登記の話
                                    
  KAIT建築設計工房 伊東 利孝

***はじめに***
 
建物を新築したり増築したりした場合、当該建物の表示登記を行い、次に所有権の保存登記を行います。 事業用の建物は必ず融資を受けますので、さらに抵当権の設定登記を行います。
  表示登記では建物の計画上の現状を登記簿に記載します。  内容は登記簿の表題部に記載される事項を登記し、土地家屋調査士が設計図を参照の上、現状を調査しオーナー代理人として手続きを行います。
 所有権保存登記は、登記簿の甲区欄に行われる所有権の登記で司法書士がオーナー代理人として手続きを行います。
 抵当権設定の手続きは、まず抵当権者と設定者(事業主)との間で抵当権設定契約を締結し、その上で上記の司法書士が同時に行います。

***表示登記とは***
 
表示登記は、建物の物質的現状を登記簿に記載するものです。  申請書には下記の書類が必要になります。
     イ)確認申請書副本
     ロ)建築実施設計図(図面を元に現地を測量する)
     ハ)所有権証明書(工事完了検査済み証・工事完了引渡証明書・工事代金領収証など)
     ニ)住所証明書   (住民票)
      ホ)代理権限証書  (委任状)
 このように所有権を証明する書類が多いのは、表題部に所有権として登記されると、その人は直ちに自己名義で所有権保存登記を行うことができ、さらに抵当権設定登記、所有権移転登記などを行える立場になるからです。

***所有権保存登記***
 表示登記は、建物や土地の物質的現状を明らかにするだけで、登記簿本来の効力である対抗力を持っていません。 そこで第三者に対する対抗力を持つためと、その他の登記を行うために所有権の保存登記が必要になります。
 所有権保存登記が出来る者は下記の通りです。
    ヘ)表題部に自己または自己の被相続人が登記されている者
    ト)収用により所有権を取得した者
    チ)判決などにより自己の所有権を証明する者
 ほとんどの新築の場合はへ)に属し登記します。  必要な書類は下記の通りです。
    リ)住所証明書  (住民票)
    ヌ)代理権限証書 (委任状)

***抵当権設定契約と設定登記***
 
設定登記の前に、契約書の中の債権額、利息、損害金、担保提供不動産についての内容を確認することが重要です。 また登記終了後速やかに登記簿謄本を取って、契約内容と相違ないか確認することも必要です。  登記のために司法書士に預けた権利証など重要な書類は、約束通り手元に速やかに戻してもらうことも忘れてはなりません。
 抵当権設定登記に必要な書類は下記の通りです。
    ル)登記済証 (権利証など)
    オ)設定者の印鑑証明書    法人の場合は資格証明書も必要
    ワ)抵当権設定規約書
    カ)代理権証明書(委任状)

***支払いとの相関関係***
 
事業用建物の企画の場合、そのほとんどが事業用資金の融資を受けて計画されます。  融資の時期を事前に確定することで、請負契約時に支払い条件の調整をし、支払額及び時期を確定するわけです。  中間金の融資を受ける場合を除いて、最も多く融資が実行されるのが、この竣工時ということになります。
 通常、建物の引き渡しは、建築工事代金を支払い、引き渡し証明書及び鍵と交換するわけですし、鍵がなければ事業開始ができません。  上記でもわかるように、登記をしなければ融資が実行されず、その登記をするために引き渡し証明書などが事前に必要になるわけです。
 従って計画時よりこの辺の整理を行い、請負契約時に上記の矛盾点を協議しておく必要が生じます。  また、事前に書類を発行してもらうなど、協力してもらうゼネコンに出来るだけ早く残金を払う意味でも、建物の表示登記、保存登記、抵当権の設定登記をスムーズに事を運ぶことが必要になります。  通常表示登記開始から抵当権設定登記完了まで約1ヶ月程度必要です。
 この1ヶ月をどう費やすかでその後の事業開始に影響してくるわけで、設計者と協議しながら速やかに手続きが進むよう事前準備を怠りないようにしたいものです。