【住まいと防音対策・改装編】
                              KAIT建築設計工房 伊東 利孝

 今回、東久留米市のWさん、練馬区のOさんから防音対策についての質問の投稿がありましたので「住まいの防音対策・改装編」ということで考えてみました。
尚、練馬区のO邸は私どもの事務所で改装計画をしましたので、改装事例として改めてご紹介いたします。

***音の性質について***

 広く知られているように室内で音が発生すると、空気の波動により、音は室内の上下左右に広がっていきます。  この広がった音は、それぞれ床、壁、天井にぶつかり、その一部は反射し室内に残り、また一部はそれぞれ床、壁、天井に吸収されます。
 この吸収された音が、それぞれ床、壁、天井を伝わり反対側へ達し、また新たな音として広がっていきます。  これを音の透過現象といい、音の問題の最も基本的なところです。  音の大小はともかく、この床、壁、天井に吸収される音と、反射され、室内に残る音とのバランスの良い部屋が、快適な生活を送るための条件でもあるわけです。
 もし全ての音が床、壁、天井から反射され室内に戻ってきたとしたら、自分の両耳にメガホンを当てられ、わめき散らされているような状態になるでしょうし、逆に全ての音が床、壁、天井に吸収されたとしたら、静かすぎて落ち着かない状態になることでしょう。
 室内に音の響きが残る時間が多い状態を「ライブ」な状態といい、逆に少ない状態を「デッド」な状態といいます。

***楽しい音と騒がしい音***
 私たちの生活の中には必ず音が存在するわけで、ピアノやCDなどの音に代表されるように、聞く人によって「楽しい音」にも「騒がしい音」にも聞こえるところが、音の問題の一番やっかいなところです。  ピアノ音楽の好きな人やピアニストを目指して毎日ピアノに向かっている人にとってはピアノの音はその人の生活の一部で、いっこうに気になりませんが、その隣で静かに暮らしたいと願っている人にとっては、ピアノの音はさぞかし耳ざわりなことでしょう。
ステレオ、テレビなどなど、音を発生させるもの全てについて同じことが言えるわけで、これらを完全に解決するためには、全く外部に音を漏らさないようにするか、地域ごとに趣味の同じ人を集めて生活するなど、非現実的な結論になってしまいます。

***集合住宅(アパート・マンション)の場合の問題点***
 壁ひとつ隔てて人が住み、そこにはそれぞれの生活があるわけで、かならず音が存在します。
音が発生すれば先に述べたように、自分の感覚によって、楽しい音にも騒がしい音にも聞こえてくるわけです。  マンション、アパートなど集合住宅で一番問題になるのが上階の物音、排水時の音などで、続いてテレビ、ピアノなどの音です。
 木造アパートの場合、そこに、その建物の存在する意味を考えた場合、その問題点がある程度定義づけされます。  それは、その建築費をその家賃で計算し、何年で償却できるかと、オーナーの誰もが一番はじめに考えるからです。
 すなわち、出来るだけ安く建て、出来るだけ高く貸すという商売上の絶対条件がそこに存在するからです。  建築費が削られれば当然細かい部分への配慮が少なくなり、特に併用住宅として、その建物の一部を自分の住まいとして使用している場合や、これから使用する場合に、自分たちの生活の快適性にしわ寄せがくるわけです。
 現在木造のアパートの場合、防音、防火などの面から各戸の仕切に界壁を設けることが法令で義務づけられていますが、これらで各住戸を仕切るだけでは十分といえませんし、建築費の問題などから、その規制されているはずの界壁すら無い場合が時に見受けられることがあります。
 高層マンションの場合も同様に、建物の存在する意味に左右されるの場合が多いでしょう。
賃貸マンションの場合は前者の場合と同じ条件がそこに当てはまります。  分譲マンションの場合には、そこに与えられた敷地条件の中で、最大限の面積を確保するという計画がたてられます。  分譲価格と建築費の関係を考えたとき、必然的にそうならざるを得なくなるわけです。
そこで、その計画のしわ寄せとしてよく見かけるのが、各住戸の室内の高さが低く押さえられ、梁型が部屋の四隅に陣取って、何かで頭を押さえつけられているようなケースです。  こういう建物は、仮に5階建てでも、通常ゆとりのある建物の4階ちょっと程度の高さしかないという具合です。
従って、当然のように各階の通常「ふところ」といわれている部分が非常に少ないわけです。
 以上のように、建物の形態も防音を検討していく上で、忘れてはならないポイントのひとつでしょう。  これらのことをふまえた上で集合住宅に住んだとして、クローズアップされてくるのが、空気伝播音と、固体伝播音です。  
 読んで字のごとく、空気伝播音とは発生した音が空気中を伝わってくる音、固体伝播音とは発生した音がその建物の構造体を伝わってくる音のことです。
 先に述べたピアノ、CD、ラジオ、テレビなどの音が空気伝播音の代表的なもので、上階での床への衝撃音、排水時の音などが固体伝播音の代表的なものです。
 空気伝播音の場合は、発生させる側の気配りと各戸の自衛手段で幾分解消されますが、固体伝播音の場合は深刻な問題のひとつです。
 構造体が鉄筋コンクリートや鉄骨の場合、それ自体が音を伝えやすい性質のため、建築の際、防音に対しての留意が必要になります。  特に高層建築の場合、配管スペースのように縦のつながりの構造となり、配管スペースを中心に各戸が構成されているといっても過言ではありません。  そのため上階から排出されたときの水音やそのまわりで発生した音(洗濯機などの音)は下階の同じ配管スペースを使用している住戸へ、必然的に伝わる仕組みになってしまっています。

***集合住宅改装時の防音対策***
 集合住宅では以上のようなことが通常良く問題になるわけですが、それらをふまえた上で改装時の防音対策について考えてみましょう。
 木造アパートでその一部を自分の住まいとする場合、そのスペースが上階にあれば問題は少ないのですが、自分の住居の上階に賃貸部分があったり、左右にある場合は一考の余地があります。 
 今回、質問を投稿されたお宅(Wさん・東久留米市)はご自身は2階に住まわれるわけで、問題も少ないですが、お母様が賃貸部分に隣接してご自身の部屋があるため、慎重に計画を進めたいものです。
 左右に賃貸部分がある場合、その仕切られている壁廻りがやはり最大のポイントになります。 界壁が法令で定められている構造や範囲で設置されているかチェックし、さらにその内側に押入や物入れなど収納スペースなどを配置し、極力居室同士を並べることをさけるべきで、仮に居室同士が並んだ場合は、界壁の内側にさらに壁を設け、間に吸音材を挟んだ二重壁構造とするのも、防音効果を上げる方法のひとつです。
 上下の関係の場合は現況上階の床が畳やじゅうたんなど吸音声の高い物が施されていれば、下階住居部分の天井内を吸音材で挟んだ二重天井構造とすることも、音の伝わりを防ぐのに効果があるようです。
 高層分譲マンションでは、前述のように建物の形態から問題になるケースが多いようです。  従って各戸の問題というより、建物全体としての問題が多いので、音の発生源を追求してみるのが第一のポイントになるでしょう。  それは木造アパートに比べて、それぞれの住居部分は機密性はある程度確保されている場合が多く、床、壁、天井からの音の透過現象は少ないようですが、反面、構造体自体が音を伝えやすい性質を持っているからです。
 上階で発生した人為的な音(歩くときの音、物を落とした衝撃音など)は、まずその発せられる箇所の仕上げに原因があります。  共用部分の廊下は、そのほとんどがモルタルやタイル仕上げです。  クッション性のある化粧防水剤で仕上げることにより、音の発生を抑える効果が認められています。  自分がオーナーであれば、室内の床の仕上げもフェルト付きじゅうたん、コルクタイルなどを選択し、フローリングの場合でも遮音性の等級を確認の上その仕様に則った施工をし、さらに床下地とスラブコンクリートとの間に吸音材を挿入し、ある種のパッキンの役目をさせると、かなり効果があります。
 集合住宅の場合、要は音の発生源と構造体であるコンクリート、鉄骨などとを、直接接触させないよう留意することがそのポイントとなります。

***一戸建て木造住宅の場合***
 次に一戸建て木造住宅における、防音対策について考えてみましょう。
集合住宅の場合、壁ひとつ隔てたそこに、まったく生活サイクルの違う家族が生活しているため、神経質なまでに建物の中の各区画の遮音、吸音がクローズアップされますが、一戸建ての住宅の場合、そこにはほぼ同じサイクルの人が生活しているのが普通ですから、増改築時にオーディオ室やピアノ室など専門的な部屋を設けることを除けば、ある程度部屋どうしの音の進入に対しての許容範囲は広いようです。  そこで増改築時には外部からの音の進入をできるだけ防ぐ、内部からの音をできるだけ外部へ出さない、という点がポイントになります。
 防音とは通常、遮音と吸音との相反する性質のバランスの良い組み合わせにより、その効果を発揮することができます。  遮音とは発生した音を反射させ次の空間への音の進出をを防ぐことで、吸音とは発生した音を吸収し、音自体のエネルギーを減少させる性質をいい、それらの性質を備えた材料を、それぞれ遮音材、吸音材といいます。  一戸建て住宅の増改築の場合には外部音の発生源に近い屋根、外壁に遮音性の高い材質を多く使用し、室内側には吸音声の高い材質のものを使用するのが一般的です。
 今回、質問を投稿されたお宅(W邸・練馬区)の屋根材、カラー鉄板瓦棒葺きは、その上から直接被せることの出来る屋根材を用い仕上げ、予算にもよりますが外壁も同様な工法で建材の採用で、遮音性能を高め、その効果を得ることができます。
 又、外回りの建具類も木製サッシからアルミサッシ、その中でもエアータイトタイプを採用し、薄いガラスから厚いガラスへ、時として二重サッシとするとその効果を増します。  最近は各メーカーでカバー工法と呼ばれる製品もあり、既存のサッシ枠を利用して多角的な要求にも対応できるようなものも出てきています。
 これらはそれぞれの立地条件により、遮音に対する許容範囲が違うわけで、幹線道路などに隣接している場合などは、今述べた一般的な方法の上にさらに密度(比重)の高い材料で外壁に面する壁を内側からくるみ、間に空気層を設け、さらに遮音材、吸音材を組み合わせた防音壁を設ける、二重壁構造が必要になります。

***二世帯住宅への増改築***
 ひとつ屋根の下で同じサイクルの人たちが生活を営んでいても、夫婦がいて、子供が生まれ成長し、やがて結婚するというぐわいに、それぞれの年齢と共に生活にも変化がでてきます。
そうなると、子供部屋や老人室を増築したり、親子2世代が生活出来るよう増改築したりする場合が出てくるわけです。
 こうなると、ひとつ屋根の下でも、まったく別の生活がそこに存在するわけで、やはり各部屋どうしの防音対策も必要になってきます。  二世帯住宅場合、横の関係での増築では、極力同じ目的に利用する部屋(居間食堂Aと居間食堂B、寝室Aと寝室Bなど)どうしを隣接させるようにプラン的な努力をした上で、前述の集合住宅ほどではないにせよ、それぞれの壁、床に対する、ひと工夫が必要になってきます。
 上下階の関係の場合は、水回りの音の発生を伴うスペースを、できるだけ上下ひとつの部分に集めるように心がけた上で、前述の防音対策が必要になってきます。
 二世帯住宅の場合、お互いの生活を尊重することが基本ですが、その上で防音に留意して快適な生活を営みたいものです。

 私たちの生活は年々複雑化し、それらを取り囲む地域社会もしだいに過密化してきてきています。  その中で発生する音も、当然のように複雑化してきているわけで、その中の不快な音を取り除く意味で、また不快な音を発生させない意味でも改めて防音、遮音に対する正しい知識を身につけるよう、心がけたいものです。