『 いろいろ言いたい広場 』


2006/06/13

【講演『ろう児における第二言語習得の過程』に参加して】
講演会参加者より
ここ数年、手話に関しては、言語学の分野だけでなく、教育学(バイリンガル教育学、日本語教育学など)、脳科学、発達心理学など、多方面からメスをいれられているという印象だ。これでもか、とばかりに飛び出す研究は益々勢いをつけ、良い意味ですそ野を広げ、関係者を巻き込んでいる。それぞれの関心や研究活動がシンクロして相乗効果が上がれば。明るい未来も見えてこよう。(私は医療従事者として、まず第一段階の情報提供者になる可能性を否定できない。そしてその一言が、相手の一生を左右しかねないのだ。だからこそ、正確な情報を得ておきたい。)
とりわけ、ろう児の親が主催するろう教育の問題などを聴講すると、手話の言語学的な講演とは明らかに違う雰囲気が漂っている。子育てをしている親の切実な思いが会場中に充満しているような気がする。子育て経験のある人なら誰でも共感できる何かが、ひしひしと伝わってくる。“こんなことで停滞しているうちに、我が子はどんどん成長してしまう!取り返しがつかなくなる前に、一刻も早く、変えたい”というエネルギーが感じ取れる。
今回の講師は研究者の立場であって、ろう児の親ではない。落ち着いた物腰ではあるが、ろう教育の現状や教育のありかたを鋭く説く。ろう児の健やかで知的な成長を願ってのことだろうな、と思った。
勉強になったことはたくさんあるが、一つ挙げると、(ろう児を)『手話の達人』に育てよう、という考え方だ。『手話の達人』というと、一見、流暢に日本手話で話せるろう者…というイメージだが、そうではない。日常会話レベルが流暢に話せるのはもちろんのこと、さらに、日本手話を“学習言語”としても磨き上げ、思考レベルが高まった状態が『手話の達人』という。聴者は、日常会話レベルの日本語ができることを土台に、小・中・高校・大学等で、学習言語としての日本語(国語)を学び、磨く。それによって、思考レベルが高まるのである。ろう学校はどうか?生徒同士で、日常会話レベルの手話を獲得するのは周知の事実だが、さらにその上のステップ=思考レベルを高めるための環境は整備されていない。(ろう学校では「手話学」という授業がない)。
必要最低限の環境も与えず、一部のろう児を表面的に観察しただけで、「ろう児は抽象的概念を持たない(だから手話では抽象的概念を説明できない)」などとひとくくりに論じてしまうのは、あまりにもむごい話だ。
このような現実を正面から見据え、正々堂々とポジティブに活動している『全国ろう児をもつ親の会』には、本当に頭の下がる思いがする。そして、子供の人権に関わることであるから、無関心ではいられない。
しかし、『〜親の会』が純粋にろう児の未来のために活動してきたことに対して、成人ろう者の諸問題を持ち込んでかき乱すような輩がいるらしい。具体的には、日弁連による人権申立や意見書などが、大人本位の事情で横槍を入れられ、脚色されてしまったのだという。その人たちは、(日本手話が言語だと科学的な証明がなされた時世においてさえ)“日本手話や対応手話の区別などない。手話は一つだ”と主張しており、その結果、当初「日本手話」と表記されていたものを「手話」に変えさせてしまったのだという。
そして、この意見書を見たろう学校では、表記された「手話」を「対応手話」と解釈し、今やろう学校では対応手話が広がり始めているそうだ。
元々『〜親の会』が求めてきたものは「(言語学的に証明されている)日本手話による教育」なのだが、現実は、この運動成果が結実するその瞬間に、トンビに油揚を取られるような形ですくい取られ、“トータルコミュニケーション法への逆行”に利用されかけているのだ。
日本人の美徳として、謙譲の美徳とか、惻隠の情、あるいは、卑怯な真似はしてはいけない、という当たり前の教えがあるが、そのような美的感性すら持たない人達が、純粋無垢な子供たちの将来を決定付ける教育に口を挟み、人権を踏みにじるようなことをしてよいのだろうか。甚だ疑問である。
佐々木先生が、おっとりとした口調ながらキッパリと「学校に期待しても無駄」と言っていたのがとても印象的だった。そういえば、昨年立川で開催された脳科学者(酒井先生)の講演でも、「学校教育は簡単には変わりませんよ」と言ってたような…。
いつの世も、犠牲になるのは子供たち。そんな日本が成熟した社会と言えるのだろうか。…とにかく、いろいろ考えさせられる講演であった。

2006/06/12

『ろう教育が変わる!』第1回講演会について
全国ろう児をもつ親の会
 6月3日、国立オリンピックセンターで
 全国ろう児をもつ親の会主催
 『ろう教育が変わる!』第1回講演会
 テーマ「ろう児における第二言語習得の過程」
 (講師 佐々木倫子 先生)を行いました。

 当日は100人以上の参加があり、
 立ち見も出るほどの大盛況で
 皆さん、熱心にメモを取るなど
 大変有意義な講演会となりました。

 参加者からは

 「日本手話はろう児にとって最も大切な言語であると
  はっきり言ってもらって、改めてバイリンガル教育が
  大切なことがわかり、すっきりした。」
 「第2言語習得はあせらなくてもいいとわかり安心した。」
 「改めてろう教育の勉強をしたいと思った」
 「次回の講演が楽しみ」

 など多くの感想が寄せられました。

 おいでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。
 次回の講演をお楽しみに!


も ど る

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