ヨーロッパ鉄道紀行
page-7 パリの休日とベルサイユ

 パリに来て何も見ない訳にもいかないので、次の日は観光に出かける。
 パリの日曜日。まだ暗い朝の7時半、駅前でバスを待つが一向に来る気配がない。小さな注意書きを訳すと「この路線日曜は全便運休」と書いてあるようだった。フランス語だから理解できない。

 仕方なく隣のバス停に停まっている違うバス路線に乗り込む。ロンドンの古い赤バスとは違い、近代的なフォルムの車体は日本では珍しい連接バスだった。ロンドンは2階建て、こちらは2両編成、どちらも多くの乗客を乗せられる。

 こちらもロンドンとは違い、車掌もおらず自由に乗り降りができる。運転手は運転とドアの開閉だけが仕事。乗客は事前にチケットを買っておき、刻印機で切符に刻印をすることによって料金を支払ったことになる。運転手はチェックさえしない。

 だが見ていると、刻印機に切符を入れているのは我々だけ。本当に切符を持っているのだろうか、と疑ってしまう。イギリスを除く西欧のバスや地下鉄、市電などはすべてこのような感じで、日常改札はなく、切符も見ない。最初から乗客を信用する「性善説」に基づいているらしい。

 時折、抜き打ちで私服検察官が切符を調べ、不正乗車が見つかると多額の罰金を取られるそうだが、このチェックの甘さは日本人には驚きである。宗教や考え方の違いだろうか。

 休日の朝、まだ寝ぼけ気味の街をバスは走る。石畳や石の建物はそれなりに美しいのだが、どこかくすんだ感じのする街並みだ。道路が狭い上に路上駐車も異常に多い。長い縦列が成されており、中にはバンパーを前の車に当ててまで停めている車もある。街中心部に土地が少ないのは世界どこの都市も同じような感じだ。

 パリの名所、凱旋門を見る。観光ガイドやテレビの通りの風景。特に感慨もなし。朝も早いのに台湾系の若者たちが楽しそうに写真を撮っている。シャンゼリゼ通りを車が猛スピードで通り過ぎる。11月の風が突き刺すように冷たい。

エッフェル塔からのパリの眺め
 ▲エッフェル塔から見たパリの街並み

 住宅地の中を歩いてエッフェル塔へ行く。

 犬を散歩させる老人や井戸端会議をする早起きマダム。生活の見える場所は歩いていて楽しい。

 オフシーズンなのに開館を待つ観光客が行列を成している。アメリカや中国・台湾系の人々が圧倒的に多く日本人は皆無。ベストシーズンに高い料金で行くのは日本人だけなのだろうか。

 エッフェル塔の最上階までは276メートル。エレベーターを3つ乗り継ぎやっと着く。

 吹きっさらしの展望台からは360度パリの街並みが広がる。石造りの低い建物が並ぶ中心部と、アパートやマンションが立ち並ぶ地区、高層ビルがそびえる新都心ラ・デファンス地区、整然と分割されている。セーヌ川に沿って左岸が文化地区、右岸が商業地区などと色分けされているらしい。

 高い所からおのぼりさん気分を満喫した後は、パリ市内を離れ、ベルサイユへ向かう。

 「ベルサイユのばら」でも有名なベルサイユ宮殿は、パリの郊外「イル・ド・フランス」にある。高速郊外地下鉄「RER」という列車で約30分の地だ。

 RERは日本で言うところの郊外へ向かう私鉄線というところだろうか。
RERの車両(ベルサイユ駅で)
 ▲2階建ての高速郊外地下鉄「RER」
 2階建てになったフランス国鉄車両がやってきた。昔の近鉄電車の学生団体列車「あおぞら」号に似た作りだな、などと鉄道マニアらしい考えを巡らせてしまう。車体の落書きだけでなく、車内もどことなく荒れており、治安の悪さを感じる。

 パリを少し離れただけで静かな佇まいを見せる住宅街が広がる。緑に囲まれ、居住環境も良さそうだ。気分の悪い落書きもない。

 終点ベルサイユ駅も郊外のベットタウン駅という雰囲気で、駅前にはマクドナルドやショッピング街がある。本当にこんな所に宮殿があるのだろうか、と少し疑ってしまう。

 腹ごしらえにマクドナルドに入る。何も考えなくていいのが楽だ。同じように考える観光客が多いらしく、レジでは英語を理解できない店員とのやり取りに時間がかかり、長い列ができていた。

 気が弱くかつ面倒な私はメニューを選ぶ余地もなく、写真を指差し、適当なフランス語を発して即時終了だが、アメリカ人は英語で自分のメニューが通じるまで絶対に引き下がらない。ゆえにいつまでも時間がかかっている。フランス人が英語を嫌う理由も多少理解できた。

 駅から5分ほど歩いた所にベルサイユ宮殿がある。
 「世界で最も豪華な宮殿を」というルイ14世の命で1662年に着工したフランスの黄金時代を象徴する豪華絢爛なお城だ。

ベルサイユ宮殿とルイ14世像
 ▲ベルサイユ宮殿にあるルイ14世騎馬象
 門前では観光バスと世界各国からの観光客でごった返す。ルイ14世の騎馬像に迎えられ中に入ると、「コ」の字状に立ち並ぶ華麗な建物に取り囲まれ圧倒される。

 建物の各入口には観光客が長蛇の列を作っており、さらに圧倒される。中には見た顔もあり、千歳空港からロンドンまで飛行機が同じだった札幌の専門学校の修学旅行生らがいた。彼らと同じルートで廻っていることに若干の恥ずかしさを思いながらも、ガイドのいない我々は何度も入場口を間違えてようやく建物の中に入れた。

 王の寝室やら居室、回廊、大理石など、見るものすべてがあまりにも広く豪華絢爛であっけに取られる。さすがに見学者も桁外れに多い。人種の坩堝と化した宮廷内で、貴重な絵画やら当時の家財やら、これほど大量に見せつけられると、お腹一杯という感じになる。庭園も歩いて廻る気さえ失わせるほど広大で、直ちにシャトルバスに飛び乗る。

 ゴルフ場のカート車を大きくしたような電気自動車に揺られ10分、トリアノンという別邸に移動する。
 豪華絢爛な宮廷生活に疲れた王家の方々が息抜きに使っていた館らしい。漫画「ベルサイユのばら」に登場する王妃マリー・アントワネットも宮廷が嫌で、子どもたちとここで暮らしていた。マリー・アントワネットを偲ぶ調度品や絵画など、漫画を読んでいたので興味深い。観覧客も少なく、日本語での解説書もありがたい。我々にも良い息抜きの場になった。

 帰路、ベルサイユ駅の切符販売窓口は観光客で溢れていた。

 並ぶのが面倒なので自動券売機に挑戦。英仏語、路線別切り替えなど、タッチパネル式の複雑さに3度ほど失敗の後、カタカタと鈍い印刷音を立てて切符とお釣りが出てきた。隣で同じように挑戦していたアメリカ人観光客は親指を立てて喜んでいた。

 異国では切符を買うのも一苦労である。外国人がJRの切符券売機の前で途方に暮れている気持ちが理解できた。

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