太宰治を訪ねた津軽紀行
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 強風の中、小泊の村を散歩していると、漁港の近くに村の海洋センターなる真新しい施設を発見した。中を覗いてみると、やはり太宰関係の展示などがあり、小泊の観光名所の案内には、断崖絶壁の名岬として名高い権現崎はバスで10数分の場所にあるので、行ってみることにした。

 砂利敷きの小泊バスターミナルから、バスに乗り込み、来た時のバスで通り、老人が大量に乗り込んできた下前(したまえ)という小さな集落へ向かう。診療所前のバス停からは再び先ほどの老人たちが大量に乗り込んできた。診療を終え、下前に戻るのだろう。

 山を越えると15分ほどで下前漁港の集落に着いた。権現崎はここから徒歩20分の場所だという。バスを降りると老人たちも同じ方向へ歩き出した。皺の深い老婆の一人が私に、どこへ行くのか、と訪ねてきたので、権現崎に行く、と答えたら「台風が来るでよ」と老人集団に笑われた。

 本当に台風に襲われるかのような強い向かい風の中、国道を歩いていると、アスファルトが尽きた所に権現崎キャニオンハウスという人気のない施設があった。ここが権現崎かと思っていると、ここは観光客がバスで来るための権現崎で、断崖絶壁が眺められる展望台は、どうやらこの先、目の前にある標高200メートルあまりの山に登らなければならないらしい。重い荷物と灰色の空を気にしつつも、覚悟を決めて登ることにした。

 息を切らせながら登山道を登ること30分、小さな広場のような頂上に着いた。

 頂上には人一人おらず、不気味なほどの静けさの中、中国の伝説上の人物で、皇帝の命により、不死の仙薬を求めて日本に渡来した徐福を祀っている、という尾崎神社がぽつりと鎮座している。どうしてこんな場所に神社が、とも思うが、古代からの信仰で特に岬には神が宿っていると言い伝えられてきたというから、海を鎮めるためにこういう場所に神社を作ったのかもしれない。

 木で作られた古めかしい展望台に登ると、断崖下の海原に豆粒ほどの大きさで漁船が浮かんでいた。

絶景の岬と言われるだけあって、眼下の海に吸い込まれそうなほど恐ろしい風景なのだが、一度見たら忘れられぬ風景でもある。そのせいか、この風景に取りつかれ、村に滞在しながらこの岬を撮り続ける写真家さえもいるという。


 下りは比較的楽に山道を下り、20分ほどで下前の集落までたどり着けた。

 津軽中里方面へ帰るバスに乗ろうと思ったら、どうやら昼間はこの集落にはバスが立ち寄らないようで、便が全くない。木造の小さなバス停で考えあぐねていても仕方ないので、タクシーを呼び、旅館一泊分の料金をつぎ込んで、津軽半島の最北端、竜飛岬まで抜けてしまうことにした。
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