ヨーロッパ鉄道紀行
page-8 ルーブルと格安仏料理店

 行きと同じ電車に揺られ30分、パリ中心部に入ると列車は地下鉄に乗り入れる。
 ノートルダム寺院近くの駅で下車。泥色のセーヌ川に囲まれた2つの中州は、シテ島とサンルイ島と呼ばれパリ発祥の地とされている。

 まずはシテ島内のノートルダム寺院へ行く。地上から94メートルという高さの壮大ゴチック建築。14世紀によくもこんな建物を建てたと思うし、今まで残っているのも凄い。観光客の行列を横目に寺院内の見学は省略し、街を歩く。

パリ発祥の地「サンルイ島」の風景
 ▲パリ発祥の地とされるサンルイ島の風景
 橋を渡ると次の中州「サンルイ島」に入る。

 車が2台ようやく行き交える位のメインストリートにはホテルや雑貨屋、本屋、教会などが建ち並び、通りには休日の買物客でひしめいている。パリで最も古い島は高級住宅地でもあるらしく、小石を敷き詰められた道を歩いていると、どことなく文化的な香りがする。ブランド品漁りで有名な我が国民もいない。歩くだけでパリの裏町を体感できる楽しい買物街だ。

 オープンカフェで楽しそうに歓談するパリっ子たちを横目に、妻は時折、隠し持っている地図に目をやりながら一目散に歩く。よくぞここまで歩けるものだと感心してしまう。私1人だったら乗り放題切符でも買ってパリ近郊線をひたすら乗り続けているに違いない。

 次なる目的地、バスティーユ広場に到着。
 かってのバスティーユ監獄跡はフランス革命象徴の地。通りを走る車の多さに遠景だけで退散。これなら観光バスの「車窓観光」と変わらないが、最後には超大物「ルーブル美術館」が待ち構えている。

 バスティーユからは遂に歩き疲れて地下鉄のお世話になる。
 パリのど真ん中を一直線に走る地下鉄1号線で3駅。普通の電車より一回り小さな車両の車内は超満員。被害妄想か我々の背後に立つ男はすべて怪しく見える。一駅ごとに一旦ホームに降り、車両や乗り込む位置を変えるという芸当をして余計に疲れをもたらす。スリとの闘いも疲れる。バスの方が楽なのだが多くが日曜運休では仕方ない。

 ルーブル駅を降りた瞬間から、「カルーゼル・デュ・ルーブル」という名の大きな門前地下街が形成されている。美術品店やミュージアムショップのほかに日本で有名な無印良品の店も出店している。美術館と一体化した街作りがなされている。

 美術館入館料は約800円だが、閉館時間に近いためか400円の割引価格。エスカレーターを登ると迷路のように通路が続いており、通路の間に展示室がある。ルーブル美術館は美術品の一大デパートといった感じで、その規模は半端ではない。絵画や彫刻など約2万6000もの美術品が3階建ての3つの建物に分かれて展示されており、すべて見ようなどと考えると気が遠くなる。

 さあ、どうぞご自由に観て下さい、と言わんばかりに、展示室には柵や監視の目がほとんどない。

 展示されている絵画は、世界ではここにしかない、俗に言うと数百万から数千万以上の金額価値、美術史的には教科書でしか見られないような作家の重厚な作品ばかり。それが自分のすぐ目の前、手でも触れる位置にある。作品まで1センチという位置まで目を近づけても誰も注意する者もいないし、触れない限り構わない。

 椅子を持ち込みスケッチしたり、一眼レフカメラでフラッシュを浴びせる観光客もいる。広すぎて警備が出来ないのかもしれないが、日本だったら顔色変えて警備員が飛んで来そうな行為も、ここでは黙認されている。入場料の安さといい、展示方法といい、この国の美術や芸術に対する大らかさには驚く。

 閉館の合図が流れるまで約2時間、駆け足で何とか数百点の絵画を見ただろうか。

 それでも彫刻はまったく見られなかった。目標の「ミロのヴィーナス」は展示場所さえ謎のままだった。素人ゆえかあまりに見すぎて消化できない感もあるが、すべては満足していた。その道に詳しい人々がここに滞在して美術館巡りをする理由もよく分かる。生きた作品と一対一で向き合う、そんな体験のできる場所は日本には、ほとんどない。

 ルーブルから乗った地下鉄7号線で早朝以来のパリ東駅に舞い戻った。
 1日でパリ3日分の観光を詰め込んだ感じがする。倒れそうな位に疲労はしているが、心とお腹は不思議と元気だ。

 昨夜に続き、駅前の古めかしく怪しい雰囲気のレストランや飲食店を物色。
 どことなくチャップリンのような喜劇的雰囲気を漂わせる店主が、英語で親しげに話しかけてきた。日本でのフランス料理店の高級イメージとはおおよそかけ離れた、古めかしい立ち飲みバー兼レストランといった店構え。「3品のコースで1人1200円ポッキリ」という言葉と店の前の看板には半信半疑ながらも入ってみる。

 東駅名物といわれるアルザス地方のワインは料理代より高い。仕方なく最低級のワインとともに、次々と繰り出す大量のサラダ、肉、ポテトフライを必死に食べ、ようやく終わったと思ったら、最後には大きなチーズが出てきてギブアップ。チャップリン店主は皿を引いて行く度に料理の感想を聞いてくる。

 「料理は最高だった」と答えると、実に嬉しそうな笑顔で送り出してくれた。料金にも嘘はなかった。豪華さのかけらもないが、外国人の一見客相手なのに安くて温かい駅前レストラン。自分の勘と運だけでこういう店に巡り合えるから自由な旅は楽しい。

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