集合住宅専有部分のリフォーム計画のたて方
                            KAIT建築設計工房  伊東 利孝

                『ライフスタイルを見直して限られたスペースを最大利用
***はじめに***
 土地高騰やライフスタイルの変化に伴い、マンションリフォームは年々需要が拡大する傾向にあります。
 規模的には、模様替えから、間取り替えまでいろいろですが、集合住宅という点から見ると、一戸建てと比べ、近隣への配慮や予算の掛け方において違いがあります。
ここでは、スペースデザインの基本的な考え方と、集合住宅ならではの問題について考えてみました。

***(1)リフォームの必要性の拡大***
『地価高騰などでますます住み替えが困難になっていることが原因』
 一時のマンションブームに比べれば、落ち着いたとはいえ、目につくいたる所で建築中の集合住宅を見かけます。  民間の十数世帯のものから、公団、公社などのビックプロジェクトまで、それぞれ企画する側の思惑は違い、年々形を変化させ、現在も私たちに供給し続けています。
 この背景には、一時より安くなったとはいえ土地価格の問題や景気回復に向けた減税政策などが見え隠れしているような気がします。
 土地の総体価格が高ければ、都市部で一戸建ての住宅を取得するのは夢物語と化しているのが現状です。 そのため当然住宅を取得する場合、一戸建てから集合住宅へと移行していくわけです。

『子供の成長などにより必要な間取りも変化する』
 このような流れの中で集合住宅が計画されているわけです。 時代のニーズとともに一戸当たりの専有部分の面積も大きくなり、グレードなども上がってきています。
 計画者サイドから見ると特殊な集合住宅(コーポラティブ方式・つくば方式等)を除いては、計画する相手が不特定多数のため、ある程度の幅をもたせた計画となります。
 それが2DK・3DKという言われ方で表現されます。  そういう既製の形態に自分の生活を合わせる形で集合住宅を購入し生活が始まるわけです。
 当然のように当初は生活のスケールを測り、集合住宅を選ぶわけですから特に問題はありませんが、5年、10年と経つと、家族構成の変化と共に生活のスタイルが変わり、合っていたはずのスケールがずれ始めます。
 ここで初めて改装(リフォーム)という言葉が出始めるのが一般的です。  ひと口にリフォームといっても、いわゆる床、壁、天井の仕上げを変更する(新しくする)程度の模様替えのレベルから、躯体を残し、全て解体し、造り直す全改装のレベルまで条件によって千差万別です。
 ここでは全改装または、ある程度それに近い線で計画される改装にスポットをあてて話を進めたいと思います。

***(2)リフォーム計画立案の方法***
『マンションの場合、増築ができないということを再認識する』
 私たちのかかわる改装で、そこに至る理由の最も多いのが子供の成長に伴って“手狭になってきた”“物が多くなってきた”などの理由から考え始めるケースのようです。
 手狭になったといっても全体(専有部分)の面積は決まっているわけで、その分増築するわけにはいきません。  この
“増築が出来ない”というのが計画をする上での発想の原点になります。
 私たちが考える改装とは、実際にいじる各部屋のみでなく、そこで“生活するスタイル”も含めてのものを指します。  改装する際、当初購入した時点のように、出来たものに合わせて再び住まうのでは、改装する意味がないからです。  手狭になってきたら、同じ面積でより機能的に、また空間として広く見せる工夫をするというのがそのポイントになります。

『広さは面積の大きさとともに、高さの調整も大切な要素』
 この問題では、面積もさることながら天井の高さがネックとなるケースが多いようです。  特に室内を縦横無尽に走る梁型の処理方法にも、ひと工夫必要になる場合があります。 「せっかく間仕切りを取ってひと部屋にしたのに、少しも広く感じない」というようなことは良く聞く話です。
広さというのは平面的な“面積”だけでなく“高さ”も重要な関係にあります。  だからといって全ての天井をむやみに高くすれば良いのではなく、低い部分、高い部分を上手に使い分け、その中に梁型を組み込むような配置が大切です。  「低い部分があるから高い部分が生きてくる」というわけです。

         図−AKosekiRef-01.jpg (101817 バイト)     図−BKosekiRef-02.jpg (103265 バイト)

図−A・図−BはTopics-2で取り上げたK邸の家族室の天井面にスポットをあてたイラストです。 
全体の天井を全て高くしてしまう場合と、梁型を利用して下がり天井を組み合わせたものを比較したケースです。
 下がり天井を作ることにより、それ以外の部分をより高く見せるという効果の他に、そこに出来たふところを利用して間接照明や埋め込み照明を配したり、低い部分と高い部分とで色彩を変えてみることなどで、限られた面積の部屋全体に変化を与えています。

『押入を増やしても、収納物の形に合わなければ無駄になる場合も』
 物が多くなってきたとの理由については、当然のように持っている物の整理をする必要性があるわけですが、誰でも捨てきれずに持ち続けている物のひとつやふたつはあるはずです。  そのためにも限られた面積での収納計画が集合住宅での改装では重要になってきます。
 一般的に集合住宅では、当初から納戸やタンス置場が設置されているのはまれで、収納が何間の押入があるかで、多い少ないと語られるケースが多いようです。
 ただ冷静に考えてみると、押入の奥行き寸法は布団以外の物には合わないわけですから、押入ばかり多く造ったからといって、収納計画を解決したことにはなりません。
 本来収納計画のポイントとは、物をしまい込む場所を多く確保するというのではなく、すぐ使い得る態勢で、それぞれに相応しい場所を確保することだと思います。  どちらにしても生活のスタイルがあって、それぞれが決定されるわけですから、自分の生活スタイルを発見し、上手に計画したいものです。

***(3)施工時の留意点***
『壁一枚隔てたところに第三者が住んでいることを忘れずに』

 集合住宅の場合、そのほとんどに管理組合と称する、その建物で住まうことを管理運営し、維持管理していく組織があります。  そこでは改装に当たっての制約を設けているケースもみられますので、計画に際して事前に確認する必要があります。
 具体的には、工事期間、工事内容、工事時間等々で、共同で生活を営んでいるがゆえの条件付けがなされます。  また、マンションによっては譲渡契約の際に、将来にわたって位置を変えてはいけないゾーン、例えば縦の配管スペースにからむ設備関係諸室などをうたっている場合もありますので、これもまた、事前に確認が必要となります。  この辺が全ての責任は自分で処理すればいい戸建住宅との大きな違いです。
 工事期間中も壁ひとつ隔てたところで、第三者の生活が営まれているわけで、制約とは別に、工事する側の配慮が、スムーズに工事を進める上でも必要不可欠となります。

***(4)工事の出来る範囲と問題点***
『水回りの移動は上下階との関係から排水管の位置で決まる』

 当然のように改装できる部分とは、契約上の専有部分とうたわれている部分のことで、主体構造(各スラブ・柱・梁)を除くその内側の部分ということになります。 外壁、バルコニー、外廊下、PS(配管用パイプスペース)などは共有部分となり、改装に当たって個人として手をつけることの出来ない範囲です。  また最近の傾向として窓サッシも共用部分に指定している管理組合も多くなってきており、事前の確認が必要です。
 専有部分にあるけれども手をつけられないもが他にもあります。  それにはPSへの給排水接続口などがあげられます。  便所、厨房セット、浴室ユニットなどは位置を変えることは可能ですが、給水管はともかく排水管は最終的に既設の接続口に接続しなければなりません。
 つまり、水回りを移動できる範囲とは、各排水管が自然流で、この接続口に流れる範囲ということになり、PSの位置と微妙にからみあい、改装に当たって配慮が必要です。

『給湯器を取り替える場合、共用部分を利用できるかがポイント』
 また、それに伴って気をつけなければならないものに給湯計画があげられます。  これは改装に至る年月が購入後約10年程度の時期が多く、従って設備的に、ひと昔前のものが使われているからで、改装にあたり当然能力のバージョンアップが要求されるからです。
 多く見られるケースとして、室内に設置されているバランス型の給湯器を、現在主流の屋外設置型に変更するというケースです。  この場合、専有部分(室内)にあった給湯器をバルコニー、共用廊下などの共用部分に設置することになるため、事前の確認が必要になります。  一般的には外壁などに、配管用スリーブ(配管用の壁穴)を新規に開けるのは不可、既設スリーブを利用できる場合は可、といったケースが多いようです。

『電気容量は建物全体で決まっているので、安易に増容量できない』
 電気容量(戸別契約アンペア)の問題は共有部分というより建物全体とからみ合う重要な問題です。  現在、過剰設備といわれるぐらい家中の設備がオートメーション化されていますが、これらは全て電気と接点があります。  また、IT化に拍車がかかり、パソコンやインターネットも一家に一台ではなく、ひとりに一台の時代に入りつつあります。
 そこで、それらを導入するにあたり現在の電気容量でまかないきれなく
なるケースがよくみられます。  その時点で契約電気容量を上げればよいと安易に考えている方が多いようです。
 しかし集合住宅の場合、建物全体で必要容量を設定して引き込んで、それから各住戸へ分配していますので、その容量に余裕がある場合は別ですが、それぞれの住戸で勝手に契約容量を上げると、当初考慮されたバランスを崩すことにつながるわけです。
 最近建築された建物は割合余裕がある設定をしているようですが、建築年数が経てば経つほど各住戸の設定容量の余裕が少ないようです。  従って設定容量の小さい建物ほど、他の住戸におよぼす影響が大きくなると考えられます。
 以上のように改装にあたっての設備的な変更は建物全体と大きな関わり合いをもっていますので、計画にあたって綿密な事前調査が必要になります。

          KosekiRef-03.jpg (81314 バイト) 【計画から工事着手までの手順 図−C】

***(5)工事費とその予算のたて方***
『解体工事終了後に、計画・見積もりの調整が必要になる場合も』
図−Cは改装を計画した場合、工事着手までの一般的な流れを示したものです。  これを見てもわかるように、計画と見積もりが2回でてきます。  既設建物のしっかりとした設計図書があれば別ですが、古い建物の改装計画にあたっては、ほとんど資料がないのが現状です。
 つまり、目で確認できる範囲での改装ならともかく、ある程度以上の改装では、現場の解体が終了した時点で若干の計画の調整が必要となるケースが多々あります。
 例えば、取れると思っていた壁が構造壁のため取れなかったり、その逆だったり、思わぬ所に配管スペースがあって、計算通りに部屋などが配置できなかったり、等々・・・・。  予測出来ないことが結構出てきますし、それら全てが工事費の増減に跳ね返ってきます。
 従って解体工事終了後に、金額の増減を伴う計画の調整が発生することも、頭の隅に留めておかなければなりません。  そのために、ある程度幅をもたせた資金計画が必要になります


『階数や建物近辺の道路状況で搬入・搬出のコストが変わる』
 また、一般的に階が上がるほどコストが上がるとされています。  その理由として資材や残材の搬入、搬出に階が上がるほど手間が多くかかることがあげられます。
 外から搬入できる一階はともかく、それ以外の階は階段やエレベーターの幅、奥行き寸法が搬入搬出物に影響を与えます。  最近資材搬入はエレベーターを使用してもよいが、廃棄物など残材はエレベーターは使用できない、という集合住宅もでてきています。
 搬入に際し特に箱物のキッチンユニットや造作家具などは小さく加工した状態で搬入し、現場で組み立てる方法がとられるため、やはり手間に跳ね返ってきます。
 搬入、搬出経路は事前調査の段階で設計者としても、かなり神経をつかう箇所です。  集合住宅の改装計画の場合、全てがここからスタートするといっても過言でないくらい、重要なポイントです。
 つまり、意匠的なスケール(デザイン上の最大寸法)に影響があることはもちろんのこと、そのスケールが前述のようにコストにすぐ跳ね返ってくるからです。
 そのために全体の予算組をする段階で、その辺を留意して予算配分し、内部仕上げや設備システムのグレードなを決定していきたいものです。

『解体工事もリフォーム予算の大きな部分を占めることを忘れずに』
 予算配分の段階でとかく忘れがちなもののひとつに解体工事があります。  いざ改装という段階まで計画が進んでくると、建主のほとんどが空調機、システムキッチンなどの設備機器類や床、壁などの仕上げ材など、目に触れる部分に神経が注がれ、当然のようにそこには十分な予算が組まれます。
 気がつくと予算のほとんどがそこに費やされ、目に触れない準備段階で必要な工事に関しては意識が伴っていないのが現状です。
 解体工事は、ある程度のレベルの改装工事では必ず発生します。  また建物の性質上、解体に機械類が使用できず、そのほとんどが人間の手で壊すことになります。  それが、当然のように手間賃に跳ね返ってくるわけで、前述の搬入、搬出経路の条件によっては、さらに費用がかさむことにもなりかねません。
 とにかく忘れがちな部分ですが、全体の計画に最も影響を及ぼす部分かもしれません。

『自分たちのライフスタイルを確認し、より自分らしいリフォームを』
一戸建ての住宅と違い、集合住宅の場合、冒頭でも述べましたが増築することができません。 
 収納スペースを増やせば、その分、居室のスペースが減ることなどは当然のことですが、絶対面積に関して意識から外れてしまうことも多々あります。  又、改装計画にあたり、他の事例と比較して良い悪い、高い安いなど、右往左往してしまうケースも多く見受けられます。
 改装計画にあたり、 自分たち家族のライフスタイルを再確認することが重要で、且つそこに住み続けたいという思い入れが、限られた面積の中で、何か可能性を発見する要因となっていることを忘れてはならないと思います。