米国鉄道紀行 トップページへ
page-8 アセラ・エクスプレス
(ボストン・サウス駅〜ニューヨーク・ペンシルバニア駅)
アセラエクスプレス
 ▲最高速度は240km/hを誇る
 アセラ・エクスプレス(ボストン南駅)

 ボストンに着いてから二日後の6月7日水曜日、今日は朝のアセラ(Acela)エクスプレスに乗ってニューヨークまで行くことになっている。
 最高速度240km/hを誇る米国鉄道唯一の高速列車に乗る日が来た。
ボストンサウス駅 駅舎
 ▲中は案外新しいサウス駅

 ボストン南駅(Boston South Station)は、ニューヨークやシカゴ方面へのアムトラックと近郊列車「T」(MBTA =Massachusetts Bay Transport Authorityのコミューターレイル)が発着するターミナルで、フォート・ポイント運河沿いの市街地に構えた石造りの駅舎は100年以上の歴史を持っている。

 太い石柱とせり出したバルコニー、時計台の大仰な装飾などが目立つ古典的な建築物ではあるが、近年になって改装したのだろう。古さはあまり感じない。駅舎内はフードコートになっていて、天井からは派手な巨大広告が幾つもぶら下がっている。

                        ◇

ボストンサウス駅のコンコース
 ▲ボストンサウス駅の内部は
 フードコートになっている

 近郊列車から吐き出される朝の通勤客を眺めながら、濃厚な味のハンバーガーを食しているうちに、流線型の「アセラ」がホームに入ってきた。

 座席は指定されていないので、ホームに急いだが、まだ席は2割も埋まっていなかった。
アセラのビジネスクラス車内
 ▲アセラのビジネスクラス車内

 外観はユーロスターやTGVなど、一般的な世界の高速車両の姿と特に相違は見られない。

 ただ、車内の2人掛け座席が進行方向に統一されている点や、ステンレスの車体に色がほとんど塗られていないあたりは、アメリカらしい合理さなのかと思う。
アセラのカフェカー
 ▲カフェカーが連結されている

 8両編成のうち、両端は電気式の動力車で、カフェカーが1両連結あるので旅客が乗る車両は5両分しかない。
 そのうち、1両がファーストクラスで、他はビジネスクラスの車両が連なる。

 普通座席車(コーチクラス=Coach Class)はない。運賃が高いのはそのためである。

                       ◇
ボストン〜ニューヨーク 地図

 7時15分、『アセラ・エクスプレス』2155列車ワシントンDC(Washington,DC)行は定刻通りにボストン南駅を出発した。

 ニューヨークまでは370キロ、3時間半を要する。東京〜名古屋間とほぼ同じ距離を「のぞみ」の半分以下のスピードで走ることになる。

ボストン バックベイ駅 駅名板にかつての石造駅舎の写真も見える
 ▲中心部にあるバックベイ駅
 5分ほどで中心部のビル街の下にあるバックベイ(Back Bay)駅に着く。ビジネスマン50人ほどを乗せ、車内が賑やかになってきた。
 地下鉄のオレンジラインと併走しながら、アセラは滑るようにスピードを上げていく。すれ違う近郊電車も一瞬で視界から去ってしまうようになった。高速列車とはいえ、近郊列車と同じ線路を走っているので、実際の速度より速いような感覚がある。

 外は朝から雨が降り続いているけれど、アメリカに来て極めて遅い速度の鉄道にばかり乗っていたせいか、気分は晴れやかになってきた。検札に来た車掌も日本並みのソフトな対応。アムトラックもやればできるのか、と思った。
車内の停車駅案内表示板

 7時29分、郊外のルート128(Route 128)駅で停まった。出発時に3割ほどしか乗っていなかった車内は7割ほどの乗車率になった。始発駅より近郊からの利用客のほうが多いようである。

 列車はさらにスピードを上げて、森のごとく緑の多いボストン近郊の街を通り過ぎる。途中、引き込み線で待機しているCSXの長大貨物列車を軽々と追い抜いた。
アセラのファーストクラス車は3列シート
 ▲ファーストクラス車内

 ボストンからニューヨークを通り、ワシントンまで730キロ余りを結ぶ北東回廊線(North East Corridor=ノース・イースト・コリダー)と呼ばれるこの路線は、全線が電化された米国鉄道一の大幹線で、線路もアムトラックが所有している。ここでは貨物列車に大きな顔をされる心配もない。
携帯電話を使うアセラの乗客

 米国最小の州、ロードアイランド(Rhode Island)に入ってすぐ、州都のプロビデンス(Providence)に到着。さらに乗客は増えて車内は満席になった。わずか1分間の停車の後に発車した。

 ボストン発のアセラ一番列車のためか、乗客の大半が背広姿のビジネスマンで、車内のいたる所から絶え間なく携帯電話の話し声と、パソコンの起動やメール到着音が聞こえてくる。日本の新幹線の比ではない騒々しさである。それらを禁止した「クワイエットカー」(Quiet Car)なる車両が設定されている理由もようやく理解できた。

                       ◇
湿地帯を走る

 列車はキングストン(Kingston)を過ぎて、グリーンウィッチ湾をかすめた後、内陸部に入って湿地帯の原野を走り抜ける。

 先ほどの高速走行が嘘のように、時速70キロほどのスピードで州境のウエスターリー(Westerly)を通過。コネチカット州(Connecticut)に入る。
レールは海岸線に沿っているので景色がいい
 ▲レールは海岸線に沿っている

 
再び海岸線に近づいたアセラは、ロングアイランド湾の水辺ギリギリの所を走行。海岸が入り組んでいるためか、湖のごとく静かな水面には、ヨットハーバーがあり、湾に面して別荘のような瀟洒な家々が並んでいる。

ニューロンドン駅を通過する
 ▲ニューロンドン駅を通過

 教会の塔が2〜3見えてきて、汽笛を鳴らしながらニューロンドン(New London)を最徐行で通り過ぎた。
 駅前の港にブロックアイランド行のフェリーが停泊しているのが見える。

 今日は雨模様。しかしながら、晴れていればさらに胸がすくような風景が左手に続いている。ローカル特急のように遅い速度も、この景色の前ではちょうどいい。
北東回廊線を走る地域鉄道のロゴマーク
 ▲6つの地域鉄道を使えば各駅停車の旅も

 ニューロンドンから先は、コネチカット州が運行する通勤列車「ショアライン・イースト」(Shore Line East-Commuter Rail Servic)の小さな駅が時折現れる。

 日本で言うところの「緩行線」のような存在で、アムトラックが停車しない街を補完している。

 ボストンからワシントン間のほとんどの区間に、こうした近郊列車が運行されているので、のんびり各駅停車で移動できたなら、さぞ面白いであろう。

 「できるだけアムトラックに乗らずに行くボストン〜ニューヨーク〜ワシントン 各駅停車の旅」
 ――そんな空想計画を練ってみる

                        ◇
ニューヘブン駅を通過
 ▲長大ホームのニューヘブン駅

 工業地帯の煙突が近づいてきて、ニューヨークからの通勤鉄道「メトロノース」の車庫を通り抜けると、真新しい長大ホームが並ぶニューヘブン(New Heven)駅。ここでもアセラは止まるかのような速度で通過した。

メトロ・ノースの電車が頻繁に現れだした
 ▲メトロノースの電車が度々現れる
 車窓には、ステンレス車体に赤いラインを巻いた近郊列車が頻繁に現れるようになり、付近は家々が密集してきた。
 日本の海芝浦駅のごとく河口の真横にあるブリッヂポート(Bridgeport)を過ぎ、煙突から立ち上る白煙を眺めながら、列車は定刻より4分遅れて9時56分にスタンフォード(Stamford)に到着。
スタンフォード駅に停車
 ▲スタンフォードに停車

 プロビデンス以来2時間ぶりの停車駅だが、あまりにもノロノロと走っていたせいか、ノンストップだった気がしない。
 20人ほどが下車し、2〜3人の乗客を新たに乗せて駅を離れたアセラは、いよいよニューヨーク州へ。ニューロシェル(New Rochelle)の先で近郊線と分岐。クイーンズ経由でマンハッタンへ回り込む専用線に入ると、急にスピードを上げ始めた。
イーストリバーにかけられたヘルゲート橋
 ▲ヘルゲート橋が近付いてきた

 窓の外には画一的なアパート群が広がり、線路上に散乱するゴミと落書きだらけの荒廃した建物が目につく。

 ブロンクスからワーズ島に入った列車は左に弧を描くように高架橋を上がる。
 河口のように広いイーストリバーに架けられた、恐ろしく高いヘルゲート橋を渡る。
マンハッタンの遠景

 灰色の空の下にマンハッタンのビル塊が蜃気楼のように浮かび上がっている。
 その姿はあたかも巨大戦艦のようだ。異様な遠景に戦慄すら感じる。

ニューヨーク・ペンシルヴァニア駅に到着
 ▲ペンシルバニア駅に到着
 ペンシルベニアトンネルで再びイーストリバーを越え、マンハッタン島に入った列車は、地上に出ることはなく、そのままニューヨークペンシルバニア駅(New York Pennsylvania=Penn Station)に滑り込んだ。定刻よりも3分早い10時42分であった。

 狭く陰気なホームには、地下駅独特の饐(す)えた匂いが漂っていた。


>>page9 ニューヨーク半日散歩
(地下鉄・スタテン島フェリー・バス・グランドセントラル駅)



▼関連ページ(新しいウィンドウが出ます)
雑記編p4『ニューヨーク、雨中の右往左往』
〜タイムズスクエア、カーネギーホール、メイシーズと歩く/心だけ優雅に?ホテル「ペンシルバニア」(Pennsylvania Hotel)〜
前のページに戻る
前のページへ
アメリカ鉄道紀行トップへ
米国鉄道紀行のトップへ
次のページへ進む
次のページへ
ホームに戻る 世界編のトップへ戻る