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page-3 ユニオン駅/メトラ/高架鉄道
ユニオン駅とシアーズタワー
▲ユニオン駅とシアーズタワー

  シカゴに着いて一夜明けた2006(平成18)年6月4日日曜日、今日はボストン行の夜行列車「レイクショア・リミテッド」号に乗る19時55分までの間、鉄道を使ってシカゴ市内を巡ろうと思う。

 その前に、今日の列車のチケット発券と荷物を預けるためアムトラックのユニオン駅に向かう。

 地下鉄「ブルーライン」のクリントン(Clinton)駅で下車し、地上に出てオフィス街と住宅地が入り混じったようなクリントン通りを北に歩く。

 日曜日の朝のせいか人通りも少なく、本当にこんな所にユニオン駅などあるのか、と思っていたら、5分ほどすると高層ビルが取り囲む中に低層横長の石造建築物が現れた。
シカゴユニオン駅の待合室
 ▲ユニオン駅の待合室

 脇から見た時は大銀行の本店かとも思ったが、細長の字体で「UNION STASION」と文字板が掲げられている。神殿のごとく石柱がせり出した正面玄関から見ると、後方にそびえるシアーズタワーでさえ威圧するほどの雰囲気がある。

 鉄道全盛時代の駅舎だけに内部には、ビル5階分はあろうかと思う高さまで吹き抜けになった大げさな待合室がある。縦に3人寝てもまだ余裕のありそうな木製ベンチがいくつか置かれ、その片隅では一人二人と居眠りをしている。
 石壁に囲まれているせいか緊張感の漂う静寂さで、古い教会の中に迷いこんだ気分になるが、鉄道利用客とは思えないような人間も多くいて近寄りがたい。

 地下にあるアムトラックカウンターで、インターネットで予約した旨の紙を見せると、身分証明書の提示とサインを求められたが、3分ほどで発券してくれ、それを持って寝台利用者用の待合室に行くと荷物を預かってくれた。

                        ◇

シカゴ中心部からオークパークへの地図
 ▲オギルビー駅へは「グリーンライン」のクリントン駅下車

 これから向かうのは西の郊外にある「オークパーク(Oak Park)」という観光地で、ここは近郊鉄道「メトラ(Metra)」と高架鉄道「グリーンライン」のいずれでも行くことができる。鉄道に乗ることが第一の目的なので、オークパークがいかなるところかは分からない。
 観光をしたい妻と鉄道に乗りたい私が珍しく意見の一致を見た目的地で、オークの木が埋まっている公園であろうことは想像ができる。往きはメトラ、帰りは高架鉄道で往復してみることにした。

 シカゴでは、市内の短距離移動が地下鉄と高架鉄道「L」が、イリノイ州内の都市間や州を越えるような長距離移動は「アムトラック」という風に役割分担がなされており、メトラはその中間部分、都市近郊の中距離輸送を担う公共交通である。
上から見たオギルビー駅(シアーズタワーから撮影)
 ▲オギルビー駅の上階は
 高層オフィスビルになっている
 (左下方の青っぽい色のビル)

 アムトラックと線路や駅を共用している路線もあり、そこでは主要駅にしか停車しないアムトラックに対し、メトラは各駅に停車していくので、日本の東京や大阪など大都市圏で走っているJRの中距離通勤電車のような存在に思える。

 11路線のすべてがシカゴ中心部から放射状に郊外へ広がり、路線の方向によって発着するターミナルが4つに分かれる。オークパーク方面へ行くユニオン・パシフィック西線(Union Pacific West=UP−W) はオギルビー・トランスポーテーションセンター(Ogilvie Transportation Center)駅から出発する。

オギルビー駅のコンコース
 ▲オギルビー駅のコンコース
 ユニオン駅から北に3分ほど歩くと、総ガラス張りになった高層ビルがあって、入口にはシティバンクなどの入居企業の案内とともに、メトラのロゴマークが貼ってある。ここがオギルビー駅のようだけど、シティコープセンターなる42階建てオフィスビルの一部でもあった。

 ガラス造りの吹き抜けになったコンコースには、ファーストフードの飲食店街が形成されており、外観もそうだが、内部はどこか空港ビルに似ていなくもない。発着案内の電光掲示板までが空港と同じものを使っている。

 100年前のシカゴをそのまま体現している隣のユニオン駅に比べると、こちらはあまりにも新しく機能的で落差を感じるが、それでも1980年代初頭までは「ノースウエスタン」(Northwestern)を駅名とし、巨大寺院のような石造り駅舎が健在だったという。

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オギルビー駅に停車中のメトラ
 ▲ホームに停車中のメトラ

 窓口でオークパーク駅までの切符(2.15ドル=250円)を買い、行き止まり式のホームへ行くと、逆Uの字型をした面長の列車が並んでいた。

 顔の部分は赤と白で斜のストライプに塗られていて、大きな図体とその風貌は人を飲み込んでしまいそうな雰囲気がある。
メトラ車内の2階部分
メトラ車内の1階部分 ギャラリー型という
 ▲写真上は車内2階
 下は同1階部分

 車内は2階建てになっているが、上階の通路部分が吹き抜けになった不思議な構造で、車内検札は下の階から車掌が手を伸ばして切符を受け取っている。
 1階に座ってもあまり圧迫感がないし、2階も頭がつかえない。不恰好な外見に似合わず、内部は機能的に考えられているものだと感心する。

 メトラ「ユニオン・パシフィック・ウエスト・ライン」のエルバーン(Elburn)行、503列車は10時41分、定刻より1分遅れて発車した。

 終点までは約70キロ、1時間20分の旅だが、私が乗るのは2駅先のオークパーク駅までのわずか16分間だけ。車窓を眺めるには少し短い乗車時間だけど、未知なる鉄道の列車内で発車を待つ時と動き出した瞬間は、旅で最も興奮が高まるときなので、それを味わえるだけで有難いと思う。
シカゴ・オギルビーを出発したメトラ
 ▲先頭は機関車が牽引

 列車がシカゴの高層ビル街を離れていくにつれて、街には空地が多くなり、金網越しに廃車や鉄屑が散乱している工場が現れ、壁への落書きや線路付近のゴミも目立ってきた。

 くすんだレンガ造りの住宅地の中にバスケットコートがあって、黒人の少年達が走り回っている。窓ガラスには光線吸収用の濃い青色のフィルムが貼られているので、古いカラー映画の世界に入り込んだ気分になる。

オークパーク駅に到着したメトラ
 ▲メトラのオークパーク駅ホーム
 右手に小さな駅舎も見える
 列車は次のケッジー(Kedzie)駅を全速力で通過。寄り添ってきた高架鉄道「グリーンライン」と併走して数分経つと、整然と区画割りされた緑の多い街並みが高架下に現れ、オークパーク駅に到着した。
 路面電車の電停を少し広くしたような低いホームに降りて他の乗客と一緒に歩いていくと、いつの間にか高架鉄道グリーンラインのハーレム(Harlem)駅の出口に合流していた。

                        ◇

駅前の通りにはオークの木が植えられている
 ▲駅前通りの楢の木

 観光ガイドブックによるとオークパークは、閑静で優美な高級住宅街であり、建築家フランク・ロイド・ライトが設計した家や、作家アーネスト・ヘミングウェイの生家などがあるという。

 当初の想像通り駅前通りにはオークの木が埋まっていて、10分ほど歩くとヘミングウェイの生家とされる建物が現れた。

 大きくはないが、小さなペンションでも経営しているのかと思える洒落た邸宅である。ヘミングウェイの様々な苦悩や不運な人生を思い起こすと、この垢抜けた雰囲気があまり結びついてこない。
ヘミングウェイの生家
 ▲ヘミングウェイの生家

 
それにしても作家というのは生活に余裕のありそうな家から生まれるものだな、と妻に呟いてみたがまったく聞いておらず、

 「どこも緑に包まれてヨーロッパみたい!こんな住宅地に住んでみたい」

 興奮気味に私に言った。

 芝生と木で整えられた広い庭に、余裕を持って建てられた白や赤の真新しい家々を眺めていると、住宅展示場の中を歩いているような感じがする。
サブウェイのナプキン

 日本では医者でも住んでいそうなレンガ造りの豪邸を外から覗くと、巨腹のおっさんがデッキチェアに仰向けになって、青空の下で黙々とクロスワードパズルを解いていた。

 昼食をとるため、駅近くのサンドウィッチチェーン「サブウェイ」に入ると、中東系とおぼしき店員が2人出てきた。日本と同じようにデイリースペシャルという日替わり特売メニューがあり、2.49ドル(290円)だった。それを注文した。

                        ◇
高架鉄道(地下鉄)「L」グリーンラインのハーレム駅
 ▲グリーンラインのハーレム駅

 高架鉄道「グリーンライン」の始発駅、ハーレム(Harlem)から市内方面行の電車に乗り込む。

 4つ目のセントラル(Central)駅辺りから放置されたままの空き地や崩れかけた建物が車窓に現れてきて、乗ってくる客も黒人比率が高くなる。
グリーンラインからの車窓
 ▲途中から空地も多くなってきた

 途中下車をしてみたいと心では思いながらも、何駅過ぎても足が動かせないでいるうちに、目の前にはシカゴの摩天楼が迫ってきた。

 臆病さに悔しい思いはしたが、どこかで安堵する気持ちもあった。

高層ビル街を突き抜ける高架鉄道のループ区間
 ▲高層ビル街を突き抜ける
 高架鉄道のループ区間

 列車はビル街に吸い込まれるようにクリントン(Clinton)駅(ユニオン駅に近い「ブルーライン」のクリントン駅とは離れており、こちらはオギルビー駅に近い)に停車。シカゴ川を渡って市内最心部に入った。

 この先が100年以上の歴史を持つ「ループ(Loop)」で、シカゴ中心部の南北1キロ、東西500メートルという狭い区間を線路が一周している。

 古くて低い高架橋の上も駅も木張りになっており、電車はジェットコースターのような音をさせながら走る。コンクリート高架のように車窓を遮る壁や人工的な寒々しさもなく、駅間もバスのごとく短いせいか遊園地の汽車に乗っている気分である。

 ついつい「園内一周」をしてみたくなり、途中で上下逆の列車に乗り換えたりしてみたが、どれも途中でループ上から離れてしまう列車ばかりで上手くいかない。
 半周ほどして断念したが、もし周回列車があったなら、5周しても飽きなさそうな変化の多い雑然とした車窓で、高層ビルの横っ腹を大きな顔をして突き抜けていくのは気分がいい。


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