は存在する。
 弱い良心だが、その良心が苦痛の声をあげるため、この手記を残す事にしたのだ。
 誰かに読んでもらいたい、と思いつつも、誰にも読まれず消えてなくなってもらいたいとも思う。
 悔恨を書き上げた私は、それで満足した。
 後はこの書が、私が生きている間に誰にも読まれぬ事を願うばかりである。


 少年は、持っていた冊子を閉じると、小さく息を吐いた。
 続けて傍にあったもう一冊を取り上げた。
 それは今まで読んでいた冊子と同じ時代に書かれたもので、内容的にも似たような部分があった。
 だが先ほどのものが手記であったのに比べ、こちらは日記のようだった。
 少年はパラパラとめくった後、興味を惹かれた箇所で目を留め、そこから読み始めた。


 あの少年の妻となってからしばらくが経った。
 思えば何故結婚などする気になったのか不思議だった。
 この村には魔を滅ぼすために訪れ、あの少年とは魔の住む屋敷へ案内してもらうだけで縁は切れるはずだったのだ。
 それがいつの間にか惹かれ、結婚の申し込みを受け入れるまでになってしまったのである。
 あの少年、夫を愛していないとは言わない。
 むしろ強く愛していると言えただろう。
 だが何故そこまで強く愛するようになったのかが分からないのだ。
 愛に理由など無い、と聞いた事はあるが、本当にそういうものなのだろうか。
 理由は無くとも、きっかけくらいはあるものではないのか。
 だが私には、そのきっかけすら思い浮かばないのだ。
 あるとすれば、初めて夫と結ばれた日、好きだと告げられ、覆い被さってきた夫を、何故か受け入れてしまった事くらいだろうか。
 あの時、逆らえない自分を感じたのである。
 異能の力を使えば、夫の動きを封じる事が出来たにも関わらず、ただ「止めて欲しい」「いけない」と呟くのみで、弱々しい抵抗をした程度なのだ。
 その様な行為が男を余計高ぶらせる事は、それまでの経験で知っていたにも関わらず、私はまるで誘うかのようにそうした行為を繰り返したのである。
 そして一旦抱かれてしまってからは、強烈に夫を求めるようになった。
 夫との交わりは、それだけ素晴らしかったからだ。
 夫の男の子(おのこ)に貫かれた瞬間、その充実感と気持ちの良さに、私は一瞬意識を失った。
 膣内を擦りあげるようにして侵略してくる夫の男の子(おのこ)に、私の体は蕩けさせられたのである。
 それまで幾人か男を知っていたが、これほどまでに素晴らしい男の子(おのこ)の持ち主はいなかった。
 夫が動くたびに、まるで気持ちの良さを感じる神経の全てを擦りあげられるような感覚が走り抜け、それだけで私は何度も達した。
 男の子(おのこ)を突き込まれれば、全てを支配されたかのように震え、引き抜かれれば、全てが奪い取られるかのように悲鳴をあげた。
 まさに心と体を蹂躙されたと言っていいだろう。
 夫の動き一つで私はどうとでもなり、夫のしてくる事に悦びを感じ、もっとして欲しいと求めた。
 自意識が目覚めて以来、人に甘える事無く生きてきた私が、可愛らしい声で喘ぎ、おねだりをしていったのだ。
 今思い返すと何と恥ずかしい事をしていたのだろうと思うのだが、夫に抱かれている最中は、そうせずには居られぬほど依存し、夢中になっていたのである。
 そうやって私は夫に蹂躙されつづけ、身も心も委ねる喜びを知った。
 ゆえに交わりの際のそうした想いが、愛情となっていったと考えれば一番しっくりくるだろう。
 何より今は夫を愛しているのだから、きっかけなど確認しても意味の無いことと言えるかも知れない。
 そうであるのにこの様な事を思うとは妙な事だった。
 幸せ過ぎるため、逆に不安に駆られているのだろうか。
 何しろ私は今、妊娠しているのだ。
 夫との子を得たのである。
 異能の力を持って産まれた私が、人の妻として、そして母親として生きられるとは思ってもみなかったため、その事で少々神経質になっているのかも知れない。
 もっと気を楽にせねばお腹の子に影響してしまうだろうから、今後は気をつける事としよう。


 子供達が生まれてから大分経った。
 重い病気にかからずに育ってくれている事を嬉しく思う。
 村では幾人も子を失っている母親がいたため、自分は何と幸せなのだろうか。
 娘は十四歳、息子は十一歳となり、仲も良く、何も問題は無かった。
 今日あの恐ろしい事を知り、自らも同じ事をしてしまうまでは……。
 村人からの頼まれごとを処理し、家へ帰った私は、息子に相談を受けた。
 夫と娘の事で、どうすればいいのか分からないと言うのだ。
 何か喧嘩でもしたのだろうかと、息子が案内する部屋へ行き、微かに開いた襖から隣の部屋を覗き込んだ私は、そこで恐ろしい光景を見た。
 夫と娘が、裸でまぐわっていたのである。
 しかもすでに何度もまぐわっている事を匂わせる会話をしている点から、これが初めてではないのだろう。
 何という事だ。
 真面目で善良な夫が、よもや娘とまぐわっているなど信じられなかった。
 子供達が産まれてから、夫との交わりの回数は極端に減り、最後に抱かれたのはいつだったか覚えていない。
 それは年齢からくる性欲の減退だとばかり思っていたのだが、今目の前で見せられている夫の動きは、精力に溢れ、力強さを感じさせた。
 雄々しい夫の男の子(おのこ)が娘の秘所を貫き、喘がせている様に、突如強い嫉妬が生まれる。
 あの男の子(おのこ)は私の物だ、という想いだ。
 実の娘に嫉妬するなど愚かしいと思いつつ、女として男を奪われた憎しみは、娘に対する愛情以上に強いものがあるらしい。
 私は抑えられない嫉妬の炎を燃え上がらせながら、しばらく夫と娘のまぐわいを見つめ続けた。
 だが少しして不意に違和感を覚え、意識を戻すと、息子が抱き付いているのに気がつく。
 忘れていたが、ここには息子も居たのだ。
 幼い息子にこのような光景を見せている訳にはいかないと、部屋から連れて出ようとすると、息子は強く抱き付き、切なげに見つめてきた。
 そしてそのまま体重をかけてくると、私を押し倒してのし掛かり、呼吸を荒げながら体を擦りつけてきた。
 いや、体ではない。硬くなった男の子(おのこ)を擦りつけてきたのだ。
 その事に驚愕しつつ、あのようなものを見せられれば当然の反応かも知れないと思い、また息子が考えていた以上に成長していたと妙な事で喜びを覚えた。
 だがこのままの状態では良くないだろうと体を起こし、何とか離れようとしたが、息子はしがみつくようにして離れてくれない。
 いけない事だと告げ、離れるように言うものの、息子は夫と姉もしているのだから、自分もしたいと主張し、乳房を強く掴んできた。
 その瞬間、体に快感が走り抜け、力が抜けてしまった。
 その隙に息子は、私の着物の合わせを開き、乳房をさらけ出すと直接揉んできた。
 拙いが荒々しい刺激に、私は思わず体を震わせてしまった。
 息子とはいえ、久しぶりに味わう男の愛撫に体が悦びを覚えたのだ。
 そして幼い口が発する、「母さまの体、凄く綺麗」「母さまの体、柔らかい」「母さまの体って気持ちいい」といった賛嘆の言葉に、女としての悦びが溢れた。
 乳首が舐められ、思い切り吸われると、脳天に気持ちの良さが響いた。
 息子は落ち着かない様子で乳房を揉み、乳首を吸い、夢中になって私の体を貪っており、その姿に赤子の頃に乳を与えていた記憶が蘇った私は、強い愛情を覚えた。
 ああ、息子に体を求められるというのは、何と幸せな事なのだろう。
 母親としての喜びが溢れ、もっと息子に体を触れられ、求められたくなってくる。
 息子の顔を愛おしく見つめながら、「私を知って」「私を味わいなさい」「私をもっと好きにして良いのですよ」といった想いに包まれていく。
 息子になら何をされても構わない。
 もしこれ以上の事を望んできても、許してしまおう。
 そんな想いが湧き起こる。
 だが実際息子が私の脚を開き、男の子(おのこ)を押し込もうとしてきた時には躊躇した。
 母子の交わりは許されないものだ、という想いが強くあったからだ。
 乳房を揉み、乳首に吸い付くまでは赤子の頃にもした事だが、秘所に男の子(おのこ)を入れるのは、男女の行為であり、母と息子がすべき事ではなかった。
 私は恐れおののき、「止めなさい」「いけません」と言いながら、必死に体を放そうともがいた。
 だが息子はそれによって益々高ぶり、乳房を強く掴んできたため、その痛みを伴う刺激に、私は抵抗を止めてしまった。
 また私は愚かな事をしていたのだ。
 あのように拒否の言葉を述べるのは、ただ男を高ぶらせるだけだと知っているのに、何故か言ってしまったのである。
 まるで自分自身が、無理矢理犯されるのを求めているかのように……。
 私はそういう女なのだろうか。
 無理矢理犯されるのを好む女なのだろうか。
 そんな苦悩を抱きつつ、異能の力で息子を縛る訳にもいかず、ただ興奮を高めるだけの抵抗をし続けていると、不意に視界に息子の焦る顔が見えた。
 男の子(おのこ)をなかなか入れる事が出来ず、困っているのだ。
 その瞬間、私の中に強い母性が湧き起こった。
 この子は夫とは違う。
 まだ女を知らない幼い少年なのだ。
 たまたま淫靡な光景を見たために、抑えきれない衝動を得てしまっただけで、それを何とか発散したいと苦しんでいるだけなのである。
 ならば母親として、それを何とかしてあげるべきではないだろうか。
 幼い劣情を、優しく処理してあげるべきではないだろうか。
 そうした母親としての気持ちが強まり、抵抗の意識が緩んだせいだろうか、不意に男の子(おのこ)が膣穴にハマる感触を覚えた。
 いけない、と思った時にはもう遅く、男の子(おのこ)が入り込んでくる。
 息子はようやく辿り着いた女の穴に嬉々とした表情を浮かべ、奥へと男の子(おのこ)を押し込んできた。
 そのまるで体の中の全てを擦りあげるようにしてくる存在感に、私は顎を仰け反らせ、床に爪を立てた。
 まだ子供だと思っていたが、これでは夫の男の子(おのこ)と同じではないか。
 すでに十二分に女を満足させられる力を持っているのだ。
 その事に驚きつつ息子を見ると、そこには何ともだらしなく、そして喜びに溢れた顔があった。
 息子は、私の体で快感を得ている。
 初めての女である私の体で……。
 そう思った瞬間、強烈な嬉しさが湧き起こった。
 息子は私で女を知ったのだ。
 他の女ではない、母親である私の体で……。
 そう意識すると、股間に強烈な痺れが走り抜け、幸福感で一杯になった。
 それは以前、夫に抱かれていた時にも感じていたものだったが、今のそれはさらに強いものに感じられた。
 やはり息子は自分が産んだ存在であるため、愛おしさが違うのだろう。
 愛する息子が自分の中に入り、気持ち良くなっている。
 自分と一つとなって共に悦びを得ている。
 そうした一体感が、たまらなく嬉しさと悦びを生んだのだ。
 ああ、今自分は幸せだ。
 私は息子を強く抱き締めると、その雄々しい男の子(おのこ)を引き込むように腰を押しつけた。
 擦れる膣内の感触に、私は快楽の吐息を漏らし、目の前で息子がうっとりとした表情を浮かべ、今まで聞いた事のない雄の喘ぎを発しているのに、ゾクリとした興奮を覚えた。
 息子は男なのだ。
 雄なのだ。
 そして私は女であり、雌だった。
 このまま突き動かされたい。男の子(おのこ)で思い切り擦りあげられたい。
 そうした想いで心を一杯にする一方、口では「駄目よ、いけません」「止めなさい、私達は親子なのですよ」といった心にも無い言葉を発してしまう。
 だが今考えれば、それは無意識に行った誘いだったのだろう。
 母親として受け入れる訳にはいかないと理解しつつ、敢えて受け入れてしまう状況に快感を覚えていたのだ。
 だから息子に襲って欲しい。
 母を犯して欲しい。
 禁忌を破り、女として抱いて欲しい。
 私は息子の中にある男、雄に抱かれたがったのだ。
 そして息子は私の期待通り、強く腰を動かし始めた。
 幼い顔を申し訳無さそうに、気持ち良さそうに歪めながら、「母さまご免なさい。でも僕、したいんです」「母さまとこうしてると、気持ち良くてたまらないんです」と叫びながら、荒々しく腰を振っているのである。
 その動きは拙いながらも私の弱いところを強烈に刺激し、ただ突き込まれているだけであるのに、おかしくなりそうなほどの快感を与えてきた。
 息子は何と素晴らしいのだろう。
 こんな男に毎日抱かれたらどれほど幸せか。
 私の中の女は歓喜にまみれ、「こんな事をしてはいけません。親子なのですよ」「これは許されない事です。そんな動きをしては駄目」と叫びつつ、そうした言葉とは裏腹に、腕を背に回し、脚を腰に絡めて息子を求めた。
 言葉と行動の相反する私の様子に、息子は益々猛り、強く男の子(おのこ)を突き込んできた。
 蕩けるようなその動きに私の心は激しく揺さぶられ、ついに「いい、もっと……もっとして……」と、初めて息子の行為を受け入れる言葉を発してしまった。
 母親として、言葉だけは絶対に受け入れる内容を発すまいとしていたのだが、あまりに強烈な快楽が、私の中の女を前に押し出してしまったのだ。
 その言葉に息子は歓喜し、私への感謝を述べながら、さらに激しく腰を振っていった。
 耳に響く「母さま大好き」という愛の言葉。
 私はそれを聞いているだけで幸せだった。
 そしてその言葉と共に押し寄せてくる快楽に、私は息子の女となっている自分を感じた。
 少しして、息子が快楽の呻きを漏らしつつ体を硬直させ、精を放つ姿を見た瞬間、私の中の何かが弾けた。
 一瞬意識を失いつつ、体の中に注がれてくる息子の熱い迸りを感じていると、たまらない幸せを覚える。
 全てを吐き出し、身を預けてきた息子は、幸せそうに微笑み、私への愛を告げてきた。
 私もそれに応え、息子を愛する言葉を述べると優しく抱き締め返す。
 そのまま二度目の行為に及ぼうとした際、隣の部屋から夫の呻きと、娘の喘ぎが聞こえて来たが、もう気にならなかった。
 私には息子がいる。
 それでいいではないか。


 あれから何日経ったろう。
 私は毎日のように息子に抱かれていた。
 息子から求めてくる事が多かったが、はしたなくも私から求める事もあった。
 実の息子に男を感じ、抱かれる事に幸せを感じるなど、異常としか思えなかったが、私はそれで満足していたのだ。
 女の幸せとは、男に抱かれてこそだと思うようになっていたのである。
 そもそも夫と結婚する決意をしたのも夫に抱かれたためであったし、そういう意味で、息子に抱かれたのだから息子の女になる事が自然に思えたのだ。
 無論息子との関係は公に出来ない事ではあったが、これは家の中の事であり、他人に知り得る事ではなかったため、私達は許されぬ行為を続けていった。
 夫は私と息子の関係に気づいていたようだったが、何も言わなかった。
 自らも娘を抱いていたためだろう。
 そしてその事を詫びるかのように、時折私を求めてきた。
 私も夫婦としての愛情を繋ぐ気持ちで夫に抱かれた。
 そうして私達夫婦、そして子供達は、家族としての絆を歪んだ形で存続させていったのだ。
 しかし問題は起きた。
 私が息子の子を妊娠したのだ。
 本来であれば、夫と息子のどちらが父親か分からないはずだったが、何故か息子の子であると確信出来た。
 女の勘と言うべきものだろうか、もしくは息子の私に対する執着の強さを考えると、そうとしか思えなかったのである。
 このままお腹の子を産むのは、夫に対する裏切りの存在を世に放つ事になったため、私は悩んだ。
 すでに息子との事は割り切っていたつもりだったが、やはりどこか後ろめたい気持ちがあったのだろう。
 いや、その後ろめたさがあるゆえに、息子との行為に燃えてしまったのかも知れない。
 何しろ初めて息子に抱かれた時、夫が隣の部屋に居る状況で抱かれたあの時、私は最高に興奮していたのだから。
 そして裏切りの証拠である赤子を出産する事で、さらに興奮は高まるのではないかと思うと、その暗い快楽に私は身を委ねる事にした。
 愛する夫を裏切り、愛する息子の子を産む。
 何と許されない妻であり、母親だろうか。
 だが夫も許されない夫であり、父親だろう。
 何故なら私が裏切りを決意したすぐ後に、娘も妊娠したと告げてきたからだ。
 娘はすでに結婚していたが、お腹の子の父親は夫以外あり得なかった。
 何故かそう確信出来たのだ。
 私達夫婦は、自らの子供と子をもうけるという、恐ろしい行為をお互いしていたのである。


 妊娠してから気づいた事があった。
 息子の変化だ。
 以前までは、荒々しく私を求めて来たのだが、それが急に無くなったのである。
 まるで憑き物が落ちたかのように普通の状態になり、求めてきても以前のような強引さは無くなり、ただ甘えるようにして求めてくるようになった。
 今比喩として憑き物と書いた訳だが、それが比喩でなかった事が最近分かった。
 息子の中に別の存在を感じたのだ。
 私を抱いた後、息子は急に感謝の言葉を述べてきたのだが、その様子は、普段の息子とは異なり、まさに別の人格を思わせる雰囲気だったのである。
 そしてそれはやがて、どこかで感じたことのある、強い気配を持つモノとして認識された。
 十数年前に、この村へ来た時に感じた気配として……。
 そう、あの長だった魔と、同じ気配だったのだ。
 息子は魔に取り憑かれていたのである。
 そして私は即座に理解した。
 これは魔の計画だったのだと。
 あの時、魔の体はあまりにも簡単に崩壊した。
 まるでそうなる事を待っていたかのように、あっさりと崩れたのだ。
 偽物ではないかと疑うほどに、それは簡単過ぎたのである。
 だが何度調べてみても本物の魔の肉体である事が分かったため、当時の私は、倒せたのだと無理矢理思い込む事にした。
 しかしそれは間違いだった。
 魔は、己の肉体を新しく得るつもりだったのだ。
 おそらく何かしら理由があって、彼らには新しい体が必要であったため、私にわざと倒された振りをしたに違いなかった。
 そして魂だけの存在としてどこかに潜み、産まれてきた子供達に取り憑いたのだ。
 子供達の体を、自らの新しい肉体とするべく……。
 そこまで私が考えた時、不意にそれに同意するかのように息子が頷いた。
 その顔は、人とは思えない無表情になっており、体からは魔の気配が強く感じられた。
 魔が隠れるのを止め、表面に現れたのだ。
 冷たい笑みを浮かべた魔は、私の推測を肯定した。
 どうやら彼らの体は、当時限界を迎えていたため、新しい体が必要となっており、そのための母胎として、異能の力を持つ私が選ばれたらしい。
 異能の力の血筋は、彼らの新しい体にとって必要な資質であるためだ。
 そして本人に自覚はないが、実は夫にも異能の力があったため、私達の間に産まれる子の体は、彼らにとって都合の良いものになっていたのである。
 そのために魔は、肉体を滅ぼされた後、私と夫の体に潜み、互いを惹かれ合う様に仕向けたらしい。
 私が夫に初めて抱かれた時、何故か抵抗せずに受け入れてしまったのも、私の中に潜んでいた魔の仕業だったのである。
 何とも間抜けな話ではないか。
 意気揚々と魔を滅ぼしたつもりが、その魔の隠れ家として自らの体が使われ、その事を今の今まで気づけずにいたのだから……。
 そして結果として私は、魔の新しい肉体を作り上げてしまった。
 だがその新しい肉体となった子供達の体は、魔にとってあまり居心地の良いものではなかったらしい。
 彼らにとって相性の良い体とは、近親の血肉の交わりによる汚れに満ちた肉体だそうで、他人同士の交わりによって出来た体は適さないのだそうだ。
 それゆえ魔は、今後相性の良い体が出来上がるまで、私達一族を近親同士で交わらせ続ける事にしたと告げてきた。
 つまり夫が娘を抱き、私が息子に抱かれる事になったのも彼らの仕向けた事であり、さらにこれから産まれてくる子供達、子孫達も、近親の交わりを強要されていく事になるというのだ。
 その事におののく私に魔は、「人では味わえない快楽を与えてやったのだから、それくらい良いだろう」と述べて笑った。
 息子なら決してしないその冷たい笑みに、私は今まで自分が抱かれていたのが、息子とは異なる男だったと気づいて恐怖を覚えた。
 無論息子にも抱かれていたのだろうが、この魔も私を抱いていたのに変わりはないのだ。
 そしてその事を理解しても、すでに息子、いや魔の与える快楽に染まっている私には、今後も抱かれる事を拒否する事は出来ないだろう。
 それほど魔の与えた快楽は、私の中で大きな存在となっていたからである。
 おそらく今度産まれてくる子も、成長した後に肉親との交わりを強要され、そこで味わう快楽に夢中になっていくに違いない。
 強要と言っても、あれほどの快楽だ、自ら望んで受け入れてしまう状態になるのは、そうした経験をした私にはよく分かった。
 結果私達一族は、魔のための新しい肉体を作る事に励むようになり、魔のために生きる存在となっていくのかも知れない。
 そうならないで済むことを強く願うばかりである。


 そこまで読んだ少年は、先のページをパラパラと見た後、満足したように冊子を床に置いた。
 そして大きく息を吐き出すと、楽しげな表情をし、これからどうしたものかという風情で周囲を見回した。
「あ、何だ来てたのか」
 部屋の入り口の人影に気づいた少年は、驚いたように声をかけた。
「うん、何か熱心に読んでたから、声をかけなかったんだ」
 少年と同じ年頃、そして瓜二つな顔をした少女は、そう告げると近くに寄ってきた。
「つい夢中になってね。うちの一族は面白いなぁ、って……」
 少年は楽しそうに笑いながら、自分の読んでいた冊子を掲げた。
「それって何?」
「開祖の日記と、開祖の夫の手記さ」
「え? そんなのがあったの? 確か父さまは無いって言ってたと思ったけど……」
「それがあったんだな。というか隠してあった。それを見つけた訳」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ父さまが知らなくても当然だね」
「取り合えず読んでみたけど、こりゃ隠したくもなるとは思ったよ。お祖父様辺りが読んだら卒倒しちゃうかもね。魔との関わりが凄く書かれてあってさ、それがまた強烈で。何とも快楽漬けの日々ってやつでさ」
 少年は冊子をパラパラめくると、苦笑しながら床に置いた。
「ふ〜〜ん、うちの御先祖様は、昔から同じ様なもんだったって事か」
「そういう事だね。近親相姦に染まった一族な訳だよ。まあ、魔の生まれ変わりだなんて言われている僕らからしたら、まるで僕らのせいだって言われているみたいに思えてくるけど」
「本当はどうだか分からないもんね。単に性欲と節操が無いだけの一族かも知れないし」
「そうそう。だから僕なんかも、こうして双子の姉を襲っちゃう訳だ」
 少年は、そう言いながら少女の体を抱き寄せると、首筋に舌を這わせた。
「やっ……もう、何急にさかってるの。昔の本を読んで何興奮してるのよ」
「いやぁ、興奮する内容だったからさ」
 苦笑気味にそう告げながら、少女のまだ膨らみの薄い胸を服の上から優しく撫で回す。
 それは何とも慣れた手つきであり、十一、二歳の少年としては異常に思えるものだった。
「興奮って……あれって古い本でしょ? そんなんで興奮するの? あ、こら馬鹿、あんっ……」
 服の上から乳首を摘まれた少女は、頭を仰け反らせると甘く喘いだ。
 その様子も愛撫される事に慣れたものであり、二人がそうした行為を何度もしている事を伺わせた。
「脳内で官能小説風にアレンジして読んでたんだよ。だから興奮したの」
「何馬鹿なことやってるのよ。わざわざそんな事してどうするの」
「その方が楽しく読めるからさ。そうじゃなきゃあんな古い日記、堅苦しくて読めたもんじゃない……それより最近また胸が大きくなってきたんじゃないか? こういう膨らみかけってのは興奮するよなぁ」
 少年は少女の服を捲り上げると、ほんのりと膨らんだ乳房に唇を寄せ、乳首を軽く吸った。
「あっ、駄目って……ちょっと、ここでする気ぃ?」
「そう、ここでする気。言ったろ、僕は興奮しているのだ」
 舌で乳首を舐め回し、指先で胸を摘むようにして揉んでいく。
「やっ、あっ……ったく、いくらいつもしてるからって節操無さ過ぎ。それに昨日散々母さまを喘がせてたくせに、まだ足りないだなんて性欲異常すぎだぞ」
「しょうがないじゃないか。あれは母さまがしてもらいたがったんだから。誰かさんが父さまの精力搾り取るから、母さまが満足出来なくなっちゃってるんだよ。僕はその尻ぬぐいをしているだけさ」
「だってしょうがないじゃない。父さま私に夢中なんだもん。それに私にしても、あんな風に甘えられたら、可愛くて断れないし。っていうか、断る気もないけど」
「父さまは昔からそうだからなぁ。まあ、僕的にも母さまを可愛がれるからいいけどね」
 それぞれが親と肉体関係を持っている事を平然と語りながら、少年達は互いの体に触れ合った。
 会話の内容はあまりに異常な事なのだが、彼らはまるで当たり前の事であるかのように話していた。
「そういう訳で、入れるからね? 僕はもうしたくてたまらないのだよ」
 少年は興奮気味にスカートを捲り上げ、パンティを脱がすと、自らもズボンとパンツを下ろし、少女の細い両脚を左右に広げると、あっという間に肉棒を押し込んでいった。
「あぅんっ……もう、入れちゃってぇ。いつまで経ってもこういう所は落ち着きが無いんだからぁ……」
「それだけ我慢できないんだよ。こうして入れてると、くっ……凄くいいしさ……やっぱり双子だからかな。凄く具合が、良くて……うっ、たまらないんだ……」
 少年は小さな腰を前後に動かしながら、気持ち良さそうに呻いた。
「あんっ、やっ……それは私も、あっ……そうだけど、やっ……父さまのより具合いいし、あんっ……こうして突かれてると、はぅっ……それだけでもうっ……」
 少女は頭を仰け反らせ、それまでの憎まれ口が嘘のように可愛らしい声で喘いだ。
 実際少女にとり、少年の肉棒は最良の刺激物だった。
 父親と交わる時にも快感はあったが、少年と繋がった時の良さは、それとは比較にならなかったのだ。
 ゆえに無理矢理抱かれる状態になっても、最終的にはこうして受け入れてしまうのである。
「そういや、初めての生理はまだ来ないの?」
「やっ、あんっ……まだ、だよ、あぁっ……そこ、そこいい、あんっ……そこもっと、ああっ……お願いぃっ……」
「ここだね。こう?」
「そう、そう、そこだよぉっ……いいっ、いいの、それいいっ……やっ、やっ、やぁんっ……」
 少年の腰つきに、少女はたまらないといった様子で喘ぎ、涎を垂らした。
「いつになったら僕たちの子供を作れるようになるかなぁ」
「あんっ、あっ、ああっ……もうすぐだと思う、けど、やっ……クラスで生理来てる子、結構いるし、ああっ……」
 十一、二歳の子供が会話するには不似合いな内容を話しつつ、二人は激しく腰をぶつけ合った。
 いや、不似合いといえば、セックスしている事自体がそうなのであるが。
「最初の子供は男の子と女の子、どっちがいい? 僕は女の子がいいんだけど」
「ああんっ、あっ……私は男の子、あぅっ……絶対男の子だよぉっ……あっ、ああっ……」
「お互い自分の子供とヤりたいって事だよね。僕らはホント似ているよ」
「しょうがないじゃない、あっ……私達は双子、やっ……なんだからぁ、ああっ、あんっ……」
 少年達は見つめ合うと、可笑しそうに笑った。
 その様子だけ見れば、年相応の姿だろう。
 しかし実際しているのはセックスであるし、話している内容は「双子の姉弟の間で子供を作り、生まれてきた子とセックスをする」というあまりに異常な事だった。
 しかし少年達にとって、それはいつものこと。日常の一部なのだ。
 近親婚を伝統とし、肉親同士で子を成してきた一族の人間として、当然の行為をしているだけなのである。
「ああっ、あんっ……私もう、ああっ……私もう駄目、あんっ……限界、あっ……限界だよぉっ……」
「うぅっ……そんな締められたら、くっ……僕もっ……このまま一気に……イく、からっ……」
 少女の膣内の収縮に刺激された少年は、最高に気持ち良く射精しようと、それまで以上に腰を激しく振っていった。
「やっ、やっ、やぁっ……イくっ、イくよ、ああっ……もうイっちゃう、あんっ……わたしっ、わたしっ、わたしぃっ……あっ、あっ、あぁああああああああんっ!」
「うぅっ!」
 少女の叫びと共に少年は精を放ち、二人は湧き起こる快感に身を委ねた。
 幼い肉棒から幼い膣へ精液が注ぎ込まれ、少年少女は体を震わせながら快楽に浸っていった。
 容姿は幼いながらも、セックスに慣れたその姿は、まるで長年連れ添った夫婦のような雰囲気があった。
「ふぅ……ああ、気持ち良かったぁ……やっぱりこうして姉弟でするセックスって最高だよね」
「まあ、そうだね。僕らほど相性が良い存在というのも無いだろうし。何しろ一卵性だしさ」
「同じ卵から別れた二人だもんね。そういう意味ではロマンチックかも……」
 少女はそう呟くと、うっとりとした様子で少年を見つめている。
「おっと、だからって僕に惚れるなよ。僕は子作りはともかく、恋愛は身内以外とするって決めてるんだから」
「あ〜〜、この裏切り者ぉ。私という者がありながら、他の女と恋愛しようっていうの?」
「そりゃまあ、してみたいじゃないの恋ってやつをさ。性格やセックスの相性は姉とするのが最高でも、そういうの抜きで恋心ってのは起きるものなんだろうし。っていうか、女とするとは限らないぞ。男と恋愛する可能性だってあるからね」
 少年は冗談っぽくそう言うと、楽しげに微笑んだ。
「じゃあ、私も女の子と恋に落ちようかな。クラスに可愛い子いるんだよね」
「って、何言ってるんだ。恋も何も、もう手ぇ出してるじゃん。僕は知ってるぞ、同じクラスの女子を気持ち良くして、夢中にさせてるの」
 少年は呆れたように溜息を付いた。
「あ、バレてた? いや〜〜、私好みだったから、つい、ね。軽く触ってキスっぽい事してあげたら、それだけでおかしくなっちゃって……」
「あんなに可愛い子なのに酷い事するなぁ。百合の道にハマっちゃったらどうするんだよ。責任取る気無いんだったら、同性はやめておくべきだぞ。僕らはただでさえ人を夢中にさせやすいんだから」
「まあね。だから魔の生まれ変わりだって言われちゃってるくらいだし。会う人みんな、私達のこと愛しちゃってるもんねぇ」
 少女は少ししんみりした様子になると、困ったように笑った。
「強烈なカリスマ性ってやつだ。それが僕らにはある。って、分かってるんだったら手を出すなよ。せめてプラトニックな関係にしておくべきだぞ」
「沢山の女の子に手を出してる人に言われたくありません。何人その毒牙にかけたのやら」
「異性はいいでしょ異性は。僕が言っているのは同性のこと。ノーマルだったのに、百合の道に走っちゃうのは気の毒だって言ってるんだ」
 少女の反撃に、少年は慌てたように唇を尖らせてそう呟いた。
「それもまた人生じゃない?」
「そんな無責任な……まあ、いいさ、後で僕が何とかしておくよ。男の良さを味わわせれば、元に戻るだろうし」
「両刀になっちゃったりして」
「そうなったら仕方ない、諦めるさ」
 少年は肩をすくめると、楽しげに笑った。
 実際少年にしても、それほど気にしている訳ではなく、少女をからかうネタにしていただけなのだ。
「それよりもう一回いいかな? 話してたら凄くしたくなってきた」
「もう、節操無いんだから」
 少年がすっかり回復した肉棒を見せつけながら告げると、少女は困ったようにして笑った。
 しかしその目は淫靡に輝いており、少年の肉棒を欲しているのは明らかだった。
「それだけお姉様の体が魅力的なのです。今後どのように成長されるか、弟としては楽しみな限りですよ」
「気持ちの悪い言い方してぇ……分かった、好きなだけ抱いていいから。その代わり気持ち良くしてよね」
「了解了解」
 十一、二歳の子供とは思えない会話をすると、双子の姉弟は楽しげに抱き合った。
 そして互いを愛撫し始めると、彼らの雰囲気は子供らしからぬ落ち着きと色気を発するようになった。
 強烈な淫猥さが部屋中に広がり、もしここに誰かが居れば、己の肉欲が恐ろしいまでに高まっている事に驚愕したに違いない。
 少年達の発する淫の波動は、周囲を巻き込む力に溢れており、人とは思えぬその力の発露こそ、彼らが魔の生まれ変わりと呼ばれる所以だった。
 絡み合う幼い少年達の顔は無表情であり、時折浮かぶ笑みは冷たさに溢れ、背筋を凍らせるほどの恐怖を感じさせるものがあった。
 だが少年達はその事に気づいていなかった。
 何故なら、彼らにとってそれは産まれた時から備わっているものであり、当たり前の事だったからだ。
 何より互いを最も観察し合っている姉弟同士が、その事に恐怖を抱かないのだから気づくはずがなかったのである。
 家族を始めとする周囲の人間を、好き放題に快楽に染めていくその姿は、まさに魔と呼ぶのにふさわしいものであり、彼らは望むと望まざるとに関わらず、魔として成長する道を進んでいるのだった。












あとがき

 今回はいつもと違って、最後以外は一人称で会話文無しという形式で書いてみました。
 たまにはこういう形でも書いてみたいと思ったのですよ。
 内容的にも、これまで書いてきた霊媒師シリーズの根幹とも言うべき開祖の話だったので、それなら手記風の書き方にしてみようかなと思った次第。
 いつも通りの書き方でもいいかと思ったのですが、それだと面倒そうだし、何より長くなりそうな気がしたので止めました。

 それから女性視点の話も書きたかったので、ついでにそれも試してみました。
 実際書き始めてみると、何というか凄くゾクゾクした感じがして楽しかったです。
 やはり受け入れる側であるせいか、「やられている」という部分で意識が高まるのかも知れません。
「いけないのにしてしまう」「快楽に逆らえずに流される」というのは、男視点よりも興奮があるように感じましたしね。
 後は母親としての意識。
 これが楽しかった。
「抱かれてはいけない相手なのに、息子だから許してしまう。いや、息子に抱かれるのが嬉しくて幸せ」というのは、今までも散々書いてきましたが、やはり女性視点だと内面描写が多く出来ていいんですよね。
 しょせん男視点は、相手の言った言葉を聞いているだけで、本当の気持ちは読んでいる側に伝わってきませんから。
 そういう点で書いていてゾクゾクしました。
 今後も機会があったら女性視点で書いてみたいですね。
(2010.8.9)



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