宇宙での距離の測定
メジャーを使えない宇宙での距離の測定はどのようにするのか?。直接測定できない距離を測る基本的な方法は中学や高校で学ぶ三角測量が基本です。しかし、あまりにも遠くなると角度の測定誤差の影響や測定自体もままならず三角測量も使えなくなりますが、まずは三角測量が使える範囲から。
月までの距離
まず、前準備です。直接測定できない距離を測る基本的な方法は三角測量です。橋の無い川幅の測量がよく例示されています。
図1で長さ L、角度α、βを測定すると、相似形の考えから間接的に W を知ることができます。
図2のように一つの角度が小さい、つまりとがっている場合はこの角度を測ることで距離を測定できます。円弧の角度を弧度法で表した場合、半径を r 、その角度を γ とすると 円弧ABの長さ = r X γ となります。角度が非常に小さい場合、円弧ABの長さ ≒ 直線ABの長さ( L )、半径( r ) ≒ 頂点から底辺までの距離( D )と近似できます。従って D = L / γ より距離を求めることができます。
これで準備完了です。実際に計算してみます。手元にデータが無いのでネットで見つけたデータをお借りします。リンク集で紹介している鳥取市さじアストロパ−ク(星のたより Vol.64 −平成12年1月号 ☆はるかなる宇宙の広がり )から引用します。
佐治村と東京で、同時に月の見える角度を測ります。佐治村と東京では距離が約500km離れています。ここから先はパソコンソフトに頼りましょう。観察日は1月21日、ちょうど満月です。午後9時00分、東京から見ると月の高度は45度、佐治から見ると高度は40度です。
東京での角度を a、佐治村での角度を b とすると
90 − a + α + b = 90 ∴α = a − b
これを使ってαを計算すると 5°になります。弧度法で表すと
( 2π / 360) X 5= 0.0872 rad
従って r = 500km / 0.0872 = 5734km となります。
これは実際の月までの距離38万kmとあまりのもかけ離れています。これは地球が丸いことに起因します。地球上で500km離れているということは角度にすれば約4.5°に相当します。つまり、東京と佐治村では地平線が平行ではないためこの分の補正が必要になります。拡大して描くと次図のようになります。
ここで
180−a+d+f=180 ・・・・・・・・・(1)
b+e+g=180 ・・・・・・・・・(2)
f+g+180−2c=360 ・・・・・・・・・(3)
(1)+(2)より d+e=180+a−b−(f+g )
この式に(3)より( f+g ) = 180 + 2cを代入すると
d+e=a−b−2c
つまり、2点間の中心角分( 2c )を補正しまければなりません。
別の方法を考えてみます。月の後方にある星を使います。
a+α+γ=180 ・・・・・・・・・(1)
b+β+γ=180・・・・・・・・・(2)
(2) − (1) より
bーa+β−α=0 ∴ α−β=b−a・・・(3)
星までの距離を月までの距離(D)のn倍とすると
ABの距離 =
β x n x D ≒ α x D より β=α / n
(3)に代入すると、 α(1−(1 /n))=b−a
ここで、nが大きい場合(1 /n) ≒ 0 となり
α = b − a
つまり、2点で月と遠方の星の角度を測定し、その差を求めると、月から見た二点間(A、B)の角度になります。これを使って月までの距離を求めることができます。地球から見た月と星のイメージは上図のようになります。
ここで、再び鳥取市さじアストロパ−クよりデータを借用します。
実際に、図にある(省略しました[管理人]) アルデバラン食で計算してみましょう。計算しやすいように、ちょうど月が真南にある頃で考えます。アルデバランを基準にすると、月の見える方向は佐治と東京では角度で約4分45秒(1分は1度の60分の1)違いますので、佐治と東京の距離を500kmとすると36万2千kmとなります。実際の距離(約38万km)にずいぶんと近くなりました
実際に計算してみます。角度で約4分45秒とありますのでこれをラディアンに変換します。
4分45秒=0.0791度(4/60+45/3600)=0.001380rad [( 2π / 360) X 0.0791]
地球から月までの距離 = 500km / 0.001380=362813km
36.3万kmとなりほぼ現実に近い値になりました。
[2006/08/02]
太陽までの距離
太陽までの距離は1AUと表され、天体での距離の一つの基本単位になっています。月までの距離で勉強させてもらった「鳥取市さじアストロパ−ク」に太陽までの測定方法がありましたのでこれを検証します。
一言で言えばケプラーの第3法則を使います。この法則は「各惑星の長径の3乗と公転周期の2乗との比が惑星によらず一定である。」と言うものです。
実際のデータを見てみてみます。ここで、また「鳥取市さじアストロパ−ク」のデータを使わせてもらいます。「太陽系の各惑星の長半径と公転周期をちょっと表にしてみましょう。どちらも地球の大きさを基準(1.0)とします。」として下表がありました。
惑星 | 長半径 | 公転周期 |
---|---|---|
水星 | 0.3871 | 0.2409 |
金星 | 0.7233 | 0.6152 |
地球 | 1.0000 | 1.0000 |
火星 | 1.5237 | 1.8809 |
木星 | 5.2026 | 11.862 |
土星 | 9.5549 | 29.45 |
天王星 | 19.2184 | 84.022 |
海王星 | 30.1104 | 164.774 |
冥王星 | 39.5404 | 247.796 |
ここで、ちょっとツッコミ(疑問?)をいれたくなりました。「地球の大きさを基準(1.0)とします。」という部分です。「地球の大きさを基準(1.0)とするという事は比を求めるこで、距離が求まっているから比を求めることができるのとちゃうか? 距離を求めるのに、求まっている距離から比を求め、それを使うのはドウドウ巡りとちゃうか?、比を測定する方法があるのかなぁ?」ということです。
これを考えていて私の大きな勘違いに気づきました。距離を測定すること自体が比を求めることでした。例えば38万kmとは1kmの38万倍、1mの38万x1000倍=3億80000万倍と意味合いになります。生データを持っていませんので、確かなことはわかりませんが、観測データからケプラーが第三法則をみつけたのであり、整理すれば表のような結果を得ることができると思います。つまり、ケプラーの時代には惑星間の距離はAU単位ではわかっている(測定されている)ので、この1AUをmに換算する方法を考えれば日常的な距離に換算できます。つまり、距離を測定するということはmで表すということとは別問題です。1mとは地球の周囲の1/4(赤道から北極まで)を1万分の1して人為的に決めた長さでしかありません。
話を元にもどします。もう1点疑問がありました。「公転周期をどうして測定するのでしょうか? 宇宙空間にしるしを付けておく訳にはいかないのに.....」ということです。これは「天球」という言葉を思い出し、納得できました。宇宙には天然のしるしがたくさんありました。いずれにしても、原理的にはどちらも測定できそうなので具体的な計算をしてみます。
太陽から惑星までの距離はAU単位で測定されているので、地球とどこかの惑星までの距離をmの単位で測定すればAUをmに換算でき、太陽までの距離をmで表現できます。これには地球のすぐ外側を回っている火星がつかわれました。方法は月の距離と原理的には同じですが、火星までは月に比べ遥かに遠いので地球の2点間のさらに広く取る必要があります。ここで、また「鳥取市さじアストロパ−ク」のデータを使わせてもらいます(詳しくは「はるかなる宇宙の広がり6.太陽までの距離 その4」を参照下さい。)。
パリ天文台初代台長のカッシーニは、1672年に、パリと南アメリカのカイエン島で火星の見える位置を詳しく観察したのです。確かに火星の見える位置が、角度で9.5秒(1度の約 360分の1)ずれていることがわかり、火星と地球の距離を計算することができました。
実際に計算はしてなかったので、計算してみました。実はこの視差を、パリとカイエン島からの視差として計算してみたのですが ( パリの緯度は北緯48度52分00秒、東経2度19分59秒。カイエン島はわからなかったので南アメリカ・フランス領ギアナのカイエンヌで代用します。北緯4度56分、西経52度20分。従って2点間の距離は7083kmとなります。9.5秒=0.00264度=4.60x10−5rad。太陽までの距離=7083km/4.60x10−5=1540x105 ) 実際と大きく異なります。いろいろ調べてみて「宇宙の広さは測れるか*1」に以下のような記述がありました。
特に1672年には、火星は地球に0.382天文単位 ( 5715万km ) まで接近しましたが、このときカシニが求めた火星の赤道地平視差は25”でした。したがって太陽視差は9”55となり、1天文単位は1億3800万kmと算出されました。
実は、鳥取市さじアストロパ−クの視差9.5秒はパリ−カイエン島での視差ではなく、太陽視差だったようです。太陽視差を9”55、地球の半径を6400kmとすると上記の計算通り地球−太陽間の距離は1億3800万kmになります。
*1 「宇宙の広さは測れるか」 吉田 正太郎 著 地人書館 出版
[2007/02/12]
恒星までの距離
一言で言ってしまうと月の距離の測定と同じようにとこれも視差を使った測定をします。ただし、地球上の2点からでは視差があまりにも小さいためこれは不可能です。ではどうするか? 年周視差というものを使います。左図をみてもらえればわかると思いますが、ある時点で測定し、半年後に再度測定すれば基本になる2点間の距離を2AUにすることができます。π を年周視差と呼びます。これで測定できる範囲が飛躍的に増大します。口で言うのは簡単ですが、実際の測定は非常にたいへんだったようです。年周視差を測定することは地動説の直接の証拠となるということで、先陣争いも大変だったようです。
この測定に初めて成功したのがベッセルです。1838年にはくちょう座61番星を4年間にわたって観測し、0.314秒角( 現代のヒッパルコス衛星の観測結果では、この恒星の視差は0.28547秒角 )を得ています。
これを( 0.314秒 )用いて計算すると
0.314秒 = 8.72x10−5度 = 1.52x10−6rad
恒星までの距離 = 1AU / 1.52x10−6 = 6.57x105AU ≒ 1.1光年
となります。
[2007/02/12]
銀河までの距離
月までの距離の測定法を調査・勉強していると、宇宙では距離的にいろいろな測定法があるようなので、只今、調査/勉強中です
[2006/08/02]