鬼の血


 周囲は明るかった。
 夜であるはずなのに目の前には光があり、それと共に強い熱さを感じさせる。
 それは火だ。
 炎が燃えているのだ。自分の周りが炎で覆われているのである。
 熱い。
 耐え難い熱さだった。
 このままでは死んでしまう。
 それは幼い頭でも感じられることであり、近づいている死に恐怖が湧き起こる。
 母に助けを求めようと口を開くが声は出ず、ただ情けない呼吸音が漏れるだけだった。
 ふと手が濡れている事に気がつき、目を向けてみると、ドロリとした液体で覆われているのが分かった。
 炎の明かりで見えるそれは赤く、まるで血のようだ。
 そう、血に思えるのだが、これほど大量の血が手に付いていることなどあり得ないだろう。
 その瞬間、恐ろしい想像が頭に浮かび、それを確認するために視線を周囲へ向けてしまう。
 見た途端息を飲む。
 すぐ傍に、背中が異様な方向へ折れ曲がった、父と母の姿があったからだ。
 その表情は凄まじい形相を浮かべており、恐怖から体が硬直してしまう。
 あれは両親ではない。何か別の存在だ。
 そう思いたい心が、現実を否定していく。
 そしてその逃避が見せたのか、妙なモノが目に映った。
 両親の体の傍に、細長い何かが存在していたのだ。
 色は赤黒く、まるで肉、歪んだソーセージのようであり、うっすらと血管のような線も見える。
 それが空中の、何も無いところから生えるようにして伸び、生きているみたいに微妙に蠢いている。
 生きている内臓とも言うべきそれは、ファンタジー物の漫画に出てくる触手にそっくりだった。
 先端が閉じたり開いたりしており、その口のような部分から覗き見える内部には、小さな吸盤のようなモノがひしめいていて、強烈な嫌悪感を呼び起こした。
 フワフワ揺れながら両親の体へと近づいて行った触手は、不意に先端を大きく開くと、勢い良く食らいついていった。
 それまでとは異なる敏捷な動きであり、まるで蛇が獲物に襲いかかったような感じだった。
 両親の肉体の数ヶ所に張り付いた触手は、グニュグニュと気持ちの悪い蠢きをしながら、何かを吸い出すようにしている。口のような部分にあった吸盤は、おそらくそのための機能を有しているのだろう。
 両親の肉体は痙攣を起こし、口からは「うぅ……」「あぁ……」という呻きが漏れていた。
 すでに生きているとは思えなかったため、そうした反応はまるでゾンビのような印象をもたらし、怖くなった。
 このままでは自分も同じようになってしまうのではないか。
 ゾンビになるのもそうだが、この触手に襲われるのではないか。
 そうした恐怖で心が一杯になっていく。
 そして予想通り、触手の数本がフワフワとこちらへ近づいてきた。
 ついに自分を獲物として認識したのだろう。
 その事に慌てて逃げようとするが、途端、鋭い痛みが走り抜けたため硬直してしまう。体中のあちこちから、これまで経験した事のない痛みが起きたからだ。
 この状態で逃げるのは不可能だろう。
 絶望的な想いが心を包み込み、自分の人生が終わってしまう恐怖が押し寄せてくる。
「だい、じょうぶ……」
 不意に聞こえた声にハッとなる。
 両親ではない、別の人間の声だ。
 そう、ここには自分たちの他に、もう一人いるはずだった。
 幼馴染みの蒼依(あおい)だ。
 実の姉のように慕い、甘えているお姉ちゃんである。
 蒼依ならば、自分の事を助けてくれる。
 何とかしてくれるはずだった。
 何しろいつもそうなのだから。
 強い信頼が、救いを求めて声のした方へと顔を向けさせる。
 そこに蒼依が居た。
 身につけている服は所々破けていて、顔は血で汚れており、辛そうな表情を浮かべて足を引きずっているのが見える。
「たすけて……あげる、から……」
 自分も怪我をしているというのに、こちらを助けようと近づいてくる事に、嬉しさと安心感が起きる。
 やはり蒼依は頼りになった。
 自分を助けてくれるのだ。
 とはいえ、その歩みは遅々として進まず、ゆっくりとしたものであったため、とても触手より早くここへ到達するようには思えなかった。
 やはりもう駄目かも知れない。
 自分は食べられてしまうのだ。
 その恐怖に心が覆われ、涙で視界が歪む。
 何とか逃げようと体を動かし、それによって全身に走り抜ける激痛に硬直する。
「たすける、だからぁっ……たすけるっ。ぜったいたすけるぅっ……」
 涙混じりの声が聞こえ、蒼依が転びそうになりつつも、何とか近づこうとしているのが見えた。
 その様子に、自分を想う気持ちが強く感じられ、嬉しくなると同時に悲しくなった。
 何故ならもはや手遅れだったからだ。
 触手はついに体に触れようとしていたからだ。
 もう駄目だった。
 お終いだった。
 自分は死ぬのだ。
「うぅ……たすけるぅ……たすけるのぉ……うぁ、どっかいっちゃえっ、ばかぁっ……」
 突如蒼依は大声で叫んだ。
 体を大きく震わせ、悲鳴のような声を上げたのだ。
 切実な、救いたいとする意思。
 自分を助けたいと欲する優しい気持ち。
 そんな温かい想いが、心を包み込む。
 そして次の瞬間、驚くべきことが起きた。
 目の前に迫っていた触手が、今にも触れそうになっていた触手が、消えて無くなったのだ。まさに文字通り、一瞬にして消えたのである。
 何が起きたのか分からなかった。
 ただ助かったのだという事だけが理解出来た。
 自分は蒼依に救われたのだ。蒼依の叫びが、自分を救ってくれたのである。
 その事に驚きと喜びを抱きつつ、感謝の気持ちを告げようと視線を向けると、蒼依は地面に両手を付き、四つんばいになった姿勢で呆然としていた。
 その呆けている表情は、妙な可愛らしさがあったため、見ている内にだんだんと幸せな気分になってきた。先ほどまで死の恐怖で一杯であったため、反動でそのような意識が高まっているのかも知れない。
 とにかく助けてくれたのは蒼依であるのは間違いないのだから、感謝の言葉を述べようと、口を開こうとした時だった。
 不意に何か妙なモノが目に映った。
 蒼依の顔、その可愛らしい顔に、あるモノが見えたのだ。
 怪我をして血が滲んでいる額の一部。
 そこに何か、普段見かけない、いや、他の誰にも見たことのないモノが存在していた。
 それは突起のようであったため、もしや何かが刺さっているのではないかと思ってギョッとなる。
 だがよく見ると、そうではない事が分かった。
 まるで最初からそうなっていたかのような、自然な顔の凹凸に見えたからだ。
 額に一箇所突き出ているそれ。
 小さく尖ったそれは、既視感のあるものだった。
 ただ現実での事ではない。
 お話の中で見た事があるものだ。
 それは、おとぎ話に出てくる鬼の額に存在しているモノ。
 角に見えたのである。


 目を覚ました樹道悠斗(きどうゆうと)は、大きく息を吐き出した。
 この夢を見るのは何度目だろう。
 数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどに、最近よく見ている夢だった。
 幼い頃に経験した事故。
 父と母、そして幼馴染みの少女と共に車に乗っていた際に起きた事故だ。
 後で知ったのだが、峠の山道でカーブを曲がりきれなかった車は谷底へと落ち、自分と蒼依だけが奇跡的に助かったらしい。
 両親は背骨が折れて即死。発生した火災で遺体は黒こげだったそうだ。
 覚えているのが幸せなのか不幸なのか分からないが、自分は両親の死に顔を知っている事になった。
 夢で見るだけでも相当なショックであるのだから、現実としてそれを目にした幼い自分には、かなりの衝撃だったに違いない。
 実際そのせいなのか、最近まで事故の事は全く覚えていなかった。思い出そうとしても何も分からなかったのだ。
 それだけ忌避したくなる記憶だったということだろう。夢で見る限り、確かにそうなっても当然に思える酷い状況だった。
 それを最近になって、夢で見るようになった。
 何故急にそうなったのか分からないが、夢とはいえ、ああした状況を何度も見てしまうというのは、精神的に辛いものがあった。
 何より途中から始まるホラー的な展開は何なのか。
 現実では存在しない、触手の化け物に襲われる夢。
 両親の遺体を喰らい、自分をも餌食にしようと襲いかかってくる細い肉の紐。
 あまりに現実離れした内容だった。
 しかも触手から助けてくれる蒼依の額には、鬼のような角が生えているという。
 まるでアニメや漫画みたいな展開だった。
 昔そんな漫画を読んだような気もするため、もしかしたらそうした記憶がごちゃ混ぜになって、あのような夢を見させているのかも知れない。あまりに辛い記憶である事から、無意識が救いを求めてそうした内容にしている訳だ。
 実際、蒼依に助けてもらうというのは、実に喜ばしい展開だった。
 何より角の生えた状態が可愛らしく、今もその姿を思い浮かべると、顔がニヤけてしまうほどだ。
 幼い少女としての可愛さもあるだろうが、やたらと魅力的に感じられたのである。
「つっ……」
 不意に額から痛みが走ったため、思わず手をやってしまう。
 最近どうにも額が痛むことがあった。
 夢で蒼依に角が生えているのと同じ辺りがそうなっている事に嫌な感じを覚えるが、逆に言えば、この痛みのせいでそうした夢を見ていると言えるのかも知れない。
 何しろ痛みを覚え始めたのと、この夢を見るようになったのは同時期だったからだ。
 夢はともかく、痛みは現実のものであったため、何かの病気ではないかと少々気がかりではあったが、病院へ行くほどの事とも思えなかったため、ずっと放置したままだった。そのうち勝手に治るだろうと思っていたのだ。
 そんな事を考えながらベッドから起き上がり、もう一度大きく息を吐き出すと、服を着替え始める。今日も大学へ行かなければならなかったからだ。
 とはいえ、午前中に講義は無かったので、これほど早く起きる必要もなかったのだが。
 しかしそれとは別に、早く起きる理由があった。
 大学などより大切な事であり、そうしなければならない、というより、したくて仕方のない事だった。
 その事を意識しつつ着替えを終えると、自室を出てリビングへと向かう。
 部屋のドアを開けて中へ入ると、トーストを焼くいい匂いが鼻を擽ってきた。
「あ、悠斗おはよう」
 可愛らしい声に視線を向けると、そこには一人の女性が立っていた。
 蒼依だ。
 今や彼女は義理の姉だった。
 あの事故で両親を失った悠斗は、蒼依の家に引き取られて養子となっていた。二人の両親は友人であり、さらに遠い親戚でもあったためそうなったのである。
 元々家族のように付き合ってきた間柄である事から、特に問題なく家族をやっていく事が出来、特に蒼依とは本当の姉弟のように仲良く暮らしていた。
「おはよう姉さん。父さんと母さんは?」
「今日も出張だって。私が起きた時にはもう出かけちゃってたよ」
 蒼依の両親、今や自分にとっても両親である二人は、仕事が忙しく、家にあまり居なかった。
 あの事故の日に蒼依だけが車に乗っていたのも、忙しい二人の代わりに、悠斗の両親が遊びに連れて行っていたためだった。
「せっかく新しい職場になっても、出張ばっかじゃ馴染めないんじゃないの?」
「元々そういう仕事だからしょうがないよ。毎度のことだから気にしてないでしょ」
 両親は転勤が多く、悠斗達は幼い頃からしょっちゅう転校をしてきた。
 今住んでいるマンションにしても、悠斗の大学進学と同時期に職場が変わる事になったため引っ越してきたのだ。
 新しい職場にしろ大学にしろ、前の家からでも通える距離ではあったが、何度も引っ越しをしている身軽さからすぐにそう決めたのである。
 実際移動時間や定期券代を考えればこの方が得なのであり、悠斗と同じ大学へ通っていた蒼依などは、通学時間が大幅に減る事になるため大賛成したのだった。
「相変わらず忙しい仕事だよなぁ」
「そうだね。いつも家に居ないし。これだとまるで二人暮らししてるみたい」
「まあ、昔からそうだけどね」
 両親は滅多に家に居なかったため、普通であれば色々大変になるところだったが、家事の全てを蒼依がしてくれていたため、困る事はなかった。
 幼い頃からそうであったせいか、悠斗はかなりのシスコンに育った自覚があった。
 蒼依にあれこれ世話を焼かれると嬉しくなるし、かまってもらいたくて仕方のない気持ちが強くあるのである。
 先ほどの「早起きした理由」というのも、実は「蒼依に逢いたいから」というものだった。
 朝起きてすぐ蒼依に逢う事で、一日が幸せに感じられるのだ。
 要するにシスコンゆえの理由なのである。
 来年は二十歳になるというのに、これではいけないと思うのだが、どうしても蒼依に対する依存心は無くならなかった。
「パン焼くよね?」
「あ、うん」
 食パンを見せながら尋ねてくるのに頷いて応えつつ、テーブルの自分の席に腰を下ろす。
 トースターを操作している蒼依の姿を眺めていると、いつもと変わらない日常を感じてホッとした想いを抱いた。事故の夢を見たせいか、少々気が張っていたのかも知れない。
「ん? どうかしたの?」
 不意に蒼依がこちらを見たため、思わずドキリとしてしまう。一瞬、夢に出てくる角の生えた蒼依と重なったからだ。
「あ、もしかして、またあの夢を見たの?」
 黙っていたせいか、蒼依はそう尋ねてきた。
 事故の夢を見た朝はこうした反応をする事が多かったため、すぐにそれと察したのだろう。心配そうに見つめてくるのに気まずさを覚える。
「まあね……」
「どうして何度も見るのかなぁ。前は見なかったのにね」
「そうだね。どうしてなんだろう」
「角の生えたお姉ちゃんも、まだ出てくるの?」
「うん。出てくるよ」
「ふぁ、何で角なんか生えてるのかなぁ。っていうか、悠斗ってばやっぱりお姉ちゃんをそういう目で見てるんじゃないの? 鬼みたいなお姉ちゃんだとか」
 プーッと頬を膨らませ、子供みたいな拗ね方をしてくるのに慌てる。
「そんな事ないって。姉さんが鬼な訳ないよ。っていうか、角生えてても可愛いかったし。あんな可愛い鬼なら大歓迎だよ俺は。夢でも鬼の姉さんが出てくるとスゲェ嬉しいし」
 そうフォローしながら、実際それが事実であると認識する。
 夢に出てくる角の生えた蒼依は、実に可愛らしかったからだ。
「それなら宜しい。可愛いと思ってるのなら問題ないです」
 蒼依は満足げに微笑みながら告げると、トースターからパンを取り出してマーガリンを塗っている。
 その様子を眺めつつ、改めて我が姉ながら魅力的な女性だと思った。
 年齢は自分より二つ上の二十一歳。
 少々幼さを感じさせる童顔に、黒々とした大きな瞳が印象的であり、腰まで伸びた長い黒髪は艶々していて美しかった。
 小さな背丈と細身の体つきでありながら、胸元は大きく膨らんでいて、全体的に肉感的な肢体をしており、アイドルをやっても十分に通じるどころか、確実に人気を得るだろうと思える可愛さがあった。
 実際友人からも「お前の姉ちゃんを彼女にしたい」と言われた事が何度もあったため、身内の贔屓目ではないのは確かだろう。自分にしても、他人であれば同じように思ったに違いなかった。
「はい、悠斗のパン。コーヒー飲むよね?」
「あ、うん」
 差し出されたパンを受け取ると、蒼依は立ち上がってコーヒーを入れに行った。
 スタイルの良い全身が目に映り、大きく山を描く胸元と、引き締まった腰、そして形のいい尻のラインにドキリとしてしまう。
 最近蒼依を見ていると、無性に抱き締めたくなる衝動が起きてくる事がよくあった。
 それはかなり強いものであり、欲情と言って差し支えのない、男としての肉欲だった。
 あの豊満な胸の膨らみを、背後から両手で鷲掴みしたらどれほど気持ちがいいだろう。
 やはり柔らかいのだろうか、弾力があるのだろうか。
 ああ、触ってみたい揉んでみたい。
 などという妄想を膨らませてしまうのである。
 義理とはいえ、姉に対して何を考えているのだろうと思うのだが、ついしてしまうのであり、我ながら異常なのではないかと認識していた。
 いくら魅力的であっても相手は姉なのだ。欲情するなどとんでもないだろう。
 そう自分に言い聞かせ、蒼依の姿を視線から外す。
 最近本当におかしかった。今のようにやたらと蒼依を性的に見てしまうのだ。
 少し前までそのような事はなかったのだが、近頃は気づけば蒼依の肢体で妄想を膨らませており、この間など自慰のネタにしそうになったくらいだ。
 思春期に入った頃に蒼依の体を意識した事はあったが、さすがにここまで酷くはなかった。
 それが最近は、気をつけていないとすぐにいやらしい意識を向けてしまうのであり、一体自分はどうしてしまったのだろうと思うくらいだった。
 そんな己に苦悩しつつ、大きく息を吐き出した悠斗は、別の事を考えようと必死になった。いつまでもいやらしい事を考えていては、蒼依に気づかれてしまうからだ。そのような状況など絶対にご免被りたかった。
「はい、コーヒーだよぉ」
 その声に視線を向けると、蒼依の顔がアップで迫っていたためギョッとなる。可愛らしい魅力的な顔が、至近距離に存在していたのだ。
 美麗な桜色の唇がすぐそこにあり、その魅惑的な形状に、思わず吸い付きたくなる衝動を覚える。
 動揺しつつ視線を下へ向けると、そこには服を押し上げる胸の膨らみが存在していて、その母性を感じさせる豊満な肉の塊に、目が惹き付けられてしまった。
 蒼依が微妙に体を動かすと、それに合わせてプヨンと揺れるのに、心臓が勢い良く跳ねる。
「ん? どうかしたの?」
「な、何でもないよ。って、あちっ……」
 誤魔化そうとコーヒーを勢い良く飲むと、思ったよりも熱かったため、慌てて口から放す。
「もう、慌てん坊なんだから。はい、これで拭いて」
 そう言いながらティッシュを差し出してくるのを受け取り、口の周りに付いたコーヒーをぬぐう。
 何とも恥ずかしい事をしてしまった。
 それというのも、蒼依の肉体に過剰に反応していたからだ。何故こんなにも意識してしまっているのだろう。
 これではまるで憧れの女性と一緒に居て、緊張している状態みたいではないか。
 確かに自分にとって蒼依は理想の女性ではあったが、さすがに異性として意識した事はなかった。
 義理とはいえ姉は姉であり、どんなに女っぽさを感じても、家族としての認識しか起きなかったからだ。
 ところが最近は、まるで異性として意識しているかのごとく、挙動に一々反応しており、その体を性的に意識していたのである。
 顔を近づけられただけでキスをしたくなるなど、あまりにおかしすぎるだろう。弟が姉に対してする反応としては異常すぎた。
「つっ……」
 不意に額に痛みが走ったため、思わず手で押さえる。
 今日はこれで二度目であり、これほど短期間で痛みが続くのは初めての事だった。
「大丈夫?」
「何でもないよ。ちょっと痛かっただけで、大したことないから」
 蒼依が心配そうに見つめてくるのに慌てて応える。変に気を遣わせたくなかったからだ。
「そうなの? 本当に大丈夫?」
 しかし蒼依は体を寄せてくると、額へ手を伸ばしてきた。
 可愛らしい顔が近づいてくるのに動揺しつつ、されるがままにしていると、細い指先が額に触れてきた。
(!……)
 その瞬間、電気が走ったかのように体がビクッと震えた。
 鋭い痛みが起きたのだ。
 だがそれと共に、妙な気持ちの良さが起きているのに驚く。
「あ? 痛かった?」
「うん、ちょっとね……」
「ごめんね……大丈夫?」
 蒼依は心配そうにしながら、ゆっくりと撫でるように触れてきた。
 そうされると、ゾクゾクとした快感が走り抜けたため、思わず身を委ねそうになるのを何とか抑え込む。
「だ、大丈夫だって。痛くないから……」
「そう? ならいいけど……」
 妙な感覚が起きている事に動揺しながら、慌てて体を放す。
 だが蒼依の手が離れた事に強い名残惜しさが起き、自ら離れたことを後悔する想いを抱いた。
「あ、そろそろ行く準備しないと……私、今日早いんだよね」
 不意に蒼依はそう告げると、慌てた様子で立ち上がった。
 おそらく午前中に講義があるのだろう。
 自分はそうではないため、見送らなければならない事に寂しさを覚える。
「じゃあ、俺も行くよ」
 そのせいか、思わずそんな言葉を口にしてしまった。
 単に一緒に登校したいだけの理由でそうした事に、「我ながらシスコンが酷くなってるな」と苦笑する。
「あれ? 今日は午前中に講義無いとか言ってなかったっけ?」
「……そうだけど、友達と約束があるんだ」
 咄嗟に思いついた嘘を告げつつ、さらにツッコまれてもいいように、頭の中で友人の名前と適当な用事を慌てて準備していく。
「へぇ、女の子?」
「違うよ。男」
「そうなんだ。でもたまには『女の子とデートする』とか言ってくれると面白いんだけどなぁ」
「面白いって何だよ?」
「ん? ようやく悠斗にも彼女が出来たんだ、って感慨に浸れるかと思って」
「何だそりゃ。っていうか、彼女出来たらその時点で報告してるって」
「そうだよね。悠斗はお姉ちゃんに隠し事しないもんね」
 実はそうなのだ。
 自分は蒼依に隠し事をした事がない、というより出来なかった。
 幼い頃から頼りにし、何でも相談してきたせいか、全て喋ってしまうのである。
「そういう日が来るのを楽しみにしてるからね。でも取り敢えず今日は、姉弟仲良く登校するって事で。待ってるから準備してきなよ」
「あ、うん……分かった……」
 楽しげに告げてくる蒼依に返事をしつつ、リビングを出て自室へと向かう。
 その足取りが軽くなっているのが自分でも分かった。蒼依と一緒に登校するだけだというのに、何ともウキウキした気分になっているのだ。
 本当に自分はシスコン過ぎた。
 とはいえ、蒼依は凄く魅力的で、自分を可愛がってくれる姉なのだから、そうなっても仕方ないとも思っていたのだが。
(だけど、これはマズいよな……何で俺、こんなんなってるんだよ……)
 不意に足を止め、大きく溜め息を付きながら、己の股間へ視線を向ける。
 そこには、大きく膨らんだズボンの盛り上がりがあった。
 パンツの中では肉棒が痛いほどに勃起しており、今すぐどうにかしてくれと言わんばかりに勢い良く屹立している。
 実は先ほど、蒼依に額に触れられた時からそうなっていたのだ。あの時妙な快感が起きたせいか、肉棒が刺激を受けて勃起してしまい、それが未だに続いていたのである。
 蒼依に額に触れられただけでそうなっている事に、やはり自分はおかしくなっているのではないかと思えてくる。
 蒼依に対してあまりに欲情しすぎだった。異性として慕う気持ちだけならばともかく、肉体を求めてしまっているのはマズすぎるだろう。
 今自分が抱いている衝動はかなり強いものであり、完全に女として求める意識を、蒼依に向けてしまっているのだ。
 蒼依を抱き締めたい。
 その豊満な体を撫で回し、舐め回したい。
 そして股間で硬く大きくなっている一物を、あのエッチな体に押し込んで……。
(って、何考えてるんだっ……)
 思わずいかがわしい、許されない妄想をしかけたのを慌てて追い払う。
 自分は一体どうしてしまったのか。これでは本当に変態だった。姉に欲情するなどおかしすぎるだろう。
 早く何とかしなければ。
 このままでは取り返しの付かないことをしかねなかった。
 そんな不安を抱きつつ、再び溜め息をついた悠斗は、早く出かける準備をしようと、自室へ向かって再び歩き出すのだった。


 暗くなった夜道を歩きながら、悠斗は憂鬱になっていた。
 というのも、あれから時折蒼依のいやらしい姿を妄想していたからだ。
 大学が終わった後、友人達と遊びに行っていたのだが、気がつけば蒼依の性的な姿ばかりが頭に浮かんでいた。
 頭の中は蒼依に対する欲情で一杯で、友人達との会話も上の空、という状態になり、全く楽しむ事が出来なかった。
 こんな事ならさっさと家へ帰れば良かった。
 とはいえ、蒼依の姿を直接目にしたら、それこそ何をするか分からなかったため出来なかったのだが。
 下手をしたら襲いかかってしまうかも知れない。そう思えるほどに自分に信頼がおけなくなっていた。
 一体自分はどうなってしまったのだろう。こんなにも性欲で頭が一杯になっているなどおかしすぎだった。
 しかも対象は蒼依だけであり、他の女性に対してはさほど欲情しないのだ。完全に蒼依に対してだけセックスしたい衝動が強まっていたのである。
 蒼依の顔と体。それだけを欲する意識が高まっていて、まさに蒼依だけを求める性欲が暴走している感じだった。
 今も蒼依の事を思うと強い欲情が湧き起こり、股間の一物が勃起して歩きにくくて仕方なかった。
 義理とはいえ姉に対してそんな状態になっているのは異常な事であったため、本当に自分はおかしくなっているのではないかと思えてくる。
「つっ……またかよ……」
 そんな事を考えながら歩いていると、額に痛みが走ったため立ち止まる。
 ジクジクとした鈍い痛みだ。
 これで何度目だろう。今日はこの痛みが繰り返し起きていた。
 しかも今度のは何やら背筋までゾクゾクしており、これは本格的に風邪でも引いたのではないかと思えてくる。
 とはいえ熱っぽい感じはなく、ただ額に痛みが走るのと、背筋に冷たい感覚が起きるだけだったのだが。
 風邪ではないように思えたが、それでも体がおかしくなっているのは確かであったため、早く帰って寝た方がいいのかも知れない。
 そう思いながら再び歩き始めるが、すぐに立ち止まってしまう。
 また額に痛みが起きたからだ。
 背筋の冷たさも続いており、これはちょっとマズいかも、と怖くなってくる。
 これまで額の痛みは何度かあったが、悪寒のようなものがあるのは初めてで、それがこうも続くというのは不安だった。いよいよ何か悪い症状でも出始めているのかも知れない。
「つっ……」
 強い痛みが起きたため、体を硬直させる。
 目を瞑り、痛みが消えるよう願いながらジッとするが、痛みは強まるばかりだった。
 何とかそれに耐えながら、早く家へ帰ろうと足を速める。
(ん?……何だ、あれ……?)
 不意に視界に妙なモノが映ったため足を止める。
 暗くてよく分からないが、何やら長細いモノがフワフワと漂っているのが見えたのだ。
 ビニール紐かと思うが、微妙に違っているようでもあり、正体がハッキリとしない。
 とはいえ、どのみちゴミか何かだろうから、どうでもいい事でもあった。
 そんな些末なことよりも、早く家へ帰る方が大事だった。こんな頭痛がする状態で、いつまでも道ばたに居るのは宜しくないからだ。
 そう結論づけ、痛む額を押さえながら、再びゆっくり歩き始める。
 道を進むにつれ、先ほど見えたビニール紐のようなものに近づいたが、距離が縮まってもそれが何であるのか分からなかった。
 いや、むしろ余計分からなくなったと言うべきだろう。
 ビニール紐でないのは確実なのだが、それが何であるのか特定出来ないのだ。
 何しろ物というより生物のような感じがし、植物の蔦のように思えたからである。
 だが植物の蔦としてもかなり太さがあって、何より色が緑ではなく赤黒いのが奇妙だった。
 どこかで見たことがあるような感じがしてきて、それは一体どこでだろうと考えた瞬間、不意にある光景が頭に浮かび上がった。
 その事で益々訳が分からなくなるのと同時に、ゾクッとするような恐怖が押し寄せてくる。
 自分はこれと同じモノを見た覚えがあった。
 ただしそれは現実ではなかった。
 夢の中での話だ。
 そう、今目の前に存在しているそれは、あの事故の夢に出てくる、触手の化け物にそっくりだったのである。
(そんな……馬鹿な……)
 あのようなモノが現実に存在しているはずはなかった。あれは夢だから出てくるのであって、現実ではあり得ないモノだからだ。
 何しろ触手なのだ。
 アニメや漫画に出てくる化け物なのだ。
 現実には存在していない生物なのである。
 だからこのような事はあり得なかった。
 しかしその想いを否定するかのように、目の前に存在してる物体は、明らかに現実感があった。
 空中から突如生えているようにしか見えない肉のロープ。
 うっすらと血管のような線が浮かんでおり、先端は口のようになっていて、内部には小さな吸盤がひしめいていた。
 それは完全に、夢に出てくる触手そのものだった。
 それ以外の何物でもないだろう。
 内臓を見ているような気色悪さが感じられ、それがフワフワと揺れながら浮いているのは、あまりに異常すぎる光景だった。
 夢で何度も見ているとはいえ、現実では見たことも聞いたこともない存在との邂逅に、えも言われぬ不快感が起きてくる。
(う……いつの間に……)
 気がつけば、同じような触手が数本現れていた。
 こちらを取り囲むようにして滞空し、徐々に距離を詰めてきているのに、強い恐怖が起きてくる。
 何しろ夢の中でこの触手は、両親の遺体に食らいつき、何かを吸い出すようにして蠢いていたのだ。どう考えても人間を食べる生物にしか思えなかった。
 今は夢の中と違い、いくらでも逃げることが出来るはずだったが、何故か体は硬直したまま動くことがなかった。
 というより、意識が硬直していたと言うべきだろう。
 心は逃げたいと欲しているのだが、それを実行するための意思が欠如していたのだ。あまりに恐ろしく、あり得ない状況に停止していたのである。
 触手はすでに触れそうなほど近くに寄ってきていて、まさに追い詰められた状態になっていた。
(!……)
 ついに触手が腕に触れ、ヌメっとした感触が伝わってくるのにそそけだつ。
 反射的に腕を放そうとするが、それよりも早く絡みつかれてしまった。
「ぐっ……」
 触手が二の腕に巻き付き、ギュウっと締め付けてくるのに苦痛の呻きが漏れる。
 慌てて剥がそうとするものの、表面がヌメりを帯びていて上手く掴むことが出来ない。何よりそのヌルヌルとした感触にはゾッとさせるものがあり、凄まじい嫌悪感が湧き起こった。
 その感覚と、喰われるかも知れないという恐怖心から何度も剥がそうとするが上手くいかず、押し寄せてくる嫌な感覚と、今にも肉を食いちぎられるのではないかという状況に、恐ろしさで一杯になった。
 だがその一方、妙な気持ちの良さが起きているのに気がつく。
 触手に触れられている部分から、ゾクリとした快感が押し寄せていたのだ。
 その事で股間の一物が勢い良く勃起し、力強くそそり立った。
 痛いほどに勃起し、精を放出せんばかりにビクンビクンと震えている。
 恐ろしいはずなのに、気持ち悪いはずなのに、快感が押し寄せ、そのまま身を委ねてしまいそうになっているのだ。
 他の触手も動きだし、反対の腕や両脚、胴体に絡みついてきた。
「はぅっ……」
 その瞬間、強烈な快感が押し寄せ、思わず声を漏らしてしまう。
 情けない吐息が何度も口から零れ、強い快感が走り抜けた。
 股間に湿っぽさがあるのが感じられ、どうやら射精したのが分かった。
 何たることだろう。妖しげな触手に絡みつかれ、精を漏らしてしまうとは。
 あまりに酷すぎる状況に悲しくなるが、それ以上に気持ちの良さに抗えず、与えられる刺激にされるがままになってしまう。
「うっ、くぅっ……」
 触手が股間に伸び、ズボンの上から肉棒に触れてくるのに、快感の震えが湧き起こった。
 隙間から触手が入り込み、ズボンとパンツが剥がされるようにして脱がされると、勢い良くそそり立った肉棒が顕わになった。
 急所が無防備状態になっている事に恐怖を抱きつつ、体に絡みついた触手から押し寄せてくる快感に、肉棒がビクンビクンと律動しているのを凝視する。
 不意に触手の先端がパックリと開き、ゆっくりと肉棒に近づいてきた。
 中に小さな吸盤がひしめているのが見え、その事にゾッとした嫌悪感を覚える。
 次の瞬間、俊敏な速さで触手が動き、まるで蛇が獲物を丸呑みするように、肉棒を咥え込んだ。
 湿りを帯びた温かなモノに包まれている感触が起き、そのまま強く弱く締め付けられていく。
 見た目の気色悪さから嫌悪感と恐怖が起きるが、それ以上の蕩けるような快感が押し寄せ、意識が朦朧としていった。
 セックスの経験は無かったが、女性の膣内とはこうしたものなのではないかと思える気持ち良さに、抗えず身を委ねていってしまう。
「ぐっ……」
 ウニュウニュとしごいてくる触手の蠢きは実に巧みで、肉棒の快感神経を嬲るようにして刺激してくるのに、意識せずとも精が迸った。
 体がガクンガクンと震え、自慰では味わったことのない強い快感にうっとりとなる。
 得たいの知れない触手に咥えられての射精だというのに、それはたまらなく素晴らしいものだった。
「あぐっ……くっ……」
 強い勢いで吸引をされたため、まるで腰が持って行かれるような錯覚を覚える。
 射精が終わっても蠢きは止まらず、その暴力的とも言える淫らな刺激に、あっという間に肉棒は回復していった。
 その事を悦ぶかのように蠢きは勢いを増し、吸い付き絡みつかれる心地良さに、逆らう意思は全く起きず、されるがままになっていく。
 そうこうしている内に射精感が高まり、意識する間もなく再び精が放出された。
 続けて先ほどと同じように肉棒が嬲られることで勃起が復活し、次の射精を強制する蠢きが行われ始めた。
 気がつけば、腕や脚、胴体に絡みついた触手も吸いついてきており、吸引されている部分から強烈な快感が押し寄せ、体全体が快楽で覆われていった。
 すでに体は抵抗する力を無くし、完全に脱力した状態になっていたが、触手に絡みつかれている事で倒れることはなく、宙ぶらりんの状態だった。
 触手は何も無い空中から生えているようにしか見えないが、こちらの体重を十分に受け止めており、まるで質のいいベッドに横たわっているかのような心地良さがあった。
 一体この触手は何なのか?
 繰り返される疑問と、そのような訳の分からないモノに精液を吐き出させられ、気持ち良くなっている事への恐怖が起きる。
 何より射精するたびに、精液とは別の何か、自分にとって大切な何かも一緒に吸われているような感じがして怖かった。このまま射精をし続けていたら、自分は死んでしまうのではないかと思える恐ろしさがあったのだ。
(俺……もう駄目なのかな?……死んじゃうのかな……?)
 死が意識され、強い恐怖が心を包み込む。
 そのせいか、幼い頃に経験した死が頭に浮かび、事故の夢が思い出された。
 あの状況も死にかけていた訳だが、その時現れた蒼依は救いだった。
 もしここに蒼依が居たら、絶対に助けてくれるに決まっていた。
 強い信頼、というよりも確信というべき想いが湧き起こり、心の中で情けなくも助けを求めてしまう。
 幼い頃に戻ったような口調で。
 お姉ちゃん助けて、と……。


「帰りが遅いと思ってたら、こんな事になってたね……」
 朦朧とする意識に声が聞こえてくる。
 これは自分の最も信頼する人物の声だった。
 蒼依だ。
 まるで自分の心の叫びが届いたかのようなタイミングでの登場に驚きつつ、安堵と喜びの想いを抱きながら視線を向ける。
 そこには腕組みをして、仁王立ちしている蒼依の姿があった。
 だがその姿を目にした途端、強い違和感を覚えた。
 何故ならその顔は無表情になっており、普段は大きい瞳が細く閉じられていて、ぼんやりと光を放っていたからだ。まるで暗闇に居る猫の目のようにギラギラしていたのである。
 最も気になったのは、その額に存在している物体だった。
 中央に一つの小さな突起が出ており、それはどう見ても角としか思えなかった。
 夢の中での蒼依がそうであったように、今目の前に居る蒼依にも角が生えているのだ。
 見間違いかと思ったが、何度見ても額から尖ったモノが出ていることに間違いは無かった。
 また夢を見ているのか、とも思うが、さすがにあまりに現実感があるため違うことが分かる。
 これは現実だった。
「消えなさいっ」
 不意に蒼依は腕を真横に振ると、大きな声で叫んだ。
 その瞬間、驚いた事に、体に絡みついていた触手が消え失せた。
 まさに消失したのだ。
 急に支えが無くなったため倒れそうになるが、何とか体勢を整えて踏ん張ろうとする。
 だがかなり脱力していた事もあって、そのまま尻餅をついてしまった。
 生身の状態であったため、かなりの痛さに涙しながら、下半身丸出しである事に恥ずかしさを覚え、慌ててパンツとズボンを穿いていく。
 どうやら助かったのだという事にホッと息を吐き出しつつも、一体何がどうなっているのか訳が分からなかった。
 触手に襲われ、角の生えた蒼依に助けられた。
 まさに夢と同じ状況に、やはり夢を見ているのではないかと、混乱は激しさを増していった。
「大丈夫?」
 蒼依が微笑みながら尋ねてくるのに、安心感から力が抜ける。
 先ほどと異なり、見慣れた表情と口調である事に安堵の想いを抱いた。
 そこに居るのは確かに蒼依だった。自分の知っている、自分が最も信頼し、頼りにしている姉の蒼依なのだ。
「姉さん……あの、これって……今の変なの、触手みたいなのって何?……それに姉さんがどうしてこんな……額のそれ、どうしたの?……っていうか、何でここに居るの?……どうなってるの? 訳が分からないよ……」
 混乱の極みから、次々と質問する事しか出来なくなっている。
 蒼依はその事を気にした風もなく優しげな笑みを浮かべると、大きくゆっくりと頷いた。
「大丈夫。全部お姉ちゃんが教えてあげるから。悠斗の分からないこと、全部教えてあげる……だから取り敢えず家に帰ろ? まずは落ち着かないとね」
 その言葉に無意識のままコクリと頷く。
 幼い頃から蒼依を頼り、依存してきただけに、このような訳の分からない状況では、自然と従う意識が働いたのだ。
 額から角が生えていようが、目の前に居るのは自分の大好きな蒼依に変わりはなく、従うことに何ら問題はなかったのである。
 ただその口調に、普段は存在しない色気を覚えたためドキリとしてしまった。
 同時に股間の一物が強く律動したのに動揺する。
 そして強烈に欲情していくのに気づいてギョッとなった。
 自分は今、蒼依に対して激しい性的欲求を覚えていた。これまでに無いほどに強く肉欲をたぎらせていたのだ。
 触手にされていた事の影響なのだろうか。あの異常な行為の残滓が、蒼依に対する欲情として発現しているのだろうか。
 とにかく蒼依を見ているだけでおかしくなりそうになっていたのだ。
 特に額から生えている角。
 それを見ていると、強くそそられる意識が湧き起こった。
 したい。
 蒼依の体に色々したかった。
 激しい肉欲が頭を支配し、今すぐにでもその小柄な肉体を抱き締め、揉みしだき、肉棒を押し込んで激しく突き込みたい衝動が押し寄せてくる。
 蒼依を犯し、その角の生えた愛らしい顔を快楽で歪ませたかった。
「さ、行こう」
 不意に聞こえた声に、ハッと意識を戻し、己がとんでもない事を考えていたのに気づいて驚愕する。
 大切な蒼依を肉欲の対象として見るなど、絶対にしてはいけない事だった。
 軽い妄想であるならともかく、今の自分は、確実に強姦をも辞さないほどの状態になっていた。
 触手にされた事の影響だとしても許される事ではないだろう。
 慌てて頭を激しく振り、いやらしい想いを振り払う。
 だが湧き起こっている肉欲は、その程度では治まりそうになかった。あまりに強烈なものだったからだ。
 やはり異常な存在からされた行為であるから、簡単に抑える事は出来ないのだろうか。
 だとしても何とかしなければいけなかった。蒼依を襲うなど、絶対に許される事ではなかったからだ。
 そう決意した悠斗は、出来るだけ蒼依の方を見ないようにして肉欲を抑えつつ、無事家に辿り着ける事を祈りながら歩いていくのだった。


 悠斗は自室で、先ほどの事を思い返していた。
 触手に襲われ、角の生えた蒼依に救われた事だ。
 とても現実とは思えない出来事だったが、夢と思うには無理な内容でもあった。
 何しろ体のあちこちには触手に付けられた痣があったし、それ以上に思い出すたびに湧き起こる恐怖と快感は、夢などでは得られるはずもないリアルさがあった。
 事情を知っているはずの蒼依に聞きたいことは山ほどあったが、彼女はまだ部屋へ来ていない。風呂へ入っているからだ。
 家に帰ってすぐ、悠斗は風呂へ入るよう勧められ、その後は自室で待っているように言われた。
 普段通り過ごせば、落ち着くだろうという配慮からだ。
 実際こうしてパジャマ姿になり、勉強机の前に座っていると、日常の感覚が強まってきて、先ほどよりはかなり落ち着いたように思えた。
 とはいえ、完全にいつも通りという訳にはいかなかったが。
 何しろ異常すぎる経験をしたのだから当然だろう。
 頭の中では同じ疑問がグルグルと回っていて、未だ整理できずにいた。
 あの触手は一体何なのか。
 蒼依は何故それを消すことが出来たのか。
 そして額に生えていた角はどういう事なのか。
 分からない事は沢山あった。
 それらで頭が一杯になっていて、早く話が聞きたくて仕方のない状態になっていたのだ。
 ゆえに本来であれば、他の事など意識していられないはずだった。
 そう、意識していられないはずだったのだ。
 しかし今、悠斗の意識は別のことに支配されそうになっていた。
 それは、蒼依への欲情だった。
 触手にされていた事の影響なのか、異常に盛り上がった肉欲が、未だ治まらずに続いていたのである。
 家へ向かって歩いている途中、そして風呂に入っている間も、ずっと蒼依に対する欲情は高まったままだった。
 肉棒は痛いほどに勃起し、すぐにでも精を迸らせてしまいそうなほどになっており、股間から湧き登ってくる肉欲は、強烈に意識を支配しようとしていて、脳裏にはひっきりなしに蒼依の淫らな姿が浮かんでいた。
 耐え難い射精への衝動は、今すぐにでも肉棒を握って擦らせようとし、それを必死になって抑え込んでいたのだ。
 一度出してしまえば治まるのだろうが、それは絶対に出来ない事だった。蒼依を自慰のネタに使うなど許し難かったからだ。
 だがそんな想いをあざ笑うかのように、股間の一物からは強烈な性の衝動が押し寄せ続け、すでにかなりの辛さになっていた。
 蒼依を犯したい。
 あの柔らかな肉体を、思う存分味わってみたい。
 従え、喘がせ、肉棒を押し込んで思いきり突き込んでみたい。
 そんな激しい衝動が起きていたのだ。
 自分はおかしくなっていた。
 これほど肉欲が高まっているなど異常すぎるだろう。
 やはりあの触手にされていた事が影響しているのだろうか。
 何しろ先ほど触手に襲われていた時は、射精してもすぐに回復し、数度の放出を繰り返す、といった通常では考えられない状態になっていたからだ。
 そして他にも、肉棒と同じく疼いている部分があった。
 額だ。
 先ほどからジクジクとした刺激が断続的に起きていたのである。
 額の疼きと股間の一物の脈動が同期している感じで、上半身と下半身が、まるで自分のものではないかのようだった。
 さらに意識も少々薄れていて、体内に響くドクンドクンといった脈動を、ぼんやりと認識している状態だった。
 呼吸が荒くなり、何かが体の中から飛び出しそうな、そんなおかしな衝動が起きていた。
 ふと、己の手がズボンの上から肉棒を掴んでいるのに気づいてギョッとなる。
 無意識の内にそうしてしまったのだ。
 いけない、と思うものの、掴んだ部分からは得も言われぬ気持ちの良さが伝わってきていて、それに逆らって手を離すなど出来なかった。
 鼻息が大きく漏れ、ゆっくりと肉棒をしごき始めてしまう。
 その瞬間、脳を痺れさせる快感が押し寄せ、それに流されるまま勢い良く手を動かしていく。
 脳内には蒼依のいやらしい姿が浮かび、それを意識しながらしごくと、たまらない気持ちの良さが溢れた。
 すぐにズボンの上からでは物足りなくなり、パンツごと下ろして肉棒を直に掴んでしごいてしまう。
(あぁ……気持ちいぃ……何て気持ちいいんだろぉ……姉さん……姉さんのエッチな姿を想像しながら擦ると、凄く気持ちいいよぉ……)
 思い出そうとせずとも、すでに脳裏に焼き付いている蒼依の肢体。
 それは小柄でありながら、女性としての魅力に溢れていて、どこに触れても柔らかな感触があるだろうと分かる、ムチっとした肉感さを感じさせるものだった。
 特に胸元の大きな膨らみはたまらなかった。
 あの白くて柔らかそうな丸い膨らみを、思いきり揉みしだく事を想像すると、それだけで最高だった。
 さらにそれ以上の快感を呼び起こしたのが角だった。
 先ほど見た、額に角が生えている蒼依。
 その姿を思い浮かべると、肉棒がそれまで以上にいきり立ったのだ。
 あの蒼依を犯したい。
 角の生えた蒼依を無茶苦茶にしたい。
 そんな狂おしいばかりの衝動が押し寄せ、おかしくなるほどに肉欲が高まっていく。
 普段ならば決して出来ない、大切な蒼依を妄想で犯す行為。
 その許されざる行いに、悠斗はハマりまくっていた。
 許されないがゆえに興奮してしまう。
 禁忌を破っているがゆえに、背徳感が肉棒を猛らせ、夢中になってしごいてしまうのだ。
 頭に浮かぶ、角の生えた蒼依の悩ましい姿。
 喘ぎ。
 悶え。
 それらを想像するだけで、もう駄目だった。
「あ……姉さん……姉さぁんっ……」
 思わず口にした呼びかけが耳に響いた瞬間、意識せずとも精が迸った。
 股間で起きる脈動と共に、強い快感が脳内に押し寄せ、体が勝手にガクガクと震える。
 そのたびに精液が噴出し、絨毯の上へと落ちていった。
(ティッシュで押さえるの、忘れちゃった……)
 そんな事をぼんやり思いつつ、たまらない快感に浸っていく。
 何と素晴らしい射精だったろう。
 蒼依を想ってする自慰の快楽は、これまで経験してきたものとは比較にならない良さがあった。
 少しして射精が終わり、徐々に薄れていく気持ちの良さを感じながら大きく息を吐き出す。
 数度呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いた頃に、己がとんでもない事をしたのに気づいた悠斗は、強い後悔の念に囚われた。
 してしまった。
 ついにしてしまったのだ。
 蒼依で自慰を、大切な姉を、性欲処理の道具にしてしまったのである。
 何と許されない事をしたのだろう。
 自分は弟として最低のことをした。
 強い罪悪感が湧き起こり、自身に対する嫌悪感が押し寄せてくる。
 体に震えが走り、頭を抱えて苦悩する。
 取り返しの付かないことをしてしまった、という想いが頭の中をグルグルと回っていく。
「お待たせ〜〜」
 不意にノックの音と共に、部屋のドアが開いた。
 ギョッとなって視線を向けると、そこにはパジャマ姿の蒼依が立っていた。
 途端、驚愕と恐怖が湧き起こり、背筋が冷たくなって体が硬直する。
 最悪のタイミングだった。
 何しろ股間は丸出しであり、絨毯の上には精液が零れていたからだ。
 これでは自慰をしていたのがバレバレだろう。
 何故もう少し遅く来てくれなかったのか。そうすればいくらでも誤魔化しが出来ただろうに。
 そんな想いが浮かぶが、すでに手遅れ。誤魔化しようのない状況になっていた。
 さらに問題なのは、先ほどの「姉さん」という声を聞かれてしまったのではないかという事だ。
 そうなれば、蒼依をネタに自慰をしていたのが知られてしまう。それだけは絶対に避けたかった。
 せめて先ほどの声は聞いていないでくれ、と願いつつ、慌てて立ち上がり、ズボンとパンツを引き上げていく。
「あ、いいんだよ気にしなくて。男の子なんだから、当然のことなんだから」
 蒼依は慰めるようにして告げると、にこやかな笑みを浮かべながら部屋へ入ってきた。
 自慰の現場を見たというのに、全く動揺していない事に拍子抜けするものの、逆にその淡々とした態度が恥ずかしさを強烈に強めた。
「絨毯に出しちゃったんだね。拭いておかないと……」
 そう言いつつティッシュを数枚手に取った蒼依は、床に落ちた精液を拭こうとしている。
「お、俺がやるから。いいから姉さん。やらないでいいから……」
 慌てて自分もティッシュを掴み、精液を拭こうとする。
「いいんだよ悠斗はジッとしてて、こういうのはお姉ちゃんがしてあげるから」
 こちらの羞恥心など意に介した風も無く、作業を続けられてしまう事に恥ずかしさは最高潮に達した。
 まさに二重の罪悪感で一杯だった。
 蒼依をネタに自慰をし、その当人に後始末をしてもらっている。
 何と最悪で最低な状況なのだろう。
 しかしそのように思っているのとは裏腹に、視線はとんでもない所へ向いていた。
 蒼依の胸元だ。
 前屈みになった事で、たわんだパジャマの隙間から、白くて丸い膨らみが覗いており、風呂上がりのためかブラジャーをしていないため、何にも覆われていない生の乳房が見えていたのだ。
 それに気づいた瞬間、視線は固定され、凝視してしまっていた。
 蒼依で自慰をした事を悔やんでいたはずなのに、そうしている自分を最低だと思うが、どうしても抑制出来ない事でもあった。先ほど無意識の内に自慰を始めたのと同じく、自分ではどうしようもない衝動だったからだ。
(ね、姉さんのおっぱい……)
 少し前まで妄想していた魅惑の膨らみが、想像ではなく本物の、生の乳房が目の前にあった。
 妄想の中で揉みしだき、吸い付いていた白い膨らみが、触れられる距離に存在しているのだ。
 見るな、という方が無理だろう。
 柔らかそうな肉の塊は、蒼依が動くたびにプルプルと揺れており、その視覚による刺激は、強い興奮となって肉欲を昂ぶらせた。
 上から覗き込んでいるせいか、膨らみのほとんどが顕わになっていて、あともう少しで先端が見えそうな状態だった。
 乳首を見てみたい。
 蒼依のおっぱいの全てを見てみたかった。
 その想いで頭が一杯になった悠斗は、パジャマの隙間を凝視し続け、やがて訪れるかも知れない先端部分の開帳を期待して待った。
「お姉ちゃんの胸、見たいの?」
「!……」
 不意に告げられた言葉に、心臓が破裂するかと思った。
 驚いて視線を向けると、蒼依が小首をかしげた可愛らしい仕草をしながら、ジッとこちらを見つめていた。
 何ということだろう、胸を見ていたのを知られてしまった。夢中になるあまり、注意が散漫になっていたのだ。大失敗だった。
「あ、いや、その……」
「だってさっきからお姉ちゃんの胸ばかり見てるじゃない。それにそこ、おっきくなってるし」
 指で示された先に視線を向けた瞬間、硬直する。
 何故なら見事に屹立した肉棒が、丸見え状態になっていたからだ。
 ズボンとパンツを引き上げたつもりだったが、きちんと穿いていなかったせいか、いつの間にかずり落ちていたらしい。
「うわぁっ……ご、ごめんっ。その、ごめんっ……」
 慌てて引き上げると、一物を隠すようにして屈みながら謝る。
「いいからいいから。気にしない気にしない」
 蒼依はティッシュをゴミ箱へ捨てながら、淡々とした口調で告げている。
 しかし気にするなと言われても無理だろう。
 何しろ蒼依をいやらしい目で見ていた事がバレたのと、肉棒を見られた事のダブルパンチなのだ。申し訳なさと恥ずかしさは強烈に高まっていた。
「さっきお姉ちゃんのことを想ってしてたのも、全然気にしてないからね」
「!……」
 トドメを刺すかのようにそんな事を言われ、強い罪悪感と恥ずかしさで顔が熱くなった。
 ガックリと肩を落とし、脱力しながら椅子に座り込む。
 自分の中の、大切な何かが壊れてしまったような感じがし、その事に強い悲しみが押し寄せてくる。
 蒼依をネタに自慰をし、それを当の本人に知られてしまうなど、あまりに辛すぎる状況だった。
「ほら、そんな顔しないの。お姉ちゃんは気にしてないって言ってるんだよ。こういうのは仕方ない事なんだから。悠斗は悪くないの」
 優しく微笑みながら告げてくるのに、少し安堵を覚える。
 だがそれだからこそ、余計に申し訳なさが強まった。
 このように優しい姉を自慰のネタ、己の肉欲の発散のために使ったという事が許せなく思えたからだ。
「それにね、悠斗がこうなっちゃったのって、ちゃんと理由があるんだよ。さっきの触手や角と関わりがある事なんだけど」
 不意にそんな事を言われたため、驚いて顔を上げる。
 自慰を見られた事で忘れていたが、そう言えば元々それを聞く予定だったのだ。
 それにしても、自慰をした事とそれらが関係しているというのは、どういう意味なのだろう。
「これから話すのは、信じられないような事だけど、本当の事なの。それだけは信じてね」
 真面目な顔で告げてくるのに、少し動揺しながら頷く。
 だが自分にとり、蒼依の言葉ほど信頼のおけるものはなかった。ゆえに何を言われても信じるつもりではあった。
 そもそもすでに触手の存在や、額に角が生えている、といったあり得ないモノを見ているのだから、受け入れる準備は出来ているのだ。
「信じるよ」
「ありがとう……それじゃ話すからね。落ち着いて聞いてね」
 悠斗の返事に、蒼依は嬉しそうに微笑んで頷くと、床に正座して姿勢を正した。
 その様子に緊張感を高めつつ、心持ち背筋を伸ばす。
「え〜〜と、何から話そうかな……そうだなぁ、じゃあまずは角についてね……」
 そう言われたため、自然と視線が蒼依の額へと向く。
 そこには何の変哲もない、滑らかな額があるだけであり、角が生えていたなど嘘のようにしか思えなかった。
「私たち一族はね、鬼なの」
「鬼?」
 その言葉に一瞬呆ける。
 確かに角が生えているとなれば鬼ではあるが、あまりに時代錯誤というか、現実的ではない話に思えたからだ。
「角が生えているからそう呼ばれるようになったみたい。実は名字も、元々は鬼って漢字を使ってたんだよ。『鬼の道』って書いて鬼道っていうのが、本来の名字だったの」
 そんな由来があるとは知らなかった。
 いや、角の事を知らなかったのだから当然だろう。
「昔は角のせいで色々酷いことをされたみたい。だからある時から角を隠すようになって、名字も変えたんだって」
 確かに角など生えていたら迫害されてもおかしくはなかった。人は特殊な存在を忌み嫌うものだからだ。
「ちょっとだけ出してみるから、よく見ててね」
 そう告げてくるのに頷きつつ、緊張と共に強いワクワク感が起きているのを感じる。角が見られる事に興奮を覚えているのだ。
 何故だか分からないが、自分はどうにも角に対して欲情する部分があるらしく、自慰をした際も、角の生えている蒼依の姿に強く興奮していたのである。
(角フェチってやつか。変態だな……)
 などと思いながら蒼依の顔を見つめていると、不意に額が盛り上がり、一つの小さな突起が生まれた。
 角が生えたのだ。
 すでに目にしてはいたものの、明るい場所では初めてであったため、思わずしげしげと見つめてしまう。
 実に綺麗な突起であり、小さいながらも強い存在感を感じさせた。
 何より普段は子供っぽさを感じさせる蒼依の顔が、妙に大人びて見えるから不思議だった。
 さらに、そこはかとない色気が漂い始めたため、その事に股間の一物が反応を示す。
「はい、ここまで。終わりだよ」
 蒼依が告げるのと同時に、角が引っ込んだ。
 少々興奮していたため、その事に拍子抜けというか、お預けを食らったような感覚を覚える。
 もっと角を見ていたい、触りたいといった、妙な衝動が起きていたのだ。
 やはり自分は角フェチなのかも知れない。
「血に目覚めると角が出てきちゃうから、こうして普段は隠してるの。そのうち悠斗にも生えてくると思うけど、そしたら隠すやり方を教えてあげるね」
「え? 俺にも生えてくるの?」
 突然言われた事に衝撃を受ける。
 自分にも角が生えるなど、予想だにしていなかったからだ。
「だって額、痛いんでしょ?」
 ハッとして己の額に手をやる。
 触れた瞬間、鋭い痛みを感じたため、慌てて放した。
 確かにこの痛みは何かの前兆に思えた。まさか角が生えることから来ている症状なのだろうか。
「悠斗はね、血に目覚めかけてるんだよ」
「血に、目覚めかけてる?」
「うん。鬼の血にね」
「鬼の、血……」
 脳裏に角の生えた蒼依の姿が浮かび、続けて自分の額にも同じような突起が生えているのが浮かんだ。
 それは何とも怖いようでありながらも、ワクワクする感じを覚えさせるものでもあった。
「目覚めない人も居るんだけどね、悠斗は思い出しちゃったみたいだから」
「何を?」
「事故の時の事……触手に襲われた事や、お姉ちゃんに角が生えてた事とか……それってね、本当は思い出さないはずだったの。実際少し前まではそうだったでしょ?」
 確かにそれはそうだった。事故の夢は最近になって見るようになったのだ。そしてそれまで事故のことは、ぼんやりとしか覚えていなかったのである。
「暗示をかけてね、思い出せないようにしてたんだよ。でも悠斗は血に目覚めかけてきたから、暗示が効かなくなっちゃったんだね」
「暗示って……え? 何それ? 俺、何かされてたの?」
「悠斗はね、あの事故のショックで凄く苦しんでたの。触手に襲われたり、両親の酷い状態を見ちゃったからだと思うんだけど……眠っててもうなされて、夜中に起きて泣きじゃくったりして……昼間も時々震えてたりして、普通じゃない状態だったんだよ……だから暗示をかけて、あの事故の記憶を封印したの」
 自分がそのような状態になっていたとは驚きだった。
 しかしそういう事であるならば、記憶を封印したというのも納得だった。
 幼児が事故の記憶に苦しみ、精神的におかしくなっていく姿など、誰も見たくはないからだ。
 それにあの触手……。
 あのような非現実的な存在に襲われる記憶など、無い方がいいに決まっていた。ホラー映画を実体験するなど、幼い子供にとって強烈過ぎる出来事だからだ。
 それにしても、あの触手は一体何なのか。
 アニメや漫画の世界では見たことがあるとはいえ、それはあくまで空想上の事であり、現実世界では存在していないはずのモノだった。
「姉さんあれって何なの? あの触手って……あれって何なのさ……」
「あれはね……あの触手は、闇の生物って呼ばれてるものの一種だよ」
「闇の生物?」
「いわゆる一般的には認識されていない生物だね。特殊な能力を持った人間しか知覚出来ない、そういった生物なんだ」
 益々アニメや漫画の世界の話だった。
 しかし実際に襲われた身としては、空想の話として片付ける事など出来なかったが。
「あんなのが普通に、そこら中に居るってこと?」
「そこら中ってほどじゃないけどね。生息しやすい環境があるみたいで、それに当てはまるような場所に居たりするよ。まあ、害虫みたいなものだと思えばいいんじゃないかな」
「害虫って……」
 そのような言い方をされると、あの気色悪い生物が、まるで普通の生物であるかのように思えて脱力してしまう。
「悠斗が襲われたのは触手のインヨウだけど、都会だと多いんだあれ。性的な意識に惹かれやすい生き物だから、都会には欲求不満な人が多いせいだだろうって言われてるけど」
「インヨウ?」
「性的なものを摂取する闇の生物の総称だよ。エッチな意味の淫に、妖怪の妖で、淫妖って書くの。触手の淫妖は、特に獲物を性的に興奮させて、それで発せられる生命力を吸うのに特化されてるタイプだね」
 確かに襲われた際、凄く気持ち良くさせられて精液を吸われた。
 あれは生命力を吸われていたのだろうか。
 そう考えると、やはり死にかけていたのだと思えてゾッとなる。
 そして続けて頭に浮かんだのは、夢で両親に襲いかかっている触手の姿だった。
「もしかして、父さんと母さんが死んだのって……触手のせい……」
「それは違うよ。悠斗の両親の死因は、事故に遭った時の怪我だから」
「で、でも、あいつら父さんと母さんの体に吸い付いてた……」
「人間はね、死んでも肉体はしばらく生きてるの。触手はそういった体からも生命力を吸おうとするから」
「だけど父さんと母さんは動いたし、声だって出してたし……」
「それは肉体の反射的な反応で、二人の意思によるものじゃないよ」
 推測を否定された事に、脱力しながら大きく息を吐き出す。 
 とはいえ、蒼依に言われるまでもなく分かっている事でもあった。あの時自分は、両親がすでに死んでいる事を認識していたからだ。
 それなのに触手が原因であるように思いたがったのは、「触手さえ居なければ、両親は死なないで済んだのかも知れない」という救いの可能性を得たかったのかも知れない。
「辛いこと、思い出させちゃったね」
「ううん、いいんだ……」
 今更両親の死を触手によるものにしたところで意味はなかった。事故であろうと何かに殺されたのであろうと、死は死でしかないからだ。
 人の悪意による殺害ならば恨みを抱けるかも知れないが、意思があるとは思えない触手の行為だとすると、そんな意識は起きなかった。
「でも、触手に襲われて死んだ人とかっていないの?」
 気を取り直してそんな事を尋ねてみる。
 自分の両親は違うにせよ、生命力を吸うとなれば、死に至ることがあってもおかしくないように思えたからだ。
「いるよ。時々触手のせいで死んだ人が発見されてるから」
 その言葉にショックを受ける。
 予想はしていたが、やはり人が死ぬという事には恐ろしさを覚えたからだ。何よりつい先ほど自分がそうなったのかも知れないと思うと余計だった。
「それって何とかならないの? 警察が取り締まるとか……」
「警察は無理だね。闇の生物が見えないから」
「そうか……」
 そもそも人の犯罪ではないのだから、警察が取り締まるというのも違うように思えた。
 しかしそれでは人間を殺す生き物が放置されている事になるため憤りを覚える。
 今回自分は蒼依によって助けられたが、もしそうでなかったら死んでいたかも知れないのだ。
「だからうちの一族は、そういう仕事をしているの」
「え?」
「樹道家の家業って、闇の生物の駆除なんだよ。政府直轄の機関でね、国家公務員なんだから」
 その言葉に呆気にとられる。
 いきなり政府直轄とか言われたことで、現実的なイメージが広がったからだ。
「実はうちの両親の仕事もそれなんだよ。悠斗には黙ってたけどね。転勤や出張が多いのもそのせいなんだ。何しろこの仕事をしてる人って少なくて、色々な所へ行かなくちゃいけないから」
 まさか留守であることの多い両親の仕事が、そんな内容だとは思ってもみなかった。
「お姉ちゃんも大学を卒業したら同じ仕事に就くつもり。多分悠斗もこれからお願いされると思うよ。血に目覚めたからね」
「血に目覚めたって……」
「鬼の血だよ。それによって闇の生物を駆除できるの。さっきお姉ちゃんがやったみたいに」
 脳裏に先ほどの蒼依の姿が浮かぶ。
 あれは本当に驚きだった。
 蒼依が「消えなさい」と告げると、それまで何本も存在した触手が一瞬にして消えたのだ。
「一族の、鬼の力の一つで『言霊(ことだま)』っていうんだけど、自分の言葉に相手を従わせる事が出来るんだ。もちろん人間みたいに意思が強い存在だと難しいけど、触手みたいな単純な生物なら簡単に効くの。まあ、一種の催眠術みたいなものだね。さっき言った暗示もこれの応用だよ」
 なるほど、催眠術の強力版と考えれば理解は出来た。
 以前テレビ番組で見たことがあるが、催眠術をかけられた人間が面白いように操られていたからだ。
「それと他にも、虫の知らせっていうか、第六感っていうか、意識みたいなのをキャッチする力もあってね、悠斗が襲われてたのが分かったのもそれのおかげ。角にね、ピピっと来たんだ。悠斗が怖がってるって感じと、あの触手の嫌な感じが」
 蒼依がタイミングよく現れたのを不思議に思っていたのだが、なるほど、そうした能力があるのだとすれば納得だった。
 やはり角のような常人と異なる部分があることで、そうした異能の力が出てくるのだろうか。それとも異能の力があるゆえに角が生えるだろうか。
 そんな事を考えていると、自然と視線が蒼依の額へと向いた。
 そこにあるのは、いつもと変わらぬ滑らかな額だった。
 どう見ても普通の額でしかなく、角が生えていたなど嘘のようにしか思えない。
「ん? お姉ちゃんの角が気になる? 今は全然分からないでしょ。角はね、意識すると引っ込める事が出来るし、引っ込めると全然分からなくなっちゃうんだよ。それに、血に目覚めない限り出てくることはないしね。実際悠斗は無いでしょ、角」
「うん……」
 そう言われて思わず額に手をやる。
 すると鋭い痛みが走ったため、顔をしかめた。
「痛い? まだ目覚めかけだから敏感なんだね。これから角が生えるかも知れないから、そういう感じがするんだよ」
 何度言われても、角が生えるというのは衝撃的な事であり、想像外な事だった。
 しかしこの額の痛みを考えると、そうなってもおかしくないように思えたため、少々怖くなってくる。そもそも角など生えてしまったら、どうすればいいのだろう。
「大丈夫。慣れれば引っ込めたままで暮らせるから。実際今までお姉ちゃんに角があるなんて分からなかったでしょう?」
 こちらの不安を察したのか、蒼依はそう告げてきた。
 確かにこれまで蒼依に角があるなど分からなかった。
 ならばもし自分に角が生えたとしても、何とかなるのではないか。
 そう思えて、少しホッとしてくる。
 蒼依は笑顔を浮かべながら自らの額を撫でるようにしており、その様子を見ていると、額の疼きが増し、股間の一物が強く勃起していくのが感じられた。
「ふふ、額が疼くんでしょ? それとお姉ちゃんに、エッチなことしたくなってる」
「う……」
 思い切り見透かされている事に、凄く恥ずかしくなった。
 だが己の股間に視線を向けると、見事に盛り上がっていたため、これではバレてしまっても当然だろう。
「悠斗がそうなっちゃってるのもね、仕方のない事なんだよ。血に目覚めると、同族の異性に凄く欲情するようになっちゃうから」
「え? 何それ?」
「鬼の血が呼び合うみたい。血が薄まらないように、同じ鬼の血を持つ異性を求めるんだって。だから鬼に目覚めかけてる悠斗が、もう鬼として目覚めてるお姉ちゃんとエッチしたくなってるのも当然のことなの」
 そう言われると納得できる部分があった。
 何しろ少し前までの自分は、ここまで蒼依に欲情していなかったのに、最近は異常なまでに興奮していたからだ。それはまさに「肉体が蒼依を求めている」という感じだった。
「角を見るとそれが強くなるみたい。さっきすぐに角を引っ込めたのもそのせい。いつまでも出してると、悠斗が興奮しすぎて話が出来なくなっちゃうからね」
 確かに蒼依が角を出した際、自分は妙に興奮していた。
 それ以外でも角を生やした蒼依の姿に、強い欲情を覚えていたのだ。
 先ほど自慰をした時も、角の生えた蒼依を想像した事でかなり興奮していたのである。
「特に十代くらいで血に目覚めるとね、どうしても性欲のコントロールが難しくなるんだって。だから上手く処理するようにしないと大変なの。暴走して大変な事になっちゃうから」
 確かに自分の性欲は少々暴走しているように思えた。蒼依に対する欲情は日々強まっていたし、先ほどはついに自慰のネタにまでしてしまったのだ。
「だからちょうど話も終わった事だし、お姉ちゃんが、性欲処理してあげるね」
「え……?」
 いきなり信じられない事を言われたため驚く。
 どういう意味なのだろう。まさかエッチな事をしてくれるのだろうか。
「一族の義務でね、性欲に暴走しそうな人は、誰かが処理してあげるの。普通は知り合いの人とかがするんだけど、悠斗はお姉ちゃんでいいよね? 近くに一族の人って居ないし」
 そう呟くと、蒼依は膝立ちになって体を寄せてきた。
 その顔にはどこか淫靡な雰囲気があり、それが徐々に近づいてくるのに心臓が激しく鼓動する。
 予想通りエッチな事がされようとしている状況に、嬉しさと期待で頭がおかしくなりそうだった。
 心の片隅では、「蒼依とそんな事するなんていけない」という想いも起きていたが、それ以上に、目の前に迫る可愛らしくもいやらしい肉体に、早く触れたいとする衝動が強まっていた。
 当然だろう。ずっと憧れ、性欲の対象として妄想していた相手なのだ。
 その蒼依が、自ら誘い、いやらしい事をしてくれると言っているのである。
 それに逆らうなど出来るはずがなかった。
 蒼依の両腕がゆっくりと伸びてきて、首に回され、強く抱き締められる。
 柔らかな肉が押しつけられ、そのフニっとした気持ちのいい感触にうっとりとなった。
 顔が接近してきて頬ずりされると、滑らかな肌が擦り付けられるのに、ゾクリとした快感が起きていく。
 蒼依は一旦顔を離すと、ジッとこちらを見つめていたが、不意に小さく微笑んだ。
「悠斗、大好きだよ」
 いきなり告げられた愛の言葉に、心臓が飛び跳ねるようにして鼓動する。
 これまでも何度か言われたことのある言葉だったが、今のこの状況で告げられると、特別な意味があるように思えたからだ。姉弟愛ではなく、男女の愛として言われたように感じられたのである。
 潤んだ瞳が徐々に閉じられていき、ゆっくり顔が近づいてくると、やがて唇が重なった。
 柔らかな感触と、くすぐったさが唇に起きているのに、信じられない想いを抱く。
(姉さんと……キス、してる……)
 その事に強烈な喜びを感じると共に、生々しい唇の感触に興奮を覚える。
「んっ……」
 可愛らしい鼻息が漏れると同時に、背中に回された手に力がこもり、それまで以上に強く抱き締められた。
 少しすると唇が離れ、こちらを見つめている蒼依と目が合う。
「ふふ、悠斗とキス、しちゃった……」
 恥ずかしそうに呟いているのに心臓が強烈に跳ねた。何と可愛らしいのだろう。
 そのままギュウっと抱き締められ、柔らかな女肉が押しつけられるのに、頭が朦朧としそうなほどの心地良さを覚えた。
 特に胸元では豊満な膨らみが潰れている感触があり、その事で股間の一物が硬度を増していった。
「性欲の処理は一族の義務だって言ったけど、お姉ちゃんは嫌々している訳じゃないからね。可愛い弟にしてあげるんだもん。凄く嬉しいよ」
 その言葉に歓喜が湧き起こる。嘘でないのが感じられたからだ。
「それじゃ、次はもっと気持ちのいいこと、してあげるね?」
 そう言われた瞬間、肉棒が掴まれたため硬直する。
 丸出し状態であった事から、直接蒼依の手のひらの感触が伝わってきて、その温かさと柔らかさにうっとりとなった。
「こうされると、気持ちいいでしょ?」
 肉棒を握っている手が上下に緩やかに動き出し、その事でじんわりとした快感が押し寄せてきた。
 普段自分でしているのとは異なる刺激が感じられ、特に蒼依がしてくれているのだという事に、激しい興奮が起きてくる。
 柔らかな指が優しく強く肉棒を包み込み、しごいてくるのに呼吸が乱れていく。
 亀頭から先漏れの液が垂れており、それが蒼依の綺麗な指にかかっているのがいやらしい。
(姉さんが俺の……俺のチンポ擦ってる……)
 その信じられない状況に、震えるほどの喜びが溢れた。
 性欲の処理をしてくれると言っていた事から、予想はしてはいたものの、やはり実際にされるとその衝撃は強かった。
 しかもその行為を、蒼依は嬉しそうに行なっているのだ。
 彼女の表情はこれまで見たことのないいやらしさに溢れており、このようなエッチな蒼依は初めてだった。
 だがそうなっているのも当然だろう。何しろ男の肉棒を掴んでいるのだ。健康な女性であれば興奮するのは自然な事だった。
 さらに同族の異性を求めさせる血が、蒼依にも流れている事を考えれば、普通の人間よりも興奮している事もあり得た。
「ふふ、気持ちいいんだね。ならもっと良くしてあげる……」
 蒼依はそう囁くと、屈んで股間に顔を寄せてきた。
 一物の傍に可愛らしい顔があるという光景は、それだけで爆発しそうな切迫感をもたらしてくる。
(姉さん……もしかして、口でしてくれるのか……?)
 驚きと期待が混じり合った状態で凝視していると、桜色の唇の間から赤い舌が現れ、亀頭をペロリと舐め上げた。
「!……」
 途端、鋭くも気持ちのいい刺激が起こり、体がビクっと勝手に震える。
(ね、姉さんが俺の、俺のチンポを……)
 信じられない状況に驚愕していると、今度は肉幹に舌が這わされ、なぞられるように舐められた。
 まるでアイスを食べるようにしてペロリペロリと触れてくるのに、気持ちの良さが走り抜け、小刻みな震えが起きていく。
「はぅっ……ね、姉さん、うぅっ……」
 特にざらついた舌で裏筋を擦られるのはゾクゾクする快感があり、その刺激に鼻息が荒くなった。
 蒼依は頬をほんのりと紅潮させ、熱心に肉棒を舐めており、そうしたいやらしい姿を見ていると、強烈な誇らしさと満足感が押し寄せてくる。
「こうされるとどう? 気持ちいい?」
 こちらの視線に気づいたのか、蒼依は上目遣いで見つめ、ニコリと微笑みながら舌を這わせてきた。
 亀頭に舌が絡まり、包まれるようにして舐められるとたまらず、傍にある机に手をつき、爪を立てて耐える。
「いい、ふぁ……姉さんいいよ、うぅっ……スゲェ気持ちいぃ……」
 うっとりしつつそう応えると、体がさらなる刺激を求めたのか、腰が勝手にクイクイっと押し出すような動きをした。
「ふふ、もっと気持ち良くして欲しいの? ならこういうのはどうかな?」
 そう呟いた蒼依は、口を大きく開いたかと思うと、パクリとばかりに肉棒を咥え込んできた。
 瞬間、温かで湿った肉に包まれる感触が広がり、それと共に今まで感じたことのない気持ちの良さが股間に溢れた。
「ふぁ……はふ……」
 思わずそんな吐息を漏らしながら、頭を仰け反らせ、生まれて初めて味わう口内による刺激に浸っていく。
 眼下では、嬉しそうに微笑みながら肉棒を咥えている蒼依の姿があった。
 その顔は普段と変わらない可愛らしさがあったが、浮かべている表情には見たことのない淫靡さが漂っていた。
 とろんっとした瞳は潤みを帯びており、長く美しい黒髪がほつれて顔に掛かっているのが色っぽい。
 口内の粘膜が肉棒に張り付き、刺激を与えてくるのに震えを走らせつつ、柔らかな舌に舐められる事で大きな鼻息が吹き出す。
「んっ、んんっ……んふぅっ……」
 可愛らしい顔が、くぐもった吐息を漏らしながら上下に動き、口全体で擦りあげてくる。
 温かで湿った肉に包まれて擦られる快感は、舐められるよりも刺激的であり、体が震えて止まらなかった。
 蒼依は一旦口を放すと、肉棒の付け根から裏筋をベロリと舐めあげ、亀頭を包むようにし、強く吸い付いてきた。
 それは実にたまらず、つい先ほど射精したのが嘘のように、悠斗はもう限界になっている己を感じた。
「ね、姉さん……出ちゃう、出ちゃうよぉ……」
 まるで幼い頃に戻ったかのような情けない声で訴えつつ、精を漏らさないよう必死になる。
「んっ、んぐっ……いいよ、んっ……出していいから、んんっ、んっ……我慢しなくていいから出して、んんぅっ……」
「うぁっ!」
 射精を促す言葉と共に強く吸引され、可愛らしい顔がいやらしく微笑んだのがとどめとなり、悠斗は精を放出した。
 ドピュッ、ドピュッ、という激しい律動と、続けてドクドクドクと勢い良く精液が迸る快楽に意識が真っ白になっていく。
 少しして精の放出が止まると、悠斗は力を抜き、椅子の背もたれに身を預けた。
(出しちゃった……姉さんの口に、出しちゃった……)
 ぼんやりとそんな事を思いながら、性欲の発露を受け止めてくれた姉の姿を見つめる。
 蒼依は口に含んだ精液を飲み込んでおり、自分が出したモノを嚥下してくれているその様子に悦びが溢れた。
 優しい笑顔を浮かべながらこちらを見上げてくるのに、愛おしさが込み上げ、幸せな気分になっていく。
(ああ……姉さん大好きだ……)
 これまでも姉として愛していたが、今はそれ以上の、一人の女性としての愛情も混ざっているように思えた。以前から欲情の対象として見ることはあったが、フェラチオをされた事でその意識が強まったのだろう。
 先ほどの話では、同族を求める血の影響とも取れたが、それとは別に愛情が高まっているのだ。
 自分は昔から、血に目覚める前から蒼依を求めていた。
 蒼依こそが理想の女性であり、愛する対象だったのである。
 無論、血の影響も否定は出来ないだろう。
 何しろたった今射精したばかりだというのに、肉欲は全く治まる様子を見せず、蒼依を抱きたい衝動が押し寄せてきていたからだ。
 この素晴らしい、愛すべき女性を己の物にしたい。
 抱き締めて貪り付くし、肉棒を押し込んで擦りあげ、自分の物だという証を注ぎ込みたい。
 そうした雄としての欲求が、爆発的に高まっていた。
 これほどまでに強い衝動は初めてだった。抑えきれないほどの肉欲が湧き起こっているのだ。
 まさにこれこそ同族を求めさせる血の欲求であり、ここのところ悩まされ続けてきた、同族の雌を得たいとする衝動なのだろう。
「ふふ、悠斗の飲んじゃった……」
 上目遣いで見つめながら呟いている蒼依に、心臓が激しく鼓動する。
 普段は感じられない淫靡な雰囲気が漂っており、その蠱惑的な様子に、放出したばかりの肉棒が一気に回復していく。
「わぁ、もうおっきくなってる。悠斗ってばお姉ちゃんの事、エッチな目で見すぎだよぉ。しょうがないんだからぁ」
 咎める言葉でありながら、その口調は甘ったるいものであり、逆に誘っているように感じられた。
「だ、だって、姉さんがエッチなんだもん。スゲェエッチなんだもん……」
 ゴクリと唾を飲み込み、鼻息を大きく吹き出しながら告げる。
 今すぐにでも抱き締めて押し倒し、その豊満な肉体にむしゃぶりつきたかった。
 そうしたら駄目だろうか。
 きっと大丈夫だ。今の蒼依なら受け入れてくれる。何しろ誘ってきたのは蒼依なのだから。
 フェラチオだってしてくれたのだ。ならセックスだって大丈夫なはずだった。
 ヤれ、ヤるんだ、ヤってしまえ……。
 もう限界になった肉欲が、微かに残った自制心を駆逐していく。
「何だかお姉ちゃんも我慢できなくなってきちゃった……ね、お姉ちゃんとしてみる? もっとエッチなこと……」
「!……」
 こちらの想いを受け入れてくれるその言葉に、心臓がドクンっと大きく鼓動する。
 悦びが溢れ、意識せずとも首が縦に何度もコクコクと振られた。
「ふふ、可愛い……それじゃしよっか……おいで、こっちでしよう」
 手を引っ張られ、ベッドへ移動して腰を下ろす。
 蒼依も隣に座ると、首に腕を絡ませ、体を寄せてくるのに鼻息が荒くなった。
 頭一つ分低い位置に可愛らしい顔があり、潤んだ瞳が上目遣いで見つめてくるのに、おかしくなりそうなほどの興奮を覚えた。
「悠斗、大好きだよ……」
 そう告げられると共に体が密着し、淫靡な笑みを浮かべた顔が近づいて、唇が重なっていく
 そのまま擦り付けるようにされ、ギュウっと抱き締められた事で、柔らかい女肉の感触が体中に広がり、そのあまりの心地良さに意識が朦朧としていった。
 体中から力が抜け、全てを蒼依に委ねながら、押し寄せてくる快楽に浸っていく。
 不意に何かが歯に当たり、それが奥へと入り込んで来たのに驚く。
 舌だ。蒼依が舌を入れてきたのだ。
 擽るように口内が舐め回され、こちらの舌に絡みついて強く吸ってくるのに、肉棒がビクンビクンと大きく震える。
「んっ……んふっ……んんっ……」
 そのままねちっこいキスを繰り返されるのに、意識が快楽に染まっていき、何も考えられなくなった。
 というより、この魅惑的な女体をもっと味わいたいとする、雄の本能で一杯になったのだ。
 それに押されるまま、蒼依にしがみつくようにし、こちらからも舌を絡ませ吸い付いていく。
 背中に回した手が震えてしまっているのが情けなかったが、興奮のせいかどうしても止まらなかった。
「んんっ、んっ……んふっ……」
 そうして少しの間キスを繰り返し、柔らかな肉体の感触を味わっていると、さらなる段階へ進みたくなった。
 そう、蒼依の胸に、あの魅惑的な膨らみに手で触れるのだ。
 ここまで来たら、しないでいるなど無理だった。というか、絶対にしたかった。蒼依も嫌がるはずはないから大丈夫だろう。
 そう結論づけてから、手をパジャマの胸元へ移動させ、豊満な膨らみをすくい上げるようにしてみる。
 すると指に柔らかな、重みを感じさせる物体が触れた。
 おっぱいだ。
 蒼依のおっぱいに触れたのだ。
 その事実に興奮を高めつつ手に力を入れると、吸い込まれるような感触が起きた。
「あん……」
 瞬間、蒼依の唇から何とも色っぽい吐息が零れたのに悦びが溢れる。
 感じさせた。蒼依を、女を感じさせたのだ。
 その事実がワクワクするような衝動を呼び起こし、鼻息を荒くしながら続けて乳房を揉んでいく。
「あ……やぁ……」
 可愛らしい吐息が断続的に聞こえ、手のひらに広がる柔らかで弾力のある肉の感触に、興奮が否応なしに高まっていった。
 揉むたびにムニムニといった心地良い感触が伝わり、それに促されるようにして何度も何度も揉みしだいていく。
 少しすると、服の上からでは物足りなくなり、パジャマの下に手を差し入れると、直接乳房を掴む。
 滑らかな肌の感触と、むっちりとした肉の弾力が生々しく伝わり、これまでとは異なる気持ちの良さに、悠斗は夢中になって揉みしだいていった。
「や……あん……悠斗ぉ……」
 蒼依は潤んだ瞳をこちらへ向け、泣きそうな顔をしながら、何かを訴えるようにして見つめている。
 その暗に「もっとして」と言っているように思える表情に鼻息を荒くしながら、今度は先ほどから手のひらに触れている硬い突起を指先で摘んでみた。
「ひゃんっ……あっ、やぁっ……」
 乳首への刺激は感じやすいようで、蒼依はピクピクと震えて体をくねらせた。
 続けて捻ったり引っ張ったりすると、益々悶えが激しくなり、逃げるような動きをしながらも、逆に体を押しつけてくるのに鼻息が荒くなる。
(もっとだ……もっと色々するんだ……)
 肉欲が高まった悠斗は、衝動に押されるまま蒼依をベッドへ押し倒すと、パジャマを捲り上げて、生の乳房をさらけ出した。
 そこには真っ白な、二つの丸い物体があった。
 横たわっても形が崩れていない、芸術作品のように見事な形状をしたそれは、まさに理想的なおっぱいだった。
 白い膨らみの中にピンク色をした突起が存在しており、ツンっと上を向いて揺れているのが、まるで誘っているように感じられ、「この肉の塊に埋もれてみたい」とする強い衝動を呼び起こした。
「ね、姉さぁん……」
 擦れた声を発しながら、美麗な双乳に顔を押しつけていく。
 途端、顔中に滑らかで柔らかな感触が溢れ、たまらない気持ちの良さが起きた。
 両手で左右から乳房を押して顔を挟み込み、首を回すように動かして、乳房の感触を堪能していく。
 何と素晴らしいのだろう。蒼依のおっぱいは最高だった。
「あん……もぉ、悠斗ったらぁ、甘えん坊さんなんだからぁ、やっ、あっ……」
 苦笑しているような口調で告げながらも、頭を優しく撫でてくるのに嬉しくなる。
 幼い頃から慕い、甘えてきた相手だけに、そうされると強烈な安堵感と幸福感を覚えるのだ。
「あっ、やんっ……あっ、はぁ……」
 続けて乳首に吸い付き、強く吸い上げてから弾くように舐めていくと、蒼依はそれまで以上に敏感に反応を示し、可愛らしい喘ぎを発した。
 その様子に鼻息を荒げながら、乳房全体にむしゃぶりつき、揉みしだいて、美麗な果実を味わっていく。
 今まで妄想の中で何度もしてきた行為を実際にしている事に悦びが溢れ、蒼依が予想以上に反応してくれているのに歓喜の想いが起きた。
 蒼依は最高だった。
 蒼依の体はたまらなかった。
 この素晴らしい肉体を自由にさせてくれている事に、強い感謝の念が起こり、愛情が爆発的に高まっていく。
「姉さん大好きだっ……大好きだよぉっ……俺、姉さんが大好きなんだっ……」
 そう叫びながら、首筋に舌を這わし、顎を舐めてから唇に吸い付いていく。
「んっ、んんっ……んふっ……お姉ちゃんも、んっ……お姉ちゃんも悠斗のこと、大好きっ……」
 背中に腕が回されて強く抱き締められつつ、愛の言葉を告げられるのに喜びが押し寄せてくる。
 そのまま唇を激しく擦り合わせ、舌を絡ませて口内を舐め回し、互いの体を押しつけ求め合っていく。
 もっと蒼依とくっついていたかった。
 この素晴らしい姉と一つになりたかった。
 愛する蒼依と繋がり合いたかった。
 その爆発的な想いに体を起こした悠斗は、目の前にある可愛らしい顔をジッと見つめた。
「入れたいの?……いいよ、お姉ちゃんの中に入っておいで……」
 優しく促してくる言葉に、心臓がそれまで以上に大きく跳ね、嬉しさと興奮と期待の入り交じった感情が湧き起こった。
 これから蒼依の中に入る。
 愛する姉と一つになれる嬉しさと、素晴らしい女体と繋がれる興奮、そして初めてセックスを味わうことへの期待が、悠斗の頭を蒼依で一杯にした。
 震える手でパジャマのズボンを引き下ろし、パンティに手をかけて脱がしていく。
 続けて美麗な両脚を持って左右に開くと、中央に貝のような肉の襞が見えた。初めて見る女の秘所だ。
 すでに濡れているらしく、テラテラと光っているのがいやらしい。
 それが蒼依を感じさせていた証拠に思えて誇らしさを覚えつつ、入れる穴はどこだろうと目で探る。
「ここ……ここに入れるんだよ。分かる?」
 こちらの想いを察したのか、蒼依は肉の襞を指で広げてくれた。
 示された箇所へ目を向けると、何やら小さな穴があるのが見えた。これが肉棒を入れる所なのだろう。
「い、入れるからね……?」
 いよいよ蒼依の中へ入るのだ。女を知るのだ。
 そうした興奮に体を震わせながら、ぎこちない動きで肉棒を持ち、亀頭の先を穴へと近づけていく。
「もうちょっと下……あ、行きすぎ……ほら、落ち着いて。慌てなくていいから……うん、そう、そこ……そこにそのまま……あんっ……入った、入ったよ……」
 誘導されて動かしていると、不意に何かにハマるような感触が起きた。
 そこが正解だという蒼依の言葉に頷き、少し前に押し出してみると、亀頭の先が温かくて湿った感触に包まれた。
「うん、入ったね……それじゃ、今度はそのまま押し込んでみて……全部入れるの……そう、そう……そうやって……あぁ、あんっ……」
 言われるまま腰を進めていくと、亀頭が肉をかき分けて奥へと収まっていった。
 ジッとしていても膣襞が絡みつき、擦ってくるのに、信じられない気持ちの良さが起きてくる。
(ふぁ、あったかい……それにスゲェ気持ちいぃ……これが女の中なんだ……たまんね……)
 初めて体験する膣の感触に、悠斗の意識は朦朧となった。
 何しろ入れただけでも凄まじく気持ち良かったのに、擦れてからの刺激は、さらに蕩けるような快感を生んだからだ。
 今までこの気持ちの良さを知らなかったとは、何と勿体ない事をしていたのだろう。
(全部……入った……)
 もうこれ以上進めない、という所まで押し込んだ後、大きく息を吐き出してから力を抜く。
 視線を下へ向ければ、蒼依が優しげな笑みを浮かべ、満足そうにこちらを見上げていた。
「一つになったね……今お姉ちゃんと悠斗は、繋がってるんだよ……」
 その言葉を意識すると、肉棒の収まっている場所が蒼依の中なのだという事が改めて認識させられた。
 するとまるで己の全てが蒼依に包まれているような感覚と共に、強い愛情が起きてくる。
「姉さんっ……姉さん大好きだっ……俺、姉さんが好きで好きでたまらないっ……」
 思わず泣きそうになりながらそう叫び、蒼依に抱き付いていく。
「お姉ちゃんも大好きだよ。悠斗の事、愛してるんだから……」
 そう返してくる蒼依の瞳も涙ぐんでおり、自分を愛おしく思ってくれているその様子に、強烈な喜びが溢れた。
「姉さん、姉さぁんっ……」
 蒼依に対する愛情を示したい。そうした想いが腰を勝手に動かし出し、ぎこちないピストン運動が開始される。
 途端、蕩けるような快感が股間から湧き上り、その刺激に一瞬頭が真っ白になった。
「あっ、ああっ……悠斗、あんっ……悠斗ぉっ……」
 眼下では、蒼依が甘い吐息を漏らし、与えられる刺激に喘ぎ悶えている。
 こちらの突き込みに合わせて体が前後にずれ、胸の大きな膨らみがプルンプルンと揺れ動く。
 その振動が股間を通じて伝わってくるのが、蒼依と繋がっている現実を改めて認識させて嬉しくなった。
 普段の蒼依からは想像出来ないいやらしい姿に、興奮は激しさを増し、もっともっと乱れさせたくなった悠斗は、必死になって腰を振っていった。
「あっ、やんっ……そんな激しいの、あっ、あぅっ……駄目、やっ、あぁんっ……」
 荒々しい突き込みに、蒼依は顎を仰け反らせ、頭を左右に振って悶えた。
 可愛らしい顔が上気して桜色に染まっており、快楽から虚ろになった瞳はこちらをぼんやりと見つめ、半開きになった唇からは赤い舌が覗いていた。
(姉さんエッチだ……何てエッチなんだろ……それにスゲェ可愛い……いつもよりスゲェ可愛いよ……)
 淫らな蒼依の姿に興奮を高めつつ、そうさせているのが自分なのだと思うと、姉を征服している満足感が押し寄せ、愛おしさが強まった。
 この女は自分の物だ。
 姉は、蒼依は自分の物なのだ。
 喘がせ、悶えさせていいのは自分だけなのである。
 そうした独占欲が湧き起こり、蒼依に対する執着を強めていく。
 それと比例するように肉棒から伝わる快感も高まっており、膣襞に絡みつかれ嬲られている状態は、おかしくなるほどに気持ち良すぎた。
「うぅっ……姉さん俺もう、うっ……俺もう出るっ……出ちゃうよぉっ……」
 すでに数度射精しているにも関わらず、あっという間に限界は来てしまった。
 それだけ蒼依の肉体による刺激が強いのと、愛おしさが強烈になった事による精神的な高まりが影響しているのだろう。
 切羽詰まった射精感に、悠斗は歯を食いしばって耐えた。
「あっ、あんっ……いいよ、あっ……いいよ出して、ああっ……お姉ちゃんももう、あっ……もうイくから、あんっ……だから出して、あっ、ああっ……お姉ちゃんの中に、悠斗の出してぇっ……」
 その言葉に歓喜の想いが湧き起こる。
 蒼依の中に出す。
 それは何と素晴らしい事だろう。
 避妊具を付けてない事から、もしかしたら妊娠させてしまうかも知れないという恐怖もあったが、それ以上に蒼依の中に射精する事の悦びが強まり、このまま出すのだと、腰の動きに勢いが増していった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……悠斗っ、悠斗っ、悠斗ぉっ……お姉ちゃんもう駄目、あっ……お姉ちゃんもう駄目なの、ああっ……イくっ、イっちゃうっ、イっちゃうよぉっ……やぁああああああああんっ!」
「うぁっ、姉さぁんっ!」
 蒼依の絶頂の叫びと共に膣内が収縮し、肉棒が強く締め付けられる快感に押されるまま、悠斗は精を放った。
 ドピュっ、ドピュっ、と精液が迸り、肉棒が律動するたびに快感が脳を駆け抜けていく。
 体がガクガクと大きく震え、何度も何度も射精が行われていくのを、朦朧とする頭で認識する。
 額が強烈に熱くなり、ジクジクとした痛みが快感のように走り抜けた。
 股間の肉棒における射精の感覚とは別に、頭部においても額から何かが迸っているような感じがあった。
 二箇所において激しい解放感が発生しており、まるで自分の全てが吐き出されているような錯覚が起きていく。
 数度の射精を繰り返した後、最後の放出を終えた悠斗は、柔らかな女肉の上へと倒れ込んだ。
 頬に蒼依の荒い吐息が当たり、その事で改めて「蒼依とセックスをしたのだ」という実感を覚える。
 今も密着している事で伝わってくる体温、そして柔肉の感触。
 それらを己の物とした喜びに、心が震えた。
 一方で妙な恥ずかしさも起きていたため、どうにも蒼依の顔を見ることが出来ず、しばらくそのままの状態で居続ける事にした。
 少しして呼吸が穏やかになった頃、頭に蒼依の手が置かれ、優しく撫でられ始めた。
 昔からそうされると凄く幸せな気分になったものだが、今は初めてのセックスを終えた直後であるせいか、それがより強くなっているように思えた。
「ふふ、しちゃったね……」
 不意に耳元で、囁くようにして告げられた言葉にドキリとする。改めて義理とはいえ、姉弟でセックスした事を意識させられたからだ。
 それと同時に、己がとんでもない事をしたのだという認識が強まった。
 幼い頃から、ずっと家族として暮らしてきた相手を抱いたのだから当然だろう。
 つい先ほどまでは肉欲で頭が一杯であったため気にならなかったが、冷静になった今は、己のした行為に少し怖さを覚え始めていた。
 何より愛情によって結ばれたのではなく、肉欲のままにセックスしたように思えたため、余計そうした想いが強まった。
 蒼依も言っていたではないか、「我慢できなくなった」と。
 自分たちは同族を求める血の作用から、肉欲に流され、セックスをしたのだ。
 無論、愛情を感じさせる言葉のやり取りはあったが、理由として強くあったのは肉欲に思えたのである。
 大切な姉を、そんな理由で抱いてしまった事に後悔の念が起きてくる。
 結ばれたこと自体は嬉しかったが、やはり愛情の昇華としてではなかった事が悲しかった。
「姉さん、俺……」
「お姉ちゃんはね、悠斗の事が大好きだよ。だからこうなったのも後悔してない。むしろ嬉しいの」
 悔恨の想いを述べようとすると、それを遮るようにして蒼依が言葉を発した。
「きっかけは血のせいだけど、お姉ちゃん、ずっと悠斗のことが好きだったから。昔から大好きだったから。だからこうなったのは全然嫌じゃないよ。悠斗と結ばれたの、すっごく嬉しいからね」
 繰り返される「大好き」「嬉しい」という言葉に、喜びが溢れてくる。
 自分が落ち込んでいるのを察して言ってくれているのだというのが分かり、蒼依の優しさを改めて認識する。
「俺も、俺も姉さんのことが大好きだ……」
 言葉で愛情を表すと、それが実感として感じられた。
 自分は蒼依を愛している。
 大好きで大好きで仕方がないのだ。
 だから抱いたのであり、きっかけが何であろうと関係なかった。
「ありがとう。凄く嬉しいよ」
 蒼依が恥ずかしそうに告げてくるのに、ドキンっと心臓が強く鼓動し、体に震えが走り抜けた。
 愛の言葉を肯定されること。
 それは人を凄く幸せにする事だった。
「姉さん俺っ、俺ぇっ……」
 何かを告げたい、この想いを伝えたい、という爆発しそうな衝動から体を起こし、真正面から蒼依を見つめる。
 だがその可愛らしい顔が視界に入った瞬間、予想外のものが目に映ったため、思わず硬直してしまう。
 額に小さな突起が、角が生えていたのだ。
 すでに何度か見てはいたものの、未だ慣れていない姿であった事から驚いてしまったのである。
「あ、角出ちゃってるね……」
 こちらの様子で気づいたのか、蒼依は額を手で押さえながら照れたようにしている。
 その様子が何とも可愛らしく、思わず口元がニヤけてしまう。
 やはり角の生えている蒼依は魅力的だった。
 いきなり目にした際はギョッとするものの、慣れてしまえば、角は可愛らしさの一部として認識されるからだ。
「いつもは意識して隠してるんだけど、気が抜けたりすると出ちゃうの。今みたいに凄く気持ち良くされちゃうと、抑えられなくなっちゃうんだね」
 その言葉に嬉しくなる。
 何しろそれは、蒼依を満足させられたという事であり、男としての自尊心を擽る内容だったからだ。
「ホント興奮しちゃってたからなぁ。自分でも驚いちゃうくらい……最初はここまでするつもりは無かったんだよね。一応姉弟だしさ。手でしてあげるだけにしようと思ってたの……でも悠斗の元気なオチンチン見ている内におかしくなってきて、つい口でしちゃって……それで悠斗がお姉ちゃんの口に、気持ち良さそうに出してるの見てたら、もう止まらなくなっちゃった……可愛い悠斗に抱かれたいって思っちゃったの……」
 告げられた言葉に、嬉しさと感謝の念が起きてくる。
 幼い頃から可愛がってくれてきた蒼依が、自分の事を男として求めてくれたのが、たまらなく嬉しかったからだ。
「これって血のせいだよねぇ。改めて一族の血の危うさを感じちゃったよ……何か止まらなくなっちゃってるのが自分でも分かったもん……悠斗にエッチなことしてると、『もっとしたい。もっとしてあげたい。自分も色々してもらいたい』って気持ちがどんどん膨れあがってきて、夢中になっちゃった……悠斗の暴走を抑えるためにやってたのに、お姉ちゃんの方が暴走しちゃったよ……」
 困ったように呟いているのに苦笑しつつ、先ほどの蒼依がそんな状態になっていたとは驚きだった。
 だが自分も似たような感じではあったため、実際これは血の影響なのだろう。
「悠斗もかなり興奮してたよね。そのせいで生えたみたいだし……うん、似合ってる……」
 一瞬何を言われたのか分からず呆ける。
 だが蒼依の手が額に伸びてきたことで、何のことであるのかすぐに理解した。
「お、俺にも生えてるの? その、角が……」
「うん……凄く綺麗だよ。凄く可愛い……生えたばかりの、綺麗な角……」
 額へうっとりとした視線を向けながら、蒼依は指先を近づけてくる。
「つっ……」
 触れたのが感じられたのと同時に、鋭い痛みが走り抜けた。
「あ、ごめん。まだ痛かったかな? 生えたばかりだと敏感だから……」
 蒼依は慌てて手を離すと、心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫。ちょっとビックリしただけだから……」
 そう告げながら、近くにある鏡に顔を映してみる。
 そこにあったのは、見慣れた顔ではあった。
 しかし違和感は否めなかった。何しろ額に、これまで無かった突起が生えているのだから。
 角だ。
 蒼依の言った通り、一本の小さな角が生えているのである。
 恐る恐る指で触れてみると、ピリッとしたため慌てて離す。
 もう一度ゆっくり触り、そのままの状態でいると、段々痛みに慣れてきた。微妙な刺激を感じるものの、優しく触れているせいか耐えられる程度になっているのだ。
(何か出っ張ってる……ちゃんと骨があるって感じだな……ホントに生えてるんだ、角……)
 生えることは事前に教えられていたため、何となく覚悟はしていたが、実際に生えた状態になってみると変な感じだった。
「大人びて見えるよ。うん、いい男」
 蒼依が下から覗き込むようにして見つめてくるのにドキリとする。普段と違って大人っぽい雰囲気があったからだ。
 自分も大人びて見えているのだとすれば、もしかして角が生えるとそうした状態になるのだろうか。
 変なことだと思いつつ、それとは別に欲情も相変わらず強まっているのに呆れる。
 角の生えた状態の蒼依を見ていると肉欲が激しくなり、肉棒もムクムクと大きくなったのだ。
 触手に襲われた時から数えると、すでにかなりの回数射精しているのだから、これほど反応が良すぎるというのは異常過ぎた。これが鬼の血の影響なのだろうか。
 実際、まだ一度も射精していないかのような落ち着かない衝動が押し寄せてきていたのである。
(俺、もっと姉さんを抱きたい。姉さんと気持ち良くなりたい……)
 無性に蒼依を抱きたい気持ちが溢れてくる。
 いや、これは気持ちというレベルではないだろう。そうせずには居られない、落ち着かない衝動だ。
 まさに欲だった。強い性欲が起きているのである。
 体内で抑えきれない肉欲が暴れ回っているのであり、とにかく蒼依を抱かずには居られない状態になっていた。
 目の前の女体を貪りたくてたまらなかった。今すぐにでも強姦したいほどになっているのだ。
「姉さんっ……俺、何か急に駄目だっ……姉さんが欲しくて欲しくて、たまらなくなってるっ……」
 鼻息を荒くしながらそう告げ、もう一度抱かせて欲しいと目で訴える。
 強姦だけはしたくなかった。愛する蒼依を無理矢理抱くなど嫌だったからだ。
 ゆえに許しが欲しかった。それさえ得られれば、気兼ねなく性欲を解放出来るからだ。
「したいの?……ふふ、元気だね」
 可笑しそうに言ってくるのに恥ずかしさを覚えるが、それ以上に体の奥底から湧き起こってくる衝動は強かった。
 何より今の蒼依は、角が生えていることで大人びた雰囲気があるせいか、色気を感じさせてたまらなかった。
「何か俺、我慢出来なくなっちゃってるんだ……姉さんとしないとおかしくなりそうなんだよ……抑えられなくて……」
 情けない声でそう告げつつ、己がかなり異常な状態になっている事を改めて認識する。
 これまでも蒼依に対して欲情する事はよくあったが、これほどまでに切羽詰まった、抱かずにはいられない、抱かないで居たら死んでしまう、と思えるような切実感は無かった。無理矢理にでも犯してしまいたいほどになっているのであり、明らかに普通ではなかった。
「悠斗、今自分がおかしくなってるの、分かってる?」
「うん。俺、何かおかしい。姉さんを抱かないと、死んじゃうくらいになってる」
 心臓がバクバクと鼓動し、息が乱れて苦しいくらいであり、それらは全て、蒼依に対する肉欲から来ているものだった。
「それが鬼の血なんだよ。とにかく異性とセックスしないでは居られなくなっちゃうの。これが酷くなると日常生活が送れなくなったりするんだから……実際どう? このままお姉ちゃんを抱かないでいるって想像したら……耐えられる?」
 そんな事は想像するまでもなく無理だった。
 蒼依を抱かずに、この柔らかな女肉を味わわずに過ごすなど、耐えられるはずが無かった。それほどまでに尋常ではない性欲が、心と体に溢れていたのである。
「無理っ、絶対無理っ……俺、姉さんを抱かないと狂っちゃうよ。それくらいおかしくなってるんだ……だからお願い、姉さぁん……」
 必死に訴え、甘えるようにおねだりする。
 股間の一物は、これまでとは比較にならないほどにいきり立っており、大きさもかなり膨張しておいて、強い痛みを感じさせるほどに硬くなっていた。
 ビクンビクンと震えを示している様は、我ながら異様な状態になっていると思えた。
「うわ、凄い……これじゃ辛いよね……うん、分かった。抱いていいよ……さ、おいで……」
 肉棒の状態を目にした蒼依は驚いたようにすると、両腕を大きく広げ、優しい笑みを浮かべながら、了承の言葉を告げてきた。
 その事に心と体が歓喜に包まれていく。
「姉さぁんっ……」
 蒼依に対する甘えの気持ちが最高潮に達した悠斗は、その想いをぶつけるようにしてしがみつき、体を押しつけていった。
 滑らかな肌と擦れ、柔肉が受け止めてくる快感に脳が刺激を受け、幸福感で一杯になる。
 白い首筋に舌を這わせ、豊満な乳房を掴んで揉みしだき、夢中になってその魅惑的な女体を味わっていく。
 荒々しく舐め回し吸い付き、まるで餓死寸前の者が食べ物にありつけたかのような勢いで貪りまくる。
「あっ、あんっ……ちょっと落ち着い、やっ……悠斗ってば、やぅっ……もう、がっつきすぎだよぉ……」
 悠斗の激しい愛撫に、蒼依は体をクネクネと動かしながら、逃げるようにしつつも甘く喘いでいる。
 その淫靡な姿に益々肉棒が猛り、蒼依の体を貪りたくてたまらない気持ちが溢れてきた。
 優れた女を従えている強い満足感と、もっとしたくてたまらない切迫感が交互に襲いかかり、意識せずとも勝手に体が動いて愛撫をし続けていった。
「ごめん姉さんっ。ホントごめんっ……俺、止まらないんだっ。姉さんを抱きたくてたまらないんだっ。駄目な弟でごめんよっ」
 欲情を止められない己を情けなく感じつつ、それを受け入れてくれる蒼依に感謝の想いと申し訳なさを抱く。
 普通の姉であれば、このような事はしてくれないだろう。それなのに蒼依は抱かせてくれるのだ。何と素晴らしい姉なのか。
「気にしなくていいの、あっ、あんっ……悠斗のせいじゃないんだから。今言ったでしょ、これは血のせいなの、やっ、やぅっ……悠斗は目覚めたばっかりなんだから、あぁっ……こうなっても仕方ないんだよ、やぅっ……」
 甘く喘ぎつつも優しく頭を撫でてくるのに、嬉しさから涙ぐむ。
 昔から蒼依はこうだった。どんな時でも自分の我が儘を受け止めてくれるのだ。文句は言っても、最後には受け入れてくれるのである。
「お姉ちゃんは、あんっ……悠斗がしたいなら何度でも、ああっ……抱かれてあげる、やぅっ……だから悠斗は満足するまで、あんっ……好きなだけしていいんだよ、あっ、ああんっ……」
 その言葉に、強烈な嬉しさと喜びが湧き起こった。
 この魅力的な肉体を好きなだけ、ずっと抱いていける。
 それはあまりに素晴らしすぎる事だった。
「俺っ……俺入れたいっ、入れたいよっ……姉さんの中に早く入りたいっ……」
 先ほど味わった蒼依との一体感。
 強烈な快楽。
 それをまた得たかった。
 その期待に対する興奮から、悠斗は体を震わせて叫んだ。
「いいよ。入っておいで……お姉ちゃんの中に、入っておいで……」
 潤んだ瞳で見つめながら、優しく促してくるのに強烈な悦びが溢れた。
 やはり蒼依は素晴らしい姉だった。
 自分の事を全て受け止めてくれる素敵な姉なのだ。
「姉さんっ……姉さぁんっ……」
 強烈な愛情を抱きつつ、はち切れんばかりに膨張した肉棒を持つと、膣穴の中へと押し込んでいく。
 ズブリとハマり込むと共に、蕩けるような気持ちの良さが溢れてくるのにうっとりとなる。
「ああんっ」と甘い喘ぎを漏らしながら、優しげに、そして愛おしげにこちらを見つめてくる蒼依に、悠斗は再び姉と一つになれた喜びを噛みしめつつ、しがみつくようにして腰を振っていくのだった。


「あっ、ああっ……あんっ……」
 目の前で四つんばいになった蒼依が、美麗な尻をいやらしく振りながら喘いでいる。
 二度目のセックスが終わっても治まらなかった性欲は、その魅力的な肉体を繰り返し求めさせた。
 もうこれが何度目であるのか覚えていない。
 射精して少し経つと肉棒は復活し、早く入れたくて仕方のない衝動が押し寄せた。
 蒼依は約束通り、求めると嫌がらずに受け入れてくれたため、その事に感謝しながら何度も抱いていった。
 何より湧き起こる肉欲は、抑えられないほど強烈であり、初めて知った女肉の味は、いくら味わっても満足出来ないほどに素晴らしかったというのもあった。
 とにかく止める理由が無かったため、何度も何度も抱いてしまっていたのである。
 これが鬼の血ゆえの衝動なのだろうか。
 まさにそれが事実であると確信させるほどに、今の自分は異常過ぎた。
「あんっ、あんっ、ああんっ……悠斗凄い、ああっ……悠斗凄いよぉっ……やっ、やぁっ……」
 細い腰を持って肉棒を強く突き込むと、それに合わせて小さな頭が何度も仰け反り、甘ったるい喘ぎが部屋に響いた。
 長い黒髪が乱れ、真っ白な背中に掛かるのが美しくもいやらしく、胸元でぷるんぷるんと揺れている大きな乳房も肉欲をそそった。
 これほど魅力的な女性を好き放題抱けていることに、改めて悦びが溢れていた。
 普通であれば、このように可愛くてスタイルの良い、素晴らしい女性を抱くことなど出来ないだろう。
 それを自分は、弟というだけで長年愛され続け、ついにはこうしてセックスまでさせてもらっている。
 さすがに実の姉弟であれば無理だったろうが、義理の関係である事が、ブレーキとしての効果を果たさなかったに違いない。
 遠い親戚であり、血の繋がり自体はある訳だが、その血はむしろ姉を求めさせる原因となっていた。
 一族の異性を求めさせる血。
 そのようなものがあるとは信じられなかったが、現にこうして自分は蒼依を強く求め、止まらない状態で抱き続けている。
 愛するがゆえにそうなってしまっている、ともとれたが、さすがに射精した後すぐさま回復し、抱きたくてたまらない衝動が衰えることなく湧き起こってくるのは、愛情を理由にするだけでは無理があった。
 特に額に生えている角を目にすると、異常なまでに肉棒が猛りまくり、抑えられない衝動が押し寄せてくるのは、通常ではあり得ない事だろう。
 まさに鬼の血が引き起こす性の衝動であると言え、とにかく蒼依を犯さずには居られない意識で一杯になってしまっていたのだ。
 そう、犯していた。
 自分は蒼依を犯していたのである。
 本来強姦している訳ではないのだから、「犯す」という言葉は違っている訳だが、姉弟の関係を壊している、という意味では合っているように思えた。
 今自分は、長年続いた姉弟としての関係を壊していた。
 蒼依を姉としてだけでなく、女としても愛し、その体を肉欲に基づいて貪っているのだ。
 それは強烈に快楽を感じさせる行為だった。
「あっ、ああんっ……いいっ、いいよ、やっ……悠斗いいっ……あっ、あぅっ……お姉ちゃん、あっ……気持ちいいのぉっ……」
 強い突き込みによる刺激に耐えられなくなったのか、蒼依は腕を崩すと、上半身をベッドへ押しつけ、尻を掲げる体勢になった。
 そのまさに姉を従えていると実感させる状況は、姉弟関係を壊している認識をさらに強めた。
 幼い頃から見慣れたはずの顔には、一つの小さな突起が生えており、上気した可愛らしい横顔は快楽に歪んでいる。
 そのこれまで見たことのない鬼として、そして女としての顔は、おかしくなるほどにそそるものを感じさせた。
(そうだよ……俺は姉さんを抱いてるんだ……小さな頃からずっと大好きだった姉さんを……角の生えてる素敵な姉さんを……こうしてチンポで突いて、好きにしてるんだ……)
 ずっと慕い、従ってきた姉を逆に従え、甘い喘ぎをあげさせ、いやらしく悶えさせている。
 それは実にたまらない状況だった。
 蒼依という素晴らしい女を、もっともっと己の物にしたかった。
 自分の物なのだという確信を得たかった。
 自分の物であると、樹道蒼依が樹道悠斗の物だという、そうした実感が欲しかった。
「ああっ、あんっ……凄い、ああっ……凄いよぉ、あ、あぅっ……悠斗の凄くて、ああっ……お姉ちゃん駄目ぇっ……」
 蒼依を己の物としたい意識が腰の動きを激しくし、美麗な尻が白い背中にくっつきそうになるほどの勢いで肉棒を叩き付けていく。
 蒼依は涙声で喘ぎ、シーツを強く引き寄せながら、頭を左右に振って悶えまくった。
 それはまさに男に従属した女の姿であり、この痴態を自分だけの物にしておきたいという気持ちを、強烈に高まらせるものがあった。
 この素晴らしい女を、他の男に渡したくない。
 絶対渡さない。渡してなるものか。
 そうした独占欲が押し寄せ、尻肉に指を食い込ませながら激しく腰を振り、蒼依を己の物としている幸福感に浸っていく。
「いいよ、ああっ……悠斗いいの、ああんっ……悠斗いいよぉっ……お姉ちゃん、あぅっ……気持ち、ああっ……気持ち良すぎるよぉっ……」
 肉棒を突き込むたびに体をくねり、頭を仰け反らせ、耐えられないようにして悶えまくるその姿を見ていると、自分が蒼依を支配しているのだという認識が強まった。
 もっともっと肉棒を突き込み、精液を注ぎ込めば、それが増していくように感じられ、狂ったように腰を叩き付けていく。
 完全に暴走していた。
 蒼依に対する強い執着に、悠斗の心は支配されていた。
「うぅっ……姉さんっ。俺の姉さんっ……姉さん大好きだよぉっ……」
 猛烈に高まった執着と肉欲に押されるまま、凄まじい勢いで肉棒を叩き付ける。
「あっ、あんっ……悠斗、ああっ……悠斗ぉっ……お姉ちゃんも大好き、あっ、ああっ……お姉ちゃんも悠斗が大好きだから、あっ、あぁんっ……」
 愛の呼びかけに愛の言葉で返してもらえた事に、喜びが爆発しそうに膨れあがった。
 完全に蒼依は自分の物だった。
 心も体も自分の物なのだ
 そうした確信が歓喜の渦を心に呼び起こし、悠斗は夢中になって腰を振りまくっていった。
「あんっ、あんっ、ああんっ……もう、あっ……もう駄目、あぅっ……お姉ちゃんもう駄目だよぉっ……イっちゃう、ああっ……イっちゃうの、あっ……お姉ちゃんイっちゃうぅっ……やっ、やっ、やぁあああああああああんっ!」
「!……」
 蒼依の絶頂の叫びと共に膣内が強く収縮し、その刺激に耐えかねて精を放つ。
 ドクドクドクと勢い良く迸る精液を感じつつ、湧き起こってくる快感に身を委ねながら、まるで射精を繰り返すたびに、蒼依が己の物となっていくような錯覚を覚える。
 これで蒼依を手に入れた。
 姉は自分の物なのだ。
 そんな幸福の想いに浸りながら数度の射精を行なった悠斗は、最後の精を放出し終えると、目の前が真っ白になっていくのを感じるのだった。


 夜道を歩いている悠斗は、額に意識を集中していた。
 この近くに居るであろう闇の生物、触手を探していたのだ。
 先ほどから微妙な反応を感じていたため、そちらへ向かって歩いているのだが、この周辺へ来てから細かい方向が分からなくなっていた。まだ探知力が弱いせいだ。
 額には小さな角が生えていた。角を出していた方が探知力が上がるので、そうした方が良いと言われたためだ。
 悠斗はあの日から、鬼の能力の修行をしていた。学校を卒業したら、家業である闇の生物の駆除の仕事に就こうと考えたからだった。
 この仕事をするのは別に強制ではなかったが、せっかくの特別な力であるし、何よりかなりの高給である事も分かったため、他の職業を選ぶよりも良さそうに思えたのである。
 だがそれはあくまで建前であり、本音は、蒼依もこの仕事をすると言っていたのが大きかった。姉と一緒に仕事をしたいという、まさにシスコンゆえの理由だったのである。
「こら、ボーッとしない。もっと意識を集中しなきゃ駄目だよ」
 不意に背中を小突かれたため慌てる。
 視線を向けると、斜め後ろに立って居る蒼依が、ジトっとした目で見つめていた。
「ごめん……えっと、こっちで合ってる、よね?」
 謝りつつ、方向が間違っていないかと確認してしまう。
「合ってるよ。でもちゃんと見える距離まで自分で探せないと駄目だからね」
「分かってるって」
 蒼依の額には角は出ていなかった。その状態でも、悠斗より闇の生物の位置を把握出来ているのだ。
 何ともこちらの未熟さを感じさせられてしまう状況だったが、まだ修行を始めたばかりである事を考えれば、当然の差と言えるだろう。
 とはいえ、その事を理解していても、情けなさを感じずには居られないのは、好きな女性の前ではカッコ良くありたいとする男心ゆえだった。
 修行をするたびに、蒼依に溜め息をつかれ、「仕方ないぁ」という感じでフォローされるのだから、悲しさも強まるというものだ。
 だが落ち込んでいるだけでは上達は無いのだから、とにかく経験を積んでいくしかないだろう。
 そう考えて大きく息を吐き出した悠斗は、「頑張るぞ」と気合いを入れ直し、触手の探索に意識を集中させていった。
 額の角に微妙な刺激が伝わっていて、妙な引っかかりが一方向から来ているのが感じられる。ゾクッとするような嫌悪感がそちらから発せられているのだ。
 それが闇の生物の存在感だった。通常の生物とは異なる雰囲気があり、実に受け入れがたく感じられるのが特徴だった。
 角に意識を向けると、前方にある嫌な感覚が強まっているように感じられ、どうやら上手く近づけているのが分かった。
 蒼依に視線を向けると、小さく頷いたため、やはり合っているのだという事に嬉しくなりながら、さらに先へと進んでいく。
 十字路へさしかかり、左の方から強い感覚を覚えた事から曲がってみると、少し先に一人の女性が立っているのが見えた。
 年齢は二十代後半くらいだろうか。なかなかの美人で、スタイルの良い女性だった。スーツを着ているところからして会社帰りのように思える。
 だが夜道に女性がこのような場所で立ちつくしているというのは、通常ではあり得ない事であったため、何か普通ではない事が起きているのは明らかだった。
 案の定、女性は異常な状態になっていた。
 細い体に肉色の細いロープのようなモノが巻き付き、蠢いているのが見えたのだ。
 それは以前遭遇したのと同じ、触手タイプの淫妖だった。
 数本が服の上から乳房を掴んでいて、豊満な膨らみが強調される状態になっており、スカートの中へ入り込んだ一本が小刻みに蠢きc、それに合わせて体がピクッ、ピクッと震えているのが何とも卑猥だった。
 女性の顔は惚けた状態になっていて、時折「あっ……」と小さく声を漏らしているのが聞こえるが、意識は虚ろになっているのが見て取れた。
 すでにかなりの快楽に染まっているようであり、このまま放っておくのは危険だった。触手は快楽を与えることで獲物を無防備にし、生命力を吸うからだ。
「ちゃんと見つけられたね。手遅れになる前だから上出来だよ……さ、次は追い払ってみて。まずは結界を張ってね」
「うん……」
 事前にレクチャーされていた通り、指先に念を込め、小さく円を描くように動かしていく。
 瞬間、空気が張り詰めるような感覚が起き、周囲に直径数メートルほどの結界が張られるのが感じられた。
 結界は人の無意識に作用するもので、その場所へ近づけなくさせる効果があった。結界を張っておく事で、人目に触れない状態で処理をするのである。
 闇の生物やその処理をする人間の存在が、一般的に知られていない理由の一つがこれだった。
 続けていよいよ淫妖を追い払う訳だが、こちらはなかなか難しい作業だった。
 行為だけを考えれば簡単で、「消えろ」と告げるだけなのだが、その言葉通りに淫妖を消すのが難しいのである。
 単に言葉を発するだけでは駄目であり、そこに鬼としての能力、言霊の力を乗せなければならなかった。
 以前助けてもらった際、蒼依はあっさり追い払っていたが、自分はまだそれが上手く出来ず、いくら力を込めて告げても消えないのである。
 コツとしては「己の中にある鬼の力を感じつつ声を出す」という事らしいのだが、未だ力を感じるのは難しかった。
 鬼の力を強く感じられる時もあれば、微かにしか感じられない時もあったため、常に一定の効果を発揮させる事が出来なかったのだ。
 今日は比較的感じられては居るものの、このレベルでは成功率は低いように思えた。
 その事に不安になるが、だからと言って止める訳にはいかなかった。目の前では、今も女性が襲われ続けているからだ。
 角に意識を集中し、己の中の鬼の力を感じ取ろうと必死になる。
 指先に念を込め、力が一点に集まるようコントロールしていく。
 単に言葉を発するだけでなく、その際に指先に溜めた力を解放すると、言霊の力が増すのだ。
 この数日はそうした訓練をさせられており、おかげで大分慣れてはいたのだが、それでもまだ上手くいくことは少なかった。
 徐々に指先に力が集まっていくのが感じられる。
 額の角が熱さを放ち始め、爆発しそうな感覚が高まり、呼吸が乱れそうになってくる。
 それを抑えつつ、そろそろいいだろうと判断した悠斗は、一気に腕を真横に振り払った。
「消えろっ」
 同時に発せられた言葉と共に、指先から力が放たれたのが感じられた。
 目に見えない何かが宙を駆け抜け、触手に当たっているのが知覚される。
 気色悪い体に、細かい震えが何度も走っていく。
 しかしいくら待っても触手は消えることはなく、何事も無かったように女性を襲い続けていた。
 失敗だった。
 上手く言葉に力を乗せることが出来なかったのだ。
 その事にガックリと肩を落とす。
「まあ、最初の実戦だからね。仕方ないよ……次はお姉ちゃんが手伝ってあげるから、早くあの女の人を助けようね」
 少し残念そうな声で告げられるのに悲しくなってくる。蒼依の期待を裏切ったのが辛かったのだ。
 とはいえ、今は女性を助ける方が大事だった。自分が成果を上げることよりも、女性を触手から救出する事を優先しなければいけないのである。
「まず力を抜いて……それから自分の意識を一箇所に集中するんだよ……」
 そう言いながら、後ろから腕を回して抱き付いてきたのにドキリとする。
 訓練の際も同じようにされたが、何度経験しても慣れることのない事だった。
 何しろ数日前は、この肉体を好き放題貪ったのであり、どうしてもその事を思い出してしまうからだ。
 しかし興奮するのを抑えるのも修行だと言われた。
 鬼の血は性的なことで暴走しやすいため、それを上手くコントロール出来るようにならなければ、日常生活に支障が出てしまうからだ。
 ゆえに現在の悠斗は、言霊と性欲を抑える修行の、両方をやっているという訳だった。
「ほら、気を散らさない。集中して……」
「ご、ごめん……」
 そう言われても、意識は乱れまくりだった。
 何しろ柔らかな肉体が接触しているのだから、気にするなという方が無理だろう。
 しかしそれを抑え込むのが修行であるため、頑張って意識を集中させようと必死になる。
「右手に力を込める感じで……ここだよ、分かる?」
 右手を強く掴まれるのと同時に、体がさらに押しつけられた。
 背中で二つの柔らかな膨らみがプニョンっと潰れるのが感じられ、その事で鼻息が大きく吹き出された。
 欲情してしまったせいか、額と股間が熱くなっているのが分かる。これほど密着されては当然だった。
「もう、こんな時に何考えてるの。エッチな波動が出てるよ」
 蒼依が怒ったような、困ったような声をあげたのに硬直する。
 どうやらいやらしい意識が伝わってしまったらしい。こういう時、角による感知能力には困ったものだった。
 だが悪いのは、性的なことに意識を向けている自分なのだから仕方ないだろう。
「ご、ごめん……姉さんがくっついて来たからつい……」
「まあ、悠斗は血に目覚めてからあまり経ってないもんね。しょうがないか……分かった。今の状態から何とかするから。お姉ちゃんの言うとおりにして」
「う、うん……」
 申し訳なさを感じつつも、そこから何とかしてくれるという言葉に、やはり蒼依は頼りになると嬉しくなった。
「それじゃ、今度は逆にお姉ちゃんの体を意識してみて」
「え? 何で?」
「いいから早く」
 そう言いながら体を押しつけてきたため硬直する。
 背中ごしに蒼依の体が密着しているのが感じられ、気持ちのいい感触が押し寄せてきた。
 続けてギュウっと締め付けるようにされた事で、角と股間の熱さが強くなり、一物が痛いほどに勃起していく。
「ねぇ……お姉ちゃんと、エッチなことしたい?」
 不意に囁くようにして告げられたのにドキッとなる。こんな時に何を言っているのだろう。
「したいなら……させてあげてもいいんだよ?」
 これまた心臓が激しく鼓動した。
 先日蒼依を抱いた記憶が蘇り、今触れている肉体を思い切り抱き締めたくなってくる。
 だが慌ててその衝動を抑え込み、これは力を出すための方法なのだと呼吸を整える。
「そう、いいよ……そうやって興奮しながら抑制するの……さすが悠斗だね。お姉ちゃんがして欲しいこと、言わないでもやってくれてる。偉い偉い」
 不意に褒められたため驚く。どうやらこうして性的な意識を持ちつつも、それに流されない状態でいるのが大事らしい。
「そのまま抑えてね……お姉ちゃん、もっとエッチなことしちゃうから……」
 その言葉通り、蒼依は肉棒を掴んできた。
「ね、姉さん……」
「抑えて、抑えるんだよ……悠斗なら出来るから……頑張って……」
「う、うん……頑張る……くっ……」
 頷くのと同時に肉棒が上下にしごかれ始めたため、体を硬直させてしまう。
 股間から快感が押し寄せ、それに流されたくなるのを必死に抑え込んでいく。
「気持ちいい?」
 囁いてくる声に、コクコクと頷く。
「それじゃ、次はこっち……こっちも気持ちいいかな?」
 左手が額に伸び、角を優しく撫でてくる。
 その刺激に体がビクッと震え、微かな痛みと気持ちの良さが走り抜けた。大分慣れたとはいえ、未だ刺激に対して敏感な部分が残っているのだ。
「両方を気持ち良くしてあげるからねぇ……そのまま感じてぇ……お姉ちゃんの指を感じてぇ……受け入れるんだよぉ……」
 角と肉棒をゆっくり撫でられ、ジンワリとした快感が体中に溢れていく。
 それと共に、何かドロドロしたような感覚が、額と股間に湧き起こってきた。
「うん。出てきた出てきた……そのままだよ。そのままぁ……」
 蒼依はそう呟きながら、徐々に指の位置をズラし始めた。
 角に触れていた指が顔を伝い、肉棒を掴んでいた指が腹に上がってきている。
 そしてそれに合わせてドロドロの感覚も移動していく。
「それじゃあ、右手をみぞおちに置いて……」
「うん……」
 意味が分からなかったが、とにかく従うしかないと、指示通りに動かす。
 やがて蒼依の両手がみぞおちまで達し、右手を包むようにして握ってきた。
 その瞬間、何やら強い力が右手に存在しているのが感じられ、ドクンドクンといった力の脈動が伝わってきた。
「今、悠斗の鬼の力を右手に誘導したから、それを放つ感じで言霊を使ってみて」
「え? どういうこと?」
「いいから。お姉ちゃんの言うとおりにするのっ」
 強い口調で言われたため硬直する。
 それは幼い頃から慣れ親しんだ、逆らうことを許さない姉としての命令だった。
 ゆえに大人しく従い、右手の人差し指に意識を集中させる。
 すると強い力が一点に集約していく感覚が起き、これまで経験した事のない力の胎動が感じられた。
 これならいける。
 そう思った瞬間、自然と口から言葉が発せられた。
「消えろっ」
 発声と共に右手を真横に振る。
 指先から力が放出されていくのが感じられ、それが触手にぶつかるのが分かった。
 次の瞬間、気色の悪い肉のロープが目の前から消え失せ、支えを失った女性の体が道に崩れ落ちる。
 成功だった。
 触手を消し去ったのだ。
 あまりにあっけなく上手くいった事に驚く。今のは本当に自分がやった事なのだろうか。
 これまで練習では何度か成功していたが、実戦においてここまで見事に出来たことに少々呆然としてしまう。
「うん、成功だね。凄いよ悠斗。上出来上出来ぃ」
 蒼依は体を放しながら嬉しそうに告げてくる。
 そのまま笑顔でピョンピョンっと跳ねているのが何とも可愛らしい。
 成功した事も嬉しかったが、何より蒼依に褒められ、こうして喜ばれているのが一番幸せを感じることだった。
「今回はお姉ちゃんが手伝ってあげたけど、次からは自分だけで出来るようにするんだよ」
「うん、分かってる……でも今のってどういう事なの? 額と股間から力が移動してきた感じだったけど。こういうのは教えてもらってないよね?」
「あ〜〜、ええと、それはねぇ……」
 疑問に思っていた事を尋ねると、蒼依はちょっと困ったようにして苦笑した。
 しかしすぐにしょうがないな、といった感じで肩をすくめると、大きく息を吐き出した。
「悠斗のエッチな意識が高まってたからね、それを利用したの。エッチな意識も力にはなるから、それを右手まで誘導して使ったんだよ」
「え? 何それ……」
 予想外に情けない感じのする内容に力が抜ける。要はスケベパワーで触手を駆除した、というように聞こえたからだ。
「あまり一族のみんなには知られたくないやり方なんだけどね。でもそうでもしないと悠斗は力を出せそうもなかったから……駆除出来なかったって報告だけはしたくなかったし……あの女の人も早く助けなきゃいけなかったしね」
 困ったような笑みを浮かべて説明しているのに申し訳なさを覚える。
 だがそうした方法をとらなければ駆除出来なかったのだから仕方ないだろう。それが嫌ならば、早く普通に力が使えるようになるべきなのだ。
「まあ、今回はしょうがないから。次回からは出来るようにしようよ、ね?」
「う、うん……」
 慰めるように言ってくるのに悲しくなりながらも、蒼依が頭を撫でてくれるのに嬉しくなる。
 こうしたフォローを忘れないのが蒼依の素敵なところだった。
「それじゃ、後始末はお姉ちゃんがしてあげるからね。こっちのやり方もだんだん覚えていくんだよ。いい?」
「うん」
 悠斗が返事をすると、蒼依は女性の傍へと近づいていった。
 彼女はまだ意識がボーッとしているのか、道に座り込んだ状態で周囲を見回している。何が起こったのかよく分からないのだろう。
 蒼依は女性の正面まで行ってしゃがむと、ニコリと微笑んだ。
 その瞬間、額が盛り上がって突起が現れる。角が生えたのだ。
 それを見た女性は、驚愕の表情を浮かべると後ずさったが、蒼依が目の前で右手を広げてかざすと動きを止めた。
 同時に顔から表情が無くなり、瞼が半分閉じたぼんやりとした状態になった。
 催眠状態になったのだ。鬼の力の一つの、強い催眠暗示にかかったのである。
「今あったのは普通のこと。異常なことは何も起きていない。あなたが理解出来る事しか起きていない。分かったら頷いて。そして目的地へ向かいなさい」
 蒼依が目を見つめて語りかけるようにすると、女性は少しの間頭を揺らしていたが、やがて小さく頷いた。
 そして立ち上がると、ヨロヨロとした様子で歩き始めている。
「これで大丈夫っと……どう? こういう風にやるんだよ。分かった?」
「うん……」
 頷きつつ、初めて目の当たりにした催眠暗示をかける状況に、驚愕の想いを抱く。あれほど簡単に人が言うことを聞くというのが信じられなかったからだ。
 とはいえ、普通の人間の行う催眠術でも似たようなことが可能なのだから、言霊の力のある鬼の一族が行うとなれば、この程度は簡単に出来るのだろう。
「でもあれで、本当に触手の事を思い出したりしないの?」
「前に説明したでしょ。思い出しはしても、それを現実の事とは思わないって。人間は自分の信じられる事しか信じないから、触手なんて非現実的なモノに襲われたなんて、夢みたいに思うんだよ」
「それを後押しするために、ああした言葉を言霊として使うんだっけ?」
「そう。『こんな事は無かった。自分が理解出来る事しか起きてない』って言われると、そう信じたいから信じちゃうの。要は人の固定観念を利用して、精神的に楽な、現実でありがちな記憶に変えちゃうって事だね。多分今の女の人は、後で思い出しても『気持ち悪い痴漢に襲われた』って事にしちゃってると思う。襲われた記憶が残るのは可哀想だけど、全部消すのは無理だから」
 そこまで強力なものになると、催眠暗示に優れた能力者でないと無理との事だった。実際自分の事故の記憶を封じたのも、そうした人らしい。
「暗示の方は、もうちょっと慣れたら教えてあげるからね。まずは触手を追い払う方を完璧にしないと。今回やった事で、力の出し方、何となく分かったでしょ?」
 その言葉を聞いた瞬間、先ほど蒼依に抱き付かれ、いやらしく囁かれた記憶が蘇った。
 あれは実に気持ちのいい状態だった。いつもあんな方法で駆除が出来るのであれば最高なのだが。
 そういった事を考えていると、徐々に意識が性的な方へ流され始めているのが感じられた。
 目も自然と蒼依の額へと向き、その愛らしい突起に視線が集中する。
 やはり角の生えた蒼依は魅力的だった。
 この可愛らしい顔を、先日のように快楽で歪ませたらどんなに気持ちがいいだろう。
 喘がせ悶えさせ、自分に夢中にさせたあの状況をまた味わってみたい。
 何度も何度も精を注ぎ込み、蒼依が自分の物であるという実感を得るのだ。
 そんな想いが爆発的に強まり、呼吸が荒くなって額と股間が熱くなっていく。
 あの日以来、訓練の妨げになるからと抱かせてもらっていなかったため、余計にそうした意識が高まっているように思えた。
 要はかなりの欲求不満状態になっていたのだ。
 セックスがしたかった。
 高まった肉欲を発散したかった。
 今回は初めて触手の駆除に成功した訳だし、ご褒美としてさせてもらえないだろうか。
 そんな事が思い浮かび、フラフラと蒼依の背後へ回り込み、思わず抱き付いてしまいそうになる。
「こらっ。エッチなことは駄目って言ったでしょっ」
 不意に振り返った蒼依は、そう叫ぶとデコピンを放ってきた。
「くっ……」
 角に衝撃が起きると共に、意識が飛ぶほどの強烈な痛みが走り抜ける。
 慌てて手で角を覆うようにし、かがんで痛みに耐える。
 何とも強烈な痛みだった。まさか角への一撃が、これほどまでに痛いものとは思ってもみなかった。
 少しすると痛みが和らいできたため、ゆっくりと体を起こし、額から手を放す。
 目の前には、腰に手を当て、困ったような表情で見つめている蒼依の姿があった。
「まったく……エッチなことを我慢出来なきゃ駄目なんだからね。鬼の血は性的なことに向きやすいんだから、抑えられるようにならないと危ないんだよ?」
「ごめん……」
「うん。素直で宜しい……今度からはちゃんと自分で抑えられるようにするんだぞ?」
「分かった……ホントごめんね姉さん……」
 優しく慰めてくれるのに申し訳なさが起きてくる。こんな素敵な姉を、背後から襲おうとしたなどとんでもない事だった。
「いいんだよ、これから気をつけてくれれば。今回も途中で止めてくれたしね」
「それは姉さんがデコピンしてくれたから……」
「ううん。お姉ちゃんがデコピンしなくても、悠斗は自分で止めてくれたと思うよ。悠斗はお姉ちゃんのこと、大切に想ってくれてるもん。無理矢理だなんて絶対しないよ」
 その言葉に泣きそうになった。自分に対する強い信頼を感じたからだ。
 だが確かに思い返してみれば、これまで蒼依を強引に抱こうと思ったことはあっても、それを実行に移した事は無かった。全て途中で躊躇し、止めていたのである。
 その事を今更ながら誇らしく感じつつ、無理矢理抱かないで本当に良かったと思った。
「それじゃ、今日は初めて触手を駆除した事だし、ご褒美に特別に許可してあげるね……帰ったら、お姉ちゃんにエッチなことしていいよ」
 突然の意外な申し出に喜びが溢れる。
 先ほどそんな風に考えもしたが、まさか蒼依の方から言ってくれるとは思ってもみなかったからだ。
 また蒼依を抱ける。愛する姉を抱くことが出来るのだ。何と素晴らしい事だろう。
「ね、姉さん……」
 今すぐにでも抱き付きたくなるのを必死に抑える。
 ここで襲いかかってしまっては、せっかくの信頼に背くことになるし、何よりご褒美を取り消されてしまうだろう。
「ふふ、偉い偉い。よく我慢したね……じゃあ、ちょっとだけ先に、ご褒美ね」
 蒼依の顔が近づいてきたかと思うと、角をペロリと舐められた。
 途端、快感が全身を駆け抜け、股間の一物が激しく律動する。
 体が勝手にガクガクと震え、肉棒に押し寄せる強い刺激に、今すぐにでも射精してしまいそうになった。
「ふふ、可愛い……お姉ちゃんのこと欲しくなってるの?……今夜はご褒美だから、思い切り抱いていいからね。悠斗がしたいだけしていいんだよ?……さ、家に帰ろ」
 そんな殺し文句を言われたため、襲いかかりたい衝動が爆発的に高まった。
 だがもう少し我慢すれば、好きなだけ出来るのだと思い、必死になって抑え込む。
 その様子に満足げに微笑んだ蒼依が歩き始めたため、悠斗もそれに誘われるようにしてフラフラと付いていった。
 股間で膨らんだ肉棒が邪魔になるため、少々前屈みになっているのが恥ずかしかったが、この後に待っている天国を想像すると、そんな事はどうでもいいと思えるのだった。


「あっ、あぁっ……」
 こちらの突き込みに合わせ、白い裸身が揺れていた。
 可愛らしい声が桜色の唇から漏れ、小柄で細身ながら、肉付きの良い肢体が淫靡にくねっている。
 あれから悠斗は、自室のベッドで蒼依を何度も抱いていた。
 治まらない肉欲は、繰り返しその魅惑的な肉体を求めさせたからだ。
「姉さん……姉さん気持ちいいよぉ……」
 肉棒を締め付け、吸い付いてくる膣襞の感触を味わいながら呼びかけると、蒼依が悩ましげに眉根を寄せ、微笑んでくるのがたまらない。
 滑らかな肌と擦れる感触、そしてこちらの体を受け止める柔らかい肉の弾力は、うっとりするほどに心地良かった。
 蒼依の十代半ばに見える童顔が上気し、いやらしい苦悶の表情を浮かべているのに、震えるほどの興奮が呼び起こされる。
 十数年従ってきた姉を、こうして自由に喘がせ悶えさせている現状は、それだけで支配欲を刺激して最高だった。
 蒼依を抱くというのは、肉体的な良さだけでなく、精神的な意味でも素晴らしさがあった。
 この悦びを知ってしまっては、もう他の女性を抱いても物足りないだろう。
 魅力的な姉を己が物にする快感。
 これは、他人を相手にする際には味わえないものに違いなかった。姉弟として暮らしてきた積み重ねが、そうした想いを呼び起こすからだ。
「あっ、あぁっ……やんっ、やぅっ……」
 いきり立った肉棒を、これでもかとばかりに突き込むと、蒼依はいやいやという感じで頭を左右に振って悶えた。
 そうした様子が幼さを感じさせ、まるで年下の少女を抱いているような感覚をもたらしてくる。
 その一方、潤んだ瞳でこちらを見上げる視線には、自分を愛おしく包み込む温かさが感じられたため、やはり姉なのだとも思う。幼さは感じさせても、甘えたくなり、従いたくなる相手だという認識が起きるのだ。
 そんな相手を、今自分は従えている。普段自分を導いてくれている蒼依を、セックスの時だけは支配しているのである。
 そのギャップと立場の逆転が、一旦抱き始めると止まらなくなってしまう要因の一つだったに違いない。
 鬼の一族としての修行を始めてから、厳しく指導される事が増えたせいか、そうした感覚はより強くなっているように思えた。
「あんっ、あぅっ……いいっ……悠斗いい、ああっ……悠斗それいいよぉっ……」
 大きく強く、ねじり込むように肉棒を押し出すと、蒼依は大きく体を仰け反らせて喘いだ。
 白い喉が顕わとなり、その滑らかな肌に汗が流れている様子が色っぽい。
 惚けた顔の額には、小さな一つの突起が出ており、それを目にすると、肉棒がビクンビクンと激しく震えた。
 これが、抱き始めると止まらなくなってしまうもう一つの要因だった。
 角を見ると、欲情が抑えられなくなるのだ。
 鬼の一族としての血が、同族の女を求めて激しく昂ぶるためらしいが、実際おかしくなるほどに興奮してしまっていた。
「あぐっ、あっ、ああっ……凄い、やぅっ……凄いの、ああっ……凄いよぉっ……」
 蒼依の可愛らしい瞳が、ジッとこちらを見つめてくる。
 その視線は、目より少し上、額の辺りに向いていた。
 自分にも生えている角、それを見ているのだ。蒼依の興奮は、角を目にしている事で高まっているのである。
 お互い角を出さずにするよりも、出してした方が、より快感も満足感も高まるらしい。同族と交わっているという事が、視覚的にも認識されるためそうなるのだろう。
「悠斗、ああっ……悠斗ぉっ……お姉ちゃん悠斗が欲しいの、あっ、ああっ……悠斗のもっと、あっ……もっと欲しいのぉっ……」
 可愛らしくおねだりされた事で、頭がおかしくなりそうなほどの悦びを覚えた。
 さらに普段は感じられない色っぽさも存在している事から、夢中になって腰を振っていってしまう。
 膣内に収まった肉棒は、強く吸い付かれ、ウニュウニュと揉みしだかれ、腰が持って行かれそうなほどの気持ちの良さを得ていた。
 こちらの肉棒に食らいつき、放すまいと嬲ってくる刺激に涎が溢れ、意識を朦朧とさせながら、同じ行為を繰り返す事しか出来なくなっている。
 この気持ち良さを手放したくない。
 姉を、蒼依を、他の男に渡したくない。
 そうした強い想いが起きてくる。
 だが自分は弟だった。
 義理とはいえ弟なのだ。
 今はこうして抱かせてもらえているが、これは自分が性欲をコントロール出来ないからだった。そうした者の面倒を看るのが一族の義務となっていたからである。
 無論、弟として愛してくれているから受け入れている、という面もあるだろうが、普通は姉弟で交わることなどないのだから、義務という理由が無くなってしまえば、抱かせてもらえなくなるだろう。
 何よりもし蒼依に好きな男が出来て、その男の物となってしまえば、絶対に手の届かない存在になってしまうのだ。
 それを思うと、悲しくて悲しくて仕方がなかった。
 蒼依を、絶対に誰にも渡したくはなかった。
 ずっと自分の物にしておきたかった。
 そんな想いをぶつけるようにして、肉棒を益々強く叩き付けていく。
「やっ、やんっ……悠斗凄いよ、ああっ……そんなの凄い、ああっ……激しくて、あぅっ……お姉ちゃん駄目、ああんっ……激しいの駄目ぇっ……」
 涙を流し、シーツを握り締め、与えられる快感に耐えるようにしている蒼依の姿は、実にたまらなかった。
 それこそがまさに、蒼依を己の物にしている証拠に思えて最高だった。
(姉さんはっ……姉さんは俺の物だっ……)
 ズンっ、ズンっ、と強く大きく肉棒を突き込み、これでもかこれでもかと激しく腰を振っていく。
 そのたびに蒼依の顎が仰け反り、肉付きのいい肢体が跳ねるように揺れるのに、満足感が込み上げてくる。
「ああぅっ、あんっ……それ強すぎて駄目、あっ……駄目、駄目だってばぁっ……」
 逃げるようにして上方へ移動するのを、腰を掴んでグイと引き寄せる。
 すると肉棒がより深く突き込まれ、先端が何かに当たった。どうやら子宮を突いたらしい。
「あぅっ、あっ……当たるっ……当たってるよぉっ……悠斗のがお姉ちゃんのに、ああっ……当たってるぅっ……」
 その事で蒼依の悶えは激しさを増し、両腕を背中へ、両脚を腰へ絡ませてきた。
 まさにこの快楽を、肉棒を、雄を逃がすまいとする雌の本能がそうさせたのだろう。
 それはまるで、蒼依に全てを受け入れてもらえたように感じさせ、この素晴らしい女を手放したくない、という想いをより強めた。
(子宮……姉さんの大事なところ……赤ちゃんを作るところ……ここに精液を出すと、姉さんは妊娠する……)
 その可能性が頭に浮かんだ瞬間、強烈な興奮が湧き起こった。
 蒼依を妊娠させる。己の子供を孕ませる。
 それはまさに、自分と蒼依との繋がりを強固にするもののように感じられた。
 自分と蒼依の子供。
 何と素晴らしい存在だろう。
(欲しい……姉さんとの子供……欲しいよぉ……)
 蒼依を妊娠させたい強烈な想いが湧き起こり、肉棒がグンっと力を増した。
 額の角が熱さを強め、腰の動きがそれまで以上に激しくなっていく。
「あんっ、あんっ、ああんっ……悠斗っ、悠斗っ、悠斗ぉっ……いいっ、いいっ、いいのぉっ……お姉ちゃん、あぅっ……お姉ちゃんおかしく、あっ……おかしくなっちゃうぅっ……」
 両腕両脚に力がこもり、ギュウっと強くしがみつかれると共に、背中に爪が立てられて痛みが走り抜ける。
 だがその痛みすら気持ちの良さとして感じられるほどに、頭が蒼依一色に染まっていた。
 膣内が強烈に締まり上がり、吸い付きが恐ろしいまでに強まっていく。
 まさに女肉が、男の精を吸引しようと蠢いている感じだった。
 その強烈な刺激に、まだ女体に慣れたとは言えない肉棒が悲鳴を上げているのが分かる。
 もう限界だった。
 出さずにはいられなかった。
 蒼依の中に、精を注ぎ込まずにはいられなかった。
「俺もう出るっ……姉さん出るよっ……出るっ……出ちゃうぅっ……」
 情けない声で叫び、意識せずとも腰を勢い良く振っていく。
 このまま一気に、蒼依の中に精を放つのだ。
「あっ、あんっ……いいよ、ああっ……出して、あっ……お姉ちゃんの中に、ああっ……お姉ちゃんの中に出して、やっ……悠斗の熱いの、ああっ……お姉ちゃんの中に出してぇっ……やっ、やっ、やぁああああああああああんっ!」
 絶頂の叫びと同時に、膣内が強烈な締め付けをしてきた。
 それに耐えきれず、いや、悦んで肉棒の栓を開放する。
 ドピュッ、ドピュッ、ドクドクドクドクドクドク……。
 大量の精液が、凄い勢いで吐き出されていくのが感じられる。
 それに合わせて強烈な快感が走り抜け、頭を真っ白にしていった。
 肉棒がビクンビクンっと律動するたびに精液が迸り、気持ちの良さが全身を覆っていく。
 何と素晴らしいのだろう。
 蒼依の中に精液を注ぎ込むのは、あまりに素晴らしすぎた。信じられないほどに気持ち良すぎるのだ。
 これを手放すなど考えられない。
 やはり蒼依は自分の物でいて欲しかった。
 ずっと自分だけを見つめる存在でいて欲しかった。
 自分だけの姉であり、女でいて欲しかった。
 蒼依に対する執着と愛情が、強烈に高まっていくのが感じられた。
 そんな事を思いながら数度の射精を繰り返した後、最後の放出を終え、脱力して倒れ込む。
 柔らかな肉体が受け止めてくれ、その心地良い感触にうっとりとなる。
 荒い呼吸が耳に響き、それを意識しながら、今味わった快楽の瞬間を反芻していく。
(姉さん……凄いよ……姉さん最高だよ……大好きだ……)
 強い愛情と、その肉体を己の物とした喜び、絶対に手放したくない執着が混ざり合い、心が蒼依で一杯になっていった。
 触れ合っている肉体の温かさが、泣きたくなるほどの幸福感を呼び起こしていた。
「ねぇ、悠斗ぉ……」
 不意に蒼依が、甘ったるい口調で呼びかけてきたため視線を向ける。
 そこには自分を愛おしげに見つめる顔があり、それはこれまで感じたことがないほどに、愛情が強く感じられるものだった。
「姉さん……」
 その事に強い嬉しさが湧き起こり、思わず甘えるようにして抱き付き、頬ずりしてしまう。
「あんっ……もう、甘えん坊なんだからぁ……エッチしてる時は凄く男っぽいのに、終わるとこれだもんねぇ……全くどうしてこんなに可愛いのぉ?」
 嬉しそうな口調で呟きながら、頭を撫でてくるのに喜びが溢れる。
 やはりこうして蒼依に甘えるのは最高だった。
 抱いている最中は従えることに興奮があるが、やはり蒼依には甘えたかった。自分をずっと導いて欲しかったのだ。
「俺、姉さんが大好き。大好きだっ」
「お姉ちゃんもだよ。お姉ちゃんも悠斗が大好き」
 優しく応えてくるのに安堵感が起きてくる。
 こうして愛情を受け入れてもらえると、ずっと一緒に暮らしていけるように思えて幸せな気分になった。
「二人とも大好き同士なんだから……お姉ちゃんと悠斗の赤ちゃん、出来てもいいよね?」
「え……?」
 突然の言葉に驚く。
 確かに自分も先ほどはそう想いもしたが、さすがに現実として考えると、大変な事に思えたからだ。
「もう、そこは即答しなきゃ駄目だよ。避妊しないでしてるんだから、ちゃんと妊娠の事を考えてなきゃ」
「ご、ごめん……俺も考えてはいたんだけど、いきなりだったからつい……」
「まあ、しょうがないよね。そういうところ、男の人は弱いみたいだし……でも避妊しないで何度もしてるんだから、赤ちゃん出来てる覚悟は持っててよね。っていうか、もう出来ちゃってるかも知れないんだし。そういうのって、普通は大変な事なんだよ?」
 それはその通りだった。
 快楽に流されるまま何度もしてしまったが、避妊していない以上、妊娠していてもおかしくないのだ。
 もし蒼依がすでに妊娠していたらどうなるのだろう。
 義理とはいえ姉弟なのだから、通常の男女と違って色々問題がありそうに思えた。
 そもそも両親には何と言えばいいだろうか。
 その状況を想像すると、緊張感が起きてくる。
「まあ、そうなっても、一族の人達は大喜びだと思うけどね」
「え? そうなの?」
 不意に告げられた一言に驚く。
 何故大喜びなのだろうか。一般的な事であれば、子供の誕生は吉事であるので理解できるが、義理とはいえ姉弟の間の事となれば、普通は微妙感を感じるように思えたからだ。
「うちの一族はね、子供が出来にくいの。実際親戚にも、私たちと同じくらいの歳の子ってあんまり居ないでしょ?」
 確かにそうだった。大人は多い割に、子供の数が極端に少ないのだ。
「だから子供が出来たら喜ばれるんだよ。たとえ姉弟の間の子供であってもね。そもそも身内に欲情しちゃう血筋だから、一族以外の人とはエッチしにくいし」
 確かに自分も以前から蒼依にばかり欲情していたし、角を見てからは、他の女性では満足出来なくなっているように思えた。実際あれほどの興奮は、蒼依以外では絶対に起きないだろう。
「結婚はしなくてもね、一族の人間同士で子供だけは作ったりするの。欲情だけは凄くするから。性欲を抑えるための義務でしたセックスで産まれたっていう人もいるしね……だからお姉ちゃんが妊娠してても気にしなくていいんだよ。赤ちゃんも一族が面倒看てくれるから大丈夫だし」
 その言葉に何だか悲しくなる。
 まるで「悠斗の事は別に好きではないが、義務だから抱かれた」と言われたように感じられたからだ。
 とはいえ、実際性欲をコントロール出来ないゆえに抱かせてもらえているのだから、間違ってはいなかったのだが。一族の義務があったからこそ、自分は蒼依を抱けているのである。
 しかしその結果として生まれる子供を、他人に預けるというのは嫌な気がした。
 義務が理由であるにせよ、セックスしている最中の蒼依からは強い愛情が感じられたし、自分も蒼依を強く愛していたからだ。
 姉弟愛でしかないとはいえ、自分と蒼依が愛し合っている事に変わりなく、子供はその証とも言えるのだから、きちんと二人で育てたかった。
「俺は……姉さんとの子供、育てたい……姉さんと一緒に……」
「え……?」
「せっかく二人の子供なんだし、一緒に育てたいよ。俺と姉さんが愛し合った事で生まれるんだから、ちゃんと二人で育てたいんだ」
 意識せず口を突いて出た言葉に、蒼依は驚いた表情を浮かべている。
 そしてそのまま呆けたような顔をして固まった。
 特におかしな事を言ったつもりは無かったのだが、何か変だっただろうか。
 そう思いながら見つめていると、やがて蒼依はほんのりと頬を赤くしながら、嬉しそうに微笑んだ。
「やだ、もう……何かプロポーズされてるみたいで恥ずかしくなっちゃった……『一緒に子供を育てたい』なんて、まるで夫婦になるみたいじゃない……」
 確かに改めて考えてみると、そんな風にも捉えられるように思えた。普通の男女の会話であれば、「子供を一緒に育てたい」というのは、十分にプロポーズの言葉として使えそうだからだ。
「いや、その……そういうつもりじゃなくて……」
「え〜〜? 違うのぉ? せっかくお姉ちゃん嬉しかったのにぃ……お姉ちゃん、悠斗とだったら、結婚してもいいんだよぉ?」
 その言葉に硬直する。
 口調は冗談っぽさを含んではいるものの、あまりに嬉しすぎる内容だったからだ。
 何より自分たちは義理の姉弟なのだから、実際結婚も出来るため、現実味のある内容でもあったのだ。
 蒼依と結婚する。
 それは実に恥ずかしくも嬉しい未来図だった。
 長年家族として一緒に暮らしてきた事から、そのような相手と結婚するのに忌避する意識が無いと言えば嘘になるが、それ以上に蒼依を愛する気持ちは強かった。
 何よりすでにセックスしているのだから、躊躇する意味も無いだろう。
 結婚したければすればいいのだ。実際自分は蒼依と結婚したいのだから。
 そんな想いが悠斗の中で強く認識された。
「お、俺も……姉さんと、結婚したい……」
 真剣な気持ちで告げてみる。
 蒼依は冗談っぽく告げていたため、本気で受け取ってくれないかも知れないが、そうであるならまた別の機会に言えばいいのだ。
 もう自分の中では、蒼依と結婚したい想いで一杯だったのだから。
「いいよ……お姉ちゃんと結婚しよう……」
 しかし予想に反し、蒼依は真面目な口調で返してきた。
 その事に驚くと共に、「やはり蒼依は分かってくれている」と嬉しくなった。
 そして結婚を受け入れてもらえたことに、強い喜びが湧き起こった。
「い、いいの?……俺と結婚、してくれるの?」
「うん……だってお姉ちゃん、悠斗のこと大好きだもん」
「でもそれって、弟としてって意味じゃ……」
「そりゃそうだよ。でも弟として愛している相手と結婚しちゃいけないって事もないでしょう? っていうか、悠斗を異性としてだけ見るなんて無理だし、絶対弟として見ちゃうよ。それに悠斗が弟じゃなくなっちゃうなんて嫌だしね。お姉ちゃん、悠斗が弟だから好きなんだもん」
 それは悠斗にしても同じだった。
 蒼依を異性としてだけ見るのは無理であるし、蒼依が姉でなくなるのは嫌だったからだ。自分は姉である蒼依が好きなのだから。
「俺も……姉さんが姉さんだから好きなんだ。姉さんが姉さんじゃなくなったら嫌だよ……」
 そう告げながら、いつの間にか涙ぐんでいるのに気づいて驚く。蒼依が自分と同じように愛してくれていた事が嬉しかったのかも知れない。
 異性としてではなく、弟として愛してくれている。
 その事が強い喜びとして心に響いたのだ。
「ふふ、私たち同じだね。似た者姉弟だよ」
「そうだね。そっくりだ」
 楽しく笑い合いながら、強く抱き締め合う。
「ね、悠斗。こうなったらすぐに結婚しちゃお。三ヶ月後くらいに」
「って、いくら何でも早すぎない?」
「でも、もし妊娠してるとしたら、産まれる前には結婚しておかなきゃいけないんだよ? 赤ちゃんは十月十日で産まれるんだからね」
 確かにそれはその通りだった。すでに妊娠しているとしたら余裕は無いのである。
「それにお姉ちゃん、悠斗となら、明日にでも結婚したいんだもん」
 何とも嬉しい事を言ってくるのに幸せな気分になるが、その一方で、結婚は大ごとであるのを改めて意識する。
「父さんと母さんにも、話さなきゃいけないんだよね……」
 そう、まずは自分たちの関係を、両親に告げなければならなかった。
 驚かれ、反対される可能性もある事を考えれば、凄く大変な事だろう。
「そうだね。でもそこら辺は大丈夫だと思うよ。お父さんとお母さんも一族の人間だし、こうした結婚には慣れてるもん」
「え? そうなの?」
「一族の中だと、義理の兄妹とかで結婚している人いるしね。だから大丈夫だよ」
 なるほど、それならば抵抗は少ないに違いない。
 とはいえ、自分の子供の事となれば、また意識も違ってくるだろうから、どうなるか分からなかったが。
「あ、そうだ。父さんに結婚のこと言うなら、あれやってよね。『お嬢さんを下さい』っていうやつ。昔から憧れてたんだぁ」
「え? そんなのやるの?」
 他人の父親であれば分かるが、自分にとっても父親である相手に言うとなると変な感じがした。
「言うの。そうじゃなきゃ結婚してあげな〜〜い」
 蒼依はそう呟きながら、唇を尖らせてそっぽを向いている。
 これは昔から、自分を困らせようとする際にする仕草だった。そしてそれに逆らってもろくな事にならないため、従うしかないのである。
「分かった、言うよ。言えばいいんでしょ?」
「あ、何その嫌そうな感じ。悠斗はお姉ちゃんと結婚したくないの?」
「したい。したいよ。でも恥ずかしいだろ、父さんにそれ言うのは……ねえ、許してよ、お願い」
「ダ〜〜メ」
 甘えるようにおねだりしても許してもらえなかった。
 こうして意地悪している時の蒼依には、甘えるやり方は効果が無いのだ。諦めるしかないのである。
 とはいえ、蒼依と結婚出来るのなら、先ほどの言葉を言うくらいはしてもいいと思っていた。何よりそう告げた際の父の顔を想像すると、実に面白そうにも思えたからだ。
「分かった、やるよ……考えてみたら、父さんの反応も面白そうだし」
「でしょ? それもあってやって欲しいの」
 まるで楽しいいたずらを仕掛けるような口調で言ってくるのに苦笑してしまう。本来大ごとであるはずの結婚の報告が、楽しい遊びのように思えてきたからだ。
「そうそう、誓いの儀式だけ、先にちょっとやってみようか? 一族の結婚式で必ずやる事なんだけど」
「え? 何それ? どういうの?」
「角と角をね、触れさせるの。私たち一族にとって一番大切な角を触れ合わせることで、約束を絶対のものにするんだよ」
 なるほど、それは確かに特別な意味があるように思えた。
 角は一族特有のものであり、様々な特殊な要素もある事を考えれば、そこを触れさせて行う誓いには、重みが出てくるように感じられたからだ。
「もしかして、言霊としても誓うのかな?」
 ふと思いついたことを尋ねてみる。
 言霊の力を絡ませることで、口にする誓いの言葉をさらに強めるのではないかと思えたのだ。
「正解だよ。鬼の一族が角を触れさせながら告げる言葉は、絶対の誓いになってるの……だから安易な気持ちでしちゃいけないんだよ。そういう事すると、必ず良くないことが起きるんだから」
「そうなんだ……」
 何やら思っていた以上に大事な感じがしたため、緊張感が起きてくる。
「お姉ちゃんと結婚の誓いするの、怖くなった? それなら止めてもいいよ」
「そんな事ないよ。安易な気持ちでなんか絶対しないから……俺、姉さんのこと、本気で愛してるもん」
「ふふ、ありがとう。お姉ちゃんも悠斗のこと、本気で愛してるよ」
 嬉しそうに微笑む蒼依を見ていると、幸せな気持ちが溢れてきた。
「それじゃ、誓いの儀式をやろう……角を出して……」
「うん……」
 ゆっくりと額を寄せていき、角が触れ合うようにする。
 硬い物同士が触れる感触と痛みが少し起き、蒼依の角と接触したのが分かった。
 至近距離に迫った瞳が促すように見つめてくる。
「俺、姉さんの事が大好きだ。愛してる……だから結婚して下さい」
「お姉ちゃんも悠斗のこと、大好きだよ。愛してる……だから結婚しようね」
 その瞬間、触れている部分が強く熱くなった。
 何かが体の中を駆け抜け、強い意思のようなものが心に溢れてくるのが感じられた。
 誓いが成立したのだろう。
 これから自分たちは、姉弟でありながら夫婦になるのだ。
 それは実に幸せな、素敵な未来図に思えた。
 その事に胸を高鳴らせながら、さらに顔を近づけ、優しく口づけをしていく。
 蒼依が嬉しそうに応じ、心が温かな大きなモノに覆われていくのが感じられた。
 自分は今、本当の意味で蒼依と結ばれたのだ。愛する女性と一つになれたのである。
 その事に強烈な幸福感を覚えた悠斗は、目の前にある姉の顔を見つめながら、この素晴らしい女性を一生愛していく、蒼依と共に生きていくのだと心に強く誓いながら、再びその愛する肉体にのし掛かっていくのだった。











あとがき

 異能というか、異形な一族の姉弟の話を書いてみました。
 まあ、鬼の設定はついで的な状態になってますが、今回は姉弟のラブがメインなので、そこら辺は少なめにって事で。
 姉弟のラブの決着としては、まあ、これでいいかなぁ、と。

 触手に関しては、以前から書きたかったので出してみました。
 普通は女性が襲われますが、敢えて男にさせていただきました(笑)
 いや、別に男でもいいでしょって事で。
 私は人外に与えられる快楽ってのが好きなので、感情移入するとなれば、男にした方がいいですからな。ゆえに男にした次第です。

 今後も人外の快楽はやっていきたいとは思っております。
 鬼の一族の設定も広げやすいものなので、またいいネタが思いついたら書きたいと思いますわ。
(2016.5.12)



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