ヨーロッパ鉄道紀行
page-13 独自慢のICEでスイスへ
 朝、食事をしている時、昨日も見た日本人の中年男性がいたので話し掛けてみた。車関係のビジネスマンかと思ったら、機械を買いに来た出張マンだった。シュツットガルトはベンツだけでなく、工業機械の生産も盛んだという。観光よりもビジネスの地なのだろうか、「ここで日本人観光客は珍しいですね」と言われた。

 今日はドイツからスイスのチューリッヒに抜け、オーストリアのザルツブルグまでの列車の旅。

ドイツのICE(インター・シティ・エクスプレス)
 ▲ドイツ鉄道DBの「ICE」。新型車両を使っている。
 「ICE」はInter City Expressの略で、最高時速250km/hで都市間を結ぶドイツの高速特急。

 シュツットガルト8時2分発、スイス・チューリッヒ行「ICE」は、ICE‐T型と呼ばれる振り子式の車両を使っている。5両編成の白い流線型車体は、一見したところ、どこか日本の私鉄特急のような雰囲気もある。ディーゼル式や機関車式が多い西欧では珍しい電車式で、1999年に登場したばかり。

 構内のサンドウィッチスタンドで食料を買い込み、1両しかない1等車に乗り込む。3列シートでテレビがついた座席や、セミコンパートメントになっている部分など多彩なバリエーションがある。「予約席」と書かれていないセミコンパートの席に座ってみた。

 新幹線の個室グリーン車のようだ。英語の「ビジネスウィーク誌」が置いてあり、時刻表も英語併記されている。ホテルもそうだったが、列車も「ビジネス対応」だ。

ICEの1等車車内
 ▲1等車車内。セミコンパートメントもある。
 シュツットガルトを定刻に発車。8時という良い時間の列車だからか、それとも編成が短いためか車内は7割位の乗車率。それでも朝の日本の新幹線の比ではなく快適だ。

 遅い夜明けの強い朝日が車内に差し込む。列車は街外れの高い位置を走っている。山壁にへばりつくように建つ家々と、その裾野から広がったシュツットガルト郊外の街並みが輝いている。

 眼下に広がる箱庭の世界。ほんの短い間滞在したドイツともお別れ。次の国はスイス。力を持て余すようにのんびり走る「高速特急列車」では、国を越えるという実感があまり持てない。

 列車は、昨日と同じように、ボブリンゲン、ホルプ、ロットワイルといった日本の地図には載っていないような田舎の小都市を1つ1つ停車していく。単線区間があったり、信号所があったり、時折、列車行き違いのための停車もある。

車窓から見た朝日
 ▲冬の夜は長い。8時を過ぎて車窓に朝日が差し込む。
 車内を散策してみる。5両しかないのに子どもの遊び部屋やビッフェがあるのには驚く。2等車を半室に区切ったビッフェは無人だった。座席で乗客のような顔で雑誌を読んでいた店員がやってきた。暇そうである。

 コーラとコーヒーを注文すると、東南アジア系の顔立ちをした店員は「日本から来たのか?」「スイスには何日いるんだい?」と聞いてきた。数時間しかいない、なんて言うと驚かれそうなので、「10日間位だ」と答える。
 「おー、それはいいね!、ワイフとかい、ベィビイはいないのかい?」などと矢継ぎ早に質問を繰り出す。そしてまた座席に戻って「乗客」の顔になった。

 こんなに暇なら、ビッフェなど必要ないと思うが、ドイツでは、一定時間以上走る優等列車には「ビッフェ」か「食堂車」を連結する義務のようなものがあるらしい。ゆえに駅弁などは売っていない。

 2時間近くかかって国境の駅「ジンゲン」に到着。昨日は下車した駅だ。
 道路の国境部分はどうなっているのか、という単純な疑問のために車窓に目を凝らしていると、国境警察官とともに、スイス国鉄の乗務員が乗り込んできた。

 1等車の豪華さには不似合いな無骨な格好の国境警察官にパスポート提示を求められる。
 EU非加盟のスイスだからか、フランスとドイツ間のようにいい加減なことはなく、写真と顔を厳重に見比べている。
スイス国鉄の車掌
 ▲検札中のスイス鉄道の車掌

 続いて、スイス国鉄の女性車掌にユーロパスを提示。車掌は座席の反対側を指差し何やら喋っている。向こうに移動せよ、という合図かと思ったら、車窓に大きな川が白く流れ落ちる滝が現れた。ガイドブックなどでよく見るライン川の大滝だった。近くに座っていた老夫妻が、「どうだい、いい景色だろう」と我々にニッコリ笑った。この列車最大の見所は一瞬にして過ぎ去った。

 終着のスイス・チューリッヒ駅は近代的な地下ホームになっていた。1国でも多く廻るためと、列車乗り換えと昼食のため、わざわざ遠回りしてチューリッヒに3時間ほど滞在するスケジュールを組んでいた。昼食用に、と関西空港でスイスフラン(SF)も2000円分ほど両替しておいた。

 スイスの東の玄関口であるここチューリッヒは首都ではないが、スイス銀行の本店もあり、チューリッヒ湖畔の街として経済と観光の中心地。スイス最大の都市となっている。

 重い荷物から解き放たれようと、コインロッカーに入れたのだが、お金を入れても鍵は外れず、いつのまにかお金だけが流れていった。係員を呼んで説明する自信もないので、泣く泣く800円をスイス国鉄に寄付する羽目になった。悲しい。

 残金1200円では二人で食事もできないので、ドル紙幣を握り締め両替所に行くと、不当な両替料を提示された。空腹と肩に食い込む重い荷物が重なり、イライラして「いらん」と日本語で言って出て行く。

チューリッヒ駅前の様子
 ▲チューリッヒ駅前。トラムが縦横無尽に走る。
 怪しげな「露天」でインド系移民の作ったカレーのようなものを食べると、お金がなくなった。何をするあてもないので、灰色の空に霞んだチューリッヒ湖を目指してあてもなく歩く。路面電車が縦横無尽に走り、バックパッカー風の観光客がそこかしこにいる。

 リマト川のほとりに建つホテルや旅館には誇らしげに赤に白十字のスイス国旗が吊るされている。霧に沈んだチューリッヒ湖を見てから、別の道を通って駅に引き返した。

 川の反対側は駅前から伸びる「バンホーフ(駅)通り」。高級デパートやブランド品店や銀行などが建ち並ぶ。いかめしい造りのスイス銀行本店を見ていると、この街全体が拝金主義の雰囲気を帯びているように思えてきた。

 街は整然と美しく、治安も良さそうなのだが、どうも居心地が悪い。自らの懐が寒いひがみもあるのだろう。早く立ち去りたい気分になった。

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