ヨーロッパ鉄道紀行
page-11 イタリアの特急CISに試乗
 ―イギリスからフランス、そしてドイツと、駆け足の旅も後半に差し掛かりつつあった。
 英語、仏語、独語と言葉が通じない苛立ちはなく、通じた時の嬉しさが大きかった。異文化の壁も楽しめた。お米のない濃厚な食事の毎日には体も壊したが、ビールの安さと旨さによって救われた気分だった。
 ここドイツ南西部の中都市・シュツットガルトから、スイスのチューリッヒを経由し、オーストリアのザルツブルグとウィーンに立ち寄り、終着のイタリア・ローマまで残された時間は5日間。鉄道での移動距離と時間が長くなってきた。疲れよりも内心、嬉しい気分だった―



 シュツットガルトでの朝、目が覚めてカーテンを空けると飛びこんできたのがベンツのマーク。駅舎の一番高い搭の部分に建っているのでどこからでも見える。しかも夜間はライトアップした上に、回転までする。この街ではいかにベンツの威力が強いかが分かる。

 朝食会場はほとんどがビジネスマン風の男性。ドイツ語よりも英語が聞こえる。ホテルマンも英語が標準語。みんなベンツ関係の仕事なのだろうか。ホテル内や付近にはベンツグッズ専門店。外を走る車はほとんどベンツ。タクシーもベンツ。おまけにバスやトラックまでベンツ製。本社に行けばもちろん「ベンツ博物館」もある。もう充分である。

 シュツットガルトでは丸1日を観光の日として取っていた。その貴重な1日は、待望の「鉄道デー」とした。ほぼ1日中「黒い森」を走る鉄道の中か駅前観光である。

 このシュヴァルツヴァルト地方は、緑濃い森が黒々と野山を埋め尽くすことから「黒い森」と呼ばれている。観光客にも有名な観光地で、日本人向けの団体旅行も多い。
 ベンツ博物館へ行き、市内観光がしたいと主張していた妻には、黒い森内を走るローカル線に乗るのだから、「立派な観光だ」と胸を張る。

イタリア国鉄FSのチサルピーノ(CIS)
 ▲ミラノまで行くイタリア国鉄「チサルピーノ(CIS)」
 シュツットガルト10時2分発、イタリア・ミラノ行の国際特急「CIS」こと「チサルピーノ」号。

 最高速度は200km/hで振り子式。イタリア国鉄「FS」が1996年に開発した。今日の「1日ミニ鉄道旅行」はこの列車からはじまる。

 と、いってもミラノまで行く訳ではなく、ドイツ国内の途中駅ジンゲンまで1時間ちょっとの「試乗」。

 この路線にはドイツ鉄道「DB」自慢の高速列車「ICE」が日本のL特急のように2時間ごとに運転されているが、うち1日2本だけはこのイタリア国鉄車両「CIS」で運転される。

 明日はドイツの「ICE」にも乗り、イタリアとドイツの「特急列車乗り比べ」を計画している。鉄道好きにしか理解できない行為かもしれない。
シュツットガルト駅の列車案内板
 ▲シュツットガルト駅の巨大な列車発車案内板

 数分ごとに変わる巨大な列車案内板を見て喜んでいるうちに、「CIS(チサルピーノ)」はすでにホームに入っていた。白く流線型の車体。空気抵抗を抑えるためか背は低い。世界的に有名なイタリア人自動車デザイナーの作だけあって、洗練された感がある。

 1等車3両、2等車5両の8両編成。イタリアを象徴するカラー、緑色の2人掛けシートが向かい合わせになる4人席。真ん中には折り畳み式のテーブルがある。日本の進行方向に向いた2人掛けよりも、西欧には4人掛けのボックスタイプが多い。優雅な食事をするためには必要なのだろうか、だいたいテーブルが完備している。

  3列シートの1等車はゆったりしていて逆に落ち着けない気がした。2等車に座る。
 イタリアでは未だに「特急列車は完全に指定制」という前近代的なことをやっているが、鉄道先進国のドイツやスイス国内のみ乗車の場合は指定券不要。座席に予約札はほとんど入っていない。自由席専門のユーレイルパス所持者にはありがたい。

 定刻から2分ほど遅れて発車。日本とは違い2〜3分は遅れたうちに入らないのか、さすがのドイツでも説明はない。
黒い森周辺MAP
 ファンタスティック街道とも呼ばれる「黒い森」周辺を走る。一応はドイツ南西部とスイス・チューリッヒを結ぶ「幹線」だが、沿線には大きな街がほとんどなく、景色はローカル線そのもの。なだらかな緑の丘と蒼い空、飛行機雲がすうっと天空へと伸びている。

 カーブの多いこの路線では、振り子式のCISはスピードを落とさずとも走れるはずなのだが、速度は一向に上がらない。1万人も人口がいないような小さな街の駅にも停車していく。単線区間もあるらしく、通過駅では普通列車を待たせるが、特急同士の行き違いでは運転停車も多い。車両こそ斬新だが、実態はローカル特急という感じだ。

 車内販売でコーヒーを買うとカプチーノ。優雅な香りと牧歌的な風景、スピードが遅いので景色を存分に楽しめる。ローカル特急も悪くない。

 ドイツとスイス国境付近の駅、ジンゲンで下車。「CIS」は一路、母国イタリアに向かって走り去っていった。スピード感よりも景色に打たれた試乗だった。

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