
▲慶州の仏国寺(プルグクサ) |
■世界遺産の街は2000年の歴史?
翌朝は5時半に起床。韓国鉄道紀行の第一日目は、釜山から日帰りできる慶州(キョンジュ)へ行こうと思う。
慶州は町全体が世界遺産に登録されている古都で、日本で言うところの京都や奈良のような観光地といえる。ガイドブックには「2000年の歴史を誇る古都」とあり、また別の案内本には「新羅1000年の古都」とも記されているが、歴史については門外漢ゆえ深追いしない。
釜山から慶州へ行くには、KTXで東大邸(トンテグ)まで北上し、大邸・中央線で東に行くのが最も早い。
ただ、私の「目標」は慶州だが、「目的」は鉄道に乗ることなので、同じ路線を二度通らぬよう東海(日本海)沿いの東海南部線を経由して慶州へ行き、復路は大邸線とKTXで帰るというルートにした。
■東海南部線の列車は「釜田」から発着
東海南部線(トンヘナムブソン)は、釜山鎮から日本海(東海)沿いに蔚山(ウルサン)、慶州を経由し、迎日湾沿いの終端駅・浦項(ポハン)までの145.8キロを結ぶ単線非電化の路線。まずはこれに乗る。

▲釜田駅は地下鉄「釜田洞」駅に近い |
東海南部線の基点は、釜山の1つ先の釜山鎮(プサンジン)駅ということになっているが、現在では、さらに1駅先の釜田(プジョン)から同線全列車は発着している。
釜田は地下鉄1号線の釜田洞(プジョンドン)駅に近い。
釜山駅近くのホテルから早朝の地下鉄に乗って7駅、10分超で釜田洞着。外は雨。右往左往しながら歩き、5分ほどで釜田駅にたどり着いた。
釜田は東海南部線のターミナル駅ゆえ、付近にコンビニエンス・ストア位はあるかと思ったのだが、売店さえも見当たらない。
最近建て替えたと思われる橋上駅舎には、人気(ひとけ)が少なく、改札口に駅員もいない。長大なホームに降りると、灰色の制服を着た背の高い女性車掌が一人、手を前に組んで客車ドア前で待っていた。雨の日曜日、朝からうら寂しい。

▲釜田駅に停車中の「ムグンファ」1704号 |
■広い車内の「ムグンファ」型客車
7時5分発、蔚山行の「ムグンファ」1704号に乗車。前から見るとブルドックのような顔つきの屈強そうなアメリカ製ディーゼル機関車に、白地にオレンジラインの客車が4両、うち1両は電源車。
車内は2人掛けのリクライニングシートになっており、線路が日本の新幹線と同じ標準軌のためか、広々としていて気持ちがいい。
発車の合図もなく、時間になると気づかないうちに動いていた。客車列車ならではのなめらかな滑り出し。ホームの低さもそうだが、大陸的な雰囲気を感じる。

▲海雲台を過ぎると右手に東海が広がる |
この「ムグンファ号」は蔚山までのほとんどの駅に停車する「各駅停車」タイプ。東海南部線の釜田〜蔚山間には普通「トングン列車」が走っておらず、ムグンファ号がその役割を果たす形となっている。
高層アパートや家々が密集する市街地に単線非電化のレールが延び、列車はそこをけだるそうに走る。
釜山近郊の駅に幾つか停車し、リゾート地として名高い・海雲臺(ヘウンデ)を過ぎたあたりから右手に東海(トンヘ=日本海)が広がった。灰色の雨雲と海原が重なり合い、海岸線には鉄条網を巻いた金網も見える。春雨のリゾート地は寂しい。

▲山間にある南倉駅での乗降風景 |
■海岸線はあっという間に過ぎ去り蔚山へ
一番の見所である東海の海岸線は瞬く間に遠ざかり、朝靄に包まれた白色の山々に入り込んでいく。水田、段々畑とまばらな家々、日本のローカル線でよく見たような車窓がしばらく続く。
開かない窓で密閉された車内は、空いていて妙に静寂だ。優等列車用車両なので乗り心地は良い。だけど、雨や土や緑の香りが分からない。窓の開く古い客車列車だったなら、と今更ながら思う。
山間の町に突如アパート群が現われ、南倉(Namch’ang)、徳下(Tok’a)と蔚山近郊駅を過ぎると、遠くに化学工場の煙突がいくつも見えてきた。
灰色の空が溶けてしまいそうなほどに白煙を吐き出している。
韓国を代表する工業地帯を眺めながら、8時18分、列車は終着の蔚山に到着した。

▲雨の蔚山(ウルサン)駅に到着 |
韓国鉄道でよく見る横長低層のビル型駅舎を出ると、異様に広い駅前広場と、整然と区画整理された6車線の道路。モーテルの温泉マークも見える。一人の客もいないバスターミナルには、色とりどりのバスだけがひしめく。
降り続ける小雨とあいまって、どこか陰りある駅前風景が広がっていた。ここは人口百万超を誇る蔚山広域市の中心駅だが、市街地とは離れているためなのかもしれない。

▲ディーゼルカータイプのムグンファ号 |
■ディーゼル型の「ムグンファ号」に乗る
9時20分、蔚山始発の東大邸行「ムグンファ」1722号は、白地にオレンジラインの「ムグンファ号カラー」だが、今回は客車ではなく3両編成のディーゼルカー。
ホームの端で先頭車両を眺めると、京成の旧型スカイライナーのような顔つきをしていた。
床下エンジンのうねりが大きくなり、列車が動き出した。車内にほのかな軽油臭を漂わせながら、高層アパートが幾重にも建ち並ぶ市街地の中を軽快に走る。慶州まではわずか25分の旅。
このムグンファ号は主要駅にしか止まらない「急行タイプ」だが、東大邸までの110キロを2時間かけて走るから、スピード自体はあまり早くない。昔の山陰本線のディーゼル特急を思い出すかのようなのんびり優等列車だ。
小駅を幾つか通過し、10分で最初の停車駅、虎渓(ホゲ)に停車。ここまでが慶尚南道(キョサンナムド)で、この先は慶尚北道(キョサンプクド)に入る。
街並みが途切れ、低い山々に囲まれた水田風景に変わった。同時に雨が止み、陽がさしてきた。単なる行政区分と思っていたが、上手く分けられているものだなと思う。
慶州の街が近づいてくると、水田の中の集落に、なだらかな曲線を持つ瓦屋根の韓国家屋が多くなってきた。乳房のような形に盛り上がった緑の古墳も時折見える。奈良飛鳥路かと錯覚するような車窓が続き、列車はまもなく慶州駅に到着した。

▲古都らしく堂々とした風情の慶州駅 |
■慶州の街歩き兼ねてバスターミナルへ
赤煉瓦と二層瓦屋根の堂々とした駅舎。千年か二千年の歴史かは分からぬが、韓国一の古都にやってきたのは確かなようである。
ただ、この地にさしたる目的がある訳ではない。
妻にガイドブックを手渡し、「とりあえず街歩きをしながら、バスターミナルへ行こう」と伝えた。私は元来、極度の方向音痴なので地図など見ても無事目的地に着いたためしがない。
市内の真ん中に次々現れる古墳群を左手に眺めながら、妻の後について歩く。
慶州の人口は28万。「新羅の都」といった浅はかな歴史認識しかないせいか、そこかしこで見られる古墳がなければ、埃っぽく平べったいただの地方都市といった感じに見える。日本の京都というよりは、奈良の雰囲気である。
12〜3分歩いてバスターミナルに着いた。ターミナルという言葉が大袈裟に聞こえる程、駐車場のような場所にバスがひしめいている。

▲駅からは少し遠い慶州バスターミナル |
ここまで来たからには、仏国寺(プルグクサ)に行ってみようかと思う。西暦525年、あるいは751年に建立されたという韓国随一の名刹。
ガイドブックによって建立時期に200年超の開きはあるが、深く考えない。秀吉の朝鮮侵略で焼失し、現在は復元されたものであるという史実から、目を背けたいだけかもしれないが。
それより、仏国寺行バスの乗場が見当たらない。記号のようにも見えるハングル文字の羅列を見ても到底分からず、詰所にいた係員に「プルグクサッ!」と叫んでみたら、横断歩道の向こうに停まっているバスに乗れと教えてくれた。
■仏国寺行の路線バスは10番か11番
バスには「10」の文字が見えた。仏国寺へ行くのは10番か11番の市内バスであるとガイドブックに書いてあるから、間違いない。結論を先に言えば、これらのバスは循環しており、往路は11番、復路は10番(博物館前経由)に乗ると比較的近い。
往路の10番、復路の11番(普門観光団地経由)は、若干遠回りとなる。いずれのバスも慶州駅近くの停留所から乗られるので、わざわざバスターミナルまで歩く必要はない。
どことなく古ぼけたバスに乗ると、AMラジオが大音量で流れている。市街地を出ると、山の中の専用道を猛スピードで走る。カーブではタイヤが軋み揺れ、多少不安になる。
観光地・慶州らしく英語アナウンスも流れるが、走行音であまり聞こえない。

▲仏国寺の大雄殿 |
■子どもたちがあふれていた仏国寺
40分超で仏国寺前に到着。桜の花が舞い散る参道を上ると、「佛國寺」と掲げた小ぢんまりとした一柱門が見えた。門柱には派手な横断幕が巻きつけられ、古刹という雰囲気はしない。
4000ウォン(約400円)の入場券を買って中に入ったが、なぜだかキャンバスを立てた子ども達がそこかしこにひしめいている。写生コンクールでもやっているのだろうか、親たちも含め、尋常ではない数だ。
子よりも親が必死になっていたり、目の前に見えている風景とは全く無関係の絵を描いたり、絵よりもキムパブ(のり巻き)をかじるのに夢中の男の子もいたりして、彼らの姿を見ているのも楽しい。
小さな画家たちに占領された大雄殿と多宝塔を瞥見して退散。朝の雨が嘘のように、初夏を思わせる暑さ。小難しい思考はしない。
仏国寺バス停には時刻表がなかった。そもそも韓国の路線バスにそうしたもの自体がないのかもしれぬ。
10分ほど待つと10番のバスがやってきた。これだと往路とは違うルートを通るので有難い。停車する列車がほとんどない仏国寺駅の前から線路沿いを通り、国立博物館前を経由し、25分ほどで慶州駅に着いた。
>>page-5 東海南部線・浦項へ。大邸線とKTX
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