あの海に抱かれたい〜北海道まほろば紀行
page-3 闇夜の津軽海峡
青森駅で 青森駅の路地裏の入り組んだ場所に、小さな中華料理店がある。相変わらず無骨な女将ではあるが、料理は旨い。青森駅に来ると、吸い込まれるようにここへと来てしまう。

 常連の客らしき中年女性と女将が喋る津軽弁をBGMに料理を食べていたら、突然、店内がゆりかごのように揺れた。地震である。
 昨年のこの時期に起こった「三陸はるか沖地震」の余震らしい。そんなことを考えていると、また揺れた。この地で死ねるのも悪くないが、瓦礫の下に埋もれるのは御免である。

 私はこれから一人、津軽海峡を渡る深夜フェリーに乗る。北海道へ渡る時は津軽海峡を渡らなければ気がすまないのである。

 雪の中、重い荷物を肩に港への暗い道を歩こうとしていたら、後ろからクラクションを鳴らされた。四輪駆動の自動車から、顔を出し手招きして私を呼んでいる。先ほど中華屋にいた中年女性である。

 フェリー港まで送ってくれるというので、遠慮なく車に乗り込む。白く凍りついた道路を、四輪駆動の車は難なく走る。カーラジオからは緊急地震放送が流れる。

 黄色い光が眩しいフェリー港に着く。良いお年を、と北海道へ渡る私を笑顔で送り出してくれた。
 またこの街が好きになった。

 函館行深夜フェリーの出航は午前1時過ぎだという。今、午後10時であるから、嫌というほど時間がある。待合室では船を待つ客たちが地震情報のテレビに見入っていた。港のトラック運転手のための仮眠室で、連日の夜汽車疲れを解消するため、運ちゃんたちの片隅で寝させてもらった。

 眠りに入った瞬間、どうやら金縛り現象にかかったようである。よほど疲れているのだろうと思い、そのまま眠りの世界へと落ちた。

 固い旅行鞄の枕から体を起こすと、時計は午前1時前を示している。ちょうど良い時間に目覚めた。寝ぼけながら乗船名簿を書き、切符を片手に表へ出た瞬間に目が覚めた。吹きつける風が痛く冷たいのである。

 大きく口を開けたフェリーのタラップから、だだっ広く薄暗い船内へ入る。船乗りたちは車やトラックの積み込み作業に忙しい。

 狭いはしごのような階段を登り、船室に入る。カーペットの敷かれた2等船室に腰を下ろし、出航の時を待つ。

 東日本フェリー函館行第3便は、午前1時10分に青森港を離れた。函館港まで海上113キロ、3時間50分の航海である。

 地震の津波は来なかったようだが、海は荒れ模様で、揺れが少しきつい。甲板に出て海を眺めたら、黒い海がゆらゆら揺れていて、そこに吸い込まれてゆきそうな気分になった。

 津軽海峡に思いを馳せるより先に睡魔が襲ってきた。コートを被り、固い枕で寝ることにした。北海道は刻一刻と近づいている。
(1996,1)


写真:青森駅で
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