香港・広州鉄道紀行 九広鉄道の旅
page-2 香港名物・路面電車とスターフェリー
九広鉄道(KCR)の通勤型電車
 ▲ 九広鉄道(KCR)のホンハム− 羅湖
  (ローウー)間に走る通勤型電車。

 これから香港島の路面電車に乗ってみようと考えた。かなり遠回りだが、ここホンハム駅から九広鉄道と地下鉄を乗り継ぎ香港島へ向かう。

 九広鉄道(KCR)は香港の九龍と中国の広州を結ぶ鉄道の名称だが、直通列車は1日に7本しかない。香港国境の羅湖(ローウー)駅までは3〜10分間隔で通勤電車が走っており、一般的にはこちらを九広鉄道と呼んでいるようだ。

 自動券売機で切符を買うと、日本のテレフォンカードのような磁気カードが出てきたが、お釣りは出てこない。小額だったので諦めたが、このお釣り分はチャージされ次に券売機を使う人が得することになる。合理的なのか、不合理なのかよく分からない。

 丸みを帯びたシルバーの新型電車がホームに停まっていた。車内はステンレス製のロングシートで12両という長編成。香港も居住地の郊外化が進んでいるらしい。1両だけ1等車もあるが、運賃は倍額となる。

 ベットタウンの新界を通り、終着の羅湖(ローウー)までは約40分。40キロの道のり。終点の羅湖駅は国境の川を隔てて中国の深セン(漢字では土に川)と直結しており、本土入国以外の乗客は下車できない。

 13の駅がある中で途中の九龍塘(クーロントン)駅が唯一、地下鉄と接続している。
 今回はホンハムから2駅乗っただけで下車。わずか5分余りの時間だが、初めて乗る鉄道や列車では何か言い様のない喜びを感じる。

 香港島から九龍へ"逆Uの字"状に走る地下鉄・觀塘(クワントン)線に乗り換える。土曜の昼前ゆえか混雑している。2駅ほど過ぎた旺角(モンコック)駅で、香港領内を南北に走る筌湾(チュンワン)線に再び乗り換え。この狭い香港領内を地下鉄路線は網の目のように走っている。

 列車は海底トンネルを渡って香港島に入る。繁華街の九龍に対し、香港島は経済と行政の中心地。地下鉄ゆえ何も見えないためか、感慨もなく地続きの如く一応の「島」へ渡った。

 終点の中環(ツォンワン)駅で下車。ここが香港の中枢部、経済も行政も集中している地域。国際企業の本支店ビルも多く、下界を威圧するかの如く高層ビルが天高く伸びている。2ヶ月ほど前に発生したアメリカ同時テロの残像か、超高層ビルを見ると自然と目をそらしてしまう。

 かってヴィクトリア女王の像があったという皇后像広場を通り抜けると、背の高い路面電車の姿が見えた。出入口から人がはみ出しそうな位に乗っている。とりあえず飛び乗ってみる。
香港島内に走る路面電車
 ▲ 狭い香港島内を縫うように走る路面電車



 路面電車は香港島内の北岸13キロを東西に走っており、どこまで乗っても料金は2香港ドル(約35円)。世界各国の企業広告をまとったカラフルな2階建て路面電車が、人と信号と車に邪魔されながらのんびり走る姿は香港名物ともなっている。

 狭い車内で人をかき分け2階への階段を登る。元英国領ゆえか、ロンドンの2階建てバスの作りと類似している。頭がつかえそうな2階で立ちながら景色を眺めるが、よく揺れて、よく停まる。

 電車2階の最前列は絶好の展望席。乗客が降りる隙を見計らって、座ってみる。隣には欧米人らしき観光客。2人して内心ニヤニヤしながら高い場所から街並みを眺める。路面電車の2階部分も高い位置にあるのだが、さすがに土地の狭い香港。上空を見上げると、競うように伸びる高層ビルばかり。見下ろすどころか、上空ばかりが気になる。

 高さだけでなく横には赤や青の厚化粧看板が道路上に突き出ており、列車はそこを縫うように走る。2階席の先頭にいると、看板に向かって突進していくような錯覚を覚え、ヒヤヒヤする。路面電車の特色か前後に列車が連なって走ることも多く、信号で停まった時など、前の電車の乗客とつい目が合ってしまう。

 開け放された真正面の窓から、向かい風を浴びながら流れる風景を堪能していると、強烈な干物の匂いが車内に充満してきた。上環(ションワン)と西營盤(さいいんぷん)の乾物問屋街。道路の両脇に古い店が建ち並ぶ。漢方薬の店も多く、進むごとに何ともいい難い香りが漂う。超高層ビル街の大都会・香港とは違い、薄汚れたビルと生活臭が漂った地元民の生活の場。歩くようなスピードで街の匂いを感じて進む。この電車がもっとも似合う街のような気がして、ふと嬉しくなる。

 そんな風景を眺めているうちに、周りには乗客が誰もいなくなった。どうやら終点に着いたようだ。慌てて下車する。車内放送などもちろんないので、周りの雰囲気から察知するしかない。

 西側の終点は西尼地城(きんねいていしん)という場所。そこに着いたらしい。行先表示板には漢字とともに「Kennedy Town」(ケネディ タウン)と書かれてある。郊外の住宅地なのだろうと想像する。元"英国"だけあって、香港の公式な看板等には今でも必ず英語が併記されている。同じ漢字圏に住んでいながら、英語の方が読みやすいとは不思議なものだ。
路面電車西側の終着駅・西尼地城(きんねいていしん)
 ▲ 海に面する終着駅・西尼地城(きんねいていしん)

 海に面する郊外の住宅地といった風情のある終着駅・西尼地城(きんねいていしん)。何をするあてもなく、埃っぽい潮風を浴びながら、海に向かって歩く。家の軒先では猫がひなたぼっこをしている。時間が止まっているような風景。だが、海に蒼い海の先には、香港が誇る超高層ビル群が浮かんで見えた。


 その夜、香港最大の名所「ビクトリア・ピーク」に行くことになった。香港島にあるヴィクトリア山山頂から「100万ドルの夜景」が眺められる場所。香港観光客必須の地である。

 ホテルのある九龍半島・尖沙咀(チムサーチョイ)から香港島までは、ヴィクトリア湾をフェリーで渡ることもできる。先程は味気なく地下鉄で渡ってしまったので、今回は海を渡って「島」を感じてみる。

 「天星小輪」。いわゆるスターフェリーと呼ばれる「渡し船」。所要時間は8分。おおむね3分から10分に1本の割合で運航されており、2階席の1等でも2.2香港ドル(約37円)という安さ。

 このフェリーも「観光客御用達」なのだが、地下鉄は海底トンネル区間の運賃が高いためか地元客も多い。驚いたことに、最近、JR東日本で採用されたばかりの「スイカ」のICカードシステムが改札口にあった。地元利用客は財布から定期券を出すことなく、機械の読み取り部に当てて通過している。それ以外の乗客は、等級別で運賃を入れると改札が開くという原始的な改札口。1898年からの歴史があるというが、近代的なのか古いのかよく分からない。
香港島に向けヴィクトリア湾を渡る「スター・フェリー」
 ▲香港島に向けヴィクトリア湾を渡る「スター・フェリー」

 ラグビーボールの平面のような形をしたフェリーは、幾度も塗装を重ね塗りした跡があり、船内では茶色い木の椅子が磨かれ光っている。このあたりは100余年の歴史も感じる。

 幅1.2キロメートル。穏やかなビクトリア湾の対岸、香港島には、まるで見本市のように高層ビルが浮かんで見える。フェリーは波間を縫うようにのんびりと対岸を目指す。

 先程の路面電車といい、このスターフェリーといい、開発と近代化が進む香港では唯一、緩やかな時を刻んでいる。

 対岸の中環(ツォンワン)から、2階建ての派手な黄色い路線バスに乗り込むと、いつの間にかヴィクトリア山の山頂「ヴィクトリア・ピーク」に着いた。銀色の巨大な買物施設が鎮座しており、そこが展望台となっているという。日本の観光地とまったく同じ。高い場所には必ず土産物屋が建ち並ぶ。少々、うんざりする。
ビクトリア・ピークから眺めた香港の夜景
 ▲ 「ビクトリア・ピーク」からの夜景

 香港の観光ポスターそのままの夜景を見て、スイス製という赤いケーブルカーで山を下る。

 買物にも、グルメとやらにも興味のない私にとっては、香港は路面電車とスターフェリーだけが心に残った。


前のページに戻る
前のページへ
香港・広州鉄道紀行TOPへ
香港・広州鉄道紀行のトップへ
次のページへ進む
次のページへ
ホームに戻る 世界編のトップに戻る