[レポート集]

様々な文献や発表原稿などを掲載いたします。




「2000年9月 一日教育改革国民会議 投稿原稿」

「多文化社会をめざしたチャータースクール」
 日本がこれから真の国際化社会を目指すならば、多文化・多言語社会へと自然に移行していくのは避けられないだろう。次代を担う子どもたちが日本以外の文化や言語に興味を持ち、お互いを尊重しあえる国際人となれるようそして日本だけでなく、世界を担う日本人育成のためにも多文化社会への理解が必要となろう。

 さて、私はろう児のための手話による教育を行うフリー・スクールで多くのろう者たちと活動している。今までろう者は手話による教育ではなく彼らにとっては負担を強いられる口話(口で話す)という教育がなされてきた。しかし現在手話が言語として世界の常識となり、聴者の手話学習者も爆発的に増えている。同じ日本人で日本文化を持ちながら、話し言葉は手話を使うという人々が今社会で注目されてきているのである。

 またろう児たちやその親たちも手話による教育を望み始めている。ネイティブの手話話者であるろう者を教師として、手話で学ぶことができる新しい教育・バイリンガル教育は既に北欧、欧米でも広く行われるようになり、公教育の場で実践を重ね素晴らしい成果を上げている。

 そういった教育環境を作るべくチャータースクールの公教育化を提案したい。欧米では既に地域住民や市民が中心となって、公教育の中で自分たちの願うカリキュラムを独自に作り、教員(何か子どもたちに教えたり伝えたりするものを持つ人)を選んで進めるチャータースクールが盛んである。

 それぞれの母語や文化を大切にしながら、日本に暮らす人として、あらためて日本の良さや公用語としての日本語を大切にする気持ちを育てることが逆にまた国際人としての意識を高め、世界に貢献できる日本人の育成につながると思う。




「心の教育とITの活用」
 昨今、青少年事件の多発により「心の教育」が大切と言われて久しくない。私はろう児をもつ親としてこの言葉を真摯に受け止めている。そして真のノーマライゼーションを目指すためには、ろう児にとって欠かせないものがITの活用だと考える。現状の教育や家庭のあり方をどう改革すべきかを、子育てをしている親の立場から意見を述べさせて頂きたい。
  1. 日本のろう教育の現状
     現在の日本のろう教育は、約80年前に世界的に主流であった口話法(口の形を覚えさせる方法)と、補聴器や人工内耳を利用した聴覚口話法のみに限られ行われている。分かりやすく言えば、聞こえない耳を使ってのみの教育である。いくら機械の音を聞かせても言葉としては耳には届かないため、情報が正しくは伝わらず、教育成果も上がっていないのが現状だ。
  2. 世界の情勢
     IT化が進み、私達はインターネットにより世界の動向が家庭に居ながらにして得られる。その中で注目すべき情報が今ろう教育を変えつつある。北欧や欧米では昔の口話法や聴覚口話法の限界をいち早く悟り、聞こえない人々には聴覚を使って教育するのではなく、見て分かる視覚を使った教育をしようと頭を切り換えた。そして国家レベルで研究しバイリンガル教育を確立した。その教育の素晴らしい成果はインターネットを通じて私たちの手元に届く。
  3. 21世紀にむけて
     心の教育は学校のみでなく、寝食を共にしている親が率先して行うべきであろう。そのためにはそれをスムーズに伝える言語が必要であり、ろう児とその親にとっては手話が共通言語となる。手話で概念を学び一次的な発達をとげ、二次的発達で読み書きを学ぶというバイリンガル教育は、家庭を基本とした心の教育と、更には世界に通じるIT社会に参加する扉も兼ね備えているといっても過言ではない。21世紀の日本を担う子ども達が活躍するためには、一歩踏み込んだ教育改革が必要だと考える。




「日本のろう教育に対する提言」
  1. 現状
     日本のろう教育は聴覚口話法である。聞こえない人の残されたわずかな聴力を最大限に活用し、例えそれがわずかな可能性であってもあくまで聴覚に頼る教育を長年に渡り行なってきている。
  2. 問題点
     惰性的なこの教育により多くの問題が露呈してきている。
    1. すべての子どもに聴覚口話法を用いるため聴力の低い子の学力が著しく低下する。
    2. 家庭での相当な訓練が不可欠なため、多くがきれいな発語に至らない。
    3. たとえ発語ができ知識を得ても、実体験や他者との豊かなコミュニケーションによって得たものではないため、できない人を卑下するなど他者に対するいびつな行動パターンをもつケースが少なくない。
    4. 聞こえる教員ばかりであるため、自分の将来像を見つけられず夢がもてない。

  3. 北欧での実例
     聞こえない人が確実に使うことのできるのは視覚である。その視覚を活用した手話言語こそが最も適した教育言語であるり、第一言語として手話を習得し、後に第二言語として母国語を習得するバイリンガル教育が主流になりつつある。スウェーデンやデンマークでは、これにより子どもらしい成長と、地域校レベルの学力に達するといった成果を上げている。
  4. 提案すること
     意思の疎通に全く問題がなく、自分の将来像として描くことのできるろう者教員がろう学校には必要。そのために次のことを提案する。
    1. ろう者教員枠を各ろう学校に設ける。
    2. ろう学校教員の採用基準の中に手話言語能力を加え、専門性を高める。
    3. ろう学校教員採用枠を独立して設け、他種校との教員異動は認めない。
    4. ろう者教員が増えるまでの期間、非常勤や特別講師枠を広げてろう者を採用する。
    5. 子どもと親とのコミュニケーションを円滑にするため、親への手話学習支援制度を確立する。

    これらを是非教育改革の中で検討していただきたい。




「コミュニケーションとロールモデル」
  〜子供が子供らしく成長できる環境〜
 「教育を変える17の提案」を見て、「しつけ」「教育」「育成」という言葉ばかりが目につき、豊かな心をつくるうえで最も大切な「コミュニケーション」という言葉が一つも使われていないことに驚きました。更に、子供自身が憧れる「ロールモデル」の存在と重要性にも触れられていません。私の愛する次男は、耳が聞こえません。ときとして、小さな集合体に社会の縮図を見ることができるといいます。息子が通うろう学校の状況を見ると、そこには現在の日本の学校教育における問題点が凝縮されているのです。

 みなさんは、日本のほとんどのろう学校で手話を禁止しているのをご存知ですか?日本の学校は、一般社会から隔離され過ぎ、社会の目が行き届かなくなっています。手話を否定したろう学校内では、いわゆる「口パク」授業が行われています。日本語をまったく知らない子供に、口パクによる授業とコミュニケーション方法を強要したとき、何が起こると思いますか?生徒と教師、生徒同士、生徒と親の対等な会話が成立しなくなるのです。すなわち、教師も親も子供の言いたいことがわからない。子供は3回言ってもわかってもらえないと、話すのをやめます、伝える気力を失い、自分が悪いと思い込み、自信を無くします。

 また、ほとんどのろう学校にはろう教師がいません。子供が夢と目標をもつためには、ロールモデルが必要です。学校で自尊心を無くした聞こえない子供は、フリースクールで成人ろう者と手話というコミュニケーション方法に出会い、本来の心を取り戻します。そして夢を持ちます「僕、頑張って勉強するんだ、それでフリールクールの先生になるんだ」と。その感動は、インターネットやメールで全国の聞こえない子供たちに届くことでしょう。

 強制的な奉仕活動への参加で子供の心が豊かになるとは思えません。せっかくの改革です、子供に本当に必要なものを見失わないで下さい。

※無断転載禁止 Copyright(c)2000 全国ろう児をもつ親の会