鉄道旅行百景

時が止まったままの風景 房総半島の「久留里線」
−鉄道旅行百景(第9回)−

上総亀山駅
 ▲久留里線終着の上総亀山駅
 東京駅から総武線の快速列車で約80分、房総半島中央部に位置する港街、千葉県木更津(きさらづ)に着く。
 ここから、房総丘陵の山間に向かって、上総(かずさ)亀山まで通じているのが久留里(くるり)線だ。

 房総半島縦断の夢叶わず、太平洋側から伸びる上総中野駅までもう少しという地点で鉄路が途切れており、沿線にこれといった大きな街もない。古いディーゼルカーが地元客を乗せてのんびりと走るという、典型的なローカル線である。
久留里線路線図
 関東近郊の路線では、今や非電化の路線自体が珍しい。山間の終着駅というのも気にかかる。
 春の休日、初めて久留里線に出掛けた。

 木更津を11時50分に出る上総亀山行きは、白地のディーゼルカーが2両。国鉄時代の古い車両を"厚化粧"して今も使っている。窓に背を向けて座るロングシートになっているのは残念だが、ローカル線とはいえ、ここも首都圏。諦めるしかない。


 発車が近づくと、ほとんどの座席が埋まった。休日の買物帰りといった様相の客が目立つ。

 木更津を出た列車は、自転車より少し早い位のスピードで住宅地の中を走る。線路が細いためか揺れが大きく、車内には軽油の匂いが漂う。
古い駅名看板

 終点の上総亀山までは約32キロ、所要は1時間。とにかく、のんびりしている。

 祇園、上総清川と市街地の無人駅を過ぎると、広がる水田の中を坦々と走る。変わり映えしない景色に眠気が襲ってきそうだ。
車掌による乗車券回収風景
 ▲馬来田駅で多くが下車

 木更津から25分で馬来田(まくた)に到着。3分の1ほどの乗客が一斉に下車した。今は木更津市の外れにある集落だが、かっては村だったというからそれなりの人口があるのだろう。

 車掌はホームで切符の回収作業に時間がかかっているが、特に気にする様子もない。2分ほど遅れてドアを閉めた。
久留里駅でのタブレット交換
 ▲久留里駅でのタブレット交換風景

 列車は南に進行方向を変え、君津市内へと入った。時が止まったかのような古びた無人駅を幾つか過ぎる。ローカル線らしい雰囲気になってきた。地名の書かれた白い旧式駅名板が懐かしさを誘う。

 12時32分、久留里に着いた。城下町として著名な線内一の主要駅だ。
ロングシートの車内

 ホームでは反対列車とともに、駅員がタブレット(通行証)を腕に抱えて待っている。日本では絶滅寸前の光景。

 もし、ディーゼルカーが国鉄時代のタラコ色だったなら、涙を流して喜んでしまうかもしれない。
久留里を過ぎると山間に分け入っていく

 乗客の大半が久留里駅で下車してしまい、列車は空気輸送のような状態で終着駅を目指す。
古堰川
 車窓は、これまでの坦々とした田園風景が一変。線路は右に左に曲がりながら山間に分け入っていく。岩場がむき出しになった古堰川も寄り添ってきた。

 久留里より先の区間が、一番の見所だ。

上総亀山駅
 無人駅を2つ過ぎ、短いトンネルを抜けると小さな平地が開け、12時51分、終着駅の上総亀山に到着した。

 降り立った乗客はあっという間に方々へ散ってしまい、小さな木造駅舎は静けさに包まれた。

 駅前には、壊れた自動販売機とシャッターの閉まった商店。「ようこそ亀山へ」という古錆びた観光案内図もあった。

 終着駅もまた、時代に取り残されているかのような風景。最後の最後まで、古き良き時代の懐かしさが一杯に詰まったローカル線だった。


安房鴨川行きの路線バス(上総亀山駅)
 なお、上総亀山駅から房総半島太平洋側の安房鴨川駅まで、1日3〜4本程度の路線バス便がある。

(2005/3/21公開)


※本稿の公開時において一部記載内容に誤りがありました。ご指摘いただいた読者の「パンチ」様に感謝申し上げます。(2006/7/18)

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