太宰治を訪ねた津軽紀行
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 弘前から五能線経由、五所川原行の鈍行列車に乗り込む。古びたディーゼルカーの2両編成で、あの無粋な都会電車ばかりに乗せられていたので、ようやく心が落ち着く。

 弘前から1時間半で五所川原に到着。太宰いわく、よく言えば活気のある騒がしい町、という五所川原市内を歩く。どことなく埃っぽい街で、これといって見所もなく、商店街から流れ出るうるさい音楽を聴いていると、津軽にいるような気がしなくなる。

 駅に戻り、津軽鉄道の列車に乗り込んだ。国鉄から払い下げられた1両の薄汚れたディーゼルカーは、所々にオイルが黒く染みつき、車内では津軽弁が飛びかっていて、五所川原の浮ついた雰囲気を一気に打ち破ってしまった感じさえする。

 この津軽鉄道は、五所川原から金木町を通り、津軽半島の街、津軽中里までの約20キロを結ぶ非電化単線のローカル私鉄である。

 学校帰りの高校生らを満載した、たった1両の列車は、正面に岩木山を望みながら、辺り一面黄色く色づいた津軽平野の中を重そうに走る。

 車内の片隅に鈴虫が入った虫箱が置かれており、リーンという鳴き声が車内に響き渡っている。この企画は「鈴虫列車」と呼ばれ、津軽鉄道独特のサービスで、古びたディーゼルカーに秋を持ち込んでいる。冬には「ストーブ列車」という石炭ストーブを積んだ客車列車も走らせていて、我々を楽しませてくれる。
津軽鉄道・芦野公園駅
 列車は約30分で沿線の中心駅、金木に着く。賑やかだった高校生らのほとんどが下車し、少し寂しくなった列車で、同じ金木町内にあるその次の芦野公園駅まで行った。

 片面だけしかないホームに降り立つと、やつれた野良犬が出迎えてくれた。
 駅から5分ほど歩いた場所に、大きな池と美しい林が自慢の芦野公園がある。ここ金木町は言わずと知れた太宰の生まれ故郷で、幼少の頃、この公園へよく訪れていたという。

 落葉松の中を歩いていると、今年の水不足で干上がった池に、太宰号と名づけられたボードが置いてあった。近くに太宰の石碑があり、
……撰ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり……
と刻み込まれている。

 そんな苦悩の詩を頭の中で読んでいたら、近くで遊ぶ子どもたちの騒ぎ声が、私の太宰への想いをかき消してしまった。現実に逆戻りして、なんとなく微笑ましい気分になった。

 公園内にある町立の歴史民族館に立ち寄る。近くで出土した縄文土器から、太宰の遺品まで数々の物が展示されていた。

 再び芦野公園駅からディーゼルカーに乗り、金木の駅に戻った。


写真:津軽鉄道・芦野公園駅で
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