ヨーロッパ鉄道紀行
page-22 テルミニ駅近くのホテルにて
雑然としたテルミニ駅周辺
雑然としているテルミニ駅周辺。安ホテルも多い。
 夕暮れとともにホテルへ帰る。ローマ・テルミニ駅から徒歩3分という好立地の安宿。駅から近いためか、付近は雑然としている。著しく治安が悪そうだ。

 自動ドアの前に立っても開かず、しばらくしてから店員がやってきた。防犯上のためだろう。

 フロントの女性に促されパスポートを出す。ホテルの人間といえど、あまり信用できない雰囲気がこの街にはある。早くパスポートを返せと促すと、「チョットマッテ」と日本語が帰ってきた。ホテルマンから日本語を聞いたのは、この旅初めてのことだ。日本人観光客がいかに多いかが分かる。

 大した荷物でもないのに爺さんポーターが現れた。1ドル紙幣を2枚手渡す。チップの金額を考えるのは面倒なのですべて1ドル紙幣。世界に誇るドル紙幣は有難い。

 部屋に入ったもののテレビが点かない。「またイタリア流か!」とうんざりしながら先程の爺さんポーターを呼び戻した。テレビがついた瞬間に「ブラーバ!!」と大袈裟に反応してみると、老人は照れたような顔で手を振って去っていった。一見落着である。

 夕食は駅の裏町の怪しい店に入った。いつも当てずっぽうで入るのだが、ピザもパスタも安くて旨い。店員もやけに愛想が良い。今日も「当たり」だ。気分が良くなってビールを注文すると、ドイツビールだった。イタリアのビールは概して不味いが、地元でも嫌われているようだ。

 長い旅の最後の夜。どうしてもご当地ビールが飲みたかった。テルミニ駅の地下街に24時間営業のスーパーがあり、お土産から食料品まで何でも揃う。
イタリアのビール
 ▲やっと見つけたイタリアビール

 ビールの棚にあるのは外国産ばかり。ラベルの文字と格闘し、「Made in ITALY」を3種類だけ見つけ出した。部屋に戻って飲み干す。見事にすべて不味い。予想通りの結果に逆に嬉しくなってしまう。ドイツビールは喜んで飲んでいた妻も、一口だけで拒否してしまった。念のためホテルの冷蔵庫に1本だけあった別のイタリアビールも試してみたが、やはり不味い。

 明日はいよいよ日本へ帰らなくてはならない。ビールの不味さがやけに胸にしみる。


 「最後の朝」ということもあるのか、早朝に目が覚めた。

 テレビをつけると日本のテレビアニメ「一休さん」をやっていた。イタリア語で“とんち”をひねる小坊主や、やけに巻き舌の「将軍さま」を見て笑っていると、別のチャンネルでは「巨人の星」の星飛雄馬が現れた。古き日本の「根性」とか「精神力」というものを、イタリアの子どもたちが変に理解しなければいいのだが。余計な心配までしてしまう。

 イタリアの日曜朝。その2つのほかに、「釣りキチ三平」「怪物くん」「らんま1/2」「魔女っ子メグちゃん」「よろしくメカドック」といった日本産アニメ番組を確認できた。現在、「ポケモン」で世界を席巻しているとはいえ、ここまで日本のアニメが輸出されているとは驚きである。本当にイタリアの子どもは喜んで見ているのだろうか。

 ローマ・フィウミチーノ空港を16時発の飛行機に乗るので、まだ半日ほどローマ観光が楽しめる。
 テルミニ駅にはコインロッカーが見つけられず、仕方なく地下の荷物預け場に預ける。こちらの方が高いし、人の手に預けるのはどうも不安だ。イタリアではどうも人を疑い過ぎているのかもしれない。
フォロ・ロマーノ
 ▲路上絵師に騙され買ったフォロ・ロマーノの複製画

 最後にどうしても行っておきたい場所があった。
 「フォロ・ロマーノ」。ローマ大帝国の巨大遺跡群だ。昨日も行ったのだが、夕方だったため閉鎖されていた。

 かって古代ローマ帝国の中心地だった場所で、崩れかかった塔や宮殿の支柱、神殿や凱旋門などが草に埋もれて残っている。

 今は廃墟と化した古代の街並み。遠い昔から何かを語っているようで歩いているだけで興奮する。私は、形あるものよりもその残骸に興味を持つ性格らしい。1つ1つの石や残骸に興奮する私を見て、妻は多少呆れ気味だ。

 旅の後半、それぞれの興味の違いからか、妻はウィーン、私はローマを最重点視してきた。そしてお互い、未重点の地では旅の疲れが出ていた。予定よりも早く駅に引き返し、空港行きの列車に乗る。

 イタリア国鉄線だからユーロパスが使える。空港線だけあって車両も新しい。30分で空港に到着。
 空港内では時間を持て余した。搭乗待合室は全面禁煙と書かれているが、空港職員が率先してそれを破ってくれた。ヘビースモーカーには、ある意味、有難かった。
ローマ・フィウミチーノ空港駅
ローマ・フィウミチーノ空港駅は新しい。

 イタリア国営「アリタリア航空」に乗るのだが、搭乗ゲートが直前に変更され、搭乗時間も幾度となく変わった。搭乗を開始したものの意味もなく入口付近で制止され待たされた。空港から飛行機会社まで、いかにもイタリアである。

 搭乗時間が近づくと付近は日本人団体客だらけになった。日本航空(JAL)の「ローマ−日本」直行便への搭乗を断られた日本人団体客や格安料金の個人客は、空いているドイツ経由へとまわされる。

 団体客の老人らは、売店でもどこでも無理やり日本語で通している。数少ないアメリカ人観光客と空港職員は日本人団体の姿が可笑しいと見えて何やら英語で笑っている。

 アリタリア航空404便、ドイツ・フランクフルト行きは日本人で満員。まるで日本国内線である。アリタリア航空とJALとは提携しているため、こんな状態になった。西欧内とはいえ一応の「国際線」。機内食を食べている間にドイツ・フランクフルト空港に着いた。

 巨大なフランクフルト空港は、西欧のハブ空港としての地位を保つためか、ドイツ語よりも英語が表記が目立つ。我々の周りからは日本語ばかりが聞こえる。イタリアからの客に加え、西欧各国から集められたJAL利用者が集結していた。ドイツにいるはずなのに、すでに日本に着いているような感じだ。

 JAL565便成田行きは、折返しの航空機が到着しないため、搭乗が遅れるという。これから13時間の窮屈な旅を思うと、何時間遅れてもいいですよ、と投げやりな気持ちになった。

 体全体が、旅の終わりの寂しさに覆われた。
 旅の終わりは、また新しい旅への出発点。寂しさを紛らわすために、次はアメリカ大陸へ行こう、と沸いて出たように自分の頭の中に思い描いていった。

(終)
前のページへ戻る
前のページへ
欧州鉄道紀行のTOPへ
欧州鉄道紀行のトップへ
次のページへ進む
次のページへ
ホームに戻る 世界編のトップに戻る