第4号(18ヶ月目)
1995年 6月 6日提出
業務内容
私の担当する業務はカンボディア観光省(MINISTRY OF TOURISM)の PLANNING AND PROMOTION DEPARTMENT の内のひとつである STATISTICS OFFICE の業務のサポートが主である。この他にも例えば PROMOTION OFFICE からの依頼で日本語の案内用パンフレットを作成したりすることもあるが、メインの仕事は統計業務のサポートとコンピュータのトレーニングとなっている。
統計業務については、実は前回の3号報告書の時からほとんど何の進歩もない状態である。
前回の報告書で、95年には出入国者数のデータが、内務省から直接フロッピーディスクに納められた形で送られて来る予定だと書いたのだが、蓋を開けてみると半年経った今でも相変わらず内務省が独自にまとめた「紙」のデータを基に、CIVIL AVIATION AUTHORITY(民間航空協会?)のデータを照らし合わせて修正を施して発表している状態である。
このようになっている詳しい内部事情については私もはっきりとはわからないのであるが、カウンターパートのチャンター(Mr. TITH CHANTHA)などの話によると、空港の係官がコンピュータを使いこなせないため、出入国管理のデータがコンピュータのデータベースに入力できていないのではないかとのことである。私も空港を利用した時などに出入国審査の窓口を覗いたが、たしかにコンピュータは使われていない様子であった。
また別の見方をすれば、内務省としては出入国統計のためにコンピュータを使いたくないのではないかとも考えられる。もしも内務省が毎月発行している出入国レポートに何等かの細工がされていた場合、データベースからオンラインで他の省庁にデータが行ってしまうとなにかと都合が悪いからである。これは穿った見方かもしれないが、内務省からのレポートによると、ここ一年以上にわたって必ず入国者の数の方が出国者の数よりも少ないというのはやはり不自然である。また、民間航空協会の数字と比較した場合、出国者の数はそれほど違わないのだが、入国者の数は二割ほど少ない場合が多い。これらのことから考えると、やはり内務省が出入国統計レポートを作成するにあたり、何等かの操作がなされているように思う。
しかし、それがわかっていてもこちらからはなかなか指摘できないのが辛い点である。内務省と比較してしまうと明らかに観光省の方が立場が弱く、下手な対応をするとそんなデータでさえも受け取れなくなってしまう可能性がある。実際に、昨年の夏ごろ副大臣が内務省の担当者に、面と向かって「内務省はビザ代を着服している」と指摘して大騒ぎになったことがある。この副大臣はフランス帰りで、カンボディアのこうした硬直したシステムに頭がきたのはわかる。しかし、どうもこのような方法はカンボディア人の考えにはそぐわないようなのである。
今後の展開の可能性であるが、最近内務省から観光省で作成している観光統計に関する質問があった。観光統計の出入国者の数字が、内務省の渡しているレポートの数字と違うのはいったいどういう訳かということである。もっともな質問である。そこで、六月に観光省や内務省などの統計の担当者を集めて、統計業務に関するミーティングが開かれる予定になりそうとのことである。
このミーティングでうまくすれば、他の省庁との横のつながりを緊密化して、信頼性の高い統計を作成していくための足掛かりができるかもしれないとチャンターは話していた。彼はまた観光省・内務省・大蔵省・計画省などの統計担当者で、定期的に連絡会議を開けるようになることを当面の目標としている。このような場でコンピュータを使うことの重要性を納得させることができれば、各省庁で分散しているデータの共有化を図ることが可能になる。
また、これとは別のアプローチとして、現在UNDP(国連開発計画)やADB(アジア開発銀行)が内務省にたいする支援を行なっており、彼らのコンピュータトレーニングが順調に進めば、出入国統計のデータベース化は難しいことではない。当面の課題は端末を使うスタッフへのトレーニングよりも、データベースを管理できる人材が内務省の中で育つかということである。
前回のレポートでは統計データのデータベース化について楽観的な見方をしていたが、現実はやはりそんなにうまくいかないものである。とは言え、流れから見てそう遠くない将来、出入国統計のデータベースを使えるようにはなると思うので、来るべきその時のためにデータベースソフトの扱いや観光統計にかかわる統計手法について、トレーニングを続けていく考えである。
それで、もう一本の業務の柱であるコンピュータトレーニングであるが、昨年の10月24日から始めたコンピュータトレーニングは、現在は一通り課題を終了して個人的な復習を行なっている。これまでに行なった課題は、コンピュータの基礎的な扱い方、簡単なMS−DOSの知識、ウィンドウズの基本的な使い方(プログラムマネージャー、ファイルマネージャー、ファイル操作など)、ブラインドタイピングの練習、ワープロ(MS−WORD 6)である。ここまでは統計オフィスと隣のプラニングオフィスのスタッフ(合計14名)に教え、その後表計算ソフト(MS−EXCEL 5)については統計オフィスのスタッフ(9名)に教えた。
人数が多い割にコンピュータがノートパソコン一台しか無く、一人一人が十分に触れながら練習できなかったのが残念であるが、積極的なスタッフは自分なりに吸収してそれなりに使いこなせるようになったようである。完全にマスターできなかったスタッフも、キーボードの配置と基本的な使い方は覚えることができたので、これから業務上の必要性に迫られて使うようになれば、おいおい使いこなしていくだろうと思う。
現在は統計オフィスのスタッフを中心に、クメール語のキーボードの練習とクメール語での公文書作成の練習をしている。さすがに母国語とあって複雑なキーボードながら覚えが早い。
今後はカウンターパートのチャンターと一緒にデータベースソフトであるMS−ACCESSの練習をしていく予定である。実は私もデータベースに関してはそれ程詳しくなく、まさしく鬼門なのである。データのテーブルや入力用のフォームの作成などはわかったのだが、最終的に統計レポートを作成するにはどうするのが良いのか、未だ悩んでいるところである。
私は日本の観光統計業務がどのように行なわれているのか詳しく知らないので、システムや手法の違いについて多くを述べることはできないが、わかる範囲での違いで言えば、データ処理用に大型のメインフレームではなくパーソナルコンピュータを使っているのがまず一点。そしてソフトウェアとして専用の統計処理パッケージではなく、汎用のデータベースや表計算ソフトを使っている事が二点目である。
また細かいことを言えば、日本では出入国統計を管理しているのは運輸省であるが、カンボディアでは内務省がこの業務を担当している。
この国の統計データは全般にまだ信頼性が低いので、そのデータがどの程度使えるものなのか常に認識しておく必要がある。また信頼性の高いデータを確保するために、様々なデータソースと良好な関係を保つ事が重要となる。現在の私の業務で言えば、内務省及び民間航空協会が一番重要なデータソースであるが、今後はホテルや旅行代理店などからも随時データを集める事になるであろう。定期的にデータを吸い上げるシステムが整備するまでにはまだかなり時間がかかると思われるが、問題を解決するには根強く残る不信感を払拭する必要がある。
また、業務とは直接は関係が無いが、カンボディアの役所はどこでも二つの政党が常に凌ぎを削りあっている。業務上、ある一方の政治勢力を中心にサポートを行なうと、どうしてももう片方のグループとは折り合いが難しくなってしまう。完全に中立を保つのは難しいが、自分の立場が今どのようになっているか、常に足元を確認する事が求められる。
昨年の支援経費にて購入したノートパソコンは、様々なトラブルに見舞われつつも日々の業務に活躍している。現在の使われ方としては、午前中に統計オフィスでのスタッフのトレーニング用として使用し、午後は自分の業務としてデータベースのアプリケーションの準備や、あるいは来客があった時のプレゼンテーション用に使用している。
10月24日から始めたコンピュータのトレーニングで教えたスタッフの数は延べ16人で、11月いっぱいまでは統計オフィスとプラニングオフィスの十人に、コンピュータの扱い方、MS−DOSの基本、ウィンドウズのプログラムマネージャー、ファイルマネージャーの使い方などを教え、その後キーボードタイピングの練習ソフトを使ってブラインドタイピングの練習を行なった。十人のうちの二人は途中で部署がプロモーションオフィスに変わり、午前中に時間がとれなくなったので脱落してしまった。
12月に入ると新たに新人スタッフが6人入ってきた。この6人にたいしては前からいるスタッフと進み具合が違うため、新人スタッフについては午後に同様のレッスンを行なった。午後組は一回授業をやってコツがわかっていたので、教える方としてはだいぶ楽であった。
12月中はキーボードの練習を中心に行なった。かなり個人差はあったものの、最終的にはほぼ全員がキーボードを見ずにタイピングできるようになった。タイピングスピードは速い人で一分間に150文字ほど、遅い人だと50文字ほどとかなりばらつきがある。全体的に上達の早いのは女性で、私が作ったキーボードの表を家に持ち帰り、閑な時間に紙の上に指を置いて練習をしていたようである。こういうスタッフが一人でもいてくれると、全体を引っ張る原動力になってくれる。なにしろカンボディア人は結構負けん気が強く、他の人が先に進むと負けまいとして必死になってくれるからである。
1月に入り、任国外に出発した2月中旬までは、新しいスタッフも一緒に交えてワープロの使い方の練習をした。毎日必ずしも全員が参加したわけではないが、常時8人以上が一台の小さなコンピュータの周りを取り巻いていた。14人全員が来てしまうと、逆にこちらが困ってしまうのである。新しい課題に入る時は、画面の簡単な説明を記したコピーを配り、ホワイトボードでおおざっぱなやり方を説明し、後は実際に一人一人にやってもらって体で覚えてもらった。最初に飲み込みの早いスタッフに説明をし、次にそのスタッフが別のスタッフに説明するというのを基本にした。クメール語で全てを理解してもらうのはなかなか難しいことだった。いろいろと細かいことも教えたのだが、どうやら基本的なレイアウトの仕方と、文書の印刷や保存などはマスターしてもらえたようである。
私はこの時点では全て英語を基本として教え、練習用に使う題材も全て英語の文書だったのだが、今考えると初めからクメール語の題材を使った方がはるかに飲み込みが早かったように思う。クメール語はさすがに母国語だけあって、私から見ると非常に複雑に思えるクメール語のキーボードも、彼らはほんの二週間ほどでマスターしてしまい、ちょっとアドバイスしただけで普通の公文書が作成できるまでになった。これは私の見込み違いであった。
任国外から帰ってからは、二週間ほどにわたって統計オフィスのスタッフの9人に表計算ソフトの使い方のトレーニングを行なった。この講座ではエクセルの全てをマスターすることを目標とせず、業務上必要な最低限の使い方だけを練習するに留まった。統計オフィスのスタッフのうち、実際にコンピュータでデータプロセッシングを行なうのはたぶん二人ぐらいになると思うので、あえて全員が高度な機能の全てをマスターする必要はないと考えたからである。既に新人スタッフの一名は毎月の統計レポートの作成に携わるようになり、今個人的なトレーニングをカウンターパートのチャンターが行なっている。
現在は特に決まった課題は定めず、今までに練習したことのうちで自分が必要だと思うことを練習するようにしている。スタッフが勝手にコンピュータを使い、わからないことがあると私に聞くというのが今の状況である。これまでのトレーニングの結果「コンピュータが使えるようになった」と言えるようになったスタッフは、私の見る限りでは4、5人ほどである。もう少し効果的なカリキュラムを組めばもっとみんなが使えるようになったのかもしれないが、なにしろ実際にコンピュータを触れる時間が少なすぎたのが一番の敗因である。業務上の必要性に迫られて毎日コンピュータを使っていれば、もっと多くのスタッフがマスターできたのではないかと思う。
今後の課題としては、コンピュータを使えているスタッフ四名ほどにたいして順次データベースの扱いについてやっていきたいと考えている。何とか三ヶ月ほどで実際の業務に即した運用ができるようになればと考えているが、データベースはワープロなどに比べるとかなり抽象的な概念が多く入り込んで来るので、わかりやすく説明していくのはかなりの難題になるように思う。
その他のプロジェクトとしては、前回の報告書で「旅行者にたいするアンケート調査」、「各観光地でのホテルの調査」、「現地旅行代理店における扱い客数の調査」などの実施を計画したのだが、今のところそれらのどれもなされていない。観光省の予算的な裏付けがとれていないことがその一番の原因である。現在観光省の予算はほぼ凍結状態にあり、新しいプロジェクトの実行にはまだ暫くの時間がかかると思われる。これらのプロジェクトのうちで最も現実味があるのは旅行者にたいするアンケート調査であり、現在は10月の実施を目処に準備を進めているところである。この調査の一番の目的は Tourism Revenue(旅行産業収入)の算出であり、なるべく多くのサンプルを獲得できる調査表の作成を目標にしている。
今年度の支援経費については使用するかどうか今のところ決まっていない。統計オフィスでの業務用に使うコンピュータについては、観光省の予算で購入する予定にはなっていて、五月の下旬に購入すべき機種や使用すべきソフトウェアの選定を行なったのだが、相変わらず実際の購入にはいたっていない。現在は一階のUNDPのオフィスにあるコンピュータを業務用に使用できるので、当面はこのままの状態でやってもらうより無い。支援経費で新たにコンピュータを購入することについては、あくまで慎重に対応していきたいと考えている。
カンボディアの伝統的な家屋は木造の高床式である。今でもプノンペンからちょっと外れればこのような造りの家が多いのだが、プノンペン市内ではコンクリート製の家が圧倒的に多くなっている。プノンペンでは材木を地方から運んで来る必要があるため、コンクリート造りに比べてコストがかかるのだそうである。それと首都では治安上の不安があるため、頑丈なコンクリートの家の方が好まれるそうである。
木造とコンクリートと、住んでどちらが快適かと言われれば、やはりこの国の気候では木造の方が快適である。木造の家は風通しが良く、コンクリートのように昼間の熱を吸収しないので過ごしやすい。コンクリートの家は四月、五月の一番暑い時期には、壁も床も昼間の熱を吸ってホカホカになっていてとても眠れない。今の時期でも夜は家の中よりも外の方がはるかに涼しい。
家を建てるのにかかる費用は、たとえカンボディアといえども首都は高い。幅4m、奥行き10mの二階建の家を建てた場合、土地代を除いて約2万ドルするという事である。四部屋ぐらいの平屋の家(ヴィラと呼ばれている)だと1万ドルちょっとだそうだ。土地代は建物よりも更に高く、場所によってかなりばらつきはあるものの、街の中心では40uで3万ドルぐらいするそうである。この値段はプノンペンの周辺部とか、別の地方になるとぐっと安くなるそうだ。家を持つのはやはり大変である。
「衣」については私は詳しくないのでよくわからない。男の格好は普通のズボンに普通のシャツでこれといった特徴はない。家でリラックスする時にはクローマという木綿製の長さ1mほどの布を腰巻にして着ている。上半身は裸である。この格好がカンボディアらしい。家の前を歩く時もこの格好で平気である。ちなみに下にはパンツをはいている。女性の服装については女性の方が詳しいであろう。
カンボディアの料理はあまり辛くない。たしかに多少辛い料理はあるし、辛い味付けが好きでたくさん唐辛子を入れて食べる人はいるが、タイやマレイシアのように元々辛い料理というのはあまりお目にかかる機会が無い。これはちょっと不思議な事である。大体暑い国の料理は辛いものと相場が決まっている。しかし、カンボディアにはタイのトム・ヤムのような辛いスープも、グリーン・カレーのような辛いカレーも無い。カレーは多少スパイスが効いているが、ココナッツミルクがたっぷり入っているのでどちらかというと甘いぐらいである。
それがどうしてなのかはまだ私にはわからない。クメール人に聞いたところでは、要するに唐辛子に慣れていないからだという。また、辛いものを食べ過ぎると目が見えなくなったり、あるいは腹を壊すからだという人もいる。昔からカンボディアではあまり辛い料理を食べる習慣が無かったのか、今度じっくりと調べてみたいものである。
私は辛い料理が比較的(比較的)好きなので、その点ではカンボディアの料理はちょっと物足りないのだが、味付けとしては日本人の口に合うものが多いと思う。特に家庭料理は市場の惣菜や飯屋の料理に比べるとはるかにおいしい。
味付けは全般に淡白で、濃い口の味が好みの人は自分で醤油や魚醤などを振り掛けて食べる。醤油は日本のものよりも薄口だが、日本と同じく大豆から作っている。大豆から作った味噌もある。そして欠かせないのが酸味である。初めの頃はパイナップルをおかずにご飯を食べるのには違和感があったのだが、今では酸味の無い料理ばかりが並ぶと食が進まなかったりする。酸味の元になるのはミカンのような柑橘類だったり、青いパパイヤやパイナップル、熟してないトマトなど様々な材料を使う。
最近食材で気に入っているのは豆腐とプロホックである。豆腐は日本の豆腐と同じだが、昔の豆腐の味がして非常においしい。かすかな苦みがありとてもジューシーである。豆腐と海苔のさっぱりしたスープなどは、暑くて食欲の無い時には最高である。冷やして冷奴で食べられないのが惜しまれる。
プロホックは日本で言う塩辛のようなもので、魚を塩漬けにして三ヶ月ほど寝かせたものを料理に使う。小魚から作ったものは非常に臭いのだが、今家で出て来るのはシェムリアップというアンコール・ワットのある街で作られた特産品で、匂いはそれほどきつくなくてコクがあっておいしい。日本人は塩辛やくさやといった臭い魚料理に慣れているから食べられるのかもしれない。食べ方は軽く塩抜きして豆などと和えたものを白菜やキュウリと一緒に食べたり、バナナの皮に包んで焼いて食べたりする。カレーのように煮込んだものもおいしい。
二つの文化の相違点を単に拾い上げたところで、それが特にどういう意味のあるものでもないとは思うのだが、残念ながらそれを更に突き詰めて比較文化論的に論じれるほどの資料が今ここには無い。
何か共通の土壌があるとすれば、それはお互いにアジアの国であり、大きな意味での仏教の影響を受けているという事である。似ている点をあげれば、社会の縦の関係が強いとか、家に入る時には靴を脱ぐとか、会議が無意味に長くなりがちであるとかいろいろとあると思うのだが、それらはどちらかというとこの地域に共通の属性という気がする。
同じ仏教でも日本の仏教とカンボディアの仏教ではかなりの隔たりがあり、しかも日本人の宗教観はそれだけで本が一冊書けてしまうほど複雑なものなので、ここではあえて日本との対比はしない。
カンボディアの宗教は国民の大多数がテラヴァーダ仏教、いわゆる小乗仏教を信仰している。カンボディア人の信仰心は篤いようでもあり、そうでないようでもあり、今の私にはまだよくわからない。宗教というのはその文化のかなり根っこの方にあるものであり、外から来た者が自分なりに理解するのはなかなか難しい。食堂で食事をしている時に乞食が回って来て、カンボディア人が普通にお金をあげているのを見ていると、ああこれはたしかに徳を積んでいるのだなと思える。その一方で、普段の生活ではキリスト教やイスラム教のように明確な形での祈りのようなものが存在しない。そのため、彼らにとって仏教がどの程度の重みがあり、普段の生活にどの程度の影響を及ぼしているのかが今一つわからないのである。
このレポートを書いていて、自分がカンボディア人の根っこの部分についてあまりにも知らないという事がわかってきたので、残りの任期中にもう少しこの辺に肉薄できればと考えている。
これは現在進行中の事例なのでひとつ。私は昨年度の支援経費で、隊員の業務用と統計オフィスのトレーニング用を兼ねてノートパソコンを一台購入したのだが、このパソコンに関する気苦労が絶えない。と言うのも、四月にコンピュータに付いているフロッピーディスクドライブの調子が悪くなり、クリーニングディスクでヘッドを清掃してみたのだが、しばらくするとまた不調が出るようになったため、このコンピュータを購入した販売店に持って行って見てもらったのである。
店のスタッフ(一応技術者ということになっているらしいのだが)は話を聞くとその場でコンピュータを分解し始めた。このノートパソコンは最近の高密度に集積されたノートパソコンと違い、キーボードを持ち上げて内部に比較的簡単にアクセス出来るのを売り物の一つにしているの。そのため分解するのは楽な方だと言えるのだが、それでもやはり注意が必要な作業である。
スタッフは私の見ている前で分解していったのだが、その作業の様子が素人の目から見ても雑なのである。プラスチックの爪で押さえつけられている所を強引に引きはがし、はずしたネジも一ヶ所にそのまま置かれている。そして、問題のフロッピードライブを取り外し内部の掃除をしたのだが、改めて組み付けてみてもやはりデータが読み込めなかった。彼はしばらく思考錯誤していたのだが、結局諦めてそのままもう一度本体を組み直し、この店では直らないので別の店に持っていってくれと言った。
しかし、私はこの店でこのコンピュータを購入したのである。しかも一年間の保証がついている。私は直らないのであれば新品と交換するべきであるし、本体全部とは言わないまでもフロッピーディスクは新品と交換してもらわないと困ると主張したのだが、店側はこのコンピュータを購入した時のマネージャーは別の店を開いていて、すでにこの店とは何の関係もない。よってあなたもこの店の顧客ではないし保証も無効であると言った。私は別に店のマネージャーと契約して買ったのではなく、あくまでもこの店で買ったのだからと言ったがらちがあかず、結局最終的には、その前のマネージャーが開いたという店で、有償で修理する羽目になってしまったのである。
これはかなり極端な事例であり、コンピュータを購入する場合でもある程度信頼があってそれなりに実績のある店を選べばこのような事態は避けられたのだが、私はコンピュータ自体の性能と価格に注意を払い過ぎて、開店したばかりの実績の無い店を選んでしまったのが間違いの元であった。
このような事はコンピュータに限らず全般にある事であり、車を修理に出したらかえって調子が悪くなって戻って来たりするのがあたりまえである。顧客という概念が希薄で、全体的に売りっぱなしの傾向が強いとも言える。
この国で何か高価な品物を購入する場合、まず第一に優先しなければならない事は、信頼できる店を探す事である。この場合は口コミが非常に重要である。決して外観や店のスタッフの対応で判断してはいけない。そして、できる事なら開店して日の浅い店は避けるべきである。いつつぶれるかわからないからである。つぶれる時は古くからやっている店も同じであるが、この国ではその店が軌道に乗るかどうかは素人目には判断がつきにくいのである。
任国外旅行は二月の中旬から三月の中旬にかけての三週間、ラオスとタイの二ヶ国を周りました。期間中に訪れたのはラオスのヴィエンチャン、タイのチェンマイ、プーケット、そしてバンコクです。
ラオスはカンボディアと国境を接する隣国でありながら、カンボディアで話題に上ることはほとんど無く、この国のラオスにたいする感心はあまり高くないようです。これはあるいはベトナムやタイのように歴史的な悪感情があまり無いからかもしれません。プノンペンからメコン河を上流へとさかのぼればラオスの国境へと続いていますが、二つの国の国境にはコーンの滝という障害があって交流を妨げています。もしもこの滝が無かったら二つの国の関係はもっと緊密だったかもしれません。
ヴィエンチャンはプノンペンと同じくメコン河に面した都市です。また、ラオスも以前はフランスの統治化にあったため建物もフランス風のものが多く、初めてヴィエンチャンに降り立った時は、別の国に来たと言うよりもカンボディアの地方都市に来たような印象がありました。
しかし実際に歩いてみるとやはり違う国であることがよくわかります。まず、交通ルールがプノンペンと違って整然としています。自動車の数がプノンペンと比べてはるかに少ないせいもあるのでしょうが、信号で整然と待ち、車道の一番右の車線は右折車のために空けておくなど、プノンペンでは考えられない光景です。これは比較的のんびりして見えるラオス人の人柄のせいなのかもしれません。カンボディア人も仕事をする時はのんびりしていますが、自動車やバイクを運転する時には先を争って前に進もうとします。ゆとりとか余裕といったものが生まれるためには、何かしらの保証のようなものが必要なのでしょう。
目の前で車道に出ようとしている車に道を譲ってあげられないのは、そのための時間がもったいないというよりも、道を譲ることに漠然とした不安があるからのような気がします。あるいは、例え自分が停まってあげたとしても、他の車やバイクがその横をすり抜けて行ってしまっては、停まって道を譲る事が結局無意味な行為になってしまうのかもしれません。
別の例で言えば、郵便局で手紙を出そうとした場合、カンボディア人はまず並びません。窓口の前に固まって我先に手紙を出そうとします。これが、並ぶという習慣が無いからなのか、それとも並んでいてもすぐに横入りされてしまうので並ぶ意味が無いからなのか、詳しいところはよくわかりませんが、少なくとも公共の場における他人にたいする信頼感のようなものは、明らかにラオス人よりも薄いようです。
仕事に関連して、ラオスを発つ前日に独立記念塔の近くにあるラオス観光総局(NATIONAL TOURISM AUTHORITY OF LAO PDR.)を訪問しました。ラオスの観光事業もまだ始まったばかりの状態なのですが、社会主義体制がうまく機能しているせいか、ラオス観光総局の仕事ぶりはカンボディア観光省のそれよりもはるかにしっかりしているようでした。
私が訪問したその時に、ちょうど統計の担当者の方がいて、最近の観光統計のデータについて説明してもらうことができました。統計関係の業務に限って述べた場合、カンボディアの観光省の業務との一番大きな違いは、そのデータの充実度ということになります。
ラオスの場合、外国人旅行者(パスポートを使って入国する旅行者、タイやベトナムから日帰りで入国する者を除く)の数が、1994年の一年間で16,023人とカンボディアに比べると圧倒的に少なく、また内務省や旅行代理店などからのデータが確実に本省に上がって来るシステムが出来上がっているため、信頼性のある統計レポートを作成することが可能になっています。また、空港や陸路でのチェックポイントで定期的に旅行者にたいするアンケート調査を行なっており、旅行収支の算出や観光産業の整備のために使われています。
統計オフィスのチーフである Mr. OULA の話を聞いているうちに、私の職場のまず目指すべき姿がここにあるという気がしました。内務省など他の省庁との横のつながりを深めること、旅行代理店やホテルなどの実態を正しく把握すること、そして旅行産業収支を算出できるシステムを確立するなど、今の自分の業務で求められていることがラオスでは既にきちんとなされていたことが一種の驚きであり、そしてショックでもありました。
ラオス観光総局の仕事は、その規模が比較的小さい事もあってわかりやすく、カンボディア観光省の業務を進めていく上で大変参考になるものでした。
ラオスやカンボディアと比べると、タイというのは非常に大きな国に思えます。観光整備にしてもほぼ出来上がっているといっても良い状態で、観光産業をつかさどるTAT(THAI AUTHORITY OF TOURISM)のシステムにしても、その全てをカンボディアに持ち込むのはとても無理な話です。
タイの観光産業における各種の活動、例えば空港から街までの送迎サービスや、ホテルやゲストハウスの案内、各種の地図やパンフレットの作成、様々な旅行商品の開拓などは、カンボディアにとっても参考になるものです。しかし、圧倒的な資本力の違いがあり、私達にできる事は非常に限られているようです。それでもまあ、自分達の近くに良いお手本(反面教師)がいるというのは良い事だと思います。
一旅行者として見た場合、タイというのは実に旅行のしやすい国です。特にカンボディアやラオスから来るとそれが切実に感じられます。どこに行っても十分な数の宿泊施設があり、しかも一泊200円の所から超高級ホテルまで、予算や目的に合わせて選ぶ事ができます。交通機関も発達しているし、食事もおいしくてこれまた選択の幅があり、そして国の至る所に様々な観光地がある。カンボディアと比較しようという気はなくなります。観光資源の充実という面では非常に羨ましい限りです。
カンボディア政府は、観光整備を政府の最重要課題の一つとしているようですが、やはり観光以外の事業の整備にも十分に力を注ぐ必要があるでしょう。カンボディアにはアンコール・ワットがあります。しかし、逆に言ってしまえばアンコール・ワット以外にはそれほどのものが無いのも事実です。世界の流れは大規模な観光開発から、ダメージの少ない観光への転換期を迎えています。十年後のカンボディアの観光産業がどのような規模になっているのか、今の私にはまったく想像ができませんが、今あるものが少しでも多く残っていて欲しいものです。_