マイナー旅行記 みちのく編 第1日




 

「新潟パラダイス」






 

残暑厳しい9月の4日、


ボクと友人Bは、東北への旅に出た。


車で往復2000キロ以上を走破する長旅である。


いい若いもんが、なぜ東北?


と、これをお読みの方は思うだろうが、


動機は、至って単純である。


出発日を逆のぼることおよそ1ヶ月前の夜、


ボクは、何気なくテレビを見ていた。


スクリーンには、某酒造メーカーのCMが流れている。


実に涼しげな渓流の中で、白い牡鹿が飛び跳ね、水を飲む、


という清涼感たっぷりのCMである。


BGMは、スメタナのモルダウだったような気がする。


白い牡鹿が、明らかにどう見てもCGだっただけに、


ボクは、清らかな渓流の方もCGか何かだと思っていた。


ところがである。


一緒にテレビを見ていた妹が、


「ここ、行ってみたいわぁ。」


と、のたまったのである。


ボクは知らなかったのだが、(恥ずかしながら)


そのCMに出てくる渓流は実在のもので、


青森県の奥入瀬(おいらせ)という所にあるらしいのである。


それを妹から聞いて知ったボクは、


なぜか、奥入瀬に行きたくてしようがなくなったのである。


よし、奥入瀬に行こう!!


というわけで、


友人を誘って、奥入瀬に行くことにしたのだが、


ただ飛行機で一足飛びに行くのはつまらないなと思い、


車で遠路はるばる行こうということになったのである。



 

青森まで1200キロ。


ルートも日程も未定。


もちろん宿も未定。


かくして、


行き当たりばったり、


スットコドッコイな、旅が始まったのである。



 

そして、

この稿は、第一日目のお話。


 

 

出発の朝。


7時に大阪駅裏口を出発して、


福島インターから阪神高速11号線に入り、


豊中インターを経由して、


名神高速に入る。


ここからは、京都南、大津、草津、を通って、


滋賀県は琵琶湖の東岸を一気に北上。


早朝だけあって、混雑もなく気分爽快にひた走ったのである。


それから、彦根を過ぎ、米原で北陸自動車道に入り、


敦賀を通過、日本海を臨む福井県に入った。


このあたりで、敦賀方面の海上から、


自衛隊の戦闘機とおぼしき飛行機が、


2機、3機と飛来するのが見え、


ハンドルを握るボクの脳裏に、


トップガンかホットショットのワンシーンがよぎった。


トムクルーズもよくやるよな、


ボクも戦闘機のパイロットになって、


金髪の美人教官と恋に落ちてみたいなぁ、


ちゅよなことを考えながら、


さらに進んで行くと、


道は複雑な海岸線の続く敦賀湾を一瞬のぞき見て過ぎ、


越前海岸を避けるようにして一たん内陸に入り、


鯖江、福井といった都市を通過して行く。


それから北上して石川県に入り、


加賀を過ぎると、道は再び日本海沿いを走る。


このあたりの海がやたらと奇麗だったのを覚えている。


あまりに奇麗なのと休憩・昼食も兼ねて、


サービスエリアで海を眺めようということになった。


荒ぶる日本海のくせに、淡いマリンブルーなのである。


ところどころに白波が立ち、果てしなく続く水平線は、


船影一つなく、壮大な景観、大パノラマといったところ。


(何か観光ガイドみたいになってきたな。)


あれだけの海を前にすると、大声で叫びたくなったが、


人目を恐れて遠慮し、黙って海を見ながらソバを食った。


道は再び海岸線を離れ、金沢の北端をかすめて、


富山県に入り、倶利伽羅峠を抜けると富山平野に出る。


このあたりの田園風景は独特で、


田んぼの中に古そうな立派そうな農家が点在するのだが、


農家の周囲を必ずと言っていいほど立派な杉の木が、


ちょっとした森のように取り囲んでいるのである。


そんな景色を見やりつつ、


「いいねえ」


などと、何がいいのか曖昧な旅情にひたりつつ言い合い、


遥か南に雲をかぶった立山連峰を臨みながら、


魚津、黒部を通過してしばらく行くと、もう新潟との県境。


新潟県に入り、親不知とかいう物騒な(?)所に差し掛かると、


道は、山と絶壁ばかりの沿岸を縫うようにして走る。


この区間は、高速道路のくせに対面通行で、


崖の側面にムリヤリ道を付けたような感じである。


しかも、トンネルだらけ!!


長いの短いの、暗いの明るいの、幾つものトンネルを抜けて、


デンジャラスな区間をクリアすると、


道は平野に出て、上越市内に入る。


ここからは、ほとんど平野で田園地帯というか水田地帯。


さすがに、米ドコロ新潟である。


見渡す限り黄金の稲穂が、風に揺れて波打っているのである。


とはいえ、さすがに日本なので地平線には山の稜線が連なる。


ふと見ると、田んぼにぼろぼろのカカシが立っている。


広い広い田んぼの真中に、カカシが独り寂しげに佇む。


こんなカカシが役に立つのかなぁと思ってしまう。


いっそ、人間がカカシをやった方がいいのでは?


フロム・エーかなんかに、


「カカシバイト急募!


 田んぼの中に立ち、スズメが来たら、


 こらあぁっ!!!と叫んで追い払う、


 という簡単なお仕事!」


てな求人広告を出せば……。


ちゅよなアホなことを考えながら、


水田地帯を走り抜けていくうちに、


しだいに建物が目立ち始め、


裏日本随一の都市、新潟市に入って行く。


この時点の時刻は3時、


宿を探すのにイイ頃合いだなというわけで、


新潟中央ジャンクションで高速道路を降りたのである。


さて、降りたはいいが右も左もわからない。


とりあえず街の中心地に行こうということで、


標識を頼りに県庁を目差して市街地を走って行く。


意外にも交通量は多く、道路も都会っぽく整備されている。


しかし、である。


随所に見られるあの信号機は何だ?


上から赤、黄、青がタテに並んでいるのである。


青が一番下である。


前に背の高い車がいると、隠れて見えないではないか。


何で、こんな不便な信号を作るんだ?


いわゆる地元の特色というやつか?


などと、文句を言いつつ車を走らせていたのだが、


実際、新潟で不満な点と言えば、


この信号機ぐらいしかなかったのである。


ボクらは、新潟駅に車を乗りつけると、


観光案内所で安い宿を紹介してもらうことにした。


そして紹介してもらったのが、その名も、


「ホンマ健康ランド」である。


どこにでもありそうな健康ランドなのだが、


なんと、3000円で泊まれるのである。


しかも、風呂は24時間入り放題である。


ジャグジーあり、檜風呂あり、遠赤外線風呂あり、


露天風呂あり、サウナあり、の至れり尽せり……。


とにかくキレイな所で、くつろげるのである。


とは言え、さすがに食事代は別なので、


せっかくだから、何か土地のものを食べようと、


新潟駅界隈に繰り出したのだが、


何がどこにあるのやらサッパリわからない。


かなり歩き回った末、結局、寿司屋に入ったのであった。


どこにでもありそうな寿司屋である。


しかも回るやつである。


ボクは全く期待せずに店の暖簾をくぐった。


カウンター席に着き、一息ついてから寿司を見渡すと、


何やら見慣れないスシネタが回っている。


アジのようなハマチのような、よくわからないネタを取り、


寿司を握っているオヤジに尋ねてみると、


それはサンマだと言う。


サンマの刺身を見るのは初めてである。


よほど新鮮でないと刺身では食えないはずだと思っている所に、


オヤジが、今朝新潟港に水揚げされたものだと教えてくれた。


なるほどと思いながら、醤油をつけてまるごと口に放りこむと、


これがかなりウマイ。


まさしくサンマを思わせる味。


それでいてしつこくなく、シャリとの相性も絶妙である。


サンマってこんなに美味かったのかと、


感動のあまりサンマばかり6カンも食べてしまったが、


その後、タコの刺身や、何かよく知らない貝類など、


地元ならではの海の幸を満喫したのであった。


回る寿司のくせに、ネタはなかなかのものである。


しかも、10皿以上食べたと思うのだが、


1000円でおつりが来たのである。


後に店員の計算ミスだったことが判明したのだが、


ソレはソレ、旅の幸運というやつである。(何それ)


食後にどこか遊べそうなところはないかと、


繁華街を探したのだが、それらしきところは見つからない。


それなりにデカいショッピングセンターはあるが、


人の集まる繁華街らしきものはどうやらないらしいのだ。


まあ、ソレもソレ、田舎らしくて健全な感じがして、


ヨイではないか、ヨイではないか、ヨイではないかあぁ〜。(T_T)


などと、町娘を手ごめにする悪代官のようなセリフを吐きつつ、


健康ランドに戻ってゆっくりくつろぐことにしたのである。



 


青い空


黄金の稲穂


どこかゆったりした新潟市民。


心なしか人も温かいような気がした。


どこで道を訊いても、とてもとても丁寧に教えてくれる。


裏日本随一の都市でありながら、


どこか牧歌的な新潟市。


美味いものを安く食い、


広々として人影少ない風呂につかり、


ビールを片手に、リクライニング……。


決して観光スポットではない。


景勝地があるわけでもない。


だからこそ、地方の味が素直に出ている。



 


ああ、新潟よ。


まさにパラダイス。


すこぶるご満悦で、


新潟の夜は更けていくのであった……。

 

 

 

(第2日「喜多方ラーメンの…」に続く。)



執筆: 2000/10/04


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