急行八甲田、北へ
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〜年末、上野発の夜行急行〜
上野駅を発車する夜行列車 年もおし迫った12月28日、東北地方を中心に大きな地震が起こった。幸い大きな被害は出なかったものの、その影響で東北本線の八戸付近では線路が崩れ落ち、不通になっているそうである。
 そんなことはまったく気にせず、次の日、北海道へ向けて旅に出た。

 夜、上野駅で臨時急行「八甲田」を待つ。そうだ、もう八甲田は廃止となって臨時列車に格下げになってしまったのだ。しかし、悲しい。年末だというのに本日、東北へ向けて上野を出発する夜行急行列車は、この「八甲田」の他に「津軽」、秋田行の「おが」の2本しかない。
 つい最近の年末までは「八甲田81号」、弘前行の「津軽81号」、青森行の「おいらせ」、常磐経由青森行の「十和田」、酒田行の「天の川」など、周遊券族にも選択できるだけの夜行急行があったのだが、いつの間にか消されてしまったのだ。
 そういう訳で、北海道へ渡る者は選択の余地なくこの「八甲田」になるのだ。それでも夜行急行があるだけ幸福なのかもしれない。

 2時間前に並ぶもすでに数人の荷物が置いてある。さすがに年末である。号車ごとにホームと平行に並ぶ形をとなっていて、後で係員が乗車位置まで案内してくれるようだ。
 さて、改札で小耳にはさんだ未確認情報によると、東北本線が不通のため、今日の八甲田は田沢湖、奥羽本線経由で青森へ向かうそうであるが、まあ、急ぐ旅でもないのであせることはないのである。また、明日までに東北本線が復旧する可能性もあるのだからどうにかなるだろう、と楽観的に考える。



 1時間前になって相当な人が並び始める。そして入線時刻になったが、一向に列車は入ってくる気配がない。放送によると、青森からの折り返し列車がまだ上野に着いていないというのだ。ようやく事の重大さに気づいたのだが、すでに遅し。
夜行列車に並ぶ人々
入線時刻を過ぎてから、ようやく青森からの八甲田が到着する。延々13時間遅れての到着である。列車はすぐに車庫に引き返したものの一向に入線する気配がない。ついに発車時刻を過ぎ、ホームには後に発車するはずの「おが」が入線してきた。
 「おい、どうなってんだよぉ、クニに帰れねえよ」と東北へ帰る出稼ぎのオヤジ達が方々で騒ぎ始めるが、仕事納めの余裕からか笑顔も見える。放送ではこの「おが」が発車した後に入線する予定だそうだが、今度は「おが」が一向に発車しない。何と大宮付近で人身事故があったため、全線に渡って運転を休止しているのだという。もう、どうしょうもない。

 誰もがあきらめ顔で嘆き、駅員に詰め寄る人もいない。ホーム駅員詰め所では、全ホームの列車到着状況を写し出すコンピューター画面に人が集まり、「今、この8401列車の急行津軽も止まっているんですよ」などと鉄道ファンが列車番号を時刻表で照会し、おじさんらにレクチャーしている姿も見られる。


待ちぼうけ…
 「津軽」と「おが」が発車した後、日が変わって0時15分頃、14系客車列車9両をつないで最後尾の車両を先頭に入線してきた。自由席は5両。もうみんな疲れ切っていて、急いで乗車する気力もないようである。上野発の夜行列車にしては珍しくスムーズに乗車完了。座席はすべて埋り、各車両のデッキには多くの立ち客が出た。
 0時20分頃、ガクンと大きな揺れを感じ発車。隣のホームでは寝台特急「はくつる」の客が未だ待ちぼうけを食らっていた。

 発車はしたものの、この八甲田号も到着時刻は今の時点では不明。特に青森にはいつ着くのかさえまったく分からない状況だという。まるで戦時中の列車のようである。

 大宮、小山、宇都宮、黒磯と、とりあえず順序通りに停車してゆく。約2時間以上の遅れである。車内は発車と同時に酒の匂いが充満し、東北へ向かう夜行列車らしくなる。私もカップ酒を飲み干し、徹夜明けの眠い目を閉じた。

 朝5時頃、仙台に運転停車、後発の寝台特急「はくつる」に抜かれる。払い戻しを阻止するためか、もの凄いスピードで通過していった。本来、この八甲田はここ仙台に未停車なのだからドアは開かないが、車掌がドアコックでドアを開いて「飲み物を買いに行きたい」という客の要望に応えていた。



 一ノ関、水沢、北上、花巻と停まり、朝8時過ぎ所定より2時間以上遅れて盛岡に到着。半分以上の客が下車し、東北本線不通により八戸行となった特急「はつかり」に乗り換えていた。八戸から先は代行バスになるという。

 8時半頃、盛岡を発車。「俺もこんなの経験ない」と車掌も言う田沢湖線に入る。途中の田沢湖駅では「北斗星」と交換するのに待避線の長さが足りず、駅員があわてる場面があったが、何とか大曲に到着。
大曲駅に到着
 ここからは赤い機関車にひかれて、八甲田は奥羽線を走る。秋田には11時過ぎに到着。到着時刻も発車時刻も不明である。時には車掌が、駅でそばを食べている客を呼びに行く場面も見られ、時間は遅れるばかり。車内はゴミだらけで荒れ放題。洗面所は汚物で詰まり、トイレの紙もとっくになくなっていた。

 快速列車にまで抜かれたあげく、弘前に到着。その後、所定より6時間遅れの午後3時前にようやく終点の青森に到着した。延々15時間という何とも長い道のりであった。

 さて、これからどうやって北海道に渡ろうか。少なくとも隣に停まっている快速「海峡」と書かれた青い客車だけには乗らないだろう。どうせ急ぐ旅ではない。こんな経験もたまには、良い。青森駅には粉雪が舞っていた。
(1995,1)


写真(上から):上野駅を発車する夜行列車、夜行列車に並ぶ人々、待ちぼうけ…(上野駅で)、大曲駅に到着

▼執筆後記・解説(2002/8/11公開,2003/1/12更新)
年末、北へ向かう臨時夜行急行列車と「八甲田」

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