九州への鉄道紀行
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〜「こだま」号と関門海峡〜
門司港駅駅舎
 心が痛くてやりきれない時が、年に何度かはあります。日々の生活に押し詰まって逃げ出したい、そんな気分でした。
 小さなかばん一つ下げ、昼下がりのターミナル駅にやってきて、流れる人々を見ながら考えました。「北へ行こうか、それとも南か」。

 なんとなく南へ向かいたい気分になり、目標を九州南端の鹿児島に決め、梅雨も明け切らない7月の或る日、何の目的もなく、午後の山陽新幹線に飛び乗ってしまいました。

 昼下がりの新幹線「こだま」号は、ビジネスマンらで結構な乗車率です。とはいえ、たったの6両しかつないでおらず、新幹線の中のローカル列車という感じもします。

 昨年の地震では壊れた高架橋を200km/h近いスピードで通過して行きます。所々で空地が目立つ神戸の町を過ぎ、列車は山陽路を通過します。
 新神戸、姫路、相生、岡山と「こだま」号は各駅に停車、昔ならば山陽本線の鈍行列車で西へ西へと向かうところですが、今ではそんな体力も時間もありません。
 それでも「ひかり」や「のぞみ」であっという間に着いてしまうのが嫌なので、せめてもの抵抗に、と「こだま」号に乗ったのです。

 「こだま」号はローカル線のような不思議な魅力があります。各駅では通学の高校生や買物帰りの主婦まで乗ってくるかと思えば、遠くまで行く旅行者の姿も時折見かけます。新幹線も一部の高級な人が乗るのではなく、少し急いでいる人なら誰でも乗るようになったようです。

 新尾道、東広島など在来線ではお目にかかれない駅にも停まり、一路、終点の博多へと向かいます。山陽新幹線は東海道新幹線とは違い、何となくのんびりとした雰囲気です。トンネルや田園が多い風景や、どんな人でも乗っている客層がそう思わせる原因かもしれません。




 広島、小郡と過ぎ、列車は本州最後の駅、新下関に到着しました。このまま新幹線で九州へ入るのは、何とも愛想がない気がしたので、ここで下車しました。

 鉄道で九州に入るのは、ありきたりすぎるので最初は歩いて関門トンネルを渡ろうかと思いました。が、あとで関門間には船があることを思い出し、駅前からバスに乗り、本州側の船の発着地・唐戸という所に行きました。

 モーターボートのような小さな船で門司港まで連れて行ってくれます。九州・門司の街を目の前に仰ぎながら、夕暮れの関門海峡の上を、まるで走るかのようなスピードで船は九州へと向かいます。実に爽快です。左手には関門大橋の光が見えます。本州・下関からわずか5分で九州・門司に上陸しました。

 やはりここからは鉄道で南へと向かわねばなりません。港のすぐ近くにはJR鹿児島本線の門司港駅の立派な駅舎が構えています。九州の鉄道の起点駅、玄関駅としての風格は十分なのですが、今は関門トンネルがあるので、この駅から九州に入る人なんてほとんどいなくなってしまいました。

 ルネッサンス様式の立派な駅舎の中に入ると、行き止まり式のホームにたくさんの列車が発車を待っています。まさに今、九州の旅路の第1歩が始まる瞬間の感動を心ゆくまで感じてしまいます。
 筑豊方面へ向かう古いディーゼルカーに乗り込むと、何か時代が逆戻りしたような感覚におちいってしまいました。本州から船に乗り、門司港から九州の一歩を踏み出したのは大正解だったようです。


写真:門司港駅駅舎
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