[ レポート集 ]

様々な文献や発表原稿などを掲載いたします。
『 「第一回バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会」を終えて 』
全国ろう児をもつ親の会
代表  岡本 みどり


慶應義塾大学三田校舎

 「第一回バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会」に参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。全国から240名のかたにお集まりいただき、親、ろう学校の先生、学生さん、いろいろな立場のかたとバイリンガル・バイカルチュラル教育について学びあえたことはとても意義深いことと感じています。 
 発表を見られた方にはおわかりでしょうが私たちの子どもたちはこの発表のとおり、のびのびと子どもらしく育っています。さらには日本語にも興味をもち、みずから知りたいと積極的に学び、うれしい成果を次々と見せてくれています。「親は教師ではない」そんな当たり前のことをバイ・バイ教育が気づかせてくれました。
 こんなに楽しく子育てができることを、ひとりでも多くの親子に知っていただきたいと思います。今後も研究会を通じて皆さんとご一緒に学びたいと思います。夜の交流会もとっても良かったです。また一緒に飲みましょう!ありがとうございました。


バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究会 
 第一回研究大会

バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会会場


【第1日】 2003年3月8日(土)慶應義塾大学 519番教室

 【オープニングセレモニー】
  ・龍の子学園代表挨拶 竹内 かおり
  ・全国ろう児をもつ親の会会長挨拶 岡本 みどり
  ・開催校挨拶 古石篤子氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)
  ・龍の子学園からのメッセージ 龍の子学園
 
 【記念講演1】
  “What does BIBI mean to Deaf children?”
    (ろう児にとってバイリンガル・バイカルチュラルろう教育とは何か?)
   ローレヌ・E・ガリモア博士(ギャローデット大学院ろう教育学教授)

 【記念講演2】
  “What does language mean to a Deaf child?”
  (ろう児にとって「ことば」とは何を意味するか?)
   シャリ・キド氏(特定非営利活動法人日本ASL協会 ASL講師)

 【質疑応答】

 【全国ろう児をもつ親の会企画「ろう児の親の交流会」】
    全国のろう児をもつ親たち約40名が参加


【第2日】 2003年3月9日(日)慶應義塾大学 519番教室

<午前の部>
 【研究発表】
 「子どもの手話の分析」
  木村晴美氏・市田 泰弘氏
  (国立身体障害者リハビリテーション学院手話通訳学科教官)

 (1)龍の子学園學び舎乳児教室
    「乳児教室の3年間〜子どもたちの変化、親たちの変化〜」
 (2)龍の子学園幼稚部・學び舎幼児教室
    「バイリンガルの環境作り〜みんな違う、みんな同じ〜」

<午後の部>
 (3)龍の子学園小低部
    「わかる楽しさを求めて」
 (4)龍の子学園小高部
    「ろう児と第1言語〜バイリンガル教育の実践を通して〜」
 (5)龍の子学園中学部
    「バイリンガル教育における視覚教材のあり方」
 (6)龍の子学園親の会
    「子どもたちのアメリカ・チャレンジ」
 (7)龍の子学園學び舎保護者
    「笑顔あふれる子育て日記」
 (8)教材ビデオ共同研究校からの報告
    「手話翻訳ビデオを用いた国語の学習より」

 【全体討論】


「 ご 挨 拶 」
龍の子学園 代表  竹内かおり

 世界ろう者会議決議(1999)は宣言しています。「ろう児は手話と書き言葉によるバイリンガル教育を受ける権利を保有していることを再確認する」
 この日本に日本手話と書記日本語によるバイリンガルろう教育を取り入れようと、ろう者有志たちが中心となり、フリースクール龍の子学園を設立しました。そして、バイリンガルろう教育の正しい知識や実践を広めるために、龍の子学園実践発表会を年に一回行つてきました。今回は「第一回バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会」と名称を変え、バイバイろう教育をより一層深めたいと思っております。今、私たちの活動もやっとここまで来たのだという思いでいっぱいです。
 月一回の学園活動、週2、3回の学び舎に通っている子どもたちは目覚しく成長しています。その成長記録や指導方法を私たちは分析し、評価し、この研究大会で発表します。そして、ビデオ教材も送り続けているろう学校側の発表もあります。龍の子学園スタッフは私たちの第一言語である日本手話の文法や語彙などを更に学ぴ、日本語の文法も学んできました。そして両言語への翻訳の技術も磨いてきました。
 世界にはろう者のろう教育の専門家が大勢います。日本もこれからなのです。今、この日本はろう教育の革命期にあると言っても過言ではありません。ろう者が立ち上がったことに不快感を持つ人たちもいると聞いています。長い間ろう者の言語である日本手話は抑圧されてきましたが、今もなお、生き続けています。ろう者そしてろう児の第一言語である日本手話を教育言語とし、学ぶ環境こそがもっとも大事だといえます。ろう児の権利を保障するために、私たちは実践研究や運動を続けています。
 バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会を立ち上げたことで、これまで機会のなかった、ろう者による分析や研究発表が増えることを、私は確信しております。そしてろう者、聴者が共鳴しあうことを私たちろう者は心から望んでいます。
 これからもバイリンガル教育を実施している龍の子学園は世界に発信し続けていきます。この日本にバイリンガル教育を取り入れていくためには、ろう教育システムそのものを変えていかなけれぱなりません。皆さんと共に頑張っていきましょう。


「 ご 挨 拶 」
全国ろう児をもつ親の会 代表  岡本みどり
 2003年3月この日本で「第一回バイリンガル・バイカノレチュラルろう教育研究大会」を開催できましたことは、私たちろう児をもつ親としては大きな喜びであり、子どもたちにとっても有意義なことと考えております。
 私たちは長年この日を待ち望んできました。バイリンガル・バイカノレチュラルろう教
育は、ろう児が子どもらしくのびのびと成長することができ、また自分の力を効果的に発揮することができる教育です。そして、ろうであることを誇りに感じ、ひとりの人間として生きる力を育む教育なのです。
 全国ろう児をもつ親の会は、2000年8月に設立されました。その目的は、日本の中で親子がバイリンガル・バイカルチュラルろう教育を選択できるよう、そしてその教育が保障されるよう、文部科学省・教育委員会・ろう学校に働きかけることにあります。子どもたちには教育を受ける権利があり、大人や社会はその権利を守る義務があります。聞こえる人が聴者の視点で推し進めてきたこれまでのろう教育を、ろう者と共にろう者の視点に立って本当にろう児のためになるろう教育に変えていく時がきたといえます。
 世界ではスウェーデン、デンマークをはじめカナダ、アメリカ、フィンランド、ウガンダ、スロバキア、オランダ、タイ、アフリカ、ニカラグア、ベネズエラ、オーストラリア、ネパール、モンゴル、フィリピン、インド、中国などの国々ですでにバイリンガル・バイカルチュラルろう教育が実施され高い実績を上げています。日本でもこの教育を望む親子が日に日に増えています。どうか皆さん、ろう児のためにお力を貸してください。親のカだけではまだまだ微力です。ろう者、聴者、ろう学校の先生、専門家の方々、その他ろう教育に関心のある方、みんなでカを合わせて『ろう児のためのろう教育』をこの日本で実現させるために、『ろう教育の扉』をたたいてほしいのです。
『たたけよ、さらぱ開かれん』さあ、ご一緒にろう教育の新たな扉を開けようではありませんか!


「 開催校挨拶 」
慶應義塾大学総合政策学部教授
言語教育政策・第二言語習得論
古石篤子
 「バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究会」の第一回大会を慶應大学三田キャンパスで開催することができ、たいへん光栄に思います。日本におけるろう教育の新しい一歩を踏み出す記念すべき大会になるだろうと思うからです。
 私は大学でフランス語も教えており、英語をはじめとする外国語とは長いつきあいがあります。けれどもいつも思うことは、痒いところに手が届くように自分の考えを表現でき、また気持ちにしっくりとくることばは日本語で、いざとなったら日本語に頼れるという安心感があることの幸せです。また、私は父の転勤で小さい頃からあちこちを転々としたので、ある特定の地方の方言というものには習熟していませんが、方言を自分のことばとしている方たちも、借りものでない自分の気持ちを表すには方言しかないと言います。このように「自分のことば」をもつということは、この複雑な人生において、まず自分自身と和解するためにとても大切なことだと実感しています。別のことばで言えば、私たち人間にとって、精神的な安定や知性の十全な発達を得るためには、「自分のことば」をもつことが他のものの代わりえない重要な役割を果たしているということです。
 ろう者にとっての手話はそのような「自分のことば」であると理解しています。そしてそのような重要な役割をもつことばを使う権利は、けっして誰からも妨げられてはならないものであるとも考えます。これは基本的人権の一部です。
 また、バイリンガルの思想というものにも注目したいと思います。それは多数派から見た場合と少数派から見た場合とで意味合いが異なってくるかもしれませんが、基本的に自らの中に複数性を取り込む姿勢である点は重要です。「あれかこれか」ではなく「あれもこれも」という姿勢は、近代以降の日本に一番欠けていたものかもしれず、二十一世紀のキーワードとして今後大いに広めてゆく価値のある考え方だろうと思います。
 最後に「バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究会」のますますのご発展をお祈りし、以上簡単ですが、開催校からのごあいさつとさせていただきます。

バイリンガル・バイカルチュラルろう教育研究大会会場






※ 2003年3月9日(日) 朝日新聞朝刊 東京版掲載 「手話・書き言葉でろう教育  慶大で研究大会」

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