あの海に抱かれたい〜北海道まほろば紀行
page-4 北海道を踏みしめて
 船は、午前4時10分、白い世界を黄色く染める港の光に照らされ、函館港に入港。タラップが下ろされ、車たちが大地に降り立つ。車のない我々は最後に下船。北海道の地を踏みしめる。闇の中に函館山の山影が見える。空気は冷たいが、風が無く不思議と温かい。

 大きなリュックを背負った若者と一緒に夜の道を歩く。私が、駅までの道を知っていたので彼に案内することになった。函館港から駅まではかなり遠い。

 まだ眠っている街を歩くこと1時間、函館本線・五稜郭駅に着く。以前、30分位で行けたはずなのだが、道を何度も間違えてしまった。これだけ旅をしているから、道くらいは熟知しているだろう、とよく人に思われるのだが、実はかなりの方向音痴なのである。

 彼に案内しているのか、されているのかは分からなかったが、彼は笑顔で札幌方面の列車に乗り込んでいった。
 空がようやく白くなって来た頃、函館行の鈍行列車がたった1両でやって来た。
 車内に乗り込む。凍りついた二重窓、防寒着を着こんだ赤い顔の人たち、暖房の強く効いた車内……、そんな光景を見ていると、北海道へ来たことを身体で感じる。

 5分で函館に到着。海から吹きつける風が痛い。これが苦労してたどり着いた北海道なのである。北海道の旅のすべてはこの駅から始まる。

 盛岡行特急「はつかり10号」に乗り込む。内地でよく見かける赤い特急電車は、青函トンネルを経由して、盛岡まで一気に走ってしまう。
 もちろん、私は内地へ帰るわけではなく、松前へ行くバスに乗るため、途中の木古内までの乗車である。

 7時33分に函館を出る。今日は12月31日、1995年最後の年であるからか、それほど人は乗っていない。電車特急は立ち向かう白い雪の中、軽快に走る。

 少しすると、左手に函館湾が見えてきた。薄墨の空から灰色の空へ、無数の氷の結晶が落ちている。山に入ると針葉樹が白い雪に埋もれながらも空をめざして、まっすぐに伸びている。トンネルを抜ける。また海が見える。

 何度も見たはずの風景なのに、いま、純粋に、美しい世界だと感じた。
 不意に胸が痛くなった。どうしてか涙が止まらなかった。止めようにも自分ではどうしょうもなかった。悲しいから泣いているのか、嬉しいから泣いているのか、自分でも理解ができなかった。

 我にかえり、煙草に火を点け、新聞で顔を隠し、記事に目を落とした。
 そこには、ただ活字だけが無造作に並んでいた。
(1996,1)
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