太宰治を訪ねた津軽紀行
page-10
 再び小泊の村を通り、幻の国道と呼ばれる「龍泊ライン」に入る。

 この国道は津軽半島西側最北の街、小泊と津軽半島の最北端、竜飛岬を結ぶ全長20キロの国道である。小泊村より先は未開の地と言われ、竜飛の部落までまったく人が住んでいない。そんな所へ今から10年前に観光用として1車線しかない国道を通した。

 小泊の村を過ぎると、若い運転手が小泊にはどういう目的で来たのか、ということを聞いてきた。私は正直に太宰の碑を見に来た、と答えると、太宰が好きなんですね、と、ああ、またか・・・・・・とでも言いたそうな口調で帰ってきた。私は口ごもって、いや、別に好きな訳ではないんですけどね、と苦しい弁明をした。太宰のフアンはそれを隠したがるタイプが多い。

 
日本に永住しているイギリス人作家でアラン・ブースという人がいる。氏は太宰を追い求めて津軽を歩いた記録を著書「津軽ー失われた風景を探してー」に記している。その中で氏も旅行中に何度か太宰のフアンか、という質問をされたようだが、その度に、そういう訳ではない、と私と同じような弁明を繰り返している。どうも太宰のフアンには照れ屋が多いようである。

 左手に日本海を見ながら、車は曲がりくねったのこぎり坂を低速ギアで走る。アスファルトこそ新しいが、付近には家一つ見当たらない。

 海抜470メートルの龍泊ライン中間地点に展望台があり、そこからの眺めは「天然の絵巻を見るが如し」とガイドブックに書いてある。
 運転手が気を利かして止めてくれたので見に行ったが、ねずみ色の空の下に鬱蒼とした原野だけが見え、強風が容赦なく吹き付けてくる。まるで地獄絵図を見るが如し、の風景であった。

 小泊村から約30分余りで竜飛に着いた。山の上にある青函トンネル記念館の前で降ろしてもらい、記念館のレストランで遅い昼食をとった。
竜飛の階段国道
 青函トンネル記念館は、トンネルが完成した1988年にできたもので、トンネル工事の構造などが立体模型やビデオなどで分かりやすく説明されているほか、工事用として使っていた斜坑ケーブルに乗り、海底下約140メートルのトンネル作業抗まで行くことができる。

 こちらは以前に行ったことがあるし、入館料が高いので、最近隣にできた竜飛ウインドパークなる施設に入ってみた。

 竜飛は「風の岬」と言われるだけあって、年間平均の風速が毎秒10メートル以上という日本有数の強風地帯で、この風を活かす方法はないか、ということで山の上に巨大な風車5台を置き、風の力を電気に代える試みを行っている。
 そのシステムPRのために東北電力が展示館を建てたもので、実際に風力を体験できる施設などがあり、なかなか楽しい。しかも入場は無料である。

 記念館などがある竜飛の丘の上から、全国で唯一、車の通れない国道として今ではすっかり有名になった階段国道339号線を下っていると、紫陽花の花の向こうに北海道がうっすらと見えた。


写真:津軽海峡を望む竜飛の階段国道
次のページへ又はTOPへ