長編投稿集

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ろう学校での授業
手話使える教師必要

[やさしい社会保障]

2003年10月3日 読売新聞
新聞社掲載許可済み [無断転記禁止]

 主婦の恵子さん(46)は、ろうの子を持つ近所の女性から、「ろう学校では、手話で授業をしていない」と聞いて驚いた。手話を使わずに、授業が理解できるのだろうか。疑問に思い、娘の愛さん(16)と一緒に調べた。


恵子 ろう学校では、手話で授業をしないというのは本当ですか。
岡本 はい。日本のろう学校では、「聴覚口話法」という方法で授業を行うところがほとんどです。ろうの子に話しかけ、唇の動きを読み取らせる方法で、発音の訓練も含まれます。
恵子 唇の動きは、正確に読み取れるのですか。
岡本 「リンゴ」と「銀行」、「卵」と「たばこ」などは、唇の動きがほとんど同じで、聴覚口話法では見分けがつきません。このような授業では、どうしても勉強が遅れがちです。
先生は、少しも手話を使わないのですか。
岡本 ろうの人たちが日常的に使っている「日本手話」を使うことは、めったにありません。
日本手話って、ろうの子供たちの間で自然に生まれた言葉だと聞いたことがあります。
岡本 ええ。単に日本語をジェスチャーで置き換えたのとは違い、独自の文法構造を持った言語です。聞こえる人たちが日本語の話し言葉を使うのと同じように、約六万人のろうの人たちが日本手話で会話していると言われています。
恵子 なぜ、ろう学校では日本手話で授業をしないのですか。
岡本 日本手話は単語の数が少ない、助詞がないなどと誤解されているからです。また、日本語と文法構造が違うので、日本語を学ぶ妨げになると考えられていますが、これも誤りです。
そうだったんですか。
岡本 ろうの子は、日本手話と日本語の書き言葉で授業を受ければ、十分に理解できます。この方法を「バイリンガルろう教育」と言います。でも、ろう学校で日本手話を話せる先生はわずかです。日本語を話しながら、日本語の文法に従って単語だけを手話で表すこともありますが、これでは正確には伝わりません。
恵子 ろうの子が一般の学校に通う例も多いと聞きますが。
岡本 聞こえる子と一緒に学ばせたいと思う親は多く、ろう学校に通う子は減ってきています。でも、ろうの子供たちが同じ言語で話せるろう学校の良さも次第に見直されてきています。
外国では、どうしているのでしょうか。
岡本 現在、北欧や米国、カナダなど二十四か国では、手話による授業が行われているそうです。
恵子 日本は遅れているのですね。
岡本 そう言わざるを得ません。今年五月には、全国のろうの子供と保護者ら計百七人が、「日本手話で教育を受けられないのは、憲法が保障する教育を受ける権利の侵害だ」として、日本弁護士連合会に人権救済の申し立てを行いました。
ろう教育に不満を感じる人が多いのですね。
岡本 ええ。ぜひ、日本手話で授業をしてほしいと思います。ろう学校に日本手話を使える先生を配置し、日本手話ができない先生が研修を受けられるようにすべきです。大学のろう学校教員養成課程には、日本手話の実技や理論を学ぶ科目を設け、ろう学校の先生を目指す人に履修を義務付ける必要があります。
恵子 実現してほしいですね。
岡本 ろう学校は、子供たちにとって、なくてはならない大切な場所です。私たちは、聴覚口話法を否定しているわけではありません。日本手話による教育を必要とする子がいる以上、国に選択する権利を保障してほしいと願っています。(安田武晴)
◇岡本みどり氏 全国ろう児をもつ親の会代表。長女(14歳)がろう学校に通っている。著書に、「ぼくたちの言葉を奪わないで!ろう児の人権宣言」「聾教育の脱構築」(いずれも共著)。45歳。

も ど る


日本手話
高度難聴児の学習に有益
ろう学校教員も習得必要

2003年10月11日(土) 読売新聞
新聞社掲載許可済み [無断転記禁止]

 高度難聴の子供を持つ親たちの間から、日本手話での教育を求める声が高まっている。ろう学校の教員が日本手話ができないという実態を改善すべきだ。(編集委員 平山定夫)
 国内で使われている手話には、大きく分けて日本手話と日本語に対応した手話がある。後者には、日本手話の単語を並べ、同時に日本語も話す「シムコム」などがある。日本手話以外は、中途失聴者などには覚えやすいが、日本語習得前に聴力を失った子供には理解が困難という。

 日本手話は、耳の聞こえない人たちに受け継がれてきた自然言語だ。日本手話が話される環境があれば、高度難聴の子供は特別な訓練なしで習得する。手指の動作で単語を表し、文法は主に頭の動きなどで表す。

 手話言語学が専門の市田泰弘さん(国立身体障害者リハビリテーションセンター教官)は「日本手話の発達は音声言語より早いくらいで、三、四歳になれば上手に使う。普通の言葉で表現できるものは何でも表せる」と説明する。

 酒井邦嘉・東大助教授(脳科学)の研究で、日本手話でも日本語と同じ脳の中枢が使われることもわかった。ふだん日本手話を使っている人は日本手話で夢を見るという。

 日本のろう教育は、補聴器などを使って、子供に残された聴力を最大限に生かす「聴覚口話法」である。日本語の習得には合理的なようだが、補聴器でも聞こえない高度難聴児には授業が理解できない。授業中は窓の外を眺めていたという子供も多い。

 最近は授業に手話を使う学校が増えてはいる。上越教育大の我妻敏博教授(聴覚障害児教育)が、全国百六のろう学校を対象に実施した調査では、半数以上の教師が授業で手話を使っているのは、幼稚部、小学部、中学部とも70%を超えた。問題は「手話」の中身で、我妻教授は「日本手話を使っている学校は非常に少ない」と見る。日本手話ができる教師がいないのだ。

 このため、全国のろう児と親107人が、高度難聴の子供にとっては日本手話が第一言語(母語)だとして、ろう学校での授業を日本手話で受けられるよう、日本弁護士連合会に人権救済申し立てを行っている。日本手話を身につけていることが、高度難聴の子供の学習、日本語習得に役立つことは専門家も指摘している。日本手話ができる高度難聴の子供の方が、できない高度難聴の子供より学力が上というケースも多い。

 文部科学省では、一九九九年に改定した難聴児教育の学習指導要領の解説で「手話」も活用するとしたが、ろう学校教員養成課程(全国十大学)での教育内容は聴覚口話法を前提にしている。日本手話など教えてはいない。

 世界では二十以上の国が手話(自然言語)で教育を受ける権利を認めている。授業はすべて手話で教え、書記言語を第二言語とするバイリンガル教育を実践している国もある。国内でこうしたバイリンガル教育を行っているのはNPOの「龍の子学園」(東京・豊島区)だけだ。

 日本でも日本手話で教育を受ける選択肢ぐらいは作るべきだろう。ろう学校教員養成課程の改革、親にも日本手話を教える環境の整備も必要になる。ろう学校のあり方に、高度難聴の子供たちの人生がかかっているといっても過言ではない。文科省に真剣な対応を望みたい。


も ど る


ろうの生徒に手話言語を
教師は音声言語頼り、教育の質に問題


2003年6月11日(水) THE JAPAN TIMES
[有田えり子:記者]

 普通、人は手話がろう学校におけるコミュニケーションと教えるための主な手段であると考えるだろう。しかし、日本においては一般的に音声言語が優先されている。
 先月末、43人のろう児と64人の親たちは、授業が日本手話で受けられないことにより、ろう児の教育を受ける権利が侵害されているとして、日本弁護士連合会に対し申し立てを行った。
 申し立てを行った親の一人である岡本みどりさんによると、音声日本語とは異なる文法構造をもつ日本手話は、ほとんどの生まれつきのろう者や日本語獲得前に失聴した人にとって自然な言語である。
 しかし、ろう学校では生徒が補聴器を装用し教師は日本語で教える口話法で授業が行われている。そのため、まったく聞こえない、またはそのレベルに近い子どもたちは、この方法により事実上教育を受けることを妨害されているという。
 申し立てでは、文部科学省が手話をコミュニケーション及び授業指導の主な手段とし、教師にそのための訓練をさせることを求めている。
 岡本さんの娘である翠子さん(13歳)は申し立ての後の記者会見で、ほとんど聞こえない声によってではなく、手話言語で教えて欲しいと訴えた。
 「学校では、勉強がわからないのです」と翠子さんは手話で語った。「問題の内容がわからないのではなく、先生が何を質問しているのかがわからないのです。私はろう学校で、手話で授業を受けたい。」と述べた。
 補聴器を装用している難聴児でさえ教師の言っていることを理解するのに困難をともなうことが多いという。ろう児や実質的にほとんど聞こえない子どもに対して、聞こえる生徒に適したコミュニケーションと同じ手段で授業を受けさせることは残酷だ、と岡本さんは言う。
 岡本さんによれば、高校の教師の中には音声日本語を直接手話に翻訳した日本語対応手話といわれるものを使っている人もいる。しかしその手話は、自然なコミュニケーション手段として日本手話を使っているろう児にとって理解することが困難であるという。
 「私たちの子どもたちは日本手話でコミュニケーションすることができない教師に不満を持っています。」と岡本さん。「私たちは(現在の教育手法では)子どもたちの学力が十分に身につかないと心配しています。」
 ろう学校の小学部と幼稚部に子どもを通わせている、申し立てに加わったろう者の女性によると、ろうの生徒たちは教師の言っていることを理解するために多くの時間が必要なため、授業は適切なペースでは進まないという。
 この女性(匿名)はろう学校の高等部に通っていたとき、授業では中学部2年の教科書を使っていたと述べた。
 ろう児に日本手話を教える東京の非営利教育施設でアドバイザーをしているアメリカのろう学校教員であるダーレン・エワンさんによると、アメリカ、カナダ、スウェーデン、デンマーク、タイを含む27カ国がろう者のための言語として手話を承認し、ろう学校における主たるコミュニケーション手段としているという。
 「日本におけるろう児の置かれている状況は、本来あるべき姿ではないと思います」とエワンさんは筆談で述べた。そして、ろう児は日本手話と書記日本語によるバイリンガル教育を受けるべきであると語った。
 文部科学省は、ろう教育に関する政策は、例え障害があっても聴覚によって子どもが日本語を身につけることを優先していると説明する。手話を含む他のコミュニケーション手段はそのあと学ばれるべきであると、同省の官僚は述べた。
 しかし、岡本さんは、子どもは手話を使うことにより書記日本語及び音声日本語をより早く習得できると主張する。例えば、言葉をどのように発音するか学ぶ際、手話によって舌の動きを習うほうが簡単であるという。「私は、ろう児の母語である日本手話が日
本語を習得するのに必要であると信じています」と岡本さんは述べた。
THE JAPAN TIMES 社掲載許諾済み (原文英語)



も ど る

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