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page-11 B&O鉄道博物館/ワシントンへ
(ボルティモア・ペンシルバニア駅〜ワシントンDC・ユニオン駅)
ボルチモア(Baltimore)ペンステーション構内
 ▲構内は優雅な雰囲気も

 ボルティモア(Baltimore)ペンステーションの駅舎は、広々としている割には人が少ない。
 木のベンチに腰掛けて、ぼんやりと列車を待つ人々を見ていると、グランドセントラルやボストン南などの都心駅にはない別の優雅さがあるように思える。

 ホテルのようなクロークがあったので、大して重くもないリュックサックを預けて外に出た。
ボルチモア・ペンシルバニア駅 駅舎
 ▲ボルチモア・ペンシルバニア駅舎
 駅前には巨大オブジェもある

 ずっしりとした胴長の古典的な石造り駅舎は、あまりにも形が整っているせいか、相当に歴史を経た庁舎のようだ。太い石柱がお決まりのごとく張り出していて、街のランドマークらしく激しい自己主張がある。
ボルチモア B&O鉄道博物館への地図

 ここで途中下車したのは、B&O鉄道博物館(Baltimore & Ohaio Railrord Museum)に行くためであった。

 B&Oとは「ボルチモア&オハイオ」のことで、1830年にアメリカで初めて生まれた本格的鉄道の名称である。この発祥の地にミュージアムが設けられている。

 ガイドブックによると、ここはバスか車でしか行けないと書いてあったが、市内地図で調べると、LRT(路面電車)が走っているという。
 これで近くまで乗り付けて、後は歩くことにした。

                        ◇
ボルチモア・ペン駅のLRT乗り場
 ▲LRTホームへの階段
 ひっそりと片隅にある

 周辺を20分ほど探したが路面電車乗場が見つからず、戻って駅前にいた婦人警官に聞いてみると、笑いながら「下にあるよ」と階下を指差した。

 レストランの横に狭い階段があり、降りると構内の片隅におまけのようなホームが作られていた。最近になって支線の形でペンステーションへの乗り入れを始めたようである。

 自動券売機を見ると1乗車1.6ドル(180円)で、1日券は3.5ドル(400円)という微妙な料金設定だったが、バスにも乗れる1日券を購入。鉄道マニアはフリーパスという言葉に弱い。これは海外でも同じらしい。
本線と接続するボルチモア大学/マウントロイヤル駅
 ▲本線接続のボルチモア大学駅

 チンチン鳴らしながらやってきた2両編成の電車は、LRT(ライト・レール・トランジット)の車両らしく、路面電車と一般電車の中間のような大きさであった。新しいためか車内も清潔で明るい。

 
LRTの自動券売機
  ▲切符は自動券売機で

 本線と合流するボルティモア大学駅(Univ.Of Baltimore/Mt.Royal)まではわずか1駅2分。目で見える位の短い距離なのだが、発車してすぐに電車は止まってしまい、6分かけて到着。そのせいかは分からないが接続が悪く、12分待ってようやく本線のBWI空港(BWI Air Port)行きの列車が来た。
LRTの車内
 ▲まだ新しいLRTの車内

 2両編成を2つ連結した4両の電車はワンマン運転で、駅も無人で切符の集札がない。アメリカでは珍しく、欧州のような信用乗車方式を採用している。
 乗降時間の短縮や人件費の削減を考えると、不正乗車は大きな問題ではないのかもしれない。

 古い建築物と新しいビルが程よく調和した市街地を、列車は車と一緒にのんびり走る。少し経つと不穏な空気を感じる場所にも駅が現れだした。ボルチモアは治安が良くないというガイドブックなどからの事前情報があったためか、乗ってくる乗客をも注視してしまう。
コンベンション・センター駅
 ▲コンベンション・センター駅
 後方にカムデン・ヤードが見える

 5つ目のコンベンションセンター駅(Convention Center)へは10分余りで着いた。
 路面電車の「電停」を少し立派にしたようなホームに降りると、大リーグ「オリオールズ」の本拠地、カムデンヤード(Camden Yards)が目の前に見える。赤茶色の煉瓦造りの野球場に歴史深さを感じるが、オープンしたのは1992年だという。

 スタジアムの誘惑を振り切って、プラット通り(Pratt St.)を西に歩く。B&O鉄道博物館はこの通り沿い1キロほど先にある。

 ※B&O鉄道博物館への詳しいルート等はこちらを参照
ベーブ・ルースの生家
 ▲ベーブルースの生家
 プラット通りすぐにある

 左手にベーブ・ルースの生家なる建物も現れたが、再び鉄道と野球を天秤にかけ、一瞬目視しただけで通り過ぎる。

 マーチン・ルーサー・キングJrを冠した広い道路(S Martin Luther King Jr Blvd)を越えると、道幅が狭くなり、辺りはオフィス街から住宅地に変わった。

 15分ほどでキューポラ状の建物が見えてきた。
 先ほどの野球場もそうだったが、煉瓦色の街並みに溶け込んでいて、近くまで寄らないと博物館とは分からない。

          ◇
B&O鉄道博物館の建物
 ▲B&O鉄道博物館の建物

 14ドル(1610円)という少々高い入場料を支払い中に入る。平日昼間のせいか人気(ひとけ)がなく、館内はボランティアの老人だけが各所で待ち構えている。一人目の爺は笑って何とかすり抜けたが、車両展示室に入った瞬間に老婆が急いで寄ってきた。

 「これを観て」「あれは○○よ」「これが分かる?」と機関銃のように喋る。

 「英語はあまり分からない」

 と言ってみたが、簡単には離してくれない。

 そこに妻が現れた。言葉が少し分かると見るや、そちらに向かって再び泡を飛ばしはじめた。私はいたずらをした子供のように、彼女と妻の横をすり抜けるようにそこを離れた。
木造屋根の展示ホール
 ▲復旧した展示ホール

 ドーム状の木造展示室は、三年前の冬に大雪で屋根が落下したが、最近になってようやく再建にこぎつけた、これはボランティア婆から幾度も聞かされた。今も被災車両が置いてあり、修復のための寄付を募っているという。入場料が若干高いのもその影響なのだろう。

 彼女の無欲な熱弁を聞いている限り、この館の完全復旧はそう遠くないだろうと思った。

 館内には蒸気機関の原型のようなトムサムやラファイエットなどB&O時代のSLが展示されている。不勉強のせいかその価値があまり理解できず、外に出て、大量に置いてある近代の巨大機関車や客車を瞥見(べっけん)。グッズショップに急ぎ、ロゴ入りのワッペンや絵葉書などを購入し独り喜ぶ。

 米国鉄道の発祥地に行ったという自己満足感を得て、館を後にした。

                       ◇
ボルチモア〜ワシントン MARC 路線図

 ボルティモア(Baltimore)ペンステーションに戻り、構内のカフェで昼食をとる。大学生のような若い店員が私の拙い英語を上手く解してくれた。嬉しくなって微々たるチップを渡すと、パンをサービスしてくれた。

 ワシントンD.C.まではMARC(Maryland Rail Commuter Service)というメリーランド州の地域鉄道で行く。
 地元民の通勤や移動の手段として、州が平日だけ1時間に1本運転している。「リージョナル」に比べると20分ほど余計に時間はかかるが、運賃は半額以下の7ドル。アムトラックが止まらない小さな駅にも停車していくので、日常の鉄道風景が見られて面白そうである。

 駅構内で自動券売機を探したが見当たらず、案内所で聞くと、アムトラック窓口で切符を売っているという。
MARCの切符はアムトラックと同じだった(MARC車内の座席の上で撮影)
 ▲切符はアムトラック仕様

 近郊線に乗るというのに、窓口の初老係員は身分証明書を出せと命じた。私は慌てて、服の下の首掛け袋からパスポートを出そうとしたが、ワイシャツのボタンが一気に2個ほど取れ、胸がはだけてしまった。初老氏は笑いをかみ殺した顔で旅券を一瞥し、航空券のような切符を発券した。
客車の先頭部
後部から機関車が押す
 ▲前後でかなり表情が違う
 (上)ワシントン行き先頭
 (下)ボルチモア行き先頭

 13時40分発MARCペンライン(Penn Line)の429列車は、前から客車が4両続き、最後尾から機関車が押していく形の編成になっている。

 逆向きの場合は、機関車が先頭に来るのでローカルな雰囲気になるのだが、客車を先頭だと電車のように見えてくる。米国の近郊鉄道にはこの方式をよく見かける。

 定刻になっても列車が動く気配はなく、結局10分の遅れで出発した。通勤鉄道でさえこんな状態なのか、と苦笑した。ワシントンまでは途中7駅に停車し、1時間を要する。

 車内には2人掛けと3人掛けの座席が押し込まれるようにあり、狭苦しく感じる。検札や切符販売の都合なのか、客車を2両だけしか開放していないが、4割ほどしか埋まっていない。
MARCの車内
 ▲車内は3+2人掛けシート

 ボルティモア中心部の地下線を走り抜けた列車は、高架になったところで急に止まった。

 理由のない停車はいつものことだ、と思ったが、ここは西ボルチモア(West Baltimore)駅であった。ホームが短いためか窓からは見えない。高架上にある同じような小駅に1つ立ち寄り、列車は郊外に出る。
MARCの時刻表


 ガラスの渡り廊下とコンクリートの小ぶりな駅舎が見えてきて、BWI空港駅(BWI Airport)に着く。ここはアムトラックの停車駅である。スーツケースを引いた客が20人ほど乗ってきて、車内が賑やかになった。

 BWIとは何のことかと思ったら、ボルティモア・ワシントン・インターナショナルの略なのだという。
 この駅から列車でボルチモアへは10分、ワシントンまでは35分で行ける距離である。それで両方の都市名を付けているのだろう。

 ワシントン・ダレス空港の交通不便を考えれば、こちらを使いたい気がしたが、日本への直行便はない。

                       ◇

シーブルック駅
 ▲広い駐車場のある駅も

 左手に空港をかすめながら、列車は郊外の緑地帯に入り、オーデントン(Odenton)、ボウィ(Bowie)で幾人かの乗客を拾う。
 駅前の広い駐車場には車があふれている。自動車で駅まで来て、鉄道に乗るのだろう。パーク・アンド・ライドは日本でも定着しつつある。

 次のシーブルック(Seabrook)駅の近くには、大型ショッピングセンターがあった。
 平べったい派手な色の店舗に取り囲まれた駐車場に、買物ワゴンいっぱいの商品を持ったファミリーが自分たちの車に積み込んでいる。日本の中都市郊外でよく見る、私たちが何の違和感もなく慣らされてしまった光景がある。
ワシントンDCユニオン駅ホーム
 ▲ユニオン駅ホーム

 14時36分、ニューカロルントン(New Carrollton)に到着。アムトラックが停車するためか大きな高架駅になっている。ここはまだメリーランドだけれど、隣にはワシントン地下鉄の駅が隣接していて、もうDCに入ったかのような雰囲気があった。

 列車は地下鉄と併走しながら州との境界線を越える。目印も変化もなく、ただ同じような市街地が続いている。

 ニューカロルントンから10分ほど走って、スピードが極端に落ちてきた頃、ワシントンDCのユニオンステーション(Washington, DC Union Station)に到着。14時44分、4分の遅れであった。
ワシントンDC ユニオン駅駅舎
 ▲ワシントンDC ユニオン駅駅舎

 荷物集積センターのように飾り気のないホームから、駅舎内へ入ると、そこは賑やかなショッピングモールになっていた。列車が発着する場所の陰気さに比べ、どうしてこうも変化が大きいのだろう。

 外へ出ると、円形の国会議事堂が見え、振り返ると凱旋門を巨大にしたような駅舎がそびえている。首都だけに、その大きさと迫力は群を抜いている。
 アメリカ鉄道の栄光時代の残滓(ざんし)はどこも立派である。

                                               (了)



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