台湾鉄道紀行 台湾新幹線開通前夜の在来線風景
page-4 駅弁売りの声と「簡易展望車」
■東部幹線/宜蘭線 蘇澳行 平快191列車 (その2 雙渓→蘇澳)

雙渓駅に停車中の平快
 ▲雙渓駅に停車中の平快191

・客車列車らしい停車時の静寂、発車時の衝撃…

 列車は雙渓(Shuangsi)に着くと、しばらく停車。ホームに降りて煙草を吹かす人もいる。
 時刻表によると特急「自強号」台東行に追い抜かれるようだ。平快や普通車には車内放送がない。

 駅に止まると、車内は客車列車ならではの静寂さに包まれる。雨粒が落ちる音と寝息だけが聞こえる。

 静けさを切り裂き、黄色いディーゼル自強号が猛スピードで通過。
DC自強号
 ▲ディーゼル自強号が通過

 しばらくして、ガクン、という軽い揺れが生じさせて、列車がゆっくり動き出す。思わず、にやけてしまう。
 発車時は機関士の腕の見せ所だが、衝撃がある位の荒っぽい運転のほうが、鈍行客車列車らしくて良いように思う。

 雙渓を出ると、線路はいよいよ海岸線に近づく。国道越しに海がチラリチラリと見える頃、福隆(Fulong)に到着。

 「弁当(ビェンダン)、弁当―」と連呼する声がホームから聞こえた。この光景、どこかで見た。窓を開けて買ってもらった遠い微かな記憶が蘇る。不意に涙さえ流れそうになる。

 ホームに立つ男女5名の売り子を横目に列車は動き出す。ドアが開け放されたままのデッキに立って見送る。明後日からは、窓さえ開かない通勤電車が走る。弁当売りの声さえ聞こえなくなるかもしれない。

太平洋を望む

・おだやかな太平洋が車窓に広がる


 県境の長いトンネルを越えると、左手に太平洋が広がった。波が低く穏やかな海だ。天気の良い日には、与那国島が見えることもあるという。今日はどんよりとした海岸線。灰色の雨雲からは、細かい無数の雨粒が落ちてくる。

 列車は海に沿って気持ちよさそうに走る。次の石城という小駅を通過。平快らしい一面を初めて見せる。

 大里(Dali)、大溪(Dasi)と海が望める駅を過ぎ、8時15分、亀山(Gueishan)に着いた。急行「呂光号」に道を譲る。駅名表の「亀」は旧字体だが、どうしても「かめやま」と読みたくなる。ここもホームから太平洋が望め、海原には亀のような小さな島がぼんやり浮かんでいる。

外澳を過ぎる頃から田園地帯に入る
 ▲外澳を過ぎる頃から田園地帯に入る
 外澳という無人駅を通過。列車は海岸線を離れて、田園地帯の中を行く。
 
 頂埔という小駅を過ぎ、さらに内陸に入って礁溪(Jiaosi)に到着した。ここは台湾第二の規模を誇る著名温泉街。駅付近にはホテルらしき建物も見える。

 先ほどからビデオカメラを回していた鉄道マニア氏はここで下車。温泉にでも行くのかと思ったが、時刻表を見ると数分後に台北方面行「普通414列車」がある。再び旧型客車に乗って折り返すのだろう。なかなかのマニア的行動で共感を覚える。

 市街地にある四城(Sihcheng)で自強号を臨時待避。この平快車、どこの駅でも一度停まると、走ることを忘れてしまったかの如くしばらく動かない。そんな状況ゆえ、もう10分以上の遅れが生じている。

宜蘭駅の列車案内板
 ▲宜蘭には13分遅れて到着した

・複線区間での通過列車待避に驚き


 8時51分、定刻より13分遅れて宜蘭(Yilan)に着いた。宜蘭県の県庁所在地・宜蘭市の中心駅。人口は9万超、路線最大の街である。駅前も賑やかだ。

 乗客の大半は下車したが、同じ程の客が乗り込み発車。列車が駅を離れる直前、隣のホームにはカラフルな絵が描かれた「花蓮観光列車」がすべり込んできた。
 今、東部幹線には3種類の団体観光列車が走っており、大変な人気を博しているという。先日、東京都の石原慎太郎知事が試乗したことで、日本にも大きく知れ渡ることとなった。
観光列車が通過
 ▲上り線から追い抜く下り観光列車

 我が平快は、この観光列車をどこかで待避しなければならないはずだが、と考えていたら、駅も待避設備もない市街地の直線区間でいきなり停車。

 程なく、件の列車が上り(台北方面行)線路を猛スピードで追い抜いていった。

 しばし呆気にとられたが、台湾では、複線の場合でも上下線に完全分離することはなく、単線+単線の扱いになっているのだという。


開け放されてる旧型客車のドア

・開放感いっぱい 客車の種類も色々

 列車は宜蘭近郊の市街地然とした風景の中を坦々と走る。少し退屈になり、すべての車両を歩き回る。

 ほとんどの出入口ドアは開け放されていて、かつ、連結部分の幌も簡易的。車両と車両を渡る時、揺れで外に落ちてしまわぬかとドキドキする。

 機関車のすぐ後ろの先頭車は4分の1ほどが車掌室で残りは荷物室。しかし、積んでいるのは小さなダンボール箱が3つだけ。地元の老人らも同乗して老車掌と談笑。いかにも鈍行列車的な心和ませる光景だ。私が写真を撮るのを、物珍しそうに見ている。

最後尾の客車は「簡易展望車」
 2号車はロングシートの座席車。中央付近の座席が取り払われており、日本で昔走っていた和田岬線の旧型客車のよう。車両には「行李代用車」との表示もある。
 3号車は固定式のセミクロシシート車。いずれもデッキはなく、車内の両端に両開きの出入口ドア。1つは壊れて半分開いたまま。これらは元々、普通列車用としてインドで製造された車両だという。

 一方、4号車から7号車までは2人がけ回転式座席が並ぶ日本製車両。やはりここが落ち着く。

 そして、最後尾車両のデッキはスリル満点の「簡易展望車」。過ぎ行くレールを見ながら、風を思い切り浴びられる。

 列車は羅東(Luidong)に到着した。人口は約7万、宜蘭県第二の都市らしく近代的な橋上駅舎が見える。
 ほとんどの乗客が下車してしまい、空気輸送状態のまま、終着の蘇澳を目指す。

 黒い貨車が並ぶ冬山(Dongshan)で、幼い子供を連れた6人家族の一行が下車。彼らは台北からずっと乗っていた稀有な乗客だ。

蘇澳新站に進入する平快191号
 ▲蘇澳新站に進入する平快191号

・3時間の夢、「旧客」の旅が終わる

 カーブ上に作られた新馬駅を通過し、列車は蘇澳新站(Suaosin)に停車。
 駅前には巨大なセメント工場のプラントがそびえ建つ。

 東部幹線を南下する列車はここで分岐し、蘇澳には乗り入れない。
 「新站(駅)」という名が示すように、ホームこそ大きいが、乗り換えのために整備された街外れの小駅といった感がある。
蘇澳に到着した平快


 列車は左に大きくカーブして東部幹線のレールと分かれ、9時30分、ほどなく終端駅の蘇澳(Suao)にたどり着いた。

 台北から約3時間15分、旧型客車による平快車の旅はここで終わる。

 本当に良き懐かしき夢を見させてもらった。ありがとう、そしてお疲れ様。

 役目を終えた青い客車に語りかけた。

平快191の切符(台北〜蘇澳)


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「雨の蘇澳と台北行の自強号」
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