岡本の質問 |
1) |
ろう児の親の90%は聴者で、手話のネイティブではない。
日本のろう教育の専門家で「聴者の親が手話を習って
聞こえない子どもと手話で会話をしても、
第二言語だから効果がない」と言う人がいる。
これについての先生のお考えは?
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2) |
私達親の会は日本手話によるろう教育を望み、
それを実践している。ところが、日本の文部科学省や
ろう学校の先生達は日本語対応手話によるろう教育を
進めようとしている。
これについてご意見は?
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ジム・カミンズ教授の回答 |
1) |
聴親がろう児を育てるときの選択肢は2つしかない。
- 親が手話を習って早い時期から手話を見せること
- ろう児にとってまったく言語がない状況になること
親は日本手話を学び、ろう社会からも学ぶことが大切。
そうしないと、子どもは無言語(母語が無い状態)になる。
家族の中で、一人でも日本手話が堪能になれば、
家庭内でコミュニケーションを築くことができる。
スウェーデンやデンマークでは、ろう児の親が2年間無償で
手話言語を学習できるよう国が保障している。
(職場からは有給休暇が保障される。)
手話言語(注:スウェーデン手話やデンマーク手話)を
学習することによって、親は子どもとコミュニケーション
できるようになる。
ろう児は、ろう学校などろう社会と接触することも必要。
言語獲得のためには、生まれたあと最初の5年間が最も重要。
その期間をはずして、あとで取り戻そうとしても難しい。
ろう児には手話言語の環境を用意すること。
手話言語で育ったろう児は生後8〜10ヶ月で手話の初語が出る。
これは音声言語で育った聴児の初語が出る時期よりも早い。
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2) |
北米のろう教育でも同じことが起きた。
英語対応手話による教育に対して、ろう社会は強く反対した。
その反対運動は、差別への抗議やイデオロギーとしての
色合いが濃かった。
(科学的な研究結果に基づいていない議論だった。)
今では言語学的な研究の結果、ろう教育では自然言語であり
独立した言語である手話言語(ASL)を使うことが
重要だと認識されている。
子ども達の頭の中で、ASLと英語は自然に転移できる。
しかし、英語対応手話と英語は自然に転移できない。
ASL は優れた豊かな言語であるが、英語対応手話は
そうではない。
(英語対応手話には、演劇などの文化・芸術もない。)
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