人権救済申立
 全国のろう児をもつ親たちとともに、2003年 5月 27日 日本弁護士連合会に対し人権救済申立を行いました。ろう児をもつ保護者だけでなく、申立人としてあるいは、賛同者として協力してくださった方、また、直接的には協力できなかった方もメールやFAX等により賛同意見を寄せてくださりありがとうございました。 5年の歳月をかけて準備をすすめてきた今回の申立書を全国のみなさんの思いを込めて提出させていただきました。今回提出した申立書の趣旨を下記に記載いたします。

  1. 文部科学省は、ろう学校において日本手話による教育を受けることができないことによって、教育を受ける権利及び学習権(憲法26条)並びに平等権(憲法14条)を侵害されている申立人らを救済するため、日本手話をろう学校における教育使用言語として認知・承認し、ろう学校において日本手話による授業を行う。
  2. 文部科学省は、ろう学校において日本手話による授業を実施するため、
    1. 各ろう学校に、日本手話を理解し、使用できる者を適切に配置し、そうでない教職員については日本手話を理解し、使用できるようにするための定期的・継続的な日本手話研修を行うものとする。
    2. 各大学のろう学校教員養成課程に、日本手話の実技科目及び理論科目を設置し、ろう学校教員希望者は日本手話の実技科目及び理論科目を履修しなければならないこととする。

 今回の申立はあくまでも、手話による教育を希望するろう児や親がその教育を『選択する権利』が侵害されていることに対するものであることをご理解ください。なお、詳細につきましては、 

『ぼくたちの言葉を奪わないで! 〜ろう児の人権宣言〜』
 全国ろう児をもつ親の会 編  (明石書店)

を参照ください。
 今回の申立ですべてが解決するわけではありません。申立をすることで新たなスタートを切ることになったのです。人権侵害を受けているろう児とその親である同じ思いをもつ仲間たちは全国にいます。今まで声を上げられずにいた方も是非自ら発信していきましょう!
 上記内容に賛同くださる方々の投稿であれば本HPに掲載させていただきます。それぞれの地域の実態などどしどし投稿ください。



「今回の人権救済申立の概要」

申立日(受付):平成15年5月27日(正式な受理は後日)
申立先:日本弁護士連合会(人権一課)
申立人:子供43名、親64名
申立人代理人:東京弁護士会子供の人権救済センター
弁護士小嶋勇、弁護士千葉一美、弁護士星正秀、弁護士田中秀浩
申立の趣旨(全文)
   上記参照
申立の実情(ポイント)
  1. 日本手話はろう児(ろう者)の第一言語であり、母語である。
  2. 日本手話を教育言語として活用することでろう児の能力は十分に引き出される。
  3. 日本手話によって教育を受ける権利は憲法で保障されている。
  4. ところがろう学校では音声日本語を活用する「聴覚口話法」によっている。
  5. ろう学校における人権侵害(学習進度の遅れ、ろう児の学力の伸び悩み、大学進学率の低さ、就職職種の限定、ろう児への心身発達の阻害、ろう児及び親への加重な負担、第一言語獲得機会の喪失など)は日々生じており、無視することはできない。
  6. これら人権侵害の原因はろう教育において「聴覚の活用」を第一目標に掲げる文部科学省の基本的な立場にある。
  7. さらに、ろう教育制度の構造的問題(教員の手話能力と配置、教員免許制度)も原因である。
  8. しかし、現実に日本手話による教育(授業)を希望するろう児及び親が存在している。
  9. したがって、ろう学校における教育言語として日本手話を認知すること、ろう学校で日本手話による授業を実現する制度的な整備をすることが急務である。
今回の申立に際して強調したいこと
  1. 現在のろう学校では生徒に日本手話を教えていないという事実。
  2. ろう学校の生徒は能力が劣っているという誤解があること。
  3. ろう学校の教師の多くが日本手話を読み取りかつ使用することができないという事実。
  4. ろう学校の教員となるために日本手話の能力が必要とされていないこと。
  5. 現在までろう児及びその親が人権侵害の事実を世の中に訴える機会がなかったこと。
  6. 日本手話は独自の文法を持つ言語であること。
  7. 日本語対応手話や口話を全く否定するものではなく、日本手話による教育を求めているろう児や親が存在することから、その選択権を保障すべきことを求めていること。





記者会見当日配布資料

Q&A
○手話とは? ※1
日本語や英語と比較しても何の遜色もないひとつの独立した言語で、世界各国のろう者がそれぞれの国の手話を使っています。日本では日本手話と呼ばれています。

○なぜろう学校で手話を教えていないのか? ※1
日本語を習得させることを目的としているからと言われることがありますが、現在の聴覚口話法では十分な日本語を獲得できません。ろう学校で手話を使って教えていないのは、教師のほとんどが手話を知らないためだと思われます。

○ろう学校の先生は本当に手話は使っていないのですか? ※1
ジェスチャーのように手を動かすことはありますが、ほとんどは口だけで授業を行っています。国語の時間だけでなくすべての教科でこうした授業が行われているため、学年対応の授業ができていないという状況にあります。

○ろう児はどうやって手話を覚えるか?(ろう学校には手話がないのに) ※2
聴児が周りの人たちの会話を聞いて自然に言語を獲得するように、言語は環境により自然に獲得できるものです。ろう児が手話を獲得するために必要なのは、自由に手話で会話ができる手話環境におくことです。毎日のほとんどの時間を過ごすろう学校でその手話環境が整うことが何よりも大切なことと考えています。

○聞こえる親とのコミュニケーションはどうするのか ※1
ろう者たちと接するなかで親たちは手話を学んでいき、子どもとももちろん手話で接しています。口話ではできなかった深い内容を手話では話し合うことができ、親子の関係も聞こえる子となんら変わりません。子どもも子どもらしく自然な成長を遂げられています。

○社会に出て手話は通じるか? ※3
社会で手話が通じる環境は限られていますが、人間として母語をもつことは最低限必要なことです。ろう児にとってそれは手話以外にありません。その手話でしっかりとした言語の土台を築いていれば、自分たちの意志を筆談等により十分に伝えることができます。

○手話で日本語が教えられるか? ※2
社会に出て通じる手段として必要なのは、書記日本語です。ろう者の日本語のレベルは聴者と同じレベルになることができるよう教育するのが最低限必要だと考えています。しかし、しゃべることと聞くことに頼った教育を行ってきた結果、すべてが中途半端な状態になってしまっています。日本語の読み書きをきちんと獲得するためにも、意味のすべてが理解できる手話での教育がまず必要です。

○バイリンガルろう教育とは? ※1
日本手話を第一言語として獲得した後に書記日本語を第二言語として獲得する教育方法で、世界各国で成果を上げています。

(文献)
(※1)2003『ぼくたちの言葉を奪わないで!〜ろう児の人権宣言〜』全国ろう児をもつ親の会編 明石書店
(※2)1989 Unlocking the Curriculum: Principles for Achieving Access in Deaf Education
by Robert E. Johnson/Scott K. Liddell/Carol J. Erting
Department of Linguistics and Interpreting and the Gallaudet Research Institute
(※3)1999『聴覚障害者の心理臨床』村瀬嘉代子 編 日本評論社
【 おしらせ 】
7月5日(土)仮称「ろう児の人権救済申立」に関するシンポジウムを開催します。
場所:国立オリンピック記念青少年総合センター
詳しい日程につきましては、後日お知らせいたします。どうぞ、お越しください。
(注意)手話とは特別な記載がない限り日本手話のことを指します。

※無断転載禁止 Copyright(c)2000 全国ろう児をもつ親の会