執筆後記と解説

津軽鉄道や金木、津軽の観光地化に太宰も苦笑?
「津軽幻視行〜太宰治を訪ねて〜」

 「津軽幻視行〜太宰治を訪ねて〜」は1994(平成6)年9月、卒業論文を書くために"太宰治の足跡を訪ねる"という一応の目的があって「就職活動などとは無縁の大学4年の初秋」に津軽へ旅をした記録をまとめたものです。

 太宰治はその自殺歴とともに「人間失格」や「斜陽」、「HUMAN LOST」など、虚無的な作品が多く"暗い作家と作品"という印象を持たれがちでありますが、「津軽」
や「富嶽百景」など、太宰の目を通じた日本の美風景もいくつか書き残しています。
 ※太宰の経歴や「津軽」の全文はここで見られます

 若者の文学と言われるように、当時20台前半だった私は太宰治の作品に"ハマって"しまいました。それならば一度太宰を追って津軽の町を巡りたいという思いが強くなり、太宰治を"研究"に「津軽巡礼」に行くことにしたのです。

急行富士川のサボ
 東京まで行くのにわざわざ関西本線の急行「かすが」に乗ったり、大垣夜行のグリーン車(現「ムーンライトながら」)で東京まで行ったり、富嶽百景の地・山梨県御坂峠からの帰りには、廃止間近だった身延線の急行「富士川」(平成7年9月廃止)にまで乗っています。

小坂鉄道(1994年9月)
 さらに東北へ入っても、十和田湖へ行ったり(当時の東北ワイド周遊券で十和田湖行のJRバスに無料で乗れました)、廃止寸前の小坂鉄道(秋田県の大館〜小坂間を結ぶ鉄道で平成6年9月に旅客営業廃止)に乗ったり、さらには北海道にまで渡ろうとしていました(これは台風により断念)。

 一体、どこが太宰研究なのだ、と思いたくもなりますが、一応「富嶽百景」の地は行っていますし、津軽では太宰が「昭和5年『私たちは山の温泉宿であてのない祝言をした』」という碇ケ関温泉の「柴田旅館」に宿泊。
 「津軽」の舞台である龍飛岬(ここにも太宰が宿泊したという「奥谷旅館」があり、この時には泊まりませんでしたが海が見える良い宿です)
や蟹田、小泊などを訪れています(実は石碑を見ただけ…?)。もちろん太宰の生家がある金木へ行き、当時は旅館だった太宰の旧生家「斜陽館」に宿泊しました。

 ただ、やはり太宰の研究の成果はほとんどなく
(実は卒業論文も結局は違うことを書いていたりします)今思い返してみてもやはりただ単に太宰を"だし"に津軽の旅をしただけのような気はしています。


 昨年(2001年)夏、久しぶりに津軽を訪れる機会があり、津軽鉄道に乗って金木町へ行ってきました。
津軽鉄道の旧型ディーゼルカー(1992年)津軽鉄道の「走れメロス」号(2001)
左は津軽鉄道の古いディーゼルカー(1992年)、右は新しい「走れメロス号」(2001年)

 かってガラスが割れ、床は油で真っ黒くなっていた津軽鉄道の古いディーゼルカーは廃され、「走れメロス」という名の真新しいレールバスに変わっていました。

 金木町の名所であった「斜陽館」は経営難から旅館営業を止め、1997(平成9)年4月から市営の資料館として一般に広く開放されていました。

斜陽館の内部(2001)
かって宿泊した「斜陽館」の部屋も
展示室になっていました。(2001)
 誰でも見学できるようになったのは喜ばしいことですが(当時は宿泊者か喫茶店利用者以外は見学できなかった)、実際に宿泊し、太宰の気分に浸ることができなくなったのは残念です。そして、太宰ファンが夜な夜な書き込んだ部屋のノートも見られなくなっていました。

 一番驚いたのが斜陽館を中心に観光開発がなされていたことです。館の前には観光バスが大挙する広い駐車場が設けられ、太宰グッズや「太宰ラーメン」(根拠不明)などを扱う土産店と「津軽三味線会館」(金木町は津軽三味線の発祥の地でもあります)ができていました。
斜陽館と土産店の看板(2001)
斜陽館(奥の建物)の正面には
太宰グッズなどを売る売店が。

 "太宰ラーメン"に"走れメロス号"、極端な観光地化に太宰もあの世ではにかんでいることかもしれません。

 また、文中にあった「旅館一泊分の料金をつぎ込んで」タクシーで行った小泊〜龍飛岬間の"幻の国道"にも期間限定ながら周遊観光バスが通るようになっていました。

 2002年夏からはJR東日本の観光展望列車「きらきらみちのく」が三厩まで運転されたり、龍飛岬まで行くバスが村営化(青森市営バスから三厩村営バスへ)により安くなったり(片道わずか200円)、津軽の旅にも行きやすく便利になってきています。

 津軽の極端な観光地化には少し足が遠のきますが、太宰治や津軽の魅力が少しでも人々に広がればそれはそれで嬉しい気もします。

(2002/8/11更新)


※追伸:太宰治の作品は新潮文庫など各社から発売されていますが、インターネット上の電子図書館「青空文庫」(http://www.aozora.gr.jp/)で太宰治のほぼ全作品を無料で読むことができます。太宰の作品集はこちらからどうぞ。

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