ヨーロッパ鉄道紀行
page-5 「ユーロスター」でパリへ

 今日は、お昼前のユーロスターでイギリスを離れパリへ渡ることになっている。
 パディントンからウォータールー国際駅までは地下鉄でわずかな距離なのだが、市内観光も兼ねて「ステーションリンク」という循環バスの逆周り便に乗ることにした。名前の如く、ロンドン市内の各ターミナル駅を循環するバスで、どこまで乗っても1ポンド(約170円)。車窓を楽しむには最適だ。

 20分ほど遅れて、2階建てではない赤色の真新しいバスが来た。乗客は我々2人だけ。
 「ユーストン」や「キングスグロス」といった市内ターミナル駅を巡回して僅かな乗客を拾う。重要文化財巡りをしているかの如く、駅舎も街中の建物も立派だ。

ユーロスター(ウォーター・ルー駅で)
 ▲ウォーター・ルー国際駅に停車中のユーロスター
 「ユーロスター」は1994年に開通した英仏海底トンネルを渡り、3時間でロンドン・ウォータールー国際駅とパリ・北(ノール)駅を結ぶ国際特急列車。これにより島国だったイギリスは初めてヨーロッパ大陸と結ばれた。

 専用自動改札機を抜けると、すぐにスモークに覆われた自動ドアがある。入ると空港のような荷物検査場と金属検査機があった。荷物はX線、人間は金属探知機へと通される。国際列車とはいえ、たかが鉄道なのに厳重だ。

 待合室には両替所や土産店など、国際線仕様の設備が一通りあるが、免税店はないようだ。余ったポンド紙幣と貨幣の消化を考えているうちに、英語とフランス語で乗車開始のアナウンスが流れ、エスカレーターでホームに上がる。

ウォーター・ルー国際駅の駅名看板
 ▲ウォーター・ルー国際駅の駅名看板

 列車別改札のせいかホームは閑散としている。白色の車体に黄色と紺色でデザインされた車両が10両以上は連結されているようで、先頭車までは果てしなく遠い。ホームの端まで行って流線型の先頭車両を写真に収めるが、立入り禁止の区域だったようで、ホームを歩いていた乗務員に撤退勧告を受ける。

 欧州に来て初めて乗る本格的な鉄道を前に、昔の鉄道少年時代を思い出してしまったようだ。

 1等車の特権か、乗務員にフランス語と英語の挨拶で迎えられ車内に入る。ユーロスターの乗務員は英仏どちらの言葉も完璧に話す。座席は残念ながら進行方向とは逆向き。昔の新幹線の嫌な座席に当たったような心境だが、欧州人は座席の向きなど気にしないらしい。

ユーロスター路線図 11時53分、何の前触れもなく発車。動き出したのが分からないほどスムーズな出発だ。1等車は2+1の3列シートになっており、座席も広い。本来は2等に乗りたかったのだが、ちょうど昼食時の列車だから1等車では昼食も出される。料金もさほど変わらないので昼食代わりに1等車にしてみたのだが、どうも逆向きの座席だけは気になる。

 ロンドン市内の街並みを後に一気に加速、かと思ったら、近郊電車と変わらないスピードでノロノロ運転が続く。あまりにも遅いためか、雨に濡れた石造りの街並みを眺めながら、ロンドンを離れる郷愁ようなものを感じた。

 緑の牧草地に羊の群れ、いかにも英国の田舎といった感じのケント州内をのんびりと走る。イギリスの線路事情が悪いとはいえ遅すぎる。車内では昼食が配られる。肉か魚料理かを選べる。どちらも大したことはないが、ワインやシャンパンが出てきて昼間から良い気分になる。西欧の優雅な旅に酒はかかせないらしい。

ユーロスター1等車内
 ▲1等車内。座席の向きは固定されている。
 イギリス最後の駅アシュフォードに停車。ユーロスターは基本的にノンストップ便が多いのだが、わざわざ停車駅の多い列車を選んでみた。数人が乗ってきただけですぐ発車。ドーバーの街が近づくとコンクリートの景色が多くなり、ほどなく英仏海峡トンネルに入る。

 全長約50キロ、海底下40メートル、単線のトンネルが2本並んでいる。長さはおおむね津軽海峡と同じ。これまでの遅さが嘘のように轟音を響かせ、列車は快走する。かって船でしか渡れなかった時代を経験していたら感慨深いものもあるのだろうが、ただの暗闇は10分もすると退屈になってくる。

 2等車に1両しかない喫煙席へ移動し、嫌というほど税金がかけられたイギリスの煙草をいただく。時折「同志」が入って来ては空いている席で煙草を吹かしては出て行く。嫌煙大国イギリスは過ぎ、ここからは喫煙にも寛容なフランスだから堂々と吸える。

 20分ほどでトンネルを通過。入国スタンプが押してもらえるだろうと期待していたのだが、入国審査官も来ない。イギリスへ入る時は厳しいが、出る者へは興味がないのだろうか。駅でも荷物検査はされたが、パスポートさえ見なかった。

 フランス国内最初の町、カレーに入る。
 トンネル出入口らしくコンクリートの築堤が目立つ。カレーはフランス最初の停車駅でもある。ユーロスター専用線上に作られた高架駅には人の気配がまったくない。駅前には田んぼが広がっており、まるで新幹線の政治駅のようだ。カレー中心部へ行く在来線の乗り換え用駅なのだろう。

フランス国内の車窓
 ▲仏国内に入ると牧歌的な風景が続く。

 ゆるやかな緑の丘が延々と続く牧歌的な風景の中、列車は時速300キロ以上のスピードで快走する。

 農業国フランスの美しい田舎にコンクリートの専用線は不似合いな気もするが、日本と違い家々がないので騒音もまったく心配がない。これぞフランスが誇る超高速鉄道の真髄なのだろう。並行する高速道路をかっ飛ばす乗用車やトレーラーがノロノロ運転に見える。

 ロンドン・ブリュッセル・パリの三叉路「リール・ヨーロッパ」駅を若干スピードを落としながら通過。再び、駅も家も何もない田んぼの中の専用線を高速で走り続ける。

 景色は悪くないが、変化に乏しく、トンネルだらけの山陽新幹線に乗っているかの如く退屈だ。

 夕暮れが近づいた頃、遠くに街の塊が見えた。いよいよ終着パリも近い。
 あまりにも何もない所を走っていたのでほっとする。かっての旅人も異様に大きなパリの街並みを見てこんな心境になったのだろうか。


(補足:2003年9月、英国内にも専用新線が開通し、到達時間短縮が図られている)
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