鉄道旅行百景

戦後初めて沖縄に敷かれた鉄道、「ゆいレール」
−鉄道旅行百景(第8回)−

那覇市内を走るゆいレール
 ▲那覇市内を走る「ゆいレール」

 羽田空港を出て約90分、雲の切れ間から、東シナの海原に小さな島影が見えた。地図に載っている島の形に似た陸地を探しては目に焼き付ける。
 沖永良部や与論島の姿がはっきりと見え始めた頃、機体は高度を下げ、沖縄本島に近付く。途中、所々で雲に遮られ、蒼く透明な海に、細長い島影が眼下に迫ったと思ったら、一気に高度を下げた。

 沖縄本島と橋で通ずる与勝半島の島々を望みながら、機体は海岸線沿いに南部へ旋回。窓から見下ろす沖縄本島。起伏は比較的少なく、平べったい赤みを帯びた大地だ。
飛行機からの車窓
 パッチワーク状の赤土の畑や、点在する家々の姿まではっきりと見えてきた。断崖絶壁から空に向かって伸びる白亜の建造物は、ひめゆりの塔。誰もがその歴史を知る南部戦線跡での低空飛行は、沖縄駐留米軍による空域規制の影響によるものだが、観光客の私にとって、嬉しいことこのうえない。
 初めて北海道の時に行った時と同じように、沖縄も必ず船で行きたいと思っていた。遠き島は苦労して海を超えてこそ、感動がある。そんな思いをずっと抱いていたが、飛行機も決して悪くない。
 沖縄本島を半周するこの低空飛行のアプローチは、吸い込まれそうな海の色といい、南の島ならではの赤茶けた大地といい、初めて訪れる者に強烈な印象を植え付けてくれる。
ゆいレールマップ
 泳げない私が、沖縄への旅をするのは、理由があった。

 戦後、鉄道のなかった沖縄に「ゆいレール」という名のモノレールが完成したのは今年(2003年)の8月。モノレールとはいえ、鉄道は鉄道である。
 沖縄の観光ガイドブックにも「○○駅から○分」などという表記も見られ、ようやく私でも距離感や土地勘がつかめるようになった。鉄道マニアゆえ、どんな旅でもすべて駅を中心に考える癖から抜け出せないでいる。この”鉄道”の開業は沖縄へ行く大きな動機付けとなった。
那覇空港駅

 那覇空港を出るとすぐ正面の高架上にアーチ型の「ゆいレール」那覇空港駅があり、動く歩道でつながっている。駅の雰囲気が大阪モノレールの伊丹空港駅と、どことなく似ている。

 「ゆいレール」は、正式には沖縄都市モノレールといい、"ゆい"とは「ゆいまーる」という"助け合い"という意の沖縄の方言からとった愛称だという。ここ那覇空港から、首里(しゅり)城のある首里駅まで、約13キロを27分で結ぶ。スピードはそれほど速くはないが、バスでは、渋滞などで1時間程度かかることもあるというから、移動の時間が読めるのは好都合である。
ゆいレールのロゴマーク
 路線の途中には、那覇バスターミナルに隣接する「旭橋駅」、市内中心地にある「県庁前駅」、沖縄一の繁華街・国際通りに近い「牧志(まきし)駅」などがあり、我々のような土地勘のない旅行者が市内観光するのにも最適だ。

 那覇空港駅から首里駅までの運賃は290円とそれほど高くない。自動改札機を見ると、切符挿入口に「ここに切符を入れてください」と紙で注意書きが貼ってあった。
那覇空港駅

 沖縄には戦後、ずっと鉄道がなかった訳だから「自動改札機なんて初めて見る」という人がいても不思議ではない。

 ホームに上がると、あいにく列車は来ていないが、海からの風が爽快で暑さを少し忘れられる。しばらくすると、芋虫のような格好でゆっくり走って来るモノレールの姿が、遠くに見えた。丸みを帯びた車体がどことなく可愛らしい。
車内はロングシート
 列車は2両編成で、車内はベンチのような青い椅子が並ぶロングシート。新しいためか、明るくて気持ちがいい。車両の最前部は「展望席」になっており、運転手と同じ目線で車窓を楽しめる。ゆいレールの特等席

 いい歳をして少し恥ずかしいが、観光客ということで勇気を出してそこに座らせてもらう。飛行機に引き続き、高い所からの見物が楽しめそうだ。

 那覇空港駅を出た列車は、大きくカーブし、遠くに東シナ海と、右に左に自衛隊の訓練場などを見下ろしながら、2キロほど走って赤嶺(あかみね)駅に着く。
赤嶺駅
 ▲日本最南端の赤嶺駅

 ここは、新しく日本最南端に認定された重要な駅。これまでの西大山(指宿枕崎線)という知識を更新し、赤嶺の名を銘記せねばならない。鉄道マニアを長年やっていると、必ずこの手の質問は受けるものだ。

 赤嶺を出ると、市街地に入り、家々や商店、マンションも多くなる。時折、赤っぽい屋根の家や丸い給水タンクが見えるほかは、全国系のチェーン店の大看板が車窓に飛び込んでくるなど、沖縄らしい車窓というものはあまり見られない。
ゆいレールの運転室
 ▲運転手は「かりゆしウエア」を着用
 ただ、ガラス越しにいる運転手の”かりゆしウェア”の制服と、駅に到着する度に車内で流れるさまざまな琉球音楽が、沖縄であることを思い出させてくれるが。

 小禄(おろく)、奥武山(おうのやま)公園と過ぎ、国場川を越えると、那覇中心部に接近。列車は川沿いに走る。
 壺川(つぼかわ)を越えて大きくカーブすると、いよいよ那覇の最中心部だ。高いビルが多くなってきた。
県庁前駅
 ▲パレットくもじ前にある県庁前駅

 とりどりのバスがひしめく那覇バスターミナルの様子を眼下に見ながら、旭橋駅に到着。乗降客が増えてくる。

 列車は、久茂地(くもじ)川沿いに密集したビルの中を走り、真正面に大きな商業ビル「パレットくもじ」を見ながら、県庁前駅に到着。

 ビル街を縫うように2分ほど走ると美栄橋(みえばし)駅だ。離島へのフェリーが発着する泊港は、この駅から10分ほど歩いたところにあるが、海はどこにも見えない。見えるのは、駅前にあるダイエーの看板だけである。
旭橋駅

 中心街を避けるかのように大きく外に回り、国際通りと交差してすぐに牧志(まきし)駅がある。国際通りの北端入口であり、沖縄三越や牧志公設市場などへ行くにはここで降りる。
 観光利用価値の高い駅だが、バス市内線の牧志停留所のほうは、国際通りの沖縄三越近くにあり、便利さでは少し負けている。

 列車は、牧志を出ると急カーブを描いて国道330号線に合流し、安里(あさと)駅、おもろまち駅、古島(ふるじま)駅と国道に沿って走る。家々やマンション・アパート群が密集する都会の風景が続く。これだけ人口密度が高い沿線ゆえに、鉄道を整備する必要性が高く、市内道路の渋滞解消への期待も強いのだろう。
頭上を走るゆいレール
 車からモノレールへのシフトが進んだ結果、渋滞が少しでも解消し、那覇市外へも路線が大きく伸びるようなことになれば、車社会からの脱却も夢ではないのかもしれない。

 古島駅を出た列車は、国道を離れてまたも右に急カーブ。このモノレールは、ともかく右に左によく曲がる。方向感覚が狂ってしまいそうだ。まるで営団地下鉄日比谷線のようである。ルート選定の際に、さまざまな事情や駆け引きがあったのだろうか。事実、国際通りから外れるように走っているのは、工事中の代替道路の問題があったためだとも聞く。
終着駅の首里駅
 ▲大きくカーブして首里駅に着く。
 首里城へは駅から徒歩10分程度。

 市立病院前駅、儀保(ぎぼ)駅を過ぎると、まもなく終点だ。
 今度は左に大きく曲がってすぐに首里駅に到着した。曲がる手前に駅を作ったほうが首里城公園へは近いのだが、無理に北東へ急カーブした直後に駅がある。

 将来、宜野湾市や沖縄市方面へ延伸するための布石なのだろうか。

 ゆいレールは、初めての沖縄のイントロダクションとしては最適かつ快適だった。
首里城



(旅行時期2003/10、公開日2005/3/12)

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