『亡霊学級』


* オリジナルビデオ公開作品

(C)1996 
製作 大映株式会社
発売元 大映株式会社/販売元 徳間ジャパンコミュニケーションズ

[スタッフ]
原作
プロデューサー
監督
脚本
撮影
音楽


つのだじろう
土川勉/伊藤直克
鶴田法男
小川智子/鶴田法男
藤石修
尾形真一郎

[キャスト] 宮沢寿梨/石橋けい/水上竜士/沢入しのぶ
つのだじろう/黒沢清/鹿野寛子/長坂しほり/ひし美ゆり子

妻と旦那のオシャベリを読む































《妻と旦那のオシャベリ》

妻:つのだじろうの同名原作の映像化だよね。

旦那:そう、そう。

妻:鶴田法男のホラー作品って、実はオムニバスばっかりだったでしょ。これが初めての長編ホラーだよね。

旦那:そう、そう。だけど、原作はオムニバスなのね。でも、オムニバスはもうやりたくなかったから、大映の土川プロデューサーに「長編物にしていいですか?」って尋ねたら、「いいよ」って返答だったから、嬉しかったぁ。

妻:でも、脚本作りの時はかなり苦労してたみたいだったけど?

旦那:うーん、そうね。原作がオムニバスなのに、それを一本のストーリーにするのが、やっぱり難しかったんでしょうね。それと、脚本の小川智子さんとははじめてだったんで、お互いの資質の違いをすり合わせるのに時間が掛かったのかもね。でも、結局、原作漫画を劇中に登場させて話をまとめてしまう、というアイディアを思いついて、そこに小川さんの個性的な空気感とか、僕の資質にはない人間描写とかが入ってきて、かなりうまくできたと思ってる。

妻:そっかぁ、それまで付き合いの無かった小川さんに脚本をお願いしたのは、どんなキッカケからなの?

旦那:最初は伊藤プロデューサーに紹介されたの。丁度その頃、小川さんが脚本を手掛けた映画『冬の河童』(/監督風間詩織)が公開されてて、それを観たら、ヴィヴィッドで気持ち良い空気感があって、良いなぁ、って思って。それで、お願いしたいなぁ、って思ったの。なんだか映画雑誌のインタビューみたいになっちゃったけど、堅苦しくない?

妻:いいよ、いいよ、すでに他の作品でも、その感ありぃかも〜(笑)。それにこの作品、妻の私が言うのもなんだけど、“この先”を感じさせてくれちゃうような良い出来だよね〜。

旦那:自分で言うのもなんだけど、確かに良い出来だと思う。キャメラも良かったし。

妻:印象的なカットが多いよね。

旦那:なにしろ、後に『踊る大捜査線 THE MOVIE』を撮影する藤石さんだからね。レベルが高かった。

妻:あとさ、役者さんが全員良いよね。特に石橋けいさんが良い!ほーんと上手いよね〜。

旦那:彼女は、良いよね。当時、確か18才だったと思うけど、すごい演技力でね。彼女の力で相当に怖くなってる。

妻:主人公の親友役の彼女もイイ味出してるよね。

旦那:あや役を演じた、沢入しのぶね。彼女はこれだけの役を演じるのがはじめてだったんで、最初はガチガチに緊張してたんだけど、撮影後半の方に来たらすごく上手くなってね。嬉しかった。

妻:うんうん、最初はイマイチだったけど、後半にくると良くなってくるよね。でもあの現像室で「え?へんなの発見」ってなるくだり、特にあそこは編集っつーか、リズムが好き。あれのせいで、彼女が益々良く見えちゃう。

旦那:あの住所録引っぱり出すシーンでしょ。考えてみると、あそこって台詞が全然なくて動きと表情だけなんだよね。ああいうシーンは実はお芝居が難しいと思うんだけど、彼女は「あや」っていう役にしっかりなりきってたんだろうね。

妻:・・・なんて、主役以外の役者さんの話をしちゃったけど、主演の宮澤寿利さんも可愛かったね。小川さんの書かれた脚本中の台詞「チビだけど、力はあるんですぅ〜!」(ああなんて可愛くって素敵な台詞を思いつけるのかしらん?!)がピッタンコでさ。

旦那:そうそう、小川さんが「本読み」(役者の台詞の読み合わせ)に来てくれて、彼女の芝居を見て、その後、あの台詞を脚本に書き足してきたの。あの台詞がひとつ入っただけで、主人公がやたらに可愛く感じられた。でも、宮澤寿利自身、ほんとに可愛かったし、すごい気合いが入ってたからね。ラストカットの彼女を見ると分かるんだけど、腕がアザだらけなの。ほんとに体当たり演技ってやつで、それだけ力が入ってた。そう言えば、作品中盤で授業中に亡霊が出てくるシーンあるでしょ?

妻:うん。

旦那:あのシーンを撮る前日、彼女が僕の所に来て「明日のシーン、あたし頑張りますから、よろしくお願いします」ってわざわざ言いに来たの。役者さんにそんなこと言われたの初めてだったし、僕もあのシーンは頑張らなくちゃって思ってたから「こちらこそ、よろしく!」って、握手したら力が入り過ぎちゃって「監督、痛い!!」って、顔を歪められてしまった(笑)。

妻:わはは。あなたも相当に「力」が入ってたんだぁ。

旦那:そうだね。でも、あそこはまさに「力」のある良いシーンになったと思う。

妻:そうね。あのシーンから俄然、怖くなってくるからね。先生が彼女を助けに行かないのも良いよね。

旦那:あの先生の描写に関しては、実は少し悩んでたんだけど、演じた長坂しほりさんが「あたしは、ゾッとして身を引いちゃう方が良いですよね」って提案してきて、「あ、それだ!」ってことで、ああなったの。長坂さんはベテランなだけに、さすがだなぁ、と。あそこで、あの先生のキャラクターがはっきり固まった。

妻:そう言えば写真部のOBを演じてる水上竜士さんって、何時の間にか鶴田作品の常連役者さんになっちゃったね。

旦那:僕の作品の常連だなんて失礼かも知れないけど、水上さんはほんとに良い役者さんだよ。最近は劇作家兼舞台演出家でもあるのよ。あ、『シン・レッド・ライン』にも出てた。

妻:へぇー。

旦那:だけど、この作品も現場はかなり厳しかったけど、でも、思い返すと楽しい思い出ばかりだなぁ。

妻:それって、いいね。羨ましいなぁ。そういう話聞いちゃうと、家庭からのバックアップしか出来ない妻って、ツマんない〜。

旦那:ええ? それって、もしかして「妻」と「ツマ」を掛けたシャレ? うーん、うまい返答が見つからない。

妻:うぅっ!いいよ、いいよ、気にしないで〜。

旦那:そう? うん。それでさ、最後に蛍光灯が割れるシーンがあるでしょ。あれ、火薬で割ってるんだけど、なかなかうまく割れなくて、何度か撮り直したのね。でも、一回失敗すると、仕込むのに一時間くらい掛かるから、待たされるの。でさ、あのシーンを撮ったのは夜中だったから、待ってる間、校内でみんなして夜食のハンバーガーとか食べたの。そういう事って、あんまり経験できることじゃないからね、なんか楽しくて。

妻:わはは、夜の学校って怖いけど、仲間と一緒にハンバーガーを食べたりするんだったら、スッゴク楽しいんだろうなぁ〜。

旦那:でしょ、でしょ。しかも公認でやってるんだからね。

妻:ところでさ、『亡霊学級』は良い作品だと思うんだけど、でも、ひとつだけ、どーしても不満があるの。

旦那:なに?

妻:あのラスト!

旦那:ああ、あれね。あれは君だけじゃなくて賛否両論あるよね。君の友だちも全体的には誉めてたけど「おおっ〜! 納得イカーン! 女子高生、達観するなぁ!!!」って怒ってたよね。うーん、だけど、僕にはあのラストしかあり得なかった。要するに、人間が絶対的恐怖に直面したときは「逃げる」か、「受け入れる」しかないって言うのが、今のところの僕の見解だから、あの場合は「受け入れよう」というラストになったのね。つまり、彼女は恐怖を受け入れて、恐怖に対して正しい対処をしたわけだから、僕としてはハッピー・エンドのつもりなんだけど分かる?

妻:悪いけど、全然。結果的に何のために出てきたんだか判らなくなっちゃった水上竜士さん演じるところのOBさんだけはさ、元々逃げる気力っていうか生きる気力を充分持ってる人だったんだから、二人で逃げるのは無理でも、自分だけでも逃げ切って欲しかったわ。んでもって、その後悩み続けながらも生き続けてくれるとかしてさぁ〜。せめてそういう対比をラストに観たかったように思う〜。

旦那:ああ、そうかぁ。例えば、あのラストの後に、OBの館山が病院でパッと目覚めて、彼だけが助かったことだけが分かって、でも、彼はあの時のことは何も語ろうとしない。そこで終わる。っていうラストもあったかも知れないな。それであれば、これだけ色んな人から批判を受けなくても済んだかも知れないけどね。でも、やっぱり『亡霊学級』を作ってるときは、あのラストが一番良いラストだと確信してたし、その時は一番良いと思ったことをしたわけだから、それはそれで間違ってなかったと、今も思ってる。たださ、僕も恐怖に対して明確な回答が得られてないのも事実でね。うーん、そうね・・・・・うーん、つまりさ、だからこそ、ホラー作品を作り続けてるんじゃないのかしらとも思うけどね。

(1999年8月1日/自宅にて)



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