鉄道旅行百景

都心にただ一つ最後に残った旧型客車、和田岬線
−鉄道旅行百景(第3回)−

旧型客車の車内
 独特の雰囲気が残る旧型客車の車内
 (1989年和田岬線で)
 1980年代中盤に全国から消えてしまった旧型客車。ドアが手動でいつも開け放されたまま走っていた、こげ茶色や青の古い客車は、戦後日本の鈍行列車の象徴的な姿でもあった。

 
80年代に全国から消えてしまったはずの旧型客車だったが、1990年まで関西、しかも都市圏で密かに活躍していた。

兵庫駅に停車中の和田岬線旧客列車
 山陽本線とは離れたホームに停車する「旧客」
 (1989年山陽本線兵庫駅で)
 通称「和田岬線」と呼ばれる路線は、正式には山陽本線の一部、支線である。神戸市兵庫区の兵庫駅から海へ向かって1駅だけ走る。わずか2.7キロのミニ路線だ。

 和田岬線は、和田岬駅の周辺が造船業などの工業地帯となっており、その通勤通学客を運ぶために存在している。
 そのためか列車は朝と夕方しか運転されず、日祝日には1日2往復だけに減便される。

通勤客であふれる和田岬線の座席なし客車
 通勤客で溢れる「座席なし客車」。
 (1990年和田岬線内で)
 客車は、混雑の激しい和田岬線ならではの改造がなされており、その大半は座席も何もない貨車のような客車が連結されていた。まるで戦後すぐの鉄道状況が再現されているかような風景。ゆえに旧型客車がよく似合っていた。

 日本最後の旧型客車が関西都市圏で走っている、ということを不思議と思うより前に、現役の旧型客車に出会える嬉しさで一杯になり、気がついたら幾度も和田岬線に行っていた。
和田岬線の旧型客車列車
 わずか2.7キロをのんびり走る和田岬線の列車
 
(1990年和田岬線兵庫〜和田岬間で)

 街の中を走る乗車時間わずか6分の路線自体に何かがあるという訳ではなく、ある意味、遊園地の汽車のような雰囲気ではあったが、何よりも旧型客車が目の前で動いていることが嬉しかった。
 時速30km/hの客車に揺られながら、幼少時代の鈍行列車の旅を思い出し、その余韻に浸って1日何往復もしていた記憶がある。

 都会の中にポツリと残る、時が止まったままの鉄道小旅行を楽しむことができた。旧型客車と最後の別れをさせてくれた思い出深い路線だ。

夏草むした和田岬線を走る客車列車

 その和田岬線も1990年には気動車に変わってしまい、現在では電化され、山陽本線と同じ電車が走っている。
 草むした細いレールをのんびり走っていた旧型客車など、今はもう遠い昔の話になってしまったのかもしれない。

(2002/12/1公開)

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